◆三行の映画評

 三行の映画評

映画クレヨンしんちゃん/雲黒斎の野望
2023.05.21 新文芸坐 [1100/116分]
【87】1995年シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日 監督:本郷みつる 演出:原恵一 脚本:原恵一
CAST:(声)矢島晶子、浦和めぐみ、真柴摩利、富山敬、ならはしみき、藤原啓治、佐久間レイ、加藤精三、玄田哲章
●アニメ映画における監督と演出の役割がわからないまま、戦国時代にタイムスリップしたしんちゃんのドタバタを楽しんだが、名作『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の原点を探し過ぎたようだ。現代に戻ってからのロボット対決はつまらない。それでもひろしとみさえ夫婦としんちゃんの絆がそこはかとなく漂うシリーズならではの魅力はある。


風 花
2023.05.21 新文芸坐 [無料/116分]
【86】2000年ビーワイルド=テレビ朝日=TOKYO FM=シネカノン 監督:相米慎二 脚本:森らいみ
CAST:小泉今日子、浅野忠信、麻生久美子、香山美子、柄本明、尾美としのり、小日向文世、鶴見辰吾、高橋長英、綾田俊樹
●互いを拒絶する風俗嬢と挫折キャリア官僚。ロードムービーという体裁で行き場を失った同士の冷めた道中の行方が気になったが、自殺未遂をきっかけに認め合う展開に意外性はなく、線香花火の道具立ても平板と思った。しかし主役二人の画面持ちの良さがなんとも心地いい。享年53歳。日本映画に爪痕を残した映画作家の遺作となった。
※2000年キネマ旬報ベストテン第5位


あ、春
2023.05.21 新文芸坐 [ 〃 /100分]
【85】1998年トラム=松竹=衛星劇場 監督:相米慎二 脚本:中島丈晴
CAST:佐藤浩市、山崎努、斉藤由貴、藤村志保、富司純子、余貴美子、三林京子、村田雄浩、原知佐子、三浦友和
●そういえば葬儀で始まり散骨で終わる映画だ。それでもほのぼのしたテイストで、まるで昔のTBS「日曜劇場」を想起させる。展開も至極真っ当だ。しかしテレビではなく“映画の芝居”を意図した適材適所に配置された演者たちによって好きな世界観が出来上がっている。相米の円熟味なのか。ひよこでオチがつくエンディングも悪くない。
※1993年キネマ旬報ベストテン第1位


最後まで行く
2023.05.20 109シネマズグランベリーパーク:シアター3 [1200円/118分]
【84】2023年日活=WOWOW=ROBOT 監督:藤井道人 脚本:平田研也、藤井道人
CAST:岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、山中崇、黒羽麻璃央、清水くるみ、杉本哲太、柄本明
●予告編を観た限り、気合の入った倒叙サスペンスの印象だったが、気合の入ったドタバタ劇だった。でも面白れー。先に封切られた「安い・温い・緩い」映画とは一線を画す藤井道人の重さが功を奏した。しかも岡田准一と綾野剛の必死の顔芸が度を越し過ぎて笑える。韓国映画のリメイクなのは残念だったが、エンタメとして申し分なし。


お引越し
2023.05.20 新文芸坐 [1100円/124分]
【83】1993年読売テレビ=アルゴ=ヘラルド 監督:相米慎二 脚本:奥寺佐渡子、小此木聡
CAST:田畑智子、中井貴一、桜田淳子、田中太郎、茂山逸平、須藤真里子、笑福亭鶴瓶、青木秋美、森秀人、千原しのぶ
●1万本もの映画ソフトに囲まれながら90年代の映画観賞は穴だらけで、この時期の相米は最重要の欠けたピースだ。ただ少女の自我の目覚めを描くため琵琶湖畔を延々と歩かせたのは演者に負荷をかけ続けたイメージと相俟ってしんどかった。映画の物語性を作家性が蹂躙していく面白さはあるが、それ以上に公開当時の評価の高さに途惑う。
※1993年キネマ旬報ベストテン第2位


光る女
2023.05.16 新文芸坐 [無料/118分]
【82】1987年ディレクターズ・カンパニー=大映=東宝 監督:相米慎二 脚本:田中陽造
CAST:武藤敬司、秋吉満ちる、すまけい、安田成美、出門英、中原ひとみ、伊達三郎、柴田理恵、ブライアン・アダムス
●初見だがこの映画のことは良く知っていた。武藤のはち切れん若さが眩しい。相米の不細工なサイケ趣味はプロレスファンの総スカンを食ったし、デレカンをジリ貧に追い込んだ罪もあるものの、冒頭のゴミ集積場での野生児とオペラ歌手のロングショットは特筆すべき。ただ単純な上京物語にしてしまったのが最後まで腑に落ちなかった。
※1987年キネマ旬報ベストテン第9位


魚影の群れ
2023.05.15 新文芸坐 [1100円/135分]
【81】1983年松竹富士=松竹 監督:相米慎二 脚本:田中陽造
CAST:緒形拳、夏目雅子、佐藤浩市、十朱幸代、矢崎滋、レオナルド熊、石倉三郎、下川辰平、三遊亭円楽、工藤栄一
●相米慎二・二十三回忌上映。もうそんな歳月が流れたかと感慨も束の間、細い一本のテグスに賭けたマグロ漁師の痛々しい息遣いに目を瞠る。相米の代名詞であるロングショットの長回しと大間の海原の対比。雨の中の追っ駆けっこ。大変な撮影現場だったことも想像に難くなく、役者も含め、作り手たちの執念で見せ切る映画に違いない。
※1983年キネマ旬報ベストテン第7位


TAR/ター
2023.05.14 イオンシネマ座間:スクリーン5 TÀR [無料/159分]
【80】2022年アメリカ 監督: トッド・フィールド 脚本:トッド・フィールド
CAST:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、マーク・ストロング、ジュリアン・グローヴァ―、ノエミ・メルラン
●映画は間違いなく一級品。しかし重い静けさからの喧騒の繰り返しに緊張感が高まる一方で、マーラーやエルガーの調べに身を委ねることは許されない。相応の負荷を与えられた挙句にターとともに天から地へ叩きつけられ、彼女を受け入れるべきか否かに迷いながらくたくたに消耗してしまう。ケイトの演技を賞賛だけしていれば楽だったか。


MEMORY メモリー
2023.05.14 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン9 MEMORY [1100円/114分]
【79】2022年アメリカ 監督: マーティン・キャンベル 脚本:ダリオ・スカーダペイン
CAST:リーアム・ニーソン、ガイ・ピアース、モニカ・ベルッチ、タジ・アトウォル、レイ・フィアロン、ハロルド・トレス
●リーアム・ニーソン70歳。アクション映画の牙城を守るための孤軍奮闘を先ず讃えねばなるまい。それがたとえ認知症に直面する老殺し屋だったとしてもだ。本来なら国境の町エル・パソは極限の社会問題を孕んでいるのだろうが、ニーソン主演の犯罪アクションというジャンルの大枠に収まっている。それが正解でもあり物足りなさでもある。


マルサの女
2023.05.14 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/127分] ※再観賞
【78】1987年伊丹プロ=N.C.P 監督:伊丹十三 脚本:伊丹十三
CAST:宮本信子、山崎努、津川雅彦、岡田茉莉子、芦田伸介、小林桂樹、大地康夫、伊東四朗、大滝秀治、志水季里子
●本多俊之の軽快なテーマに乗せ改めて熟成したエンタメ作品であることを再認識。36年経ってまったく古びていないどころかジャンル映画としての要素のすべてを網羅し、そのガワだけで127分間持って行かれる。琴線に訴えて心に残る映画ではないとしても、例えば山崎努と津川雅彦が対峙する場面のチャーミングな色気に多幸感すら覚えた。
※1987年キネマ旬報ベストテン第1位


宵闇せまれば
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [520円/44分]
【77】1969年プロダクション断層=ATG 監督:実相寺昭雄 脚本:大島渚
CAST:三留由美子、斎藤憐、清水紘治、樋浦勉
●閉め切った部屋でガス栓を抜いて誰が最後まで残れるかという馬鹿どもの遊戯だが、映画初監督となる実相寺昭雄の密室劇の見せ方、緊張感の保ち方が巧い。若者たちが饒舌だった時代もあるだろうが大島渚のサスペンスの勘どころを抑えた脚本も見事。ただ最後のヒロインのアップに「君恋し」のバイオリンアレンジが喧し過ぎたのが不愉快。


新宿泥棒日記
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [ 〃 /97分]
【76】1969年創造社=ATG 監督:大島渚 脚本:田村孟、佐々木守、足立正生、大島渚
CAST:横尾忠則、横山リエ、唐十郎、田辺茂一、渡辺文雄、佐藤慶、戸浦六宏、小松方正、李礼仙、四谷シモン、麿赤兒
●まさに騒乱事件の新宿。サブカルなる言葉があったかどうか不明だが、60年代末期の新宿アンダーグランドを大島らしく政治とセックスと暴力をコラージュして描出する。赤テントの中で大熱演の横尾忠則。少年のような唐十郎、粋人ぶりを発揮する田辺茂一。実名登場の創造社のメンバー。その場に居たかったような居なくて良かったような。
※1968年キネマ旬報ベストテン第8位


東京战争戦後秘話
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [520円/94分]
【75】1970年創造社=ATG 監督:大島渚 脚本:佐々木守、原将人
CAST:後藤和夫、岩崎恵美子、福岡杉夫、大島ともよ、福田健一、磯貝浩、橋本和夫、堀越一哉、白石奈緒美、吉野憲司
●かつて松田政男が唱えた「風景論」。その基盤となった大島渚作品をようやく観て、ここに反権力思想を見出すことの苦しさを味わう。そもそも当時の若者たちの「俺達の闘争」の雄叫びに鼻白むのは、彼らこそブルジュアだったと思うからだ。そして褒章を受勲した大島の反権力映画が時を経て国の施設で上映されている現実。笑ってしまう。


オマージュ
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 오마주 [無料/108分]
【74】2021年韓国 監督:シン・スウォン 脚本:シン・スウォン
CAST:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン、キム・ホジョン
●間違いなくベスト候補。コロナ禍を経て映画愛を描く映画は世界的な潮流だが、ここまでリスペクトに溢れた作品があったろうか。そしてこれも韓国映画の潮流である「女性の居場所探し」。主婦でありながら女性監督のジワンが更年期に悩むうんざりした日常からフィルムを探す旅に私も同行する。その旅の素晴らしかったことに感謝。


コンペティション
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 COMPETENCIA OFICIAL [1000円/114分]
【73】2021年スペイン=アルゼンチン 監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン 脚本:アンドレス・ドゥプラット
CAST:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス、ホセ・ルイス・ゴメス、イレーネ・エスコラル
●バックステージものではあるが役者三人の演技合戦が映画の本筋とリハーサル場面とがメタ構造となる脚本で見応え十分。人気者バンデラスと実力派マルティネスを上から支配するペネロペちゃんが痛快だ。映画は芸術か娯楽か?所詮は大資本家の売名の道具なのか?と問いながら物語は斜め上へと転がっていく。作劇が巧妙過ぎる一篇だ。


メグレと若い女の死
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 MAIGRET [1000円/89分]
【72】2022年フランス 監督:パトリス・ルコント 脚本:パトリス・ルコント、ジェローム・トネール
CAST:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィル
●武蔵野館でポスターを見たときから期待していた割にはメグレ警視が名優ドパルデューで、監督がP・ルコントだったことを今知った。マルセル・カルネがギャバンで映画化した50年代フランスのソフィスティケートされた犯罪ドラマの雰囲気を再現して見せるのが狙いで、ガチなパズラーではない。物足りないとする評価もあるが私は面白く観た。


Winny
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/127分]
【71】2023年KDDI=ナカチカ 監督:松本優作 脚本:松本優作
CAST:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、木竜麻生、金子大地、渋川清彦、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆
●Winnyで映画コンテンツが好き勝手にダウンロードされている現場に居合わせた時、絶対アウトだと思った。開発者の金子氏がそのことに無頓着だったことの責任は大きい。ただ愛媛県警の巡査部長の告発と併せ警察の隠蔽工作を社会悪と見定めつつ、多少ぎこちなさげでもエンタメに仕上げた意欲は日本映画として評価されるべきだろう。


ワース 命の値段
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 WORTH [1000円/117分]
【70】2019年アメリカ 監督:サラ・コランジェロ 脚本:マックス・ボレンスタイン
CAST:マイケル・キートン、スタンリー・トゥッチ、エイミー・ライアン、テイト・ドノヴァン、タリア・バルサム
●人間の命は平等であるのは大前提だが、例えば独り身の初老と家族を養う大黒柱の命が同じで公平といえるのか。とかく平等と公平は厄介で、まして9.11テロの国家賠償となると様々な矛盾が生じ、主人公はその算出方法で苦悩する。ただ「真摯に被害者と向き合う」というある種真っ当な落し所に到達するのが性急すぎるのは残念だった。


Village ヴィレッジ
2023.05.04 109シネマズグランベリーパーク [1200円/120分]
【69】2023年KADOKAWA=スターサンズ 監督:藤井道人 脚本:藤井道人
CAST:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太
●のっけから薪能の調べに焼身自殺の劇伴を被せる演出が不快。能をじっくり見せる胆力がないのか、外面の雰囲気作りでしかないのか。ご案内丸出しのガヤも2時間ドラマの安さだ。人物がアイコンで単純化され全体が温い。作劇も緩い。せっかく原作ものの呪縛がないにも関わらず、かの藤井道人が「安い・温い・緩い」を撮ってしまった。無念。


ブギーナイツ
1997.05.03 新文芸坐 BOOGIE NIGHTS [1100円/155分]
【68】2022年アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
CAST:マーク・ウォルバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア、ヘザー・グラハム、ジョン・C・ライリー
●ポール・T・アンダーソンは好きだが、これを観ずしてどうする?という作品をやっと文芸坐で掴まえた。70~80sのアメリカポルノ業界の内幕もので主人公含め登場人物たちは全員バカのようでいて、巨乳と巨根こそ最高の名の下にそれぞれ実に正直に行動しそれぞれ正直に時代に翻弄されていく。それが曼荼羅模様となった155分。見応え十分。
※1998年キネマ旬報ベストテン第10位


せかいのおきく
2023.05.03 テアトル新宿 [1200円/89分]
【67】2023年東京テアトル=U-NEXT=リトルモア 監督:阪本順治 脚本:阪本順治
CAST:黒木華、寛一郎、池松壮亮、佐藤浩市、眞木蔵人、石橋蓮司
●席を立ってロビーに出るまでニヤニヤしてしまうのはお気に入りの映画に出会った時の自然現象だ。この映画には台詞ではない言語がある。小さな人間の喜怒哀楽が自然や経済の循環の中で“世界”を形成していく。それが妙に可笑しい。阪本順治の長いキャリアのすべてを観ているわけではないが、うんこの話ながら撮影・美術の瑞々しさに唸る。


ザ・ホエール
2023.04.23 109シネマズグランベリーパーク:シアター4 THE WHALE [1200円/117分]
【66】2022年アメリカ 監督:ダーレン・アロノフスキー 脚本:サミュエル・D・ハンター
CAST:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
●皆それぞれ救いを求めている。それでも “神”には懐疑的だ。恋人を失って過食を繰り返し270キロの巨体を横たえる“エイハブ船長”は滑稽で悲しいが、娘との和解にささやかな光を得ようとしても彼女は鳥の皿を割ることでしか関係を保てない。何とかならないかと思いつつ、我々は所詮ピザ配達人のダンに過ぎない。その切実さが胸を突く。


ジュラシック・パークⅢ
2023.04.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 JURASSIC PARKⅢ [1200円/129分]
【65】2001年アメリカ 監督:ジョー・ジョンストン 脚本:ピーター・バックマン、A・ペイン、ジム・テイラー
CAST:サム・ニール、ウィリアム・H・メイシー、ティア・レオーニ、アレッサンドロ・ニヴォラ、トレヴァー・モーガン
●3週通しだと観ている間は楽しいが、さすがに飽和感は否めないばかりか早くも各場面が錯綜し混濁している。ある種母性をテーマにしていたのはわかるが、その分、恐竜たちの擬人化も強調されてしまったのはどうなんだ。T-REXは獰猛に捕食のみに突進して欲しかった。ジョン・ウィリアムズのオリジナルスコアの偉大さだけはしっかり残った。


ノック 終末の訪問者
2023.04.16 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 KNOCK AT THE CABIN [1200円/100分]
【64】2023年アメリカ 監督:M・ナイト・シャラマン 脚本:M・N・シャラマン、スティーヴ・デスモンド、M・シャーマン
CAST: デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリント
●もはやシャラマン節ともいえる不条理な謎展開は決して嫌いではないが、突然、提示されるレギュレーションに従いながらの観賞は途中から風呂敷の畳み方が心配になってくるのもいつも通り。ただ凡百の闖入者監禁ものと毛色の違う密室劇に見応えがあり、演者たちの熱演もあって演出の切れ味は流石だ。決して腑に落ちたわけではないが。


名探偵コナン/黒鉄の魚影<サブマリン>
2023.04.15 イオンシネマ座間:スクリーン10 [無料/109分]
【63】2023年小学館=読売テレビ=トムス=東宝 監督:立川譲 脚本:櫻井武晴
CAST:(声)高山みなみ、林原めぐみ、山崎和佳奈、小山力也、堀之紀、古谷徹、池田秀一、小山茉美、立木文彦、沢村一樹
●今年の「コナン」はシリーズ中でもベスト5に入るかも。例によって観客置き去りの爆発場面をクライマックスとしているがそれがインフレ一歩手前で留まり、「老若認証システム」をめぐる黒の組織との攻防でなかなか見せる。灰原愛のコナンへの切ない思いも、流行り言葉を使えばシリーズ中でもかなりエモく、それが好みだから仕方がない。


ロスト・ワールド ジュラシック・パーク
2023.04.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 LOST WORLD:JURASSIC PARK [1200円/129分]
【62】1997年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:デイヴィッド・コープ
CAST:ジェフ・ゴールドブラム、ジュリアン・ムーア、ピート・ポスルスウェイト、リチャード・アッテンボロー
●続編はイマイチか。ヒロインであるサラの過ちが招く危機が少なくないが彼女は無自覚。そもそも何でわざわざT-REXを連れ帰えろうとするのか。トリケラトプスじゃダメか。恐竜映画の脚本にあれこれ文句つけても仕方ないが、2週続くとT-REXの恐怖にも慣れてしまい、タイトル通り映画がテーマパーク内のスリルに収まってしまっている。


ジュラシック・パーク
2023.04.08 TOHOシネマズ新宿:スクリーン1 JURASSIC PARK [1200円/127分]
【61】1993年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:マイケル・クライトン、デイヴィッド・コープ
CAST:サム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラム、リチャード・アッテンボロー、ウェイン・ナイト
●昔、DVDで観たときCG映像に驚いたものの面白くなく、スピルバーグも終わったと思ったが、スクリーンで観てここまで面白かったことにまた驚いた。終わったのではなく変わったのだ。驚いたといえばこれが30年前の映画であること。私も30代の前半だったが最先端の『トップガン・マーヴェリック』『RRR』と似た興奮を思い出させる凄さよ。


ちひろさん
2023.03.30 新宿武蔵野館:スクリーン3 [1200円/131分]
【60】2023年NETFLIX=アスミック・エース 監督:今泉力哉 脚本:澤井香織、今泉力哉
CAST:有村架純、豊嶋花、van、若葉竜也、佐久間由衣、市川実和子、鈴木慶一、平田満、リリー・フランキー、風吹ジュン
●今泉&有村の顔合わせにしては地味な公開だと思いきやネトフリ作品だった。しかし関係なく面白い映画を今泉は連発する。面白いというより心地良い。ちひろさんの孤独であることにブレない生き方が清々しい。渇き方すら温かいのだ。元風俗嬢だろうが無垢な天使に思えてずっと観ていられる。有村架純はネクストステージに上がったようだ。


ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー
2023.03.26 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/101分]
【59】2023年製作委員会=渋谷プロ 監督:阪元裕吾 脚本:阪元裕吾
CAST:髙石あかり、伊澤彩織、飛永翼、橋野純平、安倍乙、新しい学校のリーダーズ、渡辺哲、丞威、濱田龍臣、水石亜飛夢
●ギャルの緩い日常と過激なバイオレンスでかなりヤバめの前作と比べ、そこそこ抑え目な続編だった。確かに分刻みで面白いことが起こり、とくに殺し屋見習と決闘なのか合コンなのかわからないクライマックスは笑ってしまうが、ヘイビーズにはもっと巨悪との戦いでアクションを見せて欲しかった。もう一本作られるのを心から願いたい。


#マンホール
2023.03.26 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/99分]
【58】2023年ギャガ=ジェイ・ストーム 監督:熊切和嘉 脚本:岡田道尚
CAST:中島裕翔、奈緒、永山絢斗、黒木華
●オリジナルの労は認めてもいい。しかし『FALL』と公開時期が重なった不幸のまま、ワンシチュエーションサスペンスの面白味も緊迫感もなく、マンホールの中で主人公に同情も共感も出来ないのが辛い。意外な展開への安易な強引さも目立ち、いっそクソ主人公の罪をバラしたうえでのマンホール脱出にするべきだったのではないか。


ロストケア
2023.03.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/104分]
【57】2023年東京テアトル=日活 監督:前田哲 脚本:龍居由佳里、前田哲
CAST:松山ケンイチ、長澤まさみ、藤田弓子、柄本明、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、綾戸智恵、梶原善、峯村リエ
●問題作だったと思う。両親の介護の最中に観ていたら正視出来たか問うほどに深刻な社会矛盾を告発する意志も技術も感じる。ただ伏せられていた検事の真実は原作通りとしても、父を殺した斯波が41人を“救い”に至る心理描写が浅すぎて唐突感は否めない。あと柄本明、いつもながらの熱演かつ名演も「またこれか」と思わざる得なかった。


無法松の一生
2023.03.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/104分]
【56】1958年東宝 監督:稲垣浩 脚本:伊丹万作、稲垣浩
CAST:三船敏郎、高峰秀子、芥川比呂志、笠智衆、宮口精二、多々良純、有島一郎、笠原健司、松本薫、稲葉義男、土屋嘉男
●ズタズタに切られてなお名作の誉れ高き板妻版に続き、三船版を観賞。4Kのレストアは美しく、積み重ねた車輪のオーバーラップなど編集の執念を感じさせてさすが金獅子賞だと思ったが、政の健気に触れるほど吉岡夫人の鈍感さが恨めしくなるのは寅さんのマドンナたちを思い出す。ただ三船は板妻ほど大スターの匂いを消せていただろうか。
※1958年キネマ旬報ベストテン第7位


ベイビーわるきゅーれ
2023.03.20 池袋シネマ・ロサ [1100円/95分]
【55】2021年製作委員会=渋谷プロ 監督:阪元裕吾 脚本:阪元裕吾
CAST:髙石あかり、伊澤彩織、三元雅芸、秋谷百音、うえきやサトシ、福島雪菜、本宮泰風、水石亜飛夢、辻凪子、飛永翼
●「見逃していた感」強めの一本。週末の続編公開に合わせた再上映で掴まえた。いやはや面白い。低予算の女子高生殺し屋コンビの日常劇だがアクションは本格的。本格的どころか伊澤彩織の立ち回りは岡田准一以上だったのではないか。生まれた時代が気の毒でならないが彼女の凄さは間違いなく日本映画界の財産。しっかり活かして欲しい。


シン・仮面ライダー
2023.03.18 109シネマズグランベリーパーク:シアター1 [1200円/121分]
【54】2023年製作委員会=東映 監督:庵野秀明 脚本:庵野秀明
CAST:池松壮亮、浜辺美波、柄本祐、西野七瀬、竹野内豊、斎藤工、長澤まさみ、松尾スズキ、手塚とおる、森山未來
●評判が入ってくる前に観たかった。賛否両論起こりそうだが好感を持てた。仕事で変身したこともあったが(笑)、そこまでの思入れも知識もなかったのが幸いしたか。ただあまりに閉じた世界観に、ここで起こっていることが人類全体の危機には見えなかった。スケールを排除してまで信頼と友情を前面に出したのが今回の庵野流のアプローチか。


フェイブルマンズ
2023.03.12 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 THE FABELMANS [1000円/151分]
【53】2022年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
CAST:ポール・ダノ、ミシェル・ウィリアムズ、ガブリエル・ラベル、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、ジーニー・バーリン
●スピルバーグもいよいよキャリアを畳みにかかるかと思いきや、自伝というよりユダヤ人家族の物語を丹念に綴って2時間半を飽きさせない。とくに母親への思いがじんわり効いてくる。一方、高校時代のいじめや恋愛はやや平板だった。最後にジョン・フォードが地平線の撮り方を教授する実話エピソードをしっかり見せてくれたのは嬉しい。


エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
2023.03.12 イオンシネマ座間:スクリーン9 EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE [1000円/139分]
【52】2022年アメリカ 監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート 脚本:ダニエル・クワン&シャイナート
CAST:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス、ジェニー・スレイト
●最近この手の映画を「マルチバースもの」と呼ぶらしいが、平行世界の何でもアリ展開は苦手。案の定、支離滅裂な展開にミシェル・ヨーの身体能力を楽しむしかなく、強いていえば『インディ・ジョーンズ』『グーニーズ』リアルタイム世代としてキー・ホイ・クアンに注目していたらオスカーは当確の熱演だった。いよいよ明日が授賞式か。


エゴイスト
2023.03.10 シネ・リーブル池袋1 [1200円/120分]
【51】2023年東京テアトル=ROBOT 監督:松永大司 脚本:松永大司、狗飼恭子
CAST:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明
●浩輔と龍太が互いを求めたのは即物的な性愛であり、過去を乗り越えるもがきでもある。そして突然の喪失を埋める行為がエゴなのかと映画は問う。「恋人」から「母親」へと物語を転回させながら手持ちカメラのゆらぎがドキュメントのように生を映し、母を通して過去を肯定していく。もがきとゆらぎの愛おしさが心地良い癒しとなる秀作。


バニシング・ポイント
2023.03.5 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 VANITHING POINT [無料/106分]
【50】1971年アメリカ 監督:リチャード・C・サラフィアン 脚本:ギラーモ・ケイン
CAST:バリー・ニューマン、ディーン・ジャガー、クリーヴォン・リトル、ビクトリア・メドリン、ティモシー・スコット
●昔、名画座界隈でよく見たタイトルの4Kリバイバル。普通のカーアクションものだった筈がニューシネマの名作に格上げされていた。確かに幕引きはニューシネマらしいのたが、あまりに牧歌的すぎて興奮にはほど遠かった。全編に流れるロックのビートよりエンジンやブレーキの音を前面に出すべきで、古めかしさに睡魔と戦う羽目となる。


FALL/フォール
2023.03.5 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 FALL [1000/106分]
【49】2022年アメリカ 監督:スコット・マン 脚本:ジョナサン・フランク、スコット・マン
CAST:グレイス・フルト、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング
●かなりヘタレな高所恐怖症だ。始まってしばらく見に来なきゃよかったと後悔した。地上600メートルもさることながら柵のない狭い足場が怖い。錆びた梯子に緩んだボルト。それなのにこの馬鹿娘共ときたら!しかし映画はべらぼうに面白い。物語も良く練られているし技術の高さも十分窺える。が、今も思い出すだに足がすくむ。


逆転のトライアングル
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 SANS FILTRE [無料/147分]
【48】2022年スウェーデン=ドイツ=フランス=イギリス 監督・脚本:リューベン・オストルンド
CAST:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン、ズラッコ・ブリッチ
●若い男女のしょーもないミニマムな諍いから、嘔吐と糞尿塗れの船上パニックとなり、漂着した無人島ではエゴ剥き出しのサバイバルとなる。初オストルンドは強烈だった。もはや先読み不可能で一体何処に連れていかれるのか不安のまま突然のエンディング。これが虚栄を剝がされた人間の本質というものか。凄い映画だったとは思う。


エンパイア・オブ・ライト
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 EMPIRE OF LIGHT [1200円/138分]
【47】1991年アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:サム・メンデス
CAST:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ
●すっかり映画館はノスタルジーの象徴となったか。この一週間、クセの強い監督たちのやりたい放題な作品が続き、さすがのサム・メンデスも毒気にあてられたか。エンパイア劇場のモデルは知らないが、80年代当時の女性や黒人の生き辛さを見せて、実は今でも変わっていないのだという決着に、80年代である必然性があるのかと感じた。


フィッシャー・キング
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 THE FISHER KING [1200円/138分]
【46】1991年アメリカ 監督:テリー・ギリアム 脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
CAST:ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール、マイケル・ジェッター
●アーサー王伝説の聖槍も聖杯も無知なので、DJが屋敷に忍び込む理由がわからなかった。わからないままジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ名優二人の競演を楽しみ、時折「らしさ」を発揮するテリー・ギリアムの映像表現に「おおっ」としているうちに終わってしまった感じ。32年の歳月はまったく気にならなかった。


バビロン
2023.02.25 イオンシネマ座間:スクリーン9 BABYLON [1000円/189分]
【43】2022年アメリカ 監督:デイミアン・チャゼル 脚本:デイミアン・チャゼル
CAST:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、トビー・マグワイア
●サイレントからトーキーの端境でハリウッドがここまで享楽と乱痴気の日常だったとは俄かに信じ難いが、『SHE SAID』同様、オスカーには徹底的に嫌われたようだ。しかしチャゼルの力技には持って行かれる。「あなたが死んでから生まれた子たちもあなたを友人のように思う」この素敵な台詞を天国のハリウッドスターたちに捧げたい。


ベネデッタ
2023.02.24 新宿武蔵野館:スクリーン3 BENEDETTA  [1200円/131分]
【42】2021年オランダ=フランス 監督:ポール・ヴァーホーベン 脚本:デヴィッド・バーク、ポール・ヴァーホーベン
CAST:ヴィルジニー・エフィラ、ダフネ・パタキア、シャーロット・ランプリング、ランベール・ウィルソン、エルヴェ・ピエール
●「宗教戒律と背徳」は苦手なテーマのひとつでも歴史上初の同性愛裁判に着想を得たヴァーホーベンの露悪なまでの前のめり感で一気に見せる。ペストが蔓延する時代の終末観も含め、事態は破戒へと突き進むが、暴力とエロが横溢する中、瞬間、壮大な叙事詩と錯覚させるシャーロット・ランブリングの老いに抑制された存在がとにかく圧巻だ。


少女は卒業しない
2023.02.23 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン5 [1000円/120分]
【43】2023年クロックワークス=U-NEXT=ダブ 監督:中川駿 脚本:中川駿
CAST:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、藤原季節、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、輝美、志木心音、林裕太
●中流家庭の無垢で純粋な良い子ちゃんだけで構成され、不良もいなければ学園カーストも性問題もない地方の県立高校。悪い映画ではないが同じ原作者の『桐島~』から10年経ち、これは一体?と途惑った。これで高校時代の想い出に浸れる人は幸せだと思いつつ、高校生役がきつくなりつつある出演者たちの健気な演技をボ~と見ていた。


母の聖戦
2023.02.23 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LA CIVIL [1100円/135分]
【42】2021年ベルギー=ルーマニア=メキシコ 監督:テオドラ・アナ・ミライ 脚本:アバクク・A・D・ロザリオ、T・A・ミライ
CAST:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アイエレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス、ダニエル・ガルシア
●低予算マカロニ西部劇を彷彿とさせる石の町並み。組織とも呼べない小規模な犯罪カルテルによる誘拐ビジネス。その荒涼たる現実のドキュメントに暗澹とさせられるが、娘を取り戻す母親の戦いにジャンル映画的な面白味も感じる。半面、観賞者の想像に委ねるシエラの視線の行方。モデルとなった母親の最後を知り、新たな衝撃が走る。


別れる決心
2023.02.19 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 헤어질 결심 [1200円/138分]
【41】2022年韓国 監督:パク・チャヌク 脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン
CAST:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ジョンピョ、パク・ユンウ、キム・シニョン
●噂の鬼才パク・チャヌク初見だ。明らかなヒッチコック『めまい』モチーフの中、サスペンスとメロドラマを連鎖させながら凄まじい情報量を放って進行していく。その蓄積で焙り出されるのは愛の官能美か。一切の濡れ場なしにここまで愛を可視化する手腕はただ事ではないが、それ故に私の観賞リテラシーの限界を超え迷宮に落とし込まれた。


銀平町シネマブルース
2023.02.19 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1000円/99分]
【40】2023年リズメディア=レオーネ=クロックワークス 監督:城定秀夫 脚本:いまおかしんじ
CAST:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、浅田美代子、渡辺裕之、片岡礼子、藤田朋子、小野莉奈、中島歩
●今度の城定はベタに泣かせる。序盤はあまりのウェットさに途惑っていたが、世界観に浸ったれ!と決めてからもうラストまで断続的に涙腺垂れ流し状態。そして終わってみれば大好きな映画になった。“映画館もの”として『浜の朝日~』の3倍、『キネマの神様』の10倍は良かった。留めの助監督に捧ぐメイキングのあざとさに呆れ返りながらも。


海底大戦争
2023.02.17 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/84分] ※再観賞
【39】1996年東映=アメリカ 監督:佐藤肇 脚本:大津皓一
CAST:千葉真一、ペギー・ニール、フランツ・グルーベル、アンドリュウ・ヒューズ、エリック・ニールセン、三重街恒
●5歳の時、母に連れられ神戸の映画館で観て以来、サイボーグ半魚人の改造手術の描写はしばらくトラウマだった。60年近く経って再会。合成も陳腐だし内容もC級然としたもので、あのトラウマは何だったのかとなるが、まだカラー映像に免疫のない5歳児の衝撃は無垢な想像力に満ちていた。「子供騙し」などと簡単に切り捨てるなかれだ。


対 峙
2023.02.12 イオンシネマ座間:スクリーン9 MASS [1000円/111分]
【38】2021年アメリカ 監督:フラン・クランツ 脚本:フラン・クランツ
CAST:リード・バーニー、アン・ダウト、ジェイソン・アイザックス、マーサ・プリンプトン、ミシェル・N・カーター
●被害者家族と加害者家族が対峙するディカッションドラマ。チケットを買ってから昨日、三谷幸喜の二人芝居を観に行ったばかりだったことに気づく。しかし舞台劇さながらの設定でも骨太の映画になっていた。緊張と抑揚と激昂が言葉によって繰り返される一部始終を一気に見せる。そして浮かびあがる贖罪と赦しの葛藤。間違いなく秀作だ。


レナードの朝
2023.02.12 TOHOシネマズ:スクリーン9 AWAKENINGS [1200円/121分]
【37】1990年アメリカ 監督:ペニー・マーシャル 脚本:スティーヴン・ザイリアン
CAST:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリー・カヴナー、ルース・ネルソン、マックス・フォン・シドー
●超絶演技を披露したデ・ニーロ。しかし敢えてミスキャストだったと言いたい。あくまでもロビン・ウィリアムズを主体として周辺に嗜眠性脳炎患者たちを置くべきで、「生と尊厳」という本来のテーマが横滑りしてデ・ニーロとロビンの演技合戦が一番の興味どころとなってしまっている。決して悪い映画ではないが、残念だなとも思った。


雨月物語
2023.02.11 角川シネマ有楽町 [1200円/97分] ※再観賞
【36】1953年大映 監督:溝口健二 脚本:川口松太郎、依田義賢
CAST:京マチ子、森雅之、田中絹代、水戸光子、小沢栄太郎、青山杉作、羅門光三郎、香川良介、上田吉二郎、毛利菊枝
●初見は18歳の時。何が名作なのかさっぱりだった。ここで描かれるのは「幽玄」なのだろうが、文や日本画と違い幽玄を映画で表現するのは人工的な技術と作為が必要であり、例えば琵琶湖に浮かぶ小舟など宮川一夫のカメラと相俟って溝口の芸術性の達成を感じる。かなり通俗的な寓話がむしろ深い余韻になって不思議な面白さを醸している。
※1953年キネマ旬報ベストテン第3位


マタンゴ
2023.02.10 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/89分]
【35】1958年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:木村武
CAST:久保明、小泉博、土屋嘉男、水野久美、太刀川寛、佐原健二、八代美紀、天本英世
●子供の頃、テレビで観てとにかく怖かった。それもありずっと東宝特撮最大のキワモノだと思っていた。まさか劇場で出会えるとは!キノコ人間やラストのショッキングシーンもさることながら、映画が語る極限状態の人間のエゴや醜さが全体のトーンを決定していることの怖さもあったのだと気づく。美術も際立った意味での“キワモノだ”


女渡世人
2023.02.05 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/90分]
【34】1971年東映 監督:小沢茂弘 脚本:本田達男
CAST:藤純子、鶴田浩二、北村英三、夏川静江、斉藤浩子、木暮実千代、広瀬義宣、水森亜土、遠藤太津朗、汐路章
●ようやく捕まえた。これで純子さん主演の仁侠映画はコンプリート。映画も面白かったが、やはり「泣かせ」の場面での小沢茂弘の情感の薄さは気になる。印象に残ったのは資料で芦屋雁之助と記されていたヒロインを慕うサンピンの広瀬義宣。お馴染みの大部屋役者がそこそこの大役を与えられ、一生懸命演じている姿は嬉しいものだ。


剣 鬼
2023.02.05 角川シネマ有楽町 [1200円/83分]
【33】1965年大映 監督:三隅研次 脚本:星川清司
CAST:市川雷蔵、姿美千子、睦五郎、工藤堅太郎、戸浦六宏、五味龍太郎、内田朝雄、佐藤慶、伊達三郎、木村玄、香川良介
●この度の「大映4K映画祭」を市川雷蔵中心に観ているが、そこまで雷蔵に馴染んでいなかった私は今はすっかり惚れ込んでいる。とにかく役者として凄い。変幻自在ふりは有名だが、本作では無垢から虚無まですべての雷蔵が楽しめる。三隈研次がこの早逝した大スターの魅力をすべて把握している証左か。ちょっと変わった映画だったが。


無法松の一生
2023.02.04  角川シネマ有楽町 [1200円/86分]
【32】1943年大映 監督:稲垣浩 脚本:伊丹万作
CAST:阪東妻三郎、園井恵子、月形龍之介、永田靖、川村禾門、長門裕之、杉狂児、山口勇、葛木香一、尾上華丈
●日本映画史の名作と知りつつも、最初はまったく乗れなかったのは元々、松五郎的な人物が苦手だったからかもしれない。それが阪妻の味が深まることで面白味が出て来た。吉岡夫人との恋を戦時下の検閲で切られ、勇ましい場面はGHQに切られ、園井恵子は桜隊で被爆死するなど幾多の不幸に見舞われたが、祇園太鼓は今も鳴り響いている。


赤線地帯
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/86分] ※再観賞
【31】1956年大映 監督:溝口健二 脚本:成沢昌茂
CAST:京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子、沢村貞子、進藤英太郎、町田博子、川上康子、浦辺粂子、菅原謙二
●調べて意外だったのが「キネ旬」15位。世界のミゾグチの遺作としては寂しい気もするが、売春防止法施行前の娼家を描く資料的価値ではなく巨匠による「女の学校」だ。女たちを総花的に捉えるもエピソード集にならず、演技への追及も含め人物の掘り下げが十代で初見した時にはわからなかった。黛敏郎のスリラー調の音楽が疑問ではある。


斬 る
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/71分]
【30】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、浅野進治郎、柳永二郎、稲葉義男、千葉敏郎、毛利郁子
●何というか上映中ずっと、三隈研次の大映時代劇を観ているのだという高揚感があった。私はこんな高揚感を探しながら映画を観続けている。シリーズ物の呪縛の無い一人の剣豪の生と死を“人を斬ること”を命題として追及する異色作で、やがて剣の切っ先が我が身を貫く宿命に抗わない究極の孤独を描き切って見事としかいいようがない。


薄桜記
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/109分]
【29】1959年大映 監督:森一生 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、真城千都世、三田登喜子、大和七海路、北原義郎、島田竜三、千葉敏郎、舟木洋一、伊沢一郎
●今更『薄桜記』が初見など恥ずかしい限りだが、映画上映を待って本当に良かった。大映京都の蓄積が生んだ間違いない名作。女優陣が淋しいが同時上映が『浮草』。京も若尾も野添も小津に持って行かれたか。でも新人の真城千都世が雷蔵と雪の惨死を見事に表現。さらに吉良邸に雪崩れ込む浪士たちの背中に「完」。切れ味も申し分なし。


炎 上
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/99分]
【28】1958年大映 監督:市川崑 脚本:和田夏十、長谷部慶治
CAST:市川雷蔵、中村鴈治郎、仲代達矢、浦路洋子、中村玉緒、新珠三千代、信欣三、浜村純、舟木洋一、北林谷栄
●建物への執着の結末は大概、炎上で終わる。三島由紀夫の『金閣寺』は未読。同名の高林陽一作品との混同もある。金閣寺放火に至る学生僧の屈折した心情のアプローチに性的挫折が抜けていると感じなくもないが、役者の凄味を見せつけた雷蔵の渾身の演技と脇を固めるベテランたち、そして市川崑演出のテンポで最後まで引っ張られた。
※1958年キネマ旬報ベストテン第1位


そして僕は途方に暮れる
2023.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1000円/122分]
【27】2023年ハピネットファントム=アミューズ 監督:三浦大輔 脚本:三浦大輔
CAST:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司
●裕一のクズぶりにムカつきながら、胸の内で舌打ちを繰り返すが、やがて自分に向けられていたことに気がつく。ある場面で同じ経験の記憶を呼び起こされ、反感と共感の話になった。ただこの共感は苦い。苦すぎる。さらにここまで甘えられる周囲が存在することにまた反感を覚えてザワザワする。これは本作を評価しているということか。


レジェンド&バタフライ
2023.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1000円/168分]
【26】2022年東映 監督:大友啓史 脚本:古沢良太
CAST:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、斎藤工、北大路欣也、橋本じゅん、音尾琢真、伊藤英明、中谷美紀
●戦国ドラマにこんなタイトルをつけた以上は妄想ではなく本当に信長と濃姫が南蛮船で異国に旅立つラストで良かったのではないか。NHKの大河だって濃姫は本能寺で敵を迎え撃つのだから妄想も何でもありだ。などと思うのはある程度、この恋物語に乗せられていたのだと思う。綾瀬はるかの大女優感は圧倒的だったが、木村も頑張った。


パーフェクト・ドライバー 成功確立100%の女
2023.02.03 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 특송 [1200円/109分]
【25】2022年韓国 監督:パク・デミン 脚本:パク・デミン
CAST:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン、ヨン・ウジン、ヨム・ヘラン、ハン・ヒョンミン
●もう映像そのもののルックが日本映画とは桁違いに凄いのだが、ダダこねて主人公の足を引っ張る子供やカットを刻み過ぎてアクションが不明瞭など嫌いな場面も少なくない。『非常宣言』しかりでホメている人は多いが、手放しで面白いとはいいたくない感じ。そもそも愛すべき社長をあそこまでバイオレントに殺す必要はあったのか。


あのこと
2023.02.02 イオンシネマ座間:スクリーン4 L'ÉVÉNEMENT [1100円/100分]
【24】2021年フランス 監督:オードレイ・ディヴァン 脚本:オードレイ・ディヴァン、マルシア・ロマーノ
CAST:アナマリア・バルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール、ケイシー・モッテ・クライン、ルアナ・バイラミ
●女子大生アンヌの妊娠から中絶までをストーリーではなくプロセスとして見せていく。そこには心理的な葛藤も罪悪感も希薄で、神への冒涜か否かの抽象的な問いかけもない。しかしアンヌの行動と生理を追うことで彼女の意志が際立ち、この体験すら人生の糧にするしたたかさを得たのだと想像して妙な感銘すら覚えてしまった。何故だろう。


美女と液体人間
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/85分]
【23】1958年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:馬淵薫
CAST:佐原健二、平田昭彦、白川由美、小沢栄太郎、佐藤允、田島義文、千田是也、土屋嘉男、中丸忠雄、伊藤久哉、林幹
●題名だけはずっと昔から知っていて、もっとおどろおどろしい新東宝的キワモノ展開を想像していたが、さすが本多猪四郎×円谷英二の黄金コンビはオーソドックスな作風を崩さず、後年のテレビドラマ『怪奇大作戦』の礎となっていることが良く分かった。ただ65年前の特撮映画ということで、ひたすら「古い!」ことを楽しむ映画ではある。


兄弟仁義 逆縁の盃
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/90分]
【22】1968年東映 監督:鈴木則文 脚本:笠原和夫、梅林喜久生
CAST:北島三郎、若山富三郎、菅原文太、三益愛子、桜町弘子、金子信雄、遠藤辰雄、天津敏、宮園純子、林彰太郎
●東映仁侠ヒーローの中でサブちゃんの軽さは異色で、三益愛子を起用して“母もの”に仕立てるとなると、いよいよ歌謡ショー前半の出しもの的な様相を呈するのだが、サブちゃんが「おっかさん!」と台詞を喋るたび浪花節演歌ドラマと化す。鈴木則文(演出)、笠原和夫(脚本)、吉田貞次(撮影)の座組との相性は今ひとつだったかな。


緋牡丹博徒
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/98分] ※再観賞
【21】1968年東映 監督:山下耕作 脚本:鈴木則文
CAST:藤純子、高倉健、若山富三郎、待田京介、大木実、清川虹子、沼田曜一、山本麟一、金子信雄、山城新伍、林彰太郎
●高校生で体験した吉祥寺の夏は人生レベルで忘れられない一夜だった。今、冷静に振り返ってもこの第一作にはお竜さん自身の切実な物語があり、鈴木則文の柄にもない名脚本と花の山下美学。熊虎親分、不死身の富士松、ふぐ新、堂島のおたか、、、もうすべてが尊すぎて泣けてくる。こんな1mmも成長していない自身にも泣けてくる。


エンドロールのつづき
2023.01.29 新宿ピカデリー:シアター4 छेलो शो CHHELLO SHOW [1200円/112分]
【20】2021年インド=フランス 監督:パン・ナリン 脚本:パン・ナリン
CAST:バヴィン・ラバリ、リチャー・ミーナー、バヴェーシュ・シュリマリ、ディペン・ラヴァル、ピーカス・バータ
●監督のフィルムへの郷愁で全篇作られたような映画だ。さらに私の好きな“祭りの準備”感はトルナトーレよりこちらが鮮烈で、サマイが家族や仲間に見送られ故郷を旅立つ直前に目撃するのはジャンクされる映写機とフィルム。インドの食文化の転換を象徴するスプーンであったり色鮮やかなブレスレット。変革は喪失によって再生されるのか。


キャバレー
2023.01.29 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 CABARET [1200円/124分]
【19】1972年アメリカ 監督:ボブ・フォッシー 脚本:ジェイ・アレン、ヒュー・ホイーラ
CAST:ライザ・ミネリ、マイケル・ヨーク、ジョエル・グレイ、ヘルムート・グリーム、フリッツ・ウェッパー、ヘレン・ヴィタ
●この享楽と退廃をライザ・ミネリが高らかに「人生はキャバレー!」と歌い上げるが、アートと娯楽のいかがわしさを体現したジョエル・グレイの狂言回しが素晴らしかった。そして忍び寄るナチズム。ミュージカルの枠組で戦争をここまでアバンギャルドに描き切った作品を初めて観た。決して好きではないがボブ・フォッシーってやはり凄い。
※1972年キネマ旬報ベストテン第9位


イニシェリン島の精霊
2023.01.28 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン7 HE BANSHEES OF INISHERIN [無料/109分]
【18】2022年イギリス=アメリカ=アイルランド 監督:マーティン・マクドナー 脚本:マーティン・マクドナー
CAST:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン、ゲイリー・ライドン
●対岸で内戦が激化する100年前のアイルランドを象徴したのかも知れないが、風光明媚な島の憎悪の表明も倫理観の方向も突拍子のない男同士の感情移入の枠外で繰り広げられる諍いに「何んだこの話?」と思い、今まで味わったことのない「何んだ?」を推進力にハラハラしながら、妙な面白味にやられてしまう不思議な映画体験だった。


モリコーネ 映画が恋した音楽家
2023.01.22 イオンシネマ座間:スクリーン10 ENNIO [1100円/157分]
【17】2022年イタリア 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
CAST:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、ベルナルド・ベルトルッチ、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ
●お前は何様だ!ってなもんだが、77人にも及ぶ映画人、音楽家たちから絶賛されるモリコーネが誇らしかった。なにせ50年間寄り添ってきた私の神だ。コンサートにも二度行った。いやそんなアピールは抜きに『荒野の用心棒』の垂涎のメイキングから若き日の苦悩、晩年の栄光と、稀代のマエストロを掘り下げたトルナトーレには感謝しかない。


SHE SAIDシー・セッド その名を暴け
2023.01.21 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 SHE SAID [1200円//129分]
【16】2022年アメリカ 監督:マリア・シュラーダー 脚本:レベッカ・レンキェヴィチ
CAST:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー
●#MeTooのムーブメントは知っていたが、取材と証言を積み上げ巨人ワインスタインを追い詰めたのが二人の主婦であったことに驚く。何より女同士であってもフェミニズムに落とし込まないのが素晴らしく、NYタイムズのリアルな雰囲気も実名主義もさすがだった。日本はいつまで“毎朝新聞”をやってくつもりなのかと暗澹たる気分にもなった。


暴走パニック 大激突
2023.01.17 新文芸坐 [無料/85分] ※再観賞
【15】1976年東映 監督:深作欣二 脚本:神波史男、田中陽造、深作欣二
CAST:渡瀬恒彦、杉本美樹、川谷拓三、室田日出男、小林稔侍、渡辺やよい、潮健児、風戸佑介、曽根晴美、三谷昇
●潮健児曰く「知恵の遅れた人たち」によるブチ切れっぷりに飽きれてもいいが白けず乗っていけるかが肝。ついでにスター監督にも関わらず東映に懐ろを抑えられていた深作のヤケクソぶりを川谷拓ボンの阿鼻叫喚と同列に笑えるかも重要だ。ただ今回は渡瀬と杉本の致し方ない関係をバックアップした津島利章の音楽がやけに心に沁みた。


資金源強奪
2023.01.17 新文芸坐 [無料/92分] ※再観賞
【14】1975年東映 監督:深作欣二 脚本:高田宏冶
CAST:北大路欣也、梅宮辰夫、太地喜和子、川谷拓三、室田日出男、名和宏、安倍徹、天津敏、渡辺やよい、林彰太郎
●深作演出が急展開の高田脚本を軽快なテンポで刻む津島サウンドに乗せてスピード感を加速させていく。70年代深作映画を面白がるための文脈が身に沁みついてさえいれば、とことん楽しめる映画。昔はそれを共有した客が大勢いて、最後は映画館の雰囲気で程良い軽みの映画に仕上げていく。そんな時代の末席に座っていたことの至福を思う。


ヘアー
2023.01.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 HAIR [1200円/121分]
【13】1979年アメリカ 監督:ミロシュ・フォアマン 脚本:マイケル・ウェラー
CAST:ジョン・サヴェージ、トリート・ウィリアムズ、ビヴァリー・ダンジェロ、アニー・ゴールデン、ドーシー・ライト
●オープニングは“AQUARIUS”、ラストが“Let the Sunshine In”。大好きなナンバーに挟まれたミュージカルはさぞ最高だろうと思いきや、すぐに彼らの独善に耐えられなくなる。M・フォアマンは「映画にするには遅すぎた、ノルタルジィには早過ぎた」というが、まるで体制側にもカウンター側にも違和感を覚える中途半端な私に似ている。


ひとり狼
2023.01.14 角川シネマ有楽町 [1200円/83分]
【12】1968年大映 監督:池広一夫 脚本:直居欽哉
CAST:市川雷蔵、長門勇、小川真由美、長谷川明男、岩崎加根子、小池朝雄、浜村純、内田朝雄、丹阿弥谷津子、伊達三郎
●雷蔵のイメージから徹底的なニヒリズムで押してくるのかと思いきや、長谷川伸的な因果話が軸となって少しアテを外したが、股旅映画として最高の出来だ。とくに追分の伊三蔵の人となりを孫八に語らせることで情緒を嚙み殺した渡世人の孤高が最大現に際立っている。ある展開からいきなり雪が降りしきる効果も大映京都の粋って奴なのか。


離ればなれになっても
2023.01.14 TOHOシネマズ シャンテ3 GLI ANNI PIÙ BELLI [1200円/135分]
【11】2020年イタリア 監督:ガブリエレ・ムッチーノ 脚本:ガブリエレ・ムッチーノ、パオロ・コステッラ
CAST:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ミカエラ・ラマッツォッティ、キム・ロッシ=スチュアート
●つくづく若い頃に仲間とつるんでバカやった者の勝ち。孤独老人にリーチを掛けたこちらは羨ましい限りだ。でもこの映画好きだな。イタリア人気質というかおしなべて女性陣の貞操観念のなさが4人の人生物語を彩っている。もっと後味をホロ苦くしても良かったのではと思いつつ、ジェンマのラストショットの表情に何ともいえぬ余韻がある。


神々の深き欲望 <4Kデジタル修復版>
2023.01.09 横浜シネマリン [1200円/175分]
【10】1968年日活 監督:今村昌平 脚本:今村昌平、長谷部慶治
CAST:三國連太郎、河原崎長一郎、沖山秀子、嵐寛寿郎、松井康子、北村和夫、加藤嘉、原泉、浜村純、小松方正、扇千景
●神話の国造りがきっと架空であるように今村昌平も架空の島の人間の生と性に挑む。架空の祭祀でも土着を渾身の熱量で追求すれば神話の域に到達するということか。4K映像の海と森の動物、昆虫の生態が鮮やかで、それ自体が神々しいのだが、上映後にゴジの爆笑トークがあり、撮影現場も生と性の土着に塗れ大変なことになっていたとは。
※1968年キネマ旬報ベストテン第1位


恋のいばら
2023.01.08 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 [無料/98分]
【09】2023年パルコ=テレビ東京=ポニー 監督:城定秀夫 脚本:澤井香織、城定秀夫
CAST:松本穂香、玉城ティナ、渡邊圭祐、中島歩、北向珠夕、吉田ウーロン太、吉岡睦雄、不破万作、片岡礼子、白川和子
●オリジナルでこれだけの話を作ったのかと感心していたら韓国映画のリメイクと知って少し残念。しかし城定秀夫らしい力感で女同士の連帯劇を一気に見せて痛快だ。作風が適度に泥臭いのが私にはちょうどよく、興行界に猛攻を仕掛けている城定には伴走していきたい。それにしても玉城ティナ、前回は女子高生だったのに、、、役者ってすごい。


非常宣言
2023.01.07 イオンシネマ座間:スクリーン4 비상선언 [1100円/141分]
【08】2022年韓国 監督:ハン・ジェリム 脚本:ハン・ジェリム
CAST:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジュン
●おそらく韓国エンタメに対しここまで面白くないと思ったのは初めてだ。ウィルスに襲われた旅客機パニックがつまらない筈はないし、まして二大スターの共演だ。最後の着陸サスペンスも中盤で派手なダッチロールがあってまるで効いていない。コロナ禍もないことになっていることも含め構成が下手過ぎる。それがあまりに冗長なのだ。


カンフースタントマン 龍虎武師
2023.01.07 イオンシネマ座間:スクリーン5 龍虎武師|KUNG FU STUNTMEN [1100円/92分]
【07】2022年香港=中国 監督:ウェイ・ジェンツー (ドキュメンタリー)
CAST:サモ・ハン、ユエン・ウーピン、ドニー・イェン、ユン・ワー、ブルース・リャン、ツイ・ハーク、ジェット・リー
●不勉強ゆえ香港二大スタジオが既に消滅しているを知り、サモ・ハンもジェット・リーも代役スタントを使っていたことを知る。戦場の武勇伝のように懐述するスタントマンたちのやられっぷりをそこまで気にしたことはなかったが、香港アクション全盛時代を支えていたのは間違いなく彼らだ。栄枯盛衰といってしまえばそれまでだが。


昭和残侠伝 唐獅子牡丹
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/89分]
【06】1967年東映 監督:佐伯清 脚本:山本英明、松本功
CAST:高倉健、池部良、三田佳子、津川雅彦、菅原謙二、河津清三郎、保積ペペ、花澤徳衛、田中春男、芦田伸介、山本麟一
●シリーズで唯一のビデオ観賞で劇場未見だった。『沓掛時次郎』と『冬の華』を2で割ったような因果話で、殴り込みにダイナマイトを放り投げたかと思えば石切り場の殺陣に迫力がないなど、そこそこに残念な作品である。それでも健サンと池部良の道行きは雪降りしきる中での相合傘が屈指の名場面となっているだけに惜しい一篇でもある。


男の紋章
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/96分]
【05】1963年日活 監督:松尾昭典 脚本:甲斐久尊
CAST:高橋英樹、石山健二郎、大坂志郎、和泉雅子、轟夕起子、近藤宏、名古屋章、小池朝雄、富田仲次郎、藤岡重慶
●私は途方もない歳月、高橋英樹の日活仁侠ものを亜流扱いしてきたが、今回の上映で日活が東映仁侠路線と変わらぬ歴史を持っていたことを知る。かつ、かなり面白かった。思えば高橋英樹は東映の居並ぶ大スターたちを向こうに回し一人で日活仁侠映画を支えてきたわけだ。比べるとコクの薄さは否めないがこれはこれでアリだと思った次第。


クレージーの無責任清水港
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/94分]
【04】1966年東宝=渡辺プロ 監督:坪島孝 脚本:小国英雄
CAST:植木等、谷啓、ハナ肇、団令子、平田昭彦、浜美枝、桜井センリ、安田伸、石橋エータロー、田崎潤、犬塚弘
●ナベプロ華やかりし頃の57年前の正月映画。今観ると植木等の追分三五郎のC調な強引さに辟易しなくもないが、脚本は小国英雄。黒澤明『生きる』から『乱』まで、100万で家一軒買えた時代に50万の脚本料をとっていた大脚本家がよくクレージーキャッツのキャラクターに寄り添ったホンを書いたものだと思うのは偏見と無知というものか。


座頭市血煙り街道
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/86分]
【03】1967年大映 監督:三隅研次 脚本:笠原良三
CAST:勝新太郎、近衛十四郎、高田美和、朝丘雪路、中尾ミエ、坪内ミキ子、磯村みどり、伊藤孝雄、小池朝雄、小沢栄太郎
●近衛十四郎と勝新の殺陣はYouTubeで何度も再生し、長らく本編の劇場観賞機会を待ちわびていた。ようやく念願叶って息を呑む果し合いを堪能。じりじりする間合いといい一瞬の殺気といい、座頭市と公儀隠密という役を離れて稀代の剣豪役者同士のプライドで斬り合う真剣勝負。もうこれ以上の本物は望めない筈。有難いのひと言だ。


マダムと女房
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/56分]
【02】1931年松竹 監督:五所平之助 脚本:北村小松
CAST:田中絹代、渡辺篤、伊達里子、井上雪子、小林十九二、関時男、月田一郎、横尾泥海男、日守新一、坂本武
●母の生まれ年に製作された古典的名作。その当時の風景を不思議な気分で観たが、東京の子は両親を「パパ」「ママ」と呼んでいることに驚く。日本初のトーキー映画として、周囲の音が喧しくて原稿が進まない文士の物語というのは思いつきやすいネタでも、そこに家族の絆や夫婦愛を織り込んでくるあたり、さすが名匠の手腕なのだろう。
※1931年キネマ旬報ベストテン第1位


アバター ウェイ・オブ・ウォーター
2023.01.01 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11  AVATAR: THE WAY OF WATER [無料/192分]
【01】2022年アメリカ 監督:ジェームズ・キャメロン 脚本:リック・ジャファ、アマンダ・シルヴァー
CAST:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーバー、スティーブン・ラング、クリフ・カーティス
●キャメロンの意図とは別に二重眼鏡が没入感を削ぐ気がするので2Dで。テーマパークのアトラクションを体感するつもりはない。構図はインディアンと騎兵隊の西部劇フォーマット。森の戦闘では動体視力の衰えばかり感じてしまったが、やはり海の描写は驚きで、映像表現もここまで来たかとの感慨もあった。シガニーのキリが素晴らしい。



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