●2023年(令和5年)
◎アバター ウェイ・オブ・ウォーター
2023.01.01 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 AVATAR: THE WAY OF WATER [無料/192分]
【01】2022年アメリカ 監督:ジェームズ・キャメロン 脚本:リック・ジャファ、アマンダ・シルヴァー
CAST:サム・ワーシントン、ゾーイ・サルダナ、シガーニー・ウィーバー、スティーブン・ラング、クリフ・カーティス
●キャメロンの意図とは別に二重眼鏡が没入感を削ぐ気がするので2Dで。テーマパークのアトラクションを体感するつもりはない。構図はインディアンと騎兵隊の西部劇ひな型。森の戦闘では動体視力の衰えばかり感じてしまったが、やはり海の描写は驚きで、映像表現もここまで来たかとの感慨もあった。シガニー演じるキリが素晴らしい。
◎マダムと女房
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/56分]
【02】1931年松竹 監督:五所平之助 脚本:北村小松
CAST:田中絹代、渡辺篤、伊達里子、井上雪子、小林十九二、関時男、月田一郎、横尾泥海男、日守新一、坂本武
●母の生まれ年に製作された古典的名作。その当時の風景を不思議な気分で観たが、東京の子は両親を「パパ」「ママ」と呼んでいることに驚く。日本初のトーキー映画として、周囲の音が喧しくて原稿が進まない文士の物語というのは思いつきやすいネタでも、そこに家族の絆や夫婦愛を織り込んでくるあたり、さすが名匠の手腕なのだろう。
※1931年キネマ旬報ベストテン第1位
◎座頭市血煙り街道
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/86分]
【03】1967年大映 監督:三隅研次 脚本:笠原良三
CAST:勝新太郎、近衛十四郎、高田美和、朝丘雪路、中尾ミエ、坪内ミキ子、磯村みどり、伊藤孝雄、小池朝雄、小沢栄太郎
●近衛十四郎と勝新の殺陣はYouTubeで何度も再生し、長らく本編の劇場観賞機会を待ちわびていた。ようやく念願叶って息を呑む果し合いを堪能。じりじりする間合いといい一瞬の殺気といい、座頭市と公儀隠密という役を離れて稀代の剣豪役者同士のプライドで斬り合う真剣勝負。もうこれ以上の本物は望めない筈。有難いのひと言だ。
◎クレージーの無責任清水港
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/94分]
【04】1966年東宝=渡辺プロ 監督:坪島孝 脚本:小国英雄
CAST:植木等、谷啓、ハナ肇、団令子、平田昭彦、土屋嘉男、浜美枝、小杉義男、安田伸、石橋エータロー、田崎潤、犬塚弘
●ナベプロ華やかりし頃の57年前の正月映画。今観ると植木等の追分三五郎のC調な強引さに辟易しなくもないが、脚本は小国英雄。黒澤明『生きる』から『乱』まで、100万で家一軒買えた時代に50万の脚本料をとっていた大脚本家がよくクレージーキャッツのキャラクターに寄り添ったホンを書いたものだと思うのは偏見と無知というものか。
◎男の紋章
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/96分]
【05】1963年日活 監督:松尾昭典 脚本:甲斐久尊
CAST:高橋英樹、石山健二郎、大坂志郎、和泉雅子、轟夕起子、近藤宏、名古屋章、小池朝雄、富田仲次郎、藤岡重慶
●私は途方もない歳月、高橋英樹の日活仁侠ものを亜流扱いしてきたが、今回の上映で日活が東映仁侠路線と変わらぬ歴史を持っていたことを知る。かつ、かなり面白かった。思えば高橋英樹は東映の居並ぶ大スターたちを向こうに回し一人で日活仁侠映画を支えてきたわけだ。比べるとコクの薄さは否めないがこれはこれでアリだと思った次第。
◎昭和残侠伝 唐獅子牡丹
2023.01.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/89分]
【06】1967年東映 監督:佐伯清 脚本:山本英明、松本功
CAST:高倉健、池部良、三田佳子、津川雅彦、菅原謙二、河津清三郎、保積ペペ、花澤徳衛、田中春男、芦田伸介、山本麟一
●シリーズで唯一のビデオ観賞で劇場未見だった。『沓掛時次郎』と『冬の華』を2で割ったような因果話で、殴り込みにダイナマイトを放り投げたかと思えば石切り場の殺陣に迫力がないなど、そこそこに残念な作品である。それでも健サンと池部良の道行きは雪降りしきる中での相合傘が屈指の名場面となっているだけに惜しい一篇でもある。
◎カンフースタントマン 龍虎武師
2023.01.07 イオンシネマ座間:スクリーン5 龍虎武師|KUNG FU STUNTMEN [1100円/92分]
【07】2022年香港=中国 監督:ウェイ・ジェンツー (ドキュメンタリー)
CAST:サモ・ハン、ユエン・ウーピン、ドニー・イェン、ユン・ワー、ブルース・リャン、ツイ・ハーク、ジェット・リー
●不勉強ゆえ香港二大スタジオが既に消滅しているを知り、サモ・ハンもジェット・リーも代役スタントを使っていたことを知る。戦場の武勇伝のように懐述するスタントマンたちのやられっぷりをそこまで気にしたことはなかったが、香港アクション全盛時代を支えていたのは間違いなく彼らだ。栄枯盛衰といってしまえばそれまでだが。
◎非常宣言
2023.01.07 イオンシネマ座間:スクリーン4 비상선언 [1100円/141分]
【08】2022年韓国 監督:ハン・ジェリム 脚本:ハン・ジェリム
CAST:ソン・ガンホ、イ・ビョンホン、チョン・ドヨン、キム・ナムギル、イム・シワン、キム・ソジン、パク・ヘジュン
●おそらく韓国エンタメに対しここまで面白くないと思ったのは初めてだ。ウィルスに襲われた旅客機パニックがつまらない筈はないし、まして二大スターの共演だ。最後の着陸サスペンスも中盤で派手なダッチロールがあってまるで効いていない。コロナ禍もないことになっていることも含め構成が下手過ぎる。それがあまりに冗長なのだ。
◎恋のいばら
2023.01.08 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 [無料/98分]
【09】2023年パルコ=テレビ東京=ポニー 監督:城定秀夫 脚本:澤井香織、城定秀夫
CAST:松本穂香、玉城ティナ、渡邊圭祐、中島歩、北向珠夕、吉田ウーロン太、吉岡睦雄、不破万作、片岡礼子、白川和子
●オリジナルでこれだけの話を作ったのかと感心していたら韓国映画のリメイクと知って少し残念。しかし城定秀夫らしい力感で女同士の連帯劇を一気に見せて痛快だ。作風が適度に泥臭いのが私にはちょうどよく、興行界に猛攻を仕掛けている城定には伴走していきたい。それにしても玉城ティナ、前回は女子高生だったのに、、、役者ってすごい。
◎神々の深き欲望 <4Kデジタル修復版>
2023.01.09 横浜シネマリン [1200円/175分]
【10】1968年日活 監督:今村昌平 脚本:今村昌平、長谷部慶治
CAST:三國連太郎、河原崎長一郎、沖山秀子、嵐寛寿郎、松井康子、北村和夫、加藤嘉、原泉、浜村純、小松方正、扇千景
●神話の国造りがきっと架空であるように今村昌平も架空の島の人間の生と性に挑む。架空の祭祀でも土着を渾身の熱量で追求すれば神話の域に到達するということか。4K映像の海と森の動物、昆虫の生態が鮮やかで、それ自体が神々しいのだが、上映後にゴジの爆笑トークがあり、撮影現場も生と性の土着に塗れ大変なことになっていたとは。
※1968年キネマ旬報ベストテン第1位
◎離ればなれになっても
2023.01.14 TOHOシネマズ シャンテ3 GLI ANNI PIÙ BELLI [1200円/135分]
【11】2020年イタリア 監督:ガブリエレ・ムッチーノ 脚本:ガブリエレ・ムッチーノ、パオロ・コステッラ
CAST:ピエルフランチェスコ・ファヴィーノ、ミカエラ・ラマッツォッティ、キム・ロッシ=スチュアート
●つくづく若い頃に仲間とつるんでバカやった者の勝ち。孤独老人にリーチを掛けたこちらは羨ましい限りだ。でもこの映画好きだな。イタリア人気質というかおしなべて女性陣の貞操観念のなさが4人の人生物語を彩っている。もっと後味をホロ苦くしても良かったのではと思いつつ、ジェンマのラストショットの表情に何ともいえぬ余韻がある。
◎ひとり狼
2023.01.14 角川シネマ有楽町 [1200円/83分]
【12】1968年大映 監督:池広一夫 脚本:直居欽哉
CAST:市川雷蔵、長門勇、小川真由美、長谷川明男、岩崎加根子、小池朝雄、浜村純、内田朝雄、丹阿弥谷津子、伊達三郎
●雷蔵のイメージから徹底的なニヒリズムで押してくるのかと思いきや、長谷川伸的な因果話が軸となって少しアテを外したが、股旅映画として最高の出来だ。とくに追分の伊三蔵の人となりを孫八に語らせることで情緒を嚙み殺した渡世人の孤高が最大現に際立っている。ある展開からいきなり雪が降りしきる効果も大映京都の粋って奴なのか。
◎ヘアー
2023.01.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 HAIR [1200円/121分]
【13】1979年アメリカ 監督:ミロシュ・フォアマン 脚本:マイケル・ウェラー
CAST:ジョン・サヴェージ、トリート・ウィリアムズ、ビヴァリー・ダンジェロ、アニー・ゴールデン、ドーシー・ライト
●オープニングは“AQUARIUS”、ラストが“Let the Sunshine In”。大好きなナンバーに挟まれたミュージカルはさぞ最高だろうと思いきや、すぐに彼らの独善に耐えられなくなる。M・フォアマンは「映画にするには遅すぎた、ノルタルジィには早過ぎた」というが、まるで体制側にもカウンター側にも違和感を覚える中途半端な私に似ている。
◎資金源強奪
2023.01.17 新文芸坐 [無料/92分] ※再観賞
【14】1975年東映 監督:深作欣二 脚本:高田宏冶
CAST:北大路欣也、梅宮辰夫、太地喜和子、川谷拓三、室田日出男、名和宏、安倍徹、天津敏、渡辺やよい、林彰太郎
●深作演出が急展開の高田脚本を軽快なテンポで刻む津島サウンドに乗せてスピード感を加速させていく。70年代深作映画を面白がるための文脈が身に沁みついてさえいれば、とことん楽しめる映画。昔はそれを共有した客が大勢いて、最後は映画館の雰囲気で程良い軽みの映画に仕上げていく。そんな時代の末席に座っていたことの至福を思う。
◎暴走パニック 大激突
2023.01.17 新文芸坐 [無料/85分] ※再観賞
【15】1976年東映 監督:深作欣二 脚本:神波史男、田中陽造、深作欣二
CAST:渡瀬恒彦、杉本美樹、川谷拓三、室田日出男、小林稔侍、渡辺やよい、潮健児、風戸佑介、曽根晴美、三谷昇
●潮健児曰く「知恵の遅れた人たち」によるブチ切れっぷりを飽きれてもいいが白けずに乗っていけるかが肝。ついでにスター監督にも関わらず東映に懐を抑えられていた深作のヤケクソぶりを川谷拓ボンの阿鼻叫喚と同列に笑えるかも重要だ。今回、渡瀬と杉本の致し方ない関係をバックアップした津島利章の音楽がやけに心に沁みた。
◎SHE SAIDシー・セッド その名を暴け
2023.01.21 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 SHE SAID [1200円//129分]
【16】2022年アメリカ 監督:マリア・シュラーダー 脚本:レベッカ・レンキェヴィチ
CAST:キャリー・マリガン、ゾーイ・カザン、パトリシア・クラークソン、アンドレ・ブラウアー、ジェニファー・イーリー
●#MeTooのムーブメントは知っていたが、取材と証言を積み上げ巨人ワインスタインを追い詰めたのが二人の主婦であったことに驚く。何より女同士であってもフェミニズムに落とし込まないのが素晴らしく、NYタイムズのリアルな雰囲気も実名主義もさすがだった。日本はいつまで“毎朝新聞”をやってくつもりなのかと暗澹たる気分にもなった。
◎モリコーネ 映画が恋した音楽家
2023.01.22 イオンシネマ座間:スクリーン10 ENNIO [1100円/157分]
【17】2022年イタリア 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
CAST:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クエンティン・タランティーノ、ベルナルド・ベルトルッチ、ハンス・ジマー、ジョン・ウィリアムズ
●お前は何様だ!ってなもんだが、77人にも及ぶ映画人、音楽家たちから絶賛されるモリコーネが誇らしかった。なにせ50年間寄り添ってきた私の神だ。コンサートにも二度行った。いやそんなアピールは抜きに『荒野の用心棒』の垂涎のメイキングから若き日の苦悩、晩年の栄光と、稀代のマエストロを掘り下げたトルナトーレには感謝しかない。
◎イニシェリン島の精霊
2023.01.28 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン7 HE BANSHEES OF INISHERIN [無料/109分]
【18】2022年イギリス=アメリカ=アイルランド 監督:マーティン・マクドナー 脚本:マーティン・マクドナー
CAST:コリン・ファレル、ブレンダン・グリーソン、ケリー・コンドン、バリー・コーガン、ゲイリー・ライドン
●対岸で内戦が激化する100年前のアイルランドを象徴したのかも知れないが、風光明媚な島の憎悪の表明も倫理観の方向も突拍子のない男同士の感情移入の枠外で繰り広げられる諍いに「何んだこの話?」と思い、今まで味わったことのない「何んだ?」を推進力にハラハラしながら、妙な面白味にやられてしまう不思議な映画体験だった。
※2023年キネマ旬報ベストテン第6位
◎キャバレー
2023.01.29 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 CABARET [1200円/124分]
【19】1972年アメリカ 監督:ボブ・フォッシー 脚本:ジェイ・アレン、ヒュー・ホイーラ
CAST:ライザ・ミネリ、マイケル・ヨーク、ジョエル・グレイ、ヘルムート・グリーム、フリッツ・ウェッパー、ヘレン・ヴィタ
●この享楽と退廃をライザ・ミネリが高らかに「人生はキャバレー!」と歌い上げるが、アートと娯楽のいかがわしさを体現したジョエル・グレイの狂言回しが素晴らしかった。そして忍び寄るナチズム。ミュージカルの枠組で戦争をここまでアバンギャルドに描き切った作品を初めて観た。決して好きではないがボブ・フォッシーってやはり凄い。
※1972年キネマ旬報ベストテン第9位
◎エンドロールのつづき
2023.01.29 新宿ピカデリー:シアター4 छेलो शो CHHELLO SHOW [1200円/112分]
【20】2021年インド=フランス 監督:パン・ナリン 脚本:パン・ナリン
CAST:バヴィン・ラバリ、リチャー・ミーナー、バヴェーシュ・シュリマリ、ディペン・ラヴァル、ピーカス・バータ
●監督のフィルムへの郷愁で全篇作られたような映画だ。さらに私の好きな“祭りの準備”感はトルナトーレよりこちらが鮮烈で、サマイが家族や仲間に見送られ故郷を旅立つ直前に目撃するのはジャンクされる映写機とフィルム。インドの食文化の転換を象徴するスプーンであったり色鮮やかなブレスレット。変革は喪失によって再生されるのか。
◎緋牡丹博徒
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/98分] ※再観賞
【21】1968年東映 監督:山下耕作 脚本:鈴木則文
CAST:藤純子、高倉健、若山富三郎、待田京介、大木実、清川虹子、沼田曜一、山本麟一、金子信雄、山城新伍、林彰太郎
●高校生で体験した吉祥寺の夏は人生レベルで忘れられない一夜だった。今、冷静に振り返ってもこの第一作にはお竜さん自身の切実な物語があり、鈴木則文の柄にもない名脚本と花の山下美学。熊虎親分、不死身の富士松、ふぐ新、堂島のおたか、、、もうすべてが尊すぎて泣けてくる。こんな1mmも成長していない自身にも泣けてくる。
◎兄弟仁義 逆縁の盃
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/90分]
【22】1968年東映 監督:鈴木則文 脚本:笠原和夫、梅林喜久生
CAST:北島三郎、若山富三郎、菅原文太、三益愛子、桜町弘子、金子信雄、遠藤辰雄、天津敏、宮園純子、林彰太郎
●東映仁侠ヒーローの中でサブちゃんの軽さは異色で、三益愛子を起用して“母もの”に仕立てるとなると、いよいよ歌謡ショー前半の出しもの的な様相を呈するのだが、サブちゃんが「おっかさん!」と台詞を喋るたび浪花節演歌ドラマと化す。鈴木則文(演出)、笠原和夫(脚本)、吉田貞次(撮影)の座組との相性は今ひとつだったかな。
◎美女と液体人間
2023.01.29 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/85分]
【23】1958年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:馬淵薫
CAST:佐原健二、平田昭彦、白川由美、小沢栄太郎、佐藤允、田島義文、千田是也、土屋嘉男、中丸忠雄、伊藤久哉、林幹
●題名だけはずっと昔から知っていて、もっとおどろおどろしい新東宝的キワモノ展開を想像していたが、さすが本多猪四郎×円谷英二の黄金コンビはオーソドックスな作風を崩さず、後年のテレビドラマ『怪奇大作戦』の礎となっていることが良く分かった。ただ65年前の特撮映画ということで、ひたすら「古い!」ことを楽しむ映画ではある。
◎あのこと
2023.02.02 イオンシネマ座間:スクリーン4 L'ÉVÉNEMENT [1100円/100分]
【24】2021年フランス 監督:オードレイ・ディヴァン 脚本:オードレイ・ディヴァン、マルシア・ロマーノ
CAST:アナマリア・バルトロメイ、サンドリーヌ・ボネール、ケイシー・モッテ・クライン、ルアナ・バイラミ
●女子大生アンヌの妊娠から中絶までをストーリーではなくプロセスとして見せていく。そこには心理的な葛藤も罪悪感も希薄で、神への冒涜か否かの抽象的な問いかけもない。しかしアンヌの行動と生理を追うことで彼女の意志が際立ち、この体験すら人生の糧にするしたたかさを得たのだと想像して妙な感銘すら覚えてしまった。何故だろう。
◎パーフェクト・ドライバー 成功確立100%の女
2023.02.03 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 특송 [1200円/109分]
【25】2022年韓国 監督:パク・デミン 脚本:パク・デミン
CAST:パク・ソダム、ソン・セビョク、キム・ウィソン、チョン・ヒョンジュン、ヨン・ウジン、ヨム・ヘラン、ハン・ヒョンミン
●もう映像そのもののルックが日本映画とは桁違いに凄いのだが、ダダこねて主人公の足を引っ張る子供やカットを刻み過ぎてアクションが不明瞭など嫌いな場面も少なくない。『非常宣言』しかりでホメている人は多いが、手放しで面白いとはいいたくない感じ。そもそも愛すべき社長をあそこまでバイオレントに殺す必要はあったのか。
◎レジェンド&バタフライ
2023.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1000円/168分]
【26】2022年東映 監督:大友啓史 脚本:古沢良太
CAST:木村拓哉、綾瀬はるか、宮沢氷魚、市川染五郎、斎藤工、北大路欣也、橋本じゅん、音尾琢真、伊藤英明、中谷美紀
●戦国ドラマにこんなタイトルをつけた以上は妄想ではなく本当に信長と濃姫が南蛮船で異国に旅立つラストで良かったのではないか。NHKの大河だって濃姫は本能寺で敵を迎え撃つのだから妄想も何でもありだ。などと思うのはある程度、この恋物語に乗せられていたのだと思う。綾瀬はるかの大女優感は圧倒的だったが、木村も頑張った。
◎そして僕は途方に暮れる
2023.02.03 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1000円/122分]
【27】2023年ハピネットファントム=アミューズ 監督:三浦大輔 脚本:三浦大輔
CAST:藤ヶ谷太輔、前田敦子、中尾明慶、毎熊克哉、野村周平、香里奈、原田美枝子、豊川悦司
●裕一のクズぶりにムカつきながら、胸の内で舌打ちを繰り返すが、やがて自分に向けられていたことに気がつく。ある場面で同じ経験の記憶を呼び起こされ、反感と共感の話になった。ただこの共感は苦い。苦すぎる。さらにここまで甘えられる周囲が存在することにまた反感を覚えてザワザワする。これは本作を評価しているということか。
◎炎 上
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/99分]
【28】1958年大映 監督:市川崑 脚本:和田夏十、長谷部慶治
CAST:市川雷蔵、中村鴈治郎、仲代達矢、浦路洋子、中村玉緒、新珠三千代、信欣三、浜村純、舟木洋一、北林谷栄
●建物への執着の結末は大概、炎上で終わる。三島由紀夫の『金閣寺』は未読。同名の高林陽一作品との混同もある。金閣寺放火に至る学生僧の屈折した心情のアプローチに性的挫折が抜けていると感じなくもないが、役者の凄味を見せつけた雷蔵の渾身の演技と脇を固めるベテランたち、そして市川崑演出のテンポで最後まで引っ張られた。
※1958年キネマ旬報ベストテン第1位
◎薄桜記
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/109分]
【29】1959年大映 監督:森一生 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、真城千都世、三田登喜子、大和七海路、北原義郎、島田竜三、千葉敏郎、舟木洋一、伊沢一郎
●今更『薄桜記』が初見など恥ずかしい限りだが、映画上映を待って本当に良かった。大映京都の蓄積が生んだ間違いない名作。女優陣が淋しいが同時上映が『浮草』。京も若尾も野添も小津に持って行かれたか。でも新人の真城千都世が雷蔵と雪の惨死を見事に表現。さらに吉良邸に雪崩れ込む浪士たちの背中に「完」。切れ味も申し分なし。
◎斬 る
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/71分]
【30】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、浅野進治郎、柳永二郎、稲葉義男、千葉敏郎、毛利郁子
●何というか上映中ずっと、三隈研次の大映時代劇を観ているのだという高揚感があった。私はこんな高揚感を探しながら映画を観続けている。シリーズ物の呪縛の無い一人の剣豪の生と死を“人を斬ること”を命題として追及する異色作で、やがて剣の切っ先が我が身を貫く宿命に抗わない究極の孤独を描き切って見事としかいいようがない。
◎赤線地帯
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/86分] ※再観賞
【30】1956年大映 監督:溝口健二 脚本:成沢昌茂
CAST:京マチ子、若尾文子、木暮実千代、三益愛子、沢村貞子、進藤英太郎、町田博子、川上康子、浦辺粂子、菅原謙二
●調べて意外だったのが「キネ旬」15位。世界のミゾグチの遺作としては寂しい気もするが、売春防止法施行前の娼家を描く資料的価値ではなく巨匠による「女の学校」だ。女たちを総花的に捉えるもエピソード集にならず、演技への追及も含め人物の掘り下げが十代で初見した時にはわからなかった。黛敏郎のスリラー調の音楽が疑問ではある。
◎無法松の一生
2023.02.04 角川シネマ有楽町 [1200円/86分]
【31】1943年大映 監督:稲垣浩 脚本:伊丹万作
CAST:阪東妻三郎、園井恵子、月形龍之介、永田靖、川村禾門、長門裕之、杉狂児、山口勇、葛木香一、尾上華丈
●日本映画史の名作と知りつつも、最初はまったく乗れなかったのは元々、松五郎的な人物が苦手だったからかもしれない。それが阪妻の味が深まることで面白味が出て来た。吉岡夫人との恋を戦時下の検閲で切られ、勇ましい場面はGHQに切られ、園井恵子は桜隊で被爆死するなど幾多の不幸に見舞われたが、祇園太鼓は今も鳴り響いている。
◎剣 鬼
2023.02.05 角川シネマ有楽町 [1200円/83分]
【32】1965年大映 監督:三隅研次 脚本:星川清司
CAST:市川雷蔵、姿美千子、睦五郎、工藤堅太郎、戸浦六宏、五味龍太郎、内田朝雄、佐藤慶、伊達三郎、木村玄、香川良介
●この度の「大映4K映画祭」を市川雷蔵中心に観ているが、そこまで雷蔵に馴染んでいなかった私は今はすっかり惚れ込んでいる。とにかく役者として凄い。変幻自在ふりは有名だが、本作では無垢から虚無まですべての雷蔵が楽しめる。三隈研次がこの早逝した大スターの魅力をすべて把握している証左か。ちょっと変わった映画だったが。
◎女渡世人
2023.02.05 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/90分]
【33】1971年東映 監督:小沢茂弘 脚本:本田達男
CAST:藤純子、鶴田浩二、北村英三、夏川静江、斉藤浩子、木暮実千代、広瀬義宣、水森亜土、遠藤太津朗、汐路章
●ようやく捕まえた。これで純子さん主演の仁侠映画はコンプリート。映画も面白かったが、やはり「泣かせ」の場面での小沢茂弘の情感の薄さは気になる。印象に残ったのは資料で蘆屋雁之助と記されていたヒロインを慕うサンピンの広瀬義宣。お馴染みの大部屋役者がそこそこの大役を与えられ、一生懸命演じている姿は嬉しいものだ。
◎マタンゴ
2023.02.10 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/89分]
【35】1958年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:木村武
CAST:久保明、小泉博、土屋嘉男、水野久美、太刀川寛、佐原健二、八代美紀、天本英世
●子供の頃、テレビで観てとにかく怖かった。それもありずっと東宝特撮最大のキワモノだと思っていた。まさか劇場で出会えるとは!キノコ人間やラストのショッキングシーンもさることながら、映画が語る極限状態の人間のエゴや醜さが全体のトーンを決定していることの怖さもあったのだと気づく。美術も際立った意味での“キワモノ”だ。
◎雨月物語
2023.02.11 角川シネマ有楽町 [1200円/97分] ※再観賞
【36】1953年大映 監督:溝口健二 脚本:川口松太郎、依田義賢
CAST:京マチ子、森雅之、田中絹代、水戸光子、小沢栄太郎、青山杉作、羅門光三郎、香川良介、上田吉二郎、毛利菊枝
●初見は18歳の時。何が名作なのかさっぱりだった。ここで描かれるのは「幽玄」なのだろうが、文や日本画と違い幽玄を映画で表現するのは人工的な技術と作為が必要であり、例えば琵琶湖に浮かぶ小舟など宮川一夫のカメラと相俟って溝口の芸術性の達成を感じる。かなり通俗的な寓話がむしろ深い余韻になって不思議な面白さを醸している。
※1953年キネマ旬報ベストテン第3位
◎レナードの朝
2023.02.12 TOHOシネマズ:スクリーン9 AWAKENINGS [1200円/121分]
【37】1990年アメリカ 監督:ペニー・マーシャル 脚本:スティーヴン・ザイリアン
CAST:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・デ・ニーロ、ジュリー・カヴナー、ルース・ネルソン、マックス・フォン・シドー
●超絶演技を披露したデ・ニーロ。しかし敢えてミスキャストだったと言いたい。あくまでもロビン・ウィリアムズを主体として周辺に嗜眠性脳炎患者たちを置くべきで、「生と尊厳」という本来のテーマが横滑りしてデ・ニーロとロビンの演技合戦が一番の興味どころとなってしまっている。決して悪い映画ではないが、残念だなとも思った。
◎対 峙
2023.02.12 イオンシネマ座間:スクリーン9 MASS [1000円/111分]
【38】2021年アメリカ 監督:フラン・クランツ 脚本:フラン・クランツ
CAST:リード・バーニー、アン・ダウト、ジェイソン・アイザックス、マーサ・プリンプトン、ミシェル・N・カーター
●被害者家族と加害者家族が対峙するディカッションドラマ。チケットを買ってから昨日、三谷幸喜の二人芝居を観に行ったばかりだったことに気づく。しかし舞台劇さながらの設定でも骨太の映画になっていた。緊張と抑揚と激昂が言葉によって繰り返される一部始終を一気に見せる。そして浮かびあがる贖罪と赦しの葛藤。間違いなく秀作だ。
◎海底大戦争
2023.02.17 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/84分] ※再観賞
【39】1996年東映=アメリカ 監督:佐藤肇 脚本:大津皓一
CAST:千葉真一、ペギー・ニール、フランツ・グルーベル、アンドリュウ・ヒューズ、エリック・ニールセン、三重街恒
●5歳の時、母に連れられ神戸の映画館で観て以来、サイボーグ半魚人の改造手術の描写はしばらくトラウマだった。60年近く経って再会。合成も陳腐だし内容もC級然としたもので、あのトラウマは何だったのかとなるが、まだカラー映像に免疫のない5歳児の衝撃は無垢な想像力に満ちていた。「子供騙し」と簡単に切り捨てるなかれだ。
◎銀平町シネマブルース
2023.02.19 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1000円/99分]
【40】2023年リズメディア=レオーネ=クロックワークス 監督:城定秀夫 脚本:いまおかしんじ
CAST:小出恵介、吹越満、宇野祥平、藤原さくら、浅田美代子、渡辺裕之、片岡礼子、藤田朋子、小野莉奈、中島歩
●今度の城定はベタに泣かせる。序盤はあまりのウェットさに途惑っていたが、世界観に浸ったれ!と決めてからもうラストまで断続的に涙腺垂れ流し状態。そして終わってみれば大好きな映画になった。“映画館もの”として『浜の朝日~』の3倍、『キネマの神様』の10倍は良かった。留めの助監督に捧ぐメイキングのあざとさに呆れ返りながらも。
◎別れる決心
2023.02.19 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 헤어질 결심 [1200円/138分]
【41】2022年韓国 監督:パク・チャヌク 脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン
CAST:パク・ヘイル、タン・ウェイ、イ・ジョンヒョン、コ・ジョンピョ、パク・ユンウ、キム・シニョン
●噂の鬼才パク・チャヌク初見だ。明らかなヒッチコック『めまい』モチーフの中、サスペンスとメロドラマを連鎖させながら凄まじい情報量を放って進行していく。その蓄積で焙り出されるのは愛の官能美か。一切の濡れ場なしにここまで愛を可視化する手腕はただ事ではないが、それ故に私の観賞リテラシーの限界を超え迷宮に落とし込まれた。
※2023年キネマ旬報ベストテン第7位
◎母の聖戦
2023.02.23 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LA CIVIL [1100円/135分]
【42】2021年ベルギー=ルーマニア=メキシコ 監督:テオドラ・アナ・ミライ 脚本:アバクク・A・D・ロザリオ、T・A・ミライ
CAST:アルセリア・ラミレス、アルバロ・ゲレロ、アイエレン・ムソ、ホルヘ・A・ヒメネス、ダニエル・ガルシア
●低予算マカロニ西部劇を彷彿とさせる石の町並み。組織とも呼べない小規模な犯罪カルテルによる誘拐ビジネス。その荒涼たる現実のドキュメントに暗澹とさせられるが、娘を取り戻す母親の戦いにジャンル映画的な面白味も感じる。半面、観賞者の想像に委ねるシエラの視線の行方。モデルとなった母親の最後を知り、新たな衝撃が走る。
◎少女は卒業しない
2023.02.23 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン5 [1000円/120分]
【43】2023年クロックワークス=U-NEXT=ダブ 監督:中川駿 脚本:中川駿
CAST:河合優実、小野莉奈、小宮山莉渚、中井友望、藤原季節、窪塚愛流、佐藤緋美、宇佐卓真、輝美、志木心音、林裕太
●中流家庭の無垢で純粋な良い子ちゃんだけで構成され、不良もいなければ学園カーストも性問題もない地方の県立高校。悪い映画ではないが同じ原作者の『桐島~』から10年経ち、これは一体?と途惑った。これで高校時代の想い出に浸れる人は幸せだと思いつつ、高校生役がきつくなりつつある出演者たちの健気な演技をボ~と見ていた。
◎ベネデッタ
2023.02.24 新宿武蔵野館:スクリーン3 BENEDETTA [1200円/131分]
【42】2021年オランダ=フランス 監督:ポール・ヴァーホーベン 脚本:デヴィッド・バーク、ポール・ヴァーホーベン
CAST:ヴィルジニー・エフィラ、ダフネ・パタキア、シャーロット・ランプリング、ランベール・ウィルソン、エルヴェ・ピエール
●「宗教戒律と背徳」は苦手なテーマのひとつでも歴史上初の同性愛裁判に着想を得たヴァーホーベンの露悪なまでの前のめり感で一気に見せる。ペストが蔓延する時代の終末観も含め、事態は破戒へと突き進むが、暴力とエロが横溢する中、瞬間、壮大な叙事詩と錯覚させるシャーロット・ランブリングの老いに抑制された存在がとにかく圧巻だ。
◎バビロン
2023.02.25 イオンシネマ座間:スクリーン9 BABYLON [1000円/189分]
【43】2022年アメリカ 監督:デイミアン・チャゼル 脚本:デイミアン・チャゼル
CAST:ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、トビー・マグワイア
●サイレントからトーキーの端境でハリウッドがここまで享楽と乱痴気の日常だったとは俄かに信じ難いが、『SHE SAID』同様、オスカーには徹底的に嫌われたようだ。しかしチャゼルの力技には持って行かれる。「あなたが死んでから生まれた子たちもあなたを友人のように思う」この素敵な台詞を天国のハリウッドスターたちに捧げたい。
◎フィッシャー・キング
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 THE FISHER KING [1200円/138分]
【46】1991年アメリカ 監督:テリー・ギリアム 脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
CAST:ジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ、アマンダ・プラマー、マーセデス・ルール、マイケル・ジェッター
●アーサー王伝説の聖槍も聖杯も無知なので、DJが屋敷に忍び込む理由がわからなかった。わからないままジェフ・ブリッジス、ロビン・ウィリアムズ名優二人の競演を楽しみ、時折「らしさ」を発揮するテリー・ギリアムの映像表現に「おおっ」としているうちに終わってしまった感じ。32年の歳月はまったく気にならなかった。
◎エンパイア・オブ・ライト
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 EMPIRE OF LIGHT [1200円/138分]
【47】1991年アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:サム・メンデス
CAST:オリヴィア・コールマン、マイケル・ウォード、コリン・ファース、トビー・ジョーンズ、ターニャ・ムーディ
●すっかり映画館はノスタルジーの象徴となったか。この一週間、クセの強い監督たちのやりたい放題な作品が続き、さすがのサム・メンデスも毒気にあてられたか。エンパイア劇場のモデルは知らないが、80年代当時の女性や黒人の生き辛さを見せて、実は今でも変わっていないのだという決着に、80年代である必然性があるのかと感じた。
※2023年キネマ旬報ベストテン第8位
◎逆転のトライアングル
2023.02.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 SANS FILTRE [無料/147分]
【48】2022年スウェーデン=ドイツ=フランス=イギリス 監督・脚本:リューベン・オストルンド
CAST:ハリス・ディキンソン、チャールビ・ディーン、ドリー・デ・レオン、ウディ・ハレルソン、ズラッコ・ブリッチ
●若い男女のしょーもないミニマムな諍いから、嘔吐と糞尿塗れの船上パニックとなり、漂着した無人島ではエゴ剥き出しのサバイバルとなる。初オストルンドは強烈だった。もはや先読み不可能で一体何処に連れていかれるのか不安のまま突然のエンディング。これが虚栄を剝がされた人間の本質というものか。凄い映画だったとは思う。
◎FALL/フォール
2023.03.5 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 FALL [1000/106分]
【49】2022年アメリカ 監督:スコット・マン 脚本:ジョナサン・フランク、スコット・マン
CAST:グレイス・フルト、ヴァージニア・ガードナー、ジェフリー・ディーン・モーガン、メイソン・グッディング
●かなりヘタレな高所恐怖症だ。始まってしばらく見に来なきゃよかったと後悔した。地上600メートルもさることながら柵のない狭い足場が怖い。錆びた梯子に緩んだボルト。それなのにこの馬鹿娘共ときたら!しかし映画はべらぼうに面白い。物語も良く練られているし技術の高さも十分窺える。が、今も思い出すだに足がすくむ。
◎バニシング・ポイント
2023.03.5 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 VANITHING POINT [無料/106分]
【50】1971年アメリカ 監督:リチャード・C・サラフィアン 脚本:ギラーモ・ケイン
CAST:バリー・ニューマン、ディーン・ジャガー、クリーヴォン・リトル、ビクトリア・メドリン、ティモシー・スコット
●昔、名画座界隈でよく見たタイトルの4Kリバイバル。当時からキネ旬5位の評価だが、今やニューシネマの名作に格上げされていた。確かに幕引きはニューシネマらしいのたが、あまりに牧歌的すぎて興奮にはほど遠かった。全編に流れるロックのビートよりエンジンやブレーキの音を前面に出すべきで、古めかしさに睡魔と戦う羽目となる。
※1971年キネマ旬報ベストテン第5位
◎エゴイスト
2023.03.10 シネ・リーブル池袋1 [1200円/120分]
【51】2023年東京テアトル=ROBOT 監督:松永大司 脚本:松永大司、狗飼恭子
CAST:鈴木亮平、宮沢氷魚、阿川佐和子、中村優子、和田庵、ドリアン・ロロブリジーダ、柄本明
●浩輔と龍太が互いを求めたのは即物的な性愛であり、過去を乗り越えるもがきでもある。そして突然の喪失を埋める行為がエゴなのかと映画は問う。「恋人」から「母親」へと物語を転回させながら手持ちカメラのゆらぎがドキュメントのように生を映し、母を通して過去を肯定していく。もがきとゆらぎの愛おしさが心地良い癒しとなる秀作。
◎エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
2023.03.12 イオンシネマ座間:スクリーン9 EVERYTHING EVERYWHERE ALL AT ONCE [1000円/139分]
【52】2022年アメリカ 監督:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート 脚本:ダニエル・クワン、ダニエル・シャイナート
CAST:ミシェル・ヨー、キー・ホイ・クァン、ステファニー・スー、ジェイミー・リー・カーティス、ジェニー・スレイト
●最近この手の映画を「マルチバースもの」と呼ぶらしいが、平行世界の何でもアリ展開は苦手。案の定、支離滅裂な展開にミシェル・ヨーの身体能力を楽しむしかなく、強いていえば『インディ・ジョーンズ』『グーニーズ』リアルタイム世代としてキー・ホイ・クアンに注目していたらオスカーは当確の熱演だった。いよいよ明日が授賞式か。
※2023年キネマ旬報ベストテン第9位
◎フェイブルマンズ
2023.03.12 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 THE FABELMANS [1000円/151分]
【53】2022年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:スティーヴン・スピルバーグ、トニー・クシュナー
CAST:ポール・ダノ、ミシェル・ウィリアムズ、ガブリエル・ラベル、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、ジーニー・バーリン
●スピルバーグもいよいよキャリアを畳みにかかったかと思いきや、自伝というよりユダヤ人家族の物語を丹念に綴って2時間半を飽きさせない。とくに母親親への想いがじんわりと効いてくる。一方、高校時代のいじめや恋愛はやや平板に思えた。最後にジョン・フォードが地平線の撮り方を教授するエピソードをしっかり見せてくれたのは嬉しい。
※2023年キネマ旬報ベストテン第5位
◎シン・仮面ライダー
2023.03.18 109シネマズグランベリーパーク:シアター1 [1200円/121分]
【54】2023年製作委員会=東映 監督:庵野秀明 脚本:庵野秀明
CAST:池松壮亮、浜辺美波、柄本祐、西野七瀬、竹野内豊、斎藤工、長澤まさみ、松尾スズキ、手塚とおる、森山未來
●評判が入ってくる前に観たかった。賛否両論起こりそうだが好感を持てた。仕事で変身したこともあったが(笑)、そこまでの思入れも知識もなかったのが幸いしたか。ただあまりに閉じた世界観に、ここで起こっていることが人類全体の危機には見えなかった。スケールを排除してまで信頼と友情を前面に出したのが今回の庵野流のアプローチか。
◎ベイビーわるきゅーれ
2023.03.20 池袋シネマ・ロサ [1100円/95分]
【55】2021年製作委員会=渋谷プロ 監督:阪元裕吾 脚本:阪元裕吾
CAST:髙石あかり、伊澤彩織、三元雅芸、秋谷百音、うえきやサトシ、福島雪菜、本宮泰風、水石亜飛夢、辻凪子、飛永翼
●「見逃していた感」強めの一本。週末の続編公開に合わせた再上映で掴まえた。いやはや面白い。低予算の女子高生殺し屋コンビの日常劇だがアクションは本格的。本格的どころか伊澤彩織の立ち回りは岡田准一以上だったのではないか。生まれた時代が気の毒でならないが彼女の凄さは間違いなく日本映画界の財産。しっかり活かして欲しい。
◎無法松の一生
2023.03.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/104分]
【56】1958年東宝 監督:稲垣浩 脚本:伊丹万作、稲垣浩
CAST:三船敏郎、高峰秀子、芥川比呂志、笠智衆、宮口精二、多々良純、有島一郎、笠原健司、松本薫、稲葉義男、土屋嘉男
●ズタズタに切られてなお名作の誉れ高き板妻版に続き、三船版を観賞。4Kのレストアは美しく、積み重ねた車輪のオーバーラップなど編集の執念を感じさせてさすが金獅子賞だと思ったが、政の健気に触れるほど吉岡夫人の鈍感さが恨めしくなるのは寅さんのマドンナたちを思い出す。ただ三船は板妻ほど大スターの匂いを消せていただろうか。
※1958年キネマ旬報ベストテン第7位
◎ロストケア
2023.03.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/104分]
【57】2023年東京テアトル=日活 監督:前田哲 脚本:龍居由佳里、前田哲
CAST:松山ケンイチ、長澤まさみ、藤田弓子、柄本明、鈴鹿央士、坂井真紀、戸田菜穂、綾戸智恵、梶原善、峯村リエ
●問題作だったと思う。両親の介護の最中に観ていたら正視出来たか問うほどに深刻な社会矛盾を告発する意志も技術も感じる。ただ伏せられていた検事の真実は原作通りとしても、父を殺した斯波が41人を“救い”に至る心理描写が浅すぎて唐突感は否めない。あと柄本明、いつもながらの熱演かつ名演も「またこれか」と思わざる得なかった。
◎#マンホール
2023.03.26 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/99分]
【58】2023年ギャガ=ジェイ・ストーム 監督:熊切和嘉 脚本:岡田道尚
CAST:中島裕翔、奈緒、永山絢斗、黒木華
●オリジナルの労は認めてもいい。しかし『FALL』と公開時期が重なった不幸のまま、ワンシチュエーションサスペンスの面白味も緊迫感もなく、マンホールの中で主人公に同情も共感も出来ないのが辛い。意外な展開への安易な強引さも目立ち、いっそクソ主人公の罪をバラしたうえでのマンホール脱出にするべきだったのではないか。
◎ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー
2023.03.26 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/101分]
【59】2023年製作委員会=渋谷プロ 監督:阪元裕吾 脚本:阪元裕吾
CAST:髙石あかり、伊澤彩織、飛永翼、橋野純平、安倍乙、新しい学校のリーダーズ、渡辺哲、丞威、濱田龍臣、水石亜飛夢
●ギャルの緩い日常と過激なバイオレンスでかなりヤバめの前作と比べ、そこそこ抑え目な続編だった。確かに分刻みで面白いことが起こり、とくに殺し屋見習と決闘なのか合コンなのかわからないクライマックスは笑ってしまうが、ヘイビーズにはもっと巨悪との戦いでアクションを見せて欲しかった。もう一本作られるのを心から願いたい。
◎ちひろさん
2023.03.30 新宿武蔵野館:スクリーン3 [1200円/131分]
【60】2023年NETFLIX=アスミック・エース 監督:今泉力哉 脚本:澤井香織、今泉力哉
CAST:有村架純、豊嶋花、van、若葉竜也、佐久間由衣、市川実和子、鈴木慶一、平田満、リリー・フランキー、風吹ジュン
●今泉&有村の顔合わせにしては地味な公開だと思いきやネトフリ作品だった。しかし関係なく面白い映画を今泉は連発する。面白いというより心地良い。ちひろさんの孤独であることにブレない生き方が清々しい。渇き方すら温かいのだ。元風俗嬢だろうが無垢な天使に思えてずっと観ていられる。有村架純はネクストステージに上がったようだ。
◎ジュラシック・パーク
2023.04.08 TOHOシネマズ新宿:スクリーン1 JURASSIC PARK [1200円/127分]
【61】2022年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:マイケル・クライトン、
CAST:ポール・ダノ、ミシェル・ウィリアムズ、ガブリエル・ラベル、セス・ローゲン、ジャド・ハーシュ、ジーニー・バーリン
●昔、DVDで観たときCG映像に驚いたものの面白くなく、スピルバーグも終わったと思ったが、スクリーンで観てここまで面白かったことにまた驚いた。終わったのではなく変わったのだ。驚いたといえばこれが30年前の映画であること。私も30代の前半だったが最先端の『トップガン・マーヴェリック』『RRR』と変わらぬテンション。凄い。
◎ロスト・ワールド ジュラシック・パーク
2023.04.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 LOST WORLD:JURASSIC PARK [1200円/129分]
【62】1997年アメリカ 監督:スティーヴン・スピルバーグ 脚本:デイヴィッド・コープ
CAST:ジェフ・ゴールドブラム、ジュリアン・ムーア、ピート・ポスルスウェイト、リチャード・アッテンボロー
●続編はイマイチか。ヒロインであるサラの過ちが招く危機が少なくないが彼女は無自覚。そもそも何でわざわざT-REXを連れ帰えろうとするのか。トリケラトプスじゃダメか。恐竜映画の脚本にあれこれ文句つけても仕方ないが、2週続くとT-REXの恐怖にも慣れてしまい、タイトル通り映画がテーマパーク内のスリルに収まってしまっている。
◎名探偵コナン/黒鉄の魚影<サブマリン>
2023.04.15 イオンシネマ座間:スクリーン10 [無料/109分]
【63】2023年小学館=読売テレビ=トムス=東宝 監督:立川譲 脚本:櫻井武晴
CAST:(声)高山みなみ、林原めぐみ、山崎和佳奈、小山力也、堀之紀、古谷徹、池田秀一、小山茉美、立木文彦、沢村一樹
●今年の「コナン」はシリーズ中でもベスト5に入るかも。例によって観客置き去りの爆発場面をクライマックスとしているがそれがインフレ一歩手前で留まり、「老若認証システム」をめぐる黒の組織との攻防でなかなか見せる。灰原愛のコナンへの切ない思いも、流行り言葉を使えばシリーズ中でもかなりエモく、それが好みだから仕方がない。
◎ノック 終末の訪問者
2023.04.16 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 KNOCK AT THE CABIN [1200円/100分]
【64】2023年アメリカ 監督:M・ナイト・シャラマン 脚本:M・N・シャラマン、スティーヴ・デスモンド、M・シャーマン
CAST: デイヴ・バウティスタ、ジョナサン・グロフ、ベン・オルドリッジ、ニキ・アムカ=バード、ルパート・グリント
●もはやシャラマン節ともいえる不条理な謎展開は決して嫌いではないが、突然、提示されるレギュレーションに従いながらの観賞は途中から風呂敷の畳み方が心配になってくるのもいつも通り。ただ凡百の闖入者監禁ものと毛色の違う密室劇に見応えがあり、演者たちの熱演もあって演出の切れ味は流石だ。決して腑に落ちたわけではないが。
◎ジュラシック・パークⅢ
2023.04.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 JURASSIC PARKⅢ [1200円/129分]
【65】2001年アメリカ 監督:ジョー・ジョンストン 脚本:ピーター・バックマン、A・ペイン、ジム・テイラー
CAST:サム・ニール、ウィリアム・H・メイシー、ティア・レオーニ、アレッサンドロ・ニヴォラ、トレヴァー・モーガン
●3週通しだと観ている間は楽しいが、さすがに飽和感は否めないばかりか早くも各場面が錯綜し混濁している。ある種母性をテーマにしていたのはわかるが、その分、恐竜たちの擬人化も強調されてしまったのはどうなんだ。T-REXは獰猛に捕食のみに突進して欲しかった。ジョン・ウィリアムズのオリジナルスコアの偉大さだけはしっかり残った。
◎ザ・ホエール
2023.04.23 109シネマズグランベリーパーク:シアター4 THE WHALE [1200円/117分]
【66】2022年アメリカ 監督:ダーレン・アロノフスキー 脚本:サミュエル・D・ハンター
CAST:ブレンダン・フレイザー、セイディー・シンク、ホン・チャウ、タイ・シンプキンス、サマンサ・モートン
●皆それぞれ救いを求めている。それでも “神”には懐疑的だ。恋人を失って過食を繰り返し270キロの巨体を横たえる“エイハブ船長”は滑稽で悲しいが、娘との和解にささやかな光を得ようとしても彼女は鳥の皿を割ることでしか関係を保てない。何とかならないかと思いつつ、我々は所詮ピザ配達人のダンに過ぎない。その切実さが胸を突く。
◎せかいのおきく
2023.05.03 テアトル新宿 [1200円/89分]
【67】2023年東京テアトル=U-NEXT=リトルモア 監督:阪本順治 脚本:阪本順治
CAST:黒木華、寛一郎、池松壮亮、佐藤浩市、眞木蔵人、石橋蓮司
●席を立ってロビーに出るまでニヤニヤしてしまうのはお気に入りの映画に出会った時の自然現象だ。この映画には台詞ではない言語がある。小さな人間の喜怒哀楽が自然や経済の循環の中で“世界”を形成していく。それが妙に可笑しい。阪本順治の長いキャリアのすべてを観ているわけではないが、うんこの話ながら撮影・美術の瑞々しさに唸る。
※2023年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ブギーナイツ
1997.05.03 新文芸坐 BOOGIE NIGHTS [1100円/155分]
【68】2022年アメリカ 監督:ポール・トーマス・アンダーソン 脚本:ポール・トーマス・アンダーソン
CAST:マーク・ウォルバーグ、バート・レイノルズ、ジュリアン・ムーア、ヘザー・グラハム、ジョン・C・ライリー
●ポール・T・アンダーソンは好きだが、これを観ずしてどうする?という作品をやっと文芸坐で掴まえた。70~80sのアメリカポルノ業界の内幕もので主人公含め登場人物たちは全員バカのようでいて、巨乳と巨根こそ最高の名の下にそれぞれ実に正直に行動しそれぞれ正直に時代に翻弄されていく。それが曼荼羅模様となった155分。見応え十分。
※1998年キネマ旬報ベストテン第10位
◎Village ヴィレッジ
2023.05.04 109シネマズグランベリーパーク [1200円/120分]
【69】2023年KADOKAWA=スターサンズ 監督:藤井道人 脚本:藤井道人
CAST:横浜流星、黒木華、一ノ瀬ワタル、奥平大兼、作間龍斗、杉本哲太、西田尚美、木野花、中村獅童、古田新太
●のっけから薪能の調べに焼身自殺の劇伴を被せる演出が不快。能をじっくり見せる胆力がないのか、外面の雰囲気作りでしかないのか。ご案内丸出しのガヤも2時間ドラマの安さだ。人物がアイコンで単純化され全体が温い。作劇も緩い。せっかく原作ものの呪縛がないにも関わらず、かの藤井道人が「安い・温い・緩い」を撮ってしまった。無念。
◎ワース 命の値段
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 WORTH [1000円/117分]
【70】2019年アメリカ 監督:サラ・コランジェロ 脚本:マックス・ボレンスタイン
CAST:マイケル・キートン、スタンリー・トゥッチ、エイミー・ライアン、テイト・ドノヴァン、タリア・バルサム
●人間の命は平等であるのは大前提だが、例えば独り身の初老と家族を養う大黒柱の命が同じで公平といえるのか。とかく平等と公平は厄介で、まして9.11テロの国家賠償となると様々な矛盾が生じ、主人公はその算出方法で苦悩する。ただ「真摯に被害者と向き合う」というある種真っ当な落し所に到達するのが性急すぎるのは残念だった。
◎Winny
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 [1000円/127分]
【71】2023年KDDI=ナカチカ 監督:松本優作 脚本:松本優作
CAST:東出昌大、三浦貴大、皆川猿時、木竜麻生、金子大地、渋川清彦、渡辺いっけい、吉田羊、吹越満、吉岡秀隆
●Winnyで映画コンテンツが好き勝手にダウンロードされている現場に居合わせた時、絶対アウトだと思った。開発者の金子氏がそのことに無頓着だったことの責任は大きい。ただ愛媛県警の巡査部長の告発と併せ警察の隠蔽工作を社会悪と見定めつつ、多少ぎこちなさげでもエンタメに仕上げた意欲は日本映画として評価されるべきだろう。
◎メグレと若い女の死
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 MAIGRET [1000円/89分]
【72】2022年フランス 監督:パトリス・ルコント 脚本:パトリス・ルコント、ジェローム・トネール
CAST:ジェラール・ドパルデュー、ジャド・ラベスト、メラニー・ベルニエ、オーロール・クレマン、アンドレ・ウィル
●武蔵野館でポスターを見たときから期待していた割にはメグレ警視が名優ドパルデューで、監督がP・ルコントだったことを今知った。マルセル・カルネがギャバンで映画化した50年代フランスのソフィスティケートされた犯罪ドラマの雰囲気を再現して見せるのが狙いで、ガチのパズラーではない。物足りないとする評価もあるが私は面白く観た。
◎コンペティション
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン2 COMPETENCIA OFICIAL [1000円/114分]
【73】2021年スペイン=アルゼンチン 監督:ガストン・ドゥプラット、マリアノ・コーン 脚本:アンドレス・ドゥプラット
CAST:ペネロペ・クルス、アントニオ・バンデラス、オスカル・マルティネス、ホセ・ルイス・ゴメス、イレーネ・エスコラル
●バックステージものではあるが役者三人の演技合戦が映画の本筋とリハーサル場面とがメタ構造となる脚本で見応え十分。人気者バンデラスと実力派マルティネスを上から支配するペネロペちゃんが痛快だ。映画は芸術か娯楽か?所詮は大資本家の売名の道具なのか?と問いながら物語は斜め上へと転がっていく。作劇が巧妙過ぎる一篇。
◎オマージュ
2023.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 오마주 HOMMAGE [無料/108分]
【74】2021年韓国 監督:シン・スウォン 脚本:シン・スウォン
CAST:イ・ジョンウン、クォン・ヘヒョ、タン・ジュンサン、キム・ホジョン
●間違いなくベスト候補。コロナ禍を経て映画愛を描く映画は世界的な潮流だが、ここまでリスペクトに溢れた作品があったろうか。そしてこれも韓国映画の潮流である「女性の居場所探し」。主婦でありながら女性監督のジワンが更年期に悩むうんざりした日常からフィルムを探す旅に私も同行する。その旅の素晴らしかったことに感謝。
◎東京战争戦後秘話
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [520円/94分]
【75】1970年創造社=ATG 監督:大島渚 脚本:佐々木守、原将人
CAST:後藤和夫、岩崎恵美子、福岡杉夫、大島ともよ、福田健一、磯貝浩、橋本和夫、堀越一哉、白石奈緒美、吉野憲司
●かつて松田政男が唱えた「風景論」。その基盤となった大島渚作品をようやく観て、ここに反権力思想を見出すことの苦しさを味わう。そもそも当時の若者たちの「俺達の闘争」の雄叫びに鼻白むのは、彼らこそブルジュアだったと思うからだ。そして褒章を受勲した大島の反権力映画が時を経て国の施設で上映されている現実。笑ってしまう。
◎新宿泥棒日記
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [520円/96分]
【76】1969年創造社=ATG 監督:大島渚 脚本:田村孟、佐々木守、足立正生、大島渚
CAST:横尾忠則、横山リエ、唐十郎、田辺茂一、渡辺文雄、佐藤慶、戸浦六宏、小松方正、李礼仙、四谷シモン、麿赤兒
●まさに騒乱事件の新宿。サブカルなる言葉があったかどうか不明だが、60年代末期の新宿アンダーグランドを大島らしく政治とセックスと暴力をコラージュして描出する。赤テントの中で大熱演の横尾忠則。少年のような唐十郎、粋人ぶりを発揮する田辺茂一。実名登場の創造社のメンバー。その場に居たかったような居なくて良かったような。
※1968年キネマ旬報ベストテン第8位
◎宵闇せまれば
2023.05.06 国立映画アーカイブ・小ホール [ 〃 /44分]
【77】1969年プロダクション断層=ATG 監督:実相寺昭雄 脚本:大島渚
CAST:三留由美子、斎藤憐、清水紘治、樋浦勉
●閉め切った部屋でガス栓を抜いて誰が最後まで残れるかという馬鹿どもの遊戯だが、映画初監督となる実相寺昭雄の密室劇の見せ方、緊張感の保ち方が巧い。若者たちが饒舌だった時代もあるだろうが大島渚のサスペンスの勘どころを抑えた脚本も見事。ただ最後のヒロインのアップに「君恋し」のバイオリンアレンジが喧し過ぎたのが不愉快。
◎マルサの女
2023.05.14 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/127分] ※再観賞
【78】1987年伊丹プロ=N.C.P 監督:伊丹十三 脚本:伊丹十三
CAST:宮本信子、山崎努、津川雅彦、岡田茉莉子、芦田伸介、小林桂樹、大地康夫、伊東四朗、大滝秀治、志水季里子
●本多俊之の軽快なテーマに乗せ改めて熟成したエンタメ作品であることを再認識。36年経ってまったく古びていないどころかジャンル映画としての要素のすべてを網羅し、そのガワだけで127分間持って行かれる。琴線に訴えて心に残る映画ではないとしても、例えば山崎努と津川雅彦が対峙する場面のチャーミングな色気に多幸感すら覚えた。
※1987年キネマ旬報ベストテン第1位
◎MEMORY メモリー
2023.05.14 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン9 MEMORY [1100円/114分]
【79】2022年アメリカ 監督: マーティン・キャンベル 脚本:ダリオ・スカーダペイン
CAST:リーアム・ニーソン、ガイ・ピアース、モニカ・ベルッチ、タジ・アトウォル、レイ・フィアロン、ハロルド・トレス
●リーアム・ニーソン70歳。アクション映画の牙城を守るための孤軍奮闘を先ず讃えねばなるまい。それがたとえ認知症に直面する老殺し屋だったとしてもだ。本来なら国境の町エル・パソは極限の社会問題を孕んでいるのだろうが、ニーソン主演の犯罪アクションというジャンルの大枠に収まっている。それが正解でもあり物足りなさでもある。
◎TAR/ター
2023.05.14 イオンシネマ座間:スクリーン5 TÀR [無料/159分]
【80】2022年アメリカ 監督: トッド・フィールド 脚本:トッド・フィールド
CAST:ケイト・ブランシェット、ニーナ・ホス、マーク・ストロング、ジュリアン・グローヴァ―、ノエミ・メルラン
●映画は間違いなく一級品。しかし重い静けさからの喧騒の繰り返しに緊張感が高まる一方で、マーラーやエルガーの調べに身を委ねることは許されない。相応の負荷を与えられた挙句にターとともに天から地へ叩きつけられ、彼女を受け入れるべきか否かに迷いながらくたくたに消耗してしまう。ケイトの演技を賞賛だけしていれば楽だったか。
※2023年キネマ旬報ベストテン第1位
◎魚影の群れ
2023.05.15 新文芸坐 [1100円/135分]
【81】1983年松竹富士=松竹 監督:相米慎二 脚本:田中陽造
CAST:緒形拳、夏目雅子、佐藤浩市、十朱幸代、矢崎滋、レオナルド熊、石倉三郎、下川辰平、三遊亭円楽、工藤栄一
●相米慎二・二十三回忌上映。もうそんな歳月が流れたかと感慨も束の間、細い一本のテグスに賭けたマグロ漁師の痛々しい息遣いに目を瞠る。相米の代名詞であるロングショットの長回しと大間の海原の対比。雨の中の追っ駆けっこ。大変な撮影現場だったことも想像に難くなく、役者も含め、作り手たちの執念で見せ切る映画に違いない。
※1983年キネマ旬報ベストテン第7位
◎光る女
2023.05.16 新文芸坐 [無料/118分]
【82】1987年ディレクターズ・カンパニー=大映=東宝 監督:相米慎二 脚本:田中陽造
CAST:武藤敬司、秋吉満ちる、すまけい、安田成美、出門英、中原ひとみ、伊達三郎、柴田理恵、ブライアン・アダムス
●初見だがこの映画のことは良く知っていた。武藤のはち切れん若さが眩しい。相米の不細工なサイケ趣味はプロレスファンの総スカンを食ったし、デレカンをジリ貧に追い込んだ罪もあるものの、冒頭のゴミ集積場での野生児とオペラ歌手のロングショットは特筆すべき。ただ単純な上京物語にしてしまったのが最後まで腑に落ちなかった。
※1987年キネマ旬報ベストテン第9位
◎お引越し
2023.05.20 新文芸坐 [1100円/124分]
【83】1993年読売テレビ=アルゴ=ヘラルド 監督:相米慎二 脚本:奥寺佐渡子、小此木聡
CAST:田畑智子、中井貴一、桜田淳子、田中太郎、茂山逸平、須藤真里子、笑福亭鶴瓶、青木秋美、森秀人、千原しのぶ
●1万本もの映画ソフトに囲まれながら90年代の映画観賞は穴だらけで、この時期の相米は最重要の欠けたピースだ。ただ少女の自我の目覚めを描くため琵琶湖畔を延々と歩かせたのは演者に負荷をかけ続けたイメージと相俟ってしんどかった。映画の物語性を作家性が蹂躙していく面白さはあるが、それ以上に公開当時の評価の高さに途惑う。
※1993年キネマ旬報ベストテン第2位
◎最後まで行く
2023.05.20 109シネマズグランベリーパーク:シアター3 [1200円/118分]
【84】2023年日活=WOWOW=ROBOT 監督:藤井道人 脚本:平田研也、藤井道人
CAST:岡田准一、綾野剛、広末涼子、磯村勇斗、駿河太郎、山中崇、黒羽麻璃央、清水くるみ、杉本哲太、柄本明
●予告編を観た限り、気合の入った倒叙サスペンスの印象だったが、気合の入ったドタバタ劇だった。でも面白れー。先に封切られた「安い・温い・緩い」映画とは一線を画す藤井道人の重さが功を奏した。しかも岡田准一と綾野剛の必死の顔芸が度を越し過ぎて笑える。韓国映画のリメイクなのは残念だったが、エンタメとして申し分なし。
◎あ、春
2023.05.21 新文芸坐 [無料/100分]
【85】1998年トラム=松竹=衛星劇場 監督:相米慎二 脚本:中島丈晴
CAST:佐藤浩市、山崎努、斉藤由貴、藤村志保、富司純子、余貴美子、三林京子、村田雄浩、原知佐子、三浦友和
●そういえば葬儀で始まり散骨で終わる映画だ。それでもほのぼのしたテイストで、まるで昔のTBS「日曜劇場」を想起させる。展開も至極真っ当だ。しかしテレビではなく“映画の芝居”を意図した適材適所に配置された演者たちによって好きな世界観が出来上がっている。相米の円熟味なのか。ひよこでオチがつくエンディングも悪くない。
※1993年キネマ旬報ベストテン第1位
◎風 花
2023.05.21 新文芸坐 [ 〃 /116分]
【86】2000年ビーワイルド=テレビ朝日=TOKYO FM=シネカノン 監督:相米慎二 脚本:森らいみ
CAST:小泉今日子、浅野忠信、麻生久美子、香山美子、柄本明、尾美としのり、小日向文世、鶴見辰吾、高橋長英、綾田俊樹
●互いを拒絶する風俗嬢と挫折キャリア官僚。ロードムービーという体裁で行き場を失った同士の冷めた道中の行方が気になったが、自殺未遂をきっかけに認め合う展開に意外性はなく、線香花火の道具立ても平板と思った。しかし主役二人の画面持ちの良さがなんとも心地いい。享年53歳。日本映画に爪痕を残した映画作家の遺作となった。
※2000年キネマ旬報ベストテン第5位
◎映画クレヨンしんちゃん/雲黒斎の野望
2023.05.21 新文芸坐 [1100円/116分]
【87】1995年シンエイ動画=ASATSU=テレビ朝日 監督:本郷みつる 演出:原恵一 脚本:原恵一
CAST:(声)矢島晶子、浦和めぐみ、真柴摩利、富山敬、ならはしみき、藤原啓治、佐久間レイ、加藤精三、玄田哲章
●アニメ映画における監督と演出の役割がわからないまま、戦国時代にタイムスリップしたしんちゃんのドタバタを楽しんだが、名作『嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦』の原点を探し過ぎたようだ。現代に戻ってからのロボット対決はつまらない。それでもひろしとみさえ夫婦としんちゃんの絆がそこはかとなく漂うシリーズならではの魅力はある。
◎銀河鉄道999
2023.05.28 新文芸坐 [2200円/129分]
【88】1979年東映動画=東映 監督:りんたろう 脚本:石森史郎
CAST:(声)野沢雅子、池田昌子、井上真樹夫、田島令子、肝付兼太、富山敬、久松保夫、麻上洋子、小原乃梨子、柴田秀勝
●人に本作を未見だというと驚かれる。確かに東映ビデオの販売営業で身近に接していながら、断片的なイメージだけを積み重ねてきた。そして断片がエモーショナルに繋がっていく快感に酔いしれる。城達也の「・・・さらば少年の日よ」の語りからゴダイゴのエンディング。44年の時間が銀河鉄道の車窓から駆け抜けて行くのが見えた気がした。
◎さらば銀河鉄道999 -アンドロメダ終着駅-
2023.05.28 新文芸坐 [ 〃 /130分]
【89】1981年東映動画=東映 監督:りんたろう 脚本:山浦弘靖
CAST:(声)野沢雅子、池田昌子、井上真樹夫、田島令子、肝付兼太、江守徹、麻上洋子、富山敬、森山周一郎、来宮良子
●鉄郎がレジスタンスで登場し、やっぱり続編ってこうなるかと思いつつ、ハーロック、エメラルダスと共闘しながら、結局同じ戦いを繰り返す。少年時代の母恋慕から「父越え」を成長の証しとする既視感だらけの“盛り”にならざる得なかったか。戦闘描写のクォリティは流石だが、鉄郎に父親殺しの十字架を負わすのは罪深すぎたのではないか。
◎お葬式
2023.06.05 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 [1200円/127分] ※再観賞
【90】1984年伊丹プロ=N.C.P=ATG 監督:伊丹十三 脚本:伊丹十三
CAST:山崎努、宮本信子、菅井きん、財津一郎、大滝秀治、奥村公延、高瀬春奈、友里千賀子、尾藤イサオ、笠智衆
●誰と観に行ったのか忘れてしまったが、何十年後に両親を送ったとき追体験するように映画を思い出した。喜怒哀楽を一日に凝縮した儀式に伊丹流の人間観察の可笑しみが最大の見どころで、サンドウィッチ手渡しカーチェイスや森林の性行為など悪ノリ要素もぶち込んで、着想ありきの「あるある」映画に落とさなかったのは流石だったか。
※1984年キネマ旬報ベストテン第1位
◎怪 物
2023.06.05 イオンシネマ座間:スクリーン1 [1000円/126分]
【91】2023年東宝=フジテレビ=ギャガ 監督:是枝裕和 脚本:坂元裕二
CAST:安藤サクラ、永山瑛太、田中裕子、黒川想矢、柊木陽太、高畑充希、角田晃広、中村獅童、田中裕子、黒田大輔
●理解の齟齬がお互いを怪物と認識してしまう不条理は必然なのだろう。阪元脚本の多視点の作劇が怪物を創造して見事だが、是枝演出がさらに想像のファクターで物語のパズルに余韻を与えた。ただエピをバッサリ切られた田中裕子はやや不憫ではなかったか。それでも子役使いの名手がついにここに踏み込んだかとの感慨は強く残った。
※2023年キネマ旬報ベストテン第7位
◎渇 水
2023.06.06 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8 [1000円/100分]
【92】2023年製作委員会=レスパスビジョン 監督:髙橋正弥 脚本:及川章太郎
CAST:生田斗真、門脇麦、磯村勇斗、山崎七海、柚穂、宮藤官九郎、池田成志、尾野真千子、柴田理恵、田中要次
●一部で好評のようだが全然面白くなかった。渇水に見舞われる地方都市の喘ぎが決定的に弱いのと、この状況でネグレクトの子達の水栓を止める水道局職員の葛藤も社会構造の理不尽さも伝わってこない。だから職員が翻意して職を追われるきっかけが突飛でしかなく、単なる同情の粋を出ない。要は場面作りにインパクトがなさすぎるのだ。
◎憧れを超えた侍たち 世界一への記録
2023.06.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン13 [2200円/130分]
【93】2023年アスミックエース=J SPORTS 監督:三木慎太郎 脚本:(ドキュメンタリー)
CAST:大谷翔平、ダルビッシュ有、村上宗隆、𠮷田正尚、佐々木朗希、山本由伸、ラーズ・ヌートバー、源田壮亮、栗山秀樹
●テレビ局の映像ではなくNPBのオフィシャルカメラがダッグアウト裏の選手の葛藤まで映し出す。栗山の苦悩、うなだれていた朗希の歓喜の涙、負傷した源田の意地。飄々とした大谷の存在感。ネットでは観られない映像が満載し、結果から逆算した構成で選手の温度感まで描出する。あの感動が蘇り2200円がまったく気にならなかった。
◎スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース
2023.06.24 イオンシネマ座間:スクリーン2 SPIDER-MAN: ACROSS THE SPIDER-VERSE [1000円/140分]
【94】2023年アメリカ 監督:ホアキン・D・サントス、K・パワーズ、J・K・トンプソン 脚本:D・カラハム、フィル・ロード、クリス・ミラー
CAST:(声)小野賢章、悠木碧、宮野真守、乃村健次、小島幸子、上田燿司、岩中睦樹、関智一、田村睦心、佐藤せつじ
●始まりの30秒足らずでド肝を抜かれ吹替版にして正解だったと痛感。噂には聞いていたが、このCGアニメの独自性は間違いなく前代未聞の現代アートの域。ここまで即物的に圧倒させられたのは記憶にない。それでいて青春ストーリー、大人との確執というスパイダーマンの世界観を正統に受け継ぐ決定版ともいえる。早く続きが見たい。
◎雄獅少年/ライオンと少年
2023.07.01 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 雄獅少年 [1000円/104分]
【95】2021年中国 監督:スン・ハイポン 脚本:リー・ヅゥリン)
CAST:(声)花江夏樹、桜田ひより、山口勝平、落合福嗣、山寺宏一、甲斐田裕子、千葉繁、二又一成、三宅健太、増田俊樹
●いつまでもCGアニメのクォリティの高さに驚いてばかりでは始まらないが、CGの機能としてではなくテクニカルな見せ方にはやはり驚く。中国アニメもここまで来ているのだ。内容はベタなスポ根ものだとしても、クライマックスに向けてのコンセントレーションの高さに、かつて香港映画で味わってきた臭味が効いて溜まらん味わいだ。
◎聖地には蜘蛛が巣を張る
2023.07.01 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 HOLY SPIDER [1000円/118分]
【96】2022年デンマーク=ドイツ=スウェーデン=フランス 監督:アリ・アッバシ 脚本:アリ・アッバシ、A・K・バーラミ)
CAST:メフディ・バジェスタニ、ザーラ・アミール・エブラヒミ、アラシュ・アシュティアーニ、フォルザン・ジャムシドネジャド
●欧州の多国籍が描くイスラムの闇の異物感は監督がイラン出身であったとしても禍々しく映る。身体を売る街婦、それを抹殺する連続殺人鬼、どちらも聖地にとっては蜘蛛なのだろうが、女性ジャーナリストが潜入取材するサスペンスにジャンル映画的なベタさを感じた途端、インディペンデンス独特の閉塞感が邪魔して乗り切れなかった。
◎午前4時にパリの夜は明ける
2023.07.01 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 LES PASSAGERS DE LA NUIT [1000円/111分]
【97】2021年フランス 監督:ミカエル・アース 脚本:ミカエル・アース
CAST:シャルロット・ゲンズブール、キト・レイヨン=リシュテル、ノエ・アビタ、メーガン・ノーサム、ティボー・ヴァンソン
●パリの女性がタバコの煙をくゆらす場面はいつも素敵だ。家族の中での孤独、孤独の中での家族。登場人物たちが時間が進むにつれ「いい顔」になっていくのはまるで大都会パリの光と闇に洗浄されていくからなのか。こういうフランス映画はとにかく好きだ。そして良く出来た昔の日活ロマンポルノを思い出したのは、きっと私だけだろう。
◎波 紋
2023.07.01 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 [1000円/100分]
【98】2021年フィルムパートナーズ 監督:荻上直子 脚本:荻上直子
CAST:筒井真理子、光石研、磯村勇斗、安藤玉恵、渡辺美佐江、江口のりこ、平岩紙、柄本明、木野花、キムラ緑子
●「絶望を笑い飛ばせ」とは映画のコピー。枯山水の庭に赤い傘、土砂降りの中、喪服の筒井真理子がタンゴを狂舞する。前作で幕引きのズルさに触れたが、今度の荻上直子はもっとズルい。有無を言わさぬ圧倒感で一気に畳み込むのは絶対に嫌いにはなれない。卑怯ですらある。しかし堂々とオリジナルで挑む姿勢には素直に敬意を表したい。
◎アラビアのロレンス<完全版>
2023.07.02 TOHOシネマズ新宿:スクリーン12 LAWRENCE OF ARABIA [1200円/227分] ※再観賞
【99】1962年イギリス 監督:デイヴィッド・リーン 脚本:ロバート・ボルト
CAST:ピーター・オトゥール、オマー・シャリフ、アレック・ギネス、アンソニー・クイン、ジャック・ホーキンス
●砂漠の赴任からアカバ攻略までの前半の颯爽たるロレンスと、後半の英軍の権謀とアラブ民族に翻弄され憔悴していくロレンス。まさにクオリティとクオンティティ。これが映画史の奇跡的金字塔といわれる所以か。4回目の観賞だが、とにかく『アラビアにのロレンス』をスクリーンで観られる機会があればこの先も劇場に馳せ参じよう。
※1963年キネマ旬報ベストテン第1位
◎パリタクシー
2023.07.08 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 UNE BELLE COURSE [1100円/91分]
【100】2021年フランス 監督:クリスチャン・カリオン 脚本:シリル・ジェリー、クリスチャン・カリオン
CAST:リーヌ・ルノー、ダニー・ブーン、アリス・イザーズ、ジェレミー・ラユルト、ジュリー・デラルム
●予告編から「いい映画だろうな」と予感させたが、それをまったく裏切らない。観客が思い描く通りの作劇は期待される幕切れへと一直線に進んでいく。ただ老マダムの半生が想像以上に過酷であることには驚いた。「女性につらい時代」を織り込みながら、ハリウッドリメイクの予感も感じさせる純度100%の感動作といっておく。
◎ウーマン・トーキング 彼女たちの選択
2023.07.08 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 UNE BELLE COURSE [1100円/105分]
【101】2022年アメリカ 監督:サラ・ポーリー 脚本:サラ・ポーリー
CAST:ルーニー・マーラ、クレア・フォイ、ジェシー・バックリー、ジュディス・アイヴィ、フランシス・マクドーマンド
●読み書きさえも出来ず、男たちに蹂躙され続けた女たちが「赦すか」「戦うか」「去るか」を話し合う。女たちの「自立を勝ち取る」「尊厳を取り戻す」「次世代への責任と希望」に議論に耳を傾けながら、とにかく驚愕だったのが百年も昔の話かと思いきや、ごく近過去の出来事だったこと。宗教とは、近代国家とは一体何だろうか。
※2023年キネマ旬報ベストテン第10位
◎1秒先の彼
2023.07.08 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 [無料/119分]
【102】2023年ビターズ・エンド、マッチポイント 監督:山下敦弘 脚本:宮藤官九郎
CAST:岡田将生、清原果耶、福室莉音、荒川良々、加藤雅也、片山友希、しみけん、笑福亭笑瓶、松本妃代、伊勢志摩
●3年前の私のベスト1を「彼」に焼き直した日本版リメイクで、安易か?とスルーしようと思いつつ監督、脚本、主演の布陣に本気を感じて観賞。うん堂々たるリメイクだった。両者を比較するのは野暮だが、台湾版へのリスペクトの中でも全篇京都弁なのがいい。もっと方言が飛び交う恋愛ものがあってもいいと思うところでもあった。
◎時をかける少女
2023.07.09 イオンシネマ座間:スクリーン10 [2000円/100分]
【103】2006年角川=ヘラルド 監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子
CAST:(声)仲里依紗、石田卓也、板倉光隆、谷村美月、垣内彩未、関戸優希、原沙知絵、立木文彦、反田孝幸、山本圭子
●筒井康隆を読んだのは随分昔で細かいことは忘れてしまったが、大林宣彦の映画とは全然違っていた。なにより芳山和子が訳知りな謎の女として登場。細田守の名を一気に知らしめた本作は、なるほど青春の日常の中でタイムリープがドタバタ忙しいヒロインの恋愛以前の思春期の揺らぎをよく表現していた。17年前のアニメの質感も悪くない。
◎インディ・ジョーンズと運命のダイヤル
2023.07.09 イオンシネマ座間:スクリーン10 INDIANA JONES AND THE DIAL OF DESTINY [1000円/154分]
【104】2023年アメリカ 監督:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ジェズ・バターワース、J・H・バターワース、D・コープ他
CAST:ハリソン・フォード、フィービー・ウォーラー=ブリッジ、マッツ・ミケルセン、アントニオ・バンデラス
●このシリーズもとうとうディズニー映画になってしまったか。ジョーンズが時空を超えてアルキメデスと出会い、「私はここに残りたい」と独白する場面に「それでいいのでは」と思ったのは『レイダース』から42年、80を超えたH・フォードの老いへの感慨だったか。ただあくまでもダイヤルを破壊するための冒険であって欲しかった。
◎バックドラフト
2023.07.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 BACKDRAFT [1200円/137分]
【105】1991年アメリカ 監督:ロン・ハワード 脚本:グレゴリー・ワイデン
CAST:カート・ラッセル、ウィリアム・ボールドウィン、ロバート・デ・ニーロ、スコット・グレン、ドナルド・サザーランド
●「午前十時の映画祭」が始まった頃から待望していた。90年代から先は私の映画観賞「穴」時代で、本作などその代表だ。だから一時期まで最も有名だったハンス・ジマーのスコアが鳴る冒頭はワクワクした。変幻する炎表現は見事。しかし話を詰め込みすぎて散漫な印象となり乗り切れない。猛火の中で消防隊員同士の殺し合いは必要なのか。
◎君たちはどう生きるか
2023.07.15 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1000円/124分]
【106】2023年スタジオジブリ=東宝 監督:宮崎駿 脚本:宮崎駿
CAST:(声)山時聡真、菅田将暉、柴咲コウ、あいみょん、木村佳乃、木村拓哉、竹下景子、風吹ジュン、大竹しのぶ、火野正平、國村隼、小林薫
●好きな映画だった。まず公開前に一切の情報を遮断したことに感謝。だから主人公の眞人がナツコ、アオサギ、キリコ、ヒミたちに誘われて次の扉を開けていく緊張感が心地良かった。そしてエンドロールの豪華声優陣にどよめく館内。難解とか集大成とか、是か非かすら関係なく宮崎駿を観ている実感とそこに流れる時間がただ有り難かった。
※2023年キネマ旬報ベストテン第9位
◎告白、あるいは完璧な弁護
2023.07.16 kino cinema 横浜みなとみらい:シアター1 자백 [1200円/105分]
【107】2022年韓国 監督:ユン・ジョンソク 脚本:ユン・ジョンソク
CAST:ソ・ジソブ、キム・ユンジン、ナナ、チェ・グァンイル、ファン・ソニ、パク・ヒョンスク、ハン・ガプス
●映像のミスリードを重ね観客を翻弄するストーリーから立ち上る演技の集中力。そして演出。崖の空撮、雪道の一本道、鉄球が氷を割り車が浮がぶ映像のルックが桁違いに凄く、毎回韓国映画の作り込みには驚かされるし、なにより贅沢な気分にさせてくれる。残念なのはリメイクであることくらいだが、ミステリー映画として一級品だった。
◎こわれゆく女
2023.07.17 シアター・イメージフォーラム A WOMAN UNDER THE INFLUENCE [1200円/147分]
【108】1974年アメリカ 監督:ジョン・カサヴェテス 脚本:ジョン・カサヴェテス
CAST:ジーナ・ローランズ、ピーター・フォーク、フレッド・ドレイパー、レディ・ローランズ、マーガレット・ロンゲッティ
●知る人ぞ知るカサヴェテスを『グロリア』を2回観ただけでやり過ごしてきた。設定された状況をジーナとピーター・フォークの夫婦が悉く否定する。しかも妻は最初から壊れている。そして夫も壊れていく。そして罵声と怒号の応酬が家族そのものを壊していく。あまりにヒリヒリした空気感に耐えられず強烈な睡魔に苛まれた147分だった。
◎ラヴ・ストリームス
2023.07.17 シアター・イメージフォーラム LOVE STREAMS [1200円/141分]
【109】1984年アメリカ 監督:ジョン・カサヴェテス 脚本:テッド・アラン
CAST:ジョン・カサヴェテス、ジーナ・ローランズ、ダイアン・アボット、マーサ・ブルイット、シーモア・カッセル
●何故に彼らは愛を渇望し、愛に執着するのか。もうその先は虚無しかないのではないか。ただあまりに気まずく、殺伐とさえしつつ可笑しみをたたえているのはカサヴェテス自身の自嘲がなせる業なのか。憔悴したジーナと自然とダンスを踊る場面のなんとカッコいいことか。カサヴェテスが伝説の映画監督になったのにはジーナの存在がある。
◎ノーカントリー
2023.07.18 目黒シネマ NO COUNTRY FOR OLD MEN [1300円/122分]
【110】2007年アメリカ 監督:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン 脚本:ジョエル&イーサン・コーエン
CAST:ハビエル・バルデム、ジョシュ・ブローリン、トミー・リー・ジョーンズ、ウディ・ハレルソン、ケリー・マクドナルド
●メキシコ国境の街で怪物的な殺人鬼からの逃亡劇が展開される中。コーエン兄弟は巧みにジャンルにありがちな構造を外しにかかる。狂気犯罪に厭世感を募らせる保安官にあえて見せない殺人場面など。それでもスリラー&サスペンス劇として十分に楽しませるのが兄弟の真骨頂か。オスカー作品賞やキネ旬1位などがむしろノイズになったほど。
※2008年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ビッグ・リボウスキ
2023.07.22 目黒シネマ THE BIG LEBOWSK [1300円/122分]
【111】1998年アメリカ 監督:ジョエル・コーエン 脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
CAST:ジェフ・ブリッジス、ジョン・グッドマン、ジュリアン・ムーア、スティーヴ・ブシェーミ、ジョン・タトゥーロ
●初見はビデオ。クスクス笑いを誘う連続小ネタのあまりの可笑しさと、たまに挿入されるスタイリッシュなファンタジー映像で一気にコーエン兄弟に魅せられたのだった。海に投げた友人の遺灰が逆風で顔面に降りかかるラストは爆笑もの。コーエン常連組の顔たちが画面を罷り通る中でJ・ブリッジスのヒッピー崩れが最高に格好いい。
◎バートン・フィンク
2023.07.22 目黒シネマ BARTON FINK [1300円/116分]
【112】1991年アメリカ 監督:ジョエル・コーエン 脚本:ジョエル・コーエン、イーサン・コーエン
CAST:ジョン・タトゥーロ、ジョン・グッドマン、ジュディ・デイヴィス、マイケル・ラーナー、ジョン・マホーニー
●メガネ男の額に蚊のメインビジュアルがジョン・タトゥーロだと今さら知った。パルムドールを獲った前衛的な作品と思い込んでいたら展開がまったく予測不能のサスペンス。しかも風刺も盛っている。ヌメっと壁紙が剥がれる気持ち悪ささえ最後はどこに連れて行かれるかわからない不安をコーエン兄弟の掌で味わえたのが実に気持ち良かった。
※1991年キネマ旬報ベストテン第5位
◎ミッション:インポッシブル /デッドレコニング PART ONE
2023.07.29 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 MISSION:IMPOSSIBLE DEAD RECKONING PART ONE [1000円/164分]
【113】2023年アメリカ 監督:クリストファー・マッカリー 脚本:クリストファー・マッカリー
CAST:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ヴァネッサ・カービー
●観る前から面白いのはわかっている。トムが世界につまらないものを出す筈がない。膨大なアイディアから最上のものを抽出し、極限のクオリティを追求する。だからカーチェイスや列車アクションなど見慣れた設定でも特上にアップデートしたものを見せていく。好きか?と聞かれれば少し迷うが、それ以前に感謝が先に立つ。困ったもんだ。
◎サマーウォーズ
2023.07.30 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1600円/114分]
【114】2009年製作委員会=ワーナー 監督:細田守 脚本:奥寺佐渡子
CAST:(声)神木隆之介、桜庭ななみ、富司純子、谷村美月、仲里依紗、斎藤歩、中村正、永井一郎、信澤三惠子、板倉光隆
●なるほど『竜とそばかすの姫』は細田守が本作の世界観をアップデートしたかったのかと観ていたら、何だかこっちの方が全然凄くないか?と思い始めてきた。大家族の宴がやがてイーサン・ハントが直面するのと(ほぼ)同じ危機にすっ飛んでいく。マッドハウスの奔放なアニメ―ションを純子さん(声)久々の花札勝負と併せて楽しめた。
※2009年キネマ旬報ベストテン第8位
◎お嬢さん
2023.08.05 目黒シネマ 아가씨 [1000円/168分]
【115】2016年韓国 監督:パク・チャヌク 脚本:チョン・ソギョン、パク・チャヌク
CAST:キム・ミニ、キム・テリ、ハ・ジョンウ、チョ・ジヌン、キム・ヘスク、ムン・ソリ、イ・ドンフィ、チョ・ウニョン
●日本統治下の韓国を描く近代劇と思いきや、目まぐるしくトーンチェンジを繰り返し様々なジャンルを横断しながら思いも寄らぬ結末へと雪崩れ込む。パク・チャヌクには翻弄されっぱなしだったが、そのひとつひとつの描写濃度が半端ではなく、それが実に露悪的であっても見事なエンターティメントを観た気にさせる。見事なものだ。
◎渇き
2023.08.05 目黒シネマ 박쥐 [1300円/133分]
【116】2009年韓国 監督:パク・チャヌク 脚本:パク・チャヌク、チョン・ソギョン
CAST:ソン・ガンホ、キム・オクビン、シン・ハギュン、キム・ヘスク、オ・ダルス、パク・イナン、ソン・ヨンチャン
●ざっくりした題名は事前知識なしで観よとのパク・チャヌクのメッセージと受け取った。ソン・ガンホの医師が迷走する挙句どこに向かうのかとハラハラするうちに映画は何とパンパイアものに転身。娘バンパイアとそれから数分に一回面白い場面が繰り返され、最後は幻想的心中ともいえるフィナーレを迎える。なんて変てこ素敵な映画なのか。
◎地球防衛軍
2023.08.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 [1200円/88分]
【117】1957年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:香山滋、木村武
CAST:佐原健二、平田昭彦、白川由美、河内桃子、志村喬、村上冬樹、伊藤久哉、中丸忠雄、小杉義男、大川平八郎
●子供の時にテレビで観た生まれる4年前の東宝特撮映画。モゲラは知っていたが、映画の中で一言も“モゲラ”と言っていないことだけは何となく憶えていた。ただせっかくのTOHOスコープも上下を縮めてのシネスコでがっかり。4Kって何?と思う。66年前だと割引いても国民レベルでの融和か対抗かを議論するなど葛藤が欲しかった。
◎リボルバー・リリー
2023.08.11 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1000円/138分]
【118】2023年フィルムパートナーズ=東映 監督:行定勲 脚本:小林達夫、行定勲
CAST:綾瀬はるか、長谷川博己、古川琴音、清水尋也、佐藤二朗、板尾創路、石橋蓮司、阿部サダヲ、野村萬斎、豊川悦司
●実は結構期待していた。綾瀬はるかの身体能力に一目置いていたのだ。しかし大正から戦前のハードボイドという設定は悪くないが、あまりのご都合主義とリボルバー一挺で陸軍と戦う無理さに興を削がれた。白髪の老婆は誰だ、二代目極道の存在理由は?行定勲という“デキる”監督の意欲は窺えるが、紙一重の紙は相当に分厚かった。残念。
◎アルゴ探検隊の大冒険
2023.08.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 JASON AND THE ARGONAUTS [1200円/104分]
【119】1963年アメリカ=イギリス 監督:ドン・チャフィ 脚本:ジャン・リード、ビヴァリー・クロス
CAST:トッド・アームストロング、ナンシー・コバック、ローレンス・ナイスミス、ナイアル・マクギニス、マイケル・グウィン
●ハリーハウゼンによるコマ送りクリーチャーは東京12チャンネルでの特撮映画枠を思い出させて懐かしかった。とくに青銅の巨人がカクカクと探検隊を蹂躙する様は微笑ましくも感じた。それでも骸骨剣士との有名なチャンバラシーンは映画史の一端に触れた感銘があった。正直言うと104分が観ていられるギリギリのところではあったが。
◎ヘイトフル・エイト
2023.08.18 新文芸坐 THE HATEFUL EIGHT [1100円/168分]
【120】2015年アメリカ 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ
CAST:サミュエル・L・ジャクソン、カート・ラッセル、ジェニファー・ジェイソン・リー、ウォルトン・ゴギンズ、ティム・ロス
●見逃していたタランティーノの密室劇。血糊多めの演出はご愛嬌としても面白い映画とは何か?それを知り尽くし、ひたすら追及する監督が念願のエンニオ・モリコーネのスコアを得て映画小僧たちを掌に乗せて弄んでくれる。映画を観る歓びとはこういうことだ。コーエン兄弟、パク・チャヌクと作劇にクセのある映画作家が続いて楽しい。
◎忘れられた人々
2023.08.19 シネマヴェーラ渋谷 LOS OLVIDADOS [900円/81分] ※再観賞
【121】1950年メキシコ 監督:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・ブニュエル、ルイス・アルコリサ
CAST:エステラ・インダ、アルフォンソ・メヒア、ロベルト・コボ、ミゲル・インクラン、アルマ・デリア・フエンテス
●「棄民」という言葉はあまり使われなくなったが、そんなメキシコ貧民街の少年たちの“明日への希望”は“今日一日をどうやり過ごすか”という現実の前に霧消する。情感も感情も排除したリアリズム手法で観る者を圧倒するブニュエルは、それでも刹那に生きる者の理不尽を万感の気持ちで描いたのだと思う。二回観て確信した。文句なしの傑作。
※1953年キネマ旬報ベストテン第9位
◎エ ル
2023.08.19 シネマヴェーラ渋谷 EL [900円/92分]
【122】1952年メキシコ 監督:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・ブニュエル、ルイス・アルコリサ
CAST:アルトゥーロ・デ・コルドヴァ、デリア・ガルセス、アウローラ・ワルケル、ルイス・ベリスタイン
●私が学生時代からブニュエルに惹かれ続けているのは、その才能の多様性にある。もちろん根底には神や宗教への根深い不信感が作家性を支えているのだろうが、ヒロインにつきまとう偏執なブルジュア男の支配などまるでヒッチコックサスペンスだ。廊下を蛇行して歩く男のラスト。この末路に妙な安堵と不安を感じさせるのも不思議だった。
◎スサーナ
2023.08.19 シネマヴェーラ渋谷 SUSANA [900円/83分]
【123】1950年メキシコ 監督:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・ブニュエル、ハイネ・サルヴァドール
CAST:ロシーナ・キンターナ、フェルナンド・ソレル、ビクトル・マニュエル・メンドーサ、マリア・ジョンティール・アルコス
●色香で男たちを破滅に追い込む悪女の顛末劇。ここまで俗っぽいブニュエルは初めてで、ある種興味深くもあったが、まるでイタリア艶笑喜劇みたいな筋書きで「おいおい」と思わずにいられない。まさしくブニュエルの多様性で、アーティストでありながら職人監督の手際で映画をまとめてゆく。しかしスサーナ、性悪ぶりが分かりやすい。
◎黄金時代
2023.08.19 シネマヴェーラ渋谷 L'AGE D'OR [900円/60分]
【124】1930年フランス 監督:ルイス・ブニュエル 脚本:ルイス・ブニュエル、サルバドール・ダリ
CAST:ガストン・モドー、リア・リス、マックス・エルンスト
●生涯ベスト級の『アンダルシアの犬』ほどではないが、鼠を刺す蠍、顔にたかる蠅などブニュエルとダリが組んだシュールレアリズムの衝撃作。ただダリが独りアトリエで創作するのとは違い、大勢のスタッフやそこそこの群衆まで用意をするとなると個人の思いだけをどれだけフィルムに焼き付けられるものなのか。興味あるところだ。
◎シークレット・サンシャイン
2023.09.02 ヒューマントラストシネマ有楽町:シアター1 밀양 [1300円/142分]
【125】2007年韓国 監督:イ・チャンドン 脚本:イ・チャンドン
CAST:チョン・ドヨン、ソン・ガンホ、チョ・ヨンジン、キム・ヨンジェ、ソン・ジョンヨプ、ソン・ミリム、キム・ミヒャン
●レトロスペクティブにて観賞の初のイ・チャンドン。ポン・ジュノやパク・チャヌクと違いオーソドックスにカットを重ねて人間の本質に迫っていくスタイルなのか。彼女が直面した決定的な悲劇に際し、一度は宗教に依存するも、“赦し”が神への不信となり、狂気を以てそこから脱却することで最後の救済を得る。まさに見応え十分の渾身の一本。
◎バーニング 劇場版
2023.09.03 ヒューマントラストシネマ有楽町:シアター1 버닝 [1300円/148分]
【126】2018年韓国 監督:イ・チャンドン 脚本:イ・チャンドン
CAST:ユ・アイン、スティーヴン・ユァン、チョン・ジョンソ、キム・スギョン、チェ・スンホ、ムン・ソングン
●見せる所はじっくり見せ、省く所も実は見せている。現時点での最新作にイ・チャンドンの円熟味が窺えるが、最後の決定的な局面が現実なのか作家である主人公の創作だったのか大いに途惑った。また象徴的に描かれるビニールハウス放火の意味は村上春樹の原作を読めば明確になるのだろうか。私にはこの映画の“真実”が見えにくかった。
※2019年キネマ旬報ベストテン第10位
◎ポエトリー アグネスの詩
2023.09.03 ヒューマントラストシネマ有楽町:シアター1 시 [1300円/139分]
【127】2010年韓国 監督:イ・チャンドン 脚本:イ・チャンドン
CAST:ユン・ジョンヒ、イ・デイヴィッド、キム・ヒラ、アン・ネサン、パク・ミョンシン、チャン・ヘジン
●ひとつ確信したのはイ・チャンドンは二度観るべきだということ。一度目は画面に現れる事象に翻弄されながら終わる。ここに至って観賞力の未熟さを痛感させられるが、おそらくエンドロードで胸にどーんと響くのは二回目からだろう。ミジャが非業の死を遂げたアグネスと同化して真実を見つけた「詩」。いつか私も同化したいと思う。
◎ほつれる
2023.09.10 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1000円/84分]
【128】2023年製作委員会=COMME DES CINEMAS 監督:加藤拓也 脚本:加藤拓也
CAST:門脇麦、田村健太郎、黒木華、染谷将太、古舘寛治、安藤聖、佐藤ケイ、秋元龍太朗、金子岳憲、安川まり
●主人公の綿子をはじめ登場人物の誰ひとりにも共感出来ない。共感は出来ないが綿子も夫・文則の心情は痛いほど理解出来る。むしろ共感しないことで自分を安全地帯に逃がしているのかもしれない。ある意味、自己嫌悪からの保身か。実は綿子がまさにそういう女性だ。門脇麦が受身に徹するほど田中健太郎が憎らしいほど光って見せる。
◎ペパーミント キャンディー
2023.09.17 ヒューマントラストシネマ有楽町:シアター1 박하사탕 [1300円/130分]
【129】1999年韓国 監督:イ・チャンドン 脚本:イ・チャンドン
CAST:ソル・ギョング、ムン・ソリ、キム・ヨジン、キム・ヒウォン、キム・グァンギュ、ノ・ジンサン、カン・ギョンホン
●光州事件はわりとリアルタイムで報道に接していたが、この事件が韓国にどのような残滓で刻み込まれたのかを考えたことはなかった。狂気に駆られたヨンホが記憶を逆行させる真ん中に事件との接点があるのだとしたら、全容を語らずしてもわかるだろうというイ・チャンドンの試みに、私の理解が絶望的に浅かったと言わざる得ない。残念だ。
※2000年キネマ旬報ベストテン第10位
◎オアシス
2023.09.17 ヒューマントラストシネマ有楽町:シアター1 오아시스 [1300円/133分]
【130】2002年韓国 監督:イ・チャンドン 脚本:イ・チャンドン
CAST:ソル・ギョング、ムン・ソリ、アン・ネサン、チュ・グィジョン、リュ・スンワン、ソン・ビョンホ、ユン・ガヒョン
●重量級の力を持った映画だとは思う。しかし脳性麻痺の女性を健常者が熱演するのはありとしても、幻想の中で健常者として現れるのは否だと感じる。我々は将軍と姫に感情移入し無理解な家族や世間の不条理を憎む。しかし「否」「不条理」を思うこと自体が実は偽善ではないのか。それでも好きにならざる得ないのだから罪な映画だ。
※2004年キネマ旬報ベストテン第4位
◎ミツバチのささやき
2023.09.18 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 EL ESPIRITU DE LA COLMENA [1200円/139分]
【131】1973年スペイン 監督:ビクトル・エリセ 脚本:ビクトル・エリセ、アンヘル・フェルナンデス・サントス
CAST:フェルナンド・フェルナン・ゴメス、アナ・トレント、イサベル・テリェリア、テレサ・ヒンペラ、ケティ・D・L・カマラ
●ヨーロッパ映画などで内戦がモチーフの映画に遭遇するたびに己の無知さに絶望してしまうのだが、本作はさほど気にならなかった。むしろ幼気な少女・アンがスペインの田舎町でフランケンシュタイン幻想に戯れる姿が映画的躍動感そのものであって、散りばめられたフランコ独裁政権への暗喩や皮肉を血眼になって探るのは違うのではないか。
※1985年キネマ旬報ベストテン第4位
◎名探偵ポアロ ベネチアの亡霊
2023.09.24 イオンシネマ座間:スクリーン8 A HAUNTING IN VENICE [1000円/103分]
【132】2023年アメリカ 監督:ケネス・ブラナー 脚本:マイケル・グリーン
CAST:ケネス・ブラナー、ティナ・フェイ、ミシェル・ヨー、ジェイミー・ドーナン、カイル・アレン、カミーユ・コッタン
●ケネス・ブラナー自作自演のポワロ・シリーズに共通する妙な活劇志向があまり好きになれない。アガサ・クリスティーにあくまで忠実であれなどと野暮はいわないが、ポワロの捜査に危機や冒険は違和感が拭えない。今回は「館もの」でホラー演出強めな設定だが、これもまたノイズに思えた。ノイズというより喧しかったというべきか。
◎ジョン・ウィック:コンセクエンス
2023.09.24 イオンシネマ座間:スクリーン3 JOHN WICK:CHAPTER4 [1000円/167分]
【133】2023年アメリカ 監督:チャド・スタエルスキ 脚本:シェイ・ハッテン、マイケル・フィンチ
CAST:キアヌ・リーブス、ドニー・イェン、真田広之、ビル・スカルスガルド、ローレンス・フィッシュバーン、リナ・サワヤマ
●初ジョン・ウィック。ある種のジャンルをずっと真ん中に据えて観続けて来た映画好きにとって、この映画を嫌いになる要素などあるだろうか。観客を歓ばせることに全身全霊を捧げた167分。ドニー・イエン×真田広之なんて「有難う」以外の言葉が見つからない。クライマックスに近づくほど映画が神々しくなり、もはや眩暈がしそうだ。
◎007/ゴールデンアイ
2023.09.30 109シネマズ港北:シアター5 GOLDENEYE [1300円/130分]
【134】1995年イギリス=アメリカ 監督:マーティン・キャンベル 脚本:ジェフリー・ケイン、ブルース・フィアスティン
CAST:ピアース・ブロスナン、ショーン・ビーン、イザベラ・スコルプコ、ファムケ・ヤンセン、ジュディ・デンチ
●4Kレストラ公開。中学生から007は劇場で観て来たが歯抜けも少なくない。本作はビデオ屋時代にディスプレイコンテストで10万を獲ったが本編は未見。ブロスナンのボンドではこれが一番の評判だが、やはり28年前のタルさは否めず、さりとてクラシカルな味わいも薄く中途半端な印象。タイトル前の飛行機空中飛び乗りから冷めてしまった。
◎女王陛下の007
2023.09.30 109シネマズ港北:シアター5 ON HER MAJESTYS SECRET SERVICE [1300円/130分]
【135】1969年イギリス=アメリカ 監督:ピーター・ハント 脚本:ウォルフ・マンコウィッツ、リチャード・メイボーム
CAST:ジョージ・レーゼンビー、ダイアナ・リグ、テリー・サバラス、ガブリエル・フェルゼッティ、バーナード・リー
●昔は悪評しか聞かなかったが、今は再評価が進んでいる。とにかく観たかった未見作だ。顎尻レーゼンビーのルックの悪さは仕方ないとしても大団円のない衝撃のエンディングに驚く。しかし早いカットのアクションま切れ味といい、雪崩の大迫力といい、今さら?といわれそうだが単なる異色作とは片付け難い一本。大いに気に入った。
◎バッド・ランズ
2023.10.01 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1000円/143分]
【136】2023年東映=ソニー 監督:原田眞人 脚本:原田眞人
CAST:安藤サクラ、山田涼介、宇崎竜童、生瀬勝久、吉原光夫、淵上泰史、天童よしみ、江口のり子、サリngROCK
●三角マークからのいきなりの大阪弁の迫力にド肝を抜かれ、早々に“掴まれた“。個人的に今年の邦画暫定1位。話の面白さは未読ながら原作が黒川博行なので保証済みだが、あの関西アンダーグランドを原田眞人と安藤サクラは超えたのではないか多分。ラストの月曜日に走る女には映画的カタルシスが体中を貫ぬきすぎて笑ってしまったほど。
◎アリスとテレスのまぼろし工場
2023.10.07 イオンシネマ茅ヶ崎:スクリーン3 [1000円/111分]
【137】2023年MAPPA=ワーナー 監督:岡田麿里 脚本:岡田麿里
CAST:(声)榎木淳弥、上田麗奈、久野美咲、八代拓、畠中祐、小林大紀、原陽菜、佐藤せつじ、瀬戸康史、林遣都
●なにより70年代風のタイトルロゴに惹かれた。それと中島みゆきの主題歌で観に来たようなもの。何せ『あの花~』の内心のすべてを絶叫したようなエモさ連続で叩きつけた岡田麿里の作品なので警戒感もあった。デストピアものとして設定されたレギュレーションの中で14歳の恋が深刻に叫ばれ、やはり還暦過ぎのジジイにはきつ過ぎた。
◎白鍵と黒鍵の間に
2023.10.07 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1000円/94分]
【138】2023年東京テアトル 監督:冨永昌敬 脚本:冨永昌敬、高橋知由
CAST:池松壮亮、仲里依紗、森田剛、高橋和也、クリスタル・ケイ、松丸契、川瀬陽太、中山来未、佐野史郎、洞口依子
●原作がどうなっているのか知らないが、予告を見た限りジャズピアニストの人生と夜の社交場に群がる人間たちをスタイリッシュに描いた音楽映画だと思っていた。映像はスタイリッシュだが縦軸も横軸もなく時系列も時空間までブツ切りにして物語は進行していく。おかげでシャフルされたパズル合わせに追われてしまう要らぬしんどさが。
◎沈黙の艦隊
2023.10.07 イオンシネマ座間:スクリーン7 [無料/113分]
【139】2023年Amazon 監督:吉野耕平 脚本:高井光
CAST:大沢たかお、玉木宏、ユースケ・サンタマリア、水川あさみ、酒向芳、笹野高史、上戸彩、橋爪功、夏川結衣、江口洋介
●32巻の壮大な原作コミックスを2時間弱で終われるはずはないと思っていたら、かなり序盤で「終」。しかし予想の数倍は面白かった。潜水艦サスペンスのハラハラドキドキを確保しつつ、ポリティカルなパートも見応えがあった。ただ海江田の理想とする地球国家に中国の存在が欠けているのは30年前の原作だからか。続編に期待したい。
◎春に散る
2023.10.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン1 [1100円/133分]
【140】2023年製作委員会=ツインズ 監督:瀬々敬久 脚本:瀬々敬久、星航
CAST:佐藤浩市、横浜流星、橋本環奈、坂井真紀、小澤征悦、坂東龍汰、片岡鶴太郎、哀川翔、窪田正孝、山口智子
●毎年公開されるボクシング映画。きっと需要があるのだろう。正直、ボクシングの見せ方として出来は悪いし、瀬々演出もオーソドックス過ぎた。結果ありきの題名はストーリーも「まだそれ?」と思えるベタさだ。きっと沢木耕太郎の文面で読んでこその素材なのだろう。しかし役者たちが皆頑張った。映画を何段階も押し上げた功労者だ。
◎福田村事件
2023.10.07 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 [1100円/111分]
【141】2023年「福田村事件」プロジェクト=太秦 監督:森達也 脚本:佐伯俊道、井上淳一、荒井晴彦
CAST:井浦新、田中麗奈、永山瑛太、東出昌大、コムアイ、木竜麻生、松浦祐也、向里祐香、水道橋博士、豊原功補、柄本明
●関東大震災直後に朝鮮人や思想家が虐殺された「事実」は知っていたが、この事件は知らなかった。何故、若松プロなどが放置していたのか不思議に思うが、80年代まで埋もれていたらしい。とにかく不穏な世相とムラ社会の同調圧力の不気味さ。日本近代史の恥ずべき事件だが、隠蔽することこそが恥なのだから製作された意味は大きい。
※2023年キネマ旬報ベストテン第4位
◎オペレーション・フォーチュン
2023.10.14 イオンシネマ座間:スクリーン8 OPERATION FORTUNE:RUSE DE GUERRE [無料/114分]
【142】2023年イギリス=アメリカ 監督:ガイ・リッチー 脚本:ガイ・リッチー、I・アトキンソン、M・ディビス
CAST:ジェイソン・ステイサム、ジョシュ・ハートネット、ヒュー・グラント、オーブリー・プラザ、ケイリー・エルウィズ
●乱暴といえる早いカットでトントン拍子に進行する諜報アクション。ステイサムの安定感で一気に見せるが、こういうジャンル映画が映画興行の形態を支えるべきなのは持論としても、正直ガイ・リッチーにはもう一段階上を期待していた。イーサン・ハントやジョン・ウィックなど超ド級アクションに続いて観ると切れ味よりお手軽さが目につく。
◎グリーンマイル
2023.10.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 THE GREEN MILE [1200円/188分]
【143】1999年アメリカ 監督:フランク・ダラボン 脚本:フランク・ダラボン
CAST:トム・ハンクス、デヴィッド・モース、マイケル・クラーク・ダンカン、ダグ・ハッチソン、サム・ロックウェル
●ほぼ刑務所の中だけでの188分に怯みもしたが長さは気にならなかった。トイレも我慢できた。『ショーシャンクの空へ』ほどのインパクトはなかったがダラボンの抑制された演出にキングとの相性の良さも感じた。ある種、脇役たちの熱演で持った映画かもしれないが、処刑場面からのファンタジーに転調させる呼吸が巧かった。嫌いではない。
◎アンダーカレント
2023.10.15 イオンシネマ座間:スクリーン7 [1000円/143分]
【144】2023年朝日新聞=ジョーカーフィルムズ=KADOKAWA 監督:今泉力哉 脚本:澤井香織、今泉力哉
CAST:真木よう子、井浦新、リリー・フランキー、永山瑛太、江口のりこ、中村久美、康すおん、不破万作、内田理央
●「実はあの時こうだったのだ」と打ち明けられて「何故もっと早くいってくれなかったか」と思う。しかし言えずに内面化していた時間にこそ真実がある。原作は未読なれど、観客の感性に委ねてきた主人公の内面に初めて切り込んだ今泉力哉の新機軸がここに生まれた。ルックが全然違う。そしてそれは見事な映像表現として結実した。
◎おまえの罪を自白しろ
2023.10.29 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [無料/101分]
【145】2023年松竹 監督:水田伸生 脚本:久松真一
&size(12){CAST:中島健人、堤真一、池田エライザ、山崎育三郎、中島歩、平泉成、尾野真千子、角野卓造
●会話はほぼ説明台詞。記号化された役割を型通りに演じる俳優たち。まるでバラエティ番組の再現VTR。そして突飛に話が転がり、主役の性格が脈絡なく変貌。結局、推理も根拠も希薄なまま捜査の網が真犯人を引っ掛ける。映画が安い、薄い、かつて霧プロを擁してこの手のジャンルを席巻した松竹は今何処。ポイント観賞でも大損した気分。
◎キリエのうた
2023.10.31 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [無料/179分]
【146】2023年ロックウェルアイズ=東映 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:アイナ・ジ・エンド、広瀬すず、松村北斗、黒木華、村上虹郎、松浦祐也、笠原秀幸、江口洋介、豊原功補、北村有起哉
●“リリィ・シュシュ”の匂いを嗅いだ。あれは岩井俊二と小林武史の最高傑作。そして叫ぶように喉を震わせるアイナの歌声は胸をざわつかせる。思えば彼女らは過去に縛られてはいない。震災ですら過去の一断面でしかない。しかし善意も悪意も男たちは過去から彼女たちの行く手を阻もうとする。逃れよ、そしてもっと強く高く跳べ。
◎愛にイナズマ
2023.11.04 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1100円/140分]
【147】2023年日本テレビ=RIKIプロ=東京テアトル 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:松岡茉優、佐藤浩市、窪田正孝、池松壮亮、若葉竜也、仲野太賀、趣里、MEGUMI、三浦貴大、芹澤興人、益岡徹
●この映画、中盤に差し掛かってもどこに転がっていくのかわからなかった。それでも石井裕也は身を委ね甲斐のある監督なので不安はなかった。結局、家族再生の物語だったが、出ずっぱりの佐藤浩市より三浦貴大の嫌味な助監督が強烈で、上がったり下がったりの衝動的な家族の話より、映画製作に主軸にした方が好きになれそうな気はした。
◎ゴジラ -1.0
2023.11.04 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1100円/125分]
【148】2023年ROBOT=東宝 監督:山崎貴 脚本:山崎貴
CAST:神木隆之介、浜辺美波、山田裕貴、佐々木蔵之介、吉岡秀隆、青木崇高、安藤サクラ、田中美央、飯田基祐、永谷咲笑
●特攻を逃げた敷島のトラウマの中のゴジラ。政府も軍隊も出てこないミニマムな人物配置に驚き、結局最後は特攻かよと鼻白んでいたら回避。すると逆に特攻にはしませんでしたと作り手たちのドヤ顔がちらつく。ここぞとばかりの伊福部サウンドに「もういいよ」と舌打ちしながら今夜の日本シリーズ第6戦のことが気になって仕方なかった。
※2023年キネマ旬報ベストテン第8位
◎ 月
2023.11.04 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1100円/144分]
【149】2023年スターサンズ=RIKIプロ 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:宮沢りえ、オダギリジョー、磯村勇斗、二階堂ふみ、大塚ヒロタ、笠原秀幸、板谷由夏、モロ師岡、高畑淳子
●今度の石井裕也は一気に突っ走る。回転寿司の淡い邂逅に飛び込む衝撃のニュース映像こそ「愛にイナズマ」だ。背景となった実在の殺人者の主張を完全に否定出来るのかまで石井裕也は問うのか。少なくとも凶行を予感しながら止められなかった者たちが負う十字架に初めて気付かされた。逃げ場のない感情を揺さぶるのもまた映画なのか。
※2023年キネマ旬報ベストテン第5位
◎正 欲
2023.11.11 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1100円/134分]
【150】2023年製作委員会=ビターズ・エンド 監督:岸善幸 脚本:港岳彦
CAST:稲垣吾郎、新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、山田真歩、宇野祥平、渡辺大知、徳永えり、岩瀬亮、坂東希
●扉が閉じた余韻で終わる映画が好きだ。ダイバーシティなどと軽くもてはやされる風潮も重い鉄扉に隔てられる現実。観客は物語の描かれ方でアラブ人にもユダヤ人にも共感してしまうのだが、常識といわれるものが如何に当事者たちを苦しめているのか、そして苦悩する当事者に束の間共感させる力がこの映画にはある。素晴らしいことだ。
◎暗殺の森
2023.11.12 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9 IL CONFORMISTA [1200円/115分]
【151】1970年イタリア=フランス=西ドイツ 監督:ベルナルド・ベルトルッチ 脚本:ベルナルド・ベルトルッチ
CAST:ジャン=ルイ・トランティニャン、ドミニク・サンダ、ステファニア・サンドレッリ、エンツォ・タラシオ
●V・ストラーロの撮影技術で語られることの多い映画だが、ファシズムの台頭で、いかにファシストとして生き抜くかを指標とする青年の葛藤が面白い。それはファシズムが体制となってしまった時代の必然なのか。ベルトルッチは結局、最後まで何者にもなれない主人公の思考崩壊と悲惨な暗殺場面を通して時代の矛盾を描いたのではないか。
◎キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン
2023.11.12 イオンシネマ座間:スクリーン2 KILLERS OF THE FLOWER MOON [1100円/206分]
【152】2023年アメリカ 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:エリック・ロス、マーティン・スコセッシ
CAST:レオナルド・ディカプリオ、ロバート・デ・ニーロ、ジェシー・プレモンス、リリー・グラッドストーン
●無自覚に悪事を重ねる青年を絡め獲って圧をかけてゆく力。描かれる基本はその人間関係だが、それを壮大なアメリカ裏面史を一気に駆け抜けてみせる3時間26分のスコセッシ劇場。しかしあまりの手際の見事さに長さは微塵にも感じられない。こうした悲惨な史実を重ねながらアメリカは巨大な建前を手に入れたのだろう。もう一度観るかな。
※2023年キネマ旬報ベストテン第2位
◎エクソシスト <ディレクターズカット版>
2023.11.15 新文芸坐 THE EXORCIST:EXTENDED DIRECTOR’S CUT [1100円/132分] ※再鑑賞
【153】1973年アメリカ 監督:ウィリアム・フリードキン 脚本:ウィリアム・ピーター・ブラッティ
CAST:エレン・バースティン、マックス・フォン・シドー、ジェイソン・ミラー、リンダ・ブレア、リー・J・コップ
●早朝から『エクソシスト』はねぇーだろと思って「午前十時の映画祭」をスルーしつつ、実は逃げてもいた。中2の初デートムービーはヒビってとんだ恥を掻いたのだった。今夜、約50年ぶりに観て懐かしさよりもあまりの面白さにジャンルの金字塔であったことに納得。目を覆っていた昔と違い、今回は前のめりで「FUCK ME!」を楽しめた。
※1974年キネマ旬報ベストテン第10位
◎花腐し
2023.11.18 テアトル新宿 [1300円/137分]
【154】2023年東映ビデオ=パップ=アーク 監督:荒井晴彦 脚本:荒井晴彦、中野太
CAST:綾野剛、柄本佑、さとうほなみ、吉岡睦雄、川瀬陽太、MINAMO、マキタスポーツ、山崎ハコ、赤座美代子、奥田瑛二
●途惑うほど私が映画で大好きなもので出来ていた。土砂降り、過去と現在の交錯、寄る辺なき同士の濡れ場。平仮名のおとことおんな。追いかけはしなかったが十分に寄り沿った45年分の荒井晴彦脚本・演出。昭和の匂い漂わせながら男と女なんてこんなものと慰めながらどこか薄笑いも忘れない。忘れてもなお燻り続ける想いがここにある。
※2023年キネマ旬報ベストテン第6位
◎法廷遊戯
2023.11.19 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1100円/97分]
【155】2023年製作委員会=東映 監督:深川栄洋 脚本:松田沙
CAST:永瀬廉、杉咲花、北村匠海、柄本明、生瀬勝久、筒井道隆、大森南朋、戸塚純貴、黒沢あすか、倉野章子、やべけんじ
●NHKの夜ドラみたいなテンポで矢継ぎ早に場面が転換するのが還暦越えにはキツかった。いや決して悪くなく、原作が良いのかトリックも凝っていて感心もした(その後、キネ旬のレヴューである外国映画と酷似していると指摘され冷めた)。もう少しリーガルドラマとしてじっくり見せてほしかった。それにしても杉咲花の凄まじさはどうだ。
◎ 首
2023.11.23 109シネマズグランベリーパーク:シアター3 [1300円/131分]
【156】2023年東宝=KADOKAWA 監督:北野武 脚本:北野武
CAST:ビートたけし、西島秀俊、加瀬亮、浅野忠信、大森南朋、中村獅童、木村祐一、遠藤憲一、寛一郎、岸部一徳、小林薫
●構想30年(?)大河ドラマでは絶対に描けない戦国ドラマを作るとの北野武の意気込みは伝わる。しかしそれが目的化してしまい、残虐と男色を突出させ過ぎて映画のスケールを矮小にしている。相変わらず刹那のバイオレンスは見事でも合戦のダイナミズムにはほど遠かった印象。北野映画のムードと戦国エンタメの融合を期待したのだが。
◎モナ・リザ アンド ザ ブラッドムーン
2023.11.25 新宿シネマカリテ MONA LISA AND THE BLOOD MOON [1300円/106分]
【157】2022年アメリカ 監督:アナ・リリ・アミリプール 脚本:アナ・リリ・アミリプール
CAST:チョン・ジョンソ、ケイト・ハドソン、クレイグ・ロビンソン、エド・スクライン、エヴァン・ウィッテン
●ニューオリンズの妖しい雰囲気とハードコアなサウンドが推進力となって最後まで飽きさせないが、超能力者である朝鮮孤児のモナリザが陰惨な事件を巻き起こすかと思いきや、小さな犯罪に利用されていく。彼女がすべてから開放され自由を謳歌するのはありだが、オープニングの得体の知れぬワクワク感が削がれていったのも確かだ。
◎ボルサリーノ
2023.11.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 BORSALINO [1200円/126分]
【158】1970年フランス 監督:ジャック・ドレー 脚本:ジャン=C・カリエール、クロード・ソーテ、ジャック・ドレー
CAST:ジャン=ポール・ベルモンド、アラン・ドロン、ミシェル・ブーケ、カトリーヌ・ルーヴェル、フランソワーズ・クリストフ
●ベルモンドとドロンが同じ画の中に収まっているのを喜べる最後の世代か。大スター競演ものとしては理想的な映画だ。殴り合いから友情が芽生え、ビシっとフォーマルで決めたかと思えば水着姿でじゃれ合って見せる。軽快なテーマでテンポを刻み、それぞれの見せ場も用意してバディムービーとして、ギャング映画として良く出来ている。
◎燃えよドラゴン
2023.11.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 ENTER THE DRAGON [1200円/97分] ※再観賞
【159】1973年アメリカ=香港 監督:ロバート・クローズ 脚本:マイケル・アリン
CAST:ブルース・リー、ジョン・サクソン、ジム・ケリー、アーナ・カプリ、ボブ・ウォール、シー・キエン、ヤン・スエ
●新宿ピカデリーの開館ベルに誘われて飛び込んだ50年前。それから何度観てきたことだろう。“Don’t think,Feel” あの時の衝撃は二度と味わうことは出来ないが、ブルース・リー沼にのめり込んだ直撃世代として、弱々しくも映画のエネルギーを享受出来ている自分に安心した。鏡の部屋でラロ・シフリンの劇伴がボ~ンと鳴る場面のときめきよ。
◎昼下りの情事 変 身
2023.11.30 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/75分]
【160】1973年日活 監督:田中登 脚本:宮下教雄
CAST:青山美代子、風間杜夫、絵沢萠子、高橋明、続圭子、相川圭子、槙村正、浜口竜哉、三川裕之、グレート宇野
●まだ小田急の町田駅が新原町田駅だった街並みで凶行に走る風間杜夫。つまらないエピソードの数だけつまらない濡れ場が増えるのがロマンポルノの常とはいえ、目覚める直前の田中登を擁護するのは難しい。俗歌を流すのは神代辰巳の専売特許と思いきや田中登も度々やっていた。その意味で作家性の萌芽はあったのか。いやいや、まだまだ。
◎怪物の木こり
2023.12.01 新宿バルト9:シアター3 [1000円/118分]
【161】2023年製作委員会=ワーナー 監督:三池崇史 脚本:小岩井宏悦
CAST:亀梨和也、菜々緒、吉岡里帆、渋川清彦、染谷将太、中村獅童、柚希礼音、みのすけ、堀部圭亮
●三池崇史ならこれ位はやるだろうとの期待値はある。その値を大幅に超えたり、全然届かなかったりするのもまた三池なのだが、今回は十分に超えたと思う。もちろん完璧な映画ではないし、中途半端な部分も少なくない。しかし何より面白かった。事件や人物を転がしながら最後まで見せ切ってくれる。幕引きなど実に鮮やかではないか。
◎ゲゲゲの謎 鬼太郎誕生
2023.12.03 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1100円/104分]
【162】2023年東映アニメーション=東映 監督:古賀豪 脚本:吉野弘幸
CAST:(声)関俊彦、木内秀信、種﨑敦美、小林由美子、白鳥哲、飛田展男、中井和哉、沢海陽子、古川登志夫、野沢雅子
●『犬神家の一族』のような舞台建てが意表を突く。しかし理不尽な戦場と権力者への怒り、そして現代への警鐘と継承。アニメは歳月を重ね絵柄も変わりギャップを感じさせながらも水木しげるワールドへの愛で満ちていた。『墓場鬼太郎』の原画と並んだエンドロールの後、ドーンとメインタイトルが出た瞬間、涙腺がやばいことに・・・・。
◎男どアホウ未亡人
2023.12.09 新文芸坐 [1100円/60分]
【163】2023年カブ研究会 監督:小野峻志 脚本:堀雄斗
CAST:森山みつき、藤田健彦、秋斗、井筒しま、工藤潤矢、田中陸、関英雄、柳涼、伊藤匡、岸部林
●上映後の舞台挨拶で満席の文芸坐の半数がリピート客と知り「結構、初めてのお客さん居ますね」の一言に驚く。知らない所でカルトが産まれていた。思い出すのが『カメ止め』初期のムーブメントだが、比べるのは失礼だ。「未亡人」で山本晋也のピンク映画を想起させるもエロい場面は一切なく、チープを笑いにする面白さも熱量も皆無だ。
◎市 子
2023.12.10 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 [1300円/126分]
【164】2023年製作委員会=ハピネットファントム 監督:戸田彬弘 脚本:上村奈帆、戸田彬弘
CAST:杉咲花、若葉竜也、森永悠希、中村ゆり、森永倉悠、中田青渚、石川瑠華、大浦千佳、渡辺大知、宇野祥平
●舞台演出家の映画作品はTVディレクター出身より断然見応えがあるのは映像へのアプローチの差か。とにかく観客は最後まで市子なる匿名の彼女に振り回されながら真実の全体を掴もうとする。その時間を堪能できた。喪失した存在に真実を見出す映画が続く中で、冒頭とラストが対になったとき市子の実像を見せた杉咲花がお見事の一言。
◎阪神タイガースTHE MOVIE 2023 栄光のARE
2023.12.15 新宿バルト9:シアター8 [2200円/118分]
【165】2023年ベスティ=G・G=ティ・ジョイ 監督:今村圭介 脚本:(ドキュメンタリー)
CAST:岡田彰布、平田勝男、今岡真訪、藤本敦士、安藤優也、大山悠輔、近本光司、村上頌樹、大竹耕太郎、佐藤輝明、中野拓夢、森下翔太、岩崎優
●試合音源は朝日放送のみ。衝撃の村上・東京ドーム初先発もなく日シリもスチールのみで2200円。嫌な予感は的中したが、大画面、大音響で甲子園を駆け巡る虎戦士に胸を躍らせてしまう虎党の性か。むしろ生で体感した“湯浅の一球” “大山サヨナラ”が変に上書きされなくて良かった。それにしてもつくづく岡田彰布にしてやられた一年だった。
◎枯れ葉
2023.12.19 ユーロスペース KUOLLEET LEHDET [1200円/81分]
【166】2023年フィンランド=ドイツ 監督:アキ・カウリスマキ 脚本:アキ・カウリスマキ
CAST:アルマ・ポウスティ、ユッシ・パタネン、ヤンネ・フーティアイネン、ヌップ・コイヴ
●遅ればせながらアキ・カウリスマキ初観賞。少々ひねくれた中年のボーイ・ミーツ・ガールとして唇すら交わさない二人の成就を見守っていたが、これは「捨てる・拾う物語だ」とのレヴューに触れた瞬間に食品、吸殻、酒、作業着、工場廃棄物、犬、別れた夫の服たちが頭の中を駆け巡った。ああ成程、最後に枯葉か…悔しい、気付かなかったな。
※2023年キネマ旬報ベストテン第3位
◎PERFECT DAYS
2023.12.23 イオンシネマ座間:スクリーン7 [1100円/118分]
【167】2023年MASTER MIND=ビターズエンド 監督:ヴィム・ヴェンダース 脚本:ヴィム・ヴェンダース、高崎卓馬
CAST:役所広司、柄本時生、中野有紗、アオイヤマダ、麻生祐未、石川さゆり、田中泯、三浦友和、芹澤興人、安藤玉恵
●私は『パリ、テキサス』と『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』をそれぞれの年のベストワンとしたが『ベルリン・天使の詩』はどうにも響かなく、本作もそれに近い印象だった。主人公の日常の安息に突如闖入してくる“異物”を木漏れ日の太陽に例えるのは違和感でしかなく共鳴にはほど遠かった。…そんな単純な作品ではないのかも知れないが。
※2023年キネマ旬報ベストテン第2位
◎カサンドラ・クロス
2023.12.19 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 THE CASSANDRA CROSSING [1200円/129分] ※再観賞
【168】1976年イギリス=イタリア=フランス=西ドイツ 監督:ジョルジュ・パン・コスマトス 脚本:ロバート・カッツ他
CAST:リチャード・ハリス、ソフィア・ローレン、バート・ランカスター、イングリット・チューリン、リー・ストラスバーグ
●さすがに47年ぶりで適度にツッ込み入れながらゴールドスミスの名曲とともに懐かしさに浸ろうと思っていたら、なんとハラハラ・ドキドキの内に129分を一気に観た。確かに要領の悪い場面もあるがそれ以上に面白い。国際色豊かな名優たちが織り成す欧州エンタメに打倒ハリウッドの気概も感じる。大陸横断列車と空撮の取り合せが最高だ。
◎アステロイド・シティ
2023.12.28 早稲田松竹 ASTEROID CITY [800円/104分]
【169】2023年アメリカ 監督:ウェス・アンダーソン 脚本:ウェス・アンダーソン
CAST:ジェイソン・シュワルツマン、スカーレット・ヨハンソン、トム・ハンクス、ジェフリー・ライト、ティルダ・スウィントン
●ウェス・アンダーソンを公開年に観なくてどうすると焦っていたが何とか早稲田で捕まえた。それでいて事前に「情報量に惑わされない」「絵画のように鑑賞」「睡魔に抵抗しない」を念頭に観賞。実際、ポップアートばりのおしゃれ構図に見惚れ何度か落ちたが、前作の「架空の雑誌」から「架空の街並み」へ唯一無二の世界観は楽しめたか。
◎荒馬と女
2023.12.28 早稲田松竹 THE MISFITS [800円/124分]
【170】1961年アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:アーサー・ミラー
CAST:クラーク・ゲーブル、マリリン・モンロー、モンゴメリー・クリフト、イーライ・ウォラック、セルマ・リッター
●題名は中学生の頃から知っていたが思っていた映画とは全然違った。ハリウッド全盛の3大スターに同等に絡む“俺のイーライ”もあるが、ゲーブルがモンローへじゃじゃ馬ならしの話と踏んでたら、モンローが堂々とゲーブルとクリフトと渡り合い母性すら垣間見せ、芝居の格調はバーグマンか?と思いつつモンローである圧倒感に恐れ入った。
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