●2024年(令和6年)
◎aftersun アフターサン
2024.01.01 キネカ大森:スクリーン3 AFTERSUN [1300円/101分]
【01】 2022年イギリス=アメリカ 監督:シャーロット・ウェルズ 脚本:シャーロット・ウェルズ
CAST:ポール・メスカル、フランキー・コリオ、セリア・ロールソン・ホール、ケリー・コールマン、サリー・メッシャム
●11歳の娘時代の父との旅行映像を進行させながら、当時の父の年齢となってビデオを再生する。シングルマザーか?赤ん坊が泣いている。一方、自分のスマホには母からの留守電が残っているが不義理を詰られて聴き直す気になれないものの消すことは出来ない。親の気持ちで親に共感出来ない身にもどかしさは残るが良作であるのはわかる。
◎フロリダ・プロジェクト 真夏の宝物
2024.01.01 キネカ大森:スクリーン3 THE FLORIDA PROJECT [1300円/112分]
【02】2017年アメリカ 監督:クリス・バーゴッチ 脚本:ショーン・ベイカー、クリス・バーゴッチ
CAST:ブルックリン・キンバリー・プリンス、ブリア・ヴィネイト、ウィレム・デフォー、メイコン・ブレア
●無反省な悪ガキが苦手な私には地獄めぐりのようで、ダサい副題も呪わずにいられなかったが、ラストの90秒で印象が一変する。貧困が理由としても社会不適格者は間違いない母親と悪戯の手数では負けない娘。実は地獄めぐりをしていたのはこの母娘だった。W・デフォーのモーテル支配人が最高。ダサい副題も早々に胡散霧消することだろう。
◎ワンス・アポン・ア・スタジオ -100年の思い出-
2024.01.01 T・ジョイ横浜:シアター5 ONECE UPON A STUDIO [1300円/9分]
【03】2022年アメリカ 監督:ダン・エイブラハム、トレント・コーリー 脚本:D・エイブラハム、T・コーリー
CAST:(声)星野貴紀、遠藤綾、山寺宏一、小鳩くるみ、川原瑛都、鈴木より子、鵜澤正太郎、小此木麻里、三木眞一郎
●幼い頃の思い出はディズニー時計。20代の頃はTDLによく行った。しかしスクリーンで観たのは大学時代『ファンタジア』のリバイバルで、そこから『アナ雪』まで飛ぶ。とんだディズニー弱者だ。それでも9分で500以上のキャラクターが「星に願いを」の大合唱と記念写真。変にユニバース化していないのでオールスター感は半端ない。
◎ウィッシュ
2024.01.01 T・ジョイ横浜:シアター5 WISH [ 〃 /95分]
【04】2022年アメリカ 監督:クリス・バック、ファウン・ヴィーラスンソーン 脚本:ジェニファー・リー、アリソン・ムーア
CAST:(声)生田絵梨花、福山雅治、山寺宏一、鹿賀丈史、檀れい、恒松あゆみ、大平あひる、落合福嗣、蒼井翔太
●ディズニー100周年記念作。まぁ当然面白いわな。準備、装置、美術、音楽に膨大な時間と金を投じ、技術の総力を結集したわけだから。しかし何よりハリウッド・エンターティメントの伝統とショービジネスの土壌が有無を言わさず鉄壁だ。内容が単純な分、ミュージカルに仕立てたのも大きい。やや急ぎ過ぎて情感が薄いとは思ったが。
◎マエストロ:その音楽と愛と
2024.01.02 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 MAESTRO [1100円/129分]
【05】2023年アメリカ 監督:ブラッドリー・クーパー 脚本:ブラッドリー・クーパー、ジョシュ・シンガー
CAST:キャリー・マリガン、ブラッドリー・クーパー、マット・ボナー、マヤ・ホーク、サリー・シルバーマン
●圧巻。バースタインの伝記映画の雛形を借りて情熱と野心、愛と嫉妬、若さと老い、そして生と死。すべてを見せ演じきったクーパーとマリガンはネトフリ作品ながら間違いなくオスカーもの。とくに脚本・監督・主演のクーパー。寝室から劇場へのジャンプショットの鮮やかさ。オーケストラの迫力。劇場で観ずして配信などあり得ない傑作。
◎TALK TO ME トーク・トゥ・ミー
2024.01.03 イオンシネマ海老名:スクリーン4 TALK TO ME [1100円/129分]
【06】2023年オーストラリア 監督:ダニー&マイケル・フィリッポウ 脚本:D・フィリッポウ、ビル・ハインツマン
CAST:ソフィー・ワイルド、ジョー・バード、アレクサンドラ・ジェンセン、オーティス・ダンジ、ミランダ・オットー
●登場人物と同じ画角に魔物が現れたり、暴力や自傷が痛みを想像させるリアルさだったりするのが本当に苦手。突然デカい音が鳴るのも勘弁だ。要は「ドキっ」としたくないのだ。『エクソシスト』を克服した勢いで憑依ホラーを観たのだが、主人公の身勝手な性格と合わせこのオージーホラーは不快感しかなかった。どこがA24やねん。
◎市 子
2024.01.03 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1300円/125分] ※再観賞
【07】2023年製作委員会=ハピネットファントム 監督:戸田彬弘 脚本:上村奈帆、戸田彬弘
CAST:杉咲花、若葉竜也、中村ゆり、森永悠希、渡辺大知、宇野祥平、中田青渚、石川瑠華、倉悠貴、大浦千佳
●最近よく聞く「ファムファタール」。市子は本当に悪女なのか。ミステリー仕立てだが本質はノワールか。旧態依然とした法律が生んだ悲劇のヒロインとして市子に寄り添うことは出来るが、彼女はひとり歪な人生を歩いてゆく。そんな市子の母親が娘の恋人だった長谷川を乗せた船に深々と頭を下げる場面、去年観た中の最高の名シーンだ。
◎朝がくるとむなしくなる
2024.01.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1100円/76分]
【08】2023年IPPO=イーチタイム 監督:石橋夕帆 脚本:石橋夕帆
CAST:唐田えりか、芋生悠、石橋和磨、安倍乙、中山雄斗、矢柴俊博、石本径代、森田ガンツ、太志、佐々木怜、小野塚省吾
●女友達との何気ないふれあいで主人公の心が解放される様をドラマ的な起伏もなく終わらせる。それが妙に面白い。タイトな上映時間だがなんだかんだ言っても唐田えりかの画面持ちの良さでずっと観ていられる。芋生悠とのシスターフットも女性監督らしく丁寧に描かれて心地よく、むしろ派手な展開にしてくれるなと思ってしまった。
◎ほかげ
2024.01.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1100円/95分]
【09】2023年海獣シアター=新日本映画社 監督:塚本晋也 脚本:塚本晋也
CAST:趣里、森山未來、塚尾桜雅、河野宏紀、利重剛、大森立嗣
●まず焼け跡の美術の凄さに目を奪われる。戦場で身も心も削られた復員兵が目にした故郷の衝撃は幾ばかりだったことか。焦土の中、瓦礫に埋もれた防空壕に茫然と座り込む敗残兵の描写だけでも観る価値ありだ。そして『生きてるだけで、愛。』のエキセントリックな趣里が復活。朝ドラヒロインを健気にこなしているが資質はこちらにある。
※2023年キネマ旬報ベストテン第3位
◎ロスト・フライト
2024.01.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 PLANE [無料/107分]
【10】2022年アメリカ 監督:ジャン・フランソワ・リシェ 脚本:チャールズ・カミング、J・P・デイヴィス
CAST:ジェラルド・バトラー、マイク・コルター、トニー・ゴールドウィン、ヨソン・アン、ダニエラ・ピネダ
●得てしてこの手のジャンルものは軽く評価され勝ちで「そこそこ面白い」なるレヴューが散見される。ならば「そこそこ」じゃない映画は他に何本あるというのか。ツッ込みどころ満載?・・・いやそれを想定せずして度を越えた面白さにはならない。航空パニック、銃撃戦、決死の脱出劇に娯楽映画の職人たちのプロの技がある。めっぽう面白い。
◎過去負う者
2024.01.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 [1100円/125分]
【11】2023年BIG RIVER FILMS 監督:舩橋淳 脚本:舩橋淳
CAST:辻井拓、久保寺淳、平井早紀、田口善央、紀那きりこ、みやたに、峰あんり、満園雄太、伊藤恵、小林なるみ
●元受刑者の生きづらさと支援する人々を描く。上映後、監督に「あの場面は必要だったのか?」と質問する機会を得た。長い映画鑑賞歴で初めての経験だ。作劇をドキュメンタリー風に撮る映画は珍しくはないが、議論の場面では無名俳優たちの熱量が迫真性を生む。受刑者支援の是非が主題だが、一方で有名俳優の必要性って何だろうと思う。
◎レザボア・ドッグス <デジタルリマスター版>
2024.01.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 RESERVOIR DOGS [1100円/100分]
【12】1991年アメリカ 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ
CAST:ハーヴェイ・カイテル、ティム・ロス、マイケル・マドセン、スティーヴ・ブシェーミ、クリス・ペン、エディ・バンカー
●俳優の加藤雅也とこの映画を語ったことがある。初見はビデオ観賞だった。もう30年以上経つのか。今観ると当時思えた革新性を感じないほどすでに基盤になってしまったが、確かにこの作品から世界のキャング映画は一気に変わり、皆、本作を真似た。だから『レザボア・ドックス』が観賞履歴にないことが恥ずかしかった。やっと大願成就だ。
※1993年キネマ旬報ベストテン第6位
◎ショコラ
2024.01.08 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 CHOCOLAT [1200円/121分]
【13】1991年アメリカ 監督:ラッセ・ハルストレム 脚本:ロバート・ネルソン・ジェイコブス
CAST:ジュリエット・ビノシュ、ジョニー・デップ、ジュディ・デンチ、レナ・オリン、アルフレッド・モリーナ
●アウトサイダーが古い価値観に凝り固まった街を変えていく。似た設定の映画は何本か浮かぶもののアート系の監督と思っていたL・ハルストレムが、ベタな娯楽作を志向していたのがわかる。チョコレートがどれだけ人を幸福に出来るのかわからないが、冒頭と同じ鳥瞰の家並みが三角チョコに見えてくるラストは美味い…いや上手いと思う。
◎コンクリート・ユートピア
2024.01.08 イオンシネマ海老名:スクリーン6 콘크리트 유토피아 [1100円/130分]
【14】2023年韓国 監督:オム・テファ 脚本:イ・シンジ、オム・テファ
CAST:イ・ビョンホン、パク・ソジュン、パク・ボヨン キム・ソニョン、パク・ジフ、キム・ドユン
●『白頭山大噴火』『非常宣言』と毎年イ・ビョンホン主演の超大作が公開される中、韓国映画のスケールと見せ方の凄さで驚かなくなった分、中身の良し悪しに目がいくようになった。正直、群衆の力学と同調圧力の噴出、あるいは文明批判の点で弱いと思った。なにより“王”の対立概念がヒロイン然とした若妻だけなのが物足りない。
◎笑いのカイブツ
2024.01.08 イオンシネマ座間:スクリーン7 [1100円/116分]
【15】2024年製作委員会=ショウゲート 監督:滝本憲吾 脚本:足立伸、滝本憲吾、山口智充
CAST:岡山天音、片岡礼子、仲野太賀、菅田将暉、松本穂香、前原滉、板橋駿谷、淡梨、前田旺志郎、管勇毅、松角洋平
●「M-1」を見ていると「笑いがカイブツ」化しているのを感じるが、自己中心の主人公がときに刹那的、衝動的である姿に石川力夫の情念を思い出す瞬間があった。熱血サクセスストーリーかと思ったが破滅劇としてなかなかの力作ではある。ただ岡山天音の熱演のテンションが上がるほど嫌悪感が増していくのは否めず、面白くはなかった。
◎ゴジラ -1.0/C
2024.01.14 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2 [1100円/125分]
【16】2023年ROBOT=東宝 監督:山崎貴 脚本:山崎貴
CAST:神木隆之介、浜辺美波、吉岡秀隆、佐々木蔵之介、山田裕貴、青木崇高、安藤サクラ、永谷咲笑、田中美央、飯田基祐
●「モノクロ映像版」で再観賞。ゴジラはポリティカルな存在から逃れられない筈なので冷戦を理由に米ソが傍観するなど、人物配置が敷島を中心に極力ミニマムにした傲慢さで評価出来なかったが、モノクロでリアルさにバイアスがかかるとゴジラの迫力が際立ってこんな面白かったのかと思う。さらに軍部の不条理が描ければもっと良かった。
◎ゴーストワールド
2024.01.14 川崎市アートセンター:アルテリオ映像館 GHOSTWORLD [1100円/111分]
【17】2001年アメリカ 監督:テリー・ツワイゴフ 脚本:ダニエル・クロウズ、テリー・ツワイゴフ
CAST:ソーラ・バーチ、スカーレット・ヨハンソン、スティーヴ・ブシェーミ、ブラッド・レンフロ、イリーナ・ダグラス
●公開時の女の子二人のメインビジュアルはよく憶えている。こんな大物だったとは。ただ『ブックスマート』的なシスターフットを期待してしまったことそのものが2000年初頭の青春像とズレていたのかも知れないし、当時の風俗、ファッションにまったく無知なので、最後に幻のバスに乗車するイネードの行動原理もよくわからなかった。
※2001年キネマ旬報ベストテン第9位
◎ペルリンプスと秘密の森
2024.01.14 川崎市アートセンター:アルテリオ映像館 PERLIMPS [無料/111分]
【18】2020年ブラジル 監督:アレ・アブレウ 脚本:アレ・アブレウ
CAST:(声)ロレンゾ・タランテーリ、ジウリア・ベニッチ、ステーニオ・ガルシア、ホーザ・ホザー、ニウ・マルコンジス
●非ハリウッド系のアニメーションということでレミ・シャイエやカートゥーン・サルーンの作品をイメージし、森と文明破壊をモチーフにしていることから『ウルフ・ウォーカー』を想起したのだが、このブラジル映画はどこか違っていた。結局、ペルリンプスが神なのか英雄なのかわからないまま少年から大人への物語と解釈したがどうだろう。
◎カラオケ行こ!
2024.01.14 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン10 [1100円/107分]
【19】2024年製作委員会=KADOKAWA 監督:山下敦弘 脚本:野木亜紀子
CAST:綾野剛、齋藤潤、芳根京子、橋本じゅん、やべきょうすけ、吉永秀平、坂井真紀、宮崎吐夢、加藤雅也、北村一輝
●キネ旬ベストを連発していた頃の山下敦弘がすっぽり抜けていることは気になっていた。予告編を観るにいかにもコミックの映画化なのでこの監督でなければスルーしていただろう。主演二人のバディぶりが楽しくて面白く観られたが、山下敦弘が娯楽映画をきっちり撮れる職人の資質を持っていることはよくわかった。次回作も期待したい。
◎ある閉ざされた雪の山荘で
2024.01.20 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1100円/109分]
【20】2024年製作委員会=ハピネットファントム 監督:飯塚健 脚本:加藤良太、飯塚健
CAST:重岡大毅、久我和幸、中条あやみ、岡山天音、西野七瀬、堀田真由、戸塚純貴、森川葵、間宮祥太朗
●そのままクローズドサーキットかと思いきや東野圭吾らしいトリッキーな構造。間取り図を使ったアイデアを生かして観客を虚実皮膜の空間に誘って欲しかったが、予感通り出演者が役者を演じその役者が役を仕掛ける多重レイヤーの面白さを作り手も演者も捻出できず、推理ものとしても演劇論としても終始弛緩してしまった。残念。
◎サン・セバスチャンへ、ようこそ
2024.01.21 イオンシネマ座間:スクリーン4 RIFKIN'S FESTIVAL [無料/88分]
【21】2020年スペイン=アメリカ=イタリア 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウォーレス・ショーン、ジーナ・ガーション、ルイ・ガレル、エレナ・アナヤ、セルジ・ロペス、クリストフ・ヴァルツ
●俗にいう「東海岸の映画人はアートを語り、西海岸はマネーを語る」。フェリーニ、ベルイマンからヌーベルバーグまで縦断し、俗っぽく「皮肉と諦観」のセルフカバー(?)で楽しませてくれる。「なるようにならない」のが映画なら「なるようにしかならない」のがウディ節。羽根毟られようが悪戦苦闘のジタバタに健在を確信し嬉しかった。
◎哀れなるものたち
2024.01.28 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 POOR THINGS [1300円/142分]
【22】2023年イギリス 監督:ヨルゴス・ランティモス 脚本:トニー・マクナマラ
CAST:エマ・ストーン、マーク・ラファロ、ウィレム・デフォー、ラミー・ユセフ、クリストファー・アボット
●「女の束縛からの解放」が大きな幹なのか単なる枝葉なのか。それよりも根源的な生命とは何者か?に思いを馳せられる。しかしとにかく露悪的でグロテスクで奇っ怪な描写を推進力としているのは確か。しかし悪趣味とは思わない。むしろ全編を通しての印象は「美しい」だった。まだ1月、今年これを超える映画は現れるのだろうか。
◎ファースト・カウ
2024.02.04 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 FIRST COW [1100円/122分]
【23】2019年アメリカ 監督:ケリー・ライカート 脚本:ケリー・ライカート、ジョナサン・レイモンド
CAST:ジョン・マガロ、オリオン・リー、トビー・ジョーンズ、ユエン・ブレンナー、スコット・シェパード
●冒頭、船が右から左へとゆっくり移動する。こういうテンポの映画なのはわかるが、ストーリーには起伏があり料理次第でコメディ味のエンタメに展開させることも可能だったろう。しかしそうはならないし、それを否定はしない。ただ描かれる現実にとぼけたユーモアを見出せなかったことに“映画鑑賞者”としての自分の課題も見えた。
◎ミツバチと私
2024.02.04 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 FIRST COW [1100円/128分]
【24】2023年スペイン 監督:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン 脚本:エスティバリス・ウレソラ・ソラグレン
CAST:ソフィア・オテロ、パトリシア・ロペス・アルナイス、アネ・ガバライン、イツィアル・ラスカノ、マルチェロ・ルビオ
●思えば「性同一障害」の言葉も惨い。“彼女”が最初に違和感を覚えるのは呼ばれる名前だ。周囲の大人が𠮟責し、何とかしようと思えば思うほど、8歳の子供は自己を肯定出来なくなる。そして子供が自己否定を内面化しないよう努める意味で親たちの成長物語にもなる。エンドクレジットで主人公の名前が“Lucia”となっていることの素晴らしさよ。
◎カラーパープル
2024.02.10 イオンシネマ座間:スクリーン8 COLOR PURPLE [1000円/141分]
【25】2023年アメリカ 監督:ブリッツ・バザウレ 脚本:マーカス・ガードリー
CAST:ファンテイジア・バリーノ、タラジ・P・ヘンソン、ダニエル・ブルックス、コールマン・ドミンゴ、コーリー・ホーキンズ
●アカデミー賞には好まれなかったようだが十分に満足。まさか38年前の映画がミュージカルで蘇るとは思わなかったが、プロードウェイの映画化ということで、むしろ女達の勝利を称える物語としてミュージカルの躍動感は正解だと思う。お気に入りは蓄音機のターンテープの上で歌う場面。巨大セットが往年のMGMを彷彿とさせ気分が高揚。
◎夜明けのすべて
2024.02.11 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 [1300円/119分]
【26】2024年製作委員会=バンダイナムコ=アスミックエース 監督:三宅唱 脚本:和田清人、三宅唱
CAST:松村北斗、上白石萌音、光石研、渋川清彦、芋生悠、藤間爽子、久保田磨希、足立智充、りょう、丘みつ子
●朝ドラではあっという間に恋に落ちたが、こちらの藤沢さんと松添くんは恋愛関係にならない。なんて新鮮なのだろうと思う。パニック障害とPMSを持つ同士、日常の戦友なのかもしれないが、過去の手記と何百万年前の光が輝く星に導かれての日常話はかなり素敵だ。劇伴使いにやや不満は残るが、三宅唱の確実なステップアップを実感した。
◎007/スカイフォール
2024.02.12 シオンシネマズ座間:スクリーン7 SKYFALL [1000円/143分] ※再観賞
【27】2012年イギリス=アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:ニール・パーヴィス、R・ウェイド、ジョン・ローガン
CAST:ダニエル・クレイグ、ジュディ・ディンチ、ハビエル・バルデム、レイフ・ファインズ、アルバート・フィニー
●今回の4Kレストア企画で絶対に観ると決めたのが未見の2本と本作だ。とにかくあまりの世界観の違いに度肝を抜かされて13年が経つ。当時シリーズが如何に岐路に立たされ、ボンドもろとも危機感の中にあったのか今は手に取るように解るが、本当に007映画なのかとの疑問も含め、間違いなくシリーズ屈指の衝撃作であり、もはや名作の域だ。
◎ナイト・オン・ザ・プラネット
2024.02.17 シオンシネマズ座間:スクリーン5 NIGHT ON EARTH [1600円/129分]
【28】1991年アメリカ=フランス=ドイツ=日本 監督:ジム・ジャームッシュ 脚本:ジム・ジャームッシュ
CAST:ウィノナ・ライダー、ジーナ・ローランズ、ジャンカルロ・エスポジト、ロベルト・ベニーニ、ベアトリス・ダル
●いきなり流れるトム・ウェイツ。ジャームッシュと対峙している妙な高揚感にシネコンが90年代ミニシアターと化す錯覚。咥え煙草のウィノナの後ろの女性はジーナだったか。各エピソードに甲乙はあるが順番は正解。どこか懐かしいのは、かつて夜のニューヨークの暗さをタクシーの車窓から眺めたことをちょっと思い出しただけ、か。
※1991年キネマ旬報ベストテン第10位
◎リバー・ランズ・スルー・イット
2024.02.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 BEAU IS AFRAID [1200円/124分]
【29】1992年アメリカ 監督:ロバート・レッドフォード 脚本:リチャード・フリーデンバーグ
CAST:クレイグ・シェイファー、ブラッド・ピット、トム・スケリット、ブレンダ・ブレシン、エミリー・ロイド
●モンタナの雄大な自然の中でフライフィッシングに講じる父と子、そして兄と弟。とにかく竿と糸のアンサンブルが美しい。レンタルビデオ屋時代、派手さはないがよく稼いだ。レッドフォードのきめ細かな演出でつくづくアメリカは父性の国だと感じさせるが、やはりスターになるべくしてなったブラピの存在感。高回転の理由はそれだろう。
※1993年キネマ旬報ベストテン第7位
◎ボーはおそれている
2024.02.18 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン11 BEAU IS AFRAID [1000円/179分]
【30】1991年アメリカ 監督:アリ・アスター 脚本:アリ・アスター
CAST:ホアキン・フェニックス、ネイサン・レイン、エイミー・ライアン、パーカー・ポージー、パティ・ルポーン
●噂のアリ・アスター。前2作を見逃してこれが初見。正直、3時間のこれでもかの地獄めぐりはしんどかった。しかし不条理な事象の連続に誰かボーに救いの手を指し延ばしてやれよと思いつつ、すべては仕組まれていた結末に、もう一度観てもいいかなとも思った。ただその時は一転してボーを弄ぶ側の視点で観たい。そうしないと身が持たん。
◎スケアクロウ
2024.02.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3 SCARECROW [1200円/113分] ※再観賞
【31】1974年アメリカ 監督:ジェリー・シャッツバーグ 脚本:ギャリー・マイケル・ホワイト
CAST:ジーン・ハックマン、アル・パチーノ、ドロシー・トリスタン、アン・ウェッジワース、リチャード・リンチ
●G・ハックマンとA・パチーノ。“映画史的競演”のバディものでロードムービー。私の大好物だが過去に2度観て中身の記憶がないのが観賞歴の七不思議のひとつだった。封切時の金曜夕刊のラテ欄の広告はよく覚えていたにも関わらず。ぶっきらぼうの大男は意外と饒舌で、口から生まれてきた小男は案外寡黙だった。またも掴めず終わったか。
※1973年キネマ旬報ベストテン第1位
◎エル・スール
2024.02.24 ヒューマントラストシネマ渋谷:シアター1 EL SUR [1200円/95分]
【32】1985年スペイン 監督:ビクトル・エリセ 脚本:ビクトル・エリセ
CAST:オメロ・アントヌッティ、ソンソレス・アラングーレン、イシアル・ボジャイン、ロラ・カルドナ
●未見のまま何十年も気なっていた。もし20代で観ていれば60を超えて再見した今、どう感じたろう。もちろん今日の初見でも素晴らしかったが、寡作の巨匠が醸す静謐さを穏やかに見つめるだけだった。娘にとって父を知ることは通過儀礼だろうが、胸に秘めたイレーネ・リオスは私の中にもいる。間違いなく墓まで持っていくのだろうが。
◎マッチング
2024.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン5 [1000円/110分]
【33】2024年製作委員会=KADOKAWA 監督:内田英治 脚本:内田英治、宍戸英紀
CAST:土屋太鳳、佐久間大介、金子ノブアキ、真飛聖、後藤剛範、片山萌美、片岡礼子、杉本哲太、斉藤由貴
●演出と演技が記号的でまるでいただけない。さらに二段落ちの構造ゆえミスリードしている意図が丸わかりで、それが延々と続くので全体の間延びが著しい。エンドロールは内容と脈絡のないJポップが流れ「またか」となる。一応良かった点は監督の原作によるオリジナルであることと、25年の時間経過を似た風貌の役者で演じ分けたことか。
◎落下の解剖学
2024.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 ANATOMIE D'UNE CHUTE [1100円/152分]
【34】2023年フランス 監督:ジュスティーヌ・トリエ 脚本:ジュスティーヌ・トリエ、アルチュール・アラリ
CAST:ザンドラ・ヒュラー、スワン・アルロー、ミロ・マシャド・グラネール、アントワーヌ・レナルツ、サミュエル・タイス
●まさに“知性の因数分解”。パルムドームもさもありなんか。検察側と弁護側。被告審問、証拠として提出される録音記録。英語と仏語が交錯する「言葉」。その応酬が母と子の感情を二転三転させ、観客をも翻弄する。法廷で晒される母の性遍歴を聞かされながら、最後は母を胸に受け止めるダニエル少年。その早過ぎる大人の佇まいが悲しい。
◎DOG MAN ドッグマン
2024.03.09 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 DOG MAN [1300円/114分]
【35】2023年フランス 監督:リュック・ベッソン 脚本:リュック・ベッソン
CAST:ケイレブ・ランドリー・ジョーンズ、ジョージョー・T・ギッブス、クリストファー・デナム、クレーメンス・シック
●かつて一世を風靡するが、その後、俗化。過去の人になりつつあるも“リュック・ベッソン最新作”に惹かれて観賞。拘置所での懐述が回想場面となり、時間軸が近づいてラストで現実時間となる。ラストの宗教的臨終は悪くなく一定の面白さはあるのだが、犬を操っての犯罪組織殲滅となると「やり過ぎ感」は拭えず、許容を超えてしまった。
◎梟 フクロウ
2024.03.09 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 올빼미 [1100円/118分]
【36】2022年韓国 監督:アン・テジン 脚本:アン・テジン、ヒョン・ギュリ
CAST:リュ・ジュンヨル、ユ・ヘジン、チェ・ムソン、チョ・ソンハ、パク・ミョンフン、キム・ソンチョル、チョ・ユンソ
●目を狙う針のメインポスターで韓流ホラーと思って敬遠していたが評判の良さに厚木で捕まえた。つくづくビジュアルは大切だ。実際,見終わった印象は「よく出来てる」だった。17世紀朝鮮王朝を描きながら「見て見ぬふりをする」ことの是非を現代社会に突きつけながら、それをエンタメに落とし込んでゆく手腕。まさに一級品だろう。
◎瞳をとじて
2024.03.17 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 CERRAR LOS OJOS [1100円/169分]
【37】2023年スペイン 監督:ビクトル・エリセ 脚本:ビクトル・エリセ、ミシェル・ガスタンビデ
CAST:マノロ・ソロ、ホセ・コロナド、アナ・トレント、ベトラ・マルティネス、マリア・レオン、マリオパルド、エレナ・ミケル
●傑作。単純に「人生万歳」を謳った映画ではないが、観終わった直後の感想はそれだった。巨匠エリセ31年ぶりの新作は絶望によって失われた記憶を、169分の時間を使って丁寧に静謐にある意味トリッキーにカットを積み重ね蘇らせていく。忘れたままでも良かったのかもしれないが、やはり人生は空白を埋めたうえで自己肯定が得られるのだ。
◎ゴールド・ボーイ
2024.03.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 [無料/129分]
【38】2024年チームジョイ=東京テアトル 監督:金子修介 脚本:港岳彦
CAST:岡田将生、羽村仁成、星乃あんな、黒木華、前出燿志、松井玲奈、北村一輝、江口洋介
●思えば金子修介とはデビュー作から「ガメラ」に「ゴジラ」にと付き合いも古くなった過程で前作のレズポルノは最低だったが今回は面白かった。確かに二転三転のストーリーの起伏を馬なりに駆け抜けた故の荒っぽさはあったが、細かいことより突っ走った者勝ち的な勢いが功を奏したか。とにかく岡田将生の存在感が見惚れるほど凄い。
◎変な家
2024.03.20 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 [1300円/110分]
【39】2024年製作委員会=東宝 監督:石川淳一 脚本:丑尾健太郎
CAST:間宮祥太朗、佐藤二朗、川栄李奈、長田成哉、DJ松永、瀧本美織、根岸季衣、高嶋政伸、斉藤由貴、石坂浩二
●驚いたのが座間のイオンシネマが札止めで、河岸を替えた南町田も満杯だったこと。映画館の盛況は喜ばしいが、それに見合う映画であって欲しかった。序盤の間取り図をめぐる謎かけは面白かったものの、中盤以降の無理やりな筋書きに呆れ返る。動画の映像をもっと生かせばマシなJホラーに仕上がったろうに、結局、茶番に終わったか。
◎愛と哀しみのボレロ
2024.03.23 TOHOシネマズ新宿:スクリーン1 LES UNS ET LES AUTRES [1200円/184分]
【40】1981年フランス 監督:クロード・ルルーシュ 脚本:クロード・ルルーシュ
CAST:ロベール・オッセン、ニコール・ガルシア、マニュエル・ジェラン、ジェラルディン・チャップリン、ジェームズ・カーン
●日々の疲労故にラヴェルを聴きながら睡魔に耐える184分と思いきや、世界的アーティスト4人の2世代の物語を大戦を真ん中にアルジェリア戦争に至るフランス近代を通史したルルーシュの語り口に集中して観られた。カラヤン指揮でヌレエフが踊り、G・ミラーの娘が歌う大嘘も「ボレロ」の圧巻のフィナーレにこれぞ大団円と唸らせる。
◎荒野の用心棒 <4K復元版>
2024.03.24 ムービル:シアター1 A FISTFUL OF DOLLARS [1300円/99分] ※再観賞
【41】1964年イタリア他 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:セルジオ・レオーネ、ヴィクトル・A・カテナ、ハイメ・コマス
CAST:クリント・イーストウッド、ジャン・マリア・ヴォロンテ、ジョン・ウェルズ、ヨゼフ・エッガー、ロレンツォ・ロブレド
●≪ドル三部作≫のリバイバル。ならばMyマエストロを堪能しようと4K上映のムービルへ。映画観賞の原点に相応しい場所。おそらく自分史上最高音質で「さすらいの口笛」を聴く。そしてブーツの歯車からのローアングルのパンフォーカス。またレオーネ節に酔う。さらにイーストウッド。ここまで恰好良いウエスタンヒーローを私は知らない。
◎夕陽のガンマン <4K復元版>
2024.03.24 ムービル:シアター1 FOR A FEW DOLLARS MORE [1300円/132分] ※再観賞
【42】1965年イタリア他 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:セルジオ・レオーネ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
CAST:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、ジャン・マリア・ヴォロンテ、マリオ・ブレガ、クラウス・キンスキー
●テーマ曲は何千回と聴いたがスクリーンとは中学生以来ほぼ50年ぶりの邂逅。改めて良く出来た傑作だ。レオーネはクリントより悪役ヴォロンテへの愛を隠そうとせず、リー・ヴァンの鋭く静かな佇まいと対比させる。とんでもない“男のプロ”達によるカッコよさを一層引き立てる演出と音楽。これに夢中になれた中坊の日々までもが誇らしい。
◎続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 <4K復元版>
2024.03.30 ムービル:シアター4 THE GOOD、THE BAD AND THE UGLY [1300円/178分] ※再観賞
【43】1966年イタリア他 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:セルジオ・レオーネ、ルチアーノ・ヴィンチェンツォーニ
CAST:クリント・イーストウッド、イーライ・ウォラック、リー・ヴァン・クリーフ、アル・ムロック、ルイジ・ピスティッリ
●よく「モリコーネの音楽が映像を盛り上げる」は聞くが、サッドヒル墓地以降は「映像がモリコーネの音楽を盛り上げている」。これは神々のシンフォニーだと思っていて、多幸感は他と比べようがない。ただ3時間、物語の面白さに喜んでいた今までと違い、戦争の愚かしさや死に往く者への慈しみが散りばめられているのが痛く胸を突いた。
◎アイアンクロー
2024.04.07 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 THE IRON CLAW [1300円/130分]
【44】2023年アメリカ 監督:ショーン・ダーキン 脚本:ショーン・ダーキン
CAST:ザック・エフロン、ホルト・マッキャラニー、ジェレミー・アレン・ホワイト、モーラ・ティアニー、リリー・ジェームズ
●実際の彼らを見てきたこと、また当時の記事を熟読していたことで家族の悲劇が再現VTRに思えてしまう。さらに「呪われた一家」の元凶に、極端な家父長制があり、フリッツの「鉄の爪」が兄弟たちの精神をも鷲掴みにした絶対悪として、逃れたケビンが得た平穏という決着が短絡に感じた。彼らは「栄光の一家」でもあったわけだから。
◎ピアノ・レッスン
2024.04.13 kino cinema横浜みなとみらい:シアター1 THE PIANO [1300円/121分]
【45】1993年オーストラリア=ニュージーランド=フランス 監督:ジェーン・カンピオン 脚本:ジェーン・カンピオン
CAST:ホリー・ハンター、ハーヴェイ・カイテル、サム・ニール、アンナ・パキン、ケリー・ウォーカー、タンギア・ベイカー
●神代辰巳が絶賛していた記事を見つけて以来、未見の課題だった。視界を隠す指、鍵盤を叩く指、柔肌を這う指、そして浜辺に置かれたピアノ。海上のエイダの行動が自殺なのか事故なのか判らなかったのが悔しいが、総合芸術としての映画の“特権”である映像と音と演技の「言語一致」を極限に研ぎ澄ますことで醸し得る官能美に酔わされた。
※1994年キネマ旬報ベストテン第1位
◎インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説
2024.04.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 INDIANA JONES AND THE TEMPLE OF DOOM [1200円/118分]※再観賞
【46】1984年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:ウィラード・ハイク、グロリア・カッツ
CAST:ハリソン・フォード、ケイト・キャンプショー、キー・ホイ・クァン、アムリッシュ・プリ、フィリップ・ストーン
●「映画ではなくテーマパークのアトラクション」。私が大味なハリウッド大作を批判するときの常套句ではある。そのきっかけになった本作だが、実は40年前に有楽座の大スクリーンで2度観て大いに楽しんでいた。何よりアトラクションを極限まで徹底させた潔さ。今観ても面白さが古びていないのは心底凄いこと。キー・ホイも可愛かった。
◎オッペンハイマー
2024.04.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 OPPENHEIMER [1300円/180分]
【47】2023年アメリカ 監督:クリストファー・ノーラン 脚本:クリストファー・ノーラン
CAST:キリアン・マーフィー、エミリー・ブラント、マット・デイモン、ロバート・ダウニーJr、ジョシュ・ハートネット
●核が戦争を終結させたのではなく長い冷戦の発端となったのは紛れもない史実だが、それ以前にロバート・オッペンハイマーなる人物を知る日本人がどれだけ居ただろう。ゆえに映画化の意味は十分だ。ただノーランが核実験の衝撃だけでヒロシマ、ナガサキを避けたことに不満を感じる。追い求めたのは苦悩の半生ではなくオスカー像だったか。
◎名探偵コナン/100万ドルの五稜星<みちしるべ>
2023.04.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン1 [無料/109分]
【48】2024年小学館=読売テレビ=トムス=東宝 監督:永岡智佳 脚本:櫻井武晴
CAST:(声)高山みなみ、山口勝平、堀川りょう、宮村優子、大泉洋、山崎和佳奈、小山力也、緒方賢一、林原めぐみ
●毎年のお楽しみとしているが、フォーカスを当てたかったのがキッドなのか平次なのか?函館、五稜郭、土方歳三と舞台建ても含め欲張りすぎて、すべて中途半端になっている。せめて平次と和葉との恋路は成就させてもよかった。最後にキッドの秘密の初端が明かされるが、上空でのチャンバラの有り得なさに少し冷めてしまった。
◎パスト ライブス/再 会
2023.04.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 패스트 라이브 PAST LIVES [1300円/106分]
【49】2023年アメリカ=韓国 監督:セリーヌ・ソン 脚本:セリーヌ・ソン
CAST:グレタ・リー、ユ・ティオ、ジョン・マガロ
●余分なエピソードを削ぎ落し、出会い・別れ・再会の24年間の時間軸だけで見せる構造が好きだ。人生などふとしたきっかけで大きく振れるのだろうが、そのきっかけを逸してしまったヘソンがニューヨークからソウルへの帰路で去来したものを想像すると、再会の喜びではなく過ぎ去った時間の大きさだったのではないか。切ない話だ。
◎ゴースト・バスターズ:フローズン・サマー
2023.04.18 TOHOシネマズ新宿:スクリーン8 GHOSTBUSTERS: FROZEN EMPIRE [1300円/115分]
【50】2023年アメリカ 監督:ギル・キーナン 脚本:ギル・キーナン、ジェイソン・ライトマン
CAST:ポール・ラッド、キャリー・クーン、フィン・ウルフハード、ダン・エイクロイド、マッケナ・グレイス、ビル・マーレイ
●やはりこのシリーズの舞台はニューヨークでなければならないし、市立図書館のライオン像は疾走しなければならない。そして大事なのは風采の上がらぬおっさんたちこそヒーローでなければならない。その意味で前作同様、子供と家族の話になっているのは残念だった。ただ応援に現れたビル・マーレイの退職OB感が絶品すぎるのが可笑しい。
◎インディ・ジョーンズ/最後の聖戦
2024.04.20 TOHOシネマズ西宮OS:スクリーン8 INDIANA JONES AND THE LAST CRUSADE [1200円/127分] ※再観賞
【51】1989年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:ジェフリー・ボーム
CAST:ハリソン・フォード、ショーン・コネリー、デンホルム・エリオット、アリソン・ドゥーディー、リバー・フェニックス
●初見はみゆき座。日比谷の映画街が変わりつつあった。前作のアトラクション方式(褒め言葉)と比べると、活劇のアイディアも地味で、ひたすらS・コネリーを迎えて嬉々としていたスピルバーグとの印象だったが、再見すると80年代ブロックバスター大作の底抜けの面白さは健在で、まさしくレーザーディスク時代の象徴だとも思った。
◎辰 巳
2024.04.28 ユーロスペース [1300円/108分]
【52】2024年インターフィルム 監督:小路紘史 脚本:小路紘史
CAST:遠藤雄弥、森田想、佐藤五郎、後藤剛範、倉本朋幸、松本亮、渡部龍平、龜田七海、足立智充、藤原季節
●主役の遠藤雄弥の線の細さが気になりはしたが、しっかりした演出、撮影、キャストが組まれればインディーズでもジャパニーズ・ノワールで豊潤な一本が作れることが証明されて嬉しかった。東映実録路線やVシネの蓄積とは別の場所でアウトロー映画の萌芽が無名の役者達の咆哮によって育まれてきたのかと思う。観て良かった。
◎悪は存在しない
2024.04.28 Bunkamuraル・シネマ渋谷宮下 [1200円/106分]
【53】2024年NEOPA=fictive=コビアポアフィルム 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介
CAST:大美賀均、西川玲、小坂竜士、渋谷采郁、菊池葉月、三浦博之、鳥井雄人、山村崇子、長尾卓磨、田村泰二郎
●全部の回が満席の濱口竜介最新作。精霊と会話しているような静謐な序盤に作風を変えたのかと思わせてからの、場内が爆笑するいつもの濱口ワールドに。しかし突然の不条理な幕引きに呆然とする空気の中、私は手負いの鹿を介した大自然の摂理だと茫洋に解釈したが、そこに至った境地は境地として完全に観客を掌に乗せていた、濱口凄い。
◎ゴジラ×コング 新たなる帝国
2024.04.29 109シネマズグランベリーパーク:シアター6 GODZILLA X KONG: THE NEW EMPIRE [無料/117分]
【54】2024年アメリカ 監督:アダム・ウィンガード 脚本:テリー・ロッシオ、J・スレイター、S・バレット
CAST:レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ダン・スティーブンス、カイリー・ホットル、ファラ・チェン
●人類の味方や敵対同士の共闘が怪獣映画を凋落させるのだが、もうこのゴジラは別物だと割り切る。脚本がかなり破綻し、途中で一体何を見せられているのかとは思ったが、総じて面白くはあった。とくに序盤から地下世界に突入するまでは本気でワクワクした。日本は関係なくなってしまったが、相変わらず神秘には東洋人が必須らしい。
◎青春18×2 君へと続く道
2024.05.03 イオンシネマ座間:スクリーン2 [1100円/123分]
【55】2024年JUMPBOYS FILMS=台湾 監督:藤井道人 脚本:藤井道人
CAST:シュー・グァンハン、清原果耶、ジョセフ・チャン、道枝駿佑、山中崇、北村豊春、黒木華、松重豊、黒木瞳
●同じ初恋の記憶というテーマで『バスト・ライブス』が徹底的に引き算の映画だったが、藤井道人は台湾・日本を背景に次々とエモーショナルな要素を足し算していき、作品評価は別として自分はこういうエモさを追い続けているのだと改めて痛感する。アミと別れた18年後に日本を旅するジミーの佇まいがよく、北国の風景が誇らしくもあった。
◎死刑台のメロディ
2024.05.05 新宿武蔵野館:スクリーン3 SAOCO E VANZETTI [1600円/125分]
【56】1970年イタリア 監督:ジュリアーノ・モンタルド 脚本:ジュリアーノ・モンタルド、ファブリツィオ・オノフリ
CAST:ジャン・マリア・ヴォロンテ、リカルド・クッチョーラ、シリル・キューサック、ロザンナ・フラテッロ
●♪Here’s to you, Nicola and Bart~ずっと主題曲は聴いていたが、暗く難しそうな映画にモリコーネは随分と明るい曲調をつけたものだと思っていた。エンディングの字幕でサッコとバンゼッティを祝福する歌だと知る。映画は暗くも難しくもない。法廷劇だ。わがヴォロンテが渾身の演技で見せた「時代の不条理」に終始前のめりになった。
※1972年キネマ旬報ベストテン第3位
◎水深ゼロメートルから
2024.05.05 新宿シネマカリテ:スクリーン1 [1300円/87分]
【57】2024年レオーネ=ポニーキャニオン 監督:山下敦弘 脚本:中田夢花
CAST:濱尾咲綺、仲吉玲亜、清田みくり、花岡すみれ、三浦理奈、さとうほなみ、井手上亮太、岡田空、麻木貴仁、土山茜
●今年のベスト1候補。女子高生たちが水のないプールで会話するだけの映画だが監督は山下敦弘。「僕が共感したら嘘」とのコメント通り私も誰の視点にもなれないが、彼女たちの発するセリフが悉く予測不能。等身大の姿なのかも不明。でも間違いなく眩しい。地方発の高校演劇を熟練の城定なり山下が撮ることの興味深さで、もう一度観る。
◎雨の訪問者
2024.05.05 K's cinema LE PASSAGER DE LA PLUIE [1300円/125分]
【58】1970年イタリア 監督:ルネ・クレマン 脚本:ジャン・セバスチャン・ジャプリゾ
CAST:チャールズ・ブロンソン、マルレーヌ・ジョベール、ジル・アイアランド、マーク・マッツァ、ガブリエレ・ティンティ
●ブロンソンとジョベールとフランシス・レイの音楽のイメージだったが、未見の名画とされるものは観ておく。監督がルネ・クレマンとは知らなかった。ブロンソンは文句なしにカッコイイ。ただ巨匠の映画にしては描写が前時代のサスペンスで、出ずっぱりのジュベールのキンキン声がノイズだった。音楽は素晴らしいが大して名画でもなかった。
◎猿の惑星 キングダム
2024.05.11 イオンシネマ座間:スクリーン6 KINGDOM OF THE PLANET OF THE APES [1100円/145分]
【59】2024年アメリカ 監督:ウェス・ボール 脚本:ジョシュ・フリードマン、リック・ジャファ、アマンダ・シルヴァー
CAST:オーウェン・ティーグ、フレイヤ・アーラン、ケヴィン・デュランド、ピーター・メイコン、ウィリアム・H・メイシー
●前シリーズの三部作は未見。故に300年後といってもピンと来ない。結局1968年版の宇宙飛行士の遭難劇こそ「猿惑」なのだと思う。王国ならぬ砦の大将的なプロキシマスに挑むノア。猿同士の抗争劇かよと思わせながら、やがてノヴァを通して「人間が一番危険」であることを匂わせる。世界情勢のメタファーとして一定の納得感はあった。
◎またヴィンセントは襲われる
2024.05.11 イオンシネマ座間:スクリーン9 VINCENT DOIT MOURIR [1100円/115分]
【60】2023年フランス 監督:ステファン・カスタン 脚本:マチュー・ナールト、ドミニク・ボーマール、S・カスタン
CAST:カリム・ルクルー、ヴィマーラ・ボンズ、フランソワ・シャトー、ミケール・ペレス、エマニュエル・ヴェリテ
●視線が合った人々が襲ってくる。他者性への直接的な恐怖だが、目を見なければいい?いや完璧に視線を外したまま他者と相対するのは至難だ。合わせたくないが合ってしまうサスペンスは演出の見せ所だが、そこまでの周到な描写がなかったのは残念。何故かかる事態となったのか、理由も解決もなく終わらせたのは不誠実ではなかったか。
◎マリウポリの20日間
2024.05.12 kino cinema横浜みなとみらい:シアター1 20 DAYS IN MARIUPOL [1300円/97分]
【61】2024年ウクライナ=アメリカ 監督・脚本・撮影:ミスティスラフ・チェルノフ
CAST:(ドキュメンタリー)
●これをフェイクとして「情報テロ」呼ばわりするロシア側に怒りを覚えたものの、戦場となった市街の悲惨さを煽るBGMも多分に恣意的ではある。ウクライナの現実を突きつけられはしたものの、私は映画館を出た足で野球を観に行く。間違いなく傍観者から逃れられないのだが、戦場の映像に疑似体験以上の何を感じるべきなのだろうか。
◎鬼平犯科帳 血闘
2024.05.18 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1100円/111分]
【62】2024年時代劇パートナーズ=松竹 監督:山下智彦 脚本:大森寿美男
CAST:松本幸四郎、北村有起哉、中村ゆり、市川染五郎、仙道敦子、火野正平、本宮泰風、志田未来、中井貴一、柄本明
●おまさのエピソードは原作でも盛り上がりどこなので話は十分に面白い。しかし幸四郎の平蔵に、脳裏に残る吉右衛門の貫録を偲んでしまうのは如何ともし難く、北村有起哉と中村ゆりの熱演で一層幸四郎の青さが見え、仙道敦子の貫録の年増感に圧倒されているむず痒さたらなかった。幸四郎の鬼平完成まであと十年は寝かせるべきか。
◎碁盤斬り
2024.05.18 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1100円/111分]
【63】2024年木下グループ=CULE=キノフィルムズ 監督:白石和彌 脚本:加藤正人
CAST:草彅剛、國村隼、清原果耶、中川大志、小泉今日子、斎藤工、奥野瑛太、音尾琢真、市村正親、立川談慶、中村優子
●格之進が仇討の旅支度の途中で濡れ衣を着せられ、突然腹を切るとなる場面に編集と脚本のズレを感じさせ、端正を貫いた草彅の芝居が突然拙速したと感じたものの、概ね白石和彌の時代劇初挑戦は頑張っていた。あ、本当に碁盤を斬るんだと驚いたが、屋敷から中庭に雪崩れ込む殺陣が東映仁侠映画風を彷彿とさせたのは白石の面目躍如か。
◎ベルリン・天使の詩
2024.05.19 イオンシネマ座間:スクリーン9 DER HIMMEL UBER BERLIN [1200円/128分] ※再観賞
【64】1987年西ドイツ=フランス 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、ペーター・ハントケ
CAST:ブルーノ・ガンツ、ソルヴェイグ・ドマルタン、オットー・ザンダー、クルト・ボウワ、ピーター・フォーク
●まだ20代だったか。あの頃、日比谷シャンテでヴェンダースを観るのがお洒落とされていた。そして何で散文詩を羅列しただけの映画がトレンドなのかと思った。還暦過ぎて観直してマリオンなら中年天使も惚れるわと納得したものの、“人間になりたい天使”のありきたりな構図に冷戦末期のベルリンの資料的価値以上のものは見出せなかった。
※1988年キネマ旬報ベストテン第3位
◎パリ、テキサス
2024.05.26 TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 PARIS、TEXAS [1200円/147分] ※再観賞
【65】1984年西ドイツ=フランス 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:サム・シェパード
CAST:ハリー・ディーン・スタントン、ナスターシャ・キンスキー、ディーン・ストックウェル、オロール・クレマン
●初見の衝撃たらなく、即、ライ・クーダーのサントラを買った、私の80年代ベストムービー。ただ砂漠にスチールギターは永遠に刻まれているのだが、悲しいかな40年の歳月でウォルトとハンター親子は記憶から飛んでいた。そうだ脚本はサム・シェパードだった。抜け落ちた記憶を見事なダイアローグで埋めてくれ、40年後にまた落涙だった。
※1985年キネマ旬報ベストテン第6位
◎ミッシング
2024.05.26 イオンシネマ海老名:スクリーン1 [無料/111分]
【66】2024年WOWOW=スターサンズ=ワーナー 監督:吉田恵輔 脚本:吉田恵輔
CAST:石原さとみ、青木崇高、中村倫也、森優作、小野花梨、細川岳、有田麗未、小松和重、カトウシンスケ、柳憂怜
●ジャンルとしてのスター映画は大好物だが、愛娘を探す沙緒里の周囲から浮くほどの狂おしい心情も石原さとみの熱演が際立つと何を見ているのかわからなくなる。間違いなく彼女のベストアクトだが、その存在感が物語を追う過程でノイズになる。吉田恵輔、渾身の力作だっただけに残念な気さえする。ここまで複雑な澱が残るのは珍しい。
◎関心領域
2024.05.26 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 THE ZONE OF INTEREST [1300円/105分]
【67】 2023年アメリカ=イギリス=ポーランド 監督:ジョナサン・グレイザー 脚本:ジョナサン・グレイザー
CAST:クリスティアン・フリーデル、ザンドラ・ヒュラー、ラルフ・ハーフォース、マックス・ベック
●優れた映画であることはわかる。でもあまりにキツい。裕福に暮らす家族たち。その日常を定点観測しながら塀の向こうはアウシュビッツ強制収容所。日夜絶えず悲鳴と銃声が聞こえてくる。その音響表現が半端ではなく、正直、短編にしてくれと思った。作り手たちの「現在も“関心領域”は存在する」とのメッセージは受け止めたとしても。
◎ありふれた教室
2024.05.29 新宿武蔵野館:スクリーン1 DAS LEHRERZIMMER [1200円/99分]
【68】2022年ドイツ 監督:イルケル・チャタク 脚本:イルケル・チャタク
CAST:レオニー・ベネシュ、レオナルト・シュテットニッシュ、エバ・ロバウ、ラファエル・シュタホヴィアク
●教師、生徒、保護者、それぞれの正義が対立する。「学校は社会の縮図」などというが、密な人間関係が凝縮する「縮図」ほど恐く息が詰まるものはない。大学時代早々に教職を捨てて良かった。少し覚悟してストーリーを追いながら二転三転する状況が最後まで推進力となって面白く観た。演出、演技、音楽もほぼ完璧。ぜひリピートしたい。
◎恋するプリテンダー
2024.05.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 ANYONE BUT YOU [1300円/103分]
【69】2023年アメリカ=オーストラリア 監督:ウィル・グラック 脚本:イラナ・ウォルパート、ウィル・グラック
CAST:シドニー・スウィーニー、グレン・パウエル、アレクサンドラ・シップ、ゲータ、ハドリー・ロビンソン
●リゾートを舞台に素直になれずいがみ合っていた男女が最後に結ばれて大団円。まったく今時珍しいド直球ラブコメだ。しかもおバカ連発と最後の有り得ない大仕掛けを大いに楽しんだ。全米2億ドル超えのメガヒットだったそうで、観客はよほど王道ラブコメに飢えていたのだろう。確かにこのところ同性や異民族間での恋愛映画が多すぎた。
◎マッドマックス:フュリオサ
2024.05.31 グランドシネマサンシャイン池袋:シアター12 IMAX FURIOSA: A MAD MAX SAGA [2100円/148分]
【70】2023年アメリカ=オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:ジョージ・ミラー、ニック・ラソウリス
CAST:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、チャーリー・フレイザー、トム・バーク、ラッキー・ヒューム
●日本一巨大なスクリーンで浴びてやろうと公開初日に駆け付けた。そう先ずは体感を優先し、落ち着いてまた観ると思う。『怒りのデスロード』の怒涛の3日間と比べチャプター割りで物語が整頓され、一人の少女があのフュリオサになるまでの長いスパンと作風がややファンタジーに寄っていたのに戸惑った。第一印象は「違和感」だったか。
◎映画 からかい上手の高木さん
2024.06.01 109シネマズグランベリーパーク:シアター6 [1300円/120分]
【71】2024年製作委員会=TBS=東宝 監督:今泉力哉 脚本:金沢知樹、萩森淳、今泉力哉
CAST:永野芽郁、高橋文哉、鈴木仁、平祐奈、前田旺志郎、志田彩良、白鳥玉季、齋藤潤、江口洋介
●正直、中盤までは前時代的過ぎて小っ恥ずかしくキツかった。『窓辺にて』『アンダーカレント』といよいよ凄くなってきた今泉が60年代純情青春劇に逆戻りかよと本気で訝しんでいたら、西片と高木さんの空気感に慣れてきて、いよいよ得意の長回しの会話になると俄然、今泉の作家性が溢れてくる。永野芽衣が意外に良くて心底驚いた。
◎青春ジャック 止められるか、俺たちを2
2024.06.10 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 [1000円/119分]
【72】2024年若松プロ=シネマスコーレ 監督:井上淳一 脚本:井上淳一
CAST:井浦新、東出昌大、芋生悠、杉田雷麟、コムアイ、田中俊介、向里祐香、成田浬、吉岡睦雄、大西信満、タモト清嵐
●80年代カルチャーや時代性を違和感で過ごしてきた私は、その辺境で喘ぐ若者たちに無条件で思い入れてしまう。シネマスコーレは訪れたい映画館であったし、劇中に羅列される固有名詞に逐一ニヤリとさせられた。そしてトータルで物語を支配したのが井浦新の若松孝二。私の周囲にこんな不良オヤジがいたらなと思う。前作より断然面白い。
◎あんのこと
2024.06.14 池袋シネマ・ロサ [1200円/114分]
【73】2024年製作委員会=木下グループ 監督:入江悠 脚本:入江悠
CAST:河合優実、佐藤二朗、稲垣吾郎、河井青葉、広岡由里子、早見あかり
●杏は人を社会を恨む意思さえ持たず死んでしまったのではないか。人もさることながら社会にも裏と表がある。二面性の薄い境界線に僅かな救済が存在したとしてもあまりにも淡く脆い。日記を綴ることで生の実感を得たとしても、そこに一縷の希望とやらを見出せというのか。明らかにアップデートした入江悠にドスンと腹を突かれた。
◎マッドマックス:フュリオサ
2024.06.15 イオンシネマ座間:スクリーン9 FURIOSA: A MAD MAX SAGA [1100円/148分] ※再観賞
【74】2023年アメリカ=オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:ジョージ・ミラー、ニック・ラソウリス
CAST:アニャ・テイラー=ジョイ、クリス・ヘムズワース、チャーリー・フレイザー、トム・バーク、ラッキー・ヒューム
●戸惑いも違和感も払拭された2度目の観賞。前回、体感に徹して良かった。“21世紀最高の金字塔”『怒りのデスロード』への繋ぎとして満点のクォリディ。相変わらず編集と美術は神の領域だが、連続するディティールの濃さが半端ではない。フュリオサもディメンタスもチャプター分けも気にならず、あっという間に駆け抜ける148分。傑作だ。
◎宗方姉妹
2014.06.16 TOHOシネマ海老名:スクリーン9 [1200円/111分] ※再観賞
【75】1950年新東宝 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:田中絹代、高峰秀子、上原謙、山村聰、高杉早苗、笠智衆、堀雄二、斎藤達雄、藤原釜足、坪内美子、千石規子
●縁側で笠智衆と高峰秀子がウグイスの鳴き声を真似る場面に、小津安二郎と対峙している実感に気分が上がって嬉しくなる。しかし物語は厳しい。初見時には感じなかったが全編に死の影がちらついてもいる。時代は変わろうとしているがどこかに戦争の残滓を感じる。大林宜彦が「小津さんは常に戦争を描き続けた」と語っていたように。
※1950年キネマ旬報ベストテン第7位
◎小早川家の秋
2014.06.17 TOHOシネマららぽーと横浜:スクリーン10 [1200円/103分] ※再観賞
【76】1961年宝塚映画=東宝 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:中村鴈治郎、原節子、新珠三千代、司葉子、小林桂樹、浪花千栄子、団令子、杉村春子、加東大介、森繁久彌、笠智衆
●知らずの内に小津の享年を超えていた。個々の区別がつき辛い小津映画で、38年経って内容は忘れていたが、並木座のチラシに「小津の無常感」と書かれていた。確かに火葬場の煙突とカラスのラストショットは不吉だったが、父・鴈治郎の女遊びを詰る娘・新珠との掛け合いなど、勝手が違う東宝演技陣を掌に乗せる鉄板スタイルは唯一無二だ。
◎告 白/コンフェッション
2014.06.17 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1000円/78分]
【77】2024年製作委員会=ギャガ 監督:山下敦弘 脚本:幸修司、高田亮
CAST:生田斗真、ヤン・イクチュン、奈緒
●近年の邦画は同じ監督作品が矢継ぎ早に公開される傾向にあるが、半年に3本公開された山下敦弘の内、これは駄目だった。福本伸行とかわぐちかいじの共作という冗談みたいな原作。どう見てもコントのような設定をホラー風に仕上げたのだろうが、その味付けの塩加減がキツすぎた。突然のコマ落としなどホラーだから何でもありではない。
◎蛇の道
2014.06.17 イオンシネマ座間:スクリーン8 LE CHEMIN DU SERPENT [1000円/113分]
【78】2024年フランス=日本=ベルギー=ルクセンブルク 監督:黒沢清 脚本:黒沢清
CAST:柴咲コウ、ダミアン・ボナール、マチュー・アマルリック、グレゴワール・コラン、ヴィマラ・ポンス、西島秀俊
●二代目「世界のクロサワ」らしい多国籍映画。内容は拉致・監禁・処刑に幼児の臓器売買を絡めた禍々しい復讐譚。黒沢のセルフリメイクだが、オリジナルは未見。面白い映画ではないが柴咲コウがフランス俳優陣を手玉に取るスター映画として観ればいい。強引な筋立てや無理矢理なオチも彼女が颯爽としていたので何とか許せるかも。
◎ありふれた教室
2024.06.23 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 DAS LEHRERZIMMER [1000円/99分] ※再観賞
【79】2022年ドイツ 監督:イルケル・チャタク 脚本:イルケル・チャタク
CAST:レオニー・ベネシュ、レオナルト・シュテットニッシュ、エバ・ロバウ、ラファエル・シュタホヴィアク
●リピートは決めていたが、改めて厳しい内容だ。子供たちの人権と不寛容であることがバラバラに機能しているようで妙に一致する局面があり、その狭間にノヴァクの苦悩がある。いや本人とすれば地獄めぐりに近いだろう。ルービックキューブのように人間関係は完結しないが、作り手たちはそこに微かな光を見出そうとしたのか。傑作。
◎不死身ラヴァーズ
2014.06.23 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 [1000円/103分]
【80】2024年/メーテレ=ポニーキャニオン 監督:松居大悟 脚本:大野敏哉、松居大悟
CAST:見上愛、佐藤寛太、青木柚、落合モトキ、大関れいか、平井珠生、米良まさひろ、前田敦子、神野三鈴
●『ちょっと思い出しただけ』が素晴らしかったので松井大悟の新作には大いに期待したが残念な結果に。いかにもコミック先行のラブコメ然としたルックについていけなかった。見上愛は途中で「ああJRAのCMの子か」と気づいたが、脇で光りそうな個性的キャラでラブコメのヒロインとしてはどうなのだろう。最後まで異物感が拭えなかった。
◎朽ちないサクラ
2014.06.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [無料/103分]
【81】2024年ホリプロ=カルチュア・エンタテインメント 監督:原廣利 脚本:我人祥太、山田能龍
CAST:杉咲花、安田顕、萩原利久、森田想、坂東巳之助、駿河太郎、遠藤雄弥、和田聰宏、藤田朋子、豊原功補
●柚月裕子の原作がしっかりしていたのか、話の展開が最後まで飽きさせず、真実が炙り出された瞬間にタイトルの意味が解る趣向もよい。ヒロインが御神籤から真実に辿り着く強引さは否めないものの、杉咲花、安田顕、豊原功補の配役が安定しており、役者を堪能出来る映画でもあった。…それにしても『辰巳』で鮮烈だったあの二人がなぁ。
◎ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
2024.06.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 THE HOLDOVERS [1300円/133分]
【82】2023年アメリカ 監督:アレクサンダー・ペイン 脚本:デヴィッド・ヘミングソン
CAST:ポール・ジアマッティ、ドミニク・セッサ、ダヴァイン・ジョイ・ランドルフ、テイト・ドノヴァン
●秀作であることは解るし、故にオスカーにノミネートも納得出来た。ラストでは少し涙も出た。ただ設定として偏屈な教師ハナムと悪ガキ生徒アンガスのバディ風ロードムービーに、息子をベトナムで亡くした料理長メアリーの哀しみが絡んでくる流れを飲み込むことが出来なかった。きっと「孤独な3人」の形成以上の何かがあるのだろうが。
◎言えない秘密
2014.06.29 新宿バルト9:シアター2 [1300円/114分]
【83】2024年製作委員会=GAGA 監督:河合勇人 脚本:松田沙也
CAST:京本大我、古川琴音、横田真悠、三浦獠太、坂口涼太郎、皆川猿時、西田尚美、尾美としのり
●富貴晴美の劇伴、彩るショパンの名曲。連弾を含む奏者の力感も含め、とにかくピアノが素晴らしく支配しているにも関わらずエンディングはSixTONES。また鑑賞後に台湾映画のリメイクと知ってがっかりしたなどがあったとしても、エモさ青天井の展開に古川琴音の魅力が大爆発して最高だった。常に好きの理由は完璧な完成度などではない。
◎フェーム
2014.07.06 TOHOシネマズららぽーと横浜:シアター4 FAME [1200円/133分] ※再観賞
【84】1980年アメリカ 監督:アラン・パーカー 脚本:クリストファー・ゴア
CAST:アイリーン・キャラ、リー・キュレーリ、ローラ・ディーン、アントニア・フランチェスキ、ポール・マクレーン
●44年前に聴いたアイリーン・キャラの歌声。未だに耳に残っていた。そして鑑賞後に彼女が亡くなっていたことを知る。結局、若者がスターを目指す映画で誰一人大成しなかったことに感慨があったのは、結果的に『フェーム』がスタートではなく人生の一瞬の煌めきを活写したことに意義を見出すからだ。編集の手際の良さに改めて感心した。
◎お母さんが一緒
2014.07.13 川崎市アートセンター:アルテリオ映像館 [1100円/106分]
【85】2024年松竹ブロードキャスティング=クロックワークス 監督:橋口亮輔 脚本:ペヤンヌマキ、橋口亮輔
CAST:江口のり子、内田慈、古川琴音、青山フォール勝ち(ネルソンズ)
●突如現れた橋口亮輔の新作。もともと寡作だが9年ぶりのメガホンだという。もとより姉妹ものが大好きで橋口が現代版『細雪』よろしく切り込んでくれるのを期待したのだが、ホームドラマのひな型で進む。身内の遠慮のなさからバトルと化して楽しいが、テレビ的かつ舞台劇的すぎてどこか抑制しているようで橋口の資質でないと思った。
◎フェラーリ
2014.07.14 TOHOシネマズ日比谷:スクリーン9 FERRAR [1300円/132分]
【86】2023年アメリカ 監督:マイケル・マン 脚本:トロイ・ケネディ・マーティン
CAST:アダム・ドライバー、ペネロペ・クルス、シャイリーン・ウッドリー、パトリック・デンプシー、ガブリエル・レオーネ
●子飼のレーサーを死なせ、家庭は崩壊、愛人との息子の認知に渋りながら勝つことだけに邁進する。まったくクソ野郎ではあるのだが、老けメイクのアダム・ドライバーのルックの良さと「こういう生き方しか出来ない男」を描き続けたというマイケル・マンの演出で一種のハードボイルドに思えた。恰好良さを極める為の当然のリスクなのか。
◎ルックバック
2014.07.14 TOHOシネマズ上野:スクリーン5 [1700円/58分]
【87】2024年製作委員会=スタジオドリアン=エイベックス 監督:押山清高 脚本:押山清高
CAST:(声)河合優実、吉田美月喜
●原作を読んだときは普通に感心したが、この劇場アニメは理屈抜きで凄いと思った。いや理屈を突き詰めたところに『ルックバック』の何層にも広がる世界観がある。否定されること、肯定されること。我々世代は過去の成し得なかったことを俯瞰し悔しい思いに駆られるしかないのだが、その悔しさを藤野と京本には仮託出来そうな気がした。
◎シャイン
2014.07.15 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン4 SHINE [1200円/105分]
【88】1995年オーストラリア 監督:スコット・ヒックス 脚本:ジャン・サルディ
CAST:ジェフリー・ラッシュ、ノア・テイラー、アーミン・ミューラー=スタール、アレックス・ラファロヴィッツ
●映画観賞の穴の時期で見逃していた。主人公と理不尽な父親との葛藤よりもピアノの鍵盤の指の動きよりハンマーが跳ねて弦を叩く小気味さと、王立音学院の教室の窓に広がるロイヤルアルバートホールに感じるものがあった。素人にも明白な難曲ラフマニノフの迫真の演奏が白眉で、やはり音楽家の映画にバズレはないと確信した。
※1997年キネマ旬報ベストテン第4位
◎フライ・ミー・トゥ・ザ・ムーン
2014.07.23 TOHOシネマズ池袋:スクリーン8 FLY ME TO THE MOON [1300円/132分]
【89】2024年アメリカ 監督:グレッグ・バーランティ 脚本:ローズ・ギルロイ
CAST:スカーレット・ヨハンソン、チャニング・テイタム、ウディ・ハレルソン、ニック・ディレンブルク、アンナ・ガルシア
●月面着陸はフェイク映像だった!世代的に『カプリコン1』を想起するが、予告編がある時期よりコメディからサスペンスに変わったのは宣伝方針の転換か。実際はその中間をキープしつつ、どっち付かずになることなくエンタメを貫いたようだ。序盤から強調された黒ネコが上手くオチに使われて「なるほど」と思ったがそこまで乗れなかった。
◎ゴジラ対メカゴジラ
2014.07.24 国立映画アーカイブ長瀬記念館OZU [520円/84分]
【90】1974年東宝 監督:福田純 特技監督:中野昭慶 脚本:福田純、山浦弘靖
CAST:大門正明、青山一也、岸田森、睦五郎、田島令子、平田昭彦、小泉博、今福正雄、ベルベラ・リー、草野大悟
●主演の大門正明はともかく平田昭彦、岸田森、小泉博にちょい役の佐原健二と東宝特撮映画お馴染みの顔たちの安定感と福田純の演出のキレでそれなりに楽しめたものの、相変わらずゴジラのしょっぱいバトルと設定のチープさで旧シリーズ末期のどうしようもなさも感じた。キングシーサーを復活させる唄が普通の歌謡曲だったことに苦笑。
◎ゴジラ対ヘドラ
2014.07.25 国立映画アーカイブ長瀬記念館OZU [520円/84分]
【91】1971年東宝 監督:坂野義光 特技監督:中野昭慶 脚本:馬淵薫、坂野義光
CAST:山内明、木村俊恵、川瀬裕之、柴俊夫、麻理圭子、吉田義夫、鈴木治夫、勝部義夫、大前亘、中島春雄
●封切りから気にはなっていたのでなんと53年越しの初観賞だ。いや実に面白かった。全編の完成度の高さより公害問題へのどスレートなメッセージが70年代サイケ趣味と相俟って一種異様な雰囲気のまま映画は進行する。単純に文明を破壊し続けたゴジラがはっきりと意志をもって人類と日本人に怒りと警告の眼差しで踵を返すラストが印象的。
◎密 輸 1970
2014.07.28 イオンシネマ座間:スクリーン2 밀수 [1000円/129分]
【92】2023年韓国 監督:リュ・スンワン 脚本:リュ・スンワン、キム・ジョンヨン、チェメチャウォン
CAST:キム・ヘス、ヨム・ジョンア、チョ・インソン、パク・ジョンミン、キム・ジョンス、コ・ミンシ
●面白さという点で今年観た中で一番だ。懐かしい海女映画というジャンルにケイパーものにコンゲーム。かつてのプログラムピクチャーの痛快さをてんこ盛りし、それをこれでもかとブラッシュアップさせて怒涛の海洋アクションまで見せ切る。『モガディシュ』からさらにリュ・スンワンが娯楽を追及かる精神はもはや神々しさまで達したか。
◎ツイスターズ
2014.08.03 イオンシネマ座間:スクリーン8 TWISTERS [無料/122分]
【93】2024年アメリカ 監督:リー・アイザック・チョン 脚本:マーク・L・スミス
CAST:デイジー・エドガー=ジョーンズ、グレン・パウエル、アンソニー・ラモス、ブライドン・ペレア、サーシャ・レイン
●吹替えで観たものだから余裕から一転パニックとなる連続に探検アトラクションのわざとらしいナビゲーションが想起されたが、災害映画としての迫力は申し分なし。そこにヒューマニズムを加味してエンタメとして良く出来ていた。96年のヤン・デ・ボンのも好きだったが、当時とVFXの精度が格段と進歩してまさに劇場必見の1本となったか。
◎化け猫あんずちゃん
2014.08.04 109シネマズ湘南:シアター9 [1300円/94分]
【94】2024年製作委員会=シンエイ動画=フランス 監督:久野遥子、 山下敦弘 脚本:いまおかしんじ
CAST:(声)森山未來、五藤希愛、市川実和子、青木崇高、鈴木恵一、水澤紳吾、大谷育江、吉岡睦雄、澤部渡、宇野祥平
●今年の山下敦弘は異常な仕事量だが、なんでこんなアニメに名を連ねたのかというと原作のファンらしい。ただ実写をアニメーションに移すロトスコープなら海辺の田舎町の淡々とした日常をダラダラ描いて欲しかった。地獄巡りからのカーチェイスと冒険スペクタクルはサービス過剰で、そういうアニメは他で間に合っているのでは。
◎1999年の夏休み
2014.08.09 早稲田松竹 [1300円/90分]
【95】1988年ニューセンチュリープロデューサーズ 監督:金子修介 脚本:岸田理生
CAST:宮島依里、大寶智子、中野みゆき、水原里絵(深津絵里)、高山みなみ、佐々木望、村田博美
●過去完了の体で十年後の近未来を描く。しかし36年前の作品。夏休みに学校に残った4人の少年たちの愛と葛藤。BLだが演じるのは少女たち。ファンタジーだが内なるフェチズムが刺激される瞬間にドキッとさせられデカダンはさらに加速し、人生で一度だけの夏が愛おしくてたまらなくなった。金子修介、怖いくらいの怪作にして傑作。
◎新米記者トロッ子 私がやらねば誰がやる!
2014.08.10 テアトル新宿 [1300円/98分]
【96】2024年東映ビデオ=レオーネ 監督:小林啓一 脚本:大野大輔
CAST:藤吉夏鈴、髙石あかり、久間田琳加、高嶋政宏、中井友望、綱啓永、外原寧々、ゆうたろう、筧美和子、石倉三郎
●相変わらず井上啓一作品は面白い。この新作も大好きだ。声高にメッセージを発するが内容はいつもの学園アイドルもので他愛なくもある。高校生たちの微妙な感性を刻んで見せているというより、エンタメへの振り切り方がとにかく潔いのでキャストがみんな楽しそうに演じている。その「楽しい」が観客に伝播して幸せな気分になれるのか。
◎マッドマックス
2024.08.12 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 MADMAX [1200円/93分] ※再観賞
【97】1979年オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:ジェームズ・マッカウスランド、ジョージ・ミラー
CAST:メル・ギブソン、ヒュー・キース・バーン、ジョアン・サミュエル、スティーヴ・ビズレー、ティム・バーンズ
●「傑作、スピードのもつ恐怖感をここまで映し得た作品はかつてなかった」と、19歳の私は書き残している。44年経ってもそのヤバさは1ミリも変わっていない。もはや記念碑だが、低予算インディペンデントの荒廃した画面そのものがバイオレンスの雄叫びをあげ改めて震撼した。トーカッターがイモータン・ジョーだったことは初めて知った。
◎マッドマックス2
2024.08.17 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 MADMAX2 [1200円/95分] ※再観賞
【98】1981年オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:テリー・ヘイズ、ジョージ・ミラー
CAST:メル・ギブソン、ブルース・スペンス、ヴァーノン・ウェルズ、エミル・ミンティ、ケル・ニルソン、マイケル・プレストン
●前作がアクション映画のクーデターなら、これは革命だった。少年が長老となり記憶の中で生きるマックス。最後のモノローグに映画がもたらした偉大な伝説と重なり涙が出る。その革命を更に上書きした『怒りのデスロード』がまた観たくなるが、それも10年近くが経つ。この40年『マッドマックス』は私の映画観賞の通奏低音のひとつだ。
◎モンキーマン
2024.08.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 MONKEY MAN [1300円/121分]
【99】2024年アメリカ=カナダ=シンガポール=インド 監督:デヴ・パテル 脚本:D・パテル、P・アングナウェラ、J・コリー
CAST:デヴ・パテル、シャールト・コプリー、ソビタ・ドゥリパラ、ピトバッシュ、ヴィピン・シャルマ、シカンダル・ケール
●どんな熱いアクションが観られるかと期待したが、製作・監督・脚本・主演をこなしたパテルの“アクション俳優”としの線の細さと惹きの弱さを補うためか、常に手持ちカメラが動き回るうえ矢継ぎ早のカット割りで肝心のバトルの迫力がまったく伝わらなかった。テーマ的にカタルシスに特化した映画ではないにしてもかなりガッカリした。
◎ラストマイル
2024.08.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 [1300円/129分]
【100】2024年TBSスパークル=東宝 監督:塚原あゆ子 脚本:野木亜紀子
CAST:満島ひかり、岡田将生、ディーン・フジオカ、大倉孝二、酒向芳、宇野祥平、安藤玉恵、火野正平、阿部サダヲ、綾野剛
●いかにもテレビ局製作らしい喧しい雰囲気の中で満島ひかり目当てに観に行った。監督、脚本の彼女たちのことはまったく無知だったがエンタメとしてのサスペンスの盛り上げは確かで、そこに物流業界の社会矛盾を絡ませる辺りは見事。映画オリジナルなのも素晴らしく予想外に面白かった。もちろん満島ひかりの存在感もGood!だ。
◎箱 男
2024.08.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [1300円/120分]
【101】2024年ハピネットファントム=コギトワークス 監督:石井岳龍 脚本:いながききよたか、石井岳龍
CAST:永瀬正敏、浅野忠信、白本彩奈、佐藤浩市、渋川清彦、中村優子、川瀬陽太、宮本和武、柳英里沙、橋野純平、中島歩
●段ボール箱に籠って存在を消し、その穴から時代を監視する。これを50年前に書いた安部公房の慧眼に驚くが、挫折を重ねながら執念で映画化に漕ぎつけた石井岳龍と無防備な私との温度差はどうしようもなく埋まらない。考えてみるとずっと昔から石井岳龍とはそんなことを繰り返している。いつか折り合える日はきっと来ると思いたい。
◎フォールガイ
2024.08.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 THE FALL GUY [1300円/127分]
【102】2024年アメリカ 監督:デヴィッド・リーチ 脚本:ドリュー・ピアース
CAST:ライアン・ゴズリング、エミリー・ブラント、アーロン・テイラー=ジョンソン、ウィンストン・デューク
●突っ込みどころは色々ある。コルトがあんなに格闘に長けていたのかとか、最後のスタントを仕掛けた撮影隊があんなにチームワークが良かったか?など。あくまでも撮影現場のバックステージもの貫くべきで、メインとなったドラマが添え物のように思えたのも確か。ただ全編に迸るスタントマン愛への熱情は絶対に賞賛されるべきだ。
◎デューン/砂の惑星 PART2
2024.08.30早稲田松竹 DUNE: PART TWO [1000円/166分]
【103】2024年アメリカ 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本:ドゥニ・ヴィルヌーヴ、ジョン・スペイツ、クレイグ・メイジン
CAST:ティモシー・シャラメ、ゼンデイヤ、レベッカ・ファーガソン、ジョシュ・ブローリン、オースティン・バトラー
●面白かった。正直、巨大な物語の雰囲気だけで話が進まない前作はやたら眠かった。さらに砂漠の描写が助長していたが、PART2となってテンポが一気に加速し、ポールの成長譚が推進力となり前のめりに観た。さらに悪童フェイドの登場で背景の大きさより二人の対決に凝縮し、そこにチァニの恋心と葛藤が物語の単調さを見事に補っている。
◎ソウルの春
2024.08.31イオンシネマ座間 서울의 봄 [1000円/142分]
【104】2023年韓国 監督:キム・ソンス 脚本:ホン・ウォンチャン、イ・ヨンジュン、キム・ソンス
CAST:チョン・ウソン、ファン・ジョンミン、イ・ソンミン、パク・ヘジュン、キム・ソンギュン、チョン・マンシク
●観終わった直後の感想は笠原和夫が描いた「人間喜劇」だった。もちろん軍のクーデターが成功裏に終わる実録なので広島ヤクザの抗争劇とはスケールが違うが、とにかく全斗煥すら魅力的に思えたのは作品の力だ。途中のお涙頂戴は気になったが、韓国近代史の局面を体感しつつも、徹底したエンタメ志向への発出という点で文句のない一作。
◎侍タイムスリッパー
2024.09.06 池袋シネマ・ロサ1 [1200円/120分]
【105】2024年未来映画社 監督:安田淳一 脚本:安田淳一
CAST:山口馬木也、冨家ノリマサ、沙倉ゆうの、峰蘭太郎、庄野崎謙、紅萬子、福田善晴、井上肇、安藤彰則、田村ツトム
●シネマ・ロサ発のインディ・ムーブメントとして『カメ止め』の再来と話題だが、幕末の侍がタイムスリップする話に新味が感じられず、どうかな?と思ったものの滅法面白かった。時代劇と京都撮影所への愛が半端ではなく、笑わせ泣かせ手に汗握らせ上映後は拍手まで出た。映画を観ることの至福を喚起させた熱量に「ありがとう」の一言を。
◎ルックバック
2024.09.09 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1700円/58分] ※再観賞
【106】2024年製作委員会=スタジオドリアン=エイベックス 監督:押山清高 脚本:押山清高
CAST:(声)河合優実、吉田美月喜
●前回は原作を思い出しながらアニメで更にアップデートした世界観を堪能した。今回は映画のテクニカルな部分に注視した。それはラジオで監督の押山清高と“巨匠”アニメーター・井上俊之の静かに熱いインビューを聴き、いかに才能が火花を散らせていたことを知ればそうならざるを得ない。藤野の語らぬ背中に今年最重要の一作と確信。
◎花様年華
2024.09.12 池袋グランドシネマサンシャイン:シアター9 花樣年華 [1300円/98分]
【107】2000年香港 監督:ウォン・カーウァイ 脚本:ウォン・カーウァイ
CAST:トニー・レオン、マギー・チャン、レベッカ・パン、ライ・チン、スー・ピンラン
●確かにウォン・カーウァイのムーブメントはあったし、それが世界規模だったことも知っている。なにより「午前十時の映画祭」を夜に上映してくれたのは有難かった。しかし良く言えば「スタイリッシュ」、でも結局「雰囲気だけ」。トニー・レオンはカッコいいしマギー・チャンは美しい。しかし陶酔以上に眠気がぐわっと押し寄せて困った。
※2001年キネマ旬報ベストテン第2位
◎スオミの話をしよう
2024.09.13 TOHOシネマズ新宿:スクリーン9 [無料/120分]
【108】2024年フジテレビ=東宝 監督:三谷幸喜 脚本:三谷幸喜
CAST:長澤まさみ、西島秀俊、松坂桃李、瀬戸康史、遠藤憲一、小林隆、坂東彌十郎、戸塚純貴、阿南健治、宮澤エマ
●公開初日。クスリともさせず上映が終わってしまった。コメディとしてミステリーとしても破綻を重ね、あえて小劇場のクサ味芝居を貫いたのかもしれないが、果たしてサンシャイン劇場やパルコ劇場で上演すれば面白い舞台になったのか。三谷映画は『ラヂオの時間』以外は残念で、そろそろ映画監督は他人に任せてホンに徹するべきだ。
◎男たちの挽歌
1986.09.21 TOHOシネマズ新宿:スクリーン9 英雄本色 [1200円/95分] ※再観賞
【109】1986年香港 監督:ジョン・ウー 脚本:ジョン・ウー
CAST:ティ・ロン、チョウ・ユンファ、レスリー・チャン、エミリー・チュウ、レイ・チーホン、ケネス・ツァン、ジョン・ウー
●監督も出演者も香港ノワールも知らなかった初見時の印象は芳しいものではなかった。37年経ちスター映画と化した本作と再会。極端な湿気と乾燥と過剰な銃撃戦、鳴り止まない劇伴のどれもが愛おしく、ホウ兄さんもキッドもマークもジョン・ウー過剰演出の中でカッコよくエネルギーを画面に叩きつけ、終始、口元が緩むのを禁じ得なかった。
◎憐れみの3章
1986.09.28 イオンシネマ座間:スクリーン7 KINDS OF KINDNESS [1000円/164分]
【110】1986年アイルランド=イギリス 監督:ヨルゴス・ランティモス 脚本:ヨルゴス・ランティモス、エフティミス・フィリップ
CAST:エマ・ストーン、ジェシー・プレモンス、ウィレム・デフォー、マーガレット・クアリー、ホン・チャウ
●これがヨルゴス・ランティモスの本質って奴なのか。不条理、理不尽が混濁するまったくもって変な映画で半ば困惑しながらの観賞だった。しかし上映時間が162分であることを知ってさらに驚く。体感時間は90分程度だったからだ。我ながら困惑しながらも不可思議な物語に集中していたのだ。『哀れなるものたち』の再見は叶うのだろうか。
◎ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ
2024.09.28 イオンシネマ座間 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1000円/112分]
【111】2024年製作委員会=渋谷プロ 監督:阪元裕吾 アクション監督:園村健介 脚本:阪元裕吾
CAST:高石あかり、伊澤彩織、池松壮亮、前田敦子、水石亜飛夢、中井友望、飛永翼、大谷主水、かいばしら
●過酷な殺しの現場にちさととまひろが帰ってきた。今、間違いなく和製アクション映画の磁場はここにある。実は前作で早くもマンネリを感じないこともなかったが、今回は高石あかりも頑張った。そして稀有な身体能力を見せつけた池松壮亮。ビニールハウスでの大量殺戮は屈指の名場面だ。そうなるとマンネリだろうが次を期待したくなる。
◎スターリングラード
1986.09.29 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 ENEMY AT THE GATES [1200円/132分]
【112】2001年アメリカ=ドイツ=アイルランド=イギリス 監督・脚本:ジャン・ジャック・アノー 脚本:アラン・ゴダール他
CAST:ジュード・ロウ、ジョセフ・ファインズ、エド・ハリス、レイチェル・ワイズ、ボブ・ホスキンス、ロン・パールマン
●ドイツとソ連の戦争を描きながら全ての台詞は英語。「午前十時の映画祭」でやるほどの映画か?と高を括っていたら最後まで面白く観た。スターリングラードの攻防戦を戦史よりロシア青年とドイツ軍少佐のスナイパー対決でサスペンスに振り切ったのが良かった。まったくナチスには見えないもののエド・ハリスの安定感には唸らせる。
◎ぼくのお日さま
2024.10.04 テアトル新宿 [1300円/90分]
【113】2024年東京テアトル=朝日新聞 監督:奥山大史 脚本:奥山大史
CAST:越山敬達、中西希亜良、池松壮亮、若葉竜也、山田真歩、潤浩
●吃音のタクヤがスケートの才能のあるさくらに恋をする。しかしその恋は少女に大人を見てしまった淡い途惑いでもある。ドビュッシーに合わせアイスダンスを反復する二人に忘れていた記憶が甦ってくる一方で、コーチの荒川には厳しい結末が待っている。少年期の甘酸っぱさと大人が直面する現実が田園風景に溶けて胸が締めつけられた。
◎Claud クラウド
2024.10.05 TOHOシネマズ日比谷:スクリーン11 [1300円/123分]
【114】2024年日活=東京テアトル 監督:黒沢清 脚本:黒沢清
CAST:菅田将暉、窪田正孝、古川琴音、奥平大兼、岡山天音、荒川良々、赤堀雅秋、吉岡睦雄、三河悠冴、山田真歩
●小ワルな転バイヤーの青年が激しい殺意に追いつめられていく恐怖を描く。作劇的に新味はなく、SNSで結集した匿名の襲撃者たちも既視感だらけ。共感度の薄い主人公が思わぬ逆襲を遂げるのも都合が良すぎて鼻白んでしまう。しかし評論家のウケの良さに黒沢清の人気の程が窺えるとなると「一体何なのか?」と腑に落ちない観賞となった。
◎シビル・ウォー アメリカ最後の日
2024.10.06 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン1 CIVIL WAR [無料/109分]
【115】2023年アメリカ 監督:アレックス・ガーランド 脚本:アレックス・ガーランド
CAST:キルステン・ダンスト、ワグネル・モウラ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ジェシー・プレモンス
●緊張感に固唾を呑み一気に観た。合衆国が何故内戦に至ったのかポリティカルな段階を省略し、戦闘とそれを活写するカメラマンの地獄めぐりをロードムービーとして、何より映画として素晴らしい。戦場と化したホワイトハウス。一方分断に関わらないと決めた市民にも惨禍が忍び寄る恐怖。戦場が変えていく人間心理。傑作といっておく。
◎若き見知らぬ者たち
2024.10.14 イオンシネマ座間:スクリーン2 [1000円/119分]
【116】2024年Film Partners=クロックワークス=韓国=香港 監督:内山拓也 脚本:内山拓也
CAST:磯村勇斗、福山翔大、岸井ゆきの、霧島れいか、染谷将太、伊島空、長井短、東龍之介、松田航輝、ファビオ・ハラダ
●『佐々木、イン、マイマイン』で垣間見せた闇を内山拓也は全編に拡大させたか。とことん救われない映画で、オクタゴンの金網での栄光など一切救いになっていない。しかし私も映画に救いを求めているわけではない。表現されたものをありのまま受け取るまで。見知らぬ若者がかくも悲惨な人生を終える姿を「時代」と割り切りたくはないが。
◎ナミビアの砂漠
2024.10.16 新宿シネマカリテ [1200円/137分]
【117】2024年製作委員会=ハピネットファントム 監督:山中瑶子 脚本:山中瑶子
CAST:河合優実、金子大地、寛一郎、新谷ゆづみ、中島歩、唐田えりか、渋谷采郁、澁谷麻美、堀部圭亮、渡辺真起子
●女性映画としての好みからすれば「否」だ。この女性像を認めてしまうと私が長年スクリーンで愛してきたヒロインたちが否定されてしまう。とにかくこのカナという女性の存在の強さには面食う。もはや男としての体面を剥ぎ取られていくハヤシとホンダに共感すら出来ない。こんなヒロインを演じた河合優実の独壇場の映画ではあるが。
◎プライベート・ライアン
1986.10.20 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 SAVING PRIVATE RYAN [1200円/170分]
【118】1998年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:ロバート・ロダット
CAST:トム・ハンクス、マット・デイモン、トム・サイズモア、バリー・ペッパー、ヴィン・ディーゼル、ジェレミー・デイヴィス
●予告編で内容が知れて劇場に行く気が失せ、その後にビデオで観たのだったか。そして改めてこの機会に劇場で観て正解だと思った。とにかくスピルバーグは「映画が上手い」。戦場の残虐さを没入感満点で描きながらも友情や連帯で泣かせるところは泣かせ、緊張と緩和を操って戦争エンターティメントを成立させている。今更ながら流石だ。
※1998年キネマ旬報ベストテン第2位
◎十一人の賊軍
2024.11.03 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1100円/155分]
【119】2024年製作委員会=東映 監督:白石和彌 原案:笠原和夫 脚本:池上純哉
CAST:山田孝之、仲野太賀、尾上右近、鞘師里保、佐久本宝、千原せいじ、岡山天音、野村周平、音尾琢真、阿部サダヲ
●笠原和夫の原案で「東映集団時代劇」を再現。白石演出が渾身の熱量を注いだのは間違いなく、「賊軍」たちの破れかぶれの奮戦や官軍・新発田藩・長岡藩の三すくみの謀り合いも良し。とりわけ山田と仲野の熱演は素晴らしい。ただ爆破や破壊の見せ場ありきの展開となり、砦の攻戦のスリルがどうも伝わってこない。まず155分は長すぎる。
◎スカーフェイス
1983.11.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 CIVIL WAR [1200円/170分] ※再観賞
【120】1983年アメリカ 監督:ブライアン・デ・パルマ 脚本:オリバー・ストーン
CAST:アル・パチーノ、スティーヴン・バウアー、ミシェル・ファイファー、メアリー・E・マストラントニオ
●少数派だろうがデ・パルマの最高傑作だと思っていて、40年ぶりの再会でも揺らぐことはない。脚本がオリバー・ストーンだったと今朝知ったが、体臭ムンムンのパチーノの暴れっぷりが最高で、反社会主義だのアメリカンドリームだのの能書き以前にこんな生き方しか出来ない成り上がりコカイン野郎の壮絶な自滅を170分たっぷりと堪能した。
◎八犬伝
2024.11.04 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1000円/149分]
【121】2024年フィルムパートナーズ=木下グループ=キノフィルム 監督:曽利文彦 脚本:曽利文彦
CAST:役所広司、内野聖陽、寺島しのぶ、黒木華、立川談春、土屋太鳳、渡邊圭祐、栗山千明、河合優実、磯村勇斗
●滝沢馬琴の半生と戯作『八犬伝』の物語を交互に描写することで自然「虚と実」が炙り出され、馬琴と鶴屋南北の会話でテーマが深堀りされる。「実」の馬琴のパートも葛飾北斎とのやり取りなど山田風太郎原作の「虚」。そして勧善懲悪の是非。幾重にも重なるレイヤーを想像し結構楽しい。虚実がないまぜになるから映画は面白いのだ。
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