◆三行の映画評
◎遺書、公開。
2025.02.01 ムービル1 [1300円/119分]
【24】2025年製作委員会=ダブ=松竹 監督:英勉 脚本:鈴木おさむ
CAST:吉野北人、堀未央奈、志田彩良、松井奏、高石あかり、忍成修吾、兼光ほのか、藤堂日向、青島心、楽駆、宮瀬琉弥
●このところ連発される若手俳優たちのディスカッションドラマ。脚本が粗く突っ込みどころ満載だが、これが深夜に連続放映されたら最後まで観てしまうだろうとは思った。舞台劇ぽいというよりワークショップのような安っぽさは否めないものの、若手俳優の熱気と、我らが高石あかりの存在感。エンドロールのデザインがカッコ良かった。
◎トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦
2025.01.25 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 九龍城寨之圍城 [無料/125分]
【23】2024年香港 監督:ソイ・チェン アクション監督:谷垣健治 脚本:オー・キンイー、サム・クアンシン
CAST:レイモンド・ラム、ルイス・クー、サモ・ハン、リッチー・レン、フィリップ・ン、テレンス・ラウ、トニー・ウー
●九龍城の美術に圧倒され、その高低差を生かした谷垣健治のアクション演出が冴え、何より映画が文句なしに面白い。久々に香港映画が“極東ハリウッド”の本領を発揮した。香港映画が過去の遺物となる中で絶やすまいとする娯楽魂。解体された九龍城への郷愁を交えながらリアリティ度返しの荒唐無稽な外連を駆使するエネルギーよ。
◎嗤う蟲
2025.01.25 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 [無料/99分]
【22】2025年製作委員会=ダブ=ポニーキャニオン=ショウゲイト 監督:城定秀夫 脚本:内藤瑛亮、城定秀夫
CAST:深川麻衣、若葉竜也、田口トモロヲ、松浦祐也、杉田かおる、片岡礼子、中山功太
●まったく内容を知らず、監督が好きな城定秀夫だったこともエンドロールで知った。それはともかく過疎地の山村を舞台とし「閉鎖的で不気味な住人がいて封建的な掟がある」とのお約束のホラーや脱出サスペンスはそろそろ終わりにすべきではないか。間違いなく田舎差別だ。田口トモロヲや松浦祐也などすでにアイコンとしか思えない。
◎敵
2025.01.25 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1100円/108分]
【21】2025年製作委員会=ハピネットファントム=ギークピクチュアズ 監督:吉田大八 脚本:吉田大八
CAST:長塚京三、瀧内公美、黒沢あすか、河合優実、松尾諭、松尾貴史、中島歩、カトウシンスケ、高畑遊、高橋洋
●後半のいかにも筒井康隆的な悪夢の連続によるカタストロフィが肝になる映画だが、独居暮らしの老人の丁寧な日常を長塚京三の驚嘆すべき画面持ちの良さもあり、そこをずっと見ていたかった。だからこそ次第に「敵」が侵食していく怖さが強調されるのか。日常の静かな解放感が閉塞感と化していく過程の吉田大八の演出は見事だった。
◎破 戒
2025.01.21 角川シネマ有楽町 [1300円/118分]
【20】1962年大映 監督:市川崑 脚本:和田夏十
CAST:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三國連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子、宮口精二、杉村春子、加藤嘉
●部落の出自を隠して教師として生きる男。設定は物語的ではあるが、その物語的なことだけで市川崑は映画を終わらせていなかったか。同じ日本人の間で「血」の差別に身を置いた時、自分も風土に呑まれていた筈だとの想像はつく。同調圧力と防衛本能との関係を追求せずして同和は語れないのではないか。難しいことではあるのだが。
※1962年キネマ旬報ベストテン第4位
◎I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
2025.01.19 新宿シネマカリテ:スクリーン2 I LIKE MOVIES [1300円/99分]
【19】2022年カナダ 監督:監督:チャンドラー・レヴァック 脚本:チャンドラー・レヴァック
CAST:アイザイア・レティネン、ロミーナ・ドゥーゴ、クリスタ・ブリッジス、パーシー・ハインズ・ホワイト
●私がシネフィル野郎相手に映画論を戦わした日々は遠い昔となったが、大抵の映画好きなら覚えのある「苦味」を思い起こす“こじらせティーン”ムービーである。ローレンスほど我を強く持てずに映画業界の大外をウロウロするだけの人生となったので「反省して良い子」に収まることが真の成長物語といえるかどうか。後悔しなければよいが。
◎室町無頼
2025.01.18 イオンシネマ茅ヶ崎:スクリーン1 [1000円/135分]
【18】2025年製作委員会=東映 監督:入江悠 脚本:入江悠
CAST:大泉洋、堤真一、長尾謙杜、松本若菜、遠藤雄弥、前野朋哉、阿見201、般若、芹澤興人、中村蒼、柄本明、北村一輝
●文句なしにタイトルロゴのフォントがカッコイイ。ただ室町の荒野にマカロニ調の劇伴が流れ、そこに堤真一が立つと劇団☆新感線の舞台が頭に過ることしばしで、総じてがちゃがちゃ喧しい映画となった。もう少し「静」に緊張感が欲しい。もっとも入江悠の時代劇初挑戦に、本気で面白れぇ戦国一揆を見せるのだとの気概は感じたが。
◎劇映画 孤独のグルメ
2025.01.13 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1000円/110分]
【17】2024年テレビ東京=共同テレビ=東宝 監督:松重豊 脚本:松重豊、田口佳宏
CAST:松重豊、内田有紀、杏、オダギリジョー、磯村勇斗、村田雄浩、塩見三省、ユ・ジェミョン、遠藤憲一
●特殊ジャンルの映画を続けてしまったが、連続観賞で腹が空いたせいか食欲は刺激された(所詮はラストのラーメンにではあったが・・・)。興味は監督・脚本が松重豊だったこと。この人の表現力と絵心には一目置いていて、そこはきっちり気負いもなく映画に仕上げたとは思うが、求める主題がそもそも映画以前である宿命は如何ともし難い。
◎グランメゾン・パリ
2025.01.13 イオンシネマ座間:スクリーン1 [1000円/119分]
【16】2024年ソニー=TBS=東宝 監督:塚原あゆ子 脚本:塚原あゆ子、黒岩勉
CAST:木村拓哉、鈴木京香、冨永愛、オク・テギョン、正門良規、玉森裕太、寛一郎、中村アン、及川光博、沢村一樹
●塚原監督は『ライトマイル』のキレが素晴らしかったので観賞。しかしキムタク主演のTVドラマのファンムービーの域を出なかった。ちょっとした思いつきで次々と繰り出される三ツ星メニューに脳の食指が反応したかというと、一切食欲が湧かなかったのがこの映画への評価なのか。冨永愛の後味だけ少し奥歯に引っ掛かった気もするが。
◎エマニュエル
2025.01.13 イオンシネマ座間:シアター5 EMMANUELLE [1000円/105分]
【15】2024年フランス 監督:オードレイ・ディヴァン 脚本:オードレイ・ディヴァン、レベッカ・ズロトヴスキ
CAST:ノエミ・メルラン、ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、チャチャ・ホアン、アンソニー・ウォン
●中二の正月に映画館潜入に失敗した『エマニエル夫人』のリメイクを還暦半ばで観たのは『あのこと』の監督で主演がメルランだったことに尽きるが、やはり映像美とテーマ曲とシルビア・クリスタルが揃わなければ単なるフランス書院の文庫本止まりだ。あれから50年経つと女の性遍歴が暇つぶしに思えてくる。メルランもミスキャストだ。
◎ビーキーパー
2025.01.11 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 THE BEEKEEPE [1300円/105分]
【14】2024年アメリカ=イギリス 監督:デヴィッド・エアー 脚本:カート・ウィマー
CAST:ジェイソン・ステイサム、ジョシュ・ハッチャーソン、ジェレミー・アイアンズ、エミー・レイヴァー=ランプマン
●1か月ぶりの洋画に“殺人マシン”ステイサムが圧倒的剛腕で悪を殲滅する「お約束映画」を選んだ。今、説得力ではこの手の映画の第一人者だろう。敵が現役大統領の愛息である無理筋や、謎の特殊部隊の存在など現実味に首を傾げる暇もなく、次々と敵を蹴散らす楽しさはあったが、カタルシスまで行ったかとなると何か物足りなさが残る。
◎安珍と清姫
2025.01.05 角川シネマ有楽町 [1100円/85分]
【13】1960年大映 監督:島耕二 脚本:小国英雄
CAST:市川雷蔵、若尾文子、浦路洋子、片山明彦、毛利郁子、小堀阿吉雄、荒木忍、南部彰三、花布辰男、毛利菊枝
●道成寺に行ったばかりで、そこで安珍・清姫伝説の展示物なども見物したが、そもそも仏道に相応しい伝説とはいえず、清姫の化身である蛇が火を噴いたときは大映特撮ファンでも少し引いてしまった。ファンタジーより情念が交錯する究極愛を味わいたかったが、何より剃髪も凛々しい雷蔵の相手はクールな若尾より京マチ子が相応しかった。
◎型破りな教室
2024.01.05 ヒューマントラストシネマ有楽町:スクリーン1 RADICAL [1300円/125分]
【12】2024年メキシコ 監督:クリストファー・ザラ 脚本:クリストファー・ザラ
CAST:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ、ジルベルト・バラサ、ダニーロ・グアルディオラ
●私のベストワン『ありふれた教室』と真逆で一種スポーツ映画の爽快感すら味わえたのは単に「学力最低の教室を国内トップに押し上げた教師」との実話以上の何物でもなく、これに乗じて理想の教育論をぶつ柄ではないのだが、過酷な現実を理想で乗り切ろうとする人々の姿には素直に感動したい。それ故に悲劇に見舞われたニコの痛ましさ。
◎歌行燈
2025.01.05 角川シネマ有楽町 [1100円/114分]
【11】1960年大映 監督:衣笠貞之助 脚本:相良準、衣笠貞之助
CAST:市川雷蔵、山本富士子、柳永二郎、信欣三、中条静夫、倉田マユミ、荒木忍、上田吉次郎、浦辺粂子、佐野浅夫
●『婦系図』然り、泉鏡花と雷蔵との相性の良さを思う。山本富士子も同じ衣笠『浮舟』の異形とうって変わった美しさ。門付けに落ちぶれた喜多八と芸妓に売られたお袖。時は明治。ガス燈に翳る美男美女。能楽、謡、舞いが昇華した先の再会。芸道が恋を成就させる幕切れに胸を撫でおろす。作り手、演じ手のすべての素養が今とは違う。
◎源氏物語 浮 舟
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/118分]
【10】1957年大映 監督:衣笠貞之助 脚本:八尋不二、衣笠貞之助
CAST:長谷川一夫、山本富士子、市川雷蔵、乙羽信子、浦路洋子、中村玉緒、三益愛子、柳永二郎、浪花千栄子、中村鴈治郎
●「巨匠」衣笠貞之助の眉剃りにお歯黒の徹底したルックは異形でしかなく、男性優位世界の権化である“悪役”雷蔵王帝の独壇場だった。浮舟の危機に駆け付ける薫のおよそサスペンスを度外視した演出に苛々しながら、長谷川一夫と山本富士子の美男・美女の悲恋物語をあえて異形にして描いた平安王朝のリアルって何だったのかと思う。
◎弁天小僧
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/86分]
【09】1958年大映 監督:伊藤大輔 脚本:八尋不二
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、青山京子、阿井美千子、近藤美恵子、島田竜三、黒川弥太郎、河津清三郎、小堀明男、田崎潤
●菊之助の女形が正統なのかどうかは知らないが、「知らざぁ言ってきかせやしょう」の名台詞も『夜叉が池』の玉三郎がそうであったように、本作も女形と映画との親和性の悪さが出てしまった。やはり歌舞伎役者・雷蔵の女形は舞台に限るか。クライマックスの屋根瓦から見下ろす御用提灯の群れといった伊藤演出のダイナミズムに尽きる映画。
◎好色一代男
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/92分]
【08】1961年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:市川雷蔵、若尾文子、中村玉緒、水谷良重、船越英二、近藤美恵子、浦路洋子、阿井美千子、中村鴈治郎、菅井一郎
●井原西鶴の原作は知らないが、女性崇拝者たる世之介のキャラは先進的な増村の創造ではなかったか。もっとも女性崇拝の基本に欲情があり、ルッキズムも否定されていないので先進性もカツドウ屋脳の内か。とにかく女を見れば矢継ぎ早に口説きにかかる世之介のテンポが推進力となって展開が加速していくのは、増村×白坂コンビの独壇場だ。
◎お嬢吉三
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【07】1959年大映 監督:田中徳三 脚本:犬塚稔
CAST:市川雷蔵、島田竜三、北原義郎、中村玉緒、林成年、浦路洋子、毛利郁子、小野道子、杉山昌三九、伊達三郎
●追いかけてくる女たち。笑いながら逃げる吉三。街道の向こうには富士の山。まさに絵に描いた痛快時代劇の大団円。しかし少しも痛快ではなかった。歌舞伎の『三人吉三』はバディものの楽しさで構成されているのだろうから、お嬢吉三の雷蔵に焦点が当たるのは仕方ないとしても、他の二人にまったく華が感じられないのは如何なものか。
◎婦系図
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【06】1962年大映 監督:三隈研次 脚本:依田義賢
CAST:市川雷蔵、万里昌代、船越英二、三条魔子、木暮実千代、水戸光子、千田是也、上田吉二郎、伊達三郎、藤村志保
●「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉、いっそ死ねと仰って」の台詞が有名な別名『湯島の白梅』。面白さの源泉にはある世代までの日本人に愛され続けた話にはそれなりの力があるということ。何より若尾文子代役の万里昌代が素晴らしくバンプ女優のレッテルが残念だ。早い話、三隈研次が斬り合いだけの監督ではなかったということか。
◎陸軍中野学校
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/96分]
【05】1966年大映 監督:増村保造 脚本:星川清司
CAST:市川雷蔵、加東大介、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、ピーター・ウィリアムス、村瀬幸子、守田学、中条静夫
●とてつもない傑作だった。たまに増村保造には心底驚かされる。日本映画で唯一無二のスパイ映画ではあるのだが、ヒリヒリした緊張感と冷徹重厚な世界観を保ちながら、東宝から加東大介を呼んだことで熱量が加わって学校生たちの青春映画の様相さえ生み出した。そして養成から実践へとサスペンスは加速し、観るものを圧倒する。
◎眠狂四郎無頼剣
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/79分]
【04】1966年大映 監督:三隈研次 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、工藤堅太郎、島田竜三、遠藤辰雄、上野山功一、香川良介、永田靖、酒井修、水原浩一
●どうも一連の雷蔵映画で『眠狂四郎』の打点が低い。数年前まで雷蔵といえば眠狂四郎というイメージだったが、シリーズのルーティンが悪目立ちしてしまうのか。それでも三隈研次と伊藤大輔の最強コンビが狂四郎に「市井の民のため」などと言わせてほしくなかった。原作の柴田錬三郎が本作に激怒したというが、妙に納得してしまった。
◎斬 る
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1200円/71分] ※再観賞
【03】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、浅野進治郎、柳永二郎、細川俊夫、稲葉義男、毛利郁子
●「斬る・斬られる」に特化して描く新藤兼人の脚本を三隈研次が例によって圧倒的テンポの良さで一気に見せ切ってしまう。こんな演出をされたら新藤も脚本家冥利に尽きるのではないか。恥ずかしながら2年前に観たばかりなのに「完」と出た時、「え?もう終わってしまったのか・・・」と思った。これまた傑作と言わずして何と言う。
◎薄桜記
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/110分] ※再観賞
【02】1959年大映 監督:森一生 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、真城千都世、三田登喜子、大和七海路、北原義郎、島田竜三、千葉敏郎、荒木忍、伊沢一郎
●名作と知りながら2年前に観たばかりなので観賞を躊躇したが、再見して良かった。改めて傑作だ。殺陣をたっぷり見せながら安兵衛の高田馬場の決闘から吉良邸討入りの史実を縦軸に、丹下典膳と千春の血みどろの悲恋を描き切る森一生の演出。そして最後に時系列をピタリと合わせた伊藤大輔の脚本。この作劇は驚異以外の何ものでもない。
◎華岡青洲の妻
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【01】1967年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、浪花千栄子、原知佐子、伊達三郎、木村玄、内藤武敏
●何と5歳の時に連れて行ったと母が言っていた。もちろん一切憶えていなかったが、よくぞ増村ワールドを幼な子に浴びせたものだと思う。もちろん医者の話として『赤い天使』と比べればかなり文芸色が強いのだが、雷蔵を狂言回しに置いて若尾と高峰の嫁姑のヒリヒリする暗闘を描きながら女性映画として高みに到達しているのは流石だ。
※1967年キネマ旬報ベストテン第5位
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