◆三行の映画評
◎源氏物語 浮 舟
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/118分]
【10】1957年大映 監督:衣笠貞之助 脚本:八尋不二、衣笠貞之助
CAST:長谷川一夫、山本富士子、市川雷蔵、乙羽信子、浦路洋子、中村玉緒、三益愛子、柳永二郎、浪花千栄子、中村鴈治郎
●「巨匠」衣笠貞之助の眉剃りにお歯黒の徹底したルックは異形でしかなく、男性優位世界の権化である“悪役”雷蔵王帝の独壇場だった。浮舟の危機に駆け付ける薫のおよそサスペンスを度外視した演出に苛々しながら、長谷川一夫と山本富士子の美男・美女の悲恋物語をあえて異形にして描いた平安王朝のリアルって何だったのかと思う。
◎弁天小僧
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/86分]
【09】1958年大映 監督:伊藤大輔 脚本:八尋不二
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、青山京子、阿井美千子、近藤美恵子、島田竜三、黒川弥太郎、河津清三郎、小堀明男、田崎潤
●菊之助の女形が正統なのかどうかは知らないが、「知らざぁ言ってきかせやしょう」の名台詞も『夜叉が池』の玉三郎がそうであったように、本作も女形と映画との親和性の悪さが出てしまった。やはり歌舞伎役者・雷蔵の女形は舞台に限るか。クライマックスの屋根瓦から見下ろす御用提灯の群れといった伊藤演出のダイナミズムに尽きる映画。
◎好色一代男
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/92分]
【08】1961年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:市川雷蔵、若尾文子、中村玉緒、水谷良重、船越英二、近藤美恵子、浦路洋子、阿井美千子、中村鴈治郎、菅井一郎
●井原西鶴の原作は知らないが、女性崇拝者たる世之介のキャラは先進的な増村の創造ではなかったか。もっとも女性崇拝の基本に欲情があり、ルッキズムも否定されていないので先進性もカツドウ屋脳の内か。とにかく女を見れば矢継ぎ早に口説きにかかる世之介のテンポが推進力となって展開が加速していくのは、増村×白坂コンビの独壇場だ。
◎お嬢吉三
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【07】1959年大映 監督:田中徳三 脚本:犬塚稔
CAST:市川雷蔵、島田竜三、北原義郎、中村玉緒、林成年、浦路洋子、毛利郁子、小野道子、杉山昌三九、伊達三郎
●追いかけてくる女たち。笑いながら逃げる吉三。街道の向こうには富士の山。まさに絵に描いた痛快時代劇の大団円。しかし少しも痛快ではなかった。歌舞伎の『三人吉三』はバディものの楽しさで構成されているのだろうから、お嬢吉三の雷蔵に焦点が当たるのは仕方ないとしても、他の二人にまったく華が感じられないのは如何なものか。
◎婦系図
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【06】1962年大映 監督:三隈研次 脚本:依田義賢
CAST:市川雷蔵、万里昌代、船越英二、三条魔子、木暮実千代、水戸光子、千田是也、上田吉二郎、伊達三郎、藤村志保
●「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉、いっそ死ねと仰って」の台詞が有名な別名『湯島の白梅』。面白さの源泉にはある世代までの日本人に愛され続けた話にはそれなりの力があるということ。何より若尾文子代役の万里昌代が素晴らしくバンプ女優のレッテルが残念だ。早い話、三隈研次が斬り合いだけの監督ではなかったということか。
◎陸軍中野学校
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/96分]
【05】1966年大映 監督:増村保造 脚本:星川清司
CAST:市川雷蔵、加東大介、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、ピーター・ウィリアムス、村瀬幸子、守田学、中条静夫
●とてつもない傑作だった。たまに増村保造には心底驚かされる。日本映画で唯一無二のスパイ映画ではあるのだが、ヒリヒリした緊張感と冷徹重厚な世界観を保ちながら、東宝から加東大介を呼んだことで熱量が加わって学校生たちの青春映画の様相さえ生み出した。そして養成から実践へとサスペンスは加速し、観るものを圧倒する。
◎眠狂四郎無頼剣
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/79分]
【04】1966年大映 監督:三隈研次 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、工藤堅太郎、島田竜三、遠藤辰雄、上野山功一、香川良介、永田靖、酒井修、水原浩一
●どうも一連の雷蔵映画で『眠狂四郎』の打点が低い。数年前まで雷蔵といえば眠狂四郎というイメージだったが、シリーズのルーティンが悪目立ちしてしまうのか。それでも三隈研次と伊藤大輔の最強コンビが狂四郎に「市井の民のため」などと言わせてほしくなかった。原作の柴田錬三郎が本作に激怒したというが、妙に納得してしまった。
◎斬 る
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1200円/71分] ※再観賞
【03】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、浅野進治郎、柳永二郎、細川俊夫、稲葉義男、毛利郁子
●「斬る・斬られる」に特化して描く新藤兼人の脚本を三隈研次が例によって圧倒的テンポの良さで一気に見せ切ってしまう。こんな演出をされたら新藤も脚本家冥利に尽きるのではないか。恥ずかしながら2年前に観たばかりなのに「完」と出た時、「え?もう終わってしまったのか・・・」と思った。これまた傑作と言わずして何と言う。
◎薄桜記
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/110分] ※再観賞
【02】1959年大映 監督:森一生 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、真城千都世、三田登喜子、大和七海路、北原義郎、島田竜三、千葉敏郎、荒木忍、伊沢一郎
●名作と知りながら2年前に観たばかりなので観賞を躊躇したが、再見して良かった。改めて傑作だ。殺陣をたっぷり見せながら安兵衛の高田馬場の決闘から吉良邸討入りの史実を縦軸に、丹下典膳と千春の血みどろの悲恋を描き切る森一生の演出。そして最後に時系列をピタリと合わせた伊藤大輔の脚本。この作劇は驚異以外の何ものでもない。
◎華岡青洲の妻
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【01】1967年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、浪花千栄子、原知佐子、伊達三郎、木村玄、内藤武敏
●何と5歳の時に連れて行ったと母が言っていた。もちろん一切憶えていなかったが、よくぞ増村ワールドを幼な子に浴びせたものだと思う。もちろん医者の話として『赤い天使』と比べればかなり文芸色が強いのだが、雷蔵を狂言回しに置いて若尾と高峰の嫁姑のヒリヒリする暗闘を描きながら女性映画として高みに到達しているのは流石だ。
※1967年キネマ旬報ベストテン第5位
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