●2016年(平成28年)

 三行の映画評


グレン・ミラー物語
2016.01.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 THE GLENN MILLER STORY ※再観賞
【01】1954年アメリカ 監督:アンソニー・マン 脚本:ヴァレンタイン・デイヴィース
CAST:ジェームズ・スチュアート、ジューン・アリスン、ヘンリー・モーガン、チャールズ・ドレイク、ルイ・アームストロング
●初見から30年。「真珠の首飾り」「ペンシルバニア6-5000」「茶色の小瓶」の場面以外は殆んど忘れていたが、すっかり涙腺が弱くなって、その3エピソードでことごとく泣けてしまった。とくにラストは嗚咽状態。人間ドラマではなく好人物たちで彩られた愛すべき伝記映画。名作というより名画の言葉が相応しいか。


クリード チャンプを継ぐ男
2016.01.26 イオンシネマつきみ野:スクリーン4 CREED
【02】2015年アメリカ 監督:ライアン・クーグラー 脚本:ヴァレンタイン・デイヴィース
CAST:マイケル・B・ジョーダン、シルべスター・スタローン、テッサ・トンプソン、グレアム・マクタビッシュ
●高校の時に燃えながら観た『ロッキー』から40年。今やシニア優待割引の歳になってしまったが、SW以上にノスタルジックに浸りながら、フィラディルフィア美術館の石段を若者の肩を借りて昇るロッキーの老いを見入っていた。しかしそれほど情緒過多に陥るでもなく、結構ギリギリのところで良い青春映画になっていたのではないか。


オリエント急行殺人事件
2016.01.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Murder on the Orient Express
【03】1974年イギリス 監督:シドニー・ルメット 脚本:ジョン・ブラボーン
CAST:アルバート・フィニー、ローレン・バコール、イングリッド・バーグマン、ジャクリーン・ビセット、ショーン・コネリー、アンソニー・パーキンス
●意外にも劇場未見、テレビ観賞だった。これはオールスターキャストを抜きには語れない映画として、今もそのことばかりが言われ続けているが、確かに40年以上過ぎても豪華さは少しも色褪せていない。しかし改めて観ると、密室劇なのに開放されている。早いカット割りでスピード感を演出したルメットのさすがの手腕が光った一編か。


お盆の弟
2016.02.07 関内ホール
【04】2015年アルゴ=製作委員会 監督:大崎章 脚本:足立紳
CAST:渋川清彦、光石研、岡田浩暉、河井青葉、渡辺真起子、田中要次、柳田衣里佳、後藤ユウミ、梶原阿貴
●痛みの映画ではなくイタい映画。トウのたった青春ものは見苦しいが、モノクロで描かれるローカル都市の牧歌的なユルさに笑ってしまう。そのユルさにもがくあたり身につまされながらも、離婚を迫る妻の一見理不尽な言い草も、友人の無茶苦茶な虚言も次第に主人公への矜持となるのが可笑しい。人間好きの視点が気持ち良ちよい一編。


あ ん
2016.02.07 関内ホール
【05】2015年日本=フランス=ドイツ 監督:河瀨直美 脚本:河瀨直美
CAST:樹木希林、永瀬正敏、市原悦子、内田伽羅、浅田美代子、水野美紀、太賀、村田優吏愛、兼松若人
●『あん』とはドラ焼きの「餡」のこと。河瀨直美は主人公たちが直面する社会的、個人的な不条理を扱いながら、それを声高に糾弾するのではなく、籠から羽ばたいたカナリアや、桜の苗木が育っていく姿に仮託しながら、徳江ばあさんの命を小豆が美味しい餡として結実するように終わらせていく。生きていればきっと出口はあるはずだと。


海街diary
2016.02.07 関内ホール
【06】2015年東宝=フジ=GAGA 監督:是枝裕和 脚本:是枝裕和
CAST:綾瀬はるか、長澤まさみ、夏帆、広瀬すず、大竹しのぶ、堤真一、風吹ジュン、リリー・フランキー、樹木希林
●自分がここまで物語世界に入り込むとは思ってもいなかった。背比べの柱にすずの名を記す場面ひとつに季節のうつろいを感じ、是枝演出の細やかな息づかいに溜息が出そうになる。吉田秋生の原作はしばし忘れ、些細な出来事を紡いでゆく四姉妹の物語を見守る心地良さというか。久々にエンドロールが出るのが惜しいと思った。
※2015年キネマ旬報ベストテン第4位


死刑台のエレベーター
2016.02.11 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Ascenseur pour L'echafaud ※再観賞
【07】1957年フランス 監督:ルイ・マル 脚本:ルイ・マル、ロジェ・ニミエ
CAST:ジャンヌ・モロー、モーリス・ロネ、ジョルジュ・プージュリー、ヨリ・ベルタン、リノ・ヴァンチュラ
●受話器を握りしめるジャンヌ・モローの物憂う表情。「ジュテーム」の囁きにM・ディビスのトランペット。この冒頭に20代の頃どれだけ魅せられたことか。殺しを遂行したモーリス・ロネの視界を過る黒猫。そして非情にも停止するエレベーター。ドミノ倒しのように破滅していく愛。30年の時を軽々と超越して、なんと魅惑的なのだろう。
※1959年キネマ旬報ベストテン第6位


秋刀魚の味
2016.02.21 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン6 ※再観賞
【08】1962年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:笠智衆、岩下志麻、岡田茉莉子、佐田啓二、中村伸郎、北龍二、東野英治郎、加東大介、岸田今日子、杉村春子
●19の秋に観た時、小津にしてはコクのない仕上がりだと生意気に思った。今観ても家族のさりげない機微を丹念に描いたとは言い難く、むしろ飲み屋街のセット感や看板の意匠に執着する巨匠の趣味が目につき、そちらを楽しんだ。ただ「花嫁の父」ものとして、もう少し逝った妻への言及があってもよかったのではないか。
※1962年キネマ旬報ベストテン第8位


東京物語
2016.02.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン5 ※再観賞
【09】1953年松竹 監督:小津安二郎 脚本:野田高梧、小津安二郎
CAST:原節子、笠智衆、東山千栄子、杉村春子、山村聰、香川京子、大坂志郎、三宅邦子、東野英治郎、中村伸郎、十朱久雄
●風が煙突の煙りを揺らし、肌着の洗濯物をたなびかせる原風景の中で、原節子と杉村春子を対極として捉えることで日本の家族を相対化してみせる小津安二郎。不変であることに凄味すら漂う畢生の名作であることに疑う余地はないが、そう遠くない将来に家族を喪失するであろう我が身を思い、心が波立つのを禁じ得なかった。
※1953年キネマ旬報ベストテン第2位


キャロル
2016.02.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 CAROL
【10】2015年イギリス=アメリカ 監督:トッド・ヘインズ 脚本:フィリス・ナジー
CAST:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジョン・マガロ
●テレーズと目が合うキャロル。エンドロールが出る直前に見せた微笑。その真っ赤な口紅が暗転する画面で残像のように残り、不思議にも目が潤んでしまった。この数秒のワンセンテンスでふたりの短い記憶がこの先の永遠へと広がっていく。あまりに凝った色彩造形のおかげでふたりの激情がスポイルされてしまったのが心残りではあるが。
※2016年キネマ旬報ベストテン第2位


リリーのすべて
2016.03.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 THE DANISH GIRL
【11】2015年イギリス=アメリカ=ドイツ 監督:トム・フーパー 脚本:ルシンダ・コクソン
CAST:エディ・レッドメイン、アリシア・ヴィキャンデル、ベン・ウィショー、アンバー・ハード、マティアス・スーナールツ
●愛されるほど、愛される自分への憎しみが募っていく。トランスジェンダーの周辺にはこんな想像を絶する葛藤があるのか。良作だし美しい映画だと思う。しかしアイナーへの愛がリリーに突き放されていく過程で、ギルダが理解から献身へと傾いていく心情が正直わからなかった。手術の直前に泣いたリリー。本当に泣きたいのはゼルダだ。


ティファニーで朝食を
2016.04.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Breakfast at Tiffany’s
【12】1961年アメリカ 監督:ブレイク・エドワーズ 脚本:ジョージ・アクセルロッド
CAST:オードリー・ヘップバーン、ジョージ・ペパード、パトリシア・ニール、ミッキー・ルーニー、マーティン・バルサム
●モンロー主演を条件に映画化を許可したカポーティは、ヘプバーンに不快感を示したと聞く。確かに奔放なヒロイン像はモンローこそ相応しく、ヘプバーンはどこか痛々しく映る。しかしモンローだといかにもな映画になると想像がついてしまう。乱暴に言えば、名曲が全編に寄り添う映画は内容など二の次でいいとさえ思った。


スポットライト 世紀のスクープ
2016.04.22 TOHOシネマズ新宿:スクリーン3 SPOTLIGHT
【13】2015年アメリカ 監督:トム・マッカーシー 脚本:トム・マッカーシー、ジョシュ・シンガー
CAST:マーク・ラファロ、マイケル・キートン、レイチェル・マクアダムス、スタンリー・トゥッチ、リーヴ・シュレイバー
●記者チームの取材と調査に特化させただけのカタルシスはある。輪転機が廻り、いよいよスクープ記事がトラックで運び出される場面にワクワクもした。しかしジャーナリズムの真髄の陰でカソリック教会の巨大な闇まで描き切れたのかといえばどうだったろう。正直、神と悪魔の深淵に踏み込まなかった展開に少々の物足りなさを感じた。
※2016年キネマ旬報ベストテン第7位


恋におちて
2016.04.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Falling in Love ※再観賞
【14】1984年アメリカ 監督:ウール・グロスバード 脚本:マイケル・クリストファー
CAST:ロバート・デ・ニーロ、メリル・ストリープ、ハーヴェイ・カイテル、ダイアン・ウィースト、ジェーン・カツマレク
●一年後の再会。二人は未練を断ち切ってそれぞれの家族の元に帰っていく。別れの映画だと思い込んでいたのに、焼けぼっくいに火がついて熱く抱擁を交わすラストに思わず座席からずり落ちそうになった。30年ぶりに観て、またも脳内でストーリーが捻じ曲がっていたらしい。稀代の演技派競演のトピックのみ記憶に位置づいていたようだ。


リップヴァンウィンクルの花嫁
2016.04.27 ユーロスペース 
【15】2016年ロックウェルアイズ=東映 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:黒木華、Cocco、綾野剛、原日出子、地曵豪、毬谷友子、和田聰宏、佐生有語、夏目ナナ、金田明夫、りりィ
●かつて天才の名を欲しいままにした監督と、誰もが天才と確信する女優が紡ぐ180分。ふたりの天才に導かれるまま一切の予備知識もなく観たので、先がまったく読めないまま180分緊張しっぱなしだった。実にじれったくもどかしいヒロイン。映画は随所に「何故?」が散りばめられる。だが一切の苦痛はない。天才同士の映画だもの。
※2016年キネマ旬報ベストテン第7位


マイ・フェア・レディ
2016.05.28 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン6 My Fair Lady ※再観賞
【16】1964年アメリカ 監督:ジョージ・キューカー 脚本:アラン・ジェイ・ラーナー
CAST:オードリー・ヘプバーン、レックス・ハリスン、スタンリー・ホロウェイ、ウィルフリッド・ハイド=ホワイト
●かつてヘプバーンの歌が吹替と知って白けたことを思い出すが、デジタル4Kで見直すと、吹替であることの葛藤に耐えながらイライザ役に挑むヘプバーンのプライドが浮かび上がってきた。実際、二度目のオスカーを受賞しても不思議ではない熱演。そして何たる超大作であることも4Kでようやく認識し、図らずも感動してしまった。


ひそひそ星
2016.06.01 新宿シネマカリテ
【17】2016年シオンプロ=日活 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:神楽坂恵、遠藤賢司、池田優斗、森康子
●ブニュエルとダリの『アンダルシアの犬』を想起させたのは曜日の羅列だけかも知れないが、モノクロームの緊張感に同じ空気を感じる。或いはタルコフスキーか。しかしそのどれとも違うのは荒涼とした福島の原風景と終末が近づく一瞬手前の安堵感にある。去年の馬鹿騒ぎな作品群からようやく自身を見つめたことで詩人・園子温が結晶した。


ロシュフォールの恋人たち
2016.06.08 TOHOシネマズ新宿:スクリーン1 Les Demoiselles De Rochefort
【18】1967年フランス 監督:ジャック・ドゥミー 脚本:ジャック・ドゥミー
CAST:カトリーヌ・ドヌーヴ、フランソワーズ・ドルレアック、ジョージ・チャキリス、ジーン・ケリー、ミシェル・ピッコリ
●実はミュージカルは好物だが、何故か私の映画の網に入らずまったく知らない作品だった。ところが豪華な顔が続々登場し、ルグランの音楽もスタンダードで125分驚きっぱなし。フランスの田舎町で美姉妹にジーン・ケリーとチャキリスが絡み「おおっ」と何度か声をあげそうになる。ベタな展開も嫌いではなく、大好きな映画になった。


ハリーとトント
2016.06.19 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 HARRY & TONTO
【19】1974年アメリカ 監督:ポール・マザースキー 脚本:ジョシュ・グリーンフェルド、ポール・マザースキー
CAST:アート・カーニー、エレン・バースティン、チーフ・ダン・ジョージ、ジェラルディン・フィッツジェラルド
●シニカルだがハッピーな旅物語として面白かった。猫を連れた孤独老人の淡々とした映画というのが未見のままのイメージだったが、決して孤独な爺ではなく、偏屈だが教養もあり、他者とのコミュニケーション能力もある。子供たちとの距離の取り方も上手。老人の旅物語ではなく、理想的な老境を描く映画に思えた。
※1975年キネマ旬報ベストテン第7位


午後の遺言状
2016.07.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6
【20】1995年近代映協 監督:新藤兼人 脚本:新藤兼人
CAST:杉村春子、乙羽信子、朝霧鏡子、観世栄夫、瀬尾智美、津川雅彦、倍賞美津子、永島敏行、松重豊、木場勝己
●痛いほどのリアリズムで圧してくるのが新藤兼人だと思っていたので、三女優の掛け合いに予測不能なエピソードを挟み、不思議な後味を残したのは意外だった。避暑と土着が融合する奇妙な世界観で語られる生と死、そして生と性。思えば生も死も命の鼓動に違いない。現実に死に際する妻、乙羽信子に捧げた巨匠、最後の恋文だったか。
※1995年キネマ旬報ベストテン第1位


バック・トゥ・ザ・フューチャーPARTⅡ
2016.07.31 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 Back to the Future Part II ※再観賞
【21】1989年アメリカ 監督:ロバート・ゼメキス 脚本:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
CAST:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、トーマス・F・ウィルソン、リー・トンプソン、エリザベス・シュー
●封切時も結構楽しく観ていた記憶はあるのだが、観直してみると「Ⅲ」の予告編映像以外はまったく憶えていなかった。設定ではマーティとドクは1985年から30年後の未来へ旅立つ。要は2015年となるのだが、当時は30年後に車が空を飛んでいると本気で思っていたのだろうか。3つの時代の冒険より、現実との答え合わせが楽しかった。


シン・ゴジラ
2016.08.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2
【22】2016年東宝 総監督:庵野秀明 特技監督:樋口真嗣 脚本:庵野秀明
CAST:長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、高良健吾、大杉漣、柄本明、余貴美子、市川実日子、國村隼、平泉成
●一昨年、ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』を観た時、あまりの物量感にもう日本映画のスケールではゴジラは出来ないと思った。まさか庵野&樋口コンビがその何倍も素晴らしく、どこを切っても面白いゴジラ映画を作るとは思ってもみなかった。間違いなくジャンルの最高傑作ではないか。放射能を吐く場面は宗教的陶酔すら感じた。
※2016年キネマ旬報ベストテン第2位


バック・トゥ・ザ・フューチャーPARTⅢ
2016.08.11 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Back to the Future Part Ⅲ
【23】1990年アメリカ 監督:ロバート・ゼメキス 脚本:ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル
CAST:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、メアリー・スティーンバージェン、トーマス・F・ウィルソン
●公開当時、食指が動かず未見だった。タイムパラドックスの繰り返しにやや食傷気味だったのと、前作からの予告編を観て西部劇まで飛んでしまって、テーマパークのアトラクションでもあるまいにと思ったのだろう。何てことはないシリーズで一番面白かった。ウエスタンのパロディどころかウエスタン愛とイーストウッド愛に貫かれている。


ゲッタウェイ
2016.08.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 THE GATAWAY
【24】1972年アメリカ 監督:サム・ペキンパー 脚本:ウォルター・ヒル
CAST:スティーブ・マックイーン、アリ・マッグロー、ベン・ジョンソン、サリー・ストラザース、アル・レッティエリ
●中学の時、この映画のポスターを部屋の天井に貼りながらも劇場未見だった。今思えばペキンパーが100%スター映画を撮った唯一の作品か。例の如く編集のキレ味を堪能しつつも、マックイーンの映画の観賞後はマックイーンの気分になっている自分に困る(笑)。ショットガンの捌きは天下一品。脚本がウォルター・ヒルなのを初めて知った。


ポセイドン・アドベンチャー
2016.08.31 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン3 The Poseidon Adventure ※再観賞
【25】1972年アメリカ 監督:ロナルド・ニーム 脚本:スティーリング・シリファント
CAST:ジーン・ハックマン、アーネスト・ボーグナイン、レッド・バトンズ、キャロル・リンレイ、シェリー・ウィンタース
●42年前、初めてひとりで観た外国映画。あれから幾多のパニック映画が作られたが、映画がまったく古びていないどころか、CGがない時代、よくぞこれだけの作品を完成させたものだと思った。泣かせどころも出演者一人一人が身体を張って熱演するものだからまったく嘘くさくない。最初にこの作品に出会えて本当に良かった。
※1973年キネマ旬報ベストテン第5位


いまを生きる
2016.09.18 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン9 Dead Poets Society
【26】1989年アメリカ 監督:ピーター・ウェアー 脚本:トム・シュルマン
CAST:ロビン・ウィリアムズ、ロバート・ショーン・レナード、イーサン・ホーク、ジョシュ・チャールズ、ゲイル・ハンセン
●結局誰も救われていないし、ラストの生徒たちの一斉決起も裏切りへの贖罪に過ぎないように思える。本当にこの映画、巷でいわれるような感動作なのだろうか。『刑事ジョン・ブック/目撃者』でアーミッシュへの根源的な違和感を描いた監督だけに、同じ脈絡で「黒い詩人の会」を描いたのではないか。またそうあって欲しいとも思うのだが。


生きる
2016.09.22 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ※再観賞
【27】1952年東宝 監督:黒澤明 脚本:黒澤明、橋本忍、小国英雄
CAST:志村喬、小田切みき、伊藤雄之助、金子信雄、山田巳之助、田中春男、左卜全、千秋実、日守新一、中村伸郎
●学生時代に観た時よりもっと心に沁みるのだろうと思いきや、案外そうでもなかったのは、初見からすでにこのヒューマニズムの普遍性に納得させられていたからか。そしてやはり葬儀の場面でのシニカルなディスカッションは面白い。最後に小田切みきと伊藤雄之助に通夜の席に現れて欲しかったと願うのは私が甘ちゃんだからだろうか。
※1952年キネマ旬報ベストテン第1位


七人の侍
2016.10.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 ※再観賞
【28】1954年東宝 監督:黒澤明 脚本:黒澤明、橋本忍、小国英雄
CAST:志村喬、三船敏郎、宮口精二、木村功、千秋実、加東大介、稲葉義男、津島恵子、土屋嘉男、左ト全、藤原釜足
●敢えて不満をいえば侍七人のうち、千秋、加東、稲葉のキャラが被り過ぎなのと、百姓個々のエピソードが余計に思えた。有名なラストの名台詞「勝ったのはあの百姓達だ。わし達ではない」にあるように、黒澤は侍たちの颯爽感よりも百姓たちの底知れない不気味さを際立せていたように思える。もちろん日本映画の金字塔ではあるのだが。
※1954年キネマ旬報ベストテン第3位


ハドソン川の奇跡
2016.10.16 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 Sully
【29】2016年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:トッド・コマーニキ
CAST:トム・ハンクス、アーロン・エッカート、ローラ・リニー、マイク・オマリー、ジェイミー・シェリダンー
●乗客乗員155名全員無事は事実として織り込まれている。それでもなおドラマのサスペンス性を完璧に補完しながら、例によってイーストウッドは「英雄になった男」の苦悩を掘り下げつつ、最後は胸のすくカタルシスに着地させ、プロの職業人たちの矜持を謳いあげている。さすが映画のキモを知りつくした構成力は半端ではない。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位


続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
2016.10.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE GOOD, THE BAD AND THE UGLY ※再観賞
【30】1966年イタリア 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:フリオ・スカルペッリ、S・レオーネ、L・ヴィンチェンツォーニ
CAST:クリント・イーストウッド、リー・ヴァン・クリーフ、イーライ・ウォラック、アルド・ジュフレ、マリオ・ブレガ
●もう全編が名シーンに思えて、観ている間中、溜息を何度も漏らし涙腺が何度も緩んだ。泣きの場面などひとつとしてないのにレオーネの演出、デリ・コリのカメラ、モリコーネの音楽があまりにも素晴らしく、その最高の結晶がいちいち琴線を刺激する。おそらくこのマカロニ・ウエスタンは私にとって絶対的な個人映画になったのだろう。


戦場のピアニスト
2016.11.13  TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER THE PIANIST ※再観賞
【31】2002年ポーランド=フランス=イギリス=ドイツ 監督・脚本:ロマン・ポランスキー 脚本:ロナウド・ハーウッド
CAST:エイドリアン・ブロディ、トーマス・クレッチマン、フランク・フィンレイ、エメリア・フォックス、フランク・フィンレー
●ヨーロッパは常に蹂躙され続けている。ポランスキーがどこまで意図していたのかは不明だが、映画の質感が13年前と変わった気がする。戦場と化した市街をピアニストが迷走する後半にリアルを感じたのだとすれば、封切りの頃より確実に現在が不穏になっているということだろう。その意味で映画は世相を映す鏡であり続けている。
※2003年キネマ旬報ベストテン第1位


モンパルナスの灯
2016.11.27  TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Les amants de Montparnasse
【32】1958年フランス 監督:ジャック・ベッケル 脚本:ジャック・ベッケル
CAST:ジェラール・フィリップ、アヌーク・エーメ、ジェラール・セティ、リリー・パルマー、リノ・ヴァンチュラ
●まさかジェラール・フィリップをスクリーンで観られるとは思わなかった。昔、テレビで観た時はモディリアーニが辿る残酷なラストが不条理に思えたが、酒と女に溺れた破滅的な画家が名を残すまでの通過儀礼として、ヴァンチェラの画商は必要悪なのだと思った。才能が魔性の芸術として開花する際、「死」以外の取引などあるだろうか。


君の名は。
2016.12.04 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 
【33】2016年「君の名は。」製作委員会 監督:新海誠 脚本:新海誠
CAST:(声)神木隆之介、上白石萌音、成田凌、悠木碧、島崎信長、石川界人、谷花音、長澤まさみ、市原悦子
●胸キュンは嫌いではない。「入れ替わり」も好きだ。それでワクワクして画面に見入っていたが、次第に気持ちが映画と乖離した。クライマックスの畳み掛けには「もういいよ」と。ハッピーエンドを悪いは思わないが、すべて無かったことにしてしまった先の大団円では「さよなら、俺」の『転校生』世代には刺さらなかったということか。


この世界の片隅に
2016.12.10 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン5
【34】2016年「この世界の片隅に」製作委員会=東京テアトル 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、尾身美詞、細谷佳正、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、小山剛志
●凄い映画を見た。「泣いてばかりじゃ塩分がもったいない」この笑いが身の丈の日常から巨大な歴史を照射する。多分ディティールをもっと細かく追えば幾らでも発見が得られる。ただそれには凄まじい集中力を必要とする。とても初見では無理。今はとてつもなく素晴らしい映画に出会えたことの至福と感謝に浸るのみか。ありがとう。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位


めまい
2016.12.18 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER VERTIGO ※再観賞
【35】1958年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:アレック・コッペル、サム・テイラー
CAST:ジェームズ・スチュアート、キム・ノヴァク、バーバラ・ベル・ゲデス、トム・ヘルモア、ヘンリー・ジョーンズ
●ヒッチコック傑作の一本といわれているが、『裏窓』などと比べて印象が薄かったのは、悪夢の場面でJ・スチュアートの恐怖に慄く表情と人工的な合成処理のイメージが強すぎたためか。巨匠のテクニックより、アメリカの良心の代表たるスチュアートにこの映画の主役をやらせたハリウッドにニューシネマ以前である限界を見てしまうのだ。


ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー
2016.12.23 イオンシネマ海老名:スクリーン5 ROGUE ONE A STAR WARS STORY
【36】2016年アメリカ 監督:ギャレス・エドワーズ 脚本:クリス・ワイツ、トニー・ギルロイ
CAST:フェリシティ・ジョーンズ、ディエゴ・ルナ、フォレスト・ウィテカー、マッツ・ミケルセン、ドニー・イェン
●多くのスピンオフがそうであるように、SW本作のよほどのファンでない限りどうにも楽しめない。そもそもこの映画単体で見れば、帝国軍と反乱軍が善悪の図式になっておらず、結局はマッドサイエンティストの娘殺しという身も蓋もない物語でしかない。それよりもSFアクションの見せ方が完全に記号化されて食傷もいいところだ。


この世界の片隅に
2016.12.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 ※再観賞
【37】2016年「この世界の片隅に」製作委員会 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、細谷佳正、稲葉菜月、尾身美詞、小野大輔、潘めぐみ、岩井七世、牛山茂、新谷真弓、澁谷天外
●産業奨励館は原爆ドームと呼ばれる以前は繁華街の真ん中にあった。決して記念公園の一部だったわけではない。この映画は知らない記憶と知識として得た現実とが常に反目する。B29の爆撃と日付の羅列が昭和20年夏に近づいてくる恐怖。物語の人々たちがそれを知らないことへの憐みと、不思議な安堵感。年が明けたらもう一度観る。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位


ドント・ブリーズ
2016.12.30 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン7 Don't Breathe
【38】2016年アメリカ 監督:フェデ・アルバレス 脚本:フェデ・アルバレス、ロド・サヤギス
CAST:スティーヴン・ラング、ジェーン・レヴィ、ディラン・ミネット、ダニエル・ゾヴァット、エマ・ベルコヴィシ
●久々にスクリーンでホラーを観た。殆んどが暗い屋敷という限定空間。残忍な屈強老人VS悪ガキ三人組という展開だが、老人が盲目であることでありとあらゆるアイディアが駆使される。88分のタイトな上映時間をサービスてんこ盛りで、これ以上食べられませんとお腹一杯になった。きちんとエンターティメントの本質は突いている。


a:1702 t:1 y:0

powered by HAIK 7.6.1
based on PukiWiki 1.4.7 License is GPL. HAIK

最新の更新 RSS  Valid XHTML 1.0 Transitional