●2014年(平成26年)

 三行の映画評


鑑定士と顔のない依頼人
2014.01.03 TOHOシネマズ シャンテ1 La migliore offerta
【01】2012年イタリア 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
CAST:ジェフリー・ラッシュ、シルヴィア・ホークス、ジム・スタージェス、ドナルド・サザーランド、フィリップ・ジャクソン
●どうにも腑に落ちない。その場合、諦めるか悔いが残るかのどちらかなのだが、断然後者への思いが強かった。以前より芸術品の真贋を突き詰めていくと愛や人生の本質に行き着くと感じていたが、贋作にも真実があり、偽りの愛にも真実があり、そして真実の愛にも偽りがある。トルナトーレの描く迷宮をモリコーネが静かに支えていた。


カノジョは嘘を愛しすぎてる
2014.01.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン7
【02】2013年ROBOT 監督:小泉徳宏 脚本:吉田智子
CAST:佐藤健、大原櫻子、三浦翔平、窪田正孝、水田航生、浅香航大、谷村美月、相武紗季、吉沢亮、反町隆史
●原作のコミックのことは知らないが、一人称進行をそのまま主人公のナレーションに使うのは映画以前だといわざるを得ない。漫画そのままを実写で展開されるのが辛く、タダで観させてもらいながら席を立つ誘惑にかられて困っていた。それでも最後まで踏みとどまったのは、主演の二人の好演に身の置き所を託すことが出来たからだろう。


オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ
2014.01.04  TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER Only Lovers Left Alive
【03】2013年アメリカ 監督:ジム・ジャームッシュ 脚本:ジム・ジャームッシュ
CAST:トム・ヒドルストン、ティルダ・スウィントン、ミア・ワシコウスカ、ジョン・ハート、アントン・イェルチン
●アメリカ人がバイパイア好きなのは知っていたが、相変わらずのジャームッシュ節。というより『ストレンジャー・ザン・パラダイス』から30年。還暦を迎えた現在まで彼の変遷を殆ど知らずに来て、まだこんな映画を撮っていたことに驚いてしまった。音楽へのこだわりは相変わらずで、ますますインディーズな存在感を深化させているようだ。


麦子さんと
2014.01.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン8
【04】2013年ファントムフィルム 監督:吉田恵輔 脚本:吉田恵輔、仁志原了
CAST:堀北真希、松田龍平、余貴美子、温水洋一、麻生祐未、ふせえり、ガダルカナル・タカ
●それほど脚光を浴びることなく映画街の片隅に消えていくのだろうが、よく出来た「寅さん」の併映作の味わいとでもいうのか。松田龍平と95分のタイトな上映時間で選んだものの思わぬ拾いものだった。母親という存在へのいとおしさとウザったさが無味無臭な堀北真希の個性でほど良く浮き彫りにされ、不覚にも涙がこぼれてしまった。


ゼロ・グラビティ
2014.01.07 109シネマズグランベリーモール:シアター9 IMAX-3D Gravity
【05】2013年アメリカ、イギリス 監督:アルフォンソ・キュアロン 脚本:アルフォンソ・キュアロン、ホナス・キュアロン
CAST:サンドラ・ブロック、ジョージ・クルーニー
●IMAXデジタル3Dの映像はもはや私が寄り添い続けた「映画」とは別のものになってしまったが、一方で宇宙空間に放り出されるのが究極の孤独死だという幼少の頃の恐怖感も甦えってきた。最新テクノロジーで回帰される記憶。この矛盾こそがこの映画最大の魅力なのかもしれない。映像史に名を刻む91分になると予感しつつ、大いに楽しんだ。
※2013年キネマ旬報ベストテン第2位


ロッキー
2014.01.12 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ROCKY ※再観賞
【06】1976年アメリカ 監督:ジョン・G・アビルドセン 脚本:シルベスター・スタローン
CAST:シルベスター・スタローン、タリア・シャイア、バージェス・メレディス、バート・ヤング、カール・ウィザース
●高校生のとき、一緒に行った級友とハイテンションで映画館を出たことを思い出す。あれからもう40年近くなるのか。改めて再見すると前半のグダグダのロッキーも愛おしく、エイドリアンはもちろんミッキーもポーリーもみんないい。このシンプルなサクセスストーリーはスタローンの成功とシンクロして永遠の輝きを放ち続けるだろう。
※1977年キネマ旬報ベストテン第1位


大脱出
2014.01.12 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9 ESCAPE PLAN
【07】2013年アメリカ 監督:ミカエル・ハフストローム 脚本:マイルズ・チャップマン、アーネル・ジェスコ
CAST:シルベスター・スタローン、アーノルド・シュワルツェネッガー、ジム・カビーゼル、ビンセント・ドノフリオ
●80年代から20年間ハリウッドを、レンタルビデオシーンを牽引してきた二大スターの競演というのに何とも物語が安い。現実には十年前に二人の旬は終わって、失礼ながらバッタで叩き売られたような映画になっている。今日一日でスタローンのスタートとゴールを一度に観てしまったし、シュワちゃんもまったく存在感がなくて悲惨の極みだ。


危険な関係
2014.01.23  TOHOシネマズ シャンテ2 危險關係/DANGEROUS LIAISONS
【08】2012年中国 監督:ホ・ジノ 脚本:ゲリン・ヤン
CAST:チャン・ツィイー、チャン・ドンゴン、セシリア・チャン、ショーン・ドウ、リサ・ルー
●笑ってしまうくらい小気味よいテンポとキメキメの画面作りに最後まで前のめりに観ていた。ラクロ作のお馴染みの恋愛ドラマは内容こそ通俗メロドラマかもしれないが、個人的には1930年代の上海を舞台にした中韓の俳優とスタッフたちが織りなす“熱気”に日本人として軽い嫉妬心を喚起されていたことを白状しておく。文句なく面白かった。


ゲノムハザード ある天才科学者の5日間
2014.01.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5
【09】2013年日本、韓国=アスミック 監督:キム・ソンス 脚本:キム・ソンス
CAST:西島秀俊、キム・ヒョジン、真木よう子、伊武雅刀、中村ゆり、パク・トンハ、浜田学
●熱演の西島秀俊が気の毒になるほど演出もストーリー展開も下手。主人公の不安感を表現する冒頭のカメラワークから嫌な予感が満載だったが、軌道修正には至らなかったようだ。再三インサートされるカウントダウンタイマーが事件終了までのタイムだと気がついた段階で、まだ85分もあるのかとぐったりした。日韓合作の必然性はあったか。


小さいおうち
2014.01.27  TOHOシネマズ海老名:スクリーン9
【10】2014年松竹 監督:山田洋次 脚本:山田洋次、平松恵美子
CAST:松たか子、黒木華、片岡孝太郎、吉岡秀隆、妻夫木聡、橋爪功、吉行和子、室井滋、中嶋朋子、倍賞千恵子
●「長く生き過ぎた」と心境を語る老タキさんの涙の訳。私の知る限り、山田洋次が観客の想像に委ねるのは初めてではないか。戦況が悪化する中で小さなおうちで起きた小さな恋愛事件。タキが奥様を裏切ったのは意地だったのか。あと少し長く生きれば、絵にもお坊ちゃんにも会えたかもしれないと思うと、山田作品で初めて泣かされた。
※2014年キネマ旬報ベストテン第6位


エンダーのゲーム
2014.01.28  TOHOシネマズ渋谷:スクリーン1 Ender's Game
【11】2013年アメリカ 監督:ギャヴィン・フッド 脚本:ギャヴィン・フッド
CAST:エイサ・バターフィールド、ハリソン・フォード、ヘイリー・スタインフェルド、ベン・キングズレー、アラミス・ナイト
●良い意味で裏切られたか。予告編を観たときは「何だ積極的な碇シンジの話か?」と鼻で笑っていた。そもそもCG全面押しの映画など、ゲーセンで他人のプレイを覗き込んでいる味気なさだとずっと言い続けてきたが、ストレートにCGシミュレーションそのものを描く作品を目の当たりにしてしまい、困ったことに結構楽んでしまった。


永遠の0
2014.01.29  TOHOシネマズ日劇:スクリーン2
【12】2014年東宝=アミューズ 監督:山崎貴 脚本:山崎貴、林民夫
CAST:岡田准一、三浦春馬、夏八木勲、染谷将太、井上真央、田中泯、濱田岳、染谷将太、吹石一恵、風吹ジュン、山本學
●百田尚樹の原作はそれこそ記憶から抹殺したいほどの唾棄すべき小説だが、良識ある作り手がきちんと映画化すれば面白くなる予感はあった。そうゼロ戦映画にハズレはないのだ。難をいえば日本兵としてではなくヒコーキ乗りたちの心意気を描くのにもう若干のユーモアがあっても良かったか。良識ある作り手たちは真面目過ぎたようだ。


ペコロスの母に会いに行く
2014.02.02 関内ホール
【13】2013年製作委員会=東風 監督:森﨑東 脚本:阿久根知昭
CAST:岩松了、赤木春恵、原田貴和子、加瀬亮、竹中直人、大和田健介、松本若菜、原田知世、宇崎竜童、温水洋一
●「怒らんといて、怒らんといて・・・」と息子の叱責をかわそうとする母。新藤兼人亡き今、現役最年長となったらしい森﨑東が同じように認知症の母との決別を、悲しみ一辺倒ではなく、笑いの中で純化させようと試みて涙を誘うのだが、もっと森﨑東らしいシニカルな毒があってもよかったのではないかと思うと少し残念だった。
※2013年キネマ旬報ベストテン第1位


舟を編む
2014.02.02 関内ホール ※再観賞
【14】2013年製作委員会=東風 監督:石井裕也 脚本:渡辺謙作
CAST:松田龍平、宮﨑あおい、オダギリジョー、黒木華、渡辺美佐子、池脇千鶴、鶴見辰吾、八千草薫、小林薫、加藤剛
●改めて前作のハッタリをかますような奇を衒う作風と比べ、石井裕也は何とも堅実な画面作りを貫いている。それでも型にはまった映画になっていないのがこの作品の凄いところ。シネコンと違って随所に笑いが起こる映画祭の雰囲気が、『舟を編む』に関わったすべての人たちがいい仕事をしていることを一層際立させている。
※2013年キネマ旬報ベストテン第2位


凶 悪
2014.02.02 関内ホール
【15】2013年日活=ハピネット 監督:白石和彌 脚本:高橋泉、白石和彌
CAST:山田孝之、ピエール瀧、リリー・フランキー、池脇千鶴、白川和子、吉村実子、小林且弥、斉藤悠、米村亮太朗
●監督の白石和彌は若松組の新人だそうだが、全編のリズムも犯罪映画として最高レベルの作品になっている。しかし異様な雰囲気を巧みに構築すればするほど、ピエール瀧やリリー・フランキーといった芸達者なマルチタレントの演技力が観ていてどうにも邪魔になってくる。無名な俳優たちだけで作られていたら星五つだったのではないか。
※2013年キネマ旬報ベストテン第3位


ウルフ・オブ・ウォールストリート
2014.02.09  TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 The Wolf of Wall Street
【16】2013年アメリカ 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:テレンス・ウィンター
CAST:レオナルド・ディカプリオ、ジョナ・ヒル、マーゴット・ロビー、マシュー・マコノヒー、 ロブ・ライナー
●新米のベルフォートが投資会社の社長に株屋の矜持を与えられる場面から笑い転げた。スコセッシは70年代風のアバンギャルドな画面作りで、マネー、ドラッグ、セックスに狂奔する主人公たちをノンストップで走らせるが、今様のハリウッド映画の殻を破るには“FUCK!”の連呼と3時間の上映時間が必要だったということなのか。
※2014年キネマ旬報ベストテン第9位


気球クラブ、その後
2014.02.20 シネマヴェーラ渋谷
【17】2006年 PLUSMIC CFP 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:深水元基、川村ゆきえ、長谷川朝晴、永作博美、西山繭子、いしだ壱成、与座嘉秋、大田恭臣、ペ・ジョンミョン
●上映が始まって30秒ほどで傑作を確信できる映画などあるだろうか。有象無象の若者たちがリアルに躍動する姿に圧倒される。荒井由実の『翳りゆく部屋』に乗せて青春の終焉を描いて見せるが、最後に風船の中身を観客の想像に委ねてしまう結末を誠実ととるか不親切ととるか。最後の最後で想像が及ばなかった私自身が残念だった。


紀子の食卓
2014.02.20 シネマヴェーラ渋谷
【18】2006年 アルゴ 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:吹石一恵、つぐみ、吉高由里子、並樹史朗、宮田早苗、三津谷葉子、安藤玉恵、渡辺奈緒子、李鐘浩、古屋兎丸
●のっけからザワザワとした予感を孕ませながら、園子温は崩壊寸前に家族を解体して、「偽物」の家族として再構築してみせる。二年前に園子温の映画に出会って「磁場発見」などと息巻いたことが恥ずかしくなる秀作。すでに「偽物」である家族が一堂に介するクライマックスの対決には驚嘆されられた。


愛のむきだし
2014.02.21 シネマヴェーラ渋谷
【19】2009年ファントムフィルム 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:西島隆弘、満島ひかり、安藤サクラ、渡辺真起子、渡部篤郎、板尾創路、尾上寛之、玄覺悠子、岩松了
●遅ればせながら伝説の『愛のむきだし』が私の観賞履歴に加わったことを嬉しく思う。またこれを撮った園子温を同年代の代表として誇りとしたい。カルト宗教、盗撮、原罪、エロ、グロが目の前を全力疾走で駆け抜けていく4時間の一大純愛巨編。それにしてもこの怒涛の圧倒感はなんだろう。こんな映画体験は初めてだったかもしれない。
※2009年キネマ旬報ベストテン第4位


アメリカン・ハッスル
2014.02.23 TOHOシネマズみゆき座 American Hustle
【20】2013年アメリカ 監督:デヴィッド・O・ラッセル 脚本:デヴィッド・O・ラッセル、エリック・ウォーレン・シンガー
CAST:クリスチャン・ベイル、エイミー・アダムス、ブラッドレイ・クーパー、ジェニファー・ローレンス、ジェレミー・レナー
●ベタなタイトルだと思っていたら、「Hustle」は詐欺の隠語だそうだ。よく出来た映画だったが、正直もうしばらく『世界にひとつのプレイブック』の余韻を楽しみたかった。しかしここでもJ・ローレンスが圧巻。もう一人の圧巻はマフィアのデ・ニーロ親父か。70年代末の実録事件を70年代当時の映画ぽく描いているのが何ともユニークだ。



2014.02.24 シネマヴェーラ渋谷
【21】1998年通産省=アンカーズプロ 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:佐々木愛、東陽子、岡部満、鈴木桂子、若松孝二、富樫茂子、中村尚代、工藤悠、成澤佳耶
●子供の頃に母と帰郷したときに眺めた羽越線の車窓そのままの風景。しかしこんなに風は吹いていなかった。もちろん木造仕立ての校舎の生徒たちに器用に鉛筆をクルクル回す子なんかいなかったし、巨大な風車もなかった。16mmの非商業映画らしくノルタルジックな雰囲気を醸しつつ、どこかに「風の町」の現実も垣間見えた。


恋の罪
2014.02.24 シネマヴェーラ渋谷
【22】2011年キングレコード=日活 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:水野美紀、神楽坂恵、冨樫真、津田寛治、大方斐紗子、児嶋一哉、二階堂智、小林竜樹、五辻真吾、深水元基、岩松了
●なかなか味わえない映画だったが妙な既視感があったのは、物語と同じ渋谷・円山町のホテル街で観たからか。面白かったが好きではなかった。相変わらずの熱量だったがどこか冷めていた。女たちはエキセントリックだったが全員嫌いだった。園子温らしさは伝わったが共感できなかった。本当はこれに点数をつけても意味ないのだけど。


桂子ですけど
2014.02.25 シネマヴェーラ渋谷
【23】1997年アンカーズプロ 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:鈴木桂子、内田栄一
●園子温を追体験しながら、学生のときにPFFで文芸坐に通った日々のことを思い出していた。原色で構成された映像が桂子の時の刻みを16mmカメラが延々と映し出す。冒頭5分以上の桂子の表情や時計の長回しなど青いっちゃあ青いのだが、これだけカメラに注視されながらも少しも桂子の生理が浮かび上がってこないのは不思議だった。


Make the Last Wish
2014.02.25 シネマヴェーラ渋谷
【24】2008年製作委員会 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:満島ひかり、堀部圭亮、安藤サクラ、清水優、倉本美津瑠
●セミドキュメントならぬメタドキュメントともいうべきか、インターネットで配信するための映画ということだが、結果的にはドキュメンタリーの中にフィクションが割り込んでくるファンタジーになっている。いや、これは誰がどう観ても満島ひかりのプロモーション映画だ。彼女の凄まじいまでの女優力に尽きるといってもいい。


性戯の達人・女体壺さぐり
2014.02.26 シネマヴェーラ渋谷
【25】2000年大蔵 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:夢乃、神崎優、鈴木敦子、桐生アゲハ、ささだるみ、石川雄也、園子温、サンダー杉山
●どの園子温作品よりも温く、エロくもなんともないピンク映画。このジャンルは今や日本映画を代表する才能を数多く輩出しているが、そこに園子温の名前は絶対に出ないだろう。監督自身が「あー、くだらね」と思いながら、シラケながら撮っているフシもあり、そこは笑えた。もっとヤケクソになれば怪作になっていたろうに。


自殺サークル
2014.02.26 シネマヴェーラ渋谷
【26】2002年製作委員会 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:石橋凌、永瀬正敏、麿赤兒、迫英雄、さとう珠緒、宝生舞、ROLLY、野村貴志、ジョシュア、嘉門洋子、余貴美子
●この作品の後日談『紀子の食卓』で予習していたとはいえ、新宿駅のホームで明るく笑いながら手をつないだ女子高生54人が「いっせーの、せ」と声を合わせて電車に飛び込むオープニング。直後の凄まじい血飛沫はご愛嬌としてもやはり衝撃的だった。子供たちの無垢な笑顔をグロの中に際立させた才気こそ園子温たる所以だろう。


地獄でなぜ悪い
2014.02.27 キネカ大森
【27】2013年製作委員会 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:長谷川博己、星野源、堤真一、二階堂ふみ、國村隼、友近、尾上寛之、水道橋博士、板尾創路、石丸謙二郎
●すべての作品を観たわけではないが、おそらく園子温史上で最も血飛沫が乱れ飛んだ映画だろう。二階堂ふみを中心に観ていた不埒な観客もあまりの血糊の多さにぶっ飛んだ。この監督には様々な地獄を見せてもらったが、ここまでの殺戮はグロというより何でもアリで、やがて様式美となって笑いとなる。さぁ次はどの地平を目指すのか。


さよなら渓谷
2014.03.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9
【30】2013年製作委員会=ファントムフィルム 監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣、高田亮
CAST:真木よう子、大西信満、大森南朋、鈴木杏、鶴田真由、井浦新、新井浩文、木下ほうか、三浦誠己、池内万作
●じと~としていながらどこかで乾いている。レイプされた男の体を求める感覚の不可解さ。幸福を求めることを禁忌とする情愛。一体そんなことが成り立つのものかと思いながら、映画の異常なテンションに押されていた。しかし罰を与える女とそれを受け入れる男のそれが、ある種の「ゲーム」に陥ってしまう危うさも感じている。
※2013年キネマ旬報ベストテン第8位


大統領の執事の涙
2014.03.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 Lee Daniels' The Butler
【31】2013年アメリカ 監督:リー・ダニエルズ 脚本:ダニー・ストロング
CAST:フォレスト・ウィテカー、オプラ・ウィンフリー、マライア・キャリー、ジョン・キューザック、ジェーン・フォンダ
●7人の大統領に仕えた黒人執事が見たホワイトハウスでのエピソードより、キング牧師、マルコムX、ブラックパンサー党が織りなす黒人公民権運動の前後を背景とした父と子の確執と和解。ここでも父を描く伝統的なアメリカ映画の王道がある。それにしても、戦争を除く合衆国の歴史的事件の殆どが私の生後に起こっているのだと思った。


ジャッカルの日
2014.03.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 The Day of the Jackal
【28】1973年アメリカ 監督:フレッド・ジンネマン 脚本:ケネス・ロス
CAST:エドワード・フォックス、エリック・ポーター、デルフィーヌ・セイリグ、ミシェル・ロンダール、シリル・キューサック
●中学生の時、クラスメイトがストーリーを結末まで全部話してしまい観る気が失せていたのだが、彼が語らずにはいられない気持ちが理解できた。大まかな展開はイメージ通りだったが、プロットやディティールを丹念に積み上げていく素晴らしさ。そしてF・ジンネマンの冷徹な演出こそが最大のエンターティメントになっている。
※1973年キネマ旬報ベストテン第4位


ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅
2014.03.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 NEBRASKA
【29】2013年アメリカ 監督:アレクサンダー・ペイン 脚本:ボブ・ネルソン
CAST:ブルース・ダーン、ウィル・フォーテ、ジューン・スキッブ、ステイシー・キーチ、ボブ・オデンカー
●白黒のシネスコ画面が映し出すネブラスカの荒涼とした風景。いや立ち小便をするウディ爺さんが映り込んでいたか。ちっぽけな人物たちが織りなすちっぽけな物語。しかし繰り返しアメリカ映画が描いてきた父親の人生の機微が浮かび上がる。ロードムービーでありながら爺さんが生まれた土地が時の流れの中で立ち止まっている感じがいい。


オール・イズ・ロスト -最後の手紙-
2014.03.21 TOHOシネマズ シャンテ2  ALL IS LOST
【32】2013年アメリカ 監督:J・C・チャンダー 脚本:J・C・チャンダー
CAST::ロバート・レッドフォード
●人は誰かに見つけてもらうために泣き叫ぶ。孤独であることの残酷さはそんな感情を露わにする意味さえ奪うことか。宇宙空間の絶対的な無力感と違い、海は時には思わせぶりに人を弄び、冷静な老人の心を徐々に壊わしていく。沈んでいくヨットを茫然と見つめる眼差しに男の生き様が見え隠れして、初めてレッドフォードが愛おしくなった。


ブラック・レイン
2014.04.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 BLACKRAIN ※再観賞
【33】1989年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:クレイグ・ボロティン、ウォーレン・ルイス
CAST:マイケル・ダグラス、高倉健、松田優作、アンディ・ガルシア、ケイト・キャンプショー、若山富三郎、内田裕也
●当時は健サンのキャラクターや大阪の街の描き方など随分と変な映画だと思っていたが、改めて観るとなかなか真っ当な刑事アクション映画だと思った。全体的にサンバーパンクのテイストでありながら、『フレンチ・コネクション』の日本版になっている。そうだ、封切を観た僅か一か月足らず後に松田優作の訃報が飛び込んできたのだった。


8月の家族たち
2014.04.18  TOHOシネマズ シャンテ2 AUGUST:OSAGE COUNTY
【34】2013年アメリカ 監督:ジョン・ウェルズ 脚本:トレイシー・レッツ
CAST:メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ユアン・マクレガー、ベネディクト・カンバーバッチ、ジュリエット・ルイス
●贅沢な配役が見事に功を奏した一編。決してM・ストリープとJ・ロバーツの取っ組合いを見せるためだけの映画ではない。冒頭のサム・シェパードの「人生は考える以上に長い」というモノローグには悲しみと可笑しさがある。有名な舞台劇だそうだが、家族の悲惨な話の中に笑いが表現出来ているのは作り手たちが人間好きだからだろう。


仁義なき戦い
2014.04.20  TOHOシネマズ日本橋:スクリーン9 ※再観賞
【35】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、川地民夫、田中邦衛、三上真一郎、川谷拓三、金子信雄
●どうしても頭の中でセリフ、ナレーションを諳んじながら観てしまう。もちろん擬音もBGMも。「仁義なき戦い」のすべては私の血肉になっているが、強いて新たな発見というなら、文太も松方、梅宮も、金子信雄までもみんな若いということか。実をいうと全五部作中、“好き度”からいえば3番目になるが、衝撃度は未だ健在だ。
※1973年キネマ旬報ベストテン第2位


白ゆき姫殺人事件
2014.04.20  TOHOシネマズ日本橋:クリーン1
【36】2014年松竹=アスミックエース 監督:中村義洋 脚本:林民夫
CAST:井上真央、綾野剛、菜々緒、染谷将太、蓮佛美沙子、宮地真緒、貫地谷しほり、ダンカン、生瀬勝久
●原作は読まずとも、いかにも湊かなえらしい人間の嫌な部分だけを全面に出したような面白さで最後まで楽しめる。自分はやっていないのでよくわからんが、炎上したTwitterに油を注ぐ奴は正義の使途にでもなったつもりなのだろうか。追従するガヤたちの気持ち悪さをぶっ叩く方向に突出すればもっと良かったのではないか。


名探偵コナン/異次元の狙撃手 <スナイパー>
2014.04.20  TOHOシネマズ日本橋:スクリーン8
【37】2014年東宝=小学館=日本テレビ放送網他 監督:静野孔文 脚本:古内一成
CAST:声)高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、日高のり子、茶風林、緒方賢一、山口勝平、林原めぐみ、福士蒼汰
●悪くはない、悪くはないのだがシリーズも18作目にもなると以前の良くできた「コナン」と比べてしまう。例によって凝った脚本には苦労の跡が見えるのだが、もう少しスナイパーたちの孤高感をじっくりと捻出する絵が欲しかった。また来年もやるとのことなので、もう少しキャラクターを絞ってくれたら劇場版のファンとしては有難い。


落第はしたけれど
2014.04.25 新文芸坐
【38】1930年松竹 監督:小津安二郎 脚本:伏見晃
CAST:斎藤達雄、田中絹代、月田一郎、二葉かほる、笠智衆、横尾泥海男、青木富夫、若林広雄、三倉博
●男子学生っていつの世でもバカだなぁと笑ってしまう。当時は大恐慌に見舞われていたわけだが、小津はカンニングで卒業試験を突破しようと奮戦する大学生たちをほのぼのと描く。昭和初期の無声映画がいかに洋画のモダニズムを志向していたのかが窺えて微笑ましく、暗い世相の中で活動写真が庶民の活力として機能していたのだろう。


浮草物語
2014.04.25 新文芸坐
【39】1934年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄
CAST:坂本武、八雲理恵子、坪内美子、飯田蝶子、三井秀男、突貫小僧、谷麗光、西村青児、懸秀介、笠智衆
●初めて活弁士の語りによる無声映画を堪能。同時に作品の解釈が弁士に委ねられる点で彼らの役割の重要さを改めて認識した。弁士を務めた澤登翠さんは素晴らしかった。その澤登さんの語りと小津の演出で綴られる人情話には何度も琴線を刺激され、最後は圧倒されていた。まさに視覚と聴覚のアンサンブルによる至福の時間だった。
※1934年キネマ旬報ベストテン第1位


一人息子
2014.04.25 新文芸坐
【40】1936年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄、荒田正男
CAST:飯田蝶子、日守新一、葉山正雄、坪内美子、吉川満子、笠智衆、浪花友子、突貫小僧、高松栄子、加藤清一
●小津安二郎の初のトーキー作品で蒲田撮影所最後の作品。そんな記念碑に彩られた作品でも母子の姿を通じて世相に翻弄される人生のアイロニーを活写する。同時に擬音に対するとことんのこだわりに小津のトーキーを模索していた時間が見え隠れして興味深かった。いよいよ俺も小津の世界観が沁みてくる歳になったか、と思う。
※1936年キネマ旬報ベストテン第4位


東京の合唱 <コーラス>
2014.04.28 新文芸坐
【41】1931年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧
CAST:岡田時彦、八雲恵美子、菅原秀雄、高峰秀子、斎藤達雄、飯田蝶子、坂本武、谷麗光、宮島健一、山口勇
●恐慌の真っただ中にありながら会社を馘首された主人公。労働争議をシリアスに描くではなく、子供の二輪車を買ってやるかのやり取りで世相を炙り出す。この無声映画は家族の向こうにある社会を描くのではなく、社会の最小単位である家族だけを描いていく。何も持たざる小市民たちが人生を模索する姿の何と愛おしいことか。
※1931年キネマ旬報ベストテン第3位


戸田家の兄妹
2014.04.28 新文芸坐
【42】1941年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄、小津安二郎
CAST:高峰三枝子、佐分利信、吉川満子、三宅邦子、葛城文子、斎藤達雄、桑野通子、坪内美子、笠智衆
●『東京物語』と似たモチーフだが、富裕家族の悲喜交々の中で生まれるエゴをむき出しに描くのではなく、ちょっとした機微を積み重ねることで膨らませていく名人芸を堪能しつつ、この映画が公開された年の暮れには太平洋戦争へと突入していく現実があり、東京が焼け野原になったときに戸田家の人々がどう生きていくのかも気になった。
※1941年キネマ旬報ベストテン第1位


大学は出たけれど
2014.04.29 新文芸坐
【43】1929年松竹 監督:小津安二郎 脚本:荒牧芳郎
CAST:高田稔、田中絹代、鈴木歌子、大山健二、日守新一、木村健二、坂本武、飯田蝶子、笠智衆
●「大学は出たけれど」というフレーズは有名で、自分もたまに自虐的に使っている。随所に若き小津のモダン志向が見えているだけに、フィルムの大半が失われていたのは残念。当時の大卒の就職率は30%を割っていたのだと活弁士の解説があり、なるほど『落第はしたけれど』の卒業試験合格組が味わった悲哀はこういうことかと納得した。


大人の見る繪本 生まれてはみたけれど
2014.04.29 新文芸坐
【44】1932年松竹 監督:小津安二郎 脚本:伏見晃
CAST:菅原秀雄、突貫小僧、斎藤達雄、吉川満子、坂本武、加藤清一、小藤田正一、西村青児、飯島善太郎、笠智衆
●音楽だけのバージョンと弁士が入ったバージョンで二度観た。こういう贅沢な観賞はシネコンでは出来ない。子供たちの目線で大人社会の矛盾を皮肉っているのが面白かったが、ラストで子供たちの後ろ姿に「末は博士か大臣か」と入れた弁士の名調子を聞きながら、彼ら世代の子供たちの多くは戦争に招集されたことを思うと胸が痛くなる。
※1932年キネマ旬報ベストテン第1位


長屋紳士録
2014.04.29 新文芸坐
【45】1947年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄、小津安二郎
CAST:飯田蝶子、青木放屁、小沢栄太郎、河村黎吉、吉川満子、笠智衆、坂本武、高松栄子、長船フジヨ、河賀祐一
●小津安二郎、戦後復帰第一作だが、描かれるのはチャップリンの『キッド』のおばさん版ともいうべき長屋人情もの。時代が変革しつつも小津の作風の揺るぎなさに周囲は驚嘆したのだという。激動の昭和を生きながらも人の情や家族の在り方を追求してきた名匠の面目躍如なのだろう。上野の西郷像に群がる子供たちは戦災孤児なのか。
※1947年キネマ旬報ベストテン第4位


宗方姉妹
2014.04.30 新文芸坐
【46】1950年新東宝 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:田中絹代、高峰秀子、上原謙、山村聰、高杉早苗、笠智衆、堀雄二、斎藤達雄、藤原釜足、坪内美子、千石規子
●松竹ではなく新東宝。さらに新聞小説に原作を求めた小津映画ということで、いつもとの色合いの違いを興味津々で観た。ペーソスもぐっと抑えて京都、奈良、神戸、箱根、東京と疾走して先の展開がまったく読めないのも楽しい。この疾走感を高峰秀子のエキセントリックな演技が加速させる。スターありきの小津も一興だった。
※1950年キネマ旬報ベストテン第7位


浮 草
2014.04.30 新文芸坐
【47】1959年大映 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:中村鴈治郎、京マチ子、若尾文子、川口浩、杉村春子、野添ひとみ、三井弘次、田中春男、浦辺粂子、笠智衆
●記録では20数年前に並木座で観ている筈だが殆ど憶えていなかった『浮草物語』のリメイク。弁士の語り口に堪能した前作と比べても仕方ないが、改めて観るとうらぶれた信州の山間の町から一転、紀伊半島の海辺の町へ。大映演技陣たちの小津映画へのアプローチと名手宮川一夫のカメラで鮮烈なテイストになっており、これもまた一興だ。


出来ごころ
2014.05.01 新文芸坐
【48】1933年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄
CAST:坂本武、突貫小僧、大日方伝、伏見信子、飯田蝶子、谷麗光、西村青児、加藤清一、山田長正、笠智衆
●この作品には様々な「出来ごころ」が重層している。無声映画時代に坂本武が演じる「喜八」を主人公とした“喜八もの”の系譜があることを今回知ったのだが、『浮草物語』同様、リアリズムよりも浪花節調の人情話の色合いになっているのは活弁士の語りが入ったからばかりでもないだろう。むしろ山田洋次まで綿々と続く松竹の伝統を思った。
※1933年キネマ旬報ベストテン第1位


父ありき
2014.05.01 新文芸坐
【49】1942年松竹 監督:小津安二郎 脚本:池田忠雄、柳井隆雄、小津安二郎
CAST:笠智衆、佐野周二、坂本武、水戸光子、佐分利信、津田晴彦、日守新一、西村青児、谷麗光、河原侃二
●音声がひどく、聞き取り辛い状態が残念だったが、雑音ラジオから言葉を探すように画面に集中した。これはもう間違いなく傑作。ドラマチックな急展開や特別なエピソードがあるわけでもなく、父と子の交流とその思いが淡々と綴られていくなかで、ラストなど訪れずに、この親子の親密な時間が永遠に続けばいいのにとさえ思う。
※1942年キネマ旬報ベストテン第2位


彼岸花
2014.05.03 新文芸坐 ※再観賞
【50】1958年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:佐分利信、田中絹代、有馬稲子、山本富士子、久我美子、佐田啓二、高橋貞二、桑野みゆき、中村伸郎、笠智衆
●学生時代に『東京物語』『麦秋』と三本立で観たが内容は殆ど忘れていた。とにかく芸術祭参加作品だろうがなんだろうが、立ち見が出る大盛況の中で名監督と名優と大女優たちが織りなす絢爛なまでの“他愛のない”家族の物語を大いに楽しんだ。ペーソスだけではなく、「楽しい」のも小津映画の重要なファクターであることを再認識する。
※1958年キネマ旬報ベストテン第3位


秋日和
2014.05.03 新文芸坐 ※再観賞
【51】1960年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:原節子、司葉子、岡田茉莉子、佐分利信、佐田啓二、沢村貞子、中村伸郎、北竜二、桑野みゆき、三宅邦子、笠智衆
●初めて観たのが30年前で、その時のあまりの面白さに自分の中でナンバーワン小津映画だと決めつけていたが、今観ると勝手気ままに「婿探し」に奔走するおっさんたちの無邪気さに少しイラっと来た(笑)。内容以上に独特の色彩感覚と調度品や意匠へのこだわりが素晴らしく、全編に「小津安二郎の図像学」が息づいていることを実感。
※1960年キネマ旬報ベストテン第5位


風の中の牝雞
2014.05.03 新文芸坐
【52】1948年松竹 監督:小津安二郎 脚本:斎藤良輔、小津安二郎
CAST:田中絹代、佐野周二、村田知英子、笠智衆、坂本武、高松栄子、水上令子、文谷千代子、長尾敏之助、清水一郎
●終戦直後の極貧の中で幼児を抱えた女が体を売る。やがて復員してきた夫との確執と苦悩。ここまでストレートに現実の状況を描いた小津作品は初めて観た。階段から突き落とされる田中絹代に驚いたが、月島や勝どきの荒涼とした風景に小津が繰り返し描いてきた東京の風景があり、煙突の煙は新しい時代へとたなびいているようだった。
※1948年キネマ旬報ベストテン第7位


東京暮色
2014.05.03 新文芸坐
【53】1957年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:原節子、有馬稲子、山田五十鈴、杉村春子、高橋貞二、笠智衆、信欣三、藤原釜足、山村聰、宮口精二
●先ず物語の暗い後味に驚いた。一度も笑わない有馬稲子。映像に散りばめられた暗喩のひとつひとつが恐ろしいもののように思えてくる。これほどまで「死」の影がちらつく小津映画も珍しく、家族を見つめ続けた小津が、崩壊しても記憶の中の家族が死ぬまで呪縛し続けることで、ある種、家族の再生と継続を現出させたのだろうか。


アナと雪の女王
2014.05.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 Frozen
【54】2013年アメリカ 監督:クリス・バック、ジェニファー・リー 脚本:ジェニファー・リー、シェーン・モリス
CAST:(声吹替)神田沙也加、松たか子、原慎一郎、ピエール瀧、津田英佑、多田野曜平、安崎求、北川勝博
●メガヒットの評判を聞いてレイト上映に滑り込んだ。ディズニーアニメを観た回数ならディズニーランドへ出掛けた回数の方が多いが、同時上映された短編『ミッキーのミニー救出大作戦』からすでにワールドへ引き込まれていた。このCGアニメの何が凄いかといえば、アメリカの伝統的ショービジネスの王道で圧倒させることに尽きよう。


WOOD JOB! 神去なあなあ日常
2014.05.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3
【55】2014年TBS=博報堂=日活=徳間 監督:矢口史靖 脚本:矢口史靖
CAST:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、マキタスポーツ、小山三郎、近藤芳正、光石研、柄本明
●いやはや染谷将太に降りかかる災難の数々に大いに笑わせてもらった。矢口史靖が珍しく題材を原作に求めたのが三浦しをんの小説と知ったときは驚いたものの、原作そのままの展開で映像化しても十分に面白かろうものを、矢口流のエンターティメントに脚色してカラっと楽しく仕上げている。やや喜劇に偏り過ぎたのが気になかったが。


ルパン三世・カリオストロの城 <デジタルリマスター版>
2014.05.16 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン4 ※再観賞
【56】1979年トムス・エンタテインメント=東宝 監督:宮崎駿 脚本:宮崎駿、山崎晴哉
CAST:(声)山田康雄、納谷悟朗、小林清志、井上真樹夫、増山江威子、島本須美、石田太郎、永井一郎
●原作漫画の毒気がないといわれながら、やはり金字塔だと思う。古塔に虜らわれた姫を救う冒険大活劇ロマンとして決して古びることはない。宮崎駿30代の若さがルパンを銭形をカリオストロ伯爵とその執事ジョドーを躍動させる。それらの声を熱演した人たちはすでにこの世にいないが、彼らとスクリーンで再会出来たことも嬉しく思う。


レオン <完全版>
2014.05.16 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン4 LEON:The Professional Uncut International Version
【57】1994年フランス=アメリカ 監督:リュック・ベッソン 脚本:リュック・ベッソン
CAST:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン、ダニー・アイエロ、ピーター・アペル
●ビデオ屋時代にずっとパッケージを見続けながらも、私の映画観賞の「穴」だった。いつか劇場で観てやろうと映画に関する情報を遮断し続けて20年。それにしてもレオンとマチルダがここまで衝撃的でスタイリッシュでキュートだったのは想像以上だった。大遅刻の劇場鑑賞だったが、今はようやく課題を成就したとの達成感で大満足だ。


あなただけ今晩は
2014.05.24 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Irma la Douce
【58】1963年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、I・A・L・ダイアモンド
CAST:ジャック・レモン、シャーリー・マクレーン、ルー・ジャコビー、ハーシェル・ベルナルディ、ホープ・ホリディ
●まず劇場で観られたことに感謝。ワイルダーとI・A・L・ダイアモンドの名コンビがいて、対岸にレモンとマクレーンの名コンビがいる。ふたつのコンビが互いに響き合うアンサンブルだけで幸せな気分になれる。この邦題を考えた人にも拍手を送りつつ、字幕の「余談だがね」の言い回し、ここは有名な「それは別のお話」にするべきでしょう。


ぼくたちの家族
2014.05.30 109シネマズグランベリーモール:シアター7
【59】2014年ファントムフィルム 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:妻夫木聡、池松壮亮、原田美枝子、長塚京三、黒川芽以、鶴見辰吾、板谷由夏、市川実日子、ユースケ・サンタマリア
●嫌な場面がいっぱい出て来たが、まったく嫌いにはならなかった。上映中、早く終わってくれと内心思いながら、まだ終わらないでくれとも願っていた。情けなさを噛みしめながら突き進んでいく男たちの足掻きを、太陽のように見つめる母の笑顔。結局、ますます石井裕也が凄くなってゆく117分を味わっていたのだろう。
※2014年キネマ旬報ベストテン第5位


羅生門
2014.05.31  TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ※再観賞
【60】1950年大映 監督:黒澤明 脚本:橋本忍、黒澤明
CAST:三船敏郎、京マチ子、森雅之、志村喬、千秋実、上田吉二郎、加東大介、本間文子
●この映画のイメージは今も昔もギラギラと照りつける太陽だ。太陽だけが藪の中の真実を知っている。その太陽の代わりに人間の愛欲とエゴを名手・宮川一夫のカメラが照射する。しかしヒューマニズムでかわしたラストシーンはどうしても好きになれない。早坂文雄の音楽もうるさすぎる。最高傑作となるべく作品だったと思うのだが。
※1950年キネマ旬報ベストテン第5位


幕末太陽傳 <デジタル修復版>
2014.06.07  TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1 ※再観賞
【61】1957年日活 監督:川島雄三 脚本:川島雄三、田中啓一、今村昌平
CAST:フランキー堺、左幸子、南田洋子、石原裕次郎、金子信雄、山岡久乃、岡田真澄、芦川いづみ、二谷英明、小林旭
●学生時代に観て以来、ずっとこの映画の本当の粋、洒脱、凄味に気づかず過ごしてきたことをまず恥じたい。同時に新文芸座の川島雄三特集を見逃したことは痛恨の極みだ。品川宿相模屋の豪華なセット、役者たちの演技、なにより人間の儚さを知り尽くしながら、尚しぶとく生き抜くことを誓う佐平次の生命力に身震いした。天晴れだ。
※1957年キネマ旬報ベストテン第4位


ゴジラ <60周年記念デジタルリマスター版>
2014.06.07  TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 ※再観賞
【62】1954年東宝 監督:本多猪四郎 脚本:村田武雄、本多猪四郎
CAST:宝田明、河内桃子、志村喬、平田昭彦、堺左千夫、村上冬樹、山本廉、林幹、恩田清二郎、菅井きん
●空襲や戦争の生々しい記憶が反映されている点で『ゴジラ』シリーズの原点にして最高傑作であることは間違いないと思う。しかしますます国宝級の評価を受けている作品とはいえ、細部の不得要領に目を瞑り、反核精神の崇高さを独り歩きさせ過ぎてはいないだろうか。金字塔ではあるが特撮怪獣映画の最高傑作だとは思っていない。


インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌
2014.06.12  TOHOシネマズ シャンテ3 Inside Llewyn Davis
【63】2013年アメリカ=フランス 監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン 脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
CAST:オスカー・アイザック、キャリー・マリガン、ジョン・グッドマン、ギャレット・ヘドランド、F・マーリー・エイブラハム
●かつてP・マザースキーが描いた懐古的なそれではなく、1961年のリアルな息づかいに溢れるグリニッジ・ヴィレッジ。街をさまようだけのシンガーにコーエン兄弟が託したのもは時代の夢ではなく道標に過ぎないのだとしても、そこには紛れもなく足掻き続けた人生がある。一生懸命に足掻く人はとても可笑しいし、まったく素晴らしい。
※2014年キネマ旬報ベストテン第8位


グランド・ブタペスト・ホテル
2014.06.12  TOHOシネマズ シャンテ1 The Grand Budapest Hotel
【64】2013年ドイツ=イギリス 監督:ウェス・アンダーソン 脚本:ウェス・アンダーソン
CAST:レイフ・ファインズ、トニー・レヴォローリ、F・マーリー・エイブラハム、ジュード・ロウ、エイドリアン・ブロディ
●前作同様に固定カメラが捉える絵本のような映像で描かれるドタバタ劇。遠からず『ムーンライズ・キングダム』と混合してしまうのだろうが、その世界観の豊饒さで本作はずば抜けている。さらに数カットにとんでもない描写を放り込んで来るのだから油断出来ない。賑やかなキャストたちのいつもと違う引き出しが見られるのも楽しい。


私の男
2014.06.24 TOHOシネマズ川崎:スクリーン1
【65】2014年日活=ハピネット 監督:熊切和嘉 脚本:宇治田隆史
CAST:浅野忠信、二階堂ふみ、藤竜也、河井青葉、山田望叶、高良健吾、モロ師岡、三浦誠己、三浦貴大
●冒頭で流氷から現れる二階堂ふみ。彼女の怪物ぶりを強調させる演出に二ヤリだったが、この稀有な女優が次第に映画を支配し始めると、却って過剰な装飾が邪魔くさくなる。血の雨が降る濡れ場あたりから冷めてきて、やがて作品が自分の思いと乖離していくのを止めることが出来なかった。全体の世界観は嫌いではないが残念だった。
※2014年キネマ旬報ベストテン第7位


日本暗殺秘録
2014.07.02 シネマヴェーラ渋谷
【66】1969年東映 監督:中島貞夫 脚本:笠原和夫、中島貞夫
CAST:千葉真一、片岡千恵蔵、田宮二郎、若山富三郎、鶴田浩二、高倉健、藤純子、菅原文太、桜町弘子、里見浩太郎
●この映画がようやく我が観賞記録に加わる。笠原和夫に「暗殺を超える思想はあるのか?」と問われても答えようはないが、キワものスレスレのところでテロリズムに決起する若者の一瞬の輝きは描き切ったと思う。テロリストたちが豪華すぎて目が眩むが、千葉真一が当初は大友勝利ではなく山中正治で配役されていた理由が納得出来た。


チャイナタウン
2014.07.05 TOHOシネマズ海老名 スクリーン7 Chinatown ※再観賞
【67】1974年アメリカ 監督:ロマン・ポランスキー 脚本:ロバート・タウン
CAST:ジャック・ニコルソン、フェイ・ダナウェイ、ジョン・ヒューストン、ペリー・ロペス、ベリンダ・パーマー
●鼻を切られるニコルソン。エルロイの小説ではないがL.Aの牧歌的風景の奥底にある闇をあの絆創膏が象徴していたのではないか。まだ日本にエンターティメントという言葉が浸透する前夜にポランスキーが描くズキズキとする痛み。20代で観た時はそれほどではなかったが、こういう映画は歳を食ってからの方が楽しめるのかも知れない。


沖縄やくざ戦争
2014.07.09 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【68】1976年東映 監督:中島貞夫 脚本:高田宏治、神波史男
CAST:松方弘樹、千葉真一、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、地井武男、成田三樹夫、室田日出男、新藤恵美、尾藤イサオ、片桐竜次
●35年ぶりの観賞。当時は深作以外の実録ものに全然面白さが見出せず、これも中島貞夫の失敗作との印象だったが、さすが高田宏治、神波史男の脚本コンビが実録もののキモを押さえており、改めてバイオレンス映画の佳作には仕上がっていたのだと再認識した。ただ沖縄に土着するやくざたちの精神風土の掘り下げの甘さが残念だった。


カミカゼ野郎 真昼の決斗
2014.07.09 シネマヴェーラ渋谷
【69】1966年台湾=にんじんくらぶ=東映 監督:深作欣二 脚本:深作欣二、太田浩児、池田雄一
CAST:千葉真一、高倉健、白蘭、大木実、相馬剛三、国景子、易原、許三、沢彰謙、関山耕司、室田日出男
●ようやく観た。昔、名画座をめぐりながら「次週上映」で何度かこの映画のポスターを見た。それでもなかなか食指が動かなかったことには当時なりに勘があったのだと思う。実際観てその勘は当たっていた。千葉チャンが空に陸に海にとアクションを繰り広げるも深作演出が軽い。『キイ・ハンター』並みの熱量しか注いでいなかったようだ。


渇き。
2014.07.18 TOHOシネマズ渋谷 スクリーン6
【70】2014年ギャガ=リクリ 監督:中島哲也 脚本:中島哲也、門間宣裕、唯野未歩子
CAST:役所広司、小松菜奈、妻夫木聡、清水尋也、二階堂ふみ、橋本愛、國村隼、黒沢あすか、オダギリジョー、中谷美紀
●激しい映画だが激しい描写をまとめただけのようにも見える。役所広司は熱演だったが、熱演している人を演じただけのようにも思える。はっきりいってクソみたいな映画。だが一方で日本映画がますます面白くなっていく息吹も感じる。息吹を感じさせる映画は嫌いではない。さあて中島哲也よ次は何を目指す。


ニッポン無責任時代
2014.07.19 TOHOシネマズ海老名 スクリーン7
【71】1967年東宝 監督:古沢憲吾 脚本:田波靖男、松木ひろし
CAST:植木等、重山規子、ハナ肇、谷啓、久慈あさみ、峰健二、由利轍、藤山陽子、田崎潤、安田伸、犬塚弘、団令子
●植木等が如何に偉大なエンターティナーであったのかを再認識。そうだ日本映画にミュージカルは無理でも「歌謡映画」という輝かしいジャンルがあったのだった。主人公の平均は高度成長まっしぐらの時代に突然現れた亜種のように思えるが、無責任という名の究極の個人主義者でありグローバルスタンダードの先駆者だった。


砂の器
2014.07.20 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1 ※再観賞
【72】1974年松竹=橋本プロ 監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍、山田洋次
CAST:丹波哲郎、加藤剛、緒形拳、加藤嘉、島田陽子、森田健作、佐分利信、笠智衆、渥美清、山口果林、春田和秀
●真夏のクソ暑い中、汗だくの外回りで同僚と「まるで砂の器だな」と自嘲したように、我々世代にこの映画の存在感は抜群だった。個人的には評価は高くなく、今更『砂の器』かよ、と思いながらも32年ぶりの再会。今回、3回目にして丹波哲郎があまりに良かったことと、脚本とドラマツゥルギーの巧さに改めて感服。もっといえば感涙した。
※1974年キネマ旬報ベストテン第2位


俺たちに明日はない
2014.07.25 TOHOシネマズ六本木ヒルズ:PREMIER Bonnie and Clyde
【73】1967年アメリカ 監督:アーサー・ペン 脚本:デイヴィッド・ニューマン、ロバート・ベントン
CAST:ウォーレン・ベイティ、フェイ・ダナウェイ、ジーン・ハックマン、マイケル・J・ポラード、エステル・パーソンズ
●私的に今回の映画祭の目玉。思えばハチの巣になるボニーとクライドのラスト場面をいたずらに目にしただけで、恥知らずにもこの代表作を見ないままニューシネマを何度語ってきたことだろう。ギャング映画でありながら一種の青春映画に思えるのは、この映画がある時代のアメリカ映画の青春だからだ。あの時代の青春はみんな儚かった。
※1968年キネマ旬報ベストテン第1位


GODZILLA ゴジラ
2014.07.26 TOHOシネマズ海老名 :スクリーン1  GODZILLA
【74】2014年アメリカ 監督:ギャレス・エドワーズ 脚本:マックス・ボレンスタイン、デヴィッド・キャラハム
CAST:アーロン・テイラー=ジョンソン、渡辺謙、エリザベス・オルセン、ジュリエット・ビノシュ、サリー・ホーキンス
●CGのスケール感にもう驚くことはないが、しっかりした世界観は感じられた。とくに怪獣が身体を掠めて行く質感は秀逸。前回のイグアナ型よりはゴジラらしかったが、やはりゴジラではなくGODZILLAだ。そのGODZILLAの役割が東宝ゴジラというより、ギャオス退治の宿命を担う平成ガメラを彷彿とさせたのは不思議だったが。


黄 昏
2014.08.3 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3 On Golden Pond ※再観賞
【75】1981年アメリカ 監督:マーク・ライデル 脚本:アーネスト・トンプソン
CAST:ヘンリー・フォンダ、キャサリン・ヘプバーン、ジェーン・フォンダ、ダグ・マッケオン、ダブニー・コールマン
●二十歳の頃に見過ごしてきたことが随所で沁みてくる。それにしても公開当時は父娘の和解が話題になっていたが、やはりキャサリン・ヘプバーンが実に偉大だったという映画。オスカー4度受賞の大女優のオーラを隠しつつ、妻・エセルの一家における存在感をものの見事に表現している。ここがメリル・ストリープに一番欠けている点だ。
※1982年キネマ旬報ベストテン第4位


思い出のマーニー
2014.08.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6
【76】2014年ジブリ=東宝=日テレ=ディズニー他 監督:米林宏昌 脚本:丹羽圭子、安藤雅司、米林宏昌
CAST:(声)高月彩良、有村架純、松嶋菜々子、寺島進、根岸季衣、森山良子、吉行和子、黒木瞳、杉咲花、大泉洋、安田顕
●これがジブリの中でどんな位置を占めるかわからないが、率直に素晴らしいと思った。「成長物語」と言うが、なにをもって成長なのかといえば「許す」ことではないのか。マーニーは杏奈の「許す!」との叫びを聞くために現れたのかもしれない。種田陽平の美術が細部に行き渡り、米林監督の息使いと呼応しながら瑞々しい映画になった。


幸福の黄色いハンカチ
2014.08.15 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1 ※再観賞
【77】1977年松竹 監督:山田洋次 脚本:山田洋次、朝間義隆
CAST:高倉健、倍賞千恵子、武田鉄矢、桃井かおり、渥美清、たこ八郎、小野泰次郎、太宰久雄、岡本茉利、赤塚真人
●高校、大学と2度観て、山田洋次の世界観を否定することで尖った映画青年を気取っていたのだと思う。もうそういう勝手な枷も無くなり、ありのまま受け入れるようになると、今度は嗚咽が漏れぬようにそれこそ黄色いハンカチが欲しかった。これが成長と見るか後退と見るかはわからないが。古びないロードムービー名作だと改めて思う。
※1977年キネマ旬報ベストテン第1位


オズの魔法使
2014.08.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Wizard of Oz ※再観賞
【78】1937年アメリカ 監督:ヴィクター・フレミング 脚本:ノエル・ラングリー、フローレンス・ライアソン他
CAST:ジュディ・ガーランド、フランク・モーガン、レイ・ボルジャー、バート・ラー、ジャック・ヘイリー、ビリー・バーク
●今のファンタジー映画はことごとくスルーしているのだが、およそ30年ぶりに観て、三原色テクニカラー画面の芳醇なことに驚いた。どうしてもこの色彩感覚を昭和14年の段階で完成させていたハリウッドの底力に感服したとありきたりな感想となる。ただあまりのファンタジックな映像に意識がオーバー・ザ・レインボーしかかってしまったが。


ホットロード
2014.08.22 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10
【79】2014年松竹=日テレ 監督:三木孝浩 脚本:吉田智子
CAST:能年玲奈、登坂広臣、木村佳乃、小澤征悦、鈴木亮平、太田莉菜、竹富聖花、落合モトキ、鷲尾真知子、松田美由紀
●原作が28年も前の少女コミックだからとは関係なく、いい大人たちが寄ってたかって、大人の目線から思春期の少女と暴走族リーダーとの純愛物語をしつらえている。こうなると殆ど大人の妄想ファンタジーだ。いっそのこと能年玲奈ショーに徹して、彼女に国道134号線を思いっきり駆け回らせれば、もう少し面白い映画になったのではないか。


細 雪
2014.08.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ※再観賞
【80】1983年東宝 監督:市川崑 脚本:市川崑、日高真也、(和田夏十)
CAST:岸惠子、佐久間良子、吉永小百合、古手川祐子、伊丹十三、石坂浩二、岸部一徳、桂小米朝、江本孟紀、小坂一也
●30年前も凄ぶる面白かった。この度も色褪せることのない豊潤な作品世界を堪能した。エンタティメントとして成熟していると思うのは、家族の些細な出来事を小津の名人芸と対抗するように市川崑は多彩なテクニックで描いている点だ。四姉妹たちが実にキャラ立ちし、とくに長女と次女の掛け合いは、いつ思い出しても楽しい。
※1983年キネマ旬報ベストテン第2位


TOKYO TRIBE
2014.08.31 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7
【81】2014年日活 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:鈴木亮平、YOUNG DAIS、清野菜名、窪塚洋介、染谷将太、佐藤隆太、竹内力、叶美香、中川翔子、でんでん
●これを100人が観たら(最高!10、面白い20、よくわかんねぇ30、つまんねぇ20、嫌い20)くらいの配分になるか。こっちは真ん中に与するのはつまらないので何とか両端に座りたいと思うのだが、園子温が「世界初のバトル・ラップ・ミュージカル」で遊びたいのならば、否定はしないものの、決して期待するものにはならない気がした。


LUCY/ルーシー
2014.09.03 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3 LUCY
【82】2014年フランス 監督:リュック・ベッソン 脚本:リュック・ベッソン
CAST:スカーレット・ヨハンソン、モーガン・フリーマン、アナリー・ティプトン、チェ・ミンシク、ジュリアン・リンド=タット
●人間が脳の10%しか使っていないとよく聞くが、恥ずかしながら20%使えれば東大入学も楽勝ぐらいの発想しかなかった。それが40%くらいになると物凄いことになるようだ。アクションを気軽に観たい人にも「人類とは何か」を哲学したい人にも楽しめるように出来ている。でも小難しく考えるくらいならスカヨハの表情を観ていた方がいい。


野のなななのか
2014.09.04 目黒シネマ
【83】2014年芦別映画製作委員会 監督:大林宣彦 脚本:大林宣彦、内藤忠司
CAST:品川徹、寺島咲、常盤貴子、左時枝、安達祐実、山崎紘菜伊藤孝雄、村田雄浩、松重豊、窪塚俊介、大久保運
●171分というボリュームに死と生が巡回し、混沌としながら戦争を故郷を家族を描く大林宣彦76歳の最新作。相変わらず過去と未来を縦断しつつ時間軸が激しくぶれ、映像も音も芝居も台詞も実に饒舌。しかしそのすべてが琴線に触れまくり、むしろ静謐な印象さえ与える。楽団が奏でる主題曲が心を揺さぶり、今も頭の中で鳴り響く。
※2014年キネマ旬報ベストテン第4位


この空の花 -長岡花火物語
2014.09.04 目黒シネマ
【84】2012年「長岡映画」製作委員会 監督:大林宣彦 脚本:大林宣彦、長谷川孝治
CAST:松雪泰子、高嶋政宏、原田夏希、猪股南、寺島咲、柄本明、尾美としのり、笹野高史、草刈正雄、藤村志保、富司純子
●中越地震をきちんと描いたことに拍手しつつ、長岡がこの規模の空襲に見舞われたことの無知も恥じたい。このように長岡の大花火大会の由来も含めて物凄い量の情報とメッセージに面喰い、とても一度では消化できないもどかしさを感じる。それでいて、今は大林宣彦の最高傑作かもしれないとの思いが脳裏を先走るので困っているのだ。


イントゥ・ザ・ストーム
2014.09.05 109シネマズ グランベリーモール:シアター3 INTO THE STORM
【85】2014年アメリカ 監督:スティーヴン・クォーレ 脚本:ジョン・スウェットナン
CAST:リチャード・アーミティッジ、サラ・ウェイン・キャリーズ、マット・ウォルシュ、アリシア・デブナム=カーレイ
●薄っぺらなキャラクターにとってつけたようなヒューマニズム。悲しいかな18年前の『ツイスター』の頃のカタルシスを感じることは出来なくなってしまっている。しかしCGだろうがなんだろうが、巨大竜巻によるパニック描写は迫力十分で、89分のタイトな尺も有難い。もしかしたら、今、災害を仮想体験しておくのは必要かもしれない。


舞妓はレディ
2014.09.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9
【86】2014年フジテレビ=東宝=アルタミラピクチャーズ 監督:周防正行 脚本:周防正行
CAST:上白石萌音、富司純子、長谷川博己、田畑智子、草刈民代、渡辺えり、竹中直人、高嶋政宏、濱田岳、岸部一徳
●周防にしては随分と平板な脚本だと思いながら、最後までキャストの力に委ねた演出は正解だったか。純子さんの歌声を久々に聴いたが、「緋牡丹博徒」のイントロには驚いた。彼女がずっと演じて来た芸妓の系譜があればこその萌音ちゃんのお店出しだった。純子さんへのオマージュと上白石萌音という素材がこの映画のすべてだろう。


マルティニークからの祈り
2014.09.21  TOHOシネマズ シャンテ3 집으로 가는 길/Way Back Home
【87】2013年韓国 監督:パン・ウンジン 脚本:ユン・ジノ
CAST:チョン・ドヨン、コ・ス、カン・ジウ、ペ・ソンウ、コリンヌ・マシエロ
●シャンテを信用して一切の予備知識もなく開巻直前に飛び込んだら、いきなりのハングルに驚いた。実話とはいえ、こういうスケールの日本映画が作られないことが残念。『ミッドナイト・エクスプレス』の韓国女性版の趣か。130分を一気に見せてしまうのには感服。強いていえばもっと韓国の国情が色濃く表現されたドラマが観たかった。


旅 情
2014.09.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7  Summertime ※再観賞
【88】1955年イギリス=アメリカ 監督:ディヴッド・リーン 脚本:ディヴッド・リーン、H・E・ベイツ
CAST:キャサリン・ヘプバーン、ロッサノ・ブラッツィ、イザ・ミランダ、ダレン・マッガヴィン、マリ・アルドン
●「観光旅行映画」とは残念な映画を揶揄する表現だが、あの有名なラストシーンに至るまで、これほどベニスの街々を巨匠に活写されたら文句はいえない。そもそも『旅情』も残念な邦題だと思っていたが、この邦題以外に何てつければいいのだ。悲恋には違いないが、間違いなく人生の僥倖として二人の中でずっと輝き続けることだろう。
※1955年キネマ旬報ベストテン第5位


情 婦
2014.09.24 シネマヴェーラ渋谷渋谷 Witness for the Prosecution ※再観賞
【89】1958年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、ハリー・カーニッツ
CAST:タイロン・パワー、マレーネ・ディートリッヒ、チャーズ・ロートン、ジョン・ウィリアムス、エルザ・ランチェスター
●3年前に「午前十時~」で観た時、ドンデン返しに目を奪われてワイルダーの名人芸を把握したとは言い難く、この機会に名匠の演出術に特化して観た。うーん素晴らしい。伏線の張り方から小道具の活かし方まで心の底から堪能した。何に故にここまで人物の背景まで描き切れるのか。「一生ついていきます」と宣言してしまおう。


ジャージー・ボーイズ
2014.09.28 TOHOシネマズららぽーと横浜 スクリーン7 JERSEY BOYS
【90】2014年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:マーシャル・ブリックマン、リック・エリス
CAST:ジョン・ロイド・ヤング、エリック・バーゲン、マイケル・ロメンダ、V・ピアッツァ、クリストファー・ウォーケン
●もう間違いない傑作。舞台ミュージカルの映画化だったのは観終わってから知ったが、ずっとミュージシャンをリスペクトしてきたイーストウッドらしく、伝記映画としても卓抜している。過度に入り込まず、さりとて突き放さずにフランキー・ヴァリとフォー・シーズンズの終わらない青春を刻んでいる。そもそも彼の演出は常に音楽的なのだ。
※2014年キネマ旬報ベストテン第1位


合衆国最後の日
2014.10.06 ギンレイホール  Twilight's Last Gleaming  ※再観賞
【91】1977年アメリカ=西ドイツ 監督:ロバート・アルドリッチ 脚本:ロナルド・M・コーエン、E・ヒューブッシュ
CAST:バート・ランカスター、リチャード・ウィドマーク、チャールズ・ダーニング、ポール・ウィンフィールド、バート・ヤング
●ベタな邦題のせいで?知名度は今ひとつだが1977年の私のベストワンだった。高校時代はあの分割画面に大興奮したが、ほぼ40年の経年変化か、あまりにアナログな画面に戸惑ってしまった。しかしアルドリッチ叔父が放った男塾にデジタルは似合うまい。こういう企画で上映されることで見ている人は見ているのだと分かったのが嬉しい。


恐怖の報酬
2014.10.13 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Le Salaire de la peur
【92】1953年フランス 監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 脚本:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー
CAST:イヴ・モンタン、シャルル・ヴァネル、フォルコ・ルリ、ペーター・ファン・アイク、ヴェラ・クルーゾー、ダリオ・モレノ
●紙巻き煙草を吹き飛ばす爆風の衝撃。77年のW・フリードキンによるリメイクは観たが、このオリジナル版ほど過酷だったろうか。カンヌとベルリンを制した名作だが、後続の娯楽映画にどれだけ影響を与えたことやら。汗まみれの男たちの欲望、恐怖、猜疑、絶望がギラつくモノクロ画面にズキズキと痛みとなって観客の脳裏を直撃する。
※1954年キネマ旬報ベストテン第2位


ふしぎな岬の物語
2014.10.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2
【93】2014年東映=TBS 監督:成島出 脚本:加藤正人、安倍照雄
CAST:吉永小百合、阿部寛、竹内結子、笑福亭鶴瓶、小池栄子、笹野高史、春風亭昇太、吉幾三、石橋蓮司、米倉斉加年
●悦子が周囲の人々の悲喜交々に寄り添うように触れ合っていく前半のリズムが、彼女自身のドラマに収斂されていくと俄然、吉永小百合が頭をもたげてきてリズムを壊わしていく。それでも阿部寛、鶴瓶ら共演者たちに支えられているようで、実は踏み台にして「小百合映画」にまとめてしまうあたりは大女優の大女優たる所以なのか。


関の彌太ッペ
2014.10.20 新文芸坐
【94】1963年東映 監督:山下耕作 脚本:成澤昌茂
CAST:中村錦之助、木村功、十朱幸代、大坂志郎、夏川静江、鳳八千代、遠藤辰雄、岩崎加根子、安倍徹、月形龍之介
●白い花びらが繋ぐ十年の歳月。そして弥太郎の深く刻まれた頬の傷・・・。劇場で観賞する機会をどれだけ待ち焦がれたことか。そして“花の山下美学”をシネスコの大画面で堪能するのはいつ以来のことだろう。娘の「旅人さーん」と呼ぶ声を背に受け、死地へと向かう錦之助のカッコ良さ。何て痺れさせてくれるのか。これぞ映画、股旅映画の至宝。


沓掛時次郎・遊侠一匹
2014.10.20 新文芸坐 ※再観賞
【95】1966年東映 監督:加藤泰 脚本:鈴木尚之、掛札昌裕
CAST:中村錦之助、池内淳子、東千代之介、岡崎二朗、中村信次郎、弓恵子、三原葉子、清川虹子、阿部九洲男、渥美清
●のっぴきならぬ渡世の義理で斬った相手に託された男の宿命。長谷川伸の世界観に寄り添う様式美の中で加藤泰の斬新な才気が迸る。丁度30年ぶりの再会だが加藤泰十八番のローアングルもまったく古びていない。しかし結局、徹頭徹尾、錦之助によるスター映画であることで真っ当に輝いている。その孤高の光が今は愛おしい。


真田幸村の謀略
2014.11.11 新文芸坐 ※再観賞
【96】1979年東映 監督:中島貞夫 脚本:笠原和夫、松本功、田中陽造、中島貞夫
CAST:松方弘樹、萬屋錦之介、片岡千恵蔵、あおい輝彦、寺田農、高峰三枝子、梅宮辰夫、真田広之、岩尾正隆、丹波哲郎
●少なからぬ金と人を投下して大掛かりな大作に仕上げたものの、その荒唐無稽さゆえに自爆した映画。35年前に観た印象と殆ど変りなかったものの、京都撮影所が本気で観客を楽しませようと躍起になっていたの微笑ましい。徳川の大権力に歯向かう草の根レジスタンスとして真田丸を描く中島貞夫の意図が十分描き切れたとはいい難いが。


大奥物語
2014.11.11 新文芸坐
【97】1967年東映 監督:中島貞夫 脚本:国弘威雄、佐治乾、掛札昌裕
CAST:佐久間良子、藤純子、山田五十鈴、岸田今日子、小川知子、宮園純子、久保菜穂子、岩崎加根子、村井国夫、高橋昌也
●タイトルにマル秘なんてつけたものの、豪華な女優陣を山田五十鈴に仕切らせた絢爛大奥絵巻であって、決していつものキワモノのエロ時代劇とは違いますよ。と東映の言い分は解るとしても、大奥を舞台にすると欲望と確執、悲劇をどれだけ格調高く描いても、所詮は将軍の種取り合戦、どこか下世話な匂いが漂ってくるから面白い。


0.5ミリ
2014.11.14 有楽町スバル座
【98】2014年彩プロ=ゼロ・ピクチュア 監督:安藤桃子 脚本:安藤桃子
CAST:安藤サクラ、津川雅彦、柄本明、織本順吉、木内みどり、土屋希望、井上竜夫、角替和枝、坂田利夫、草笛光子
●一生の重みに対し、老いたその存在の悲しいまでの軽さ。その浮き間を自在に泳ぐサワの冒険が人生最良の終末へと案内していく。一方、この映画は安藤サクラが個性豊かな老優たちと絡むことで生まれる振動現象を炙り出すことに主眼を置いているようにも思える。桃子とサクラの姉妹は本来の意味での「確信犯」ではないか。うーん凄い。
※2014年キネマ旬報ベストテン第2位


暴動・島根刑務所
2014.11.19 新文芸坐 ※再観賞
【99】1975年東映 監督:中島貞夫 脚本:野上龍雄
CAST:松方弘樹、北大路欣也、伊吹吾郎、田中邦衛、金子信雄、佐藤慶、織本順吉、室田日出男、川谷拓三、中谷一郎
●愛してやまない70年代。とにかくこの頃の中島貞夫の映画は殆ど良かったが、改めて見直してそのバカバカしさ、旺盛なバイタリティ、遠慮のないバイオレンスが醸す痛快さには目を瞠る。まさにプログラムピクチャーの心意気に満ちた快作だ。今の日本映画界で突然こんな新作が出てきたらどういう評価をされるのだろうかと、ふと思う。


暴力金脈
2014.11.19 新文芸坐
【100】1975年東映 監督:中島貞夫 脚本:笠原和夫、野上龍雄
CAST:松方弘樹、梅宮辰夫、若山富三郎、丹波哲郎、小沢栄太郎、田中邦衛、池玲子、室田日出男、川谷拓三、大滝秀治
●封切当時、この映画の宣伝で松方弘樹が深夜番組に出演したのまで見ていたが未見のままだった。脚本が笠原和夫であり、隠れた傑作との声を聞きながら、40年かかって私の観賞リストに載った。なるほど笑いを交えながら「総会屋」を正面に据えた切り口は実録路線の東映でも新機軸だった。最後のカマシが不完全だったのが惜しまれるが。


イヴの総て
2014.11.26 新文芸坐 All About Eve
【101】1950年アメリカ 監督:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ 脚本:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
CAST:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター、ジョージ・サンダース、セレステ・ホルム、マリリン・モンロー
●古い名画にどこか既視感が付きまとうのは、演出も演技も後続する映画の基盤になっているからだろう。ショービジネスの内幕ものを描く映画は多いが、『イヴの総て』は基盤であるが故の揺るがない「絶対」に満ちている。ベティ・ディヴィス圧巻の魔性が次第に世代交代への警戒感から個性が剥がれ落ちていく過程に慄いてしまった。
※1951年キネマ旬報ベストテン第1位


巴里のアメリカ人
2014.11.26 新文芸坐  An American in Paris
【102】1951年アメリカ 監督:ヴィセント・ミネリ 脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
CAST:ジーン・ケリー、レスリー・キャロン、オスカー・レヴァント、ジョルジュ・ゲタリー、ニナ・フォック
●なるほどジョージ・ガーシュウィンの名曲の数々は遠い昔に淀川長治や関光男のラジオ番組で刷り込まれていた。しかし、この脳天気な映画がオスカー受賞作なのはハリウッドもまだ夢心地だったとの証明なのだろうか。絵画を模したセットの中での大レヴューは豪華だが少々長く感じたのはのは『ブロードウェイ・メロディ』と同じ脈絡か。


寄生獣
2014.12.01 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン7
【103】2014年東宝=日テレ=講談社=電通他 監督:山崎貴 脚本:古沢良太、山崎貴
CAST:染谷将太、深津絵里、橋本愛、東出昌大、余貴美子、豊原功補、北村一輝、國村隼、浅野忠信、(声)阿部サダヲ
●原作は好きだった。ゆえに予告編は「?」だったが予想に反し面白かった。容赦のない殺戮と緊張に漂うユーモアが絶妙だ。原作の妙味もしっかりと継承し、むしろを映像化までCG技術の成熟を待っていたのかも知れない。しかし話が一向にまとまらないと思っていたら来年4/25公開の完結編へ続くと。直前にDVD発売にテレビ放映か。。。


さらば、わが愛/覇王別姫
2014.12.07  TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Farewell to My Concubine|覇王別姫
【104】1993年香港 監督:チェン・カイコー 脚本:リー・ピクワー、ルー・ウェイ
CAST:レスリー・チャン、チャン・フォンイー、コン・リー、フェイ・カン、チー・イートン、マー・ミンウェイ、イン・チー
●優れた映画だと思う。映画的圧倒感に文句はないし、3時間近い長丁場も絢爛な映像の陶酔感で少しも苦にならない。しかし過酷な京劇修行を経て成人となった程蝶衣と段小樓、そして翻弄される菊仙の誰一人として共感出来なかった。程と段、愛のベクトルが逆ならば抗日、文革と続く時代の痛みももっと響いてきたのではないだろうか。
※1994年キネマ旬報ベストテン第2位


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