◆三行の映画評

 三行の映画評



国 宝
2025.05.06 イオンシネマ座間:スクリーン1 [無料/175分]
【70】2025年製作委員会=東宝 監督:監督:李相日 脚本:奥寺佐渡子
CAST:吉沢亮、横浜流星、渡辺謙、高畑充希、寺島しのぶ、森七菜、三浦貴大、見上愛、永瀬正敏、嶋田久作、田中泯
●「本物」を観たとの印象。描かれた歌舞伎が本物ではない、映画が本物だった。吉田修一の原作を一気に読んで期待は高まっていたが、原作のことなどすっかり忘れて3時間を堪能。演じ手を代えて二度描かれるお初・徳兵衛には心底圧倒された。役者の凄み、演出の凄みが見事に結晶した。東宝に望むのはこれを絶対に世界に出せということ。


サブスタンス
2025.05.25 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 THE SUBSTANCE [1300円/169分]
【69】2024年アメリカ 監督:コラリー・ファルジャ 脚本:コラリー・ファルジャ
CAST:デミ・ムーア、マーガレット・クアリー、デニス・クエイド、エドワード・ハミルトン=クラーク、ゴア・エイブラムス、オスカー・ルサージュ、クリスチャン・エリクソン、ロビン・グリア、トム・モートン
●オスカー候補ぽいヒューマン・サスペンスではなかった。クローネンバーグ味満載のボディホラー。しかも相当グロい。デミの凄絶演技はもちろん「この後の惨状はご想像に」的幕引きと思いきや最後まで徹底的に見せる。一切逃げてないのが素晴らしい。それにしてもオスカーを逃した彼女は『サンセット大通り』のG・スワンソンばりに不憫だ。


影の車
2025.05.20 神保町シアター [1200円/98分]
【68】1970年松竹 監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍
CAST:加藤剛、岩下志麻、小川真由美、岩崎加根子、岡本久人、滝田裕介、近藤洋介、永井智雄、芦田伸介、稲葉義男
●寝ている子とガラス戸一枚挟んでの情交は結構なサスペンスだ。終始、子供が目を覚まさないかとハラハラしていた。清張の原作がどこまで書き込んでいるのか不明だが、橋本忍の作劇と野村芳太郎の演出力は流石。さらにただ事ではない岩下志麻の発する官能フェロモン。人は情事に溺れてしまう運命から逃れられないとの説得力で圧倒する。
※1970年キネマ旬報ベストテン第7位


ミッション:インポッシブル/ファイナル・レコニング
2025.05.17 イオンシネマ座間:スクリーン10 MISSION:IMPOSSIBLE THE FINAL RECKONING [1100円/169分]
【67】2025年アメリカ 監督:クリストファー・マッカリー 脚本:クリストファー・マッカリー、エリック・ジェンドレセン
CAST:トム・クルーズ、ヘイリー・アトウェル、ヴィング・レイムス、サイモン・ペッグ、イーサイ・モラレス
●このレコニング2部作の概要とロジックがよくわからないまま、長い時間をボーと観ていたがお約束のクライマックスのトム・クルーズのスタントがすべてを持って行き、結果「トムよありがとう!」と快哉を挙げさせる。いつものパターンであるが、実際、究極なのではないかと思った。もはやトムを超えるのはトムしかいないのは間違いない。


張込み
2025.05.15 神保町シアター [1200円/98分]
【66】1958年松竹 監督:野村芳太郎 脚本:橋本忍
CAST:大木実、宮口精二、高峰秀子、田村高廣、高千穂ひづる、浦辺粂子、菅井きん、多々良純、芦田伸介、内田良平
●「さあ張込みだ」のモノローグまでの横浜から佐賀までの夜行列車のアバンが昭和ド真ん中の風景を活写する。この冒頭には心底ワクワクした。しかし張込み描写が牧歌的すぎ、追跡に転じてから野村×橋本の黄金コンビに失速を感じた。事件は張込み中に完結すべきだった。刑事と犯人のモラトリアムからの脱却という落としところも疑問。
※1958年キネマ旬報ベストテン第8位


仁義なき戦い 完結篇
2025.05.09 丸の内TOEI [1500円/98分] ※再観賞
【65】1974年東映 監督:深作欣二 脚本:高田宏治
CAST:菅原文太、小林旭、北大路欣也、松方弘樹、伊吹吾郎、宍戸錠、山城新伍、田中邦衛、野川由美子、桜木健一
●なんと『完結篇』単体で観るのは高校以来。いつも五部作一挙上映の5本目で朦朧となりながら、下手すると市岡射殺場面は夢うつつなんてこともあった。確かに松村保の決死の襲名をシリーズの終着点とする弱さは否めないが、槇原や江田の虐殺シーンの迫力は白眉。「牛の糞にも段々」「ササラモサラ」の名台詞とともにもはや愛おしいのだ。


今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は
2025.05.06 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1100円/127分]
【64】2025年吉本興業=日活=ザフール 監督:大久明子 脚本:福徳秀介
CAST:萩原利久、河合優実、伊東蒼、黒崎煌代、安齋肇、浅香航大、松本穂香、サクラ、古田新太
●事前に作品を値踏みしていた何倍も良かった。いや評価しない人もいると思うが、誰もが伊東蒼の渾身の長台詞は賞賛してしまうではないか。懐かしい大学のキャンパスの匂いとともに “今日空語”というべき「サチせ」「コノき」はしばらく覚えておこうかと思う。それにしても相手の想いに気づけない鈍感はそれほどの罪なのだろうか。


ベテラン 凶悪犯罪捜査班
2025.05.06 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン10 베테랑2 [1100円/118分]
【63】2024年韓国 監督:リュ・スンワン 脚本:リュ・スンワン、イ・ウォンジェ、カン・ヘジョン
CAST:ファン・ジョンミン、チョン・へイン、アン・ボヒョン、オ・ダルス、チャン・ユンジュ、キム・シフ、シン・スンファン
●韓国映画に求めるのは私の出演者への無知ゆえの匿名性に尽きるが、リュ・スンワンのようなエンタメ怪獣がキャラクターを押し出す快作を観ると考えが揺らいでくる。全斗煥を熱演したファン・ジョンファン主演のスター映画の体裁である以上、韓国俳優への無知に甘んじたままでいいのかと思う。内容は既視感だらけでも面白さは相変わらずだ。


片思い世界
2025.05.05 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1100円/126分]
【62】2025年東京テアトル=リトルモア他 監督:土井裕泰 脚本:坂元裕二
CAST:広瀬すず、杉咲花、清原果耶、横浜流星、小野花梨、伊島空、moonriders、田口トモロヲ、松田龍平、西田尚美
●人気の監督・脚本コンビが3人の若手トップでシスターフットを撮る。謎めいた予告編も相俟って大いに期待した。なるほど「そう来たか」と思った。確かにこの3人を隔絶された場所で浮かせることで、彼女たちのわちゃわちゃぶりで観客を楽しませる意図は汲み取れる。ただ最後が引越しではこの設定の落としどころとして弱かったのでないか。


エミリア・ペレス
2025.05.05 あつぎのえいがかんkiki:スクリーン3 EMILIA PEREZ [1000円/133分]
【61】2024年フランス=ベルギー=メキシコ 監督:ジャック・オーディアール 脚本:ジャック・オーディアール
CAST:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス、エドガー・ラミレス
●この度のオスカー候補7本目の観賞。私的にはベスト1かも知れない。結果的に賞レースは主演女優のスキャンダルで失速したが、そもそもスキャンダラスな映画だ。ここまで大胆で傲慢だが繊細で傷つきやすさを感じる作品も珍しく、犯罪ノワールからミュージカルへとジャンルを横断しながらエンタメに落とし込んでいく。「お見事!」だ。


ハロルドとモード 少年は虹を渡る
2025.05.3 目黒シネマ HAROLD AND MAUDE [1400円/90分]
【60】1971年アメリカ 監督:ハル・アシュビー 脚本:コリン・ヒギンズ
CAST:ルース。ゴードン、バッド・コート、ヴィヴィアン・ピクルス、シリル・キューサック、チャールズ・タイナー
●中学の時、自部屋にポスターを貼っていた。観たいと思っていたが50年も経ってしまったか。雰囲気はもろにニューシネマ。虚偽自殺を繰り返すハロルドにはまったく共感は出来ないが、ベトナムへの厭戦気分が蔓延した当時の精神風土は想像せねばなるまい。彼が80歳のモードに恋した理由は彼女の「生」への瑞々しい迸りを見たからだろう。


スター・ウォーズ:エピソード6/ジェダイの帰還
2025.04.29 ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい:スクリーン12 STAR WARS:EpisodeⅥ RETURN OF THE JEDI [1300円/133分]  ※再観賞
【59】1980年アメリカ 監督:リチャード・マーガント 脚本:ローレンス・カスダン、ジョージ・ルーカス
CAST:マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、ビリー・ディー・ウィリアムズ、フランク・オズ
●テアトル東京のシネラマ大画面で観た前2作の特別感と渋谷東宝との対比もあるが、既に『E、T.』も『レイダース』も世に出て、私も会社勤めを始めていたせいか『ジェダイの復讐』はお子様向け冒険活劇の印象だった。今回もイォークが活躍するエンドアの尺が長すぎると思った。ルークがアナキンと決着をつけた重要なパートではあるが。


スター・ウォーズ:エピソード5/帝国の逆襲
2025.04.29 ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい:スクリーン12 STAR WARS:EpisodeⅣ THE EMPIRE STRIKES BACK [1300円/123分]  ※再観賞
【58】1980年アメリカ 監督:アーヴィン・カーシュナー 脚本:リイ・ブラケット、ローレンス・カスダン
CAST:マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、アンソニー・ダニエルズ、ビリー・ディー・ウィリアムズ
●切断されたルークの腕が機械仕掛けで動く以外、殆ど忘れていた。しかし改めて最高作だと思った。ルークがダースベイダーの正体を知った瞬間の衝撃を共有したくらい世界観にのめり込まされた。前作から続く女ひとり男ふたりの王道ラブコメ展開も楽しいし、昔は「理力」と訳された字幕を「フォース」としたのも大正解ではなかろうか。


スター・ウォーズ:エピソード4/新たなる希望
2025.04.29 ローソン・ユナイテッドシネマ STYLE-S みなとみらい:スクリーン12 STAR WARS:EpisodeⅣ A NEW HOPE 
[1300円/121分]  ※再観賞
【57】1977年アメリカ 監督:ジョージ・ルーカス 脚本:ジョージ・ルーカス
CAST:マーク・ハミル、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー、アレック・ギネス、ピーター・カッシング
●昭和の日に因んだつもりはないが、高校以来47年ぶりに観て、『スター・ウォーズ』がこんなに面白かったのか!と目から鱗だった。あまりに今更な話だが、ルーク、ソロ、チューイがミレミアム・ファルコンのコックピットに揃い踏みし、若きレイアが溌溂と躍動する。後に語られる革命や奇跡など映画史的意義は抜きに本当に楽しかった。
※1978年キネマ旬報ベストテン第9位


名探偵コナン 隻眼の残像<フラッシュバック>
2025.04.18 イオンシネマ新百合ヶ丘::スクリーン8 [1100円/110分]
【56】2025年小学館=読売テレビ=トムス=東宝 監督:重原克也 脚本:櫻井武晴
CAST:(声)高山みなみ、小山力也、高田裕司、山崎和佳奈、高田裕司、小山力也、速水奨、草尾毅、山田孝之、山下美月
●細かいエピソードを重ねてのアバンはシリーズ屈指の出来。今や100億円コンテンツ最新作の導入部だけのことはあると大いに期待させたが、長野県の天文台周辺の限定舞台に対し登場人物が多過ぎ。佐藤・高木の警視庁コンビは不要。大和刑事の隻眼が痛み出す理由や真犯人の行動など不得要領な部分も少なくない。印象としては残念だった。


アマチュア
2025.04.16 TOHOシネマズ池袋:スクリーン8 THE AMATEUR [1300円/123分]
【55】2025年アメリカ 監督:ジェームズ・ホーズ 脚本:ケン・ノーラン、ゲイリー・スピネッリ
CAST:ラミ・マレック、ローレンス・フィッシュバーン、レイチェル・ブロズナハン、カトリーナ・バルフ、ジョン・バーンサル
●戦闘能力ゼロのCIA分析官の復讐劇。ラミ・マレックの個性が時間経過とともにハマっていく過程は面白かったが、弱い者がIQを駆使して闘っていく展開にしては中盤からキメ細かさに欠け、予告編から想像していたワクワク感は薄れてしまった。事務系の男が殺人に振り切ることで何者かに変貌したのだとしても、あんな爽やかなラストはない。


ゴーストキラー
2025.04.13 イオンシネマ海老名:スクリーン4 [1100円/104分]
【54】2025年製作委員会=ライツキューブ 監督・アクション監督:園村健介 脚本:阪元裕吾
CAST:高石あかり、三元雅芸、黒羽麻璃央、川本直弘、井上想良、東野絢香、アベラヒデノブ、倉冨なおと、一ノ瀬竜
●日本のアクション映画の最前線といえる園村健介&坂元裕吾の座組の中、我らが高石あかりんが大暴れ!隣に伊澤彩織が居なくても一本立ちして存分にアクションが出来るのだと証明した。しかも演技が抜群に上手く、サイテーのクソ男どもを羅列した坂元脚本の中で、彼女の存在感は際立ち無双レベル。「朝ドラ」ヒロインも今から楽しみだ。


仁義なき戦い
2025.04.06 丸の内TOEI [1500円/99分] ※再観賞
【53】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、金子信雄、田中邦衛、川地民夫、伊吹吾郎、三上真一郎、渡瀬恒彦、木村俊恵
●10代から60代まで何回観たことか。でも回数はどうでもよく、私には定期健診のような存在であり、内容とは裏腹の究極の癒し映画。台詞のすべてを諳んじながら “皆、殆ど死んでしまったけど、皆、永遠に生きている” を実感する。ただ東映の本丸で観る『仁義なき戦い』は今日が初めてでおそらく最後。その感慨の大きさに心の底から感謝。
※1973年キネマ旬報ベストテン第2位


黒部の太陽
2025.04.06 丸の内TOEI [1500円/196分]
【52】1968年三船プロ=石原プロ=日活 監督:熊井啓 脚本:井手雅人、熊井啓
CAST:三船敏郎、石原裕次郎、樫山文江、辰巳柳太郎、高峰三枝子、日色ともゑ、宇野重吉、寺尾聡、加東武、佐野周二
●命懸けで黒部の掘削に挑んだ男たちへの賛歌といえば簡単だが、迫力に於いて「昭和100年映画祭」に相応しい大作で『海峡』の10倍は凄かった。実名の関西電力・熊谷組も迫真性を牽引し、製作した二大スターの執念と現場の熱気がひしひしと伝わってくる。辰巳と石原の父子のドラマも面白く、それがラストに生きた。まさしく圧倒的な196分。
※1968年キネマ旬報ベストテン第4位


ミッキー17
2025.03.31 新宿バルト9:シアター3 MICKY 17 [1300円/137分]
【51】2025年アメリカ 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ
CAST:ロバート・パティンソン、ナオミ・アッキー、スティーブン・ユアン、トニ・コレット、マーク・ラファロ
●待望のポン・ジュノ最新作。そう待望だったはずなのに慢性的な疲労と寝不足が祟り、ここから外すことを検討するほどかなりの時間で寝落ちしていた。予告編からポン・ジュノにしては軽いなと思っていたが、本編ではそれほどでもなかったものの、あまりにハリウッド的過ぎるとの印象だった。否、早々に再見せねば。


汚れた血
2025.03.30 アンスティチュ・フランセ東京 Mauvais sang [1100円/116分]
【50】1986年フランス 監督:レオス・カラックス 脚本:レオス・カラックス
CAST:ドニ・ラヴァン、ジュリエット・ビノシュ、ジュリー・デルピー、ミシェル・ピッコリ、ミレーユ・ペリエ
●愛のないセックスで感染する奇病が蔓延するパリ。そのワクチンを強奪する者たち。SF設定に犯罪もの、そんなジャンルの枠組みから愛の受難を換骨奪胎させ、なんだ?この映画と思うが、これこそカラックスが“恐るべき子ども”と評された所以なのだろう。今回はカラックスに外側から入らざるを得なかった時間の致し方なさを痛感した。


ボーイ・ミーツ・ガール
2025.03.30 アンスティチュ・フランセ東京 Boy Meets Girl [1100円/104分]
【49】1984年フランス 監督:レオス・カラックス 脚本:レオス・カラックス
CAST:ドニ・ラヴァン、ミレーユ・ペリエ、キャロル・ブルックス、アンナ・バルダッチニ、ハンス・メイヤー
●今さらながら私にとって80年代とは何だったのかと思う。少なくともカラックス長編デビュー作に漂うヌーベルヴァーグ味や青春ノワールの要素は一切なかった。だがとことん緩かった日々の中でも若者たちの咆哮はパリの夜にこだましていたのか。しかし40年後にどう感じたかとなると、到底そこに戻れないと諦観する現実の私がいた。


TOKYO!
2025.03.30 アンスティチュ・フランセ東京 TOKYO! [1100円/110分]
【48】1991年フランス=日本=韓国 監督・脚本:レオス・カラックス、ポン・ジュノ、ミシェル・ゴンドリ
CAST:ドニ・ラヴァン、藤谷文子、加瀬亮、伊藤歩、香川照之、竹中直人、蒼井優、妻夫木聡、大森南朋、嶋田久作
●東京を舞台とした鬼才3人によるオムニバス。引きこもり男の異常な整理整頓ぶりそれ自体が優れた映画美術なのでは?と思わせたポン・ジュノはさすが。しかし最大インパクトはマンホールから出現した怪演ドニ・ラヴァンを晴海通り、銀座のゴジラ通過ルートで暴れさせ、秩序を破壊して見せたカラックス。元々こういう情緒の持ち主なのか。


ポーラ
2025.03.29 アンスティチュ・フランセ東京 PolaX [1100円/134分]
【47】1999年フランス=ドイツ他 監督:レオス・カラックス 脚本:L・カラックス、ジャン・P・ファルゴー、ローラン・セドフスキー
CAST:ギョーム・ドパルデュー、カテリーナ・ゴルベワ、カトリーヌ・ドヌーヴ、デルフィーヌ・シェイヨー、ミハエラ・シラギ
●本作がソフト化された際、遅ればせながらカラックスの名を知った。もう前世紀の話かと恐れ入る。若者・暗闇・自滅を描きながら疾走の刹那感が全編を貫く。しかし疲れる。発信側のエネルギーに対するこちらの耐性が弱すぎたのだ。バスタブに浮かぶドヌーブに癒しを感じたのは老いた証なのだろうが、調べたらカラックスは同級生だった。


教皇選挙
2025.03.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 CNCLAVE [1300円/120分]
【46】2024年アメリカ=イギリス 監督:エドワード・ベルガー 脚本:ピーター・ストローハン
CAST:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ、セルジオ・カステリット
●傑作だと思った。ローマ教皇の死去に伴い、バチカン大聖堂に世界中の枢機卿が集められてのコンクラーヴェ(指名選挙)に絡む陰謀・暗闘。堅苦しい緊張を強いられる密室劇を覚悟していたが、まさかの教会爆撃の流血沙汰からの連続ドンデン返しに驚嘆。やくざ映画で私にはお馴染みの“跡目争い”もののスリリングな到達点ではなかったか。


お嬢と番犬くん
2025.03.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 [1300円/106分]
【45】2025年東宝=博報堂=講談社 監督:小林啓一 脚本:政池洋佑
CAST:福本莉子、ジェシー、櫻井海音、香音、松井遥南、井上想良、ぐんぴぃ、葵揚、岩瀬洋志、佐々木希、杉本哲太
●少女漫画の映画化で予想通り内容はチョー他愛ない。女の子にはイケメンのボディガードに守られたい願望でもあるのだろうか。とにかく24歳・福本莉子の16歳・女子高生がどうにもきつい。しかし監督が小林啓一。私の年間ベストの常連だ。次第に“小林ホワイト”に乗せられ1stキスからのエンドロールのSixTONESまで一気に観てしまった。


悪い夏
2025. 03.20 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン10 [無料/115分]
【44】2025年製作委員会=クロックワークス=KADOKAWA 監督:城定秀夫 脚本:向井康介
CAST:北村匠海、河合優実、窪田正孝、伊藤万理華、毎熊克哉、箭内夢菜、竹原ピストル、木南晴夏、カトウシンスケ
●「クズとワルしか出てこない」という城定秀夫の新作はある種の重喜劇だと思っていたら、脚本の向井康介が「令和の重喜劇」とHPに寄せていた。そんな中、城定は生活保護者の悲哀を拾いつつクライマックスまでテンポよく犯罪サスペンスを進行させていく。もっとも作品の色を決定づけたのは飄々とワルを演じた窪田正孝の余裕だったか。


Flow
2025.03.15 109シネマズ港北:シアター1 Flow [1300円/85分]
【43】2024年ラトビア=フランス=ベルギー 監督:監督:ギンツ・ジルバロディス 脚本:ギンツ・ジルバロディス、マティス・カジャ
CAST:(アニメーション)
●大本命『野生の島のロズ』を抑えオスカー長編アニメ賞を獲ったのも納得。明らかに人類は滅亡し、地球も崩壊寸前だが、むしろ天地創造の話だと思わせる壮大な世界観。それをセリフや動物たちの擬人化なしで表現してしまう技術と才能。人類への警鐘など示唆に富みつつ「生きるとは何か」の哲学まで踏み込みながら万人に開かれた傑作。


プロジェクト・サイレンス
2025.03.15 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン7 탈출: 프로젝트 사일런스 [1300円/161分]
【42】2024年韓国 監督:キム・テゴン 脚本:キム・テゴン、パク・ジュソク、キム・ヨン
CAST:イ・ソンギュン、チュ・ジフン、キム・ヒウォン、キム・スアン、ムン・ソングン、イェ・スジョン、キム・テウ
●一年に必ず韓国の大作パニックものが公開されるが、近年で一番面白かった。まずコンスタントにこの手のジャンルを生み続けているのが羨ましい。もちろんCG技術の革新はあるが確実にハリウッドを追撃するセンスと技術を磨いている。災害とポリティカルな風味に動物パニックが加味され見応え十分。内容はすぐに忘れてしまうだろうが。


ウィキッド ふたりの魔女
2025.03.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3  Wicked [1300円/161分]
【41】2024年アメリカ 監督:ジョン・M・チュウ 脚本:ウィニー・ホルツマン
CAST:シンシア・エリヴォ、アリアナ・グランデ、ジョナサン・ベイリー、ミシェル・ヨー、ジェフ・ゴールドブラム
●アカデミー美術賞・衣装デザイン賞に納得。いや作品賞でも良かった。オズの国での群舞も楽しいが、何よりエルファバとグリンダによるシスターフットが最高(それは波乱含みではあるのだが)。やや魔法使いの本性がバレてからの展開が早過ぎた感もあるが、エルファバが決意する怒涛のクライマックスはまさに圧巻。早く続きが観たい。


TATAMI
2025.03.09 イオンシネマ座間:スクリーン3  TATAMI [1100円/103分]
【40】2023年アメリカ=ジョージア 監督:ガイ・ナッティヴ、ザーラ・アミール 脚本:エルハム・エルファニ、ガイ・ナッティヴ
CAST:アリエンヌ・マンディ、ザーラ・アミール、ジェイミー・レイ・ニューマン、ナディーン・マーシャル
●イラン代表の柔道選手にイスラエル選手との対戦を棄権せよと本国が強要。設定を男子から女子に移した実話だ。共同監督がイラン人とイスラエル人。家族に及ぶ迫害に抗って彼女が畳に立ち続けることの葛藤がサスペンスを生む。結局、出演したイラン人はすべて国外亡命。そういった背景の凄さに作品の描写が釣り合っていたかどうか。


フライト・リスク
2025.03.09 イオンシネマ海老名:スクリーン6  Flight Risk [1100円/91分]
【39】2025年アメリカ 監督:メル・ギブソン 脚本:ジャレッド・ローゼンバーグ
CAST:ミシェル・ドッカリー、マーク・ウォールバーグ、トファー・グレイス、(声)マーズ・アリ、ポール・ベン=ヴィクター
●本国での評価は必ずしも芳しくないが、緊迫感が最後まで途切れることなく大満足だった。全編の99%は小型飛行機の3人だけの設定で、ぱっと見にも小粒だがこういう映画はもっとあっていい。“オスカー監督”メル・ギブソンは墜落のスリルや格闘に加え、音声で地上のサスペンスを描出するなど、なかなかジャンル映画のツボも心得ている。


ノー・アザー・ランド 故郷は他にない
2025.03.09 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 No Other Land [1100円/95分]
【38】2024年ノルウェー=パレスチナ 監督・脚本:バーセル・アドラー、ユヴァル・アブラハーム、ハムダーン・バラール、ラヘル・ショール
CAST:(ドキュメンタリー)
●蹂躙されるパレスチナ人の抵抗と悲劇ばかりではなく、家族の日常には笑いもあり、劇映画ではないドュメンタリーならではの余白が印象的だった。2023.10.7以前のヨルダン川西岸の村はイスラエル軍の悪魔的な破壊を延々と映し出していくのだが、ユダヤ人脈が幅を利かすハリウッドがオスカーを与えたのは一縷の希望と見ていいのか。


ANORA アノーラ
2025.03.02 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン9 Anora [無料/141分]
【37】2024年アメリカ 監督:ショーン・ベイカー 脚本:ショーン・ベイカー
CAST:マイキー・マディソン、マーク・エイデルシュテイン、ユーラ・ボリゾフ、カレン・カラグリアン、ヴァチェ・トヴマシアン
●アワードの前日に観賞。冒頭の安っぽいタイトルロゴから70年代艶笑コメディとしか思えず、ラストの余韻以外、Fワード連発のヒロインは喧しいばかりだし、男どもは皆サイテー。そもそも行き当たりばったりで面白くない。で、結果的にオスカーもパルムドールも制してしまうと映画観賞者として自信も喪失。私にはとんだヤクネタだ。


聖なるイチジクの種
2025.03.02 kino cinema横浜みなとみらい:シアター1 دانه‌ی انجیر معابد The seed of the sacred fig [1300円/167分]
【36】2024年ドイツ=イラン=フランス 監督:モハマド・ラスロフ 脚本:モハマド・ラスロフ
CAST:ミシャク・ザラ、ソヘイラ・ゴレスターニ、マフサ・ロスタミ、セターレ・マレキ
●国家叛逆の罪から命懸けで撮られた作品。何とも凄まじい限りだ。神の名の下に制度化された女性差別、そこに手軽に割り込んでくるSNS映像。そんな歪みの中で娘たちのスマホを持つ手はいつかヒジャブを取り払うのか。しかし苦悩しているのは父親とて同じ。暴走の果てに突き出された腕はどんな未来が指し示したのか。製作陣に平穏あれ。


名もなき者 A COMPLETE UNKNOWN
2025.03.01 109シネマズゆめが丘:シアター1/IMAX  A COMPLETE UNKNOWN [2000円/141分]
【35】2024年アメリカ 監督:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ジェームズ・マンゴールド、ジェイ・コックス
CAST:ティモシー・シャラメ、エドワード・ノートン、エル・ファニング、モニカ・バルバロ、ボイド・ホルブルック
●小学生の時「学生街の喫茶店」でデュランを知って以来、多くのフォークシンガーたちのリスペクトに触れてきた。そんなデュランの半生にも満たない“伝記”で体感する60年代カルチャーが心地良い。とくにJ・バエズとの口遊みからハモっていくBlowin' In The Windにはゾクっと来た。「音」で選んだIMAXも、シャラメもノートンも最高。


ゆきてかへらぬ
2025.02.24 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [1300円/128分]
【34】2025年木下グループ=ギーグピクチャーズ=キノフィルム 監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造
CAST:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生、田中俊介、トータス松本、瀧内公美、草刈民代、カトウシンスケ、藤間爽子、柄本佑
●長谷川泰子が刹那の人ならば、“感性の化け物”中原中也と“理論の巨人”小林秀雄の真ん中で神経と神経で繋がろうとすればももはや削り合うしかない。最初から関係は詰んでいたのだ。でも削り合いが本当に瑞々しく、令和の時代に監督・根岸吉太郎、脚本・田中陽造の座組を愉しみながら、主人公たちと青春の甘酸っぱさを共有出来た気がする。


奇麗な、悪
2025.02.23 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1100円/78分]
【33】2025チームオクヤマ=ナカチカ 監督:奥山和由 脚本:奥山和由
CAST:瀧内公美
●かなりのファンなので、瀧内公美のひとりの芝居で全編を貫いた企画に「奥山、ようやった!」と快哉を挙げたくなる。舞台のようだとのレビューもあるが、間違いなく映画だと思うのは、単純な狂気に走りそうな熱演ではなく最後まで抑制しながら自分語りを内面化させた彼女の作品理解に依るところが大きい。演出不在?大いに結構だ。


ブルータリスト
2025.02.23 イオンシネマ座間:スクリーン8 The Brutalist [1100円/215分]
【32】2024年アメリカ=イギリス=ハンガリー 監督・脚本:ブラディ・コーベット 脚本:モナ・ファストヴォールド
CAST:エイドリアン・ブロディ、フェリシティ・ジョーンズ、ガイ・ピアース、ジョー・アルウィン、ラフィー・キャシディ
●建築と芸術の狭間には資金と効率のジレンマがあり、傲慢と狂気が表出するのか。それが繰り返される3時間35分の総量に比例した観賞体感は得た。ただオスカー10部門ノミネートの力作も、今の情勢でユダヤ人建築家がこだわった理想を描くことの製作者の意図に引っ掛かりはある。さらに正直、15分のインターミッションに救われた。


セプテンバー5
2025.02.22 109シネマズグランベリーパーク:シアター4 September 5 [1100円/91分]
【31】2024年アメリカ=ドイツ 監督:ティム・フェールバウム 脚本:ティム・フェールバウム、モリッツ・バインダー
CAST:ジョン・マガロ、ピーター・サースガード、レオニー・ベネシュ、ベン・チャップリン、ジヌディーヌ・スアレム
●ミュンヘン五輪のテロ事件は記憶に刻まれているが、小学生は男子バレー、体操、水泳の快挙に心を踊らされ全容は知らずにいた。イスラエル選手団を襲ったパレスチナゲリラ。しかも舞台がドイツ。そして事件を全世界に生中継したabcの番組クルー。中継室だけの極限の緊迫で一気に見せ切る。やや時間経過が呆気なかった印象も見応え十分。


ドライブ・イン・マンハッタン
2025.02.11 イオンシネマ座間:スクリーン1  Daddio [1100円/100分]
【30】2023年アメリカ 監督:クリスティ・ホール 脚本:クリスティ・ホール
CAST:ダコタ・ジョンソン、ショーン・ペン
●元は舞台劇なのか?ラジオドラマで聴きたいとも思ったが、この脚本を最も生かせるのは映画しかない。タクシー運転手と乗客の会話劇という設定の中で男と女の思いが炙り出され、それぞれの人生に溶け込んでゆく。密室の中でなかなか濃密な時間を共有しながら、窓の景色は刻一刻流れては消える。そこに大都会の大人のドラマの粋がある。


おんどりの鳴く前に
2025.02.11 新宿シネマカリテ:スクリーン1  Oameni de treabă [1300円/106分]
【29】2022年ルーマニア=ブルガリア 監督:パウル・ネゴエスク 脚本:ラドゥ・ロマニュク、オアナ・トゥドル
CAST:ユリアン・ポステルニク、ヴァシレ・ムラル、アンゲル・ダミアン、ダニエル・ブスイオク、クリナ・セムチウク
●「市川雷蔵映画祭」で何度も予告編を観て面白そうだと思った。何より「まるでタランティーノ」という何十年も前に乱発されたキャッチにまだ惹かれている自分に苦笑。スタイリッシュの欠片もない東欧の辺境ミステリーだが不覚にも睡魔が。最後の思わぬ銃撃戦に良く出来た予告編だったと感心。もう少し真面目に観なきゃ駄目だ。


TOUCH/タッチ
2025.02.09 イオンシネマ座間:スクリーン3  TOUCH  [1100円/122分]
【28】2024年アイスランド=イギリス 監督:バルタザール・コルマウクル 脚本:オラフ・ヨハン・オラフソン他
CAST:エギル・オラフソン、パルミ・コルマウクル、KOKI、本木雅弘、奈良橋陽子、ルース・シーン、メグ・クポ、中村雅俊
●良さげな映画だと勘だけで選び、抱きしめたくなる良作に出会う。映画観賞の醍醐味だ。アイスランド青年とロンドンの日本娘の悲恋が、50年後の広島で原爆被爆者の悲劇として明かされる。被爆2世にまで惨禍が及んでいた歴史には無頓着だった。そんな社会性もさることながら、別れの話ではなく再会の話であったことに胸を撫で下ろす。


ファーストキス 1ST KISS
2025.02.09 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1000円/119分]
【27】2025年東宝=AOI Pro 監督:塚原あゆ子 脚本:坂元裕二
CAST:松たか子、松村北斗、吉岡里帆、リリー・フランキー、森七菜、YOU、竹原ピストル、松田大輔、和田雅成、鈴木慶一
●主演ふたりの愛くるしさで観てしまうが、考えれば死んだ夫をタイムスリープして救おうとする話など手垢まみれ。しかし時空超えを都合よく濫用しながら坂元脚本は夫婦とは何か?の設問を巧みに織り込んでゆく。結婚するまでを知っている妻と、結婚生活の結末を知っている夫。よく作られた“変な話”を一気に観せ切る塚原演出が光る。


ショウタイムセブン
2025.02.09 イオンシネマ座間:スクリーン3 [1000円/98分]
【26】2025年松竹=アスミックエース 監督:渡辺一貴 脚本:渡辺一貴、キム・ビョンウ
CAST:阿部寛、竜星涼、生見愛瑠、井川遥、吉田鋼太郎、錦戸亮、前原瑞樹、平原テツ、内山昂輝、安藤玉恵、平田満
●観賞後、韓流リメイクと知ってガッカリしたものの、ほぼ全編ニューススタジオで展開される臨場感に最後まで引っ張られた。テレビ局の描写が真に迫っていたことが大きい。密室でのやり取りがとかく舞台劇風ではあっても、言い換えればLIVEの迫真でもある。阿部寛ワンマンショーに徹したのも正解。謎を解いた理由が謎ではあったが。


野生の島のロズ
2025.02.08 イオンシネマ座間:スクリーン1 The Wild Robot [1100円/102分]
【25】2024年アメリカ 監督:クリス・アンダーソン 脚本:クリス・アンダーソン
CAST:(声)綾瀬はるか、柄本佑、鈴木福、いとうまい子、千葉繁、種﨑敦美、山本高広、滝知史、田中美央、濱﨑司
●猛禽類や肉食動物たちが暴雪の冬をどう過ごしたのか。博愛を謳った良作にとんだ野暮かもしれないが、生態系の摂理まで言及したら更に凄まじい傑作になったのではないか。でも自然を、野生を描くとはそういうことだ。もちろんアニメ-ションのルックやエンタメへのテンポは完璧。とくに表情のないロズの表情の豊かさは喝采ものだろう。


遺書、公開。
2025.02.01 ムービル1 [1300円/119分]
【24】2025年製作委員会=ダブ=松竹 監督:英勉 脚本:鈴木おさむ
CAST:吉野北人、堀未央奈、志田彩良、松井奏、高石あかり、忍成修吾、兼光ほのか、藤堂日向、青島心、楽駆、宮瀬琉弥
●このところ連発される若手俳優たちのディスカッションドラマ。脚本が粗く突っ込みどころ満載だが、これが深夜に連続放映されたら最後まで観てしまうだろうとは思った。舞台劇ぽいというよりワークショップのような安っぽさは否めないものの、若手俳優の熱気と、我らが高石あかりの存在感。エンドロールのデザインがカッコ良かった。


トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦
2025.01.25 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 九龍城寨之圍城 [無料/125分]
【23】2024年香港 監督:ソイ・チェン アクション監督:谷垣健治 脚本:オー・キンイー、サム・クアンシン
CAST:レイモンド・ラム、ルイス・クー、サモ・ハン、リッチー・レン、フィリップ・ン、テレンス・ラウ、トニー・ウー
●九龍城の美術に圧倒され、その高低差を生かした谷垣健治のアクション演出が冴え、何より映画が文句なしに面白かった。久々に香港映画が“極東ハリウッド”の本領を発揮したか。香港映画が過去の遺物となる中で絶やすまいとする娯楽魂。解体された九龍城への郷愁を交えながらリアリティ度返しの荒唐無稽な外連を駆使するエネルギーよ。


嗤う蟲
2025.01.25 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 [無料/99分]
【22】2025年製作委員会=ダブ=ポニーキャニオン=ショウゲイト 監督:城定秀夫 脚本:内藤瑛亮、城定秀夫
CAST:深川麻衣、若葉竜也、田口トモロヲ、松浦祐也、杉田かおる、片岡礼子、中山功太
●まったく内容を知らず、監督が好きな城定秀夫だったこともエンドロールで知った。それはともかく過疎地の山村を舞台とし「閉鎖的で不気味な住人がいて封建的な掟がある」とのお約束のホラーや脱出サスペンスはそろそろ終わりにすべきではないか。間違いなく田舎差別だ。田口トモロヲや松浦祐也などすでにアイコンとしか思えない。



2025.01.25 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1100円/108分]
【21】2025年製作委員会=ハピネットファントム=ギークピクチュアズ 監督:吉田大八 脚本:吉田大八
CAST:長塚京三、瀧内公美、黒沢あすか、河合優実、松尾諭、松尾貴史、中島歩、カトウシンスケ、高畑遊、高橋洋
●後半のいかにも筒井康隆的な悪夢の連続によるカタストロフィが肝になる映画だが、独居暮らしの老人の丁寧な日常を長塚京三の驚嘆すべき画面持ちの良さもあり、そこをずっと見ていたかった。だからこそ次第に「敵」が侵食していく怖さが強調されるのか。日常の静かな解放感が閉塞感と化していく過程の吉田大八の演出は見事だった。


破 戒
2025.01.21 角川シネマ有楽町 [1300円/118分]
【20】1962年大映 監督:市川崑 脚本:和田夏十
CAST:市川雷蔵、長門裕之、船越英二、藤村志保、三國連太郎、中村鴈治郎、岸田今日子、宮口精二、杉村春子、加藤嘉
●部落の出自を隠して教師として生きる男。設定は物語的ではあるが、その物語的なことだけで市川崑は映画を終わらせていなかったか。同じ日本人の間で「血」の差別に身を置いた時、自分も風土に呑まれていた筈だとの想像はつく。同調圧力と防衛本能との関係を追求せずして同和は語れないのではないか。難しいことではあるのだが。
※1962年キネマ旬報ベストテン第4位


I Like Movies アイ・ライク・ムービーズ
2025.01.19 新宿シネマカリテ:スクリーン2 I Like Movies [1300円/99分]
【19】2022年カナダ 監督:監督:チャンドラー・レヴァック 脚本:チャンドラー・レヴァック
CAST:アイザイア・レティネン、ロミーナ・ドゥーゴ、クリスタ・ブリッジス、パーシー・ハインズ・ホワイト
●私がシネフィル野郎相手に映画論を戦わした日々は遠い昔となったが、大抵の映画好きなら覚えのある「苦味」を思い起こす“こじらせティーン”ムービーである。ローレンスほど我を強く持てずに映画業界の大外をウロウロするだけの人生となったので「反省して良い子」に収まることが真の成長物語といえるかどうか。後悔しなければよいが。


室町無頼
2025.01.18 イオンシネマ茅ヶ崎:スクリーン1 [1000円/135分]
【18】2025年製作委員会=東映 監督:入江悠 脚本:入江悠
CAST:大泉洋、堤真一、長尾謙杜、松本若菜、遠藤雄弥、前野朋哉、阿見201、般若、芹澤興人、中村蒼、柄本明、北村一輝
●文句なしにタイトルロゴのフォントがカッコイイ。ただ室町の荒野にマカロニ調の劇伴が流れ、そこに堤真一が立つと劇団☆新感線の舞台が頭に過ることしばしで、総じてがちゃがちゃ喧しい映画となった。もう少し「静」に緊張感が欲しい。もっとも入江悠の時代劇初挑戦に、本気で面白れぇ戦国一揆を見せるのだとの気概は感じたが。


劇映画 孤独のグルメ
2025.01.13 イオンシネマ座間:スクリーン10 [1000円/110分]
【17】2024年テレビ東京=共同テレビ=東宝 監督:松重豊 脚本:松重豊、田口佳宏
CAST:松重豊、内田有紀、杏、オダギリジョー、磯村勇斗、村田雄浩、塩見三省、ユ・ジェミョン、遠藤憲一
●特殊ジャンルの映画を続けてしまったが、連続観賞で腹が空いたせいか食欲は刺激された(所詮はラストのラーメンにではあったが・・・)。興味は監督・脚本が松重豊だったこと。この人の表現力と絵心には一目置いていて、そこはきっちり気負いもなく映画に仕上げたとは思うが、求める主題がそもそも映画以前である宿命は如何ともし難い。


グランメゾン・パリ
2025.01.13 イオンシネマ座間:スクリーン1 [1000円/119分]
【16】2024年ソニー=TBS=東宝 監督:塚原あゆ子 脚本:塚原あゆ子、黒岩勉
CAST:木村拓哉、鈴木京香、冨永愛、オク・テギョン、正門良規、玉森裕太、寛一郎、中村アン、及川光博、沢村一樹
●塚原監督は『ライトマイル』のキレが素晴らしかったので観賞。しかしキムタク主演のTVドラマのファンムービーの域を出なかった。ちょっとした思いつきで次々と繰り出される三ツ星メニューに脳の食指が反応したかというと、一切食欲が湧かなかったのがこの映画への評価なのか。冨永愛の後味だけ少し奥歯に引っ掛かった気もするが。


エマニュエル
2025.01.13 イオンシネマ座間:シアター5 Emmanuelle [1000円/105分]
【15】2024年フランス 監督:オードレイ・ディヴァン 脚本:オードレイ・ディヴァン、レベッカ・ズロトヴスキ
CAST:ノエミ・メルラン、ウィル・シャープ、ジェイミー・キャンベル・バウアー、チャチャ・ホアン、アンソニー・ウォン
●中二の正月に映画館潜入に失敗した『エマニエル夫人』のリメイクを還暦半ばで観たのは『あのこと』の監督で主演がメルランだったことに尽きるが、やはり映像美とテーマ曲とシルビア・クリスタルが揃わなければ単なるフランス書院の文庫本止まりだ。あれから50年経つと女の性遍歴が暇つぶしに思えてくる。メルランもミスキャストだ。


ビーキーパー
2025.01.11 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 The Beekeeper [1300円/105分]
【14】2024年アメリカ=イギリス 監督:デヴィッド・エアー 脚本:カート・ウィマー
CAST:ジェイソン・ステイサム、ジョシュ・ハッチャーソン、ジェレミー・アイアンズ、エミー・レイヴァー=ランプマン
●1か月ぶりの洋画に“殺人マシン”ステイサムが圧倒的剛腕で悪を殲滅する「お約束映画」を選んだ。今、説得力ではこの手の映画の第一人者だろう。敵が現役大統領の愛息である無理筋や、謎の特殊部隊の存在など現実味に首を傾げる暇もなく、次々と敵を蹴散らす楽しさはあったが、カタルシスまで行ったかとなると何か物足りなさが残る。


安珍と清姫
2025.01.05 角川シネマ有楽町 [1100円/85分]
【13】1960年大映 監督:島耕二 脚本:小国英雄
CAST:市川雷蔵、若尾文子、浦路洋子、片山明彦、毛利郁子、小堀阿吉雄、荒木忍、南部彰三、花布辰男、毛利菊枝
●道成寺に行ったばかりで、そこで安珍・清姫伝説の展示物なども見物したが、そもそも仏道に相応しい伝説とはいえず、清姫の化身である蛇が火を噴いたときは大映特撮ファンでも少し引いてしまった。ファンタジーより情念が交錯する究極愛を味わいたかったが、何より剃髪も凛々しい雷蔵の相手はクールな若尾より京マチ子が相応しかった。


型破りな教室
2024.01.05 ヒューマントラストシネマ有楽町:スクリーン1 Radical [1300円/125分]
【12】2024年メキシコ 監督:クリストファー・ザラ 脚本:クリストファー・ザラ
CAST:エウヘニオ・デルベス、ダニエル・ハダッド、ジェニファー・トレホ、ジルベルト・バラサ、ダニーロ・グアルディオラ
●私のベストワン『ありふれた教室』と真逆で一種スポーツ映画の爽快感すら味わえたのは単に「学力最低の教室を国内トップに押し上げた教師」との実話以上の何物でもなく、これに乗じて理想の教育論をぶつ柄ではないのだが、過酷な現実を理想で乗り切ろうとする人々の姿には素直に感動したい。それ故に悲劇に見舞われたニコの痛ましさ。


歌行燈
2025.01.05 角川シネマ有楽町 [1100円/114分]
【11】1960年大映 監督:衣笠貞之助 脚本:相良準、衣笠貞之助
CAST:市川雷蔵、山本富士子、柳永二郎、信欣三、中条静夫、倉田マユミ、荒木忍、上田吉次郎、浦辺粂子、佐野浅夫
●『婦系図』然り、泉鏡花と雷蔵との相性の良さを思う。山本富士子も同じ衣笠『浮舟』の異形とうって変わった美しさ。門付けに落ちぶれた喜多八と芸妓に売られたお袖。時は明治。ガス燈に翳る美男美女。能楽、謡、舞いが昇華した先の再会。芸道が恋を成就させる幕切れに胸を撫でおろす。作り手、演じ手のすべての素養が今とは違う。


源氏物語 浮 舟
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/118分]
【10】1957年大映 監督:衣笠貞之助 脚本:八尋不二、衣笠貞之助
CAST:長谷川一夫、山本富士子、市川雷蔵、乙羽信子、浦路洋子、中村玉緒、三益愛子、柳永二郎、浪花千栄子、中村鴈治郎
●「巨匠」衣笠貞之助の眉剃りにお歯黒の徹底したルックは異形でしかなく、男性優位世界の権化である“悪役”雷蔵王帝の独壇場だった。浮舟の危機に駆け付ける薫のおよそサスペンスを度外視した演出に苛々しながら、長谷川一夫と山本富士子の美男・美女の悲恋物語をあえて異形にして描いた平安王朝のリアルって何だったのかと思う。


弁天小僧
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/86分]
【09】1958年大映 監督:伊藤大輔 脚本:八尋不二
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、青山京子、阿井美千子、近藤美恵子、島田竜三、黒川弥太郎、河津清三郎、小堀明男、田崎潤
●菊之助の女形が正統なのかどうかは知らないが、「知らざぁ言ってきかせやしょう」の名台詞も『夜叉が池』の玉三郎がそうであったように、本作も女形と映画との親和性の悪さが出てしまった。やはり歌舞伎役者・雷蔵の女形は舞台に限るか。クライマックスの屋根瓦から見下ろす御用提灯の群れといった伊藤演出のダイナミズムに尽きる映画。


好色一代男
2025.01.04 角川シネマ有楽町 [1100円/92分]
【08】1961年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:市川雷蔵、若尾文子、中村玉緒、水谷良重、船越英二、近藤美恵子、浦路洋子、阿井美千子、中村鴈治郎、菅井一郎
●井原西鶴の原作は知らないが、女性崇拝者たる世之介のキャラは先進的な増村の創造ではなかったか。もっとも女性崇拝の基本に欲情があり、ルッキズムも否定されていないので先進性もカツドウ屋脳の内か。とにかく女を見れば矢継ぎ早に口説きにかかる世之介のテンポが推進力となって展開が加速していくのは、増村×白坂コンビの独壇場だ。


お嬢吉三
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【07】1959年大映 監督:田中徳三 脚本:犬塚稔
CAST:市川雷蔵、島田竜三、北原義郎、中村玉緒、林成年、浦路洋子、毛利郁子、小野道子、杉山昌三九、伊達三郎
●追いかけてくる女たち。笑いながら逃げる吉三。街道の向こうには富士の山。まさに絵に描いた痛快時代劇の大団円。しかし少しも痛快ではなかった。歌舞伎の『三人吉三』はバディものの楽しさで構成されているのだろうから、お嬢吉三の雷蔵に焦点が当たるのは仕方ないとしても、他の二人にまったく華が感じられないのは如何なものか。


婦系図
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【06】1962年大映 監督:三隈研次 脚本:依田義賢
CAST:市川雷蔵、万里昌代、船越英二、三条魔子、木暮実千代、水戸光子、千田是也、上田吉二郎、伊達三郎、藤村志保
●「別れろ切れろは芸者の時に言う言葉、いっそ死ねと仰って」の台詞が有名な別名『湯島の白梅』。面白さの源泉にはある世代までの日本人に愛され続けた話にはそれなりの力があるということ。何より若尾文子代役の万里昌代が素晴らしくバンプ女優のレッテルが残念だ。早い話、三隈研次が斬り合いだけの監督ではなかったということか。


陸軍中野学校
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/96分]
【05】1966年大映 監督:増村保造 脚本:星川清司
CAST:市川雷蔵、加東大介、小川真由美、待田京介、E・H・エリック、ピーター・ウィリアムス、村瀬幸子、守田学、中条静夫
●とてつもない傑作だった。たまに増村保造には心底驚かされる。日本映画で唯一無二のスパイ映画ではあるのだが、ヒリヒリした緊張感と冷徹重厚な世界観を保ちながら、東宝から加東大介を呼んだことで熱量が加わって学校生たちの青春映画の様相さえ生み出した。そして養成から実践へとサスペンスは加速し、観るものを圧倒する。


眠狂四郎無頼剣
2025.01.03 角川シネマ有楽町 [1100円/79分]
【04】1966年大映 監督:三隈研次 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、工藤堅太郎、島田竜三、遠藤辰雄、上野山功一、香川良介、永田靖、酒井修、水原浩一
●どうも一連の雷蔵映画で『眠狂四郎』の打点が低い。数年前まで雷蔵といえば眠狂四郎というイメージだったが、シリーズのルーティンが悪目立ちしてしまうのか。それでも三隈研次と伊藤大輔の最強コンビが狂四郎に「市井の民のため」などと言わせてほしくなかった。原作の柴田錬三郎が本作に激怒したというが、妙に納得してしまった。


斬 る
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1200円/71分] ※再観賞
【03】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、天知茂、藤村志保、渚まゆみ、万里昌代、浅野進治郎、柳永二郎、細川俊夫、稲葉義男、毛利郁子
●「斬る・斬られる」に特化して描く新藤兼人の脚本を三隈研次が例によって圧倒的テンポの良さで一気に見せ切ってしまう。こんな演出をされたら新藤も脚本家冥利に尽きるのではないか。恥ずかしながら2年前に観たばかりなのに「完」と出た時、「え?もう終わってしまったのか・・・」と思った。これまた傑作と言わずして何と言う。


薄桜記
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/110分] ※再観賞
【02】1959年大映 監督:森一生 脚本:伊藤大輔
CAST:市川雷蔵、勝新太郎、真城千都世、三田登喜子、大和七海路、北原義郎、島田竜三、千葉敏郎、荒木忍、伊沢一郎
●名作と知りながら2年前に観たばかりなので観賞を躊躇したが、再見して良かった。改めて傑作だ。殺陣をたっぷり見せながら安兵衛の高田馬場の決闘から吉良邸討入りの史実を縦軸に、丹下典膳と千春の血みどろの悲恋を描き切る森一生の演出。そして最後に時系列をピタリと合わせた伊藤大輔の脚本。この作劇は驚異以外の何ものでもない。


華岡青洲の妻
2025.01.02 角川シネマ有楽町 [1100円/99分]
【01】1967年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:市川雷蔵、若尾文子、高峰秀子、伊藤雄之助、渡辺美佐子、浪花千栄子、原知佐子、伊達三郎、木村玄、内藤武敏
●何と5歳の時に連れて行ったと母が言っていた。もちろん一切憶えていなかったが、よくぞ増村ワールドを幼な子に浴びせたものだと思う。もちろん医者の話として『赤い天使』と比べればかなり文芸色が強いのだが、雷蔵を狂言回しに置いて若尾と高峰の嫁姑のヒリヒリする暗闘を描きながら女性映画として高みに到達しているのは流石だ。
※1967年キネマ旬報ベストテン第5位



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