●2017年(平成29年)

 三行の映画評


この世界の片隅に
2017.01.09 呉ポポロシアター1 ※再観賞
【01】2016年「この世界の片隅に」製作委員会 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外
●流行りの聖地巡礼ではないが、好きが高じて呉の映画館で観てしまった。この映画は私の中でどんどんイベント化していく。ほぼ満席の映画館はさすがに観客の集中力が違う。そして呉の人たちの中で聴くコトリンゴの囁くような歌声に軽いエトランゼ感が誘われて何とも心地良い。そう心地良いという境地を味わえたのも大きな発見だった。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位


初恋のきた道
2017.01.14 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン2 我的父親母親
【02】1999年中国 監督:チャン・イーモウ 脚本:パオ・シー
CAST:チャン・ツィイー、スン・ホンレイ、チョン・ハオ、チャオ・ユエリン
●すごいなチャン・イーモウ。ただチャン・ツィイーの可愛さをカメラで追っただけで、かくも感動のラブストーリーに仕立ててしまう。現実がモノクロで回想シーンがカラーなのは、赤やピンクの衣装を着たチャン・ツィイーが過去にしか存在しないためという潔さ。虚飾を排し、一切を単純化することで恋愛場面などなくとも激愛は描けるのだ。
※2000年キネマ旬報ベストテン第4位


山の郵便配達
2017.01.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 那山、那人、那狗 ※再観賞
【03】1999年中国 監督:フォ・ジェンチイ 脚本:チウ・シー、ス・ウ
CAST:トン・ルージュン、リィウ・イェ、ジャオ・シイウリ、ゴォン・イエハン、チェン・ハオ
●偉大な先達である父の背中から子が矜持を得て成長する話だと記憶していた。しかし15年ぶりに観ると老いていく父の悲哀が印象に残る。私は父親ではなく、人間的に成長もしていないが、もう若者目線から大人を見上げることが出来なくなったことを実感する。そのことに少なからず戸惑いながら、尚、父よ強くあれと願わずにいられない。
※2001年キネマ旬報ベストテン第4位


新宿スワンⅡ
2017.01.29 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7
【04】2017年SONY=ハピネット他 監督:園子温 脚本:水島力也
CAST:綾野剛、浅野忠信、深水元基、伊勢谷友介、広瀬アリス、中野裕太、久保田悠来、豊原功補、笹野高史、椎名桔平
●冒頭、歌舞伎町の俯瞰カットからダメかな?と思い、ベタな横浜ロケとテキトーな脚本で熱演の綾野剛が気の毒になった。まるでB級添え物映画のようであり、園子温が観客の偏差値を低く見積もって「ほらよ」と投げ出したような悪意さえ感じた。おざなりの企画でも面白く見せる職人芸をこの監督に期待してはいけないようだ。


アラバマ物語
2017.02.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 To Kill a Mockingbird
【05】1962年アメリカ 監督:ロバート・マリガン 脚本:ホートン・フート
CAST:グレゴリー・ペック、メアリー・バーダム、フィリップ・アルフォード、ジョン・メグナ、ロバート・デュバル
●黒人を迫害する描写などないのに白人支配の実態が浮きぼりとなる米南部の気持ち悪さ。法よりも歪んだ正義が絶対である現実を、無邪気な少年たちの冒険と迫真の法廷劇、さらにゴシックホラーの妙味を効かせて重層的に描く秀作。ペックのオスカー受賞作として題名は薄らと知っていたが、ここまでの作品とは思わなかった。


ディストラクション・ベイビーズ
2017.02.05 関内ホール
【06】2016年製作委員会=東京テアトル 監督:真利子哲也 脚本:真利子哲也、喜安浩平
CAST:柳楽優弥、菅田将暉、小松菜奈、村上虹郎、池松壮亮、北村匠海、三浦誠己、キャンディワン、岩瀬亮、でんでん
●終始一貫、激しい暴力の衝動と行動。そこに映画は一切の決着をつけない。決着どころか暴力の永遠の継続を明示して終わる。もちろん今の時代にこういう映画もあっていいのだが、正直、少し途惑った。なんとも違和感を禁じ得なかったのは、所詮、私が観てきた暴力映画はバイオレンスのジャンルの枠内に括られていたからだろうか。
※2016年キネマ旬報ベストテン第4位


湯を沸かすほどの熱い愛
2016.02.05 関内ホール
【07】2016年製作委員会=クロック・ワークス 監督:中野量太 脚本:中野量太
CAST:宮沢りえ、杉咲花、伊東蒼、松坂桃李、篠原ゆき子、駿河太郎、オダギリジョー
●最高だと思った。「泣けた泣けない」は単なる反射神経の作用で評価の指標にはならないとわかりつつ、母娘の絆を描いてここまで「いい話」を連打されると涙腺は崩壊の一途を辿らざる得ない。この母の愛は任侠の域にも達し、そして「おお」と思わすトリッキーなエンディングで不治の病からの高らかな凱歌を謳いあげる。あゝ素晴らしい。
※2016年キネマ旬報ベストテン第7位


この世界の片隅に
2017.02.05 関内ホール ※再観賞
【08】2016年製作委員会=東京テアトル 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、小野大輔、津田真澄、瀬田ひろ美、たちばなことね、世弥きくよ
●原作と映画を交互に繰り返し体感しながら色々なことがわかってきたのだが、最後に確信したのは、すずさんの削られたエピソードの数々を一気に埋めたのはのんの演技の賜物だということ。そして初めてこの映画に触れる観客たちに激しく嫉妬。おかげで今は私の中でこの映画を一度喪失してみたい衝動にかられている。一旦卒業しようか。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位


サバイバルファミリー
2017.02.16 TOHOシネマズ渋谷 スクリーン3
【09】2017年フジ=東宝=電通=アルタミラピクチャーズ 監督:矢口史靖 脚本:矢口史靖
CAST:小日向文世、深津絵里、泉澤祐希、葵わかな、時任三郎、藤原紀香、渡辺えり、宅麻伸、柄本明、大地康雄
●予告編で『ウォーターボーイズ』『スウィング・ガールズ』の監督と紹介されたように、この2作以降の矢口史靖はまともに評価されていない。私に言わせれば才能をコマーシャリズムの中に埋没させているとなる。この新作も電気を失った世界での家族の放浪劇を面白可笑しく描くのみで、それ以上でも以下でもなく矢口の語り口が欲しかった。


奇跡の人
2017.02.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10  The Miracle Worker
【10】1962年アメリカ 監督:アーサー・ペン 脚本:ロバート・ギブソン
CAST:アン・バンクロフト、パティ・デューク、ヴィクター・ジョリー、インガー・スヴェンソン、
●ふと頭の中でwaterの綴りを思い浮かべ、見事に間違っていたことに自己嫌悪しつつ、 “奇跡の人”はヘレン・ケラーではなく、サリバン先生のことだったのかを原題で初めて知った。確かに三重苦を克服した以後のヘレンより、気付きを与えるため凄絶な格闘を仕掛けるサリバン先生の執念と、アーサー・ペンの演出力に唸らされる一編だ。


ラ・ラ・ランド
2017.02.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン3-IMAX LA LA LAND
【11】2016年アメリカ 監督:デイミアン・チャゼル 脚本:デイミアン・チャゼル
CAST:ライアン・ゴズリング、エマ・ストーン、カリー・ヘルナンデス、ジェシカ・ローゼンバーグ、J・K・シモンズ
●正直いうと歌と踊りは今イチ。ヒロインも好みではない。しかしナンバーのいくつかは良かったし、何より物語がボーイ・ミーツ・ガールから結末のホロ苦さまで見事にツボだった。セブとミアが直面する現実とミュージカル場面が二層構造になる展開も好きだし、成就されなくても現実の人生で頑張れたことを確認し合う清々しさが爽やかだ。
※2017年キネマ旬報ベストテン第10位


浮 雲
2017.03.05 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 ※再観賞
【12】1955年東宝 監督:成瀬巳喜男 脚本:水木洋子
CAST:高峰秀子、森雅之、岡田茉莉子、山形勲、中北千枝子、加東大介、千石規子、大川平八郎、金子信雄、ロイ・ジェームス
●20代で観た時はこれが名作とされていることがまったく理解できなかった。齢を重ねて、富岡の惰性、打算、妥協に彩られた徹底したダメさも、そんな男から離れられないゆき子の致し方なさもわかる気がした。それどころかある意味、男女の情愛の究極形ではないかとさえ思えてくる。名匠・成瀬の息遣いがひしひしと伝わり痛いくらいだ。
※1955年キネマ旬報ベストテン第1位


愛と哀しみの果て
2017.03.12 TOHOシネマズららぽーと横浜: PREMIER OUT OF AFRICA ※再観賞
【13】1985年アメリカ 監督:シドニー・ポラック 脚本:カート・リュデューク
CAST:メリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード、クラウス・マリア・ブランダウアー、マイケル・キッチン
●ジョン・バリーのスコアに乗せアフリカの大地を俯瞰する空撮が素晴らしい。実は封切りで観て以来この場面しか憶えていなかった。ヨーロッパ貴族の流転話をいかにもハリウッド的なテンポで描いた作品だが、やや人物の掘り下げが甘いのではないか。アフリカロケで風景は重要な要素だが、風景が人物より前に出過ぎるていたと改めて思う。


彼らが本気で編むときは、
2017.03.14 TOHOシネマズ渋谷 スクリーン1
【14】2017年製作実行委員会=ジェイ・ストーム 監督:荻上直子 脚本:荻上直子
CAST:生田斗真、柿原りんか、桐谷健太、ミムラ、小池栄子、門脇麦、柏原収史、りりィ、品川徹、田中美佐子
●オリジナルの脚本が優れた映画は嬉しい。内容はまったく不明ながらポスターを見たときのヤマ感が見事に的中した。家族の物語としても、主要人物たちの成長物語としても秀逸であるが、トランスジェンダーの闇もきちんと匂わしながら、この闇を突き抜けたところでちんこで笑わせ、最後に母性が鮮やかに浮かび立つ。荻上直子、お見事。
※2017年キネマ旬報ベストテン第10位


キングコング:髑髏島の巨神
2017.03.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 Kong: Skull Island
【15】1985年アメリカ 監督:ジョーダン・ヴォート=ロバーツ 脚本:ダン・ギルロイ、マックス・ボレンスタイン他
CAST:トム・ヒドルストン、ブリー・ラーソン、サミュエル・L・ジャクソン、ジョン・グッドマン、ジン・ティエン
●子供の頃、TVの洋画枠で観た『地底王国』『巨大生物の島』のB級ノリではなく、日本の特撮、アニメをモチーフとしたオタク臭が漂う。コングと大ダコの闘いがまさか50過ぎて新作で観られるとは。。。最初に予告編をIMAXの大画面で観た時はなんて破天荒なテンションだと思ったものの、案外と普通の怪獣映画でややガッカリか。


仁義と抗争
2017.03.28 新文芸坐 ※再観賞
【16】1977年東映 監督:松尾昭典 脚本:高田宏治、松田寛夫
CAST:松方弘樹、松本留美、中村敦夫、宍戸錠、小池朝雄、志賀勝、あき竹城、桜木健一、深江章喜、ひろみ麻耶
●松方弘樹追悼上映。平板なタイトルと実録路線の下火の中に埋没してしまった映画で、38年ぶりゆえ細かい筋は忘れていたが、川崎の名画座で見たこと、主人公の異名が“厄病神のばば伝”だったこと、松方と松本留美の夫婦が織りなす微笑ましいドタバタぶりが楽しかったことはよく憶えていた。その楽しさが十分に健在だったのが嬉しい。


広島仁義・人質奪回作戦
2017.03.28 新文芸坐 ※再観賞
【17】1976年東映 監督:牧口雄二 脚本:松本功、大津一郎
CAST:松方弘樹、小林旭、地井武男、夏八木勲、中島ゆたか、佐藤友美、室田日出男、川谷拓三、三上真一郎、片桐竜次
●あの頃、実録路線は深作欣二と中島貞夫以外に見るべきものはないと決めつけていた中でも、この牧口作品は相当につまらなかった。改めて観てただ1シーンとて忘れきっており、ボロボロなプリントに不満が起こらないほどつまらなく、ただ観賞記録のみが残っていた映画だ。貫録の旭はともかく、これほど魅力のない松方も珍しい。


実録外伝・大阪電撃作戦
2017.04.04 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【18】1976年東映 監督:中島貞夫 脚本:高田宏治
CAST:松方弘樹、渡瀬恒彦、小林旭、梅宮辰夫、室田日出男、伊吹吾郎、成田三樹夫、片桐夕子、石橋蓮司、丹波哲郎
●松方弘樹と渡瀬恒彦をともに追悼するのにこの映画くらい相応しいものはない。あゝそれにしてもこの映画は少しも古びていなかった。とにかく面白い。改めて津島利章の名調子に乗った中島貞夫のキレッキレの演出、そして破滅へと驀進する男たちの凄まじい熱量。あの頃は何故かいえなかったが、間違いなく東映実録路線の傑作だ。


県警対組織暴力
2017.04.04 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【19】1975年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、成田三樹夫、室田日出男、川谷拓三、山城新伍、田中邦衛、奈辺悟、金子信雄
●新宿昭和館で初めて観た時、それこそあまりの面白さに高校生はぶっ飛んだわけだが、今日、改めて再見すると併映の中島作品の方が楽しめた。この作品はもはや傑作というよりも名作の域にはいってしまったか。激しい映画だが笠原の構成力も深作の演出も実に端正で実録路線のクラシックとなったことを感じさせ、不思議な気分だ。


強盗放火殺人囚
2017.04.06 シネマヴェーラ渋谷
【20】1975年東映 監督:山下耕作 脚本:高田宏治
CAST:松方弘樹、若山富三郎、ジャネット八田、石橋蓮司、前田吟、志賀勝、菅貫太郎、春川ますみ、殿山泰司、川谷拓三
●岡田茂が強引に決めてしまったという物凄いタイトルも、脚本はコミカルなバディムービー?しかし松方と若山のキャラクターがコロコロと変わるのは演出が迷っている証拠。中島貞夫ならもっとドライにズッコケられたろうに。任侠映画の名匠は実録路線の空気を掴み切れず、すべてが中途半端になってしまったが、それもさもありなんか。


仁義の墓場
2017.04.06 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【21】1975年東映 監督:深作欣二 脚本:神波史男、松田寛夫
CAST:渡哲也、梅宮辰夫、安藤昇、多岐川裕美、ハナ肇、室田日出男、芹明香、池玲子、成田三樹夫、今井健二、田中邦衛
●私にとって揺るぎなき金字塔ではあるのだが、過度に石川力夫に思い入れるのは絶対に不可能なことで、改めて生半可な共感は許されない映画だと思った。しかしこの男のあまりにも悲劇的であることに涙が禁じ得ない。百万言費やそうとも切なくも苦おしく、“極北”という言葉はこの映画で憶えた。暴力映画の極北にして一生ものの最高傑作だ。
※1975年キネマ旬報ベストテン第8位


夜は短し歩けよ乙女
2017.04.08 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン6
【22】2017年サイエンスSARU=ナカメの会=東宝 監督:湯浅政昭 脚本:上田誠
CAST:(声)星野源、花澤香菜、神谷浩司、秋山竜次、中井和哉、甲斐裕子、吉野裕之、新妻聖子、諏訪部順一、麦人
●論理の縦糸も横糸もなく、脈絡なしに次々登場するぶっ飛んだキャラクターに摩訶不思議なイメージの洪水。原作未読だったら手に負えるシロモノではない。しかし私がかなり前のめりに楽しめたのは、森見登美彦の創造した世界観を十分にこのアニメで堪能できたこと。京都の都市論にまで昇華しきれなかったのがやや残念だったが。


実録 私設銀座警察
2017.04.12 シネマヴェーラ渋谷
【23】1973年東映 監督:佐藤純彌 脚本:神波史男、松田寛夫
CAST:渡瀬恒彦、安藤昇、梅宮辰夫、葉山良二、藤浩子、中村英子、室田日出男、郷鍈治、小林稔侍、滝波錦司、待田京介
●土の中から蘇ったポン中のヒットマン渡瀬恒彦が、ゾンビのように血ヘドを吐きながら安藤昇の眉間を指ごとぶち抜く場面。もはや伝説となっているが、単細胞で高カロリーなエロ・グロ・バイオレンス集団にあって、渡瀬のヒヤリとする存在感が救っている映画ではある。それにしてもこうも誰一人として共感出来ないとむしろ笑ってしまうが。


アメリ
2017.04.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Le Fabuleux destin d'Amelie Poulain ※再観賞
【24】2001年フランス 監督:ジャン=ピエール・ジュネ 脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
CAST:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、ヨランド・モロー、ジャメル・ドゥブーズ、リュフュ
●ルノワールの贋作を描き続ける老人が水を飲む女だけが上手く描けないという件がやけに気になり、改めて「舟遊びの昼食」をネットで探してしまう。面白い映画だが後半に失速する作品だと15年間も思い続けていた。今回はその後半のラブコメ展開がやけに面白かった。早い話が私はこの映画が大好きなのだろう。もう一度観てもいい。
※2001年キネマ旬報ベストテン第6位


ゴースト・イン・ザ・シェル
2017.04.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン6 GHOST IN THE SHELL
【25】2017年アメリカ 監督:ルパート・サンダース 脚本:ジェイミー・モス、ウィリアム・ウィーラー、A・クルーガー
CAST:スカーレット・ヨハンソン、ピルー・アスベック、マイケル・ピット、北野武、桃井かおり、ジュリエット・ビノシュ
●草薙素子の自分探しの旅?。などといったら身も蓋もないのだろうが、意外にもスカヨハの少佐もアスペックのバトーもそれほど違和感はなかった。ただサイバーパンクものはもともと苦手で、キッチュでチープなオリエンタルムードもずっと目障りだった。こんな変てこりんな世界なら別に崩壊しても構わんと思いながら観ていた。


名探偵コナン/から紅の恋歌<ラブレター>
2017.04.17 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン7
【26】2017年東宝=小学館=日テレ 監督:静野孔文 脚本:大倉崇裕
CAST:(声)高山みなみ、堀川りょう、宮村優子、ゆきのさつき、山崎和佳奈、小山力也、置鮎龍太郎、勝生真沙子
●館内に「あー面白かった」という空気が流れた。知らないキャラクターが増えてシリーズに馴染めなくなっていたが、もともと「関西もの」は外さない印象。この桜の季節に百人一首をモチーフに眩いばかりの京都の秋を活写し、平次と和葉が主役を張る。爆破脱出を二度も重複させるのはどうかと思ったが、よく出来ていたのではないか。


ライフ・イズ・ビューティフル
2017.04.22 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER La vita è bella ※再観賞
【27】1997年イタリア 監督:ロベルト・ベニーニ 脚本:ロベルト・ベニーニ、ヴィンチェンツォ・チェラーミ
CAST:ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジョルジョ・カンタリーニ、ホルスト・ブッフホルツ
●主人公の結末を知らないのと、そうでないのとでは同じ映画でもまったく違って見えてくるものだが、この映画はグイドの悲劇を知っていてもなお、前半のコメディ展開が楽しい。それは率直に映画の力だろう。さらに構成の確かさ、伏線回収の見事さを感じるのもリピート観賞の醍醐味だ。もう20年経つのか、、、改めていい映画だった。
※1999年キネマ旬報ベストテン第9位


アンタッチャブル
2017.05.13 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 The Untouchables ※再観賞
【28】1987年アメリカ 監督:ブライアン・デ・パルマ 脚本:デヴィッド・マメット
CAST:ケビン・コスナー、ショーン・コネリー、ロバート・デ・二―ロ、アンディ・ガルシア、ビリー・ドラゴ
●デ・パルマにモリコーネにこのキャストで当時は期待MAXで観たのだが、衝撃的なバット撲殺と駅の階段を乳母車が転がる場面くらいしか印象に残らなかった。娯楽映画としては及第点的には面白いのだが、やはりカポネの存在の巨大さに比べて顛末の軽さが気になる。場面の趣向が凝っている分、ダイジェストを見せられたような気になるのだ。
※1987年キネマ旬報ベストテン第4位


雪之丞変化
2017.05.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8
【29】1963年大映 監督:市川崑 脚本:伊藤大輔、衣笠貞之助、和田夏十
CAST:長谷川一夫、山本富士子、若尾文子、市川雷蔵、勝新太郎、中村鴈治郎、船越英二、市川中車、柳永二郎、伊達三郎
●噂に違わず面白かったが、時代劇というよりも、そのまんま市川崑ワールドを見せつけられたような気がした。物語の本質は仇討ちというより、もっとドロドロした復讐譚なのだろうが、想像以上にスタイリッシュでモダンな仕上がりに呆気にとられる。ダブルヒロインの熱演も映像マジックにスポイルされた感は否めない。


突然炎のごとく
2017.06.24 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Jules et Jim ※再観賞
【30】1962年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:フランソワ・トリュフォー、ジャン・グリュオー
CAST:ジャンヌ・モロー、オスカー・ウェルナー、アンリ・セール、マリー・デュポワ、ヴァナ・ユルビノ、ボリス・バシアク
●子供の頃、仲間たちと空地でそのつどのルールを作って遊んでいたように、行き当たりばったりの恋愛に興じる3人。30年ぶりにこの3人と再会したが、衝撃的な結末のわりには橋の上の駈けっこしか憶えていなかった。ヌーヴェルバーグの自由さをとことんまで謳歌しつつも愛の根源を問うトリュフォー。ここまで面白い映画だったとは!
※1964年キネマ旬報ベストテン第2位


イヴの総て
2017.07.02 TOHOシネマズららぽーと横浜: PREMIER All About Eve ※再観賞
【31】1950年アメリカ 監督:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ 脚本:ジョゼフ・L・マンキーウィッツ
CAST:ベティ・デイヴィス、アン・バクスター、ジョージ・サンダース、セレステ・ホルム、マリリン・モンロー
●イヴの野望が次第に顕われ、マーゴの気付きがやがて確信となっていく過程のサスペンスフルな展開にドキドキさせられる。そして対決はマーゴが徐々にフェードアウトし、最後にショービジネスのシビアな宿命が浮かび上がってくる。ベティの圧巻の演技に目を瞠った前回と比べ、今回はマンキーウィッツの凄味際立つ眼差しに圧倒された。
※1951年キネマ旬報ベストテン第1位


トゥルー・クライム
2017.07.07 新文芸坐 True Crime
【32】1998年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ラリー・グロス、ポール・ブリックマン、S・シフ
CAST:クリント・イーストウッド、イサイア・ワシントン、リサ・ゲイ・ハミルトン、デニス・レアリー、ジェームズ・ウッズ
●無実の死刑囚の執行を阻止する話は珍しくはないが、ここまで着手するタイミングも執行を止めるタイミングも切羽詰たのは前代未聞ではなかろうか。要はかなり荒唐無稽な話だが、娯楽映画のツボを抑えた演出と、スターであることの自らの存在感で一気に見せてしまう。そんな主役もさることながらJ・ウッズの編集長が秀逸すぎて笑った。


ブラッド・ワーク
2017.07.07 新文芸坐 Blood Work
【33】2002年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ブライアン・ヘルゲランド
CAST:クリント・イーストウッド、ジェフ・ダニエルズ、ワンダ・デ・ジーザス、ティナ・リフォード、ポール・ロドリゲス
●70歳を越えていたイーストウッドがあのハリ―vsサソリの世界観に挑んだのは凄いこと。所々、突っ込みどころも満載だが、2002年の段階までイーストウッドはアクションヒーローを演じていたことに驚いた。芸術映画もイケる演出力を持ちながら、なおも旺盛にエンターティメントを志向して止まない映画魂には感服せざる得ない。


メアリと魔女の花
2017.07.08 イオンシネマつきみ野:スクリーン9
【34】2002年スタジオポノック=日テレ=東宝 監督:米林宏昌 脚本:坂口理子、米林宏昌
CAST:(声)杉咲花、神木隆之介、天海祐希、小日向文世、満島ひかり、佐藤二朗、渡辺えり、遠藤憲一、大竹しのぶ
●お節介で好奇心旺盛なくせにドジなヒロインでイラっとさせ、次第に健気な愛されキャラに持って行く計算が鼻につくものの、少女の冒険ファンタジーとしては楽しく見られたのではないか。随所にジブリの呪縛が垣間見えるのはご愛嬌だが、アリエッティやマーニーの純朴さが良かったかな、とも思う。それにしても無駄に豪華な声優陣は・・・。


目 撃
2017.07.09 新文芸坐 Absolute Power
【35】1997年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ウィリアム・ゴールドマン
CAST:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、エド・ハリス、スコット・グレン、ジュディ・デイヴィス
●面白かった。イーストウッド主演のスター映画には違いない。しかし多彩な顔触れのそれぞれのキャラが立ちまくっているのは、監督もまたスターである証左なのだろうか。ハックマンとジュディの乾いたダンスシーン。E・ハリス、S・グレンの〈正しい資質〉の再共演のどれもが楽しく、近年のオスカー狙いの作品群とは一線を画している。


スペース カウボーイ
2017.07.09 新文芸坐 Space Cowboys
【36】2000年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ケン・カウフマン、ハワード・クラウスナー
CAST:クリント・イーストウッド、トミー・リー・ジョーンズ、ドナルド・サザーランド、ジェームズ・ガーナー
●タフな爺さん達の悲願の宇宙旅行に至るまでをユーモアで描いた作品と思いきや、堂々たる本格SFスペクタクルになっていたことに驚く。もちろん訓練に青息吐息で挑む場面は笑えるが、ここまでの危機が彼らに襲いかかり、最後に極上の感動でホロリさせられるとは。この傑作を未見のまま監督イーストウッドを語ってきたことを恥じたい。
※2000年キネマ旬報ベストテン第1位


セールスマン
2017.07.11 Bunkamura ル・シネマ1 فروشنده FORUSHANDE
【37】2016年イラン=フランス 監督:アスガー・ファルハディ 脚本:アスガー・ファルハディ、パリサ・ゴルゲン
CAST:シャハブ・ホセイニ、ラネ・アリシュスティ、ババク・カリミ、ファリド・サッジャディホセイニ、ミナ・サダティ
●イラン映画が優秀なのはわかっていても、所詮キアロスタミとマジティの枠の中だったか。不安げな手持ちカメラと出力最大の不協和音の中で、およそ既視感のない才能を目の当たりにして頭がどうかなるかと思った。これはまったく才能で語るべき映画であり、社会性やストーリーの巧みさに批評を埋没させてはならない。


太陽が知っている
2017.07.12 Bunkamura ル・シネマ2  La piscine
【38】1969年フランス=イタリア 監督:ジャック・ドレー 脚本:ジャン=クロード・カリエール、ジャック・ドレー
CAST:アラン・ドロン、ロミー・シュナイダー、モーリス・ロネ、ジェーン・バーキン、ポール・クローシェ
●この頃のフランス映画は例外なく深夜劇場の匂いがする。多分、中学生のお目当てはロミ―のヌードとジェーンの脚線美だったのか。ちょっとした会話の機微、人間関係の歪みが殺人事件に発展していく中で、またもドロンに亡きものとされるロネ。しかしあのリプリー青年のギラついた野望はここにはない。むしろドロン映画らしいか。


地下室のメロディー
2017.07.14 Bunkamura ル・シネマ2  Melodie en Sous-sol
【39】1963年フランス= 監督:アンリ・ヴェルヌイユ 脚本:アルベール・シモナン 、M・オーディアール、H・ヴェルヌイユ
CAST:ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、ヴィヴィアーヌ・ロマンス、モーリス・ビロー、カルラ・マルリエ
●中学の時、テレビ放送時にカセットにテーマ曲を録音しただけの関わりだが、有名なラストだけは知っていた。おかげでラストを逆引きでカジノ強盗のプロットを観ることになるのだが、楽しく出来ている。ラストの笑ってしまうほどの無力感は想像以上の名シーンだ。渋いギャバンとチャラいドロンのコントラストの妙が冴えまくる一編。


ギター弾きの恋
2017.07.15 新文芸坐 Sweet and Lowdown
【40】1999年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ショーン・ペン、サマンサ・モートン、ユマ・サーマン、アンソニー・ラパーリア、ウディ・アレン
●ウディ映画の登場人物たちはとにかくお喋り。雄弁も饒舌もこの監督は無限に言葉を内包している。その氾濫する言葉を駆使して天才ギタリスト、エメットの半生を関係者が語り、本人も語るというドキュメンタリーの騙りをやってのける。しかしそこに喋れないハッティを当てることで恋愛映画として相対させてしまう巧妙さ。もう脱帽です。


世界中がアイ・ラヴ・ユー
2017.07.16 新文芸坐 Everyone Says I Love You
【41】1996年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウディ・アレン、ゴールディ・ホーン、ドリュー・バリモア、ナタリー・ポートマン、エドワード・ノートン、ティム・ロス、ジュリア・ロバーツ
●登場人物たちが矢継ぎ早に繰り出す恋愛、性愛の過剰な欲求が歌となりダンスとなる。呆れるほどのオールスターたちに何をやらせているのだウディ・アレンは!と、後頭部をハリセンで叩きたくなるのだが、ラストのG・ホーンとのセーヌのほとりを舞うダンスの美しさで崇高な愛の讃歌へとすべてが書き換えられていく。ズルいが素晴らしい。
※1997年キネマ旬報ベストテン第10位


ブルージャスミン
2017.07.16 新文芸坐 Blue Jasmine
【42】2013年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ボビー・カナヴェイル、P・サースガード
●『インテリア』などベルイマンに傾倒していた頃のウディを彷彿とさせつつ、老巨匠の冷徹な人間観察に演技で応えたケイト・ブランシェットのスター映画としても成立しているのではないか。ジャスミンの虚をすべて曝け出させてしまう残酷。それでも彼女はひとりで生き抜いて行くだろうと暗示する。救済は観る者の脳裏にあるのだろう。
※2014年キネマ旬報ベストテン第5位


ミッドナイト・イン・パリ
2017.07.16 新文芸坐 Midnight in Paris
【43】2011年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:オーウェン・ウィルソン、キャシー・ベイツ、エイドリアン・ブロディ、カーラ・ブルーニ、マイケル・シーン
●青春映画だと思った。モチーフは違うが『カイロと紫のバラ』の世界観も匂わせる。ダリのテーブルにブニュエルが現れた瞬間、鳥肌が立つ。芸術の都だけが許される時間の奥行きにヘミングウェイもフィッツジェラルドも魅了されていたのだろう。パリの凄味をここまでストーリーに落とし込むウディも凄い。ひいては創作の凄味なのか。
※2012年キネマ旬報ベストテン第5位


22年目の告白-私が犯人です-
2017.07.16 イオンシネマつきみ野
【44】2017年日テレ=ワーナー 監督:入江悠 脚本:平田研也、入江悠
CAST:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、野村周平、石橋杏奈、早乙女太一、平田満、岩松了、岩城滉一、仲村トオル
●1995年の震災、オウムのニュース映像、犯行映像、SNSの映像、戦場の映像に電光掲示板と、媒体の違う映像を氾濫させて物語を引っ張る構成が秀逸。それも含めて見て損はないが、報道番組の生放送が絵空事に見えたのが惜しいし、クライマックスがひどく冗長だった。しかし個人的に一番残念だったのはこれがオリジナルでなかったことか。


セント・オブ・ウーマン 夢の香り
2017.07.16 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 Scent of a Woman
【45】1996年アメリカ 監督:マーティン・ブレスト 脚本:ボー・ゴールドマン
CAST:アル・パチーノ、クリス・オドネル、ジェームズ・レブホーン、ガブリエル・アンウォー、フィリップ・シーモア・ホフマン
●パチーノの濃い恋愛映画だと思っていたら、まさか偏屈オヤジと童貞学生の友情珍道中ものとは想像もしていなかった。彼のオスカー受賞に納得しつつ、156分の締めがあまりにもキレイに決まりすぎていて、こんなに気持ち良いパチーノ映画などあり得ないとも思ってしまう。偏屈な観賞者の腑に落ちなさといえばそれまでなのだが。


グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち
2017.07.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 Good Will Hunting
【46】1997年アメリカ 監督:ガス・ヴァン・サント 脚本:マット・デイモン、ベン・アフレック
CAST:マット・デイモン、ロビン・ウィリアムズ、ベン・アフレック、ミニ・ドライヴァー、ケーシー・アフレック
●それなりに感動もするのだが、『奇跡の人』の果し合いのような対決と比べ、ウィルに気づきを与え“旅立ち”に導く決定的な場面をロビンの熱演に依存し過ぎなのではないか。ただハーバードの秀才2人の脚本がオスカーを得て、その後に役者として監督として大ブレイクに至るハリウッドの懐の深さには恐れ入るしかない。
※1998年キネマ旬報ベストテン第7位


三大怪獣・地球最大の決戦
2017.07.25 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール
【47】1964年東宝 監督:本多猪四朗 脚本:関沢新一
CAST:夏木陽介、星由里子、小泉博、ザ・ピーナッツ、若林映子、志村喬、伊藤久哉、黒部進、平田昭彦、佐原健二
●怪獣映画を理屈で語っても仕方がないが、キングギドラの登場によってここからゴジラの転向が始まってつまらなくなっていく。ただラドンやモスラにも存在への敬意があり、後年の噛ませ犬扱いでなかったのは良かった。物心のつく前に作られた怪獣映画は特撮より実景の東京や横浜が面白く、ザ・ピーナッツの綺麗な歌声にシンクロしていた。


誘拐魔
2017.07.26 シネマヴェーラ渋谷 Lured/PERSONAL COLUMN
【48】1946年アメリカ 監督:ダグラス・サーク 脚本:レオ・ロステン
CAST:ルシル・ボール、ジョージ・サンダース、ボリス・カーロフ、チャールズ・コバーン、セドリック・ハードウィック
●古いアメリカンノワールということでこんな邦題がついているが、内容はアイ・ラブ・ルーシー主演の所謂、スクリューボール・コメディだ。ありきたりな感想になってしまうが、劇中の音楽コンサートや社交パーティの豪華さを見るまでもなく、こんな分類不能の捻りの効いた物語を余裕で作る国を相手に何で戦争などやったものかと思う。


深夜の告白
2017.07.26 シネマヴェーラ渋谷  DOUBLE INDEMNITY
【49】1944年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:レイモンド・チャンドラー、ビリー・ワイルダー
CAST:フレッド・マクマレー、バーバラ・スタンウィック、エドワード・G・ロビンソン、ポーター・ホール、シーン・ヘザー
●ビデオで観て、あまりの面白さにいつかは劇場で、、、と儚い願いを抱いていた。今は念願かなった至福感で一杯だ。もうワイルダー先生の名人芸な語り口が脚本のレイモンド・チャンドラー(!)との確執をまったく感じさせず澱みなくラストまで流れてゆく。不倫と保険金殺人のサスペンス定番の礎にして途方もない高みに達した傑作だ。


博奕打ち・総長賭博
2017.07.27 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール ※再観賞
【50】1968年東映 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫
CAST:鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、桜町弘子、金子信雄、名和宏、三上真一郎、曽根晴美、沼田曜一、曽我廼家明蝶
●行くべきか迷ったが、今まで生きてきてこの名作を二回しか観られていないのだから、この機会を逃したらもう劇場で観られる保証はない。笠原和夫の緻密な脚本を山下耕作が格調高く描いた任侠映画の最高峰であり、三島由紀夫の「絶対的肯定の中にギリギリに仕組まれた悲劇」の言葉が脳裏をよぎり、観賞を躊躇していたことを恥じた。


朝やけの詩
2017.08.02 新文芸坐
【51】1973年東宝=俳優座 監督:熊井啓 脚本:山内久、桂明子、熊井啓
CAST:仲代達矢、関根恵子、北大路欣也、佐分利信、岩崎加根子、永井智雄、浜田寅彦、近藤洋介、稲葉義男
●長い間、大自然の中のラブストーリーとばかり思っていたら、熊井啓らしい土着が都市化に呑み込まれる社会告発映画になっていた。『地の群れ』でのネズミの大量殺戮同様に夥しい鯉の死骸や、日本アルプスの景観を発破が木っ端微塵にする場面など、相変わらず容赦がない中、関根恵子の溌剌とした肢体の躍動感がこの映画を救っている。


忍ぶ川
2017.08.02 新文芸坐
【52】1972年東宝=俳優座 監督:熊井啓 脚本:山内久、桂明子、熊井啓
CAST:栗原小巻、加藤剛、永田靖、瀧花久子、井川比佐志、岩崎加根子、信欣三、大西加代子、木村俊恵、滝田裕介
●映像、音楽とも恐るべきアナクロニズムに貫かれた純愛物語。最初は美男美女の主役ふたりのメロドラマ調に驚きながら観ていたが、その時点でかなり心地良く、雪国での質素な婚礼から初夜に至るまでの緊張感の中で前のめりにさせる力が満ちている。というより栗原小巻があまりにも良すぎてエンドマークが出るのが何とも惜しかった。
※1972年キネマ旬報ベストテン第1位


大怪獣空中戦 ガメラ対ギャオス
2017.08.06 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール ※再観賞
【53】1967年大映 監督:湯浅憲明 脚本:高橋二三
CAST:本郷功次郎、阿部尚之、笠原玲子、丸井太郎、螢雪太朗、北原義郎、夏木章、仲村隆、伊東光一
●もちろん荒唐無稽ではあるし、ちくはぐだし笑ってしまうセリフも少なくない。しかし面白い。人間VS怪獣、怪獣VS怪獣のバトルを描いてここまで嬉しくさせる映画は実に珍しい、平成版も含めて、やはりガメラの最大の宿敵はギャオスであり、少しでも少年の目線に寄り添う製作者たちの思いも熱い。過小評価されているのが今も癪に障る。


妖怪百物語
2017.08.06 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール ※再観賞
【54】1968年大映 監督:安田公義 特技監督:黒田義之 脚本:吉田哲郎
CAST:藤巻潤、高田美和、平泉征、坪内ミキ子、ルーキー新一、林家正蔵、神田隆、五味龍太郎、吉田義夫、伊達三郎
●洗っても洗っても鯉の血がとれない・・・。いわば被りものたちの百鬼夜行より、とにかく子供の頃はろくろ首が怖かった。50年ぶりのスクリーン再会でもろくろ首のエピソードは秀逸だ。「おいてけ~」も思わず口元がにやけるほど懐かしい。改めて思ったのが、安田&黒田コンビが『大魔神』同様にきちんと「時代劇」を撮っているのがいい。


アルジェの戦い
2017.08.15 新文芸坐 LA BATTAGLIA DI ALGERI
【55】1966年アルジェリア=イタリア 監督:ジロ・ポンテコルヴォ 脚本:フランコ・ソリナス
CAST:ブラヒム・ハジャク、ジャン・マルタン、ヤセフ・サーディ、トマソ・ネリ、ファウチア・エル・カデル
●この大規模な独立戦争も繁栄に湧いていた当時の日本人には、他人の戦争だったのだろう。ただ十名もの日本人犠牲者を出したアルジェリア人質事件を思うと、流血の惨禍は脈々と息づいていると思えてならない。この映画にはエイゼンシュタインと通じる不思議な熱狂がある。戦闘に次ぐ戦闘の中で民族蜂起の雄叫びがそう感じさせるのか。
※1967年キネマ旬報ベストテン第1位


狂った野獣
2017.08.16 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール ※再観賞
【56】1976年東映 監督:中島貞夫 脚本:中島貞夫、大原清秀、関本郁夫
CAST:渡瀬恒彦、川谷拓三、片桐竜次、星野じゅん、室田日出男、志賀勝、白川浩二郎、野口貴史、笑福亭鶴瓶、りりィ
●小汚い新宿昭和館で十代の餓鬼が煙草ふかしながら前のめりで観た映画を、立派な国立のホールで再見するのも歳月の悪戯というもの。しかし単なる70年代東映アクションの資料価値にとても収まる作品ではない。馬鹿馬鹿しさに命を懸けたやけくそ魂どもの咆哮は今もなお神々しい?片桐竜次がこんなにカッコイイとは思わなかった。


打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?
2017.08.25 T・ジョイ PRINCE品川 シアター2
【57】2017年東宝=製作実行委員会 監督:新房昭之 総監督:武内宣之 脚本:大根仁
CAST:(声)広瀬すず、菅田将暉、宮野真守、浅沼晋太郎、豊永利行、梶裕貴、三木眞一郎、花澤香菜、松たか子
●岩井俊二の元の映画ってこんな話だったっけ?と思うほど全然違う質感で、むしろ今のアニメ映画のメインストリートがこんなことになっているのかと驚いたほど『君の名は。』と酷似していた。申し訳ないが頭から結末までどこが良いのかさっぱりわからなかったのは私の感性が腐っているのか、それともこの映画が腐っていたのか。


おしゃれ泥棒
2017.08.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER How to Steal a Milion
【58】1966年アメリカ 監督:ウィリアム・ワイラー 脚本:ハリー・カーニッツ
CAST:オードリー・ヘップバーン、ピーター・オトゥール、イーライ・ウォラック、ヒュー・グリフィス、シャルル・ボワイエ
●泥棒の手口を予め説明すると失敗に終わるが(地下室のメロディー)、計画を明かさず実行すると成功に終わる。決してそこの面白さで見せる映画ではないが、私は泥棒映画として楽しんだ。とくにオードリー主演でなくてもいいと思ったが、P・オトゥールの洒脱さが全体を支配する。ワイラーは大巨匠だが、良き職人なのかもしれない。


野良猫ロック/暴走集団'71
2017.08.29 新文芸坐 ※再観賞
【59】1971年日活 監督:藤田敏八 脚本:永原秀一、浅井達也
CAST:原田芳雄、梶芽衣子、藤竜也、地井武男、范文雀、郷鍈治、戸浦六宏、稲葉義男、夏夕介、司美智子、青木伸子
●もうすっかり内容は忘れていたが、改めて[原田芳雄 梶芽衣子 藤竜也]と3人並びのクレジットには「おおっ」と声が出る。3人ともなんてカッコいいのだろう。不良というよりヒッピーな集団はダイナマイト片手に暴れまくり自滅していくのは70年代初端のスタンダードだが、それを3歳の子供目線で描くとはビンパチさん凄かった。


赤い鳥逃げた?
2017.08.29 新文芸坐 ※再観賞
【60】1973年グループ法亡=東宝 監督:藤田敏八 脚本:藤田敏八、ジェームズ三木
CAST:原田芳雄、桃井かおり、大門正明、白川和子、内田朝雄、穂積隆信、殿山泰司、地井武男、佐原健二、山谷初男
●原田芳雄のギターに合わせ久々に「愛情砂漠」を諳んじて思ったのは、邦画が青春を描くには最良の時代だったのではないかということ。高校生で観た時と違い、今はそれがはっきりわかる。最良の映画作家がいて、最良の若い役者がいて、最良の状況があった。脱ぎっぱなしの桃井かおりがやがて大女優になっていく理由もよくわかった。


帰らざる日々
2017.08.31 新文芸坐 ※再観賞
【61】1978年日活 監督:藤田敏八 脚本:藤田敏八、中岡京平
CAST:永島敏行、江藤潤、浅野真弓、竹田かほり、朝岡雪路、中村敦夫、根岸季衣、丹波義隆、吉行和子、日夏たより
●城戸賞受賞の中岡京平のシナリオ『夏の栄光』が好きだったが、それをビンパチ流にアレンジされて、、、まぁそれなりの好印象ではあったか。改めて隆三と辰雄の青春は浮遊しているのではなく、土着の中で夢を抱いて熱かった。この映画を観た頃の無数の“帰らざる”を噛みしめながら、暗闇の中で相変わらず浮遊しているのは自分なのか。
※1978年キネマ旬報ベストテン第5位


八月の濡れた砂
2017.08.31 新文芸坐 ※再観賞
【62】1971年日活 監督:藤田敏八 脚本:藤田敏八、大和屋竺、峰尾基三
CAST:村野武範、広瀬昌助、テレサ野田、藤田みどり、隅田和世、山谷初男、渡辺文雄、地井武男、原田芳雄
●10代、20代・・・40代と時代と自身の変遷の中で『八月の濡れた砂』を見続けて、時々でカッコイイと思ったりダサいと思ったりしてきたが、彼らの焦燥感や閉塞感すら50代の自分には眩しく映るのが今は悔しい。その意味でも青春映画の絶対的シンボリックな存在ではあるのだが、あと十年後の自分にどう映るのかは想像できない。
※1971年キネマ旬報ベストテン第10位


青春デンデケデケデケ
2017.09.04 新文芸坐
【63】1992年ギャラックプレミアム他=東映 監督:大林宣彦 脚本:石森史郎
CAST:林泰文、大森嘉之、浅野忠信、永掘剛敏、佐藤真一郎、岸部一徳、ベンガル、根岸季衣、雨宮良、尾美としのり
●出来るならちっくんには東京で暮らして欲しくないと思った。友人が大林映画で一番面白かったといってたっけ。香川の高校生4人がロックバンド“ロッキング・ホースメン”を結成して解散するまでを、大林は例によって溜息が出るほどの抜群のロケーション感覚で、ノスタルジーに偏るでもなく青春の思い出を瑞々しく描き切った。お見事。
※1992年キネマ旬報ベストテン第2位


理 由
2017.09.08 新文芸坐
【64】2004年アスミックエース 監督:大林宣彦 脚本:石森史郎、大林宣彦
CAST:寺島咲、勝野洋、加瀬亮、赤座美代子、岸部一徳、久本雅美、多部未華子、伊藤歩、柄本明、南田洋子、風吹ジュン
●すっかり忘れていた宮部みゆきの原作を映画を観ながら思い出していく作業になるかと思いきや、いやはや160分のめくるめく大林ワールドを堪能した。インタビュー形式で大人数をまとめ上げて行く手法に目を瞠ったが、3年前に目黒で再会するまで大林を観ない時期が26年もあって、その間にとてつもない監督になっていたことに納得。
※2004年キネマ旬報ベストテン第6位


三度目の殺人
2017.09.09 イオンシネマつきみ野 スクリーン1
【65】2017年フジテレビ=アミューズ 監督:是枝裕和 脚本:是枝裕和
CAST:福山雅治、役所広司、広瀬すず、斉藤由貴、吉田鋼太郎、満島真之介、市川実日子、松岡依都美、根岸季衣、橋爪功
●拘置所のアクリル板を挟んだふたりの対決を描きながら、駄洒落ではなく心理と審理がせめぎ合う時、そこに真理が存在するのか?と是枝裕和は問う。否、もはや真理など介在する余地すらないのではないか。重盛が三隅に「それでは戦術が!」と訴えた時に感じた軽薄さに誰しもが司法の虚妄性に暗澹たる気持ちになったのではないか。
※2017年キネマ旬報ベストテン第8位


イップ・マン 序章
2017.09.10 早稲田松竹 葉問 IP MAN
【66】2008年中国=香港 監督:ウィルソン・イップ 脚本:エドモンド・ウォン
CAST:ドニー・イェン、リン・ホン、チョウ・チンチュン、池内博之、サイモン・ヤム、リー・チウ、ラム・カートン、渋谷天馬
●イップ・マンなる人物のことは知らなかったが、詠春拳といわれればブルース・リー狂にはお馴染だ。そうかお師匠さんの話かと。それよりも何よりも幕問=ドニ―・イェンの圧巻のカンフーが中国近代史の中に炸裂する様に唖然としてしまう。格闘ものとして、伝記ドラマとして、叙事詩としても三部作一挙上映の中でこの一作目は圧倒的に凄い。


イップ・マン 葉問
2017.09.10 早稲田松竹 葉問2 IP MAN2
【67】2010年中国=香港 監督:ウィルソン・イップ 脚本:エドモンド・ウォン
CAST:ドニー・イェン、サモ・ハン・キンポー、リン・ホン、ホァン・シャオミン、ダーレン・シャラヴィ、ルイス・ファン
●前作の日本軍との空手対決では一発も入れさせないまま圧勝した幕問が、ボクサーにはあまりにも打たれ過ぎなのが不満。久々にサモ・ハンのアクションを見られたのはよかったが、殆んど『ロッキー』の続編と同じ脈絡で、前作にあった歴史のうねりはどこへやら、強い相手がエスカレートしていくだけの格闘見世物映画に成下がったか。


イップ・マン 継承
2017.09.10 早稲田松竹 葉問3 IP MAN3
【68】2010年中国=香港 監督:ウィルソン・イップ 脚本:エドモンド・ウォン
CAST:ドニー・イェン、リン・ホン、マックス・チャン、マイク・タイソン、パトリック・タム、ワン・シィ、ケント・チェン
●入門希望の李小龍少年には笑わせられたが、マイク・タイソンを担ぎ出して装飾ばかりを派手にしてもワイヤーアクションはドニー・イェンのスキルを否定するようで鼻白む一方。ただ三部作通して馴染んだ、かけがえのない妻の死という劇的な展開があり、その妻に請われて、再び木人相手のコツコツと反復練習に回帰する葉問に泣けた。


あした
2017.09.10 新文芸坐
【69】1995年東宝 監督:大林宣彦 脚本:桂千穂
CAST:高橋かおり、林泰文、宝生舞、津島恵子、岸部一徳、田口トモロヲ、峰岸徹、多岐川裕美、根岸季衣、植木等
●未見の大林映画の穴を埋めながら、見るもの見るものがすべて愛おしく思えてきて困ってしまう。特別に集められた老若男女が死人たちとの一時の逢瀬を情感たっぷりと描かれると涙腺が緩むのを抑えられないのだが、すべてが綺麗に着地していく技術は見事としかいいようがない。尋常でないほどの優しい眼差しの結実がここにある。


ふたり
2017.09.10 新文芸坐
【70】1991年松竹 監督:大林宣彦 脚本:桂千穂
CAST:石田ひかり、中嶋朋子、柴山智加、岸部一徳、尾美としのり、中江有里、奈美悦子、大前均、ベンガル、富司純子
●冬に尾道を訪れる前に観ておきたかった。「子供のくせに」「なによ、おばけのくせに」。美加は死んだ姉に劣等感を抱くが、違うよと姉は微笑む。大林映画には主人公に寄り添う死者がよく出てくる。必ず二度目の別れは訪れても、うつろう家族の現実を見せながら、友情、成長をたっぷり謳いあげ、何となく魔法にかけられた160分だった。
※1991年キネマ旬報ベストテン第5位


転校生
2017.09.16 新文芸坐 ※再観賞
【71】1982年ATG=日本テレビ 監督:大林宣彦 脚本:剣持亘
CAST:小林聡美、尾美としのり、樹木希林、入江若葉、佐藤允、宍戸錠、岩本宗規、柿崎澄子、林優枝、志穂美悦子
●細かいディティールの殆んどを憶えていたのだが、何故か白黒映画だと思い込んでいた。既に私の強い思い入れはセピアに染まっていたのかもしれない。絶対的な映画だと信じてつつも、説明的な台詞や演出の幼さにハラハラしながら観ていた。しかし未だに『転校生』が運動体として我が胸に息づいている証拠でもあり、むしろ嬉しかった。
※1982年キネマ旬報ベストテン第3位


トリュフォーの思春期
2017.09.17  TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 L'Argent de poche  ※再観賞
【72】1976年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:フランソワ・トリュフォー、シュザンヌ・シフマン
CAST:ジャン=フランソワ・ステヴナン、シャンタル・メルシエ、ジョリー・ド・ジヴレー、フィリップ・ゴールドマン
●高校生の時にテアトル新宿で観て淀川さんが褒めていた意味がよくわからなかったが、いかにストーリーを追いかけて頭でっかちに観ていたのかがよくわかった。いやはや面白い。同時に子供たちのキラキラした感性をすくい取るトリュフォーの手腕に脱帽。挿入歌「日曜は退屈」が流れた瞬間に一気に40年前に戻された感覚も楽しかった。
※1976年キネマ旬報ベストテン第3位


深夜の市長
2017.09.19 シネマヴェーラ渋谷
【73】1947年松竹 監督:川島雄三 脚本:陶山鉄
CAST:安部徹、月形龍之介、三津田健、三井秀男、大坂志郎、山内明、坂本武、空あけみ、日守新一、神田隆
●ひょんなことで終戦間もない頃の川島雄三作品に出会ってしまったが、それよりも何よりも兄の仇を討つため悪に戦いを挑む主人公の熱血漢に安部徹(!)。あの鮫洲の政五郎親分だ。主役であることも凄いが、善玉であることの違和感というか居ずまいの悪さというか、月形龍之介の“深夜の市長”ともども強烈なファンタジーだった。


醜聞〈スキャンダル〉
2017.09.19 シネマヴェーラ渋谷
【74】1950年松竹 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三、黒澤明
CAST:三船敏郎、志村喬、山口淑子、桂木洋子、千石規子、小沢栄太郎、日守新一、北林谷栄、上田吉二郎、千秋実
●獰猛なマスメディアに主人公たちが追い詰められる話だと想像していたら、私がかつて観てきた中で空前絶後のダメ親父の話となる。志村喬が巧すぎるのだろうが、あまりのダメっぷりにこちらも怒りが爆発寸前のところで、彼は三船曰く「新たな星」となって蘇り、見事に黒澤らしいヒューマニズムに帰結する。それにしても引っ張ったなぁ。
※1950年キネマ旬報ベストテン第6位


ダンケルク
2017.09.21 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン8 DUNKIRK
【75】2017年イギリス=アメリカ=フランス=オランダ 監督:クリストファー・ノーラン 脚本:クリストファー・ノーラン
CAST:フィン・ホワイトヘッド、トム・グリン=カーニー、ジャック・ロウデン、ケネス・ブラナー、トム・ハーディ
●改めて戦争映画で画面映えするのはヒコーキ野郎たちだと納得しながら、こういうスタイルで太平洋戦争を描く日本映画が出て来ないものかと思った。映画の力強さと戦争の恐怖は十分伝わったものの、まさか民間の船で33万人が撤退したわけでもなかろうし、ドイツ軍がこんな散発な攻撃で済ませたものなのか、正直不思議な気がした。
※2017年キネマ旬報ベストテン第4位


エイリアン:コヴェナント
2017.09.22 TOHOシネマズ新宿:スクリーン7 ALIEN: COVENANT
【76】2017年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:ジョン・ローガン、ダンテ・ハーパー
CAST:マイケル・ファスベンダー、キャサリン・ウォーターストン、ビリー・クラダップ、ダニー・マクブライド
●最初に人間の背中を突き破ってクリーチャーが出現した時、思わず「恐わっ」と腰が引くヤワな観客にとって、宇宙空間で捕食する化け物と逃げる人間とのシンプルなバトルだけで十分に楽しいのだが、これに種の起源やらサーガだのどのエピソードに繋げる装飾は、喰うか喰われるかの殺戮SFにとっては余計な雑音でしかない。


散歩する侵略者
2017.09.24 イオンシネマつきみ野:スクリーン4
【77】2017年日活=松竹他 監督:黒沢清 脚本:田中幸子、黒沢清
CAST:長澤まさみ、松田龍平、高杉真宙、恒松祐里、満島真之介、光石研、小泉今日子、笹野高史、長谷川博己
●いつの間にやらビッグネームになっていた黒沢清の映画を28年ぶりに観た。面白かった。映画の「概念」までは奪えなかったものの、ディテールを効かせながら、SFサスペンスにホラー、コメディの妙味を加え、スペクタクルなことまでやって、愛を成就させる話を演劇的空間を生かしながら、一定の緊張感の内に見せ切った手腕はさすが。
※2017年キネマ旬報ベストテン第5位


奥田民生になりたいボーイと出会う男すべて狂わせるガール
2017.09.25 TOHOシネマズ渋谷:スクリーン3
【78】2017年東宝=ソニーミュージック=ホリプロ 監督:大根仁 脚本:大根仁
CAST:妻夫木聡、水原希子、新井浩文、安藤サクラ、江口のりこ、天海祐希、リリー・フランキー、松尾スズキ
●もしや今年度のベストワン?いや多分それはないか(笑)映画館を出た時、無性にキスをしたくなる。性悪女に翻弄される男の悲哀という、どこにでもありそうな話をどこにもないような切り口で展開させた大根仁。これはまごうことなく男の映画であり、そんなアホな男を女が笑い飛ばしていい映画だ。本当に悪い女は男を成長させるのか。


泥の河
2017.09.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ※再観賞
【79】1981年木村プロ=東映 監督:小栗康平 脚本:重森孝子
CAST:田村高廣、藤田弓子、朝原靖貴、桜井稔、柴田真生子、八木昌子、蟹江敬三、殿山泰司、芦屋雁之助、加賀まりこ
●記録を辿れば封切り館の川崎東映で観ている。そうか岡田茂の鶴の一声で公開されたのだったか。信雄が蟹に誘われたあの場面しか憶えていなかったが、今は製作年よりも昭和31年当時の日本に思いを馳せる。まだ戦争の影が貼り付いていた時代の廓船の母子3人への切ない記憶。今、信雄と喜一はどんな老年期を過ごしているのだろう。
※1981年キネマ旬報ベストテン第1位


オン・ザ・ミルキー・ロード
2017.10.07 TOHOシネマズ シャンテ2 ON THE MILKY ROAD
【80】2016年セルビア=アメリカ=イギリス 監督:エミール・クストリッツァ 脚本:エミール・クストリッツァ
CAST:エミール・クストリッツァ、モニカ・ベルッチ、プレドラグ・“ミキ”・マノイロヴィッチ、スロボダ・ミチャロヴィチ
●恥ずかしながら(といっていいだろうが)初めてクストリッツァの映画を観た。というより体感した。ボスニア戦争をあんなにブラックなユーモアでファンタジックに描いていたのに、俄然、逃げる男と女は熾烈なサバイバルに巻き込まれていく。誰も黙々と石を積んでいく主人公を止めることは出来ない。我々がこの映画を支配できないように。


デルス・ウザーラ
2017.10.07 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール Dersu Uzala
【81】1975年ソビエト 監督:黒澤明 脚本:黒澤明、ユーリー・ナギービン
CAST:ユーリー・サローミン、マキシム・ムンズク、シュメイクル・チョクモロフ、ウラジミール・クレメナ
●映画を70mm で観るのは30年ぶりくらいだろうか。中学生の時、映画館の前を素通りしたときの印象のままの映画ではあった。シベリアの大自然描写とデルスを演じた役者の素材に依存しているのは間違いないが、ところどころシベリアの風景が絵画的に思えるのは、ソ連映画であってもやはり「どですかでん」以降の黒澤明だなと思った。
※1975年キネマ旬報ベストテン第5位


野良犬
2017.10.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER ※再観賞
【82】1949年新東宝=映画芸術協会 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三、黒澤明
CAST:三船敏郎、志村喬、清水元、永田靖、河村黎吉、淡路恵子、三好栄子、岸輝子、木村功、山本礼三郎、千石規子
●昔「随分とつまらない黒澤映画だな」と思ったが、ほぼ同じ感想だった。この映画祭でのレアケースだ。映画史的には名作扱いなので単なる相性だろうが、刑事ドラマとして既視感にあふれているのは、この作品がすべての原点であり、それには敬意を表したい。しかしどうしても終戦間もない東京の資料的価値しか感じることが出来ないのだ。
※1949年キネマ旬報ベストテン第3位


私は告白する
2017.10.10 新文芸坐 I Confess
【83】1953年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:ジョージ・タボリ、ウィリアム・アーチボルド
CAST:モンゴメリー・クリフト、アン・バクスター、カール・マルデン、ブライアン・エイハーン、O・E・ハッセ、ロジャー・ダン
●魔術的な技法ばかりが取り沙汰されるヒッチコックだが、私にはそれらをすべてモンゴメリー・クリフトの硬い表情に封じ込めたように思える。ただ僧侶として冤罪を引き受けざる得ない苦悩が宗教と法律の矛盾を炙り出す展開である以上、法廷の場でそれに審判をつけてほしかった。最後の銃撃戦で映画のトーンが乱れたと思わざる得ない。


見知らぬ乗客
2017.10.10 新文芸坐 Strangers on a Train
【84】1953年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:ウィットフィールド・クック、レイモンド・チャンドラー
CAST:ファーリー・グレンジャー、ロバート・ウォーカー、ルース・ローマン、レオ・G・キャロル、パトリシア・ヒッチコック
●交換殺人による心理サスペンスの原点にて最高傑作。ヒッチコックにしてはキャストが地味だが、かえってストーカー犯罪者の不気味さが際立った。思えば最初からこの人物の不快感たらなかった。調和に従う全体の中で異物が混入した際の気持ち悪さ。あのテニス観戦のスタンドの怖さはヒッチコック映画でも白眉の名人芸だろう。


パターソン
2017.10.11 新宿シネマカリテ PATERSON
【85】2016年アメリカ=ドイツ=フランス 監督:ジム・ジャームッシュ 脚本:ジム・ジャームッシュ
CAST:アダム・ドライバー、ゴルシフテ・ファラハニ、バリー・シャバカ・ヘンリー、トレヴァー・パラム、永瀬正敏
●オハイオ印のブルーマッチの小箱に閉じ込められたような閉塞感の中、延々と続く日常が息苦しくてたまらない。パターソンが時々見せる孤高の表情に狂気が見え隠れし、妻との会話が途切れる瞬間のかりそめの空気感。自分相手にチェスを打つマスター。そうだマーヴィンお前は偉いぞ。ジャームッシュこれじゃダメかい?妙に疲れてるんだ。
※2017年キネマ旬報ベストテン第2位


ユリゴコロ
2017.10.18 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン12
【86】2017年東映=日活 監督:熊澤尚人 脚本:熊澤尚人
CAST:吉高由里子、松坂桃李、松山ケンイチ、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、貴山侑哉、木村多江
●沼田まほかるの原作は一晩で一気読みさせる面白さに満ちていたが、この映画には良くないところが多々あった。とくに叙述形式の物語(原作)から抜け出そうとして映像美を狙った幾つかの場面がノイズと感じた。しかし一方で好感をもってエンディングを迎えられたのは、吉高と松山の力量に依るところが大きい。久々に役者で映画を観た。


天国と地獄
2017.10.22 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER ※再観賞
【87】1963年東宝 監督:黒澤明 脚本:小国英雄、菊島隆三、久板栄二郎、黒澤明
CAST:三船敏郎、仲代達矢、山崎努、香川京子、石山健二郎、木村功、加藤武、三橋達也、佐田豊、藤原釜足、志村喬
●よく映画企画の例えに「特急の便所の窓が7㎝開くことに気付けば映画が出来る」というのがあるが、改めて『天国と地獄』を観ればそんな簡単な映画じゃないのがわかる。権藤の葛藤と戸倉警部の執念。この間を疾走する特急こだま。横浜浅間町、伊勢佐木町、黄金町から湘南腰越と捜査も走る。私の一番好きな黒澤映画かも知れない。
※1963年キネマ旬報ベストテン第2位


アトミック・ブロンド
2017.10.23 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン5 ATOMIC BLONDE
【88】2017年アメリカ 監督:デヴィッド・リーチ 脚本:カート・ジョンスタッド
CAST:シャーリーズ・セロン、ジェームズ・マカヴォイ、エディ・マーサン、ジョン・グッドマン、トビー・ジョーンズ
●東西の壁崩壊で騒然とするベルリンを舞台にM16、KGB、DGSE、CIAが入り乱れる。スパイ戦はコンゲームとしての面白さもあるのだろうが、バリバリのB級テイストを期待しすぎてしまったか。『マッドマックス/FR』からのC・セロンの壮絶アクションが弾ければ弾けるほど、同じテンションに辟易してしまう。つまらなくはないのだけど。


カルメン故郷に帰る
2017.10.25 国立近代美術館フィルムセンター 小ホール
【89】1951年松竹 監督:木下惠介 脚本:木下惠介
CAST:高峰秀子、小林トシ子、坂本武、佐野周二、井川邦子、見明凡太朗、佐田啓二、望月優子、三井弘次、笠智衆
●日本初の国産カラーによる総天然色映画という記念碑的位置づけの作品が、ここまで高峰秀子の躍動する太ももに象徴される天真爛漫、奔放なことに驚いた。昭和26年の日本映画はこんなに自由溌剌としていたということか。巨匠の作品としては荒っぽいとも思ったが、三原色の世界の中で開放された女たちの讃歌として天晴れではないか。
※1951年キネマ旬報ベストテン第4位


彼女がその名を知らない鳥たち
2017.10.29 イオンシネマつきみ野:スクリーン2
【90】2017年クロックワークス 監督:白石和彌 脚本:浅野妙子
CAST:蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、村川絵梨、赤堀雅秋、赤澤ムック、中嶋しゅう、竹野内豊
●原作と映画は別ものと割り切りつつも、ミスリードの末に謎が明かされるストーリーを先に読んでいいことなど何ひとつなく、蒼井優と阿部サダヲが十和子と陣治をどう演じたかに興味を傾けざる得なかった。ふたりは頑張っていたのだろうが、まほかるの世界観を掘り下げるものは皆無で、今回の白石和彌には少々失望だったかもしれない。
※2017年キネマ旬報ベストテン第9位


ブレードランナー 2049
2017.11.01 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 BLADE RUNNER 2049
【91】2017年アメリカ 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本:ハンプトン・ファンチャー、マイケル・グリーン
CAST:ライアン・ゴズリング、ハリソン・フォード、ロビン・ライト、アナ・デ・アルマス、シルヴィア・フークス
●時代が追いついてしまったと思ったら、さらに32年の延長か。熱狂的なブレラン・フリークたちがどう感じたかは知らないが、前作を学生時代に割と雑に観てしまった私にはレプリカントがアイデンティティを求めて迷走する通俗性は実に得心が行った。何よりひとり身オヤジにはKに仕える実体あやふやな天使が率直に欲しいと思った。


ラストレシピ -麒麟の舌の記憶-
2017.11.03 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン1
【92】2017年テレビ朝日=東宝他 監督:滝田洋二郎 脚本:林民夫
CAST:二宮和也、西島秀俊、綾野剛、宮﨑あおい、西畑大吾、兼松若人、竹嶋康成、広澤草、グレッグ・デール、竹野内豊
●お膳立てされた成長物語なのが引っ掛かるが、あらすじを聞いただけでもいい話であることは間違いなく、それを滝田は手堅くいい話をいい絵にしているのだが、どこかバラエティ番組の感動VTRのようでもあり、題材の宿命で少年ジャンプ的になってしまう。“大日本帝国食菜全席”よりも父娘の食卓での焼き鮭の切り身が一番美味そうだった。


アウトレイジ 最終章
2017.11.03 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11
【93】2017年ワーナー、バンダイ、オフィス北野 監督:北野武 脚本:北野武
CAST:ビートたけし、西田敏行、塩見三省、金田時男、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、白竜、名高達男、光石研、大杉漣
●前作同様に北野バイオレンスと接する度に反射的に長年親しんだ東映やくざ映画と比べてしまうのだが、ここまで過激なセリフの応酬で全編を貫きながら、冷たく乾いた印象を残しつつ、やくざの怖さを表現する北野の資質とはなんだろうと考える。演出の振り幅だろうか。そう私は北野映画に対して未だにこの段階で止まってしまうのだ。


悪魔のような女
2017.11.05 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Les Diaboliques
【94】1955年フランス 監督:アンリ=ジョルジュ・クルーゾー 脚本:H=G・クルーゾー、ジェローム・ジェロニミ
CAST:シモーヌ・シニョレ、ヴェラ・クルーゾー、ポール・ムーリッス、シャルル・ヴァネル、ピエール・ラルケ
●タイトルだけは知っていたが、実体がサスペンスなのかスリラーなのか知らないままで本当に良かった。この映画、最後まで緊張感とあらゆる演出テクニックを存分に見せつけるのはいいが、どんな結末を迎えるのかまったく予測できない中で、いやいやこんな決着をつけるとは!『恐怖の報酬』も凄いが、クルーゾーには恐れ入る。


愛のメモリー
2017.11.06 新文芸坐 OBSESSION
【95】1976年アメリカ 監督:ブライアン・デ・パルマ 脚本:ポール・シュレイダー
CAST:クリフ・ロバートソン、ジュヌヴィエーヴ・ビジョルド、ジョン・リスゴー、ワンダ・ブラックマン
●せっかく「Obsession-妄念/強迫観念」というサスペンスフルな原題なのに、ダサい邦題をつけたものだといわれていたが、観終わってみるとそう悪いタイトルではない。鳴り続けるB・ハーマンのスコアが、当時のデ・パルマのヒッチコックへの傾斜を顕著にしている。しかし古色蒼然の質感は否めず、ずっと観たいリストにしまっていたが、ややしまいすぎていたような気もする。本家ヒッチコックはそれほど古びていないのだが。


PARKS パークス
2017.11.08 早稲田松竹
【96】2017年boid=本田プロモーションBAUS 監督:瀬田なつき 脚本:瀬田なつき
CAST:橋本愛、永野芽郁、染谷将太、石橋静河、森岡龍、佐野史郎、柾木玲弥、長尾寧音、岡部尚、米本来輝
●50年の時空を超え一篇の歌が完成する。結局、歌のお披露目はどうしたのとか、結局、ハルは誰だったのとか、曖昧な幕引きを選んだあたりに作り手の凡百のエンタメにはしないという意志が窺えるが、そこにこの映画の「青さ」も感じる。染谷将太の自由ぶりに驚くが、柄にもなく(?)橋本愛が歌って、走って、泣いての大奮闘を見せる。


映画 夜空はいつでも最高密度の青色だ
2017.11.08 早稲田松竹
【97】2017年東京テアトル=テレビ東京=リトルモア 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:石橋静河、池松壮亮、佐藤玲、三浦貴大、ポール・マグサリン、市川実日子、大西力、野嵜好美、田中哲司、松田龍平
●美香の口をついで出る東京への呪詛。それをじっと受け止める慎二。こんな青春もあるのかと感じ入ったが、もう青春と呼ぶには日常のリアルが重すぎるふたりが、真夜中の大都会に迷いながら心の拠り所を求めて奔走する。そこにあるのは誠実さへの妥協かもしれないし、優しさとの結託かもしれない。間違いなく石井裕也の最高傑作だろう。
※2017年キネマ旬報ベストテン第1位


グロリア
2017.11.08 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER Gloria ※再観賞
【98】1980年アメリカ 監督:ジョン・カサヴェテス 脚本:ジョン・カサヴェテス
CAST:ジーナ・ローランズ、バック・ヘンリー、ジュリー・カーメン、ジョン・アダムス、ジェシカ・カスティロ
●ハンドバックから銀色の銃を取り出し、いきなりぶっ放すグロリアおばさんと36年ぶりに再会して、何で学生時代は面白く思わなかったのだろうと考えると、彼女があまりにも思考より行動を優先する女だったからか。今も苦手なタイプではある。グロリアの年齢を追いこしてしまうと、意外にも彼女の深層の優しさに目がいってしまい困った。
※1981年キネマ旬報ベストテン第5位


ヒッチコック/トリュフォー
2017.11.15 早稲田松竹 HITCHCOCK/TRUFFAUT
【99】2015年アメリカ 監督:ケント・ジョーンズ 脚本:ケント・ジョーンズ、セルジュ・トゥビアナ
CAST:ウェス・アンダーソン、ピーター・ボグダノヴィッチ、デヴィッド・フィンチャー、黒沢清、マーティン・スコセッシ
●「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」はキネ旬の連載で愛読し、単行本も中古で蔵書しているが、このインタビューが多くの映画人たちに影響を与えたこと、私が生まれた頃に行われていたことを初めて知った。ただ著名な映画監督たちのヒッチコック評を聞くより、トリュフォー自身がこのドキュメントを纏めるべきだった。


ダイヤルMを廻せ!
2017.11.15 早稲田松竹 Dial M for Murder
【100】1954年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:フレデリック・ノット
CAST:レイ・ミランド、グレース・ケリー、ロバート・カミングス、ジョン・ウィリアムス、アンソニー・ドーソン
●秋のミステリー映画連続観賞の留めとして申し分のない面白さ。いや面白いのは先刻承知ながら、冒頭の矢継ぎ早の展開から始まり、ちょっと逸れていた視線が戻るまでの数コンマを実にドラマチックな名場面に仕立てる技は唯一無二の名人芸。改めて畏れ入る。技巧や仕掛けだけではなく卓抜した演技指導をも含めてこの人は巨匠なのだ。


KUBO/クボ 二本の弦の秘密
2017.12.7 イオンシネマシアタス調布:スクリーン2 Kubo and the Two Strings
【101】2016年アメリカ 監督:トラヴィス・ナイト 脚本:マーク・ヘイムズ、クリス・バトラー
CAST:(声)矢野晶子、田中敦子、ピエール瀧、森田順平、羽佐間道夫、川栄李奈、大原さやか、杉山あいり、小林幸子
●最先端はここまで来ているかと驚くばかりのストップモーションアニメ。もちろん膨大な労力であることに今も昔もない。フルアニメやCGと違い虚構と現実が一体化しているのが魅力だが、次から次と連続する豊潤なイメージに目を慣れさせるのがひと苦労で、テーマとして示された「人はなぜ物語が必要なのか」まで考えが至らなかった。


はじまりの街
2017.12.8 岩波ホール La vita possibile
【102】2016年イタリア=フランス 監督:イバーノ・デ・マッテオ 脚本:バレンティナ・フェルラン、I・デ・マッテオ
CAST:マルゲリータ・ブイ、バレリア・ゴリノ、アンドレア・ピットリーノ、カテリーナ・シェルハ、ブリュノ・トデスキーニ
●夫のDVから避難してきたトリノで母子が再生を目指す中で、女同士の友情や娼婦に憧れる少年の姿が丁寧に描かれる。女の闘いを描く映画は多いが、かねてより友情を描く映画があってもいいと思っていたので最良の映画にめぐり逢えた。ヴァレリア少年の成長が母を自立させ、いつしかトリノに馴染んでいくのを暗示させるラストがいい。


カフェ・ソサエティ
2017.12.9-10 新文芸坐 CAFÉ SOCIETY
【103】2016年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ジェシー・アイゼンバーグ、クリスティン・スチュワート、ブレイク・ライブリー、スティーヴ・カレル
●物語がハリウッドからニューヨークへ移ったあたりで「ああ、いいな~」と思った瞬間ら我に返るまでの一時間あまり、まったく映画を観ていることの自覚すら忘れてボニ―とヴォニーが織りなす世界に没入していた。このテンポとリズムは神業に近いと思った。通奏低音である「皮肉と諦観」の先に突き抜けたウディ・アレンに最上級の賞賛を。


誘惑のアフロディーテ
2017.12.9-10 新文芸坐 Mighty Aphrodyte
【104】1995年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウディ・アレン、ミラ・ソルヴィーノ、ヘレナ・ボナム・カーター、F・マーリー・エイブラハム、ピーター・ウェラー
●ギリシャ悲劇がときに破廉恥な因果応報劇であるがゆえの面白さであるなら、遺跡の合唱隊を語り部とした映画も破廉恥なゆえに面白い。しかしラストシークエンスがあまりに強烈。人生の皮肉が深い慈愛に包まれ少し泣きそうになったが、こんなアホ丸出しのウディ・アレン映画で泣いてたまるかと(笑)何とか涙は堪えるに至ったが。


おいしい生活
2017.12.9-10 新文芸坐 Small Time Crooks
【105】2000年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウディ・アレン、トレイシー・ウルマン、ヒュー・グラント、エレイン・メイ、トニー・ダロウ、ジョン・ロヴィッツ
●正直、今回のオールナイトで一番きつかったかな。銀行強盗を試みる前半の爆笑ドタバタまでは大いに笑わせてくれたが、俄かセレブとなった夫婦が、挫折して身の丈にあった幸せに目覚めるというオチに、あっウディ、置きに行ったなという感は残った。それとこの邦題・・・。ただ私もエスカルゴならチーズバーガーの方を選びたいとは思う。


ローマでアモーレ
2017.12.9-10 新文芸坐 TO ROME WITH LOVE
【106】2012年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウディ・アレン、アレック・ボールドウィン、ロベルト・ベニーニ、ペネロペ・クルス、ジュディ・デイヴィス
●ワイルダーの『昼下がりの情事』の冒頭だけを全編に拡大して、舞台をパリからローマに映したような映画。セレブもビッチもどいつもこいつも貞操観念のなさに呆れてしまうが、イタリアだからいいじゃんと開き直るいい加減さには笑える。これもひでぇ邦題だなと思っていたが、観終わった後はこれでいいのかと妙に納得してしまった。


パーティで女の子に話しかけるには
2017.12.12 ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2 HOW TO TALK TO GIRLS AT PARTIES
【107】2017年イギリス=アメリカ 監督:ジョン・キャメロン・ミッチェル 脚本:J・C・ミッチェル、フィリッパ・ゴズレット
CAST:エル・ファニング、アレックス・シャープ、ニコール・キッドマン、ルース・ウィルソン、マット・ルーカス
●途中で『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』を思い出していたら、何と同じ監督ではないか。驚くべき15年間目の既視感だ。パンクに対しアナーキーな破壊衝動のイメージしか持たない私には、ラブ&ピースに帰結する展開に首を傾げつつも、他人事の気分で異次元空間を越えたボーイ・ミーツ・ガールを結構楽しんでいたように思う。


夜 叉
2017.12.17  TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER ※再観賞
【108】1985年東宝 監督:降旗康男 脚本:中村努
CAST:高倉健、田中裕子、いしだあゆみ、ビートたけし、田中邦衛、小林稔侍、あき竹城、檀ふみ、乙羽信子、奈良岡朋子
●健サンの刺青姿以外、殆んど憶えていなかったが、改めて80年以降の高倉健映画のジャンル的な硬直性から逃がれられていないと思った。ヤクザな健サンはより寡黙に沈み込み、饒舌すぎる木村大作の絵作りが妙に浮いている。ふたりの女優の熱演でかなり救われているが、こうも型に嵌められては健サンもさぞ息苦しかったのではないか。


オリエント急行殺人事件
2017.12.17 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン6 MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
【109】2017年アメリカ 監督:ケネス・ブラナー 脚本:マイケル・グリーン
CAST:ケネス・ブラナー、ジョニー・デップ、ミシェル・ファイファー、ジュディ・デンチ、ペネロペ・クルス、ウィレム・デフォー
●究極の密室劇のはずが、雪崩のスペクタクルあり、ポワロのアクションありと、やたら列車の外に飛び出すものだからルメット版を観た者にはかなり奇異に映るが、なるほど21世紀にリメイクするとなるとこうなるのかと得心もした。とくに善か悪かの二元論者だったポワロが何が正義であるのか葛藤し苦悩するエンディングは悪くない。


花 筐 HANAGATAMI
2017.12.17 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9
【110】2017年唐津映画=PSC 監督:大林宣彦 脚本:大林宣彦、桂千穂
CAST:窪塚俊介、矢作穂香、常盤貴子、満島真之介、長塚圭史、山崎紘菜、柄本時生、門脇麦、村田雄浩、武田鉄矢
●これが原点回帰というものなのか。163分、圧巻だった。つるべ打ちに繰り出される幻想的な映像マジックに終始圧倒されつつ、寓話的世界感の中にここまで映像作家の思想をストレートに突きつけられると、もはや大林宣彦の“映画ざま”を拝むように呑み込むしかないのだと思う。しかしここに描かれた青春像はあまりにも瑞々しい。
※2017年キネマ旬報ベストテン第2位


幼な子われらに生まれ
2017.12.20 早稲田松竹
【111】2017年ファントム・フィルム 監督:三島有紀子 脚本:荒井晴彦
CAST:浅野忠信、田中麗奈、南沙良、鎌田らい樹、新井美羽、水澤紳吾、池田成志、宮藤官九郎、寺島しのぶ
●「あなたは理由は聞くけど、私の気持ちは聞こうとしない!」女にこんなことを叫ばれたら大抵の男はお手上げではないか。重松清の原作を荒井晴彦が脚色したのだから間違いはないが、上質なTVドラマに陥りそうな話を、堂々とスクリーンで絶望の先の再生を見せ切ったのは演出と演者の力量だ。おそらく本年度ベスト級の一編。
※2017年キネマ旬報ベストテン第4位


戦場のメリークリスマス
2017.12.29 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 Merry Christmas, Mr. Lawrence ※再観賞
【112】1983年イギリス=日本=オーストラリア他 監督:大島渚 脚本:大島渚、ポール・メイヤーズバーグ
CAST:デヴィッド・ボウイ、坂本龍一、ビートたけし、トム・コンティ、ジャック・トンプソン、ジョニー大倉
●戦場とホモセクシャルという題材以前に、異色のキャストばかりに目を奪われていた学生時代と違い、34年ぶりの『戦メリ』はこんなに涙が出るほど素晴らしい映画だったのかと思った。「目が綺麗だ」とセリアズ英軍少佐に言わしめたハラ軍曹のラストのキラキラした目が、映画を大島渚らしい反戦と反国家に帰結させているのではないか。
※1983年キネマ旬報ベストテン第3位


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