●2018年(平成30年)

 三行の映画評


スター・ウォーズ/最後のジェダイ
2018.01.01 イオンシネマつきみ野:スクリーン9  STAR WARS: THE LAST JEDI
【01】2017年アメリカ 監督:ライアン・ジョンソン 脚本:ライアン・ジョンソン
CAST:デイジー・リドリー、アダム・ドライバー、マーク・ハミル、ジョン・ボイエガ、キャリー・フィッシャー
●観る前からストーリーがグダグダという話ばかり入って困ったが、成程、ルーカスもズッコケたに違いない反乱軍のバカ丸出しの迷走ぶりはSW史でも前代未聞だろう。それでも私はカイロ・レンの成長物語(あえて)が、アダム・ドライバーの俳優としてのキャリアとシンクロしている様を楽しめた。ところでレイの親は一体誰なのだろう。


ペーパー・ムーン
2018.01.03 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER PAPER MOON ※再観賞
【02】1973年アメリカ監督:ピーター・ボグダノヴィッチ 脚本:アルヴィン・サージェント
CAST:ライアン・オニール、テイタム・オニール、マデリーン・カーン、ジョン・ヒラーマン、P・J・ジョンソン
●あの頃「バディ・ムービー」なんて用語はなかったし「ロード・ムービー」も使われていたかどうか。これはどちらのジャンルでも最上の映画。ラストのモーゼとアディの往く道はもっと曲がりくねっていた記憶だったが、思ったより真っ直ぐだった。とてもいい映画なのだが、その後にテイタムが辿った道のりを思うと、ややほろ苦いか。
※1974年キネマ旬報ベストテン第5位


アラビアのロレンス 〈完全版〉
2018.01.07 国立近代美術館フィルムセンター 大ホール Lawrence of Arabia ※再観賞
【03】1962年イギリス 監督:デヴィッド・リーン 脚本:ロバート・ボルト
CAST:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、アレック・ギネス、アンソニー・クイン、ジャック・ホーキンス
●金字塔ともいえる映画中の映画であることは変わらないが、8年ぶりに観てT・E・ロレンスをめぐる地獄が、壮大な歴史と広大な砂漠の中でずっとさまよい続けていたのに慄然とさせられた。ひたすらロレンスの内面を突き詰めていった結果、死ぬことでしか彼の魂の救済を得られなかったと巨匠は説く。本当の意味で唯一無二の映画だ。
※1963年キネマ旬報ベストテン第1位


アニー・ホール
2018.01.14 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER Annie Hall ※再観賞
【04】1977年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ウディ・アレン、ダイアン・キートン、トニー・ロバーツ、キャロル・ケイン、ポール・サイモン、シェリー・デュヴァルス
●高校生のときはどこが面白いのかさっぱり判らなかったが、歳月の蓄積とウディ映画の蓄積でやはり名作に違いないと確信する。本人は否定しているが、やはりウディのD・キートンとの惜別を綴った個人映画だと思った方が、ラストのフラッシュバックの泣かせも含め圧倒的にコクが出る。そして改めてニューヨークLOVEなのだということも。
※1978年キネマ旬報ベストテン第10位


マッドマックス/怒りのデス・ロード
2018.01.21 イオンシネマつきみ野:スクリーン9 MAD MAX:Fury Road ※再観賞
【05】2015年オーストラリア=アメリカ 監督:ジョージ・ミラー 脚本:G・ミラー、B・マッカーシー、N・ラサウリス
CAST:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン、ロージー・H=ホワイトリー
●初見では追う者と追われる者たちの旺盛なバイオレンスに圧倒され、私自身の破壊衝動の隆起を面白がっていたが、正直、どこか消化しきれていないもどかしさも感じていた。再見し、はっきりこの映画には「詩」があった。究極の破壊の末に辿りついた芸術性を抜きにこの映画の本質は語れないのだと確信する。改めて凄い作品だ。
※2015年キネマ旬報ベストテン第1位


嘘を愛する女
2018.01.28 イオンシネマつきみ野:スクリーン6
【06】2018年製作委員会=東宝 監督:中江和仁 脚本:中江和仁、近藤希実
CAST:長澤まさみ、高橋一生、吉田鋼太郎、DAIGO、川栄李奈、野波麻帆、初音映莉子、嶋田久作、奥貫薫、黒木瞳
●率直にいい映画だ。ポスターに原作者の名前がないだけで好感を抱く癖がついたものの、ミステリーかサスペンスものと決めつけていたので、この展開はないだろうと思えた場面が次々と裏切られ、描き方が浅くないか?という場面も後から巧みに回想で補っていく。そしてまさかのホロリとなる幕切れ。恋愛映画として完結したのも嬉しい。


セッション
2018.01.28 イオンシネマつきみ野:スクリーン9 Whiplash
【07】2014年アメリカ 監督:デミアン・チャゼル 脚本:デミアン・チャゼル
CAST:マイルズ・テラー、J・K・シモンズ、ポール・ライザー、メリッサ・ブノワ、オースティン・ストウェル、ネイト・ラング
●皮膚が破れ、太鼓とシンバルに血と汗が滴り落ちてくる大迫力。いやはやJAZZの激しいセッションに否応なく持って行かれる。まさに格闘技。スポ根映画のレギュレーションで殆んど暴力的に疾走していくが、この格闘の結末はありがちなカタルシスに着地させず、オブセッションの境地へと行ってしまう。J・K・シモンズには参った。
※2015年キネマ旬報ベストテン第7位


不能犯
2018.02.01 シネ・リーブル池袋1
【08】2018年製作委員会=ショウゲート 監督:白石晃士 脚本:山岡潤平、白石晃士
CAST:松坂桃李、沢尻エリカ、新田真剣佑、間宮祥太朗、テット・ワダ、菅谷哲也、芦名星、矢田亜希子、安田顕、小林稔侍
●Vシネかよ?と思わせるスカスカのストーリーに「いつまで同じことやってるの、もういいよ」といいたくなるグダグダな展開。瞬間のホラー妙味にドキッとはさせるものの、説明的なセリフの多用に白けてしまう。いくら冷血な笑みを湛えても桃李クンは桃李クンでしかなく、沢尻エリカの熱血女刑事は柄ではなく不相応でしかない。


スリー・ビルボード
2018.02.01 シネ・リーブル池袋2 THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI
【09】2017年アメリカ=イギリス 監督:マーティン・マクドナー 脚本:マーティン・マクドナー
CAST:フランシス・マクドーマンド、ウディ・ハレルソン、サム・ロックウェル、アビー・コーニッシュ、ジョン・ホークス
●面白かった!まったく先読み不可能な中で、どこか牧歌的なアメリカ片田舎に棲息するネジの曲がったエキセントリックな人物たちの「そこまでやるか!」的な暴走。観る者はミルドレットを応援しながらも、その怒り、焦燥、苛立ちに呆れ果てながら、そこからこぼれ落ちるブラックなユーモアに次第に心が温まっている。なんたる映画だ。
※2018年キネマ旬報ベストテン第1位


勝手にふるえてろ
2018.02.02 ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2
【10】2018年製作委員会=ファントムフィルム 監督:大九明子 脚本:大九明子
CAST:松岡茉優、北村匠海、渡辺大知、石橋杏奈、趣里、前野朋哉、古舘寛治、池田鉄洋、稲川実代子、片桐はいり
●松岡茉優ショーだった。「はい、出た正直!」の台詞に声を上げて笑ってしまった。綿矢りさの原作は読んでいないが、意外にも映画初主演という彼女の女優魂が全編を支配することで、この話は映画で何倍も面白くなっていると勝手に推測。アングルもあるだろうが、場面場面で彼女の表情が別人に変容する様が大いに楽しめる117分。


ギルバート・グレイプ
2018.02.03  TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 What's Eating Gilbert Grape
【11】1993年アメリカ 監督:ラッセ・ハルストレム 脚本:ピーター・ヘッジス
CAST:ジョニー・デップ、レオナルド・ディカプリオ、ジュリエット・ルイス、ダーレーン・ケイツ、ローラ・ハリントン
●束縛からの脱出は旅立ちばかりが手段ではないのか。エピソードだけ聞くと何ともどんよりする話も、ヨーロッパの監督とカメラマンが撮るとアメリカの閉塞した田舎町がこんな感じになるのかと感心した。それにしても凄かったのはデップとディカプリオ。稀代の性格俳優とどう見ても天才としか思えない若手俳優の共演で一気に見せる。
※1994年キネマ旬報ベストテン第5位


バグダッド・カフェ〈ニュー・ディレクターズ・カット版〉
2018.02.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER Out of Rosenheim/BAGDAD CAFE New directer's cut
【12】1987年西ドイツ 監督:パーシー・アドロン 脚本:パーシー・アドロン、エレオノーレ・アドロン
CAST:マリアンネ・ゼーゲブレヒト、CCH・パウンダー、ジャック・パランス、クリスティーネ・カウフマン、モニカ・カローン
●“Calling You”が耳から離れない何とも不思議な映画だが、ストレスフルな人々が、突然現れた「よそ者」によって明るく活気づく話は、ある意味『シェーン』ではないか。ただアラン・ラッドがジャック・バランスを撃ち倒して去って行くのに対し、このヤスミンは見事ジャック・バランスのハートを撃ち抜いてカフェに留まっていく(笑)
※1989年キネマ旬報ベストテン第5位


羊の木
2018.02.05  TOHOシネマズ新宿:スクリーン4
【13】2018年アスミックエース 監督:吉田大八 脚本:香川まさひと
CAST:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、優香、市川実日子、水澤紳吾、田中泯、安藤玉恵、深水三章、山口美也子、松田龍平
●じわじわ広がってゆく不穏な空気感も、『桐島、部活やめるってよ』の日常の学園生活が壊れていくヤバさと違い、あらかじめ特異なシュチュエーションが設定された分だけジャンル映画に陥ってしまったか。願わくは吉田大八にはオリジナルストーリーで勝負してもらいたい。もちろん一定の緊張感を持続させていく力量に疑いの余地はない。


アメリ
2018.02.06 イオンシネマつきみ野:スクリーン3 Le Fabuleux destin d'Amelie Poulain ※再観賞
【14】2001年フランス 監督:ジャン=ピエール・ジュネ 脚本:ジャン=ピエール・ジュネ、ギョーム・ローラン
CAST:オドレイ・トトゥ、マチュー・カソヴィッツ、セルジュ・メルラン、ドミニク・ピノン、イザベル・ナンティ
●去年15年ぶりに観て、改めてこの映画を素晴らしいと思い、もしや私のフェイバリット・ムービーになるのではないかと予感し、その確信を得るため再見した。23歳の妄想好きの女子の話を57歳のオッサンが愛してしまってもいいではないか。アメリだけではなくアパルトマンの住民、カフェ・ド・ムーランに集う人々の何たる愛くるしさよ。
※2001年キネマ旬報ベストテン第6位


デトロイト
2018.02.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 DETROIT
【15】2017年アメリカ 監督:キャスリン・ビグロー 脚本:マーク・ボール
CAST:ジョン・ボイエガ、ウィル・ポールター、ジャック・レイナー、アンソニー・マッキー、アンジー・スミス
●治安維持のためという大義名分を権力が持ったときの「使命感の残虐性」になるほどなと思いつつ、根本にあるレイシズムの気色悪さにぞっとする。評判の40分間の尋問に名を借りた拷問は確かに緊張感はあったが、それよりも黒人たちが次第に暴動へと駆り立てられていく高揚感を活写した冒頭に、剛腕ビグロー女史の演出の凄味を見る。


ジュピターズ・ムーン
2018.02.09 ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター2 JUPITER HOLDJA
【16】2017年ハンガリー=ドイツ 監督:コーネル・ムンドルッツォ 脚本:カタ・ヴェーベル
CAST:メラーブ・ニニッゼ、ゾンボル・ヤェーゲル、ギェルギ・ツセルハルミ、モーニカ・バルシャイ
●空を飛ぶ少年のファンタジーと思いきや、本質はシリア難民の流入とテロリズムに混乱する東欧の現実を背景に、許されざる者たちの焦燥がヒリヒリと痛む強烈なドラマ。やがて神の真偽まで踏み込むのだが、特筆すべきは映像の迫真性で、ハンガリーはこんなものを創造するのかと驚く。今月観た2本のオスカー候補作よりもずっと凄かった。


ルイの9番目の人生
2018.02.09 ヒューマントラストシネマ渋谷 シアター3 The 9th Life of Louis Drax
【17】2016年カナダ=イギリス 監督:アレクサンドル・アジャ 脚本:マックス・ミンゲラ
CAST:ジェイミー・ドーナン、サラ・ガドン、エイダン・ロングワース、オリバー・プラット、モリー・パーカー
●ルイ少年の人となりをナレーションに乗せて『アメリ』チックなユーモアで綴った冒頭から急転換して、映画はグロテスクな闇に落ちてゆく。子供が怖い映画は気色悪くて好きではないが、事件の真相を憑依して語らせるのはミステリーとしても釈然としない。なにもかもすべてダークファンタジーで片付けてしまう強引さも気になった。


マッドマックス
2018.02.11 新文芸坐 MADMAX ※再観賞
【18】1979年オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:ジェームズ・マッカウスランド、ジョージ・ミラー
CAST:メル・ギブソン、ジョアン・サミュエル、スティーヴ・ビズレー、ヒュー・キース・バーン、ジョフ・パリー
●まだ近未来の世界観が確立する以前の、牧歌的ですらある地平線まで続く豪州の一本道。製作費の殆んどを車の改造代に使い、低予算剥き出しでロケ中心の“ヌケ”の多い画面の中で炸裂する気違いじみたスピードとバイオレンス。あゝやっぱり学生時代に観たヤバさのままの映画だった。そしてリアルな狂気という点でこの第一作は本当に怖い。


マッドマックス2
2018.02.11 新文芸坐 MADMAX2:THE ROAD WARRIR ※再観賞
【19】1981年オーストラリア 監督:ジョージ・ミラー 脚本:テリー・ヘイズ、ジョージ・ミラー、ブライアン・ハナント
CAST:メル・ギブソン、ブルース・スペンス、マイク・プレストン、ケル・ニルソン、ヴァーノン・ウェルズ
●一介の警察官だったマックスが伝説の英雄譚として語られる。学生時代に観た時、冒頭のナレーションからぶっ飛んだ。バイオレンス映画の革命であり、あらゆる世界観をこの映画は更新してしまったのだと思う。とにかく素晴らしいのは常に観客の心を揺さぶられるように作られていること。また『怒りのデス・ロード』が観たくなる。


マッドマックス/怒りのデス・ロード
2018.02.13 新文芸坐 MAD MAX:FURY ROAD  ※再観賞
【20】2015年オーストラリア=アメリカ 監督:ジョージ・ミラー 脚本:G・ミラー、B・マッカーシー、N・ラサウリス
CAST:シャーリーズ・セロン、トム・ハーディ、ライリー・キーオ、ヒュー・キース・バーン、リチャード・カーター
●俄か“マッドマックス熱”に冒されつつある。もう断言したいのは、映画史に残るエポックメーキングだ。爆音と阿鼻叫喚の渦中においてさえこの静謐な美しさはなんだろう。フェリオサももちろん、イモータン・ジョー、イクタス、武器商人、人喰い男爵に至る悪役までもが愛おしい。そしてニュークスが最期に見せる凛とした表情の美しさ。
※2015年キネマ旬報ベストテン第1位


ブレードランナー 〈ファイナル・カット〉
2018.02.13 新文芸坐 BLADE RUNNER:THE FINAL CUT ※再観賞
【21】1982=2007年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:ハンプトン・ファンチャー、デヴィッド・ピープルズ
CAST:ハリソン・フォード、ルトガー・ハウアー、ショーン・ヤング、エドワード・ジェームズ・オルモス、ダリル・ハンナ
●「強力ワカモト」の看板の他は一場面も憶えていなかったが、35年前の初見をまざまざと思い出した。そう私はこの映画を見ながら襲ってくる睡魔と戦っていたのだ。そして今夜もまた何度も落ちそうになった。どうしようもない相性の悪さは如何ともし難く、この映画を語る資格のなさに改めて納得した。去年公開の続編の方がずっと好きだ。


マンハント
2018.02.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 Man Hunt 追捕
【22】2018年中国 監督:ジョン・ウー 脚本:ニップ・ワンフン、ゴードン・チャン、ジェームズ・ユエン他
CAST:チャン・ハンユー、福山雅治、チー・ウェイ、ハ・ジウォン、國村隼、竹中直人、倉田保昭、池内博之、桜庭ななみ
●何度か「えー?」と苦笑する。雑な展開が、粗い編集で矢継ぎ早に繰り出されるダメ要素満載の映画だが、それを逐一指摘したところで何になる。ジョン・ウーが目当てなのだから、お約束の二挺拳銃、スローモーション、白鳩を「待ってました!」と楽しみ、桜の散る中、純白のドレスが血で染まるベタさを堪能しなければ損をこく。


サニー/32
2018.02.17 イオンシネマ海老名:スクリーン2
【23】2018年製作委員会=日活 監督:白石和彌 脚本:高橋泉
CAST:北原里英、ピエール瀧、リリー・フランキー、門脇麦、駿河太郎、音尾琢真、蔵下穂波、カトウシンスケ、山崎銀之丞
●率直におバカな映画だったが、先読みがまったく不可能なためか最後まで楽しめた。ある意味、白石和彌としても前作みたいに原作に縛られず自由に撮ったか。しかしダークなバイオレンスの連続で緊張させられる前半から、突然の後半の転調はあまりにも唐飛で、瀧とリリーは『凶悪』のボルテージよもう一度とはならなかった。


招かれざる客
2018.02.24 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Guess Who's Coming to Dinner
【24】1967年アメリカ 監督:スタンリー・クレーマー 脚本:ウィリアム・ローズ
CAST:スペンサー・トレイシー、キャサリン・ヘプバーン、シドニー・ポワチエ、キャサリン・ホートン、セシル・ケラウェイ
●「午前十時の映画祭8」で意外にもベスト級によかった。白人と黒人の突然の結婚を双方の両親がどう受け止めるのかという社会性もさることながら、愛こそがすべてだとの決着はありきたりだが、オスカー名優3人が舞台劇さながらの緊張感で一気に見せる。とくに撮影後に急死したスペンサー・トレイシーが絶品だった。


シェイプ・オブ・ウォーター
2018.03.01 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9 THE SHAPE OF WATER
【25】2017年アメリカ 監督:ギレルモ・デル・トロ 脚本:ギレルモ・デル・トロ、バネッサ・テイラー
CAST:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、オクタビア・スペンサー
●登場人物の殆んどがおバカという大変な映画で、寒色に彩られたダークな「アメリ」がウルトラQの1エピソードみないな話を展開すると思いきや、「おやおや、そこまでやるか」となって、窓の雨の滴で笑わせられて以降、これは愛とロマンのファンタジーではなく、グロとして楽しめる映画との結論に至った。※あくまで個人の感想です。
※2018年キネマ旬報ベストテン第3位


麦 秋
2018.03.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER ※再観賞
【26】1951年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:原節子、笠智衆、淡島千景、三宅邦子、菅井一郎、東山千栄子、杉村春子、二本柳寛、宮口精二、佐野周二
●3度目の観賞にして、今まで『麦秋』の何を観て来たのだろう。威厳を保たんとする長男。戦争から還らぬ次男に気を病む母。親友たちとガールズトークに花を咲かせる娘。わんぱく盛りの孫たち。しかし「家族にとって今が一番いい時かも知れんなぁ」と北鎌倉の踏切で無力感に耽る父親。散りゆく家族に託された小津の人生観なのだろうか。
※1951年キネマ旬報ベストテン第1位


15時17分、パリ行き
2018.03.04 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE 15:17 TO PARIS
【27】2018年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ドロシー・ブリスカル
CAST:スペンサー・ストーン、アンソニー・サドラー、アレク・スカラトス、ジェナ・フィッシャー、ジュディ・グリア
●もうなんと表現したらいいのか。実話を追求し続けるイーストウッドが到達した境地がこんな映画を生み出したのか。「人はその時、前に踏み出せるか」というシンプルな問いの中で、普通の彼らが英雄譚を成し遂げたことに続き、ここまでの傑作を完成させてしまう。果敢な挑戦を止めない87歳の巨匠はもはや神の域に達してしまったか。
※2018年キネマ旬報ベストテン第6位


去年の冬、きみと別れ
2018.03.11 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5
【28】2018年ワーナー 監督:瀧本智行 脚本:大石哲也
CAST:岩田剛典、斎藤工、山本美月、浅見れいな、土村芳、北村一輝、でんでん、円城寺あや、林泰文
●「純愛サスペンス」と謳っていたが「偏愛サスペンス」だ。序盤は編集と主役の演技のぎこちなさにイライラしていたが、中盤から展開の面白さと張りめぐらされた罠にすっかり乗せられてしまった。編集と演技下手すらミスリードの内だったとしたら完全に騙された。ただ意欲作なだけに、説明ゼリフでの種明かしは少々残念だった。


バクマン。
2018.03.17 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11
【29】2015年製作委員会=東宝 監督:大根仁 脚本:大根仁
CAST:佐藤健、神木隆之介、小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキー、染谷将太
●プロジェクションマッピングでの戦闘と、同業者との「友情、努力、勝利」にまつわるエピソード以外、文句なしだった。一番の成功は集英社「少年ジャンプ」を堂々と前面に出したことか。そこが虚構の設定だとしたらここまでバディたる主人公たちが輝かなかった。エンディングのアイデアも含め、随所で大根仁の闊達な演出が光っている。


あゝ、荒野 前篇
2018.03.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11
【30】2017年スターサンズ 監督:岸善幸 脚本:港岳彦、岸善幸
CAST:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、ユースケ・サンタマリア、モロ師岡、高橋和也、今野杏南、でんでん
●自分の居場所探しという極めて60~70年代的な寺山修司の原作に、東京オリンピック後の不穏な社会と震災の後遺症をぶち込んだ青春劇。行き場を失くした新宿新次とバリカン健二の二人がボクシングと出会い、殴り合うことで生を見つけていく物語は好きだし、何より本気で映画を作っている熱は十二分に伝わってくるのだが、(後篇に続く)
※2017年キネマ旬報ベストテン第3位


あゝ、荒野 後篇
2018.03.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11
【31】2017年スターサンズ 監督:岸善幸 脚本:港岳彦、岸善幸
CAST:菅田将暉、ヤン・イクチュン、木下あかり、ユースケ・サンタマリア、モロ師岡、高橋和也、河井青葉、木村多江
●菅田将暉とヤン・イクチュンを始めとする演者たちの力量にあまりにも依存し過ぎではなかったか。前後篇合わせて5時間!かくも長尺の時間が必要だったのだろうか。とくに健二の父と自殺再生プログラムは蛇足。さらに新次たちのこれからに本当の荒野が待っているのだとすれば、何とも救われない風景が想像されるのも少々つらい気がした。
※2017年キネマ旬報ベストテン第3位


クソ野郎と美しき世界
2018.04.08 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1
【32】2018年新しい地図=キノフィルムズ 監督・脚本:園子温、山内ケンジ、太田光、児玉裕一
CAST:稲垣吾郎、草彅剛、香取慎吾、浅野忠信、満島真之介、中島セナ、尾野真千子、馬場ふみか、健太郎、新井浩文
●最終話にすべてが帰結するオムニバスという方式ゆえ、各々のエピソードが完結を見ないまま終ってしまうのはいかがなものか。それが今の流行りなのだろうが、監督4人のカラーが相殺してしまったのは残念だった。ただ“クソ野郎”と自虐しながらNEXTに踏み出そうとする40代3人のメタ的決意表明は、まだ甘さはあるが意気は伝わったかな。


名探偵コナン/ゼロの執行人
2018.04.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1
【33】2018年東宝=小学館=日テレ 監督:立川譲 脚本:櫻井武晴
CAST:(声)高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、古谷徹、上戸彩、博多大吉、茶風林、緒方賢一、大谷育江、林原めぐみ
●宙を舞う車でのダイブなどアクションのインフレ化は制御不能のレベルまで行ってしまったが、毎年春のお楽しみとしても、今回の出来こそシリーズでもトップクラスではないか。正義と真実は二律背反の関係にあるのかというテーマを、例によって大爆破クライマックスに邪魔されることなくしっかり描き切っている。いや~面白かった。


レッド・スパロー
2018.04.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 RED SPARROW
【34】2018年アメリカ 監督:フランシス・ローレンス 脚本:ジャスティン・ヘイス
CAST:ジェニファー・ローレンス、ジョエル・エドガートン、マティアス・スーナールツ、シャーロット・ランプリング
●映画に入り込もうとするとき、物語のヒロインへの感情移入と現実の主演女優への賞賛を混同するのは評価の根本的な矛盾だ。しかしこれは間違いなくハニ―トラップ専門に訓練されたロシアの女スパイ、ドミニクの過酷な暗闘を通してジェニファー・ローレンスを堪能するための140分だった。そこに境界線を感じさせない凄さがある。


生きものの記録
2018.04.17 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU
【35】1955年東宝 監督:黒澤明 脚本:橋本忍、小国英雄、黒澤明
CAST:三船敏郎、志村喬、千秋実、清水将夫、三好栄子、青山京子、千石規子、上田吉二郎、東野英治郎、藤原釜足
●もし原田という裁判調停人が喜一老への思いを吐露しなければ、我々も家族が見舞われる不条理に同調していたかもしれない。それでも喜一老を贔屓してしまうのは、彼の原水爆への恐怖に共鳴したのではなく、孤立する老人への同情だったに過ぎないのか。それも含めて黒澤が突きつけた、我々日本人という生きものの記録なのだろう。
※1955年キネマ旬報ベストテン第4位


タイタニック
2018.04.21 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER TITANIC ※再観賞
【36】1997年アメリカ 監督:ジェームズ・キャメロン 脚本:ジェームズ・キャメロン、ジョン・ランドー
CAST:レオナルド・ディカプリオ、ケイト・ウィンスレット、ビリー・ゼーン、キャシー・ベイツ、ビル・パクストン
●もう21年前の映画になったのかとディカプリオの若々しさに感嘆しつつ、194分の長尺でもケツが痛くならない面白さに驚嘆。そう、今観てもこの映画は感嘆と驚嘆に満ちた記念碑的な映画だ。誰もが知る結末に向かいながら誰もの想像を超えるストーリーとスペクタクル。そして再見した誰もが各々の21年分の記憶を回想せずにはいられない。
※1998年キネマ旬報ベストテン第4位


ベルリン・シンドローム
2018.04.22 イオンシネマ港北ニュータウン :スクリーン10 BERLIN SYNDROME
【37】2018年オーストラリア 監督:ケイト・ショートランド 脚本:ショーン・グラント
CAST:テリーサ・パーマー、マックス・リーメルト、マティアス・ハビッヒ、エマ・ディング、クリストフ・フランケン
●女性旅行者を狙った監禁犯罪。しかし監禁する側のドイツ人に視点を映すと、監禁したオージー娘の逆襲がストレスにならないものかと思う。湿気を伴う緊張感は続くが、それが決定的な衝撃性に転化されないまま、むしろその緊張感が次第に日常化していく。それはそれで気持ち悪いのだが、どちらの側にも感情移入が出来ないのはツラい。


ソナチネ
2018.05.03-04 新文芸坐
【38】1993年松竹=バンダイ=オフィス北野 監督:北野武 脚本:北野武
CAST:ビートたけし、大杉漣、国舞亜矢、寺島進、勝村政信、渡辺哲、森下能幸、北村晃一、津田寛治、木下ほうか
●『アウトレイジ』で既成のやくざ映画との差異に驚いた自身を嘲笑いたくなった『ソナチネ』初観賞。青い空に白い砂浜、投げやりでぶっきらぼうに暇を弄ぶやくざたち。そして愛想がない故に感情移入の余地を挟ませない衝動的な殺戮。これが北野クオリティか。世界のバイオレンスシーンの革命は四半世紀前の昔に既に完成されていたか。
※1993年キネマ旬報ベストテン第4位


ポストマン・ブルース
2018.05.03-04 新文芸坐
【39】1997年日活 監督:SABU 脚本:SABU
CAST:堤真一、大杉漣、遠山景織子、堀部圭亮、清水宏、寺島進、田口トモロヲ、麿赤兒、近藤敦、DIAMOND☆YUKAI
●そういえば90年代の日本映画にサブのムーブメントがあったなとビデオ屋時代を思い出したが、正直、シチェーションコメディとしてもスラップスティックとしても中途半端に思えた。今夜の主役たる大杉漣の殺し屋は惚れ惚れするほど恰好良かったが、主人公の郵便配達人が予め犯罪者ではストーリーそのものに共感できず笑えなかった。


エクステ
2018.05.03-04 新文芸坐
【40】2007年東映 監督:園子温 脚本:園子温、安達正軌、真田真
CAST:栗山千明、大杉漣、佐藤めぐみ、つぐみ、町本絵里、佐藤未来、山本未來、田中哲司、光石研、田中要次
●ホラー映画に耐性のない身には、襲いかかる髪の毛に臓器売買の犠牲となる少女のカットバックは評判以上に恐ろしかった。そしてこの時期の園子温の露悪趣味の振り切り方の半端なさに「勘弁して」と思わずにはいられないのだが、髪の毛フェチど変態男の大杉漣のやり過ぎ演技が恐怖場面を笑いで相殺してしまったのは否めない。


蜜のあわれ
2018.05.03-04 新文芸坐
【41】2016年ファントム・フィルム 監督:石井岳龍 脚本:港岳彦
CAST:二階堂ふみ、大杉漣、真木よう子、高良健吾、永瀬正敏、韓英恵、上田耕一、渋川清彦、岩井堂聖子
●石井岳龍が石井聰亙の改名だと知ったのはつい最近のこと。我々世代の悪ガキの代表も小娘に翻弄される小説家の老境を描くに至ったのかと感慨もあったが、金魚の化身を演じた二階堂ふみのチャームぶりがすべての肝で、大杉漣のなりふり構わぬ快演のアンサンブルを楽しむ映画か。オールナイト最終回の明け方の睡魔でチトきつかった。


バーフバリ 伝説誕生
2018.05.04 川崎チネチッタ:CINE10 baahubali:THE BEGINNING
【42】2015年インド 監督:S・S・ラージャマウリ 脚本:S・S・ラージャマウリ
CAST:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、タマンナー・バティア、ラムヤ・クリシュナ
●救い出された赤ん坊が成長し、あり得ない滝登りを敢行し理想の女を射止める。以降、まったく自分の好みの対岸にあるアトラクションみたいな映像が夢のように過ぎていくのだが、もうアホみたいに面白い。もはや映画が面白さを本気で追求した結果がこうなったのだとしか言いようがなく、日増しで膨らんできた噂に間違いはなかった。


バーフバリ 王の凱旋
2018.05.04 川崎チネチッタ:CINE10  baahubali2: THE CONCLUSION
【43】2017年インド 監督:S・S・ラージャマウリ 脚本:S・S・ラージャマウリ
CAST:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、タマンナー・バティア、ラムヤ・クリシュナ
●決してハリウッドがエンターティメントの頂点ではなかったことを確信できた。もし20代の頃だったら、帰宅する最中にも「バーフバリ!バーフバリ!」と連呼していただろう、この齢になってそれはしないが、脳内ではずっとリフレインさせていた。民主主義からするとカーストは悪だろうが、しばらくは「王を称えよ!」と叫ぼうか。


孤狼の血
2018.05.12 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8
【44】2018年東映 監督:白石和彌 脚本:池上純哉
CAST:役所広司、松坂桃李、真木よう子、江口洋介、滝藤賢一、田口トモロヲ、石橋蓮司、中村獅童、ピエール瀧
●往年の旧東映三角マークで始まり広島やくざの怒号が飛び交う。手持ちカメラの荒々しさも相俟って、なんだオヤジ接待映画かいな・・・とやや鼻白んでいたら、あるストーリー上の急展開から一気に引き込まれた。原作が素晴らしいのかも知れないが、演出と脚本が上手かった。偽ジッポーのシュパッという音は軟弱な邦画界への宣戦布告と見た。
※2018年キネマ旬報ベストテン第5位


オール・ザット・ジャズ
2018.05.13 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 ALL THAT JAZZ
【45】1979年アメリカ 監督:ボプ・フォッシー 脚本:ロバート・アラン・アーサー、 ボブ・フォッシー
CAST:ロイ・シャイダー、ジェシカ・ラング、アン・ラインキング、エリザベート・フォルディ、リランド・パーマー
●大学生の時に観賞を見送ったのは、ショービジネスにさほど興味が湧かなかったからで、それでもTVスポットに映された尖った振付けの斬新さは目を惹いていた。フォッシーが死を予感したミュージカルも今の私よりも若かったのか。70年代を席巻したロイ・シャイダーの引き出しに驚きつつも、正直、今も面白く観られたわけではなかった。
※1980年キネマ旬報ベストテン第8位


地獄の黙示録
2018.05.19 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン6 Apocalypse Now ※再観賞
【46】1979年アメリカ 監督:フランシス・フォード・コッポラ 脚本:ジョン・ミリアス、フランシス・フォード・コッポラ
CAST:マーティン・シーン、マーロン・ブランド、ロバート・デュヴァル、デニス・ホッパー、フレデリック・フォレスト
●学生時代、前半100点後半0点という当時喧伝された評価そのままの印象だった。改めて後半も80点は行っているのではないか。そして前半は200点だと思った。いやそんな真っ二つに割れる映画ではないのだが、やはりギルゴア大佐のワルキューレの騎兵隊の狂気に、撮影現場が地獄だったこともわかる。決して好きな映画ではないが。
※1980年キネマ旬報ベストテン第3位


万引き家族
2018.06.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8
【47】2018年フジテレビ=ギャガ=AOI Pro. 監督:是枝裕和 脚本:是枝裕和
CAST:リリー・フランキー、安藤サクラ、松岡茉優、城桧吏、佐々木みゆ、柄本明、池松壮亮、高良健吾、樹木希林
●傷の嘗め合いのようにも思えるし、随所に彼らの打算も見える。しかしそれも含め人が寄り添うということなのだろうか。70年代的重喜劇を思わせつつ、是枝はドキュメンタリストの凄味で不安定な空気感を維持し、随所に演技者たちの才能で作為を散りばめて、それを再構築する。多分、是枝最高傑作か。・・・少女は最後に何を見たのだろう。
※2018年キネマ旬報ベストテン第1位


用心棒
2018.06.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 ※再観賞
【48】1961年東宝=黒沢プロ 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三、黒澤明
CAST:三船敏郎、仲代達矢、山田五十鈴、東野英治郎、加東大介、司葉子、河津清三郎、山茶花究、藤田進、志村喬
●今更ながらこんなに面白い映画だったか、と思った。三船と久世竜の創造した殺陣ばかりに目がいくが、名手・宮川一夫のシネスコを生かしきったカメラワーク、美術、物語構成、どれもこれも溜息が出るばかり。主演はもちろん、脇役、端役に至るまで最高の娯楽映画を作るのだと意気込んでいる。これぞ活動屋クロサワの粋というものだ。
※1961年キネマ旬報ベストテン第2位


椿三十郎
2018.06.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10
【49】1962年東宝=黒沢プロ 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三、小国英雄、黒澤明
CAST:三船敏郎、仲代達矢、加山雄三、小林桂樹、田中邦衛、平田昭彦、入江たか子、団令子、志村喬、伊藤雄之助
●長年テレビ観賞に甘んじていたが、黒澤全30作中ようやく劇場で観る21本目の待望作。4Kデジタルともなると椿の花が落ちる音まで拾うのかと驚くものの、改めて話が良く出来ていることに感銘。私の好みでは『用心棒』なのだが、ラストの三船の居合い斬りは再三のビデオ検証で手法は知っていても、4Kでも早すぎて見えなかった。
※1962年キネマ旬報ベストテン第5位


恋は雨上がりのように
2018.06.25 TOHOシネマズ新宿:スクリーン6
【50】2018年東宝=AOI Pro 監督:永井聡 脚本:坂口理子
CAST:小松菜奈、大泉洋、清野菜名、磯村勇斗、葉山奨之、松本穂香、山本舞香、濱田マリ、戸次重幸、吉田羊
●17歳女子高生と45歳中年の恋物語。ここはひとつ惚れられる大泉洋に肩入れして、小松菜奈と疑似恋愛を謳歌してやるとキモく企むのだが、45歳はひと回りも下じゃねぇの、と、我に返る。ただ女子高生相手に精一杯抑制しつつ、青春への回顧が痒みから痛みに変わっていく中年男の、ほんの数センチの成長物語として楽しめなくもない。


バーフバリ 王の凱旋 -完全版-[オリジナルテルグ語版]
2018.06.27 新宿ピカデリー シアター2 baahubali2: THE CONCLUSION ※再観賞
【51】2017年インド 監督:S・S・ラージャマウリ 脚本:S・S・ラージャマウリ
CAST:プラバース、ラーナー・ダッグバーティ、アヌシュカ・シェッティ、タマンナー・バティア、ラムヤ・クリシュナ
●なんだろう、この有無を言わさず“あがる”感じは。167分、終電に遅れまいと新宿駅へ急ぎながら、またしても昂揚しっ放しだった。バーフバリやカッタッパばかりではなくバラーラデーヴァ、デーヴァセーナ、シヴァガミが織りなすドラマがひとつの巨大な塊となって我々を押し潰していく。もう異質で稀有な映画体験としか言いようがない。


パンク侍、斬られて候
2018.07.08 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6
【52】2018年東映 監督:石井岳龍 脚本:宮藤官九郎
CAST:綾野剛、北川景子、東出昌大、染谷将太、浅野忠信、永瀬正敏、村上淳、近藤公園、渋川清彦、國村隼、豊川悦司
●観賞後の「ふぅ~」という感覚。いかにもクドカン的というか、クドカンが書き下ろした新感線の舞台みたいな奔放な作劇だが、原作が町田康となればやはり往年の石井岳龍の世界観なのかと思った。なるほど学生時代に『爆裂都市』を観終わった後も似た感想だったか。あまりパンクと思えなかったのは監督が大人になったからなのか。


ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー
2018.07.08 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 SOLO: A STAR WARS STORY
【53】2018年アメリカ 監督:ロン・ハワード 脚本:ジョナサン・カスダン、ローレンス・カスダン
CAST:オールデン・エアエンライク、ウディ・ハレルソン、エミリア・クラーク、ドナルド・グローヴァー
●隣にチューバッカがいなければ、とてもソロとは思えない主役に違和感を抱きつつ、本編前作の阿呆な脚本や『ローグワン』の無理やりな自滅劇を思えばずっと良かった。ロン・ハワードの力かもしれないが、久々の冒険活劇であったことが嬉しく、前半の列車活劇はシリーズ白眉の迫力だった。ただディズニーは『SW』を乱発しすぎだ。


カメラを止めるな!
2018.07.10 池袋シネマ・ロサ ONE CUT OF THE DEAD
【54】2018年ENBUゼミナール 監督:上田慎一郎 脚本:上田慎一郎
CAST:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀
●拍手大喝采の内に劇場を出るなんていつ以来のことだろう。観ている最中からもう一度最初から観たくなるなどとんでもない映画だ。こんな辺境の映画評でさえネタばらしはならぬと芽生える使命感は何だ?19の浪人時代、大学落ちたら映画学校にでも行こうと思っていたあの頃の自分が疼いて仕方がなかった。改めて拍手。


女と男の観覧車
2018.07.13 新宿ピカデリー:シアター10 WONDER WHEEL
【55】2017年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ケイト・ウィンスレット、ジム・ベルーシ、ジュノー・テンプル、ジャスティン・ティンバーレイク、ジャック・ゴア
●「これもまた人生」と綴るウディの諦観。観覧車の縦回転も木馬の横回転もどちらも堂々巡りの人生模様だろうか。しかし軽い皮肉劇では収まらない激しさも垣間見せる。巨匠ストラーロの撮る美しい映像と対象となるジニーの独善と焦燥が、軽やかに登場する青年の語り部さえままならぬ泥沼の中で黙らせてしまう。でも恋の映画だった。


ファントム・スレッド
2018.07.18 新宿武蔵野館 Phantom Thread
【56】2017年アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
CAST:ダニエル・デイ=ルイス、ヴィッキー・クリープス、レスリー・マンヴィル、カミラ・ザフォード、ジーナ・マッキー
●豪奢な装飾を纏い、雰囲気で酔わせる映画。しかし物語はどこに着地していくのだろうと戸惑っていたら、予想だにしないラストとなる。考えてみれば通俗的な話であり、それ故に普遍的な男と女の愛の帰結だともいえる。寝不足で覚悟のレイトだったが、D・D=ルイスの演技で130分間を一気に観させられてしまい、癪に障る気もしたが。
※2018年キネマ旬報ベストテン第4位


未来のミライ
2018.07.21 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3
【57】2018年スタジオ地図=東宝 監督:細田守 脚本:細田守
CAST:(声)上白石萌歌、黒木華、星野源、麻生久美子、吉原光夫、宮崎美子、役所広司、福山雅治
●この度の細田守にはまったく乗れなかった。くんちゃんが全編ダダこねるのに閉口し、腹が立ってイライラし通しだったのは、上白石萌歌の下手糞で不快なアフレコと相俟って、改めて人の親にはなれないことを思い知らされた。成長物語としても家族のサーガとしても設定が突飛だし、そもそも4歳児に特異な成長物語なんて必要なのか?


バトル・オブ・ザ・セクシーズ
2018.07.28 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER BATTLE OF THE SEXES
【58】2017年アメリカ 監督:ヴァレリー・ファリス、ジョナサン・デイトン 脚本:サイモン・ボーフォイ
CAST:エマ・ストーン、スティーブ・カレル、アンドレア・ライズブロー、サラ・シルヴァーマン、ビル・プルマン
●テニス界だけではなく、あの時代の男女同権運動やLGBTへの理解を声高に主張するのではなく、それを根底に据えながらキング夫人とボビーの男女対決に至るスポーツ映画の昂揚の中にそれらを描く。実に真っ当なエンターティメントだ。試合終了後に控室で流したビリーの涙は、主義主張より「勝利」への解放感にあふれていた。そこがいい。


ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アイディオス
2018.07.28 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER BUENA VISTA SOCIAL CLUB ADIOS
【59】2017年イギリス 監督:ルーシー・ウォーカー 脚本:(ドキュメンタリー)
CAST:オマーラ・ポルトゥオンド、イブライム・フェレール、コンパイ・セグンド、ファン・デ・マルコス、ルーベン・ゴンザレス
●あの感涙から18年。時代に翻弄され続けたBVSCの老ミュージシャンたちの死を伝えていく。胸も詰まったがどこか晴れがましい最後。「さようなら」より「アディオス」の響きがいい。コンパイもルーベンも幸福な哲学者の逝去とさえ思えたが、イブライムとオマーラのラブストーリーではないかと思えるほど濃密なデュオが忘れられない。


カメラを止めるな!
2018.07.31 池袋シネマ・ロサ ONE CUT OF THE DEAD ※再観賞
【60】2018年ENBUゼミナール 監督:上田慎一郎 脚本:上田慎一郎
CAST:濱津隆之、秋山ゆずき、しゅはまはるみ、真魚、長屋和彰、浅森咲希奈、合田純奈、市原洋、大沢真一郎、竹原芳子
●初見から3週間。“感染”などと些かチープな表現で今夏全国100館以上に拡がる奇跡。あらゆる奇跡がこの小さな映画に起こっている。その奇跡を丸ごとドキュメンタリックに体感することこそが醍醐味であり、もはやネタバレだとか仕掛けだとかメタ構造だとかどうでもいい。一枚の写真に向かって突破した男の満面の笑顔に涙すべし。


レディ・バード
2018.08.03 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 Lady Bird
【61】2017年アメリカ 監督:グレタ・ガーウィグ 脚本:グレタ・ガーウィグ
CAST:シアーシャ・ローナン、ローリー・メトカーフ、トレイシー・レッツ、ルーカス・ヘッジズ、ティモシー・シャラメ
●故郷=母親の呪縛は強力だ。しかしクリスティン、君の背中には翼があるのだ。と飛べなかったオヤジは彼女を応援しながら、終始クスクス笑いが止まらず、この旅立ちの物語に共感し、少し嫉妬しながらも、最後は目頭を熱くさせられてしまう。老いも若きも性別も越え、43年の時空を超え海も越えた『祭りの準備』がここにある。


ちはやふる -上の句-
2018.08.11 新文芸坐
【62】2016年日テレ=講談社=東宝 監督:小泉徳宏 脚本:小泉徳宏
CAST:広瀬すず、野村周平、真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、清水尋也、津嘉山正種、松田美由紀、國村隼
●個人的にこの機会を待っていた三部作一挙上映。原作はまったく読んでいないが、広瀬すずの突進力に、少女コミック特有のケレンがまんまとシンクロする。さらに競技かるたをきっちりと描くことで「お前らー、ガンバレ~!」と思わず応援したくなるティーン部活ムービーとしてジャンル映画史上、ベストな世界観が生み出された。


ちはやふる -下の句-
2018.08.11 新文芸坐
【63】2016年日テレ=講談社=東宝 監督:小泉徳宏 脚本:小泉徳宏
CAST:広瀬すず、野村周平、真剣佑、松岡茉優、上白石萌音、矢本悠馬、森永悠希、清水尋也、松田美由紀、國村隼
●テンションを敢えて抑えたような展開と、これまた少女コミック特有のクサミで前篇の疾走感は失速する。「みんなで戦う、ひとりじゃない」の押しつけも気になった。しかしその間隙を縫うように“孤高のクイーン”が持って行ってしまう。もう松岡茉優が痛快すぎる後篇。おかげで「お前らー、ガンバレ~!」の部活映画に無事、帰結した。


ちはやふる -結 び-
2018.08.11 新文芸坐
【64】2018年日テレ=講談社=東宝 監督:小泉徳宏 脚本:小泉徳宏
CAST:広瀬すず、野村周平、新田真剣佑、上白石萌音、矢本悠馬、優希美青、佐野勇斗、清原果耶、松岡茉優、賀来賢人
●2年が経ち、前作の上下篇をたっぷり時間をかけて再検証した脚本演出の小泉徳宏の仕事は見逃せない。そして登場人物たちと若いキャストたちの成長物語がシームレスにシンクロし、何度か目頭が熱くなる。完結編として最上の青春映画に仕上がったのではないか。エンディングの拍手は「お前らー、よくガンバッタ!」という賞賛だ。


菊とギロチン
2018.08.15 テアトル新宿
【65】2018年スタンスカンパニー=国映 監督:瀬々敬久 脚本:相澤虎之助、瀬々敬久
CAST:木竜麻生、韓英恵、東出昌大、寛一郎、嘉門洋子、前原麻希、仁科あい、大西礼芳、小木戸利光、渋川清彦
●名前は十数年も前から聞いていた瀬々敬久をようやく観る。3時間越えの力作も、大正時代、女相撲とアナーキズムを織り交ぜて見せた生き様は、娼婦に堕ちながらしたたかに生きる朝鮮人女力士の十勝川を誰も超えられていない。画面作りに今村昌平と神代辰巳を想起させるのは瀬々が私と同学年だからか。しかしそれでは既視感の範疇だ。
※2018年キネマ旬報ベストテン第2位


ミッション:インポッシブル/フォールアウト
2018.08.18 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9 MISSION:IMPOSSIBLE- FALLOUT
【66】2018年アメリカ 監督:クリストファー・マッカリー 脚本:クリストファー・マッカリー
CAST:トム・クルーズ、ヘンリー・カヴィル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン
●ビルを飛び越え、車にバイクにスカイダイブにヘリチェイス。56歳トム・クルーズの「馬鹿なの?」といいたくなる決死のスタントには同時に「ありがとう」と惜しみない賛辞を送らせてもらうが、147分間の畳みかけるアクションのつるべ打ちと、その間に誰が敵で誰が味方なのかを見極めるのはあまりにしんどい。情けないが・・・。


カメラを止めるな!
2018.08.24 T・ジョイPRINCE品川:シアター6 ONE CUT OF THE DEAD ※再観賞
【67】2018年ENBUゼミナール=アスミックエース 監督:上田慎一郎 脚本:上田慎一郎
CAST:秋山ゆずき、長屋和彰、濱津隆之、しゅはまはるみ、真魚、細井守、山﨑俊太郎、市原洋、大沢真一郎、竹原芳子
●全国配給に伴いアスミックのマークがつき、場末の上映館からシネコンスクリーンに拡大。しかし「カメ止め」は「カメ止め」だ。インディーズもメジャーもない。完全にツボにハマって、ツレを伴ってこの映画を観るのは本当にヤバいことが判明。クライマックスで涙腺が決壊し、上映後に熱く語るにも涙が溢れてどうしようもなかった。


ボディガード
2018.08.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 THE BODYGUARD
【68】1992年アメリカ 監督:ミック・ジャクソン 脚本:ローレンス・カスダン
CAST:ケビン・コスナー、ホイットニー・ヒューストン、ゲイリー・ケンプ、ビル・コッブス、トーマス・アラナ
●公開時、会社の後輩が「I Will Always Love You」だけの映画といっていたが、確かにサスペンスとしてもラブロマンスとしても首を傾げる場面が目立つ。絶頂時のケビコスとホイットニーの共演というフレーズも四半世紀前のトピックだったということか。厳しい見方かも知れないが、未見のヒット作を劇場クリア出来たので良しとしたい。


グリース
2018.08.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER GREASE ※再観賞
【69】1992年アメリカ 監督:ミック・ジャクソン 脚本:ブロント・ウッダード、アラン・カー
CAST:ジョン・トラボルタ、オリビア・ニュートン・ジョン、ストッカード・チャニング、ジェフ・コナウェイ、ディディ・コン
●パッとしない高校生活を終えた年、アメリカのハイスクールを羨望の眼差しで観ていたが、私は酒、煙草つきの学園主催のダンパがあったとしてもそこに飛び込むような高校生ではなかった。それにしてもユルい、トラボルタもオリビアもここまで脳天気なキャラだったか?フランキー・ヴァリの主題歌にはつーんとする懐かしさがあったが。


検察側の罪人
2018.08.31 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3
【70】2018年東宝 監督:原田眞人 脚本:原田眞人
CAST:木村拓哉、二宮和也、吉高由里子、松重豊、大倉孝二、矢島健一、音尾琢真、酒向芳、平岳大、八嶋智人、山崎努
●あまり芳しくないとのレヴューもあったが、クソ面白かった。キムタクとニノの共演云々より脚本・演出の原田眞人の迫力あるセリフの応酬にスピーディな展開、そしてキレッキレの編集。確かに2時間に様々なエピソードを詰め混んだ拙速感がないわけではないが、それは最上が重層的なストレスの中でもがく姿そのもののではなかったか。


SUNNY 強い気持ち・強い愛
2018.09.02 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン4
【71】2018年東宝 監督:大根仁 脚本:大根仁
CAST:篠原涼子、広瀬すず、板谷由夏、渡辺直美、山本舞香、リリー・フランキー、小池栄子、ともさかりえ、池田エライザ
●ルーズソックスもT.Kサウンドもついこの間のことのようだが、世代によっては過ぎ去った遠い日の輝きとなるのか。いやツッコミどころ満載ではあるのだが、元の韓国版は観ていないが、ベタを承知でドストレートに泣かせにかかる大根仁の意図にまんまと目頭を熱くしてしまった。どの客層も門外漢にしない許容の深さは特筆ものだろう。


ペンギン・ハイウェイ
2018.09.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6
【72】2018年東宝 監督:石田祐康 脚本:上田誠
CAST:(声)北香那、蒼井優、釘宮理恵、潘めぐみ、福井美樹、能登麻美子、久野美咲、西島秀俊、竹中直人
●齢をとってユルくなる一方の涙線には困ったものだが、早熟少年・アオヤマ君が人との別れを通して成長するひと夏の物語を、ミットを動かすことなくストライクど真ん中で受け止めた。何故ペンギンなのか、“海”なのか、そもそもお姉さんはどこから来たのか、説明がないのが不思議と心地良く、原作未読の森見ワールドを大いに楽しんだ。


トップガン
2018.09.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 TOP GUN ※再観賞
【73】1986年アメリカ 監督:トニー・スコット 脚本:ジム・キャッシュ、ジャック・エップスJr.
CAST:トム・クルーズ、ケリー・マクギリス、ヴァル・キルマー、アンソニー・エドワーズ、メグ・ライアン、トム・スケリット
●元々好きな映画ではなかったし、むしろミュージッククリップのような映像と挿入曲が氾濫する典型的な80年代スタイルを毛嫌いしていたわけだが、30数年ぶりの再見でも相変わらず受け入れ難いものを感じつつ、これは大ヒットするわなと頷かざる得なかった。ただマーヴェリックのF-14によるドッグファイトはひたすら退屈ではある。


プラトーン
2018.09.16 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 PLATOON ※再観賞
【74】1986年アメリカ 監督:オリバー・ストーン 脚本:オリバー・ストーン
CAST:チャーリー・シーン、トム・ベレンジャー、ウィレム・デフォー、フォレスト・ウィテカー、ジョニー・デップ
●明らかに映画が9.11以前の思想で作られている。ヘリの爆風で死体袋が捲れ上がる描写が衝撃的で、そこしか憶えていなかったし、虚構を排し、無名の俳優たちでひたすら戦場の地獄を見せた映画だといわれていたが、実にドラマに満ち溢れていて驚いた。今ではちょっとしたオールスター映画ではないか。31年の歳月とはこういうことだ。
※1987年キネマ旬報ベストテン第2位


ロスト・ハイウェイ
2018.09.23 早稲田松竹 LOST HIGHWAY
【75】1997年アメリカ=フランス 監督:デヴィッド・リンチ 脚本:バリー・ギフォード、デヴィッド・リンチ
CAST:ビル・プルマン、パトリシア・アークエット、バルサザール・ゲティ、ロバート・ロッジア、ジョヴァンニ・リビシ
●なんとなく気が病んでいる時は病んでる映画に惹かれるわけでもないだろうが、やはり思った通りのリンチ展開に頭がクラっと来た。ただ内容のシュールさは主人公のすべての妄想だと片づけたとして、シネスコを生かしきった画面造形と色彩感覚は今も鮮烈ではある。ファンやマニアより多くのフリークを集めたリンチの真骨頂を垣間見た。


マルホランド・ドライブ
2018.09.23 早稲田松竹 MULHOLLAND DRIVE
【76】2001年アメリカ=フランス 監督:デヴィッド・リンチ 脚本:デヴィッド・リンチ
CAST:ナオミ・ワッツ、ローラ・ハリング、ジャスティン・セロー、アン・ミラー、ダン・ヘダヤ、リー・グラント
●リンチ最高傑作との呼び声高い一作。ベタなサスペンスを思わせる前半からナオミ・ワッツとローラ一・ハリングのキャラクターが逆転し、物語の縦糸と横糸がこんがらがって混乱と混沌の淵に観客を叩き落とすリンチ。この謎を解釈する作業の膨大な労力を思うと、難解さを難解のまま受け入れることこそが最良ではないかと開き直った。
※2002年キネマ旬報ベストテン第4位


ツイン・ピークス <ローラ・パーマー最後の7日間>
2018.09.23 早稲田松竹 TWIN PEAKS;FIRE WALK WITH ME
【77】1992年アメリカ=フランス 監督:デヴィッド・リンチ 脚本:デヴィッド・リンチ、ロバート・エンゲルス
CAST:シェリル・リー、レイ・ワイズ、カイル・マクラクラン、デヴィッド・ボウイ、キーファー・サザーランド
●もう四半世紀以上も前の話だが、ビデオ屋を始めて最初の月の目玉がこれだった。ただTVシリーズにはまったく食指が動かなかったし、リンチにしてもこの劇場版は本編の前日譚との縛りがあるためダークな青春ものとしてもサイコスリラーとしても中途半端。ローラの悲鳴の連発に飽きてしまい、早く終われと何度も腕時計を見ていた。


仁義なき戦い
2018.09.29-30 新文芸坐 ※再観賞
【78】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、梅宮辰夫、松方弘樹、伊吹吾郎、渡瀬恒彦、三上真一郎、川地民夫、高宮敬二、木村俊恵、金子信雄
●7度目の「5部作一挙上映オールナイト」。私自身のそれぞれの年代でシリーズを体感してきたが、すっかり“映画史上の名作”の装飾をまとっていた。第一作目の最大の魅力は焼け跡闇市のエネルギシュな躍動感に尽きるだろう。そして以前から思っていたことだが、低音の広島弁を最大限に引き立てる録音・音響技術の素晴らしさも唯一無二だ。
※1973年キネマ旬報ベストテン第2位


仁義なき戦い・広島死闘篇
2018.09.29-30 新文芸坐 ※再観賞
【79】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、千葉真一、北大路欣也、梶芽衣子、成田三樹夫、前田吟、小池朝雄、名和広、室田日出男、金子信雄
●山中正治と大友勝利。どちらが好きかという問いが今も続いている。両者の無垢な純真さと残虐な野心という点で戦後派ヤクザの典型なのだろうが、どちらがどうなんて答えられるわけがない。この突出した二人を輩出したことで『広島死闘篇』はシリーズの中でカルト化した。笠原和夫と深作欣二の情念が生み出した傑物だろう。


仁義なき戦い・代理戦争
2018.09.29-30 新文芸坐 ※再観賞
【80】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、小林旭、渡瀬恒彦、梅宮辰夫、成田三樹夫、田中邦衛、加藤武、山城新伍、池玲子、川谷拓三、金子信雄
●古今東西、ここまで素晴らしい群像劇を私は知らない。多くの人物たちの右往左往を可笑しくも緻密に活写され、それ故に回を重ねて観るほどに笠原和夫の執念の名人芸に感服していく。それだからこそ盃外交の埒外にいる倉本猛の生き急ぐ青春のギラつきがどこまでも鮮烈であり羨望してしまうのだ。永遠の傑作であることを改めて確信する。
※1973年キネマ旬報ベストテン第8位


仁義なき戦い・頂上作戦
2018.09.29-30 新文芸坐 ※再観賞
【81】1974年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、小林旭、松方弘樹、梅宮辰夫、夏八木勲、黒沢年男、小倉一郎、渚まゆみ、小池朝雄、加藤武、金子信雄
●「もうわしらの時代は終いで。口が肥えてきちょって、こう寒さが堪えるようになってはのぅ」。ラストの名場面で語られることの多い『頂上作戦』だが、何度も観ているのかと思いきや30年で2回しか観ていなかった。経年の成せる業か・・・どおりで昔、あんなに反発していた打本昇の軟弱さ、狡猾さを笑い飛ばせない自分がいるはずだ。
※1974年キネマ旬報ベストテン第7位


仁義なき戦い・完結篇
2018.09.29-30 新文芸坐 ※再観賞
【82】1974年東映 監督:深作欣二 脚本:高田宏治
CAST:菅原文太、北大路欣也、小林旭、松方弘樹、梅宮辰夫、宍戸錠、山城新伍、桜木健一、野川由美子、金子信雄
●15年前のオールナイトの時「満塁ホームランの後で三遊間をしぶとく抜くヒットみたいな映画」とあまりに失礼なことを思っていたのだが、槙原や江田が射殺される深作タッチのど迫力は傑出しており、決して及第点に収まる映画ではない。反省すべしは我々は笠原和夫の降板で高田宏治に膨大な時間をかけて貧乏くじを引かせていたことか。


スカイスクレイパー
2018.10.06 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン6 SKYSCRAPER
【83】2018年アメリカ=中国 監督:ローソン・マーシャル・サーバー 脚本:ローソン・マーシャル・サーバー
CAST:ドウェイン・ジョンソン、ネーヴ・キャンベル、チン・ハン、ローランド・ムーラー、パブロ・シュレイバー
●ドウェイン・ジョンソンって誰?と思ったらロック様だったか。そのロック様が走って飛んでの大熱演。超高層ビル火災はスマホの再起動で消火するのが今風なのか。所々の都合主義と粗めのディティールに難クセつけたら枚挙に暇がないが、問答無用に面白い!こんな映画を無邪気に楽しめる感性がなくなったら、シネコンに行く必要はない。


マイライフ・アズ・ア・ドッグ
2018.10.07 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Mitt Liv Som Hund
【84】1985年スウェーデン 監督:ラッセ・ハルストレム 脚本:レイダル・イェンソン、ブラッセ・ブレンストレム他
CAST:アントン・グランセリウス、マンフレド・セルナル、アンキ・リデン、トーマス・フォン・ブレムセン
●想像だが、赤道でバナナを売っている不在の父は実は失踪していて、そのことで病んでいる母親がいる。こういう厳しい現実のなかで、精神的には人生を達観していながら、行動は子供そのものという12歳のイングマル少年。北欧の田舎町の風変わりな雰囲気に惹かれつつ、少年特有の危うさと切なさが、微笑に到達したハルストレムの出世作。
※1989年キネマ旬報ベストテン第5位


日日是好日
2018.10.08 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン1
【85】2018年製作実行委員会 監督:大森立嗣 脚本:大森立嗣
CAST:黒木華、樹木希林、多部未華子、鶴田真由、鶴見辰吾、郡山冬果、山下美月、原田麻由、川村紗也、滝沢恵
●茶室での所作のひとつひとつが季節の移ろいを止め、その時々の歳時を鮮やかに浮かび上がらせる。が、典子が武田先生の茶室を出ると堰を切ったように時間が飛んでいく。走る時間ではなく止まった時間とは映画的にパラドクスではないか。ほんの少しの厳格とたっぷりのユーモア。樹木希林以外の誰が武田先生を演じることができよう。
※2018年キネマ旬報ベストテン第9位


灰とダイヤモンド
2018.10.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 Popiół i diament ※再観賞
【86】1958年ポーランド 監督:アンジェイ・ワイダ 脚本:イェジー・アンジェイエフスキー、アンジェイ・ワイダ
CAST:ズビグニエフ・チブルスキー、エヴァ・クジジェフスカ、バクラフ・ザストルジンスキー、アダム・パヴリコフスキー
●36年前はポーランドの時代背景を知らずに観て、殆ど理解できなかったのだが、今回は事前に勉強したおかげでマチェクの死に至るまでの諸々の経緯がよくわかった。巨匠ワイダが国家体制を批判するのと同時にスタイリッシュな青春映画としても成立させていたことにも驚く。なるほど名作だが、構成はまるで『鉄砲玉ぴゅ~』ではないか。※1959年キネマ旬報ベストテン第2位


エンジェル、見えない恋人
2018.10.17 新宿武蔵野館 MON ANGE
【87】2016年ベルギー 監督:ハリー・クレフェン 脚本:ハリー・クレフェン、トマ・グンジグ
CAST:フルール・ジフリエ、エリナ・レーヴェンソン、マヤ・ドリー、ハンナ・ブードロー、フランソワ・ヴァンサンテッリ
●存在が見えない彼と盲目の彼女が織りなす恋物語。特異な設定の中でも持たざる二人の初恋があり、純愛があり、性愛の成就すら結実してみせる。そもそも平日の仕事帰りとなれば、多少の世知辛いリアリズムを抱えながら映画館に赴いているわけで、そんな諸々を一掃させてくれる不思議な映画体験であり、そのことが何よりも有り難い。


止められるか、俺たちを
2018.10.19 テアトル新宿
【88】2018年若松プロダクション=スコーレ=ハイクロスシネマトグラフィー 監督:白石和彌 脚本:井上淳一
CAST:門脇麦、井浦新、山本浩司、タモト清嵐、中澤梓佐、毎熊克哉、岡部尚、中澤梓佐、高良健吾、寺島しのぶ、奥田瑛二
●自殺した助監督・めぐみの人生を掘り起こすのではなく寄り添いながら、これは題名とは裏腹に“止まってしまいそうな俺たち”を描いた映画ではなかったか。私の観賞履歴で若松孝ニの多くを語れないのは仕方ないとしても、政治の時代を悠然と受け流している若松の人物造型が魅力的で、白石和彌は楽しげにフィルモグラフィを重ねている。


獣人雪男
2018.10.20-21 新文芸坐
【89】1955年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:村田武雄
CAST:宝田明、河内桃子、根岸明美、堺左千夫、山本廉、谷晃、瀬良明、高堂国典、相良三四郎、小杉義男、中村伸郎
●回想で語られる恐怖譚。相当な怪獣映画好きを自認する私も本作は殆ど認識していなかった。『ゴジラ』の翌年に宝田=河内でもう一度との趣きできっちり作られていたが(助監督・岡本喜八!)、怪獣ならぬ獣人で破壊のカタルシスは望めなかったか。異形の怪物は異形の部落に棲む。当時は穢れを畏怖する棄民の精神風土を隠さず描けたのだ。


空の大怪獣ラドン
2018.10.20-21 新文芸坐
【90】1956年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:村田武雄、木村武
CAST:佐原健二、白川由美、平田昭彦、田島義文、小堀明男、村上冬樹、中田康子、山田巳之助、中島春雄、田島義文
●以前から思うところだが、博多の天神界隈が破壊される特撮は私の生まれる5年も前にクオリティは完成していた。突如出現するメガヌロンの気色悪さ、卵の欠片や偶然記念写真に写り込んだ翼の一部からラドンの巨大さを割り出す緻密な描写。何よりも炭鉱の過酷な描写と抜群のロケーション。これぞ正しい怪獣映画というものだ。


大怪獣バラン
2018.10.20-21 新文芸坐
【91】1958年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:関沢新一
CAST:野村浩三、園田あゆみ、千田是也、平田昭彦、村上冬樹、松尾文人、土屋嘉男、山田巳之助、伊藤久哉、田島義文
●小学生の頃、日曜夕方のテレビ放映で観て以来か。それでも東北の辺境の部落の宗教的背景は子供心に畏れるものがあった。「婆羅陀魏山神」とはよく名付けたものだ。実際はバランが湖から飛んでいく場面しか記憶になく、どういう結末になるのかまったく失念していたが、羽田沖の攻防で特殊火薬の再使用で見事な完全決着勝利は痛快。


宇宙大怪獣ドゴラ
2018.10.20-21 新文芸坐
【92】1964年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:田実泰良、関沢新一
CAST:夏木陽介、ダン・ユマ、若林映子、中村伸郎、藤山陽子、小泉博、河津清三郎、藤田進、田崎潤、船戸順、天本英世
●“宇宙大怪獣”というより“宇宙大細胞”が相応しい。ドゴラをめぐる攻防とダイヤモンド強盗団の追跡が並行して進行し、子供の頃は面白くなかったが、今回ドラマ部分を楽しめたのは意外だった。さらに白黒テレビではなく、カラーのシネスコ大画面で見るドゴラの造型はなかなか面白く、CGのない時代、円谷スタッフに敬意を表したい。


デス・ウィッシュ
2018.10.22 TOHOシネマズ新宿:スクリーン3 DEATH WISH
【93】2018年アメリカ 監督:イーライ・ロス 脚本:ジョー・カーナハン
CAST:ブルース・ウィリス、ヴィンセント・ドノフリオ、エリザベス・シュー、カミラ・モローン、ディーン・ノリス
●『狼よさらば』のリメイクとのこと。久々にB・ウィリスの左利きの銃乱射を味わうべく歌舞伎町に足を向けた。この内容でタルいアクションを見せられたらたまったものではないが、そこはB・ウィリス印なので迫力は保証付き。適当にユルい物語も銃声一発で展開が覚醒していくのが爽快で、107分の間だけアメリカ銃社会の病理も許容した。


ここは退屈迎えに来て
2018.10.23 新宿バルト9 シアター4
【94】2018年製作委員会=KADOKAWA 監督:廣木隆一 脚本:櫻井智也
CAST:橋本愛、門脇麦、成田凌、渡辺大知、岸井ゆきの、内田理央、柳ゆり菜、瀧内公美、マキタスポーツ、村上淳
●首都圏にいて、高校時代の思い出の大半を学園以外の場所に置いていた私には、地方にいて東京への憧憬に揺れる彼らの物語は仮想体験に過ぎないが、それでも心に疼く何かを廣木隆一にくすぐられたか。もう伸びシロを使い果たした感の彼らには、青春時代はそれとして、まだまだ大人として人生を楽しもうやとエールを送っておこう。


きみの鳥はうたえる
2018.10.25 川崎市アートセンター アルテリオ映像館
【95】2018年Pigdom=函館シネマアイリス 監督:三宅唱 脚本:三宅唱
CAST:柄本佑、石橋静河、染谷将太、足立智充、山本亜依、柴田貴哉、水間ロン、OMSB、Hi'Spec、渡辺真起子、萩原聖人
●僕と静雄と佐知子の関係が微妙な既視感を漂わせているのは、原作小説が32年前に書かれたものだからなのか。しかしそこには懐かしさではなくリアルな“今”がある。ただそこにいるだけで何者でもない自分を享受してきた彼らに忍び寄る焦燥感。結局、青春を描くときの不変なのかもしれない。「不変的」という日本語はないそうだが。
※2018年キネマ旬報ベストテン第3位


寝ても覚めても
2018.10.27 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン6
【96】2018年メ〜テレ=ビターズ・エンド 監督:濱口竜介 脚本:田中幸子、濱口竜介
CAST:東出昌大、唐田えりか、瀬戸康史、山下リオ、伊藤沙莉、渡辺大知、仲本工事、田中美佐子
●これってもしかしたら大傑作?と思える瞬間が何度か訪れた。ダレ場がなく緊張したまま、幾通りものエンディングを予測させながらつど裏切っていく。男からすれば朝子の麦と亮平に対する揺らぎと吹っ切れは、所詮 “女性心理の謎” として共感はしにくいが、ときに迷走しつつ何度も軌道が修正される映画の生命力には共鳴せざる得ない。
※2018年キネマ旬報ベストテン第4位


ビブリア古書堂の事件手帖
2018.11.02 新宿バルト9:シアター2
【97】2018年FOX=KADOKAWA 監督:三島有紀子 脚本:渡部亮平、松井香奈
CAST:黒木華、野村周平、成田凌、東出昌大、夏帆、神野三鈴、高橋洋、酒向芳、桃果、渡辺美佐子
●せっかくの黒木華で人気ラノベの映画化かよと鼻白んでいたら、三島有紀子作品と知って果然興味が湧いた。再現VTR臭を漂わせつつも東出くんと夏帆の好演で見せるセピア色の回想場面などは悪くない。しかし野村周平の熱血が空回りし、成田凌が不必要にサイコ化したあたりでグダグダ。結局、鎌倉のロケーションばかりが気になった。


近松物語
2018.11.04 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 ※再観賞
【98】1954年大映 監督:溝口健二 脚本:依田義賢
CAST:長谷川一夫、香川京子、南田洋子、進藤英太郎、小沢栄太郎、菅井一郎、田中春男、石黒達也、浪花千栄子
●映画は芸術なのかの問いに未だ引っ掛かりを覚える私なれど、大溝口はもとより、依田の脚本、宮川のカメラ、水谷の美術がもたらすあまりに豊穣な世界に圧倒される。同時に十代の終わりに溝口を知った気でいた我を詰りたくなった。逃避行の末、刑場に轢かれていく茂兵衛、おさんの恋情は周囲を破滅に追い込みながらも今も燃えている。
※1954年キネマ旬報ベストテン第5位


若おかみは小学生!
2018.11.06 イオンシネマ新百合ヶ丘;スクリーン7
【99】2018年製作委員会=GAGA 監督:高坂希太郎 脚本:吉田玲子
CAST:(声)小林星蘭、水樹奈々、松田颯水、遠藤璃菜、薬丸裕英、鈴木杏樹、設楽統、小松未可子、ホラン千秋、山寺宏一
●あまりの評判の高さゆえどこか身構えてしまったか。そもそも子供が楽しむように作られたアニメなのだから、大人が理詰めで評論してどうするのか。ただ子供だましでは決してなく、ある大きな死を受け入れることでおっこが成長していく姿もきっちり描いている。忘れかけた頃に見直せば凄さが理解できる予感もあるのだが。


search/サーチ
2018.11.09 TOHOシネマズ新宿:スクリーン6 searching
【100】2018年アメリカ 監督:アニーシュ・チャガンティ 脚本:アニーシュ・チャガンティ、セブ・オハニアン
CAST:ジョン・チョー、デブラ・メッシング、ジョセフ・リー、ミシェル・ラー、サラ・ソーン、スティーヴ・マイケル・アイク
●「伏線を回収すれば良い映画なのか!」とあたかも伏線回収の技巧のみで映画が評される風潮に苦言を呈してきたが、これにはかなりやられた。PCの画面だけで進行しながらジワジワとサスペンスを盛り上げて最後のドンデン返しに持っていく。映画にアイディアが駆使されることは大歓迎だ。もっともSNSにはまるで興味はわかないが。


ソフィーの選択
2018.11.11 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 Sophie's Choice ※再観賞
【101】1982年アメリカ 監督:アラン・J・パクラ 脚本:アラン・J・パクラ
CAST:メリル・ストリープ、ケヴィン・クライン、ピーター・マクニコル、リタ・カリン、スティーヴン・D・ニューマン
●ソフィーが迫られた選択とは何だったのか36年経ってすっかり忘れていたが、まさかこれほどまでの究極のチョイスを突きけられていたとは。。。まったくこの悲劇を失念していた自分に呆れ果てる。しかし敢えて今さらだが、ナチやホロコーストを抜きにしても、ソフィーをめぐる男2人の恋愛映画として見事に完成している。
※1983年キネマ旬報ベストテン第1位


生きてるだけで、愛。
2018.11.13 池袋シネ・リーブル2
【102】2018年製作委員会=クロックワークス 監督:関根光才 脚本:関根光才
CAST:趣里、菅田将暉、仲里依紗、田中哲司、西田尚美、松重豊、石橋静河、織田梨沙
●「あなたは私と別れられる、でも私は私と別れることが出来ない…」なんて悲しい台詞か。他人と向き合う前に自分を受けいられない寧子は悲しい。きっと打算まみれに他人と折り合う私には及ばない純粋な世界があるのだろう。二人の旅は厳しく果てがないのだろうが、演技者・趣里に圧倒されながら、夜を疾走する彼らが羨ましくもあった。


ボーダーライン:ソルジャーズ・デイ
2018.11.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 SICARIO: DAY OF THE SOLDADO
【103】2018年アメリカ 監督:ステファノ・ソッリマ 脚本:テイラー・シェリダン
CAST:ベニチオ・デル・トロ、ジョシュ・ブローリン、イザベラ・モナー、マシュー・モディーン、キャサリン・キーナー
●かなりの傑作ではなかろうか。トランプの暴言が妄言でもないのかと思わせる緊迫のメキシコ国境の攻防戦。麻薬カルテルが密入国者を食い物にしている現実と、容赦ない銃弾と爆発の衝撃に前のめりになった。この監督、名前に覚えアリと思ったらセルジオの息子ではないか。バイオレンスのDNAは凄みを膨張させて受け継がれていた。


裸の島
2018.11.23 TOHOシネマズ新宿:スクリーン8
【104】1960年近代映協 監督:新藤兼人 脚本:新藤兼人
CAST:乙羽信子、殿山泰司、田中伸二、堀本正紀、尾道放送劇団・千葉雅子、笹島小学校生徒、鷲浦安楽寺住職
●舟を漕ぎ、天秤棒を担いで斜面を昇り、畑に水を撒く。延々と繰り返すことで脈々と受け継がれる日本人の生と死を描く新藤兼人が見事なのはわかる。独立プロの金字塔であることも知っている。しかし家族が無言を貫く構成に作為はなかったか、櫂が波打つ音、坂を上がる息遣いを消してまで、林光の音楽を氾濫させる必要があったのか。
※1960年キネマ旬報ベストテン第6位


日本大侠客
2018.11.23 シネマヴェーラ渋谷
【105】1966年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:笠原和夫
CAST:鶴田浩二、藤純子、近衛十四郎、大木実、天津敏、品川隆二、岡田英次、中村竹弥、三島ゆり子、木暮実千代
●何故に大木実、天津敏の善玉に三島ゆり子の健気が嬉しいのだろう。そしてやんちゃな鶴田に惚れた鉄火芸者“お竜”の命懸けの恋。武骨な敵役の近衛も含め重層的に物語を畝らせる笠原和夫の作劇と、沖士の心意気で全編を貫こうとするマキノ節。両人とも名人芸だ。日本映画が喪失して久しい世界観がどうにも素敵すぎて悲しくなるくらい。


ボヘミアン・ラプソディ
2018.11.25 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン9 BOHEMIAN RHAPSODY
【106】2018年アメリカ 監督:ブライアン・シンガー 脚本:アンソニー・マクカーテン
CAST:ラミ・マレック、ジョセフ・マッゼロ、ベン・ハーディ、グウィリム・リー、ルーシー・ボイントン、マイク・マイヤーズ
●日曜夜の回が満員なんて珍しく、評判の良さに誘われて観に行った。QUEENのヒットナンバーの歌詞が字幕で読めたのは有難かったが、クライマックスのウェンブリースタジアムのライブの圧倒感ですべてを持っていかれると欺かれたような気になる。さて人間フレディ・マーキュリーを掘り下げられていたのかといえば、どうなのだろう。
※2018年キネマ旬報ベストテン第5位


斬、
2018.11.30 川崎市アートセンター アルテリオ映像館
【107】2018年海獣シアター=新日本映画社 監督:塚本晋也 脚本:塚本晋也
CAST:池松壮亮、蒼井優、中村達也、前田隆成、塚本晋也
●音響のメリハリとハンディカメラで手ブレを効かせた殺陣が、どこか夢心地な心象風景のようで、それが悲惨な斬屍体と共存させがら、人物たちの不可解な行動や情動で観る者の予測を裏切っていく。塚本が海外で評価される一端を垣間見たような気になったが、私には80分間の「悪夢」に思えた。有り体にいえばユニークな映像体験だった。
※2018年キネマ旬報ベストテン第7位


ポリス・ストーリー REBORN
2018.12.01 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 BLEEDING STEEL 机器之血
【108】2017年香港=中国 監督:レオ・チャン 脚本:レオ・チャン
CAST:ジャッキー・チェン、ショウ・ルオ、オーヤン・ナナ、エリカ・シアホウ、カラン・マルヴェイ、テス・ハウブリック
●観客をとにかく楽しませたい!この心意気でハードワークに挑むジャッキー64歳こそ「映画の日」に観るのに相応しい。ジャッキーをスクリーンで観るのは何年振りだろう。あの懐かしい主題歌「警察故事」に乗って展開されるアクションは、人造人間に飛行空母?なんとSF・・・!でもエンドのNG集も含め間違いなくジャッキー印の映画だ。


博奕打ち・いのち札
2018.12.02 シネマヴェーラ渋谷
【109】1971年東映 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫
CAST:鶴田浩二、安田道代、若山富三郎、渡瀬恒彦、水島道太郎、遠藤辰雄、林彰太郎、天本英世、内田朝雄、天津敏
●任侠映画史に残る恋情のドラマであることも、最後に鶴田が真っ赤な血の池地獄で斬り合うことも知っていた。しかしずっと意識したまま40年近く未見だった。そして20代ではなく還暦カウントダウンの今だからこそわかる笠原脚本のアヤのつけ方、山下演出の情感。なにより京都撮影所から醸される活動屋魂に心打たれる。あゝ名画極まる。


来 る
2018.12.08 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2
【110】2018年東宝=ギークサイト 監督:中島哲也 脚本:中島哲也、岩井秀人、門間宣裕
CAST:岡田准一、妻夫木聡、黒木華、小松菜奈、青木崇高、柴田理恵、太賀、志田愛珠、伊集院光、石田えり、松たか子
●おそらく賛否分かれそうな中島哲也の新作だが、序盤の不穏な展開で観客を不安に落とし込んでいく手腕は見事。さらに過去のホラー映画のアイコンの数々をぶち込んだインパクト命の展開と、演者たちの大熱演で結構楽しめる。とりわけ黒木華が久々にダークに本領発揮したのが素晴らしい。終盤のカタストロフィは大規模な冗句だろうか。


ジャイアンツ
2018.12.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 GIANT
【111】1956年アメリカ 監督:ジョージ・スティーヴンス 脚本:フレッド・ジュイオル、アイヴァン・モファット
CAST:エリザベス・テイラー、ロック・ハドソン、ジェームズ・ディーン、デニス・ホッパー、キャロル・ベイカー、サル・ミネオ
●中学生のとき「テキサスは日本の本州の3倍」という淀川さんの解説をよく憶えている。名匠G・スティーヴンスが201分かけてテキサスの家族の時代の移り変わりを描く大河ドラマとして十分な見応えは確保しつつ、映画の名場面のすべてをジェット・リンクの栄光と挫折を鮮烈な演技でさらってしまうJ・ディーンは(今さらながら)すごかった。


日本女侠伝・侠客芸者
2018.12.09 シネマヴェーラ渋谷
【112】1969年東映 監督:山下耕作 脚本:野上龍雄
CAST:藤純子、高倉健、若山富三郎、藤山寛美、桜町弘子、三島ゆり子、寺島達夫、遠藤辰雄、小松方正、金子信雄
●シリーズ全5本のうち、4本まで10代の内に観ておきながら『侠客芸者』だけ毎度タイミングが合わずに見逃し続けていた。まさか還暦カウントダウンの今、観ることになろうとは。「行かないで」「あんときのお前さんは綺麗だったぜ」。お座敷での純子さんの舞いと健サンの殴り込みが交互に映し出されるクライマックスはシリーズの白眉か。


津軽じょんがら節
2018.12.10 新文芸坐
【113】1973年斎藤耕一プロ=ATG 監督:斎藤耕一 脚本:中島丈博、斎藤耕一
CAST:江波杏子、織田あきら、中川三穂子、西村晃、寺田農、戸田春子、東恵美子、富山真沙子、田中筆子、佐藤英夫
●江波杏子の追悼上映という以前に、私には因縁の映画。『約束』を観たとき随分と久々の斎藤耕一だと思ったが、それからも15年が経つ。望遠レンズでの荒海の描写は他の追随を許さず、そこに竹山の三味が流れるのだから、私の趣向ではもう否応なしなのだが、土着とモダニズムがドラマに上手く落とし込まれていたとは今も思っていない。
※1973年キネマ旬報ベストテン第1位



2018.12.11 テアトル新宿
【114】2018年KATSU-do=太秦 監督:武正晴 脚本:武正晴、宍戸英紀
CAST:村上虹郎、広瀬アリス、日南響子、新垣里沙、岡山天音、後藤淳平、中村有志、日向丈、村上淳、リリー・フランキー
●銃が出て来る膨大な数の映画観賞の中で、銃そのものの有機的な不気味さを描くものはそれ程なかったのではないか。この手の映画を好むか好まないかの境には薄っぺらな板一枚があるだけで、多分どっちにも簡単に転ぶ。もしかしたらトオルが生き物としての銃の媒介者にすぎなかったならば、私は板一枚をあっさりぶち破っていたのだろう。


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