●2021年(令和3年)
◎バクラウ 地図から消された村
2021.01.01 シアター・イメージフォーラム BACURAU [1200円/131分]
【01】2019年ブラジル=フランス 監督:クレベール・メンドンサ・フィリオ 脚本:ジュリアーノ・ドルネレス他
CAST:ソニア・ブラガ、ウド・キアー、バルバラ・コーレン、トマス・アキーノ、シルベロ・ペレイラ、カリーヌ・テレス
●狩られるはずの閉鎖的な村が狩る者をほぼ一方的に一掃する。次々と並べられる生首。まさに躊躇なしの逆説バイオレンス。しかし外敵と闘い続けた村の歴史・伝統の前に狩られていく急ごしらえの殺戮ユニットの無様さはどこか痛快でもある。ジャンル映画なのだろうが、第三国のインディーズ映画らしいいかがわしさが癖になる一作だ。
◎悪い奴ほどよく眠る
2021.01.01 新文芸坐 [1200円/113分]
【02】1960年東宝=黒沢プロ 監督:黒澤明 脚本:小国英雄、久板栄二郎、黒澤明、菊島隆三、橋本忍
CAST:三船敏郎、森雅之、志村喬、香川京子、三橋達也、加藤武、西村晃、藤原釜足、山茶花究、藤田進、笠智衆、宮口精二
●劇場未見だった。大手ゼネコンと公団の汚職に伴う人間性の喪失。小難しそうなイメージで勝手に敬遠してきたのだが、何てことはないどっぷり娯楽作品だった。黒澤映画らしい演者の緊張感が見応えあり。ただあの時代の限界だったのか巨悪の正体を暴くまでに至らず、三船の復讐劇に落とし込んでしまい軽さが残ってしまったか。
※1960年キネマ旬報ベストテン第5位
◎えんとつ町のプペル
2021.01.02 イオンシネマ座間:スクリーン1 [1100円/100分]
【03】2020年東宝=吉本興業=STUDIO4℃ 監督:廣田裕介 脚本:西野亮廣
CAST:(声)窪田正孝、芦田愛菜、立川志の輔、小池栄子、藤森慎吾、野間口徹、伊藤沙莉、飯尾和樹、宮根誠司、國村隼
●予告編の時からこのアニメには引っ掛かるものを感じていた。キンコン西野の原作童話の映画化だったと観賞後に知る。映画を観たというより遊園地のアトラクションに乗ってきたような気分だったが、あまりに真っ直ぐなメッセージにきっと子供も素直に感動するのだろうと思うと、野暮なレヴューは難癖になりそうなので不要なのか。
◎新 感染半島 ファイナル・ステージ
2021.01.02 イオンシネマ座間:スクリーン9 반도 PENINSULA [無料/116分]
【04】2020年韓国 監督:ヨ・サンホ 脚本:ヨ・サンホ、リュ・ヨンジェ
CAST:カン・ドンウォン、イ・ジョンヒョン、クォン・ヘヒョ、キム・ミンジェ、ク・ギョファン、キム・ドゥユン、イ・イェオン
●堂々たる世界視野のホラーアクション。もちろん粗削りな個所は散見されるが、そもそもゾンビ映画に理屈は要らないと、凄まじいスピードとまがまがしいまでのアクションで行き着くところまで行かれると、あからさまに泣かせにかかる場面も素直に感動してしまう。もはや彼らには日本映画など眼中にないはずで、悔しいがこれが現実だ。
◎醉いどれ天使
2021.01.03 新文芸坐 [1200円/98分] ※再観賞
【05】1948年東宝 監督:黒澤明 脚本:植草圭之助、黒澤明
CAST:三船敏郎、志村喬、山本礼三郎、中北千枝子、木暮実千代、千石規子、殿山泰司、堺左千夫、久我美子、笠置シヅ子
●40年前、並木座の最前列。とにかく三船敏郎の印象が強烈だった。木造バラックのマーケット、鉄道の橋梁、メタンガスが噴く沼地、ダンスホール、一杯飲み屋、真夜中のギター、ウィスキー。やくざの縄張りという狭い路地を狼と子羊を同居させながら、肩で風切り、酒に溺れ、病魔にのたうつ三船。戦後日本映画の青春を感じさせる一篇。
※1948年キネマ旬報ベストテン第1位
◎声優夫婦の甘くない生活
2021.01.06 新宿武蔵野館 GOLDEN VOICES [1100円/88分]
【06】2019年イスラエル 監督:エフゲニー・ルーマン 脚本:エフゲニー・ルーマン、サンチャゴ・アミゴレーナ
CAST:ウラジミール・フリードマン、マリア・ベルキン、エヴェリン・ハゴエル、アレクサンダー・センデロビッチ
●ソ連崩壊時に大量のユダヤ系ロシア人がイスラエルに渡った事実は知らなかった。ならばフセインのガスマスク以外にもっとカルチャーギャップを描いて欲しかった。とにかく旦那が好きになれない。我を通すのはいいが、それが横暴だったり独りよがりだったりと、まるで共感出来ない。妻のラヤの恋のアバンチュールの方が絶対に面白い。
◎おとなの事情 スマホをのぞいたら
2021.01.09 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1100円/101分]
【07】2020年ソニー=共同テレビ 監督:光野道夫 脚本:岡田惠和
CAST:東山紀之、鈴木保奈美、常盤貴子、益岡徹、田口浩正、木南晴夏、淵上泰史、室龍太、桜田ひより、青木和代
●イタリア本国版は観ていないが、ワンシチュエーションものなら舞台劇風な仕上がりは変わらないだろう。ただアバンタイトルから波乱含みである必要はあったか。普通のパーティが徐々にエスカレートし、カタルトロフィになっていくメリハリが欲しかった。他にもまだまだツッコミどころは少なくないが、結構楽しく観ていたのも確かかな。
◎おとなの事情
2021.01.10 新宿シネマカリテ PERFETTI SCONOSCIUTI [1100円/96分]
【08】2016年イタリア 監督・脚本:パオロ・ジェノベーゼ 脚本:フィリッポ・ボローニャ、パオロ・コステラ
CAST:ジュゼッペ・バッティストン、アルバ・ロルヴァケル、ヴァレリオ・マスタンドレア、アンナ・フォッリエッタ
●日本版の翌日、カリテの凱旋上映に駆けつけた。舞台劇風などとんでもない。矢継ぎ早のカットにカメラ移動、はっきり映画だった。パーティが修羅場と化す迫力は段違いに凄い。ただ日本版がいかに微に入り細に入り親切に物語を展開させていたことも分かった。本国版の何もかも月蝕の終了で終わらせてしまったのにはやや不満が残った。
◎ミッシング・リンク 英国紳士と秘密の相棒
2021.01.11 小田原コロナシネマワールド:スクリーン4 MISSING LINK [1200円/93分]
【09】2019年カナダ=アメリカ 監督:クリス・バトラー 脚本:クリス・バトラー
CAST:(声)ヒュー・ジャックマン、ゾーイ・サルダナ、ザック・ガリフィアナキス、スティーヴン・フライ、エマ・トンプソン
●前作『KUBO/クボ』の目まぐるしさにすべてを消化できないもどかしさもあり、今度こそは思いながら観た。そんなこんなで海外のアニメスタジオではライカとカートゥーン・サルーンは観賞必須と決めているが、おっさんの成長物語が子供に受け入れられず本国で大コケしたのは残念。唯一無二のスタジオだけに心配だ。大丈夫かライカ。
◎トータル・リコール <デジタルリマスター版>
2021.01.11 小田原コロナシネマワールド:スクリーン6 TOTAL RECALL [1200円/93分] ※再観賞
【10】2019年アメリカ 監督:ポール・バーホーベン 脚本:ロナルド・シュセット、ダン・オバノン、ゲイリー・ゴールドマン
CAST:アーノルド・シュワルツェネッガー、レイチェル・ティコティン、シャロン・ストーン、マイケル・アイアンサイド
●それほど昔の映画という認識がなかったものだから、観ていくうちに色々と思い出すだろうと思っていたが、殆どの場面を忘れていた。そうか公開から30年。あれから倍も齢をとるとはこういうことなのかと妙な感慨。結構驚いたのが、ほぼ全編でシュワちゃんが追手をかわす場面の連続だったこと。バーホーベンのキレ味は経年に耐えていた。
◎AWAKE
2021.01.11 小田原コロナシネマワールド:スクリーン5 [1200円/98分]
【11】2020年キノ・フィルムズ 監督:山田篤宏 脚本:山田篤宏
CAST:吉沢亮、若葉竜也、落合モトキ、寛一郎、馬場ふみか、川島潤哉、永岡佑、森矢カンナ、中村まこと
●9×9のマス目、36.4cm × 33.3cm。この距離感で衆人注視の中、相手の息遣いを意識しながらの勝負など、素人の私には想像を絶する世界だが、駆け引きの効かない得体の知れぬAIと対峙する棋士の心境はどういうものだろう。対局の視点が人間側ではなくAI側というのがユニークではあったが、主人公のあまりの “童貞感” 嫌気がさした。
◎ウルフウォーカー <日本語吹替版>
2021.01.16 あつぎのえいがかんkiki WOLFWALKERS [1000円/103分] ※再観賞
【12】2020年アイルランド=ルクセンブルク 監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート 脚本:ウィル・コリンズ
CAST:(声)新津ちせ、池下リリコ、井浦新、櫻井智、西垣俊作
●昨年のベストワンを吹替えで。改めて考えうる対立事象のすべてを描きながら、ふたりの少女の冒険として浮かび上がらせる圧倒的なアニメーション表現。そして、浮かび上がる対立事象の究極が「史実と寓話」。かくも物語の力は偉大なのだ。新津ちせちゃん、オリジナル版は16歳の声優なのに、きちんと世界観を掴んでいて本当に達者で。
◎聖なる犯罪者
2021.01.17 横浜ブルグ13:シアター10 BOŻE CIAŁO [1200円/115分]
【13】2019年ポーランド=フランス 監督:ヤン・コマサ 脚本:マテウシュ・パツェヴィチ
CAST:バルトシュ・ビィエレニア、エリーザ・リチェムブル、アレクサンドラ・コニェチュナ、トマシュ・ジィェンテク
●ダニエルの行動原理は衝動的だが、揺らぎながらはっきり光を求めている。しかし求道者は自己陶酔の罠に囚われ、やがて空洞化してゆく。映画は悪にも善にも振り切れない青年の、心の空洞を描き切る。結局、空洞を埋めたのは暴力。ダニエルにとって肉体への直接的な痛みこそ、神の存在を凌駕するものだった。間違いなく秀作の一言。
◎恋する遊園地
2021.01.17 横浜ブルグ13:シアター8 JUMBO [1200円/94分]
【14】2019年フランス=ベルギー=ルクセンブルク 監督:ゾーイ・ウィットック 脚本:ゾーイ・ウィットック
CAST:ノエミ・メルラン、エマニュエル・ベルコ、バスティアン・ブイヨン、サム・ルーウィック
●いくらなんでも描き方ってものがあるだろう。ティーンムービーのラブコメチックな邦題もひどいが、主人公もその周辺のキャラクター造形が浅すぎる。まず「対物性愛」を観客にリアルなこととして説得する気はゼロ。映画学校の卒業制作もどきの作り手たちは女の子を脱がしまくった挙句、軽くポップにファンタジーとして描く。有り得ん。
◎43年後のアイ・ラブ・ユー
2021.01.17 横浜ブルグ13:シアター5 REMEMBER ME [1200円/89分]
【15】2019年スペイン=アメリカ=フランス 監督:マーティン・ロセテ 脚本:マーティン・ロセテ
CAST:ブルース・ダーン、カロリーヌ・シオル、ブライアン・コックス、セレナ・ケネデ、シエンナ・ギロリー
●ブルース・ダーンがこんな上手に齢をとるとは思わなかった。とりわけ笑顔が最高。同じアムロジピンを処方されているのが嬉しくなるほど。老人介護の現場が甘いものではないことを知っているし、アルツハイマーが簡単に完治しないことも知っている、でも彼の笑顔につられて微笑んでしまう。まさしく愛すべきファンタジー。
◎さんかく窓の外側は夜
2021.01.23 イオンシネマ座間:スクリーン3 [1100円/102分]
【16】2020年ワタナベエンター=ハピネット=松竹 監督:森ガキ侑大 脚本:相沢友子
CAST:志尊淳、岡田将生、平手友梨奈、滝藤賢一、筒井道隆、マキタスポーツ、新納慎也、桜井ユキ、和久井映見、北川景子
●ホラーサスペンスの体で、累々たる惨劇描写や死体損壊は旺盛だが観客を怖がらせようとはしていない。映画の半分は岡田将生が志尊淳を背中から抱いて胸に手を当てるホモセクシャルなビジュアルで魅せようとしている。それではイケメン萌えの女子でもゲイでもないこちらは残り半分を楽しむしかないが、さすがにこのストーリーでは無理。
◎エマの秘密に恋したら
2021.01.23 イオンシネマ座間:スクリーン8 CAN YOU KEEP A SECRET? [1100円/94分]
【17】2019年アメリカ 監督:イリース・デュラン 脚本:ピーター・ハッチングス
CAST:アレクサンドラ・ダダリオ、タイラー・ホークリン、スニータ・マニ、デイヴィット・チャールズ・エバーツ
●他愛ない恋愛成就もので、肝心の「秘密」も実に他愛ない。しかしこういう映画は嫌いになれない。むしろ好物だ。素直にヒロインを応援したくなる。一方で王道のシンデレラストリーの隙間に放り込んでくる下ネタにも笑ってしまった。本当は「満場の観客と一緒に大笑いした」と記憶に残したかったが、残念ながら「貸切り」だった…。
◎この世界に残されて
2021.01.24 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 AKIK MARADTAK [1100円/88分]
【18】2019年ハンガリー 監督:バルナバーシュ・トート 脚本:バルナバーシュ・トート、クララ・ムヒ
CAST:カーロイ・ハイデュク、アビゲール・セーケ、マリ・ナジ、カタリン・シムコー、バルナバーシュ・ホルカイ
●42歳の中年医師と16歳の少女の同居生活。映画の演出、技術、物語、演技など観たままの感想なら書ける。しかしホロコーストが前提となると、どうしてもつきまとう他国感。これがあると作品の表層をなぞるだけで本質には踏み込めない。踏み込もうとしてもハンガリーのユダヤ人殺害50万以上の事実の前に躊躇する。もう仕方がないのか。
◎燃ゆる女の肖像
2021.01.24 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 PORTRAIT DE LA JEUNE FILLE EN FEU [1100円/122分] ※再観賞
【19】2019年フランス 監督:セリーヌ・シアマ 脚本:セリーヌ・シアマ
CAST:アデル・エネル、ノエミ・メルラン、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ
●二度目の観賞。前回は視線の交錯に気をとられすぎていた。マリアンヌの「最後に彼女と会ったのは~」のナレーションも気になっていた。もしやエロイーズは亡くなっていたのかと。なぜ二人は視線を交わさず終わったのか。オルフェの行動に習ったのか。しかし圧巻のラスト、ヴィバルディに落涙したエロイーズは微笑んでもいたのだ。
※2020年キネマ旬報ベストテン第3位
◎四月物語
2021.01.25 新文芸坐 [1150円/67分]
【20】1998年ロックウェルアイズ 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:松たか子、田辺誠一、留美、江口洋介、津田寛治、加藤和彦、石井竜也、伊武雅刀、松本幸四郎、市川染五郎
●上京したての女子大生の最初のひと月の小さな冒険。当時、天才と呼ばれていた映像クリエーター・岩井俊二がひたすら松たか子を愛でた67分。そこで獲得した雨の中、壊れた赤い傘の松たか子の表情。思わず見とれてしまった。私も松たか子を愛で続けることに一切の退屈はなく、岩井の創造した絵の中の彼女をもっと見ていたかった。
◎スワロウテイル
2021.01.26 新文芸坐 [無料/149分]
【21】1996年ロックウェルアイズ=フジテレビ=ヘラルド 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:Chara、伊藤歩、三上博史、江口洋介、アンディ・ホイ、渡部篤郎、桃井かおり、山口智子、大塚寧々、洞口依子
●もう四半世紀近く経ったか。公開当時、妙なコマーシャリズムに岩井俊二の作家性が埋没してしまった印象だったが、猥雑な喧騒と乾いた暴力性を構築した堂々たる力作。確かに架空のイエンタウンを想像したことで、ディストピア化された中で起こる事件のなんでもあり感は否めないが、それでも内包する凶暴性とキレ味は色褪せてはいない。
◎花とアリス
2021.01.26 新文芸坐 [ 〃 /125分]
【22】2004年ロックウェルアイズ=東宝 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:鈴木杏、蒼井優、郭智博、坂本真、相田翔子、平泉成、木村多江、広末涼子、大沢たかお、阿部寛、ルー大柴
●果たして女の子の感性をそのまま風景の中に溶け込ませるテクニックで岩井俊二を超える者がいるのだろうか。宮本先輩をめぐる花とアリスの三角関係など物語の進行であって実はどうでもよく、女の子ふたりのバディ感がたまらなく面白い。『ブックスマート』のようでもあるが、最後の蒼井優の天晴なバレエが全部持って行ってしまった。
◎ラストレター
2021.01.30 新文芸坐 [1150円/121分] ※再観賞
【23】2020年ロックウェルアイズ=東宝 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:松たか子、福山雅治、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、庵野秀明、木内みどり、小室等、中山美穂、豊川悦司
●昨秋に『チィファの手紙』を挟んでちょうど一年。今度は最初から天国からの“美咲”目線で彼らの物語を見る。多少、物語や心情描写に綻びが散見されるも、そこは美咲の恣意的なコントロールなのだと思うと納得がいった。美咲の想いは乙坂の小説家としての再生であり、それは最後に卒業式の答辞を歩美に託すことで完結する。大好きだ。
◎Love Letter
2021.01.30 新文芸坐 [ 〃 /117分]
【24】1995年ヘラルド=フジテレビ 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:中山美穂、豊川悦司、酒井美紀、柏原崇、范文雀、篠原勝之、加賀まりこ、鈴木蘭々、中村久美、塩見三省、光石研
●ビデオで観て、いつかはシネスコの大画面で思いながら年月が過ぎた。今回の文芸坐の最大目玉に据えていたのだが、意外と平板な印象に「あれ?」となった。カメラワークと構成力で見せ切る映画なのにまったく心に響いてこない。出席番号を暗記していた浜口先生と図書カードの道具立ては好きだが、中山美穂への苦手意識は払えなかった。
※1995年キネマ旬報ベストテン第3位
◎名も無き世界のエンドロール
2021.01.31 109シネマズ グランベリーパーク:シアター1 [1200円/101分]
【25】2021年エイベックス=共同テレビ 監督:佐藤祐市 脚本:西条みつとし
CAST:岩田剛典、新田真剣佑、山田杏奈、中村アン、石丸謙二郎、大友康平、柄本明、島田裕仁、宮下柚百、豊嶋花
●原作ありきの映画なのだろうが「ラスト20分、あなたは心奪われる―」予告編でも使われていたが、この手の先入観を植えつけるコピーは止めてもらいたい。ただ「あぁなるほど」とは思った。過去と現在を交錯させるも、少年時代の映像に厳しさがないので、全体的に温い印象。岩田&真剣佑の真ん中に山田杏奈はやや座りが悪かったか。
◎ヤクザと家族 The Family
2021.01.31 109シネマズ グランベリーパーク:シアター3 [1200円/136分]
【26】2021年KADOKAWA=vap 監督:藤井道人 脚本:藤井道人
CAST:綾野剛、舘ひろし、尾野真千子、北村有起哉、市原隼人、磯村勇斗、駿河太郎、岩松了、豊原功補、寺島しのぶ
●暴対法施行以後のヤクザの実情を映画で初めて見た。極道が反社と呼ばれるようになり、時代の不条理と理不尽に疲弊し、憔悴してゆく。『新聞記者』の監督らしい切り口だが、ジャンル映画としてのひな形をきっちりと踏まえたうえで、「こんな生き方しか出来ない」ヤクザ者の憤りと悲しみを描き切っている。まさに熱い血が滾る一篇。
◎花束みたいな恋をした
2021.01.31 109シネマズ グランベリーパーク:シアター2 [1200円/136分]
【27】2021年製作委員会=フィルムメーカーズ 監督:土井裕泰 脚本:坂元裕二
CAST:菅田将暉、有村架純、清原果耶、細田佳央太、韓英恵、瀧内公美、佐藤寛太、オダギリジョー、戸田恵子、岩松了
●丸4年かけたカップルの感情曲線。自分が監督だったらこのシーンはこう描く、ここはカットする、ここは少し感情を入れたい。観ながらこんなことを考えていた。そういう余地のある映画は楽しい。オリジナル脚本の勝利だ。ふたりのカップルが醸す空気感に巻き込まれながら、結婚するか別れるか、結局、恋愛に勝るものなしと得心した。
※2021年キネマ旬報ベストテン第10位
◎KCIA 南山の部長たち
2021.02.06 横浜ブルグ13:シアター13 남산의 부장들 THE MAN STANDING NEXT [1200円/114分]
【28】2019年韓国 監督:ウ・ミンホ 脚本:イ・ジミン
CAST:イ・ビョンホン、イ・ソンミン、クァク・ドウォン、イ・ヒジュン、キム・ソジン、ソ・ヒョヌ、ジ・ヒョンジュン
●朴大統領暗殺事件の映画化。サスペンスとしての面白さはあったが光州事件以前の韓国の近代史に疎すぎてポリティカルな部分が見えず、金部長が暗殺に至った動機は朴正煕との革命への郷愁と現実との乖離としか読めなかった。米国とのパワーバランスが興味を惹いたものの、ひたすらイ・ビョンホンの耐え忍ぶ表情ばかり追いかけていた。
◎子連れ狼 子を貸し腕貸しつかまつる
2021.02.07 新文芸坐 [1150円/85分]
【29】1972年勝プロダクション=東宝 監督:三隅研次 脚本:小池一雄
CAST:若山富三郎、富川晶宏、渡辺文雄、真山知子、露口茂、内田朝雄、内藤武敏、加藤嘉、笠原玲子、伊藤雄之助
●面白かった!シネスコ大画面狭しと血沸き肉躍るどころか勢い余って血沫噴射し肉塊転がる、若山畢生の豪快時代劇。スプラッタ時代劇などと揶揄されようが観客が喜びそうなことを全部やる潔さ。そして元公儀介錯人・拝一刀の殺陣の凄まじさ素晴らしさ。格的に張り合えそうな渡辺文雄、露口茂を早々に血祭りとし、無頼がたむろう郷森宿へ。
◎子連れ狼 三途の川の乳母車
2021.02.07 新文芸坐 [ 〃 /85分]
【30】1972年勝プロダクション=東宝 監督:三隅研次 脚本:小池一雄、小島剛夕
CAST:若山富三郎、富川晶宏、松尾嘉代、大木実、岸田森、小林昭二、新田昌玄、松本克平、江幡高志、鮎川いづみ
●砂丘を編み笠の集団が走るだけでワクワクするも、香港カンフー映画がドッと入ってくる以前にここまで旺盛な殺戮ショーを展開する日本映画があったことに驚く。大映時代劇のエースの誉れをかなぐり捨てるが如し三隈研次の弾けっぷりはどうしたものか。この脚本コンビからして劇画そのものだが、若山の殺陣をたっぷり拝めるだけで眼福。
◎子連れ狼 死に風に向かう乳母車
2021.02.08 新文芸坐 [1150円/89分]
【31】1972年勝プロダクション=東宝 監督:三隅研次 脚本:小池一雄
CAST:若山富三郎、富川晶宏、加藤剛、浜木綿子、山形勲、水島道太郎、中谷一郎、伊達三郎、草野大悟、名和宏
●スタッフは大映、主演スターは東映、配給は東宝。もはや猥雑ともいえるハイブリットな状況は愈々カオスとなって、サービス精神はインフレの一途を辿る。これは一観客として感謝すべきなのか?刺客500両の報償は乳母車の武装に費やされ、装填された機関銃で撃ちまくる拝一刀。ついには清廉なイメージしかない加藤剛の首まですっ飛ばす。
◎子連れ狼 親の心子の心
2021.02.08 新文芸坐 [ 〃 /89分]
【32】1972年勝プロダクション=東宝 監督:斎藤武市 脚本:小池一雄
CAST:若山富三郎、富川晶宏、林与一、山村聰、東三千、岸田森、小池朝雄、田中浩、遠藤辰雄、内田朝雄、関山耕司
●クライマックスは殆ど戦国時代の合戦。しかも軍勢に立ち向かうは拝一刀と大五郎の親子だけ。もはや何でもありで行き着くところに行ってしまった感もあり、これでは巨匠・宮川一夫のカメラも刺客親子の冥府魔道の道行きを撮りあげる余地はなかったか。ただ邦画各社のクセ者たちが顔を揃える中、これぞ富三郎の真の代表シリーズと確信。
◎ガメラ2 レギオン襲来 <4KHDR>
2021.02.11 T・ジョイ横浜:シアター4 [1700円/100分] ※再観賞
【33】1996年大映=日本テレビ 監督:金子修介 特技監督:樋口真嗣 脚本:伊藤和典
CAST:永島敏行、水野美紀、吹越満、石橋保、藤谷文子、川津祐介、長谷川初範、螢雪次朗、渡辺裕之、沖田浩之
●ドルビー、4Kで蘇る平成ガメラ。ただ封切りで観たときほど面白いとは思えなかった。やはり5歳から映画館で観て育ってきた身として子供騙しと揶揄されようが昭和ガメラへの愛着は拭えず、変質させられた平成ガメラには違和感があり、そのことを25年経って納得した。もちろん装飾を豪華にしたこれとて前世紀の産物ではあるのだけど。
◎無 頼
2021.02.13 あつぎのえいがかんkiki [1000円/146分]
【34】2020年チッチオフィルム 監督:井筒和幸 脚本:佐野宜志、都築直飛、井筒和幸
CAST:松本利夫、柳ゆり菜、木下ほうか、中村達也、升毅、小木茂光、隆大介、外波山文明、三上寛、ラサール石井
●井筒は敢えて人物を深堀りせず昭和通史としてのやくざ映画を目指したのだろう。だから総花的になることは百も承知、ダイジェスト的であることも厭わないという意味で特異な映画だ。ただやくざ映画をずっと見続けて来て脳裏に刻まれるのは鉄砲玉たちの乱射と怒号のダイジェスト。井筒の記憶とどこかでシンクロする瞬間が楽しかった。
◎すばらしき世界
2021.02.14 109シネマズ グランベリーパーク:シアター1 [1200円/146分]
【35】2021年製作委員会=ワーナー 監督:西川美和 脚本:西川美和
CAST:役所広司、仲野太賀、橋爪功、梶芽衣子、六角精児、北村有起哉、長澤まさみ、安田成美、白竜、キムラ緑子
●刑務所を出た元やくざ、三上正夫という男の寄る辺なき日常に対し、どの距離で思い入れるべきなのかは迷う。性格は一本気、人懐っこい笑顔。しかしキレやすく激したら手がつけられない。ただこんな男が堅気の世界でじたばたしながら精一杯生きたことの記憶は留めたいとは思った。役所広司の熱演は嫌でも記憶に留まると思うが。
※2021年キネマ旬報ベストテン第4位
◎名探偵コナン/緋色の不在証明
2021.02.21 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 [1200円/94分]
【36】2021年小学館=TMS=読売=東宝 監督:山本泰一郎他 脚本:宮下隼一
CAST:(声)高山みなみ、池田秀一、日高のり子、田中敦子、森川智之、杉本ゆう、小山茉美、林原めぐみ、古谷徹
●コロナの影響で丸一年延び、急遽公開されたTV版ダイジャストは安易といえば安易。ただ劇場版より著しく絵のクォリティは劣るものの、原作を初期に卒業し、年に一度の映画を楽しみとしている程度の観客には赤井ファミリーの相関図が複雑で、最新作公開までの有難い参考ツールになった。しかも継ぎ接ぎでもそれなりに面白いのは流石。
◎あの頃。
2021.02.21 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 [無料/116分]
【37】2021年日活=ファントムフィルム 監督:今泉力哉 脚本:冨永昌敬
CAST:松坂桃李、仲野太賀、山中崇、若葉竜也、芹澤興人、コカドケンタロウ、大下ヒロト、山崎夢羽、西田尚美
●私は断じて人を見て笑う人間ではないが、寛容と多様性が求められる世の中、映画がブサイクとオカマで笑いをとれなくなり、最後の砦がオタクだと思っていたら、それも今泉力哉によって終焉させられた。いい齢こいて中学生気分で居続けられるほど夢中になれるものを持った彼らは、仲間の死をもイベントにしてしまう。うーん、逞しい。
◎ライアー×ライアー
2021.02.27 109シネマズ グランベリーパーク:シアター3 [1200円/117分]
【38】2021年アスミック・エース=ROBOT 監督:耶雲哉治 脚本:徳永友一
CAST:森七菜、松村北斗、小関裕太、堀田真由、七五三掛龍也、板橋駿、谷竹井亮介、相田翔子
●思えばラブコメディに嘘は重要な道具立てだ。『ローマの休日』なんて「ライアー×ライアー」そのもので、嘘から出た誠が恋愛映画のカタルシスならばこの映画だって悪くはない。ただモノローグを氾濫させすぎて、それに森七菜が合わせてしまっているのは残念。引出し甲斐のある逸材なのに実にもったいない。まぁ漫画原作の落とし穴かな。
◎リーサル・ストーム
2021.02.27 109シネマズ グランベリーパーク:シアター2 FORCE OF NATURE [1200円/100分]
【39】2020年アメリカ 監督:マイケル・ポーリッシュ 脚本:コーリー・ミラー
CAST:エミール・ハーシュ、ケイト・ボスワース、メル・ギブソン、デヴィッド・ザヤス、ステファニー・カヨ
●ディザスターパニックとクライムアクションとメルギブのヒーローぶりが楽しめると思ったが、どれもが中途半端。ご都合主義の連続の中でメルギブは早々に撃ち殺されてしまう。ハリケーンに足場は禁物で、せめて足場だけでも崩壊させてほしかった。ただ巨大アパートに舞台を限定した分、密度が担保された分だけ最後まで見せ切った。
◎あのこは貴族
2021.02.27 109シネマズ グランベリーパーク:シアター6 [1200円/117分]
【40】2021年東京テアトル=バンダイナムコ 監督:岨手由貴子 脚本:岨手由貴子
CAST:門脇麦、水原希子、高良健吾、石橋静河、山下リオ、佐戸井けん太、篠原ゆき子、石橋けい、山中崇、高橋ひとみ
●すでに原作があるにもかかわらず、すっと一篇の小説を読んでいる気分になったのは章立ての構成ばかりではない。確かな鼓動を感じさせる傑作に出逢った歓びと華子と美紀の物語が凡百な格差テーマを超えて東京の物語となった瞬間、心が波立つのを感じた。「結局、私たち東京の養分だよね」と笑う水原希子。早くも主演女優ものだろう。
※2021年キネマ旬報ベストテン第6位
◎ある人質 ― 生還までの398日 ―
2021.03.03 イオンシネマ座間:スクリーン2 ER DU MÅNEN, DANIEL [1100円/138分]
【41】2019年デンマーク=スウェーデン=ノルウェー 監督:ニールス・アルデン・オプレヴ、アナス・W・ベアテルセン 脚本:アナス・トマス・イェンセン CAST:エスベン・スメド、トビー・ケベル、アナス・W・ベアテルセン、ソフィー・トルプ
●ISに拘束されたデンマーク青年ダニエルの生還までの実話ドラマ。後藤さんの事件の際の自己責任論を思い出し胸糞悪くなるが、398日の中でISが生み出されていった社会悪と、ジョンが冷酷な処刑人となりISが過激化していく過程、並行してデンマーク家族たちが次第に絆を深くしていく様も映し出す。ややエンタメに寄せ過ぎた気もするが。
◎太陽は動かない
2021.03.07 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2 [1100円/110分]
【42】2021年製作委員会=ワーナー 監督:羽住英一郎 脚本:林民夫
CAST:藤原竜也、竹内涼真、ハン・ヒョジュ、ピョン・ヨハン、市原隼人、南沙良、加藤清史郎、鶴見辰吾、佐藤浩市
●WOWOWとの連動企画だそうで、エンドロールでダイジェスト映像が流れるが、スクリーンとの一期一会で臨ませてくれよと苦言を呈したい。しかしその為の設定のわかり辛さを差っ引いても世界を股にかけた陸海空のド派手アクションとして面白く観た。原作は吉田修一。純文学畑と思っていたら完全にどエンタメに振り切ったようだ。
◎野球少女
2019.03.07 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン4 야구소녀 BASEBALL GIRL [1100円/105分]
【43】2019年韓国 監督:チェ・ユンテ 脚本:チェ・ユンテ
CAST:イ・ジュヨン、イ・ジュニョク、ヨム・ヘラン、ソン・ヨンギュ、クァク・ドンヨン、チュ・ヘウン
●身体が小さいという設定としてもあまりに華奢。しかも高校球児なのに日焼けひとつしていない違和感。でも一直線に我を通すスインを応援してしまう。プロ入団が決まった幼馴染から「野球を続けているのは俺とお前だけ」と言われ、咄嗟にサインを求める場面がいい。スポ根もジェンダー臭も抑え目で、日本語字幕で観たのがよかったか。
◎あの頃をもう一度
2021.03.07 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン1 US AGAIN [1100円/7分]
【44】2021年アメリカ 製作指揮監督:ジェニファー・リー 監督:ザック・パリッシュ
CAST:(短編アニメーション)
●ダンスの素養もないし、ここまで弾けた青春の一コマは思い浮かばないが、たった7分の間に主人公の心情とシンクロさせつつ、夢の世界に連れて行ってもらった。ジーン・ケリーへのオマージュもちらつかせショービジネスの真髄に触れた思い。画像は最先端でも昔から変わらぬディスニーのマジックなのか。毎度のことながらやられちゃう。
◎ラーヤと龍の王国
2021.03.07 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン1 RAYA AND THE LAST DRAGON [1100円/114分]
【45】2021年アメリカ 監督:ドン・ホール、カルロス・ロペス・エストラーダ 脚本:アデル・リム、キュイ・グレン
CAST:(声)吉川愛、高乃麗、森川智之、伊藤静、深見梨加、後藤光祐、斎藤汰鷹
●宣伝期間も短く、客入りも悪かったが、『アナ雪』を軽く凌駕する面白さだ。CGアニメ技術の先進性、圧倒感は言わずもがなで、テーマ良し、ストーリー良し、キャラクター良しと、ファンタジーは苦手だがこれだけ良いものづくしを見せつけられるともう感服するしかない。敢えて難クセつければファング以外の領国がショボかったことか。
◎シン・エヴァンゲリオン劇場版:||
2021.03.10 109シネマズ グランベリーパーク:シアター6 [無料/155分]
【46】2021年カラー=東宝=東映 総監督:庵野秀明 監督:鶴巻和哉、中山勝一、 脚本:庵野秀明
CAST:(声)緒方恵美、林原めぐみ、宮村優子、坂本真綾、三石琴乃、山口由里子、立木文彦、神木隆之介
●使われる言語や忘れていたキャラクターなど意味不明なことだらけだったが、ひと掴みで世界観は何故かビシビシ伝わってきた。もちろんエヴァの世界観解明など博士論文級の難事業なのだろうが、エヴァンゲリオンと書いて“庵野秀明”と読むと思いはじめたら、本当にそうとしか読めなくなってしまった。壮大な個人史を見せてもらったか。
◎わたしの叔父さん
2021.03.14 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 ONKEL [1100円/106分]
【47】2019年デンマーク 監督:フラレ・ピーダセン 脚本:フラレ・ピーダセン
CAST:イェデ・スナゴー、ペーダ・ハンセン・テューセン、オーレ・キャスパセン、チュ・フリスク・ピーターセン
●描かれるのは30代の娘と叔父の同居生活。そして酪農と農業。はっきり労働映画だが共産主義的な労働礼賛は皆無。結構な尺を無言の食卓描写に割かれているが一切の退屈は感じない。描写に嘘がないからだ。唐突にエンドクレジットが出たとき、思わず「おお」となる。動機より今のリアルを切り取ったつっけんどんな幕引きは好きだ。
◎春江水暖 ―しゅんこうすいだん
2021.03.14 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 春江水暖 [1100円/150分]
【48】2019年中国 監督:グー・シャオガン 脚本:グー・シャオガン
CAST:チエン・ヨウファー、ワン・フォンジュエン 、スン・ジャンジエン、スン・ジャンウェイ、ジャン・レンリアン
●富春江が山水画のようだといわれるが私にはまったくそうは見えず、むしろ見えないことこそ重要ではないか。近代化が先鋭する中国で取り残され気味の大家族も、苦悩のひとつひとつは普遍的なものであり、大河の一滴として共感出来る。シネスコでないことに失望したが、川視線から丘へ高低差を捉えた縦構図の人物の交錯が素晴らしい。
※2021年キネマ旬報ベストテン第7位
◎天国にちがいない
2021.03.14 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 IT MUST BE HEAVEN [無料/102分]
【49】2019年フランス=カタール=ドイツ=カナダ=トルコ=パレスチナ 監督・脚本:エリア・スレイマン
CAST:エリア・スレイマン、ガエル・ガルシア・ベルナル、タリク・コプティ、アリ・スリマン、カリーム・グネイム
●一体どこの国の映画なのかわからないが、そんなアイデンティティが重要な隠しテーマなのだそうだ。ただそんな高尚な話よりオチのないコントを延々と見せられ退屈極まる。『ホモ・サピエンスの涙』もそうだが、滑稽の羅列を以て何かのメタファーとする手法は面倒くさい。多様な人種を網羅した分だけあの傲慢さより相当マシだったが。
◎ワン・モア・ライフ!
2021.03.20 新宿武蔵野館 MOMENTI DI TRASCURABILE FELICITÀ [1200円/94分]
【50】2019年イタリア 監督:ダニエーレ・ルケッティ 脚本:ダニエーレ・ルケッティ、フランチェスコ・ピッコロ
CAST:ピエールフランチェスコ・ディリベルト、トニー・エドゥアルト、レナート・カルペンティエーリ、トニー・エドゥアルト
●いきなりの交通事故にびっくり。天国の受付で1時間32分の延命が決定。その絶妙な時間に思わずニヤリ。ところがリアルタイムにストーリーが進むのではなく、回想シーンが入り乱れ、伊太利オヤジの女遍歴のダラダラ展開にがっかり。92分の設定は何だったのだ。そして親子の和解にほろりした自分の甘ちゃんぶりに一番がっかりした。
◎ベイビーティース
2021.03.20 新宿武蔵野館 BABYTEETH [1200円/117分]
【51】2019年オーストラリア 監督:シャノン・マーフィー 脚本:リタ・カルネジャイス
CAST:エリザ・スカンレン、トビー・ウォレス、エシー・デイヴィス、ベン・メンデルソーン、エミリー・バークレイ
●難病少女と不良少年の最初で最後の恋。予告編はよく出来ていたが、本編にその半分の面白さも感じられなかった。昔のニューシネマの過酷さと刹那な衝撃、或いは研ぎ澄まされた恋愛の新境地を目指して欲しかったが、結局、セックスで彼らは完結する。両親の庇護のもと、乳歯は抜けたが「難病もの」のレッテルからは抜けられなかった。
◎サハラ戦車隊
2019.03.20 シネマヴェーラ渋谷 SAHARA [800円/97分]
【52】1946年アメリカ 監督:ゾルタン・コルダ 脚本:フィリップ・マクドナルド
CAST:ハンフリー・ボガート、ブルース・ベネット、ロイド・ブリッジス、レックス・イングラム、J・キャロル・ナイシュ
●内容はほぼ忘れていたが、中学のときテレビで見て心から面白いと思った。この齢でスクリーンで再会し記憶が正しかったことにも感動。いやはや本当に面白い。ボギー主演は後から知るが、演出、脚本とも最高ではないか。製作年からして戦意高揚的なのは仕方ないが砂漠の戦場での兵士たちの心意気に胸が熱くなる。戦争娯楽映画の見本だ。
◎グエムル 漢江の怪物
2019.03.21 早稲田松竹 괴물 THE HOST [900円/120分]
【53】2006年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ハ・ジョンウォン、パク・チョルヒョン
CAST:ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン、イ・ドンホ、イ・ジェウン、ヨン・ジェムン
●早い話が怪獣映画だが、描くのは家族の絆。怪獣襲来の迫力、どこかすっとぼけた笑いをも内包する父親と兄妹たちの大奮闘。その描写のひとつひとつがもうアホみたいに一級品なのだ。展開の面白さにワクワクしながら観客は監督の演出意図を探ろうとしてしまう。本当にポン・ジュノという人は観客を掌に乗せて支配する術に長けている。
※2006年キネマ旬報ベストテン第3位
◎三つ数えろ
2019.03.21 シネマヴェーラ渋谷 THE BIG SLEEP [無料/110分]
【54】1946年アメリカ 監督:ハワード・ホークス 脚本:ウィリアム・フォークナー、リー・ブラケット
CAST:ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ジョン・リッジリー、マーサ・ヴィッカーズ、ドロシー・マローン
●字幕を清水俊二で味わいたかったが残念。でも人物が入り乱れ展開が把握できないのは字幕のせいではない。思えば清水俊二翻訳のチャンドラー原作『大いなる眠り』もわからないまま完読したのだったか。フィリップ・マーロウのボギー、謎めいた女にローレン・バコール。もうこれ以上ない鉄板のハードボイルド。アンタの時代はよかった。
◎マルタの鷹
2019.03.25 シネマヴェーラ渋谷 THE MALTESE FALCON [800円/100分]
【55】1941年アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:ジョン・ヒューストン
CAST:ハンフリー・ボガート、メアリー・アスター、ピーター・ローレ、シドニー・グリーンストリート、ウォード・ボンド
●S・スペードはF・マーロウより女たらしで性格も悪いが、探偵として譲れない矜持がある。まさにプロの男の凄味。実は自室の本棚に40年近く肥やしになっているダシール・ハメットの原作。これがハードボイルド小説の元祖となり、その映画化でボギーがハードボイルド像の本家となったのだから『マルタの鷹』の存在意義はとてつもない。
◎ハイ・シエラ
2019.03.26 シネマヴェーラ渋谷 HIGH SIERRA [800円/100分]
【56】1941年アメリカ 監督:ラオール・ウォルシュ 脚本:W・R・バーネット、ジョン・ヒューストン
CAST:ハンフリー・ボガート、アイダ・ルピノ、アラン・カーティス、アーサー・ケネディ、ジョーン・レスリー
●ボギーの実質初主演映画らしい。相応しい役どころだったのかどうかわからないが、出所し、すぐさま犯罪に手を染め、農夫の一家に慈愛を施しつつ失恋。人を殺し、新たな恋に目覚め、逃亡の果てに射殺される。なんて忙しい映画なのだろう。でもボギーが演じると雑多なことが一つのトーンにまとまるのが不思議。これが大スターの証か。
◎脱 出
2019.03.27 シネマヴェーラ渋谷 TO HAVE AND HAVE NOT [800円/100分]
【57】1944年アメリカ 監督:ハワード・ホークス 脚本:ジュールス・ファースマン、ウィリアム・フォークナー
CAST:ハンフリー・ボガート、ローレン・バコール、ウォルター・ブレナン、ドロレス・モラン、ホギー・カーマイケル
●ハワード・ホークスに「君の小説では最低だ」と揶揄されたヘミングウェイ。でもハードボイルドサスペンスの金字塔に仕上がった。バコールが自伝でボギーとの恋を綴っているが、まさにハリウッド屈指のカッコいい男と女のロマンスが最高の道具立てで展開する。もうご両人が一つの画面に収まっているだけで素敵なポートレートになる。
◎黄 金
2019.03.27 シネマヴェーラ渋谷 THE TREASURE OF THE SIERRA MADRE [800円/126分]
【58】1948年アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:ジョン・ヒューストン
CAST:ハンフリー・ボガート、ウォルター・ヒューストン、ティム・ホルト、ブルース・ベネット、バートン・マクレーン
●マックス・スタイナーの音楽が耳から離れない。さて私は仲間を殺して砂金を独り占めするなどの了見は持ち合わせていないが、猜疑心には相当苦しめられるだろう。当時の観客がこんなボギーを期待していたかは不明だが、メキシコ革命後の混沌とした社会状況の中、物乞いから始まり、持ち前の悪相で欲望に憑りつかれた男を鋭く演じ切る。
※1949年キネマ旬報ベストテン第8位
◎二重のまち/交代地のうたを編む
2021.03.27 ポレポレ東中野 [1200円/79分]
【59】2021年東風 監督:小森はるか、瀬尾夏美 作中テキスト:瀬尾夏美
CAST:古田春花、米川幸リオン、坂井遥香、三浦碧至(ドキュメンタリー)
●大震災から10年。語り部を託されたワークショップの4人の若者。途惑う彼らは伝承者としての資格を自問していく。最初は彼らのプロフィールも個性もわからないまま記録していくことに疑問を感じたが、伝承からやがて民話へと醗酵していく中で、その初端を掴み取らんとする百年後に向けた壮大な実験と得心すると興味深くはあった。
◎キー・ラーゴ
2019.03.29 シネマヴェーラ渋谷 KEY LARGO [800円/100分]
【60】1948年アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:リチャード・ブルックス、ジョン・ヒューストン
CAST:ハンフリー・ボガート、エドワード・G・ロビンソン、ローレン・バコール、クリア・トレヴァー、ライオネル・バリモア
●ハリケーンに閉ざされた海辺のホテル。ギャングのニセ札取引に巻き込まれた人々。ある種、ボギーのガマン劇の構図だが、『黄金』からすぐにヒューストンがバコールを配してボギーの現状復帰を試みたのかもかも知れない。ただ今回ばかりは二枚目然としたボギーより、エドワード・G・ロビンソンの凄玉ぶりに着目せずにはいられなかった。
◎ノマドランド
2021.04.03 川崎チネチッタ:CINE10 NOMADLAND [1200円/108分]
【61】2020年アメリカ 監督:クロエ・ジャオ 脚本:クロエ・ジャオ
CAST:フランシス・マクドーマンド、デヴィッド・ストラザーン、リンダ・メイ、シャーリーン・スワンキー、ボブ・ウェルズ
●生きる映画ではなく生き方の映画。狭い空間は嫌いではなく、ホームレスは無理でもハウスレスならやっていけそうだし、今より大勢の仲間も出来そうだ。いやいやそんな甘いものではない。胆力と仕事適応力が相当必要。敢えて厳しさと自由を選択したファーンの孤高の佇まいとその周りの実在のノマドたち。その格好良さにやっぱり憧れる。
※2021年キネマ旬報ベストテン第1位
◎JUNK HEAD
2021.04.03 川崎チネチッタ:CINE4 [1200円/100分]
【62】2021年MAGNET=ギャガ 監督:堀貴秀 脚本:堀貴秀
CAST:(声)堀貴秀、三宅敦子、杉山雄治(ストップモーションアニメーション)
●文句なしに素晴らしい。エンドロールに連なる堀貴秀の名前。「これを一人で作ったとは驚異」。観る前はそんなレビューを書くと予想していた。しかしその地下世界の信じ難い世界観、捕食のエゲつなさ、スピード感、時折放り込まれるギャグなど、労作であることを売り物にしないエンターティメントに溢れて過ぎて涙が出そうになった。
◎まともじゃないのは君も一緒
2021.04.04 109シネマズ グランベリーパーク:シアター7 [1200円/98分]
【63】2021年製作委員会=エイベックス・ピクチャーズ 監督:前田弘二 脚本:高田亮
CAST:成田凌、清原果耶、山谷花純、倉悠貴、大谷麻衣、泉里香、ボブ鈴木、小泉孝太郎
●オリジナル脚本での清原果耶と成田凌の長回し長台詞の応酬は見所のひとつではある。ただ清原のフェイスが端正すぎて『婚前特急』の吉高以上に、この監督=脚本コンビの女の子独善的なキャラが尖っていてキツかった。森七菜ならどうだったか。さらに後半、展開が失速したことでスクリューコメディの面白さに全面的には乗り切れなかった。
◎ミナリ
2021.04.04 109シネマズ グランベリーパーク:シアター4 MINARI [1200円/116分]
【64】2020年アメリカ 監督:リー・アイザック・チョン 脚本:リー・アイザック・チョン
CAST:スティーヴン・ユァン、ハン・イェリ、ユン・ヨジョン、ウィル・パットン、スコット・ヘイズ、アラン・キム
●東アジアの人間にとってアメリカの土地の広さは憧れでもあり途方もない壁だ。挑戦への欲求をくすぐられるも、下手をすれば破滅する。その象徴が廃棄され煙となるオスのひよこだろう。しかし韓国系の家族が直面する困難は普遍的な家族の話なのかもしれない。森の水辺にセリが菜って「おばあちゃんのお手柄だ」のラストに救われる。
◎騙し絵の牙
2021.04.04 イオンシネマ座間:スクリーン7 [1100円/113分]
【65】2021年製作委員会=松竹 監督:吉田大八 脚本:楠野一郎、吉田大八
CAST:大泉洋、松岡茉優、佐藤浩市、木村佳乃、佐野史郎、宮沢氷魚、池田エライザ、リリー・フランキー、塚本晋也、國村隼
●矢継ぎ早の展開と熱量、疾走するかのような編集、音楽。それでいて速度の荒々しさを感じさせない演技陣。文句ナシ!底知れぬ淀みを描き爪痕を残し続けてきた吉田大八がここまで面白さに振り切るのを初めて観た。未だ『桐島、部活~』を引き摺っている観客がどう感じたか不明だが、千差万別の「面白い」の形のひとつを具現化した傑作だ。
◎21ブリッジ
2021.04.10 TOHOシネマズ新宿:スクリーン6 21 BRIDGES [1200円/116分]
【66】2019年アメリカ=中国 監督:ブライアン・カーク 脚本: アダム・マーヴィス、マシュー・マイケル・カーナハン
CAST:チャドウィック・ボーズマン、シエナ・ミラー、テイラー・キッチュ、J・K・シモンズ、ステファン・ジェームズ
●表情の作り方といいアクションのキレといい、堂々たる主演スターぶりを観て、改めてチャドウィックの死を惜しむ。映画も終始ドンパチ飽きさせない。しかし麻薬絡みで他国の人間にも容赦なく厳罰を科す中国が、NY市警のコカイン汚職をエンタメとする映画にシレっと資本参加する。米中関係悪化が懸念される中でも体制とカネは別モノか。
◎砕け散るところを見せてあげる
2021.04.11 イオンシネマ座間:スクリーン4 [1100円/127分]
【67】2021年製作委員会=ROBOT 監督:SABU 脚本:SABU
CAST:中川大志、石井杏奈、井之脇海、清原果耶、松井愛莉、北村匠海、矢田亜希子、木野花、原田知世、堤真一
●時間軸の振幅の中で、いじめ被害者の玻璃が清澄に心を開く過程の妙な心地良さ。ふたりが共有するヒーローの解放感とUFOの閉塞感。SUBU映画の常連を超えた盟友?の堤真一演じるサイコな父親の存在がティーンムービーの枠組みを絶妙に破壊していく。明らかに何かが破綻しているが心にズシンとくる。こういうのを作家性というのか。
◎アンモナイトの目覚め
2021.04.11 イオンシネマ座間:スクリーン8 AMMONITE [1100円/120分]
【68】2020年イギリス=オーストラリア=アメリカ 監督:フランシス・リー 脚本:フランシス・リー
CAST:ケイト・ウィンスレット、シアーシャ・ローナン、ジェンマ・ジョーンズ、ジェームズ・マッカードル、フィオナ・ショウ
●モノトーンな海辺での女同士の愛。『燃ゆる女の肖像』を思わせるが、あれは「女の世界」。こちらは「女優の世界」ではなかったか。私にはシアーシャ・ローナンがいよいよ大女優の道を歩み始めた必然として、ケイト・ウィスレットの洗礼を浴びる映画に思えた。結果、シアーシャはケイトの圧に屈するが、それを含め真の女優の映画だ。
◎BLUE/ブルー
2021.04.16 新宿バルト9:シアター4 [1200円/107分]
【69】2021年製作委員会=ファントム・フィルム 監督:吉田惠輔 脚本:吉田惠輔
CAST:松山ケンイチ、東出昌大、木村文乃、柄本時生、守谷周徒、吉永アユリ、長瀬絹也、松木大輔、竹原ピストル
●瓜ちゃんの無垢なボクシング愛がパンチミットを受ける快音から伝わってくる。でも瓜ちゃんの一見の優しさ、負けへの寛容の深層に苦悩が見え隠れしたとき、この人にとっての夢とか達成感はどこに帰結していくのだろうと思った。三人のボクサーに後楽園ホールに染みつく「他の生き方を知らない者たち」の匂いを久々に嗅がせてもらった。
◎悲情城市
2021.04.17 K's cinema 悲情城市 [1000円/158分]
【70】1989年台湾 監督:ホウ・シャオシェン 脚本:ウー・ニェンチェン、ジュー・ティエンウェン
CAST:リー・ティエンルー、チェン・ソンユン、ジャック・カオ、トニー・レオン、チェン・シュウファ、ホアン・チンルー
●弾圧の嵐が吹き荒れる陳儀政権下の台湾。今更ながら木っ端恥ずかしいが侯孝賢を初めて観る。巨匠による丁寧な映像作りに前半は睡魔と断続的に記憶が飛んだが、後半、家族がバラバラになっていく様は見事。兄の処刑に衝撃を受けながら赤ん坊の口に豆腐を運ぶ母親の姿が圧巻だ。因みにこの場所で映画を観るのは実に36年ぶりのこと。
※1990年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ザ・ロック
2021.04.18 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 THE ROCK [1200円/135分]
【71】1996年アメリカ 監督:マイケル・ベイ 脚本:ディヴィッド・ワイスバーグ、ダグラス・S・クック
CAST:ショーン・コネリー、ニコラス・ケイジ、エド・ハリス、マイケル・ビーン、ウィリアム・フォーサイス、デビッド・モース
●相当なバジェットが投下された超大作だが、意外とビデオで観たときのサイズ感もアリだと感じた。まだまだレンタルショップが絶好調。なるほど面白い。ハンス・ジマーのスコアも耳に残る。しかし盛り過ぎだ。カーチェイスもトロッコも最後の爆弾投下も蛇足。余白を埋めることに邁進するベイはこの時点では確かに時代の寵児ではあったが。
◎名探偵コナン/緋色の弾丸
2021.04.19 TOHOシネマズ池袋:スクリーン2 [1200円/110分]
【72】2020年小学館=TMS=よみうり=東宝 監督:永岡智佳 脚本:櫻井武晴
CAST:(声) 高山みなみ、山崎和佳奈、小山力也、池田秀一、浜辺美波、日高のり子、田中敦子、小山茉美、林原めぐみ
●丸二年待たせたのだから手直し出来たのではないかと思うほどストーリーも設定も粗い。複雑な赤井ファミリーを全員集合させたものの、彼らが集結する必然性がない。超電導リニアの暴走もコナンと世良のコンビでは強すぎて緊迫感に欠けるし、赤井透に銀の弾丸を用意させた達観もやり過だ。そもそもあそこにうなぎの蒲焼は置かない。
◎ブレンダンとケルズの秘密
2021.04.22 早稲田松竹 THE SECRET OF KELLS [900円/75分]
【73】2009年アイルランド=フランス=ベルギー 監督:トム・ムーア、ノラ・トゥーミー 脚本:F・ジョルコウスキー
CAST:(声)エヴァン・マクガイア、ブレンダン・グリーソン、クリステン・ムーニー、ミック・ラリー、ポール・ティラック
●カートゥーン・サルーン〈ケルト三部作〉をかけてくれた早稲田松竹の名画座魂を称えたい。ただその第一作はケルト文化の愛着を発信するのにかかり気味でアイルランドのケルト装飾写本「ケルズの書」をめぐる独特の宗教観に戸惑いを覚えた。もちろん世界で最も美しい装飾写本の模様をモチーフにした背景などそれはもう美しい限りだが。
◎ソング・オブ・ザ・シー ~海のうた
2021.04.22 早稲田松竹 THE SECRET OF KELLS [900円/75分]
【74】2014年アイルランド=フランス=デンマーク=ベルギー=ルクセンブルク 監督:トム・ムーア 脚本:ウィル・コリンズ
CAST:(声)デヴィッド・ロウル、ブレンダン・グリーソン、フィヌーラ・フラナガン、リサ・ハニガン、ルーシー・オコンネル
●庇護に凝り固まった大人と対決せざるえない子供たち。この3部作の通奏低音なのだろう。最初は嫌なガキが次第に愛おしくなっているのも同じで、これにやられてしまうのだが、その心地良さたるやもう溜まらん気分。映像と歌と音楽。この三位一体の完成度。海辺の民による海の神話と伝承。もっと物語を見せてくれとの欲求が沸き上がる。
◎ドリームランド
2021.04.25 新宿武蔵野館 DREAMLAND [1200円/101分]
【75】2019年アメリカ 監督:マイルズ・ジョリス=ペイラフィット 脚本:ニコラス・ズワルト
CAST:マーゴット・ロビー、フィン・コール、トラヴィス・フィメル、ギャレット・ヘドランド、ケリー・コンドン
●砂嵐の街で女ギャングの逃亡に巻き込まれた17歳の童貞青年。これだけで私の好みにどストライクで、まして女ギャングにM・ロビーとなれば文句なしなのだが、青年の義父との確執や根拠が曖昧な楽園願望が重なって進行がもたつき、こちらが求める「愛と銃弾の逃避行」になってくれない。どこかで既視感を期待した私にも問題はあるのか。
◎街の上で
2021.04.25 新宿シネマカリテ [1200円/130分]
【76】2019年フィルムパートナーズ 監督:今泉力哉 脚本:今泉力哉、大橋裕之
CAST:若葉竜也、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、中田青渚、村上由規乃、上のしおり、カレン、左近洋一郎、成田凌
●登場人物たちそれぞれが欠点を持ち、それが交じり合う化学反応が素晴らしい。都市ではなく街目線の青春模様で文句なしのベスト候補。下北沢カルチャーに吸い寄せられたような女たちに翻弄される青くんの致し方なし感が愛おしく、とにかく青とイハの長回し恋愛話からカップルドッキリのギャグまで今泉力哉の演出が冴えまくっている。
◎藁にもすがる獣たち
2021.05.01 あつぎのえいがかんkiki 지푸라기라도 잡고 싶은 짐승들 [無料/109分]
【77】2020年韓国 監督:キム・ヨンフン 脚本:キム・ヨンフン
CAST:チョン・ドヨン、チョン・ウソン、ペ・ソンウ、ユン・ヨジョン、チョン・マンシク、チン・ギョ、シン・ヒョンビン
●追い詰められ、欲望に駆られた人々が衝動的に一線を超える。韓国映画らしいエグ味を効かせたクライムサスペンス。ただ曽根圭介の原作がそうなのかわからないが、時間軸をズラしたストーリーの仕掛けが、ギラギラした人間の臭みをスポイルしてしまった。エンタメ的な面白味よりもっと生理的嫌悪感を前面に出すべきだったのではないか。
◎薔薇の標的
2021.05.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/94分]
【78】1972年東京映画=東宝 監督:西村潔 脚本:白坂与志夫、桂千穂
CAST:加山雄三、チェン・チェン、岡田英次、トビー門口、加瀬英明、ロルフ・ジェサー、ユセフ・オスマン、二瓶正也
●監督・脚本と面子は揃っているが、モミアゲが過ぎる殺し屋・加山雄三のフェイスの違和感ぶりもさることながら、銃に憑りつかれた男の心象があまりに脆弱。結局ヒロインのボディガードに成り下がるが、アンチカタルシスの余韻も物足りない。岡田英次の第四帝国も戦隊ヒーローものの秘密基地レベル。ただ最後の弾着はカッコよくキマった。
◎大江戸性盗伝 ―女斬り―
2021.05.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/71分]
【79】1973年日活 監督:藤井克彦 脚本:桂千穂
CAST:小川節子、五條博、江角英明、梢ひとみ、宮下順子、林美樹、高橋明、桂小かん、小森道子、宝京子、丹古母鬼馬二
●桂千穂脚本らしい大江戸版ジャック・ザ・リッパ―。時代劇の美人奥方はTV『大岡越前』の宇都宮雅代がナンバーワンだと思っていたが、小川節子が画面に登場した瞬間のあまりの美しさに思わず見とれてしまった。ロマンポルノを観始めた時には彼女は引退していたが、さすがクイーン・オブ・時代ポルノ。肢体より表情ばかり追いかけてしまう。
◎白鳥の歌なんか聞えない
2021.05.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/90分]
【80】1972年東宝 監督:渡辺邦彦 脚本:桂千穂
CAST:岡田裕介、本田みちこ、加賀まりこ、細川俊之、菅原一高、朝比奈逸人、広瀬昌助、田端芳子、南美江、文野朋子
●岡田裕介も桂千穂も昨夏亡くなったわけだが、恋人たちが自分たちの死を想像して怯える内容。全編になんちゃってフランシス・レイが流れる庄司薫原作の東宝軟弱優等生青春映画だが、それほど馬鹿にしたものではなかった。なにより岡田裕介の青春スターぶりもアリだと思ったし、この時代の女の子のミニスカートが何ともキュートで眼福だ。
◎囁きのジョー
2021.05.02 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/130分]
【81】1967年斎藤プロ=松竹 監督:斎藤耕一 脚本:斎藤耕一
CAST:中山仁、麻生れい子、信欣三、金内吉男、富士真奈美、西村晃、笠井紀美子、杉まり子、江幡高志、世良譲、渡辺貞夫
●ずっと観たかった斎藤耕一の監督第一作をコロナのご時世に21時スタートのレイトで観る。とにかく乾いたタッチでスタイリッシュ。とくにタイトルバックのジョーと可奈子のモノクロ映像が素晴らしい。決して面白い映画ではなかったが、海の映像の第一人者らしく、銃弾に倒れた可奈子を筏に乗せて沖へ漕いでゆくラストのジョーは鮮烈。
◎ピーチ・バム まじめに不真面目
2021.05.05 kino cinema横浜みなとみらい THE BEACH BUM [1200円/95分]
【82】2019年アメリカ 監督:ハーモニー・コリン 脚本:ハーモニー・コリン
CAST:マシュー・マコノヒー、スヌープ・ドッグ、ザック・エフロン、ジョナ・ヒル、マーティン・ローレンス
●映画の主人公に教条主義的倫理観を持ち込まないのが信条なれど、ムーンドッグが好きかかと問われれば大嫌いだ。成長せず自由を謳歌し乱キチ騒ぎに明け暮れるのはいいが、結局、酒と葉っぱを食ってラリっているクソだ。少なくない他人を傷つけながら得る天真爛漫もクソなら、ピューリッツア賞の威光をオチに使う映画もクソすぎる。
◎14歳の栞
2021.05.05 kino cinema横浜みなとみらい [1200円/130分]
【83】2021年チョコレイト=パルコ 監督:竹林亮 (ドキュメンタリー)
CAST:ある中学2年6組35人の生徒たち、(ナレーション)YOU
●自称中学45年生と周囲の失笑を買う私も、今までの道程で14歳の頁には栞を挟んでいる。それを中二病というのか。今どきの中学生は皆、大人しくて悪目立ちする子はいないようだが、カメラが立ち入ることで彼らなりの人格が浮かび上るのが面白く、自分のあの頃を思い出しながら130分見ていられた。こういう映画体験もたまにはいい。
◎ジェントルメン
2021.05.08 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン13 THE GENTLEMEN [1200円/113分]
【84】2021年イギリス=アメリカ 監督:ガイ・リッチー 脚本:ガイ・リッチー
CAST:マシュー・マコノヒー、ヒュー・グラント、チャーリー・ハナム、ヘンリー・ゴールディング、ジェレミー・ストロング
●大麻王の利権譲渡をめぐるバトルの顛末を、回想、妄想、あろうことか台本仕立ても織り交ぜて描く虚実皮膜の観客巻き込み型クライムストーリー。しかも仕掛けやオフビートな笑いだけではなく、しっかりギャング映画好きも喜ばせてくれる描写力と達者な役者陣。「伏線回収」なるクソ用語を嘲笑かのような構成力で文句なしの面白さだ。
◎プロジェクトV
2021.05.08 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 急先鋒/VANGUARD [無料/107分]
【85】2020年中国 監督:スタンリー・トン 脚本:スタンリー・トン
CAST:ジャッキー・チェン、ヤン・ヤン、アレン、ムチミヤ、シュ・ルオハン、ジャクソン・ルー、ジュー・ジャンティン
●37年前、超満員の熱気ムンムンの中で観た『プロジェクトA』の興奮が忘れられない。香港映画の大スターはチャイナマネーとオイルマネーを橋渡しする中国映画のスポークスマンとなったか。国営映画会社のマークの図柄が共産党を礼賛しつつ黄金に輝いていたのに苦笑しつつ、身体の衰えより表情が乏しくなったのが何とも淋しかった。
◎ラブ・セカンド・サイト はじまりは初恋のおわりから
2021.05.09 イオンシネマ座間:スクリーン7 MON INCONNUE [1100円/118分]
【86】2019年フランス=ベルギー 監督:ユーゴ・ジェラン 脚本:H・ジェラン、I・ゴッテスマン、B・ペアレント
CAST:フランソワ・シビル、ジョセフィーヌ・ジャピ、バンジャマン・ラベルネ、カミーユ・ルルーシュ、エディット・スコブ
●好みからいえばリアルにヨーロッパ映画らしいテイストで恋愛観を突き詰めて欲しかったが、今やタイムリープやパラレルワールドを使った恋愛ファンタジーが世界の潮流なのかもしれない。そうなると二人の時間の整合性が気になってしまうのだが「運命の愛に時間も空間もない」といわれれば、整合性を求めるのは思考の浪費だったか。
◎シカゴ7裁判
2021.05.09 イオンシネマ座間:スクリーン9 THE TRIAL OF THE CHICAGO 7 [無料/130分]
【87】2020年アメリカ 監督:アーロン・ソーキン 脚本:アーロン・ソーキン
CAST:エディ・レッドメイン、アレックス・シャープ、サシャバロン・コーエ、ジェレミー・ストロング、ダニー・フラハティ
●「こちらは60年代なのに、ガラスの向こうは50年代だ」。映画を語るうえで重要なセリフだ。では50年代の名作『十二人の怒れる男』を思い出してみよう。集められた12人の陪審員は皆、男たちばかり、移民出身者は居ても全員が白人。当事者と傍観者の違いで民主主義の意味合いは大きく変わる。自由も民主主義も永遠に道半ばなのか。
◎騙し絵の牙
2021.05.09 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1100円/113分] ※再観賞
【88】2021年製作委員会=松竹 監督:吉田大八 脚本:吉田大八、楠野一郎
CAST:大泉洋、松岡茉優、佐藤浩市、國村隼、山本學、坪倉由幸、小林聡美、宮沢氷魚、池田エライザ、木村佳乃、佐野史郎
●数多のレヴューを読むと「さすが大泉洋は原作者からあて書されただけにピッタリだ」という声が多い。それが腑に落ちなかったのだが、吉田大八が原作から主人公を大きく変換していたと聞き納得。大泉の好演は努力の賜物だ。さらに松岡茉優の目線の動きの凄さ。恐るべき作品理解度の高さに驚いた。2回目で見えてくるものは少なくない。
◎北陸代理戦争
2021.05.12 新文芸坐 [1150円/113分] ※再観賞
【89】1977年東映 監督:深作欣二 脚本:高田宏冶
CAST:松方弘樹、千葉真一、ハナ肇、野川由美子、高橋洋子、伊吹吾郎、成田三樹夫、遠藤太津朗、地井武男、西村晃
●42年ぶり4回目の劇場観賞で一番面白いと感じた。観ながら気持ちが前のめりになるのを止められない。今や「三国事件」とセットで語られてしまう本作だが、私にはずっと「深作欣二最後のやくざ映画」の位置付けだった。中島徹の鋭いカメラの切替からの津島利章の音楽。もうたまらん。そして群像から浮かび上がる松方弘樹の雄姿よ!
◎その場所に女ありて
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/94分]
【90】1962年東宝 監督:鈴木英夫 脚本:升田商二、鈴木英夫
CAST:司葉子、宝田明、山崎努、森光子、水野久美、原知佐子、柳川慶子、大塚道子、小泉博、西村晃、浜村純、稲葉義男
●高度成長期、広告業界の熾烈な競争に挑む女たち。なかなかの秀作ではないか。上映後にサプライズ挨拶した宝田明氏が「鈴木英夫は社会派」と説明したように、様々なハラスメントに遭いながら女がキャリアを重ねていくことの難しさなど、60年代初期の時代性を映し出す。もちろん司と宝田の恋愛要素もしっかり確保されているのはさすが。
◎色情妻 肉の誘惑
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/72分]
【91】1976年日活 監督:西村昭五郎 脚本:桂千穂
CAST:松永てるほ、渡辺とく子、水城ゆう子、坂本長利、影山英俊、山田克朗、丹古母鬼馬二、飯田紅子、小見山玉樹
●高一から日活ロマンポルノ上映館に潜り込んでいで、これはその年の公開作品。ただ松永、渡辺、水城の3人は当時からキツくて苦手だったので未見。桂千穂曰く「“脚本で観る日本映画史”で上映されるべき作品」とのことだが、その意図がまったく理解できず、西村昭五郎の演出が真面目過ぎたのか苦笑いと睡魔の内に終わってしまった。
◎暴行切り裂きジャック
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/71分]
【92】1976年日活 監督:長谷部安春 脚本:桂千穂
CAST:林ゆたか、桂たまき、山科ゆり、岡本麗、丘奈保美、高村ルナ、潤まり、梓ようこ、森みどり、十時じゅん、三川裕之
●長谷部安春と桂千穂の初コンビにしてバイオレンスポルノの代名詞的作品。観賞の機会を待ち続けて還暦を迎えてしまうとセックスより殺人を目的としたイケイケの展開に社会的にではなくロマンポルノとしての倫理観を問いたくなる。牧歌的なボサノバスキャットが流れる中での血糊オンパレードは確かにカルト化する要素十分とは思うが。
◎幻魔大戦
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/135分]
【93】1983年角川春樹事務所=東宝東和 監督:りんたろう 脚本:桂千穂、内藤誠、真崎守
CAST:(声)古谷徹、小山茉美、江守徹、池田昌子、美輪明宏、穂積隆信、永井一郎、滝口順平、塩沢兼人、原田知世
●公開時の角川の物量宣伝を思い出したが、桂千穂の追悼特集で観ることになるとは。38年前のアニメに対して適切な表現ではないがキャラクターデザインの大友克洋によるエスパーたちの決戦となると既視感は否めない。もっと長大であろう平井和正の原作を端折って後半は拙速気味だったが大団円に持って行ったりんたろうの力量は窺えた。
◎㊙ハネムーン 暴行列車
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/72分] ※再観賞
【94】1977年日活 監督:長谷部安春 脚本:桂千穂、長谷部安春
CAST:八城夏子、阿部徳昭、加藤寿、渡辺とく子、松永てるほ、結城マミ、影山英俊、島村謙次、中平哲仟、伊豆見英輔
●もう44年も経つのか。かつてあまりに映画としての純粋な面白さに高校生は一発で長谷部安春のファンになった。ポルノ描写そっちのけでアメリカンニューシネマと日活ニューアクションを融合させた快作。これが八代夏子のベストであることは誰もが認めるところだろうが、バッドエンドにしてこの爽快感は若者たちの友情の瑞々しさにある。
◎虹の中のレモン
2021.05.15 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/87分]
【95】1968年松竹 監督:斎藤耕一 脚本:桜井義久
CAST:ヴィレッジシンガーズ(清水道夫、小松久、林ゆたか、小池哲夫、笹井一臣)尾崎奈々、竹脇無我、中山仁、加東大介
●実際、ヴィレッジシンガーズ+尾崎奈々の三部作など日本映画史的には箸にも棒にもかからんのだろうが、彼らの歌声が昭和の奥から次第に耳元まで近づいてくると、もう溢れんばかりの多幸感に、つくづくいい時代だったなと思う。斎藤耕一にしてはのっべりした絵作りが気にならなくもなかったが、様式美的な青春ごっこもたまにはいい。
◎ノッティングヒルの恋人
2021.05.22 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 NOTTING HILL [1200円/123分]
【96】1999年アメリカ 監督:ロジャー・ミッチェル 脚本:リチャード・カーチス
CAST:ジュリア・ロバーツ、ヒュー・グラント、リス・エヴァンス、ジーナ・マッキー、ティム・マキナニー、エマ・チャンバーズ
●断片的にテレビで観ていたが劇場初観賞。人気はビデオ屋時代で十分に知っていたものの、なるほどウケる筈だ。寓話的な逆シンデレララブコメでも登場人物たちの人生履歴が脇に至るまで周到に作り込まれているのが分かる。もし私が本屋店主と同じ境遇だったら絶対に台本の読み合わせを手伝う。H・グラントには逆立ちしてもなれないが。
◎茜色に焼かれる
2021.05.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 [1200円/144分]
【97】2021年フィルムランド=朝日新聞 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:尾野真千子、和田庵、片山友希、オダギリジョー、永瀬正敏、大塚ヒロタ、芹澤興人、鶴見辰吾、嶋田久作、前田亜季
●石井裕也は誠実にブレてきた。『生きちゃった』に続き過酷な現実社会に満身創痍となる主人公を描くも、仲野大賀をモラトリアムの沼に沈めた前作から、尾野真千子、和田庵の母子には現状突破を試みさせた。「まあ頑張りましょう」から出刃包丁と飛び蹴りへと飛躍させながら、最後に見せた一縷の希望に決定的なカタルシスがあった。
※2021年キネマ旬報ベストテン第2位
◎街の上で
2021.05.23 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン6 [1100円/130分] ※再観賞
【98】2019年フィルムパートナーズ 監督:今泉力哉 脚本:今泉力哉、大橋裕之
CAST:若葉竜也、中田青渚、穂志もえか、古川琴音、萩原みのり、村上由規乃、芹澤興人、小竹原晋、左近洋一郎、成田凌
●また彼らに会いたくて訪れてみた。私が好きなのは城定イハ。それがはっきりした。彼女が青と広げる大きな布と部屋に置かれたミシン。深夜の会話では主導権をとっていた彼女も、映画製作の現場では裏方。五人鉢合わせの場面でもどこか所在なさげ。冒頭のナレーションに立ち戻った時、イハへの慈しみが溢れて来てたまらん気分になった。
◎HOKUSAI
2021.05.23 イオンシネマ座間:スクリーン3 [1100円/129分]
【99】2021年製作委員会=Pipeline 監督:橋本一 脚本:河原れん
CAST:柳楽優弥、田中泯、阿部寛、永山瑛太、玉木宏、瀧本美織、津田寛治、青木崇高、辻本祐樹、浦上晟周、河原れん
●「神奈川沖」が北斎の卒中後に描かれたことに驚きつつ、新藤兼人の傑作『北斎漫画』の自由を思うと幕府弾圧による権力対芸術の図式化されたメタファーより北斎、歌麿、写楽が一堂に会するお座敷など映画的にもっと面白く見せられなかったものか。ただ柳楽の狂気宿る目ぢからからの舞踏家・田中泯の至芸でエンドまで引っ張ってくれる。
◎くれなずめ
2021.05.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1200円/96分]
【100】2021年ハピネット=東京テアトル 監督:松居大悟 脚本:松居大悟
CAST:成田凌、高良健吾、若葉竜也、浜野謙太、藤原季節、目次立樹、前田敦子、飯豊まりえ、内田理央、小林喜日、岩松了
●注目は何といっても若葉竜也と藤原季節だったが、いい大人がキャッキャッじゃれ合うホモ・ソーシャルな場面に小演劇独特の臭みも見えてちょっと引いてしまった。実は中盤からの仕掛けを知らずに観ていて「ああ、なるほどな」と思ったものの、今度は映像的に盛られ過ぎてリアリティラインを見失う。つまらない映画では決してなかったが。
◎マディソン郡の橋
2021.05.30 TOHOシネマズ海老名: スクリーン8 THE BRIDGES OF MADISON COUNTY [1200円/134分] ※再観賞
【101】1995年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:リチャード・ラグラヴェネーズ
CAST:クリント・イーストウッド、メリル・ストリープ、アニー・コーリー、ヴィクター・スレザック、ジム・ヘイニー
●この時、まだ35歳だったのかと思った。四半世紀など呆気なく過ぎていくものだが、“永遠4日間”が何倍も切実になっていることも実感した。断ち切ることで得られた特別な4日間ならば二人の選択は正しかったのだと思いたい。ストリープと対峙するイーストウッドがかくも恋する男を健気に演ずるのものかとの驚きは今も新鮮ではある。
※1995年キネマ旬報ベストテン第3位
◎コントラ KONTORA
2021.05.30 あつぎのえいがかんkiki [1000円/144分]
【102】2019年Kowatanda Films 監督:アンシュル・チョウハン 脚本:アンシュル・チョウハン
CAST:円井わん、間瀬英正、山田太一、小島聖良、清水拓蔵、セイラ、坂内愛
●崖の上の少女が撃ち落としたものとは何か。知る顔がないことで醸される緊張と迫真。そこに異国感すら漂う。しかしモノクロ・シネスコで映されているのは日本の田園風景。インド人監督の目から掃射された日本映画ということか。登場人物の誰もが観賞者である側の思惑通りに動いてくれない不安感。自分の現在地まで疑いそうになった。
◎猿楽町で会いましょう
2021.06.05 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1100円/122分]
【103】2019年オフィスクレッシェンド 監督:児山隆 脚本:児山隆、渋谷悠
CAST:金子大地、石川瑠華、栁俊太郎、小西桜子、長友郁真、大窪人衛、呉城久美、岩瀬亮、前野健太
●上辺を取り繕う人間たちが点在するのが大都会。その交差点ですべての人々が「嘘」で装飾されているとは思わないが、人間関係がすれ違う中で隠し事は持つ。それを持たない修司がユカの嘘に耐えられず小さな恋を終わらせていく。出てくる人物の誰一人として好きになれないし共感も出来ないが、都会の片隅の恋物語として好きな映画だ。
◎コンティニュー
2021.06.06 イオンシネマ座間:スクリーン3 BOSS LEVEL [2600円/100分]
【104】2021年アメリカ 監督:ジョー・カーナハン 脚本:クリス・ボーレイ、エディー・ボーレイ、ジョー・カーナハン
CAST:フランク・グリロ、ナオミ・ワッツ、メル・ギブソン、セリーナ・ロー、メドウ・ウィリアムズ、ミシェル・ヨー
●ラスボスに辿り着くまで無限ループする戦闘。順行する『TENET』か。予備知識なしが功を奏してド派手アクションを楽しんだが、同じ場面を幾テイクも重ねる撮影の苦労を想像しつつ、世界の終焉まで飛躍する大風呂敷にも程があり、それをコントロールするLABのチープさと、決着のうやむやさ。頑張ったが。きっと一杯一杯だったのだろう。
◎クルエラ
2021.06.06 イオンシネマ座間:スクリーン3 CRUELLA [ 〃 /134分]
【104】2021年アメリカ 監督:クレイグ・ギレスピー 脚本:デイナ・フォックス、トニー・マクナマラ
CAST:エマ・ストーン、エマ・トンプソン、マーク・ストロング、ポール・ウォルター・ハウザー、ジョエル・フライ
●悪女の誕生秘話として「何が彼女に起こったか?」的な辻褄合わせではなく、復讐劇とサクセスストーリーが巧みに編みあがっていくのが痛快。モードやファッションには門外漢でも凄さが伝わる衣装の数々。そこに二人のオスカー女優の対決が面白過ぎる。こうして漆黒のシンデレラ城は最後には煌びやかで眩ゆい輝きを取り戻すのだった。
◎地獄の花園
2021.06.06 イオンシネマ座間:スクリーン4 &size(10){[ 〃 /102分]
【105】2021年フジテレビ=P・D・P=ワーナー 監督:関和亮 脚本:バカリズム
CAST:永野芽郁、広瀬アリス、菜々緒、川栄李奈、大島美幸、勝村政信、松尾諭、丸山智己、遠藤憲一、小池栄子、室井滋
●馬鹿馬鹿しいのは承知だったが、序盤からヤンキー漫画のパクりをナレーションで進行させるのに鼻白んでしまう。そうなると華奢な細腕で繰り出される説得力ゼロの格闘も東映ピンキーバイオレンスのお色気サービスも一切ないのが恨めしい。結局、女優たちのイキった変顔を楽しむ映画なのか。むしろ彼女たちの普段のOL仕事が可愛い。
◎アオラレ
2020.06.06 イオンシネマ座間:スクリーン5 CRUELLA [ 〃 /90分]
【106】2021年アメリカ 監督:デリック・ボルテ 脚本:カール・エルスワース
CAST:ラッセル・クロウ、カレン・ピストリアス、ガブリエル・エイトマン、ジミ・シンプソン、オースティン・マッケンジー
●グラディエーターのあおり運転の恐怖を描くスリラー。昔、勤めていたビデオ会社のタイトル会議でB級アクションの題名が決まらず、砂漠が舞台だから『無法地帯サバック』に決定したアホな記憶が蘇る。いや『アオラレ』はラッセルの怪演とスマホのGPSを巧みに使った追跡劇で最後までハラハラさせ、比べるのはあまりにも失礼だろう。
◎明日の食卓
2021.06.06 イオンシネマ座間:スクリーン4 &size(10){[ 〃 /124分]
【107】2021年KADOKAWA=WOWWOW 監督:瀬々敬久 脚本:小川智子
CAST:菅野美穂、高畑充希、尾野真千子、大東駿介、菅田俊、藤原季節、真行寺君枝、渡辺真起子、烏丸せつこ
●場所も環境も違う石橋ユウ君の三人の母親。ホームドラマ展開がやがて三者三様の澱が重なり共同体が崩れていく。三つの家族を描くことで時間が飛び、一旦緊張が途切れるのが有難いと思うほど、家族の絆を疑う瀬々の眼差しは厳しい。息子が理解できなくなる瞬間は母親にとって恐怖だろうが、息子もその無償の支配がしんどいのだ。
◎旅の重さ
2021.06.11 ラピュタ阿佐ヶ谷 [無料/90分] ※再観賞
【109】1972年松竹 監督:斎藤耕一 脚本:石森史郎
CAST:高橋洋子、岸田今日子、高橋悦史、横山リエ、秋吉久美子、大塚国夫、砂塚秀夫、三谷昇、新村礼子、三國連太郎
●やはり斎藤耕一といえばこの映画なのだろう。「今日までそして明日から」―吉田拓郎の歌声にセピアのフォトグラフ。そのラストに心掴まれた高3の夏。それから再会の機会はなく、四国を巡る16歳の少女と旅一座との出会いなど忘れていた場面も多いが、少女も今や60代半ばとなって本当の旅の重さを噛みしめているのかもしれない。
※1972年キネマ旬報ベストテン第4位
◎映画大好きポンポさん
2021.06.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 [1200円/90分]
【110】2021年製作委員会=角川ANIMATION 監督:平尾隆之、居村健治 脚本:平尾隆之
CAST:(声)清水尋也、小原好美、大谷凜香、加隈亜衣、大塚明夫、木島隆一、小山力也、小形満、坂巻学
●映画通が口を揃えて絶賛するものだから、ポスターの絵面に半信半疑になりながら観てきた。はぁ~参った。単純に感動ということでは断トツで今年一番だ。始めるのも終わらせるのも、切るも残すも最後は映画監督の決断だ。その思いが迸るまま劇中の映画すら輝いて見える。そして有言実行、スパッと90分で幕。魔法を使ったのだろうか。
◎広域暴力 流血の縄張 しま
2021.06.18 新文芸坐 [1150円/87分]
【111】1969年日活 監督:長谷部安春 脚本:青木一夫、藤井鷹史
CAST:小林旭、中丸忠雄、葉山良二、名和宏、藤竜也、姫ゆり子、岡崎二朗、加藤嘉、須賀不二男、見明凡太朗、上田吉二郎
●長谷部安春のシャープな演出が35mm上映の質感に映える。私の観賞歴で日活ヤクザ路線の位置付けは東映と比べ雑だったが、台詞の決め方など妙な仁侠ごっこ感は嫌いではない。借金の金繰りに奔走するヤクザ幹部など新鮮だ。アキラが主役として真ん中に居座ることで中丸忠雄の義理堅き代貸、味方に付く名和宏など意外な役割も悪くない。
◎ネオン警察 ジャックの刺青
2021.06.18 新文芸坐 [ 〃 /83分]
【112】1970年日活=ダイニチ映配 監督:武田一成 脚本:大和屋竺、曽根義忠
CAST:小林旭、郷鍈治、夏純子、青木義朗、安岡力也、深江章喜、草薙幸二郎、真理アンヌ、美波節子、二瓶正也
●<デビュー65周年記念>と銘打たれた上映で、なるほど小林旭は昭和大スターの生き残りだ。ただ1970年当時の日活の状況を思えば全盛期と言い難く、パーマに無精髭のルックは今イチ。でも100%アキラのスター性に依存した映画作りに(内容は別としても)THE名画座上映の心地良さがある。個人的にはとにかく郷鍈治とのバディが嬉しい。
◎ロミオ+ジュリエット
2021.06.20 TOHOシネマズ海老名: スクリーン6 ROMEO+JULIET [1200円/120分]
【113】1996年アメリカ 監督:バズ・ラーマン 脚本:クレイグ・ピアース、バズ・ラーマン
CAST:レオナルド・ディカプリオ、クレア・ディンズ、ジョン・レグイザモ、ポール・ラッド、ピート・ポスルスウェイト
●シェイクスピアの古典を現代に移したことは知っていたが、ニュース画面からのヘリが飛び交う中での銃撃戦に単純にド肝抜かれた。さらに驚かされたのが還暦のオヤジでも思わずハッとさせたディカプリオの美少年ぶりか。この凶器に等しい眼差しが映画を何倍にも引き揚げたのは間違いない。ゼフィレッリを更新したとまではいわないが、
◎キャラクター
2021.06.20 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 [無料/125分]
【114】2021年フジテレビ=東宝 監督:永井聡 脚本:長崎尚志、川原杏奈、永井聡
CAST:菅田将暉、Fukase、高畑充希、小栗旬、中村獅童、松田洋治、中尾明慶、宮崎吐夢、岡部たかし、橋爪淳、小島聖
●シリアルキラーというキャラクターを与えられた何者でもない者の狂気。中盤まで平板な展開だったが、おー、ここでこいつを殺すのかと驚き、そこから俄然面白くなってきた。そうなるとオリジナル脚本の良さが際立ってくる。「四人家族が幸福の単位」で妻が双子を懐妊していたことがカタストロフィに直結するクライマックスも悪くない。
◎Arc アーク
2021.06.26 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 [1200円/127分]
【115】2021年バンダイナムコ=ワーナー 監督:石川慶 脚本:石川慶、澤井香織
CAST:芳根京子、寺島しのぶ、岡田将生、倍賞千恵子、風吹ジュン、小林薫、清水くるみ、井之脇海、中川翼、中村ゆり
●期待の石川慶作品だったが前半のあまりのトンデモ展開に裏切られたと思いきや、天音の庭での転換から一気に引き込まれた。まったく二度も裏切るとは!20代の頃なら時間の経過描写に物足りなさを感じたろうが、還暦を過ぎると人生のサイズ感ってこんなものだと思う。死を肯定するまでの優しい時間が生を際立たせた秀れた一篇だ。
◎1秒先の彼女
2021.06.27 横浜ブルグ13:シアター8 消失的情人節/MY MISSING VALENTIN [1200円/119分]
【116】2020年台湾 監督:チェン・ユーシェン 脚本:チェン・ユーシェン
CAST:リウ・グァンティン、リー・ペイユー、ダンカン・チョウ、ヘイ・ジャアジャア、リン・メイシュウ、チェン・ジューショ
●溢れる知性と卓抜した映像センスを持ちながら敢えてバカをやって、よくぞこれだけ愛すべき映画にしたものだ。それが想像の斜め上を行くものだから呆気にとられている間にエンディングを迎えてしまう。傑作か。薄々思うツッコミどころも含めてもっと『1秒先の彼女』の全部を把握したい。その欲求が止まらない。絶対、また観てやる。
◎夏への扉 -キミのいる未来へ-
2021.06.27 横浜ブルグ13:シアター4 [1200円/118分]
【117】2021年アニプレックス=東宝 監督:三木孝浩 脚本:菅野友恵
CAST:山崎賢人、清原果耶、夏菜、眞島秀和、浜野謙太、田口トモロヲ、高梨臨、原田泰造、藤木直人、野間口徹、濱津隆之
●きっと原作はいいのだろう。要はそれを三木孝浩に託した段階で映画は失敗だった。人物がアイコン化され、まったく深みがなく、状況台詞を追いかけて行動するだけ。与えられた素材を型にはめて胃にもたれず食える程度の料理に仕上げるのが持ち味の監督では、近未来SFとして同時期に公開された『Arc』の野心とは比べるべくもないだろう。
◎アメリカン・ユートピア
2021.06.27 kino cinema横浜みなとみらい DAVID BYRNE`S AMERICAN UTOPIA [1200円/107分]
【118】2020年アメリカ 監督:スパイク・リー 脚本:(ドキャメンタリー)
CAST:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン
●カセットテレコのボタンを押して歌い出した『ストップ・メイキング・センス』から35年。スパイク・リーと組み多様性カルチャーの発信で今また業界を騒然とさせている67歳、デイヴィッド・バーン。80年代、Talking Headsをスルーしていた私でも、この洗練されたライブに最近耳にしなくなった “パッション” の言葉の意味を噛みしめざる得ない。
※2021年キネマ旬報ベストテン第4位
◎イージー★ライダー
2021.06.28 TOHOシネマズ海老名 EASY RIDER [1200円/95分] ※再観賞
【119】1969年アメリカ 監督:デニス・ホッパー 脚本:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、テリー・サザーン
CAST:ピーター・フォンダ、デニス・ホッパー、ジャック・ニコルスン、アントニア・メンド-サ、カレン・ブラック
●前後に町山智弘氏の解説映像のオマケがつき、『ノマドランド』の源流について私がキネ旬に書いたことと同じ内容をいっていた。そうなると我が意を得たりではなく、違う気がしてくるのは天邪鬼過ぎるか。それより高校の文化祭以来の『イージー・ライダー』が、ここまで面白かったことに驚く。私はよほどニューシネマ好きなのだろう。
※1970年キネマ旬報ベストテン第1位
◎人斬り与太 狂犬三兄弟
2021.06.29 新文芸坐 [1150円/86分] ※再観賞
【120】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:松田寛夫、神波史男
CAST:菅原文太、田中邦衛、三谷昇、渚まゆみ、内田朝雄、渡辺文雄、今井健二、室田日出男、小林稔侍、誠直也、菅井きん
●前売券を求めに行った文芸坐で『狂犬三兄弟』が開映5分前だと知る。田中邦衛の追悼上映らしいが、ここで素通りしたら人生の恥だと思わず飛び込んだ。何度も観ても文太と邦衛のイキりっぷりは熱く、帰宅して調べてみると三谷昇が89歳でご健在なのが嬉しかった。そして毎回書いているが渚まゆみの切なさ、愛おしさ。もう溜まらん。
◎仮面/ペネソナ
2021.07.01 新文芸坐 PERSONA [1100円/82分]
【121】1967年スウェーデン 監督:イングマール・ベルイマン 脚本:イングマール・ベルイマン
CAST:ビビ・アンデショーン、リヴ・ウルマン、マルガレータ・クルーク、グンナール・ビヨルンストランド
●一端の映画好きとしてベルイマンを高校生の時に『沈黙』しか観ていないのは恥だ、とばかりに文芸坐のレイトに駆け込んだが難解さに撃沈。ただ画面から放たれる“圧”は十分に浴びた。それにしても女と女の物語にうら寂しい海辺の町が似合うのか。『燃ゆる女の肖像』も『アンモナイトの目覚め』も辿るとここに行き着くのかもしれない。
※1967年キネマ旬報ベストテン第7位
◎叫びとささやき
2021.07.02 新文芸坐 VISKNINGER OCH ROP [1100円/91分]
【122】1972年スウェーデン 監督:イングマール・ベルイマン 脚本:イングマール・ベルイマン
CAST:イングリッド・チューリン、ハリエット・アンデルソン、リヴ・ウルマン、カリ・シルバン、ヨールイ・オーリン
●一方で巨人ベルイマンは映画研究のテキストみたいな存在だといえると思うが、お勉強などではなくもっと全身全霊を込めて作品と対峙すべきなのだろう。或いは一旦、ベルイマンであることを忘れることも一考かもしれない。ただ映像そのものが常に過呼吸を帯びている様相の中で四人の女優の生理レベルの葛藤と慟哭には怖気ざる得ない。
※1974年キネマ旬報ベストテン第2位
◎ゴジラvsコング
2021.07.03 イオンシネマ座間:スクリーン3 GODZILLA VS.KONG [1100円/114分]
【123】2021年アメリカ 監督:アダム・ウィンガード 脚本:エリック・ピアソン、マックス・ボレンスタイン
CAST:アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、レベッカ・ホール、小栗旬、ブライアン・T・ヘンリー
●前作はギドラやモスラに伊福部昭も繰り出される日本人目配せがしょーもなくて最低最悪だったが、いよいよゴジラが変質して“別物”となった今、かなり面白い怪獣映画になった。巨大爬虫類と哺乳類の肉弾戦の見せ方に趣向が凝らされ、ドラマの浅さを補って余りある大迫力。メカゴジラの参戦で「宿命の対決」の落としどころも決まった。
◎アジアの天使
2021.07.04 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [1100円/128分]
【124】2021年フィルムパートナーズ 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:池松壮亮、チェ・ヒソ、オダギリジョー、キム・ミンジェ、キム・イェウン、佐藤凌、芹澤興人
●序盤でヘラヘラ笑う池松がどうにも歯痒かった。そんな日本人のアンデンティから逃れられないまま頑なに石井裕也の演出に注視せざる得なかった。ロードムービーの雛形の中で二つの国の家族が溶け合う中で、彼らとともに感情がほどけていく。池松とオダギリの存在感が頼もしく、愛着が醸成されていく過程のなんとスリリングなことか。
◎大魔神 <4K修復版>
2021.07.17 角川シネマ有楽町 [1000円/84分] ※再観賞
【125】1966年大映 監督:安田公義 特撮監督:黒田義之 脚本:吉田哲郎
CAST:高田美和、青山良彦、藤巻潤、五味龍太郎、遠藤辰雄、伊達三郎、出口静宏、二宮秀樹、月宮於登女、橋本力
●炎、小源太を襲う焼きゴテ、伊福部昭の音楽、そして埴輪が魔神と化す。5歳の時に神戸の映画館で母に連れられて観たときの衝撃。私にとって究極の原点にして絶対映画。その後何度観ようが今回の4K上映だろうがあのファーストインパクトは永遠だ。ただ展示された人工色の復刻ロビー写真に記憶の最上級の宝物であったのだと改めて思う。
◎妖怪大戦争 <4K修復版>
2021.07.17 角川シネマ有楽町 [1000円/79分]
【126】1968年大映 監督:黒田義之 脚本:吉田哲郎
CAST:青山良彦、川崎あかね、大川修、内田朝雄、木村元、神田隆、若井はんじ、若井けんじ、西川ヒノデ、毛利郁子
●西洋の最強妖怪ダイモン(デーモン?)に総出で立ち向かう日本の妖怪たち。油すまし、河童、から傘と緩めの面子が中心なので怖さは皆無。最初はテレビ放映で観賞。なんと53年かけて大映妖怪三部作を劇場でコンプリートした。何たる歳月か。でも子供の頃は一番面白かった。最後の百鬼夜行の行列の大団円感はズルイといっちゃズルイ。
◎大怪獣ガメラ
2021.07.17 角川シネマ有楽町 [1000円/79分] ※再観賞
【127】1965年大映 監督:湯浅憲明 脚本:高橋二三
CAST:船越英二、姿美千子、霧立はるみ、山下洵一郎、北原義郎、内田喜郎、浜村純、吉田義夫、左卜全、北城寿太郎
●封切りに間に合わなかった唯一の昭和ガメラ。「カメは仰向けでは起きられない」からのジェット噴射。火食いを利用しての伊豆大島誘導からの台風。必死に火事を起こすも再び消沈、ところが突如の三原山噴火で成功。頓珍漢な台詞と子供がクソ生意気なのが玉に瑕だが、シリーズ初期の小技のドンデン返しは東宝にない叡知(?)で大好きだ。
◎釈 迦
2021.07.17 角川シネマ有楽町 [1000円/157分]
【128】1961年大映 監督:三隅研次 脚本:八尋不二
CAST:勝新太郎、市川雷蔵、本郷功次郎、川口浩、山本富士子、山田五十鈴、杉村春子、中村玉緒、川崎敬三、叶順子
●日本初の70ミリ超大作として存在は知っていたが大映の封切館で70ミリが上映できたのか。どこかナメていたが永田ラッパが高らかに轟いた堂々たるスケールで、想像以上のスペクタクルに驚いた。オールスターの顔ぶれだけでも楽しいが、最後の涅槃でのブッタ入滅など感動ものだ。とにかく157分ダレさせない三隈研次は改めて凄げぇ。
◎凍 とうが 河
2021.07.17 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/96分]
【129】1976年松竹 監督:斎藤耕一 脚本:石森史郎
CAST:中村雅俊、五十嵐淳子、原田美枝子、佐分利信、岡田茉莉子、米倉斉加年、岡田英次、西尾三恵子、石原裕次郎
●五木寛之の原作が時代遅れなのか、斎藤耕一が作家性を枯渇させていたのか、つまらない映画だった。仰々しい顔ぶれの中、中村雅俊のTV青春ドラマサイズの演技もさることながら、繰り返される青山八郎の劇伴が眠気を誘う。五十嵐淳子は可愛いが、原田美枝子の天真爛漫な裸に吹っ飛ばされた。確かに脱げばいいってもんでもないか。
◎ファーザー
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 THE FATHER [1100円/97分]
【130】2020年イギリス 監督:フローリアン・ゼレール 脚本:フローリアン・ゼレール、クリストファー・ハンプトン
CAST:アンソニー・ホプキンス、オリヴィア・コールマン、ルーファス・シーウェル、イモージェン・プーツ
●介護に直面した家族の葛藤を描く重いドラマかと思いきや、認知症側の視点で描くことによってパズラーの様相を呈している。ややロジックに偏りすぎた感は否めないが、我が父を見て痛感した、平静を確信しながら記憶が混濁する状況の過酷さ、猜疑心。これらを名優A・ホプキンスに託すことで見事にエンターティメントたり得ている。
※2021年キネマ旬報ベストテン第5位
◎1秒先の彼女
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 消失的情人節/MY MISSING VALENTIN [1100円/119分] ※再観賞
【131】2020年台湾 監督:チェン・ユーシェン 脚本:チェン・ユーシェン
CAST:リウ・グァンティン、リー・ペイユー、ダンカン・チョウ、ヘイ・ジャアジャア、リン・メイシュウ、チェン・ジューショ
●結末を知って観て、最後の郵便局の場面で我慢できず還暦オヤジの涙腺決壊。それどころか嗚咽が漏れてないか周囲を窺うハメとなる。監督は同世代のオヤジだった。なんたるピュアか。もう尊敬しかない。「レールを外れた列車は飛行機にはなれない」かもしれないが、海岸線を走るバスはヤンとウーの永遠を乗せたのだと思うとまた目頭が・・・
◎パリのナジャ
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 NADJA A PARIS [ 〃 /13分]
【132】1964年フランス 監督:エリック・ロメール 撮影:ネストール・アルメンドロス
CAST&ナレーション:ナジャ・テジック(ドキュメンタリー)
●名前だけはずっと前から知っていたが、ゴダールやトリュフォーと比べてヌーベルバーグ史においてエリック・ロメールの位置付けは茫洋としていた。モンパルナス、カルチェラタンといったパリの街並みを異邦人女性の視点で追う短編ドキュメンタリーを観て、やはりヌーベルバーグはパリの土壌を抜きには成立し得ないことを確信した。
◎コレクションする女
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LA COLLECTIONNEUSE [ 1100円 /87分]
【133】1967年フランス 監督:エリック・ロメール 脚本:エリック・ロメール
CAST:パトリック・ボーショー、アイデ・ポリトフ、ダニエル・ポムルール、アラン・ジェフロワ、ミジャヌー・バルドー
●60年代末期は世界の潮流が「言葉の季節」。5月革命を翌年に控えた都会の喧騒を離れた海岸の別荘地で、自称芸術家の青年ふたりが饒舌の末に一人の女に翻弄される。物語の展開とは関係なく批評や主張を台詞に乗せるのはヌーベルバーグにありがちな流れを、風俗店で説教垂れているオヤジを見るように滑稽に近いものを感じながら観た。
◎ある現代の女子学生
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 UNE ETUDIANTE D'AUJOURD'HUI [ 〃 /14分]
【134】1966年フランス 監督:エリック・ロメール 撮影:ネストール・アルメンドロス
ナレーション:アントワーヌ・ヴィテーズ(ドキュメンタリー)
●真剣な眼差しで実験に没頭する理系の女子学生たち。1966年で女子の大学就学率43%。しかもすでに多様化社会が形成されている。もちろんカルチャーの最先端であったパリでさえ、人種差別の残滓から逃れられていないのは周知の通りで、ロメールが切り取った当時より明らかに時代が後退していることに暗澹とさせる記録映像だった。
◎クレールの膝
2021.07.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LE GENOU DE CLAIRE [1100円 /87分]
【135】1970年フランス 監督:エリック・ロメール 脚本:エリック・ロメール
CAST:ジャン=クロード・ブリアリ、オーロラ・コルシュ、ベアトリス・ロマン、ローラン・ド・モナガン、ミシェル・モンテル
●婚約中にも関わらず中年女性から女子中学生まで、馴れ馴れしく肩を抱き、手を握り、観察しては批評を繰り返す主人公。恋愛大国とはいえ「馬鹿ですか?」と呆れてしまう。滑稽ではあるが、飽くことなき探求心に感心してしまう。一線は越えないとしながらが成り行きに任せている風で、それでも映画として成立させているのが不思議だ。
◎シャイニング <デジタルリマスター北米公開版>
2021.07.19 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 THE SHINING [1200円/143分] ※再観賞
【136】1980年アメリカ=イギリス 監督:スタンリー・キューブリック 脚本:スタンリー・キューブリック
CAST:ジャック・ニコルソン、シェリー・デュヴァル、ダニー・ロイド、スキャットマン・クローザース、バリー・ネルソン
●学生時代のイメージとは裏腹に今やホラーの金字塔といわれるキューブリック作品。当時の印象より血の洪水の赤が禍々しかったのとステディカムカメラで三輪車を追うトラックショットからの双子の女の子は今観ても怖い。しかしどうしてもJ・ニコルソンとS・デュバルの顔芸に尽きる気がする。物語よりスタイル特化の映画だったか。
◎竜とそばかすの姫
2021.07.19 イオンシネマ座間:スクリーン1 [1100円/121分]
【137】2021年スタジオ地図=東宝 監督:細田守 脚本:細田守
CAST:(声)中村佳穂、佐藤健、成田凌、染谷将太、玉城ティナ、幾田りら、森山良子、清水ミチコ、坂本冬美、役所広司
●一番大きなスクリーンと高音質サウンドで上映される時間を選んで正解。今度の細田守は大当たりだ。仮想空間「U」の膨大なレイヤー世界と高知の田舎の生活感。どちらも魅力的。田舎高校生なりに青春しているのもいい。幼くして母を失ったBELLと竜。大胆に転換する設定の中でも主人公の成長を家族の再生に帰着させる普遍の素晴らしさ。
◎少年の君
2021.07.22 横浜シネマ・ジャック&ベティ 少年的你/BETTER DAYS [1100円/135分]
【138】2019年中国=香港 監督:デレク・ツァン 脚本:ラム・ウィンサム、リー・ユエン、シュウ・イーモン
CAST:チョウ・ドンユイ、ジャクソン・イー、イン・ファン、ホァン・ジュエ、ウー・ユエ、ジョウ・イエ
●「いじめを世界から無くす一助としたい」なる字幕から始まる。辛い描写が続くのかと先入観を植えつけられ苦々しく思っていたら、優等生少女と不良少年の王道純愛ラブストーリー展開となり、主演ふたりの好演に、ハードな社会背景とサスペンスフルな作劇の巧さが加味されてみるみる乗せられていく。手応え、面白さ、申し分なしだろう。
※2021年キネマ旬報ベストテン第10位
◎プロミシング・ヤング・ウーマン
2021.07.23 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 PROMISING YOUNG WOMAN [1200円/113分]
【139】2020イギリス=アメリカ 監督:エメラルド・フェネル 脚本:エメラルド・フェネル
CAST:キャリー・マリガン、ボー・バーナム、ラヴァーン・コックス、アリソン・ブリー、クランシー・ブラウン、C・ブリットン
●観賞後、どんな気持ちになればいいのかよくわからなかった。彼女は復讐を遂げたが勝決して勝利者ではない。ならば孤独なルーザーなのかといえば映画はポップ過ぎる。フラックユーモアだとしても笑えない。脳裏に残るのは逆レイバーに途惑い、泣き叫ぶ男たちだ。オスカー脚本賞ということだが社会悪を描くには私にはオフビート過ぎた。
※2021年キネマ旬報ベストテン第3位
◎宇宙人東京に現わる
2021.07.24 角川シネマ有楽町 [1000円/87分]
【140】1956大映 監督:島耕二 脚本:小国英雄
CAST:見明凡太朗、川崎敬三、永井ミエ子、山形勲、南部彰三、刈田とよみ、フランク熊谷、 杉田康、河原侃二、岡村文子
●どチープなヒトデ形の片目宇宙人は子供の頃から「怪獣図鑑」で知っていたが、まさかカラー作品だったとは(さらに岡本太郎デザイン)。未見ゆえ恐る恐る見たわけだが、そうバカにしたものではなかった。なにせ脚本が小国英雄ではないか。世界中の核爆弾が放出された明るい未来が待つウルトラハッピーな結末。色々と驚かされた一篇だ。
◎大魔神逆襲 <4K修復版>
2021.07.24 角川シネマ有楽町 [1000円/87分] ※再観賞
【141】1966大映 監督:森一生 特撮監督:黒田義之 脚本:吉田哲郎
CAST:二宮秀樹、堀井晋次、飯塚真英、長友宗之、山下洵一郎、安部徹、名和宏、仲村隆、南部彰三、北林谷栄、橋本力
●いつも雪道を歩くときは大魔神の気分だった。ただこれが一番つまらない作品とレッテルを貼っていた。主役が4人の子供だけにキッズものと決めつけていたのだ。再会して驚いた、まるで『スタンド・バイ・ミー』ではないか。だから本作をここまで面白く観たのは55年間で初のこと。なにせ森一生監督作品だ。全作中で魔神が一番映えている。
◎憧 あこがれ 憬
2021.07.24 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/98分]
【142】1977年松竹 監督:斎藤耕一 脚本:仲倉重郎、栗山富夫、松原信吾
CAST:田中健、多岐川裕美、高峰三枝子、若林豪、高橋昌也、森本レオ、桑原野人、中山麻理、中島久之、小沢昭一
●クソ甘ったれだだっ子青年に終始苛々してしまう。何が自由だユートピアだバカ野郎(笑)。60年代ならその志向が賛否の対象になるだろうが、77年でそんなものを無防備に描く映画そのものが批判されて然るべきだ。ただ東映から松竹に貸出された多岐川裕美のお嬢様キャラは本来の資質なのだろう。それにしてもどこが斎藤耕一やねん!
◎親密さ
2021.07.25 新文芸坐 [1550円/255分]
【143】2013ENBUゼミナール 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介
CAST:平野鈴、佐藤亮、伊藤綾子、田山幹雄、新井徹、手塚加奈子、菅井義久、香取あき、土谷林福、渡辺拓真、永井孝憲
●無名の役者たちが紡ぐ親密な時間。夜明けの丸子橋の長回しにはやられた。これをこの齢で観ることは残念であり、安堵もする。平走する二つの電車の窓から笑顔で別れを惜しむ元恋人たち。線路が分かれた直後にエンドロールが出たとき「えっ、もう終わり?」と思った。間違いなく濱口竜介の時代が到来することを予感させる4時間15分。
◎いとみち
2021.07.31 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 [1100円/255分]
【144】2021年製作委員会 監督:横浜聡子 脚本:横浜聡子
CAST:駒井蓮、豊川悦司、黒川芽以、横田真悠、中島歩、古坂大魔王、ジョナゴールド、宇野祥平、西川洋子
●飢餓、空襲など負の記憶を根底に家族、シングルマザー、困窮など現実の問題を内包しながら内気ならぬ陰気な女子高生・いとちゃんの成長物語を三味線という最強のキラーアイテムを駆使し爽やかに綴る。「おおんがえりなさいませ、ご、ごすんずんさま」。青森訛りと津軽弁で貫かれた多幸感。観客は彼女を応援せずにはいられなくなる。
※2021年キネマ旬報ベストテン第9位
◎アメリカン・ユートピア
2021.07.31 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 DAVID BYRNE`S AMERICAN UTOPIA [1100円/107分] ※再観賞
【145】2020年アメリカ 監督:スパイク・リー 脚本:(ドキャメンタリー)
CAST:デイヴィッド・バーン、ジャクリーン・アセヴェド、グスタヴォ・ディ・ダルヴァ、ダニエル・フリードマン
●初回の観賞では、無駄を省き、最低限の布陣で挑んだライブと謳いつつ、実は綿密に計算された美術、舞台構成、S・リーらしい社会告発に目を奪われたのだが、2度目はストレートに楽曲の素晴らしさが強烈だった。バーンのボーカルを引き出すプレイヤーたちのコーラスにはゴスペルの陶酔感すらある。完璧を目指しながら何て自由なのだ。
※2021年キネマ旬報ベストテン第4位
◎ベル・エポックでもう一度
2021.07.31 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LA BELLE ÉPOQUE [無料/115分]
【146】2019年フランス 監督:ニコラ・ブドス 脚本:ニコラ・ブドス
CAST:ダニエル・オートゥイユ、ギョーム・カネ、ドリア・ティリエ、ファニー・アルダン、ピエール・アルディティ
●ここ最近はフランス映画を観る機会が増えたが、『三丁目の夕日』の人工的な昭和を思わせて、あの欺瞞に満ちた懐古趣味を舞台裏からあざ嗤う設定は楽しかった。しかしどんなに老いても最後は「ジュティーム」で大団円に持ち込もうとするフランス映画の執着に呆れ返って「もうお腹一杯」な気分。執着というより執念というべきか。
◎女 体 じょたい
2021.08.02 新文芸坐 [950円/98分]
【147】1968年大映 監督:増村保造 脚本:増村保造、池田一朗
CAST:浅丘ルリ子、岡田英次、岸田今日子、梓英子、伊藤孝雄、川津祐介、小沢栄太郎、青山良彦、北村和夫、中条静夫
●本来は「増村ワールドに挑む浅丘ルリ子」の図式なのだろうが、むしろ浅丘の超絶熱演に増村が引っ張られた作品か。テレビで何度か見て、いつかは劇場へとの思いはあった。己の欲望のため周囲をズタズタにする意味で『人斬り与太』の脈絡なのかもしれない。どちらにしても増村と浅丘の出会いは日本映画史的には強烈な仇花だったか。
◎この世界の(さらにいくつもの)片隅に
2021.08.06 新文芸坐 [1100円/168分] ※再観賞
【148】2019年製作委員会=東京テアトル 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、岩井七世、花澤香菜、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、小野大輔、潘めぐみ、牛山茂 、新谷真弓
●原爆の日にすずさんと再会。小学生の彼女が海苔を配達する姿から引き込まれるのはいつものことだが、映像に内包する情報量の尋常のなさ、改めて気付かされることの多さに圧倒させられる。長尺版では戦争の中の日常に浸食する愛の葛藤が強調されるが、周作、径子をはじめ北條の家族、呉の人々の息遣いの確かさは絶対的に永遠だ。
◎ハッピーアワー
2021.08.08 早稲田松竹 [3000円/317分]
【149】2015年神戸ワークショップシネマプロジェクト 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介、野原位、高橋知由
CAST:田中幸恵、菊池葉月、三原麻衣子、川村りら、申芳夫、三浦博之、謝花喜天、柴田修平、出村弘美、坂庄基、久貝亜美
●何度か機会を逃してようやく観た。女性4人の誰ひとりも共感出来なかったが、ずっと彼女たちが愛しくなっていた。同じ場所、同じ時間を共有したいと思った。そしてそれらを支配する濱口竜介に身を委ねたいとも思った。『親密さ』で時代の到来を予感させるなどと書いたが、実はとっくに来ていたことを知らされた圧巻、濃密な5時間17分。
※2015年キネマ旬報ベストテン第3位
◎ターミネーター
2021.08.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE TERMINATOR [1100円/108分] ※再観賞
【150】1984年アメリカ 監督:ジェームズ・キャメロン 脚本:ゲイル・アン・ハード、ジェームズ・キャメロン
CAST:アーノルド・シュワルツェネッガー、マイケル・ビーン、リンダ・ハミルトン、ポール・ウィンフィールド
●どこかしら漂うダークでちょっとチープなB級テイスト。ターミネーターの崩れた顔面などかなりの張りぼてだ。しかし私にいわせれば『T2』以降に派生したクロニクルこそが張りぼてだ。そこは戦うことの宿命に導かれるサラ・コナーの一代記として捉えればいいのか。俗化する以前のシュワちゃんの硬質で凶暴な説得力は改めて特筆もの。
◎サマーフィルムにのって
2021.08.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [1100円/97分]
【151】2021年製作委員会=ハピネット 監督:松本壮史 脚本:三浦直之、松本壮史
CAST:伊藤万理華、金子大地、河合優実、祷キララ、小日向星一、池田永吉、篠田諒、甲田まひる、ゆうたろう、篠原悠伸
●映研仲間がキラキラ恋愛ドラマを製作するなかで、時代劇大好き少女がチャンバラを撮る。これは面白そうだと大いに期待したが、アンチの筈の少女が自らキラキラに獲りこまれてしまう。キラキラの代名詞であるタイムリープ要素も加わって、なんだよ勝新も雷蔵もそっちかい!とガックリ。ただエンディングカットの切れ味は良し。
◎キネマの神様
2021.08.14 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 [1200円/125分]
【152】2021年製作委員会=松竹 監督:山田洋次 脚本:山田洋次、朝原雄三
CAST:沢田研二、菅田将暉、寺島しのぶ、永野芽郁、宮本信子、野田洋次郎、小林稔侍、北川景子、リリー・フランキー
●原田マハのベタなりに泣かせまくる原作を読み終えて山田洋次の新作を観る。内容を大幅に改変しつつ、これまたベタに仕上げたものだ。「松竹100年記念」を思えば原作の変更は正解だろう。ただ人物全員が類型化され、もはや大船調ですらない山田洋次の限界が露呈したか。園子が淑子に餞別であげた装飾品など伏線として活かすべきだろう。
◎イン・ザ・ハイツ
2021.08.14 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 IN THE HEIGHTS [1200円/143分]
【153】2020年アメリカ 監督:ジョン・M・チュウ 脚本:キアラ・アレグリア・ヒューディーズ
CAST:アンソニー・ラモス、コーリー・ホーキンズ、レスリー・グレース、メリッサ・バレラ、オルガ・メレディス
●いや~アガるなぁ、そもそも高揚させてこそのミュージカルならば間違いなく一級品。ワシントンハイツでの群舞はラテン民族の骨格と尻の太さあってのダイナミズムだ。最近ガラにもなくヒップホップをダウンロードして聴いているがすべての楽曲がいい。恋人同士の壁ダンスなど映画ならではの見せ場だ。無理して観ておいて正解だった。
◎ターミネーター2
2021.08.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 TERMINATOR 2:JUDGMANT DAY [1200円/137分] ※再観賞
【154】1991年アメリカ 監督:ジェームズ・キャメロン 脚本:ジェームズ・キャメロン、ウィリアム・ウィッシャー
CAST:アーノルド・シュワルツェネッガー、リンダ・ハミルトン、エドワード・ファーロング、ロバート・パトリック
●好き度からいえば第1作だが、どちらが良作なのかは迷う。ターミネーターが味方となる件で賛否あったが、ヒーローとしてのシュワちゃんのパブリックイメージが確立していたので違和感はなかった。とにかくド派手な追かけっこの中で、T-1000の造作が傑出したおかげで全員のキャラが立ちまくり、30年経っても一切色褪せていない。
◎座頭市物語 <4K修復版>
2021.08.21 TOHO海老名:スクリーン6 [1200円/96分] ※再観賞
【155】1962年大映 監督:三隅研次 脚本:犬塚稔
CAST:勝新太郎、天知茂、万里昌代、島田竜三、三田村元、真城千都世、毛利郁子、南道郎、柳永二郎、千葉敏郎
●平手造酒はともかく飯岡助五郎、笹川繁蔵も実在の侠客で「大利根河原の決闘」も史実だと初見から35年経って知った。そこに座頭の市なる傑出したキャラクターを “発明” した作り手たちの慧眼には心底恐れ入る。市と平手の友情譚からの一騎打ちを緩急自在に進行させる三隈研次の手腕と勝・天知の役柄への探求が実を結んだ傑作だろう。
◎ドライブ・マイ・カー
2021.08.21 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 [1200円/179分]
【156】2021年製作委員会=ピターズ・エンド 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介、大江崇允
CAST:西島秀俊、三浦透子、岡田将生、霧島れいか、パク・ユリム、ジン・デヨン、ソニア・ユアン、アン・フィチ、安部聡子
●映画の冒険といえる『親密さ』『ハッピーアワー』から間がない観賞で、待望の新作の印象がやや薄口に思えたのは私の欲求アベレージが途方もないレベルまで昇っていただけの話。本作が今年のベスト級であるのは間違いなく、西島秀俊というスター俳優が家福悠介と融合していく過程のスリリングさこそ稀有な映画体感というものだろう。
※2021年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結
2021.08.22 イオンシネマ座間:スクリーン7 THE SUICIDE SQUAD [1100円/132分]
【157】2021年アメリカ 監督:ジェームズ・ガン 脚本:ジェームズ・ガン、ジョン・オストランダー
CAST:マーゴット・ロビー、イドリス・エルバ、ジョン・シナ、ジョエル・キナマン、ピーター・カパルディ、ヴィオラ・デイヴス
●この夏、ヒトデ型ひとつ目宇宙人を二度観る。今風の言い方だと私は“アメコミ弱者”だが、人体破壊満載のR指定に振り切った映像をウハウハしながら楽しんだ。まずサーガやらユニバースやらは関係なくビギナーに優しい(易しい?)のがいいし、悪党なのでヒーローみたいな正義への苦悩など関係なく殺しまくれる。大人の娯楽作だ。
◎ガメラ対大魔獣ジャイガー
2021.08.26 角川シネマ有楽町 [1000円/83分] ※再観賞
【158】1970大映 監督:湯浅憲明 脚本:高橋二三
CAST:高桑勉、ケリー・バリス、キャサリン・マーフィ、炎三四郎、大村崑、八代順子、平泉征、フランツ・グルーベル
●昭和ガメラを大人になって見返すとき「そりゃ仕方ないよな」という部分。スタンスとして擁護派だから多少は目をつむるが、結果、何も見えなくなっては元も子もない。しかし60になって9歳の目線に落とし込むのは難しい。そんな中で確信する作り手の子供たちへの思いと期待。こうして映画オヤジになったのだから思いは伝わったか。
◎子供はわかってあげない
2021.08.27 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 [1100円/138分]
【159】2021製作委員会=アミューズ 監督:沖田修一 脚本:ふじきみつ彦、沖田修一
CAST:上白石萌歌、豊川悦司、細田佳央太、千葉雄大、古舘寛治、斉藤由貴、高橋源一郎、湯川ひな、坂口辰平、兵藤公美
●沖田修一は前作に次ぐ意表をつくオープニングから、断絶を思わせるタイトルとは裏腹に親と子が融合していくほっこり系にして、最強レベルの「夏映画」に仕上げて見せた。原作コミックの力かも知れないが、時折挟まれるギャグにクスリとさせながら、変な思惑を感じさせない家族関係が青春の煌めきに直結し、大好きな映画になった。
◎スーパーノヴァ
2021.08.27 川崎市アートセンター アルテリオ映像館7 SUPERNOVA [1100円/95分]
【160】2020年イギリス 監督:ハリー・マックイーン 脚本:ハリー・マックイーン
CAST:コリン・ファース、スタンリー・トゥッチ、ピッパ・ヘイウッド、ピーター・マックィーン、ニーナ・マーリン
●スーバーノヴァに生を見るか死を見るか。舞台劇かと思ったら映画オリジナルらしい。20年間愛を確かめ合ってきた二人にも別れは訪れる。しかしそれが宿命としての「死」の手前ですべてが忘却されるのは残酷なこと。最後に超新星の輝きを胸にエルガー「愛のあいさつ」を奏でるC・ファース。覚悟を決めた表情はどこか神々しくもある。
◎ライトハウス
2021.08.27 川崎市アートセンター アルテリオ映像館7 THE LIGHTHOUSE [1100円/109分]
【161】2019年アメリカ 監督:ロバート・エガース 脚本:マックス・エガース
CAST:ウィレム・デフォー、ロバート・パティンソン、ワレリヤ・カラマン、ローガン・ホークス
●白黒スタンダードで40年代ノワール・スリラーを思わせて「これはイケるかも」と思ったものの、途中から現実と妄想が入り混じるショックシーンの羅列と、主演ふたりの激しい怒号が飛び交う展開に「もういいや」となり、両者の大熱演が高じるにつれ「早く終わってくれ」とそればかり念じていた。109分が妙に長く感じてしまい疲れた。
◎フリー・ガイ
2021.08.29 イオンシネマ座間:スクリーン9 FREE GUY [1100円/109分]
【162】2022年アメリカ 監督:ショーン・レヴィ 脚本:マット・リーバーマン、ザック・ペン
CAST:ライアン・レイノルズ、ジョディ・カマー、リル・レル・ハウリー、タイカ・ワイティティ、ジョー・キーリー
●わりと評判なので観てみたがどうにも駄目だった。CG満載のバトルものに対して、ゲーセンに高じる他人の背中越しに画面を観ている感覚などと表してきたが、これはそのプレイヤーさえ見ることが出来ない。こうなるといかにも親しめそうなR・レイノルズをもってしても厳しい。世界観が受け入れられないところに感情移入も出来ないとは。
◎オールド
2021.08.29 イオンシネマ座間:スクリーン6 OLD [無料/108分]
【163】2021年アメリカ 監督:M.ナイト・シャマラン 脚本: 監督:M.ナイト・シャマラン
CAST:ガエル・ガルシア・ベルナル、ヴィッキー・クリープス、アレックス・ウルフ、トーマシン・マッケンジー
●シャラマンの印象は最高の『シックス・センス』と最悪の『サイン』の極端な振り幅にあるが、『オールド』は磁場の歪みでデストピア化したビーチの不可解な事象と、多様な人物たちが狂っていく先に人間ドラマがあり、やがてカラクリが明かされるまでワクワク・ドキドキしながら楽しめた。今思うとご都合主義的な部分も少なくないが……。
◎シュシュシュの娘
2021.09.01 池袋シネマ・ロサ [1100円/88分]
【164】2021年BROCCO FILMS 監督:入江悠 脚本:入江悠
CAST:福田沙紀、吉岡睦雄、根矢涼香、宇野祥平、金谷真由美、松澤仁晶、三溝浩二、仗桐安、安田ユウ、山中アラ、井浦新
●全国のミニシアターでの上映を目指すとの入江悠の志に異を唱える者はいるまい。という前提は抜きにして変な映画だった。排外主義、役人の公文書偽造など社会的なテーマを扱いつつ、途中からジャンルを踏み越え最後は忍者同士の決闘となる。それでシュシュシュだったかと納得しつつ、こんなんで良かったのかと訝しみは残ってしまった。
◎白頭山大噴火
2021.09.04 イオンシネマ座間:スクリーン5 백두산 [1100円/128分]
【165】2019年韓国 監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンウ 脚本: 監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ
CAST:イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク、チョン・ユギョン、チェ・ジヨン、ペ・スジ、イ・サンウォン
●核を所有してないなら盗めばいい。ツッコミどころ満載の中、デザスター、ポリティカル、アクションと冒頭の大地震パニックから全世界の観客のド肝を抜いてやるとの気概。さらにバディもの、家族愛とほぼ全ジャンル網羅のエンタティメントではないか。もちろん日本映画を愛する身として悔しさはあるが、もはや構造的にも周回遅れか。
◎真昼の決闘
2021.09.05 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 HIGH NOON [1200円/84分]
【166】1952年アメリカ 監督:フレッド・ジンネマン 脚本: 監督:カール・ファマン
CAST:ゲイリー・クーパー、グレイス・ケリー、トーマス・ミッチェル、ロイド・ブリッジス、リー・ヴァン・クリーフ
●リー・ヴァン・クリーフの単身ショットから始まるのがあまりに嬉しいのは個人的な思い入れとしても、逃げるな、勇気を以って闘え!という正義マッチョイムズと、それを歪ませる保身と集団心理。本来なら英雄譚として勝利のカタルシスで幕を引くべきなのにそんな気持ちにさせない唯一無二の西部劇。それが名作たる所以かも知れない。
◎科捜研の女 -劇場版-
2021.09.05 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 [無料/109分]
【167】2021年製作委員会=東映 監督:兼﨑涼介 脚本:櫻井武晴
CAST:沢口靖子、内藤剛志、佐々木蔵之介、若村麻由美、風間トオル、金田明夫、斉藤暁、田中健、野村宏伸、小野武彦
●テレビはたまに観る程度だったが、大スクリーンに映すのだという本気は伝わった。人が落下する場面に趣向が凝らされており、なにより佐々木蔵之介が面白い。テレビシリーズの映画化として、ファンムービーとして文句なしだろう。もちろん粗探しは容易。撮影所からある物を借りて犯人を陥れるなどトリッキーもいいところだが許せた。
◎ジャッリカットゥ 牛の怒り
2021.09.05 あつぎのえいがかんkiki ജല്ലിക്കട്ട് [1000円/91分]
【168】2019年インド 監督:リジョー・ジョーズ・ペッリシェーリ 脚本:S・ハリーシュ、R・ジャヤクマール
CAST:アントニ・ヴァルギース、チェンバン・ヴィノード・ジョーズ、サーブモーン・アブドゥサマ、ジャーファル・イドゥッキ
●大勢のむくつけき男たちが目を血ばらせて狂ったように牛を追いかける。なにしろ集団ヒステリーが全力疾走するのだからそれだけで地獄図だ。こんな時代にこんな映画が存在することは否定はしないが、さすがに生理的嫌悪感は拭えない。劇伴が芸能山城組のケチャを思わせ、むしろケチャの本質とはこういうものなのかと興味深くはあった。
◎うみべの女の子
2021.09.05 あつぎのえいがかんkiki [1200円/107分]
【169】2021年製作委員会=スタイル・ジャム 監督:ウエダアツシ 脚本:ウエダアツシ、平谷悦郎
CAST:石川瑠華、青木柚、前田旺志郎、中田青渚、倉悠貴、宮崎優、高橋里恩、平井亜門、円井わん、西洋亮、村上淳
●海辺の町のロケーションが抜群だが、描写されるのは中学生同士の性愛。授業中にトイレに呼び出しての性行為など踏み込んだ内容に驚くのだが、映画は観る側を規制すれば、描くテーマに規制をかけるべきではないのが持論。逆に14歳の時期だからこその自分本位な心の揺らぎなどまだ青春以前、恋愛以前の心理をよく描いたのではないか。
◎先生、私の隣に座っていただけませんか?
2021.09.11 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1100円/119分]
【170】2021年製作委員会=カルチュア・エンターティメント=ファントム・フィルム 監督:堀江貴大 脚本:堀江貴大
CAST:黒木華、柄本祐、風吹ジュン、奈緒、金子大地
●デビュー当初から黒木華の底意地の悪さに魅せられてきたが、どうも世間のイメージは違うらしくもやもやしていたのだが、そんな彼女の二面性が最大限に発揮され、現実と漫画の虚実皮膜の掌で夫を翻弄し、半ば強制的に再生してみせる。その掌のなんと心地良かったことか。そしてラストの鮮やかな切れ味。柄本祐も含め実にお見事だった。
◎アナザーラウンド
2021.09.12 横浜ブルグ13:シアター4 DRUK [1200円/117分]
【171】2020年デンマーク 監督:トマス・ヴィンターベア 脚本:トビアス・リンホルム、トマス・ヴィンターベア
CAST:マッツ・ミケルセン、トマス・ボー・ラーセン、マグナス・ミラン、ラース・ランゼ、マリア・ボネヴィー、スーセ・ウォルド
●行き着いた場所がこれで良かったのかと悶々とする身にとって、将来への可能性が無限にある高校生たちと対峙する教師という職業は辛い。家庭内も閉塞感で一杯だ。そこで理屈をつけて酒に走る男たち。アルコールの善し悪しも彼らの生き方についても映画は白黒はつけないが、だからこそ浮かび上がる人間賛歌のなんと感動的であることか。
◎孤狼の血 LEVEL2
2021.09.12 T・ジョイ横浜:シアター5 [1200円/139分]
【172】2021年製作委員会=東映 監督:白石和彌 脚本:池上純哉
CAST:松坂桃李、鈴木亮平、村上虹郎、西野七瀬、中村梅雀、吉田鋼太郎、滝藤賢一、宇梶剛士、かたせ梨乃、中村獅童
●前作は東映実録路線への白石和彌の羨望が目立って鼻白んでしまったが、一転してヒューマン刑事ドラマとして評価はした。しかし続篇はストーリーに起伏がなく、鈴木亮平のサイコキャラ頼みの一本調子で2時間20分はダレる。松坂も鈴木も表情は頑張っても声の鍛え方が足りない。深作欣二が生きていたら村上虹郎だけは使うんじゃないか。
◎モンタナの目撃者
2021.09.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン5 THOSE WHO WISH ME DEAD [1100円/100分]
【173】2021年アメリカ 監督:テイラー・シェリダン 脚本:T・シェリダン、C・リービット、M・コリータ
CAST:アンジェリーナ・ジョリー、ニコラス・ホルト、フィン・リトル、エイダン・ギレン、メディナ・センゴア
●山火事、落雷、銃撃とハラハラドキドキ楽しめたが観終わると何も残らない。それでOKな映画なのかもしれないが、前半に伏線を張って、最後の起死回生に繋げるなどのひと工夫があってもよかった。A・ジョリーの攻撃的なイメージは生かされず、ただ逃げるばかり。少年にとって「束の間の強い母」になれなければ彼女である意味がない。
◎ムーンライト・シャドゥ
2021.09.13 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン1 [1100円/93分]
【174】2021年製作委員会 監督:エドモンド・ヨウ 脚本:高橋知由
CAST:小松菜奈、宮沢氷魚、佐藤緋美、中原ナナ、吉倉あおい、中野誠也、臼田あさ美
●始まって数十分間は何を見せられているのかわからなかった。その内、こういう映画なんだと納得した。昔の学生映画にはこんな雰囲気だけの映画が一定数あった。その意味では少し記憶をくすぐられたかも知れない。別にドミノ倒しが何かのメタファーである必要はないが、こういう作品に小松菜奈は似合わないし、出るべきではなかった。
◎君は永遠にそいつらより若い
2021.09.18 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1100円/118分]
【175】2021年製作委員会=Atemo 監督:吉野竜平 脚本:吉野竜平
CAST:佐久間由衣、奈緒、小日向星一、笠松将、葵揚、森田想、宇野祥平、馬渕英里何、坂田聡、たける、竹内一希
●選んでよかった。おそらく原作が素晴らしいのだろうが、自身に欠落感を感じ他者との折り合うことに違和感を抱く女二人のシスターフッド的な空気感がたまらなかった。別に抱き合うまでしなくてもいいとは思ったが、ホリガイとイノギが笑い合う姿にホっとさせられ、映画が終わっても二人のこれからを案じるまで入り込むことが出来た。
◎隠し砦の三悪人 <4Kデジタルリマスター版>
2021.09.19 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 [1200円/139分] ※再観賞
【176】1958年東宝 監督:黒澤明 脚本:菊島隆三、小国英雄、橋本忍、黒澤明
CAST:三船敏郎、千秋実、藤原釜足、上原美佐、藤田進、志村喬、樋口年子、藤木悠、土屋嘉男、加藤武、上田吉二郎
●大画面で観るのは42年ぶり。名作との定評は出来上がっている。しかし百姓など下々の人間は臆病で狡猾でカネに汚く自己保身の為なら平気で仲間を裏切るのだとの権威者の性悪説が前提になっている。それを延々に見せられるものだから、とってつけたような大判の譲り合い程度で黒澤ヒューマニズムの発露などと認めてはなるまいと思う。
※1958年キネマ旬報ベストテン第2位
◎マスカレード・ナイト
2021.09.19 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 [無料/129分]
【177】2021年東宝=フジテレビ=集英社 監督:鈴木雅之 脚本:岡田道尚
CAST:木村拓哉、長澤まさみ、麻生久美子、小日向文世、梶原善、石黒賢、沢村一樹、木村佳乃、石橋凌、渡部篤郎
●前作の印象でポイント観賞で観たが、ちゃんとエンターティメントに仕上がっている。シネスコ画面にテレビ屋の仕事ではない意気込みも感じた。クローズド・サーキットからタイムリミットサスペンスまで東野圭吾の原作なので骨格がしっかりしているのに加えて、キムタク・長澤のバディの安定感に小日向、梶原のスパイスが効き悪くない。
◎シンプルな情熱
2021.09.19 あつぎのえいがかんkiki PASSION SIMPLE [1000円/99分]
【178】2020年フランス=ベルギー 監督:ダニエル・アービッド 脚本:ダニエル・アービッド
CAST:レティシア・ドッシュ、セルゲイ・ポルーニン、ルー=テモ・シオン、キャロリーヌ・デュセイ、グレゴワール・コラン
●パリ、ブロンド、フレンチのモノローグ・・・私などそれだけで一定のアドバンテージを感じてしまうが、内容はフランス熟女とロシア青年の逢瀬。しかしR-18指定にしては官能性は希薄。愛よりエゴイズム丸出しの即物的な肉体への訴求を描きながら、どこかスタイリッシュな描写に終始していると思えた。どうせならもっと欲情が迸るべきだ。
◎空 白
2021.09.23 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 [1200円/107分]
【179】2021年製作委員会=KADOKAWA=スターサンズ 監督:吉田惠輔 脚本:吉田惠輔
CAST:古田新太、松坂桃李、寺島しのぶ、田畑智子、藤原季節、趣里、伊東蒼、片岡礼子、野村麻純
●惨たらしい娘の死体を見た父親の怒りを「狂気」と呼べるのか。その死に関わってしまった店長の憔悴を「弱気」と呼べるのか。そして当事者から離れたところに群がるマスコミや貼り紙、SNS、強引に当事者に分け入ってくるパートのおばさんたちの「正義」に苛っとする自分は何様なのか。自身と他者との関係性を考えざる得ない力作だ。
※2021年キネマ旬報ベストテン第7位
◎亀 裂
2021.09.24 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/67分]
【180】1968年日映=プロダクション鷹 監督:木俣堯喬 脚本:木俣堯喬
CAST:水城リカ、鬼塚大吉、一星ケミ、吉川次郎、岡島艶子、青柳恵子、上田明美、曽呂勝、前田五郎、原浩二、矢車会一
●観たくとも観る機会がなかった60年代ピンク映画。ようやくお目にかかれたのが木俣堯喬作品。プロ鷹のことは高校生のときから知っていたが、あまりの昼メロ展開に面食らう。興味津々ののパートカラーもフィルムが褪色して赤褐色。人間描写もストーリーも浅いし、淡白な濡れ場はR15レベル。ただ資料的価値以上に一定の雰囲気はあったか。
◎浜の朝日の嘘つきどもと
2021.09.25 ヒューマントラストシネマ渋谷 [1200円/114分]
【181】2021年福島中央テレビ=ポニーキャニオン=ホリプロ 監督:タナダユキ 脚本:タナダユキ
CAST:高畑充希、大久保佳代子、柳家喬太郎、甲本雅裕、佐野弘樹、神尾佑、光石研、吉行和子、竹原ピストル、大和田伸也
●メインの「寅さん」を食う併映作品のように『キネマの神様』の何倍も天晴だが、製作にテレビ局、レコード会社に芸能プロというのは皮肉。ASAHIZA存続には借金以上の大型DLPを導入しなければならない。しかし血の繋がり、地域の繋りへの第一歩は身近の理解者からという人情劇として悪くない。にしても大久保さんに泣かされるとは。
◎由宇子の天秤
2021.09.25 ユーロスペース [1200円/152分]
【182】2021年製作委員会=ビターズエンド 監督:春本雄二郎 脚本:春本雄二郎
CAST:瀧内公美、河合優実、光石研、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、前原滉、永瀬未留、丘みつ子
●「選択」ではなく「天秤」という言葉の持つ打算と妥協。ドキュメンタリストの誇りが喪失していく地獄めぐりと、その結果としての報いを受入れる由宇子の行動。贖罪か、プロの矜持か、それとも無となる寸前の残滓なのか。嘘と真実、加害と被害、激情と冷静、厳しさと優しさ。彼女の天秤は二律背反を揺れ動く。今年一番の衝撃作だ。
※2021年キネマ旬報ベストテン第8位
◎全員切腹
2021.09.26 ユーロスペース [1000円/26分]
【183】2021年豊田組=CCP 監督:豊田利晃 脚本:豊田利晃
CAST:窪塚洋介、渋川清彦、芋生悠、ユキリョウイチ、飯田団紅
●時代劇に仮託してコロナ禍や社会格差に喘ぐ現代ニッポンを照射する試みは良しとしても、流麗な映像にセックスピストルズならぬ“切腹ピストルズ”の音楽が喧しすぎた。窪塚侍のハラキリ前のアジ演説も頭に入ってこなかったが、渋川介錯人が返り血で顔が真赤になるのはキワモノ感を煽るだけ。あの血糊のまま鳥居をくぐって帰るつもりか?
◎かぞくへ
2021.09.29 新文芸坐 [1100円/117分]
【184】2016年製作委員会 監督:春本雄二郎 脚本:春本雄二郎
CAST:松浦慎一郎、梅田誠弘、遠藤祐美、三溝浩二、おのさなえ、下垣まみ、瀧マキ、森本のぶ
●「こっちから連絡するまで電話してくんな」。修復の余地を残した言葉が印象に残る。幼馴染のヒロトと婚約者の佳織、この二人の間で苦悶する旭、これも天秤の話なのか。離島の養護施設育ちの絆に旭の天秤は傾くのは必然で、最後に大きな救済が待っている。ここ数日で春本監督に勝手に抱いていたインデペンデントのイメージが覆された。
◎家族ゲーム
2021.10.02 新文芸坐 [1500円/106分] ※再観賞
【185】1983年NCP=ATG 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:松田優作、伊丹十三、由紀さおり、宮川一朗太、辻田順一、松金よね子、岡本かおり、鶴田忍、戸川純、加藤善博
●【森田芳光70祭】公開当時、あまりの面白さに一緒に観る仲間を替えて5回観ている。そして今回36年ぶりに再会して思ったのは、比類なき特異性は今も唯一無二で、なにひとつ忘れていた場面などなかったのだが、面白いという感覚より作品に漂う不穏な空気感に妙な緊張を強いられていた気がする。もうこれが最後の観賞となるだろうな。
※1983年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ときめきに死す
2021.10.02 新文芸坐 [1500円/105分] ※再観賞
【186】1984年NCP=ヘラルド=にっかつ 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:沢田研二、樋口可南子、杉浦直樹、日下武史、矢崎滋、岡本真、岸部一徳、宮本信子、加藤治子、上田耕一、亜湖
●公開時、ジュリーのキャラ設定、北野映画を先取ったような低体温感が趣味に合わなくてほぼ内容は忘れていたが、テーマ曲が鳴った瞬間「あっ」となった。改めて森田芳光の掌に乗っかって再見し、ここまで面白い映画だったかと驚く。孤独な暗殺者の幼いまでの非力さに「歌舞伎町の医者」同様に妙に感情移入して、最後は悲しくなった。
◎黒い家
2021.10.02 新文芸坐 [1500円/118分] ※再観賞
【187】1999年松竹=角川=アスミック 監督:森田芳光 脚本:大森寿美男
CAST:内野聖陽、大竹しのぶ、西村雅彦、田中美里、小林薫、石橋蓮司、町田康、小林トシ江、友里千賀子、桂憲一
●こんなに面白い映画だったことにびっくり。22年前は原作を読んだばかりだったこと、西村雅彦が「今泉慎太郎」の印象が強すぎたのがノイズとなったのだろう。カメラ、美術、照明に至る森田映画らしい発想の喧しさが奇跡的にハマってとんでもないホラーに結実した。ヒマワリ、ボウリングの球、そして黄色づくしの大竹しのぶの恐ろしさ。
◎ボディガード牙
2021.10.02-03 新文芸坐 [2600円/87分]
【188】1973年東映 監督:鷹森立一 脚本:中西隆三
CAST:千葉真一、渥美マリ、内田良平、伊達三郎、山本麟一、郷鍈治、渡辺やよい、大山倍達、日尾孝司、安岡力也、久地明
●惜別の千葉ちゃんナイト。何とブルース・リーのブーム以前に作られたカラテ映画。梶原一騎の先見性なのかも知れない。70年代東映の判で押したような手持ちカメラのぶん回しに、もっとじっくり殺陣が見たい恨みが残った。東映では珍しい渥美マリにはそれほどの魅力は感じなかった。それでも千葉真一のビシッと決めたスーツ姿は絶品。
◎激突!殺人拳
2021.10.02-03 新文芸坐 [ 〃 /91分] ※再観賞
【189】1974年東映 監督:小沢茂弘 脚本:高田宏治、鳥居元宏
CAST:千葉真一、山田吾一、中島ゆたか、風間千代子、山本麟一、石橋雅史、千葉治郎、志穂美悦子、川合伸旺、風間健
●完全に香港カンフー映画ブームの便乗企画だが、シリーズの殆どをスルーしていた。この時点での千葉ちゃんは運動神経と顔芸だけでカンフーをこなしている。山田吾一の子分感や山本麟一の憎めない悪党の描き方は仁侠映画の大御所らしい浪花節演出でホッとさせ、“脱ぎ線”の渡辺やよいのカンフーアクションというレアな場面にほっこりした。
◎直撃地獄拳 大逆転
2021.10.02-03 新文芸坐 [ 〃 /86分] ※再観賞
【190】1974年東映 監督:石井輝男 脚本:石井輝男、橋本新一
CAST:千葉真一、郷鍈治、中島ゆたか、佐藤充、志穂美悦子、名和宏、葉山良二、安岡力也、室田日出男、丹波哲郎、池部良
●これは高校のときに観た。当時は級友とあまりの馬鹿馬鹿しさに苦笑いしながらもそれなりに楽しんだのだったか。企画とタイトルを無視した石井輝男のナンセンスギャグが連発するサブカル連中御用達のカルト映画で、どう見てもカラテ映画にはなっていない。とくに残忍凶暴キャラの郷鍈治の下世話な三枚目芝居は今でも十分に笑える。
◎子連れ殺人拳
2021.10.02-03 新文芸坐 [ 〃 /89分]
【191】1976年東映 監督:山口和彦 脚本:鴨井達比古、中島信昭
CAST:千葉真一、夏八木勲、三縄智、川崎あかね、渡辺やよい、郷鍈治、佐藤晟也、高月忠、小山明子、小林稔侍、梅宮辰夫
●午前3時50分からの上映開始でさすがに睡魔と戦いながらの観賞となり、ところどころ記憶が飛んでしまっが、数分落ちたくらいで『用心棒』を模した安易なストーリーが不明となることはない。ただいつの間にかライバルの夏八木勲は死んでいた。そんなこんなで長年に渡って我が国のアクション映画を牽引してきた千葉真一に哀悼と感謝を。
◎カラミティ
2021.10.8 新宿バルト9:シアター1 CALAMITY:UNE ENFANCE DE MARTHA JANE CANNARY [1200円/82分]
【192】2020年フランス=デンマーク 監督:レミ・シャイエ 脚本:サンドラ・トセロ、F・D・コスティル、レミ・シャイエ
CAST:(声)サロメ・ブルバン、アレクサンドラ・ラミー、アレクシ・トマシアン、ヨヘン・ヘーゲル、レオナール・ラフ
●『ロング・ウェイ・ノース』の瑞々しさでL・シャイエの新作を心待ちしていた。輪郭線のない圧倒的なアニメーション映像は北極から開拓時代のアメリカへ。西部劇にフランス語でもまったく違和感はなく、前作同様に女の子の冒険を描きながら「女らしく」の時代背景も含め「男らしさ」への同調圧力をも軽々と飛び越えて見せたのはお見事。
◎MINAMATA -ミナマタ-
2021.10.09 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 MINAMATA [1200円/115分]
【193】2020年アメリカ 監督:アンドリュー・レヴィタス 脚本:デヴィッド・ケスラー
CAST:ジョニー・デップ、美波、真田広之、國村隼、加瀬亮、浅野忠信、キャサリン・ジェンキンス、ビル・ナイ、岩瀬晶子
●小学生のとき水俣病は学習課題でやった。あれから結構な月日が流れ、数年前の水俣訴訟のニュースに「まだ解決していないのか」と呆れた。こうしてJ・デップの背中越しに水俣を振り返るが、公害や社会正義より落ちぶれていた写真家の再生物語の印象。「LIFE」の責任者を泣かせる場面は最高だがユージンの人物の掘り下げはやや浅く思えた。
※2021年キネマ旬報ベストテン第9位
◎キャッシュトラック
2021.10.10 イオンシネマ海老名:スクリーン2 WRATH OF MAN [1100円/119分]
【194】2021年イギリス=アメリカ 監督:ガイ・リッチー 脚本:ガイ・リッチー、M・デイヴィス、A・アトキンソン
CAST:ジェイソン・ステイサム、スコット・イーストウッド、ホルト・マッキャラニー、ジョシュ・ハートネット
●2時間たっぷり遊ばせてもらった。ジャンル映画かくあるべしで、実はクライムアクション&サスペンスでワクワクさせながらゴールまで行き着ける映画はあるようでないもの。前作『ジェントルメン』同様、ガイ・リッチーは時間軸をずらしながら核心へと進めていくのだが、奇を衒ったというより見事に安定感を得ている。その手腕たるや!
◎プリズナーズ・オブ・ゴーストランド
2021.10.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 PRISONERS OF THE GHOSTLAND [1100円/105分]
【195】2021年アメリカ 監督:園子温 脚本:アロン・ヘンドリー、レザ・シクソ・サファイ
CAST:ニコラス・ケイジ、ソフィア・ブテラ、ビル・モーズリー、ニック・カサヴェテス、TAK∴、中屋柚香、古藤ロレナ
●園子温ハリウッドデビュー作ということだが、本当にハリウッドで撮ったのか。まるで花園神社のアングラ公演。ニコラス・ケイジにまったく魅力がなく、見世物小屋的なキッチュさを狙いにいったのかも知れないが、むしろもっとも安易なアプローチで本質から逃げている。もはや見損なうばかりで数年前までの昂揚感はどこへ消えたのか。
◎007/ノー・タイム・トゥ・ダイ
2021.10.10 TOHOシネマズ海老名:スクリーン9 NO TIME TO DIE [1100円/164分]
【196】2021年イギリス 監督:キャリー・ジョージ・フクナガ 脚本:ニール・パーヴィス、R・ウェイド、C・G・フクナガ
CAST:ダニエル・クレイグ、ラミ・マレック、レイフ・ファインズ、ナオミ・ハリス、ロリー・キニア、レア・セドゥ
●この164分間ばかりではなく前々作からのダニエル・クレイグのジェームズ・ボンドの旅が完結したのだろう。もう完全にシリーズの枠組から外れてしまったが傑作だと思った。多少虫食いながらシリーズを劇場で見続けた私もこの結末を受け入れたいと思う。もちろんスパイアクションとして一級品であり、なにより映画の豊潤度が圧倒的だ。
◎殺人鬼から逃げる夜
2021.10.10 TOHOシネマズ新宿:スクリーン12 미드나이트 [1100円/104分]
【197】2021年韓国 監督:クォン・オスン 脚本:クォン・オスン
CAST:チン・ギジュ、ウィ・ハジュン、パク・フン、キル・ヘヨン、キム・ヘユン
●殺人鬼から逃げる耳の聴こえない母娘。面白そうな予感はしたが残念だった。最後にハンデを逆手に取ったドンデン返しでもあれば良かったが、彼女たちの窮地が理不尽に晒される道具立てでしかなく、それがあまりにアホっぽいので現場に臨場している気分にはなれない。結局ハンデを抱えた人間は身を切るしかないというオチもどうなのか。
◎かそけきサンカヨウ
2021.10.15 シネ・リーブル池袋 [1200円/115分]
【198】2021年製作委員会=めーてれ=テンカラット 監督:今泉力哉 脚本:澤井香織
CAST:志田彩良、鈴鹿央士、井浦新、菊池亜希子、中井友望、鎌田らい樹、芹澤興人、梅沢昌代、西田尚美、石田ひかり
●ストーリー展開にも演出にも演技にもすべてに抑制を効かせ、陽と父、陽と陸、陽と美子、陸と母、陸と沙樹のそれぞれ一対一の会話から醸される芳醇さ。一言目の緊張から次第に解き放たれる安堵感。それが全体の空気感となって作品に結晶し、みるみる面白くなっていく。いよいよ今泉は令和の小津となり、人々の機微を掬い取り始めたか。
◎最後の決闘裁判
2021.10.16 イオンシネマ座間:スクリーン6 THE LAST DUEL [1100円/153分]
【199】2021年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:ニコール・ホロフセナー、ベン・アフレック、マット・デイモン
CAST:ジョディ・カマー、マット・デイモン、アダム・ドライバー、ベン・アフレック、ハリエット・ウォルター
●いきなり決闘から幕が開く。甲冑と槍と剣が鈍く響き合う金属音と流血こそが真実なのだろう。そこから逆算した当事者たちの直面する事実など『羅生門』同様に所詮は藪の中だ。ただ心理と思惑を色分けするのではなく回想を客観描写で徹底したことによりリーガルサスペンスに傾きかけた流れを重厚的な歴史ドラマに踏み留めたのはさすが。
◎ユージュアル・サスペクツ
2021.10.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 THE LAST DUEL [1100円/105分]
【200】1995年アメリカ 監督:ブライアン・シンガー 脚本:クリストファー・マックァリー
CAST:ケヴィン・スペイシー、ガブリエル・バーン、スティーブン・ボールドウィン、ベニチオ・デル・トロ
●初見はビデオ。いつの間にか四半世紀が経つ。しばし“驚愕のラスト”の代名詞のように扱われるが、翻弄された感じか。そもそも観客の興味がカイザー・ソゼとは何者なのかに興味があるとも思えないし、ひとつひとつ消化される事件で謎が深まっていたわけでもないので驚愕は当たらないのではないか。知的であることの不気味さあるのだが。
※1995年キネマ旬報ベストテン第7位
◎アイダよ、何処に?
2021.10.17 川崎市アートシアター アルテリオ映像館 QUO VADIS, AIDA? [1100円/101分]
【201】2020年ボスニア・ヘルツェゴビナ=オーストリア=ルーマニア=オランダ=ドイツ=ポーランド=フランス=ノルウェー=トルコ 監督・脚本:ヤスミラ・ジュバニッチ CAST:ヤスナ・ジュリチッチ、イズディン・バイロヴィッチ、ヨハン・ヘンデンベルグ
●殆ど予備知識なしで観ていたものだから、ここまで必死に家族を逃がそうとするアイダの行動が正直疎ましくなっていたところに衝撃のジェノサイド。まったく疎ましく思っていた自分の甘さに呆然となってしまうのだが、これがボスニア戦争の現実であり史実なのだろう。平和ボケを痛感させられたが、平和ボケで一体何が悪いのだとも思う。
◎くじらびと
2021.10.17 川崎市アートシアター アルテリオ映像館 [無料/113分]
【202】2021年Bonfilm=アンプラグド 監督・撮影:石川梵 編集:熱海鋼一、蓑輪広二
CAST:(ドキュメンタリー)
●銛に抉られ波打ち際を血潮で染めながら息絶えるクジラ。渾身の撮影の中に島の人々が命を継いでいく儀式としての崇高さは感じたが、先ずは捕食のダイナミズムが圧倒する。ある種、人間の原罪だとしても観ていて気持ちの良いものではなかった。クジラだけが息を引き取るとき静かに目を閉じるという長老の語りが印象に残る。
◎由宇子の天秤
2021.10.17 川崎市アートシアター アルテリオ映像館 [1200円/152分] ※再観賞
【203】2021年映像工房・春組=ビターズエンド 監督:春本雄二郎 脚本:春本雄二郎
CAST:瀧内公美、光石研、河合優実、梅田誠弘、松浦祐也、和田光沙、池田良、木村知貴、前原滉、永瀬未留、丘みつ子
●初見でドーンと衝撃を食らい、春本監督の長編デビュー作『かぞくへ』を挟んで再見。萌の父親と一旦別れ、逡巡から告白に至るまでの数十メートル。演出も演技も見事だ。人として最善を尽くした由宇子は何処かで再生出来ると信じたいが、「自分を守りたかっただけ」と父親を詰った言葉に自らも向き直らなければならない。厳しい映画だ。
※2021年キネマ旬報ベストテン第8位
◎燃えよ剣
2021.10.23 109シネマズグランベリーパーク:シアター6 [無料/152分]
【204】2021年東宝=アスミックエース 監督:原田眞人 脚本:原田眞人
CAST:岡田准一、鈴木亮平、柴咲コウ、山田涼介、伊藤英明、尾上右近、山田裕貴、村本大輔、安井順平、村上虹郎
●やや大河ドラマの総集編チックでも編集賞ものだろう。なにしろバラガキ時代から、芹沢鴨暗殺、池田屋から函館戦争までの群像を捌いて歳三の激動の生涯を147分にまとめ上げたのは大したもの。壬生浪たちの血生臭い事件を描きながら不思議な清涼感が漂うのは桜舞う石畳みの流麗な俯瞰映像を挟んだからだろう。なかなか「巧い」と思った。
◎DUNE/デューン 砂の惑星
2021.10.24 イオンシネマ座間:スクリーン6 DUNE [1100円/155分]
【205】2020年アメリカ 監督:ドゥニ・ヴィルヌーヴ 脚本:エリック・ロス、ジョン・スペイツ、ドゥニ・ヴィルヌーヴ
CAST:ティモシー・シャラメ、レベッカ・ファーガソン、オスカー・アイザック、ジョシュ・ブローリン、ジェイソン・モモア
●ハーバートやらリンチやらホドロフスキーやらと超大作でも妙にカルトな障壁を感じて敬遠していたのだが、ここで主演にシャラメを持ってきた時点でリメイク版の成功は約束された。砂風を浴びる華奢な美少年のビジュアルだけで十分に映画たり得ている。内容はやや哲学的であっても、結局のところビジュアル100%の映画なのだから。
◎ひらいて
2021.10.30 イオンシネマ海老名:スクリーン6 [1100円/121分]
【206】2021年テレビマンユニオン=ショウゲート 監督:首藤凜 脚本:首藤凜
CAST:山田杏奈、芋生悠、作間龍斗、山本浩司、河井青葉、木下あかり、鈴木美羽、板谷由夏、田中美佐子、萩原聖人
●綿矢りさ原作のヒロインたちの愛すべき「面倒くささ」を等身大ではなく客観的に描くとここまで厄介となるのか。たとえの愛への評価は正確に的を射ているが、自分を信じるままたとえと美雪を篭絡したつもりが二人から「嘘」だと見抜かれる愛は自己否定に追い込まれるしかない。それでも最後まで我を貫く強さは大したもの。
◎嘆きの天使
2021.10.31 シネマヴェーラ渋谷 DER BLAUE ENGEL [800円/95分]
【207】1930年ドイツ 監督:ジョセフ・フォン・スタンバーグ 脚本:ロベルト・リープマン、C・ツックマイヤー他
CAST:マルレーネ・ディートリッヒ、エミール・ヤニングス、クルト・ゲロン、ローザ・ヴァレッティ、ハンス・アルバース
●2行もあれば概略も内容も書けてしまうほどシンプルな映画だが、厳格な教師がデートリッヒの魔性に憑りつかれ、ピエロにまで堕ちて死んでいくまでの陰惨な描写は90年以上昔の古典とは思えないほどの説得力。いや30年代初頭のドイツ歓楽街の空気感が説得力を生んでいるのかもしれない。いつでも退廃と享楽は一対の関係にあるのか。
◎アスファルト・ジャングル
2021.10.31 シネマヴェーラ渋谷 THE ASPHALT JUNGLE [800円/101分]
【208】1950年アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:ベン・マドウ、ジョン・ヒューストン
CAST:スターリング・ヘイドン、ルイス・カルハーン、ジーン・ヘイゲン、ジェームズ・ホイットモア、マリリン・モンロー、
●ジャンルとしてはノワールなのだろうが、カラっとした口当たりは監督の資質なのか。今年何本かのジョン・ヒュートン作品を観た中で一番面白かった。ケイパーもの+コンゲームの末に「生き残った強盗犯は故郷を目指す」との定石に従い映画はテンポよく進む。安定の面白さを期待する観客を安心して映画館から送り出す術は流石だと思った。
◎汚 名
2021.10.31 シネマヴェーラ渋谷 NOTORIOUS [800円/101分] ※再観賞
【209】1946年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:ベン・ヘクト
CAST:イングリッド・バーグマン、ケーリー・グラント、クロード・レインズ、ルイス・カルハーン,モローニ・オルセン
●38年ぶりの観賞。前回観たときはあまり印象に残らなかったが、なんで印象に残らなかったのか不思議なほど面白かった。スリラー、サスペンスの巨匠はラブストーリーの巨匠でもある。と耳にするが、『汚名』はその真骨頂だろう。バーグマンの美しさと彼女が絶体絶命のピンチに陥るハラハラ感。なんてときめきに満ちた映画なのだろうか。
◎紳士は金髪はお好き
2021.10.31 シネマヴェーラ渋谷 GENTLEMEN PREFER BLINDES [800円/92分]
【210】1953年アメリカ 監督:ハワード・ホークス 脚本:チャールズ・レデラー
CAST:マリリン・モンロー、ジェーン・ラッセル、チャールズ・コバーン、エリオット・リード、トミー・ヌーナン
●名の通った映画だが、グラマーでセクシーな女はおつむが軽い。そんな単純なある種の女性像に男どもはこぞって魅了されたのだろう。モンローのパブリックイメージはLGBTが問われる現代では噴飯ものなのだろうが、大らかな時代に「ダイヤモンドは女の親友」と歌い上げる彼女の可愛さは尋常ではない。改めて超一流の女のプロなのだろう。
◎未来世紀ブラジル
2021.11.03 TOHOシネマズ新宿:スクリーン1 BRAZIL [1200円/142分]
【211】1985年イギリス 監督:テリー・ギリアム 脚本:テリー・ギリアム、トム・ストッパード、チャールズ・マッケオン
CAST:ジョナサン・プライス、ロバート・デ・ニーロ、キャサリン・ヘルモンド、イアン・ホルム、ボブ・ホスキンス
●ビデオ販売に携わったこともあっていくらでも観る機会はあったが、このチープ&ゴージャスなSFカルト作を今になってようやく観た。確かにぶっ飛んだ映画だったが、むしろ「ぶっ飛んだ」なとど古臭い表現こそが似つかわしい。前半は繰り出される小技と小ネタの趣向が新鮮だったものの1時間越えたあたりからすっかり飽きてしまった。
※1986年キネマ旬報ベストテン第8位
◎( ハ ル )
2021.11.03 飯田橋ギンレイホール [1225円/118分]
【212】1996年光和インターナショナル=東宝 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:深津絵里、内野聖陽、戸田菜穂、宮沢和史、竹下宏太郎、鶴久政治、山崎直子、平泉成、潮哲也、八木昌子
●なんでビデオなんかで観てしまったのだろうか、と四半世紀前の行為が悔やまれるほど、あらゆる意味で劇場で観るべき映画だった。でもこれでようやく一番好きな森田芳光は「ハル」だと堂々といえる。当時の最先端“パソコン通信”を描きつつ、日本と海外の映画の感じ方の比較に言及した画期的傑作にして最高にキュートな恋愛映画。
※1996年キネマ旬報ベストテン第4位
◎僕達急行 A列車で行こう
2021.11.03 飯田橋ギンレイホール [1225円/117分]
【213】2012年製作委員会=東映 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:松山ケンイチ、瑛太、貫地谷しほり、村川絵梨、ピエール瀧、伊東ゆかり、笹野高史、伊武雅刀、西岡徳馬、松坂慶子
●見逃したわけではなく見送っていた。この頃の森田には正直それほど期待出来ないと勝手に決めていた。こうした記念イベントで遺作として上映されることのアドバンテージはあると思うが、間違いなく楽しい映画だ。私も列車の旅が好きなので、作家性よりも森田の趣味が優先された意味で、楽しく撮れて本当に良かったなと思う。
◎キッチン
2021.11.03 飯田橋ギンレイホール [1225円/106分]
【214】1989年光和インターナショナル=松竹 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:川原亜矢子、松田ケイジ、橋爪功、吉住小昇、後藤直樹、中島陽典、松浦佐紀、浦江アキコ、四谷シモン、浜美枝
●吉本ばななの原作は読んでいたにもかかわらず、序盤から主演ふたりのぎくしゃくした芝居と、豪華な調度品の不思議な世界観から先の予測がまったく出来なかった。物語の転換もないままトーンを変えずに最後まで押し通した森田芳光も凄いが、橋爪功の熱演も含めキャスティングと美術と函館のロケーションでほぼ決まった映画だった。
◎仁義なき戦い
2021.11.03 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/99分] ※再観賞
【215】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、松方弘樹、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、伊吹吾郎、川地民夫、三上真一郎、田中邦衛、曽根晴美、金子信雄
●今も憶えている。小学生のとき夜中に親に隠れてこっそり見ていた「11PM」で流れていたスポットCM。それが私の『仁義なき戦い』の原体験だ。冒頭、広能昌三が飲んでいたのがミルクなのかカストリなのか未だ不明だが、この先の人生であと何回観られるかわからないにしても、上映があれば必ず戻ってその時々の“今”を確認する映画だ。
※1973年キネマ旬報ベストテン第2位
◎アレックス STRAIGHT CUT
2021.11.07 新宿武蔵野館 IRRÉVERSIBLE STRAIGHT CUT [1200円/90分]
【216】2020年フランス 監督:ギャスパー・ノエ 脚本:ギャスパー・ノエ
CAST:モニカ・ベルッチ、ヴァンサン・カッセ、アルベール・デュポンテル、ジョー・プレスティア、フィリップ・ナオン
●日常の苛々さえも破壊するトラウマ級の暴力に遭遇。ギャスパー・ノエの名は聞こえていたがここまでやってしまう人とは。ケツの穴に拳を突っ込まれる痛みを想像してみるが、それさえ麻痺させる描写力はこの監督が持つ旺盛な破壊衝動かもしれないが、冷静な演出技術も感じさせる。時間軸を逆行させるカオスなオリジナル版ならこれが正解。
◎仁義なき戦い 広島死闘篇
2021.11.12 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/100分] ※再観賞
【217】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:北大路欣也、千葉真一、梶芽衣子、名和宏、成田三樹夫、小池朝雄、遠藤辰雄、前田吟、室田日出男、菅原文太
●これまでシリーズを一挙に見続けていたので、山中の壮絶な自決の余韻で映画館を出るのは高校生の時以来。千葉真一が亡くなり改めて大友に注目が集まる中、やはり主役は“特攻隊の生きはぐれ”なのだと確信。志賀勝、福本清三、片桐竜次を血祭りしにして「予科練の歌」を口笛で吹き陶然とする山中の俯瞰ショットは何度観ても鮮烈で悲しい。
◎エターナルズ
2021.11.13 109シネマズ港北:シアター3 ETERNALS [1200円/156分]
【218】2021年アメリカ 監督:クロエ・ジャオ 脚本:クロエ・ジャオ、パトリック・バーリー、ライアン・フィルポ
CAST:ジェンマ・チャン、アンジェリーナ・ジョリー、リチャード・マッデン、サルマ・ハエック、マ・ドンソク
●目から飛び出すレーザービームは最先端映像をもってしても笑ってしまうが、クロエ・ジャオを囲い込んでしまうMCUの貪欲さと、『エンドゲーム』に撃沈した記憶からまだ手垢のついていない段階で10人のヒーローひとりひとりのキャラが把握できたのは楽しかった。文明発祥から現代まで人類がそこまで守られるべき対象かは疑問だったが。
◎ファイト・クラブ
2021.11.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 FIGHT CLUB [1200円/139分] ※再観賞
【219】1999年アメリカ 監督:デイヴィッド・フィンチャー 脚本:ジム・ウールス
CAST:ブラッド・ピット、エドワード・ノートン、ヘレナ・ボナム・カーター、ミート・ローフ、ザック・レニエ、ジャレッド・レト
●「午前十時の映画祭」の何本かはシネコン世代の映画となって『ファイト・クラブ』の初見も隣のイオンシネマだったがすでに22年が経つ。「刻一刻とお前の時間が奪われていく」のは今も22年前も一緒だが実感が違う。「生」の証しとしての「痛み」も分からないでもないが、刹那に生きる辛さも知ってしまった以上、彼らの挑発には乗れない。
◎アイス・ロード
2021.11.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 THE ICE ROAD [1200円/109分]
【220】2021年アメリカ 監督:ジョナサン・ヘンズリー 脚本:ジョナサン・ヘンズリー
CAST:リーアム・ニーソン、ローレンス・フィッシュバーン、マーカス・トーマス、アンバー・ミッドサンダー
●薄氷を渡る30屯トレーラーという絵面で企画された映画なのだろうが、なんで3台も連なって走るのか。極限のサスペンスでもどこか牧歌的なのはリーアム・ニーソンから醸される雰囲気だろうが、なにせストーリーが緩い。大自然と闘う主人公を期待したつもりが小悪党との追撃戦となってしまい、予告編の期待値を大幅に下回ったのは残念。
◎劇場版 きのう何食べた?
2021.11.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン3 [無料/100分]
【221】 2021製作委員会=東宝 監督:中江和仁 脚本:安達奈緒子
CAST:西島秀俊、内野聖陽、梶芽衣子、山本耕史、磯村勇斗、マキタスポーツ、高泉淳子、奥貫薫、田山涼成、田中美佐子
●オープニングの安寧坂、南禅寺のロケがいい。ただ原作コミックがあり、さらにテレビドラマにもなって今さらだが内野聖陽のオネェ芝居ってどうなんだろ。このカップルが甘ったれ同士のもたれ合いに映ってしまい困った。いっそ内野を強面にしてまえば面白かったのではないか。シロさんとケンジの日常生活にはほっこりさせられたが。
◎モーリアニアン 黒塗りの記録
2021.11.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 THE MAURITANIAN [1200円/129分]
【222】2020アメリカ 監督:ケヴィン・マクドナルド 脚本:M・B・トラーヴェン、ローリー・ヘインズ、S・ノシャーバニ
CAST:ジョディ・フォスター、ベネディクト・カンバ―バッチ、シェイリーン・ウッドリー、タハール・ラヒム
●9.11同時多発テロは様々な暗部を焙り出したのだろうが、同時に新たな暗部も創出していった。スケープゴートにされたモハメドゥはその象徴かもしれないが、“民主国家”合衆国でさえ司法や人権が機能マヒしていたことに暗澹たる思いを抱かせつつ、たかだか数年前の現実をこうして実名で映像化する土壌があることにも恐れ入るのだ。
◎Mr.ノーバディ
2021.11.18 飯田橋ギンレイホール NOBODY [1200円/109分]
【223】2021年アメリカ 監督:ジョナサン・ヘンズリー 脚本:ジョナサン・ヘンズリー
CAST:ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、クリストファー・ロイド、アレクセイ・セレブリャーコフ
●アクション映画という大きなジャンルの中で「ナメてた相手が実は最強戦士」という括りは最高のカタルシスをもたらせてくれる。これはその決定版というか、ほぼ最高峰なのではないか。我々の想像を軽く超える覚醒ぶりは痛快を超えて驚愕でもあり、これが新機軸になると後続する企画はきつい。しかも随所に流れる選曲のオヤジ感がいい。
◎仁義なき戦い 代理戦争
2021.11.19 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/102分] ※再観賞
【224】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、小林旭、梅宮辰夫、渡瀬恒彦、成田三樹夫、田中邦衛、山城新伍、金子信雄、加藤武、池玲子、川谷拓三
●令和になっても『代理戦争』は面白い。小林旭を除く殆どのメインが鬼籍に入ってもなお最高に面白い。あっちの組、こっちの組とバタバタ右往左往する自己保身の権化たち。その人間模様。一人一人のなんと愛おしいことか。一方で直情径行に突っ走って一発の反撃も許されず憤死する若者。まさに人生喜劇であり至高の102分のショウタイム。
※1973年キネマ旬報ベストテン第8位
◎天河伝説殺人事件
2021.11.20 テアトル新宿 [1200円/102分]
【225】1991年角川=東映 監督:市川崑 脚本:久里子亭、日高真也、冠木新市
CAST:榎木孝明、岸恵子、日下武史、岸田今日子、財前直見、神山繁、岸部一徳、加藤武、大滝秀治、伊東四朗、石坂浩二
●原作は内田康夫の中でもとびきり面白かった記憶があるが、内容は見事に忘れていた。というかこんなつまらない話だったのかと訝しく思う。説明ゼリフの多用は2時間サスペンスと見紛うばかりで、市川崑の興味は薪能を美しく撮ることに執心していたか。我が子に手をかけてしまう母の姿も『悪魔の手毬唄』の哀しみには遠く及ばなかった。
◎戦国自衛隊
2021.11.20 テアトル新宿 [1200円/139分]
【226】1991年角川=東宝 監督:斎藤光正 アクション監督:千葉真一 脚本:鎌田敏夫
CAST:千葉真一、夏八木勲、渡瀬恒彦、江藤潤、速水亮、三浦洋一、かまやつひろし、小野みゆき、河原崎健三、真田広之
●未見のまま気になってはいた。川中島の武田軍と自衛隊の合戦は千葉真一の体躯と演出力で見応え十分。夏八木勲の殺陣も素晴らしいし、足軽、忍者に戦車・軍用へリのミスマッチも面白い。が、結局それだけの映画。無駄な挿入歌の頻発など悪しき角川映画そのものだが、では今、このレベルの大活劇を作ってみろといわれて、誰が作れるのか。
◎リスペクト
2021.11.21 109シネマズグランベリーパーク:スクリーン4 RESPECT [無料/146分]
【227】2021年アメリカ 監督:リーズル・トミー 脚本:トレイシー・スコット・ウィルソン
CAST:ジェニファー・ハドソン、フォレスト・ウィテカー、 マーロン・ウェイアンズ、メアリー・J・ブライジ、マーク・マロン
●『ブルース・ブラザース』でのカフェの女将さん程度の知識で、ここまでのスーパースターであった認識がなかった。アレサ・フランクリンの人生が黒人運動家としてではなく、家族内でのDV、束縛、家父長制からの解放に重きを置いたのは現代的視点だと思うが、予告編で観たドキュメンタリーでの彼女の一瞬の歌声の衝撃は越えられなかった。
◎間宮兄弟
2021.11.23 新文芸坐 [1500円/119分]
【228】2006年製作委員会=アスミック・エース 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:佐々木蔵之介、塚地武雅、常盤貴子、沢尻エリカ、北川景子、戸田菜穂、高嶋政宏、佐藤隆太、中島みゆき
●満席の文芸坐は塚地のトークショーもあって森田芳光愛に満ち溢れていたように思う。露骨とも思える兄弟の仲の良さも母親が中島さんなら許してしまうし、本間姉妹も葛原先生も誰一人不幸になるなと思う。これといった事件は起こらないものの、『間宮兄弟』の全部を肯定するような劇場の空気で観ることの多幸感たるやなかった。
◎仁義なき戦い 頂上作戦
2021.11.24 ラピュタ阿佐ヶ谷 [900円/101分] ※再観賞
【229】1973年東映 監督:深作欣二 脚本:笠原和夫
CAST:菅原文太、小林旭、梅宮辰夫、松方弘樹、金子信雄、加藤武、夏八木勲、黒沢年男、小倉一郎、小池朝雄、小林稔侍
●面白い映画であることは重々承知の上で、『頂上作戦』がここまで面白かったことに驚く。とにかくどのシーンにも無駄なカットがなく、集団抗争劇の迫力で唸らせ、ズッコケ親分で笑わせる。とくに痛感したのが笠原脚本への深作演出の理解の深さ。広島、神戸、呉と話が面白いように転がり、やがて拘置所の名場面に収束する。お見事。
※1974年キネマ旬報ベストテン第7位
◎グッドフェローズ
2021.11.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 GOODFELLAS [1200円/146分]
【230】1990年アメリカ 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:ニコラス・ビレッジ、マーティン・スコセッシ
CAST:ロバート・デ・ニーロ、レイ・リオッタ、ジョー・ペシ、ロレイン・ブラッコ、ポール・ソルビノ、フランク・シヴェロ
●若いレイ・リオッタにデ・ニーロとジョー・ペシが挟み撃ちで血の洗礼を浴びせる様子をスコセッシ節でまとめ上げた映画。見せ場であるところの大金強奪場面はそこそこに、とにかくオヤジふたりのキレっぷりと容赦のなさにこのギャング映画のカタルシスがあるのだろう。ジョー・ペシ殺害の大仰な段取りにまだるっこしさを感じてしまったが。
※1990年キネマ旬報ベストテン第9位
◎ディア・エヴァン・ハンセン
2021.11.28 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 DEAR EVAN HANSEN [1200円/138分]
【231】2021年アメリカ 監督:スティーヴン・チョボスキー 脚本:スティーヴン・レヴェンソン
CAST:ベン・プラット、エイミー・アダムス、ジュリアン・ムーア、ケイトリン・デヴァー、アマンドラ・ステンバーグ
●かなりの時間で嘘に嘘を重ねる主人公エヴァンに苛々していた。ミュージカルでなければ席を蹴っていたかもしれない。しかしそんな私がエヴァンにとって攻撃的な他者そのもので、無理解のガヤ以外の何者でもなかったか。嘘を重ねざる得ない彼の深層を気づくことで作品を受け入れることが出来た。とどめはコナーの弾き語りだろうけど。
◎OL日記 濡れた札束
2021.12.01 シネマヴェーラ渋谷 [無料/76分]
【232】1974年日活 監督:加藤彰 脚本:宮下教雄
CAST:中島葵、絵沢萠子、堂下かづき、浜口竜哉、賀川修、高橋明、叶今日子、堺美紀子、佐藤了一、原田千枝子
●日活ロマンポルノ誕生50年記念特集だが、滋賀銀行の女行員による巨額横領事件を題材としながら戦後史を俯瞰する加藤彰。否、ロマンポルノはどれほど薄幸で都合のいい女たちを積み重ねてきたことか。ただ昔から中島葵は苦手だった。ところが彼女の出生から来歴を辿ってみると驚くことばかり。そして45歳で早逝していたことも知る。
◎愛欲の罠 (改題「朝日のようにさわやかに」)
2021.12.01 シネマヴェーラ渋谷 [800円/77分]
【233】1973年天象儀館=日活 監督:大和屋竺 脚本:田中陽造
CAST:荒戸源次郎、絵沢萠子、安田のぞみ、中川梨絵、山谷初男、アンドレ・モアジイ、小水一男、港雄一、山本昌平
●殺し屋・荒戸源次郎が殺し屋ナンバーワンの座を賭けてひたすら走り、ライフルをぶっ放す。監督は大和屋竺。当然『殺しの烙印』を想起するものの、話を大袈裟に盛り上げようとすればするほどアングラでチープな可笑しみが満ちてくる感覚。エロ味はほぼ皆無のまま、白っちゃけた空気感で、映画はあくまでもアクションを目指す。何故だ?
◎牝猫たちの夜
2021.12.01 シネマヴェーラ渋谷 [800円/68分]
【234】1973年日活 監督:田中登 脚本:中野顕彰
CAST:桂知子、吉澤健、原英美、牧恵子、山口明美、影山英俊、浅井麻千子、衣笠真寿男、浜口竜哉、高橋明、足立義夫
●ようやく観た。田中登を敬愛しつつ『牝猫たちの夜』を見逃し続けていた時間の切なく長かったこと。もちろん田中登の作家性の発露は初端についたばかりなのだろうが、朝の新宿西口のシャッターが次々と開いていく有名なラストシーンで「おおっ、これか!」と幸せな気分だった。数多の新宿映画のなかでも突出した一本であるに違いない。
◎妻たちの性体験 夫の眼の前で、今・・・
2021.12.01 シネマヴェーラ渋谷 [800円/69分]
【235】1980年にっかつ 監督:小沼勝 脚本:小水一男
CAST:風祭ゆき、高原リカ、佐々木美子、宇南山宏、佐藤秀美、錆堂連、草薙良一、荻原徹也、川島祐介、池田光隆
●風祭ゆきの痩せた肉体に群がる体育会系学生たち。ハードだが妙に爽やかな幕引き。数年前に自伝本は読んだものの、映画は40年ぶりとなる小沼勝。作家性を前面に出さずとも肉体の昂揚感がそのまま映画的興奮に直結させるあたり、キング・オブ・ロマンポルノの真骨頂だ。封切り時から評判をとっていたが、まったく古びていない。さすが。
◎日本侠客伝
2021.12.01 新文芸坐 [無料 /73分] ※再観賞
【236】1964年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:笠原和夫、野上龍雄、村尾昭
CAST:高倉健、中村錦之助、大木実、松方弘樹、田村高、長門裕之、藤間紫、藤純子、南田洋子、三田佳子、津川雅彦
●学生時代にオールナイト5本立ての1本目だったせいか綺麗さっぱり忘れていた。賑やかな顔ぶれの中、時代が錦之助から健サンへと移ろうとする潮流の接点がここに実現、役柄を超えて健サンが錦之助を圧倒している様が見て取れる。そして例によって深川・木場のイナセたちと辰巳芸者の気風が弾けるマキノ節の心意気は何度観ても楽しい。
◎昭和残侠伝 死んで貰います
2021.12.01 新文芸坐 [ 〃 /92分] ※再観賞
【237】1970年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:大和久守正
CAST:高倉健、池部良、藤純子、長門裕之、山本麟一、加藤嘉、荒木道子、中村竹弥、諸角啓二郎、津川雅彦、三島ゆり子
●初めて仁侠映画をスクリーンで観たのがこれ。「秀次郎さん、見ておくんなさい、ご恩返しの花道なんでございますよ、ご一緒願います」。“様式美”と揶揄されようが、そこに“美”がある以上、男二人の道行きは日本映画史上、永遠の美学だ。そして長匕首ぶん回す健サンの背で吼える唐獅子牡丹に往時の三角マークが呼応する。もうたまんねぇ。
◎モスル ~あるSWAT部隊の戦い~
2021.12.04 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 MOSUL [1200円/102分]
【238】2020年アメリカ 監督:マシュー・マイケル・カーナハン 脚本:マシュー・マイケル・カーナハン
CAST:スヘール・ダッバーシ、アダム・ベッサ、イスハーク・エリヤス、クタイバ・アブデル=ハック、アフマド・ガーネム
●機関銃で撃ち抜かれる痛みもさることながら、破壊され瓦礫と化した街並みのなんと痛々しいことか。SWATの小隊がISSを掃討していく描写に映画的な誇張があるのか、いや現実はこんなものではないのか知る由もないが、この紛争も次第にアクション・ジャンルとしてエンタメ化していくのだとすれば、本作はその初端となる一本かもしれない。
◎tick、tick!・・・BOOM!:チック、チック・・・ブーン!
2021.12.05 あつぎまえいがかんkiki TICK,TICK・・・BOOM! [1000円/115分]
【239】2020年アメリカ 監督:リン=マニュエル・ミランダ 脚本:スティーヴン・レヴェンソン
CAST:アンドリュー・ガーフィール、アレクサンドラ・シップ、ヴァネッサ・ハジェンズ、ジョシュア・ヘンリー
●劇団四季の公演で『RENT』は知っていたが、その作者のジョナサン・ラーソンは知らなかった。故人であることが冒頭で伝えられ、『TICK,TICK・・・BOOM!』はラーソンが舞台劇を創作し挫折する姿を描く。序盤はこの三重構造に理解が及ばす戸惑うのだが、次第に楽曲の素晴らしさに戸惑っていた時間が惜しくなった。ぜひ再見したい。
◎の・ようなもの
2021.12.07 国立映画アーカイブ長瀬記念館OZU [520円/103分] ※再観賞
【240】1981年ニューズ・コーポレーション=ヘラルド 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:伊藤克信、秋吉久美子、尾藤イサオ、大野貴保、でんでん、小林まさひろ、麻生えりか、鷲尾真知子、吉沢由起
●森田芳光・劇場デビュー作。40年ぶりの再会だ。志ん魚が下手な落語を披露している中で消灯する堀切駅、夜道を歩く志ん魚の姿が挿入されるフラッシュフォワードは今も色褪せない森田らしさの真骨頂だが、やくざ映画とロマンポルノに入れ揚げていた頃の初見当時の心許なさもついでに甦ってしまった。私は少しも成長していないのだろう。
◎赫い髪の女
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/73分] ※再観賞
【241】1979年日活 監督:神代辰巳 脚本:荒井晴彦
CAST:宮下順子、石橋蓮司、亜湖、阿藤海、三谷昇、山口美也子、絵沢萠子、山谷初男、石堂洋子、庄司三郎、高橋明
●ついこの間この映画館で観たばかりと思いきや既に6年が経つ。かつて『赫い髪の女』に夢中になっていた学生時代の時間感覚とはまったく別物になったらしい。土砂降り、憂歌団、繰り返すセックス、駆け落ち。子宮に嫉妬する子宮。しかしそんな刹那の時間感覚を超えた永遠がここにある。何度も言うが神代とロマンポルノが到達した極致だ。
※1979年キネマ旬報ベストテン第4位
◎天使のはらわた 赤い教室
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/79分] ※再観賞
【242】1979年日活 監督:曽根中生 脚本:石井隆、曽根中生
CAST:水原ゆう紀、蟹江敬三、あきじゅん、水島美奈子、草薙良一、堀礼文、河西健司、佐藤恵子、影山英俊、織田俊彦
●6回目の劇場観賞。しかし観るのは40年ぶり。遠い日、村木と名美の運命曲線の交錯のあまりの不条理に衝撃を受け、終映後しばらく席を立てなかった。40年経って思ったのは、名美が底辺に落ちた様を具現化したマー坊の地獄めぐりからの咆哮だ。草薙良一圧倒的な怪演。ずっと耳にこびりつく主題曲とともに蘇る私の人生レベルの一本だ。
◎ラブホテル
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/85分] ※再観賞
【243】1985年ディレクターズ・カンパニー=にっかつ 監督:相米慎二 脚本:石井隆
CAST:寺田農、速水典子、志水季里子、益富信孝、中川梨絵、溝口拳、尾美としのり、木之元亮、伊武雅刀、佐藤浩市
●伊勢佐木町・日活会館のステージで「これは日活への残務整理」と自虐していた相米慎二。そうだ、これも村木と名美の物語。あの頃は山口百恵の挿入歌『夜へ』ばかりが脳裏にこびりついてしまったが、旅立つ男と取り残された女の本当の大人の映画だ。ただ決定的に名美に影が足りない。速水典子は水原ゆう紀より石井隆の原作に近いのだが。
◎ピンクカット 太く愛して深く愛して
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/68分] ※再観賞
【244】1979年N.C.P=にっかつ 監督:森田芳光 脚本:木村智美、森田芳光
CAST:寺島まゆみ、伊藤克信、井上麻衣、渡辺良子、山口千枝、山地美貴、麻生みちこ、佐藤恒治、山田克朗、小林宏史
●改めて観ると一定回数の濡れ場に縛られるポルノ映画に森田芳光の実験精神が埋没している。セックス描写は喜劇になってもオフビートな画にはならない。ならば寺島まゆみによる一種の歌謡映画に見立てたのだろうが、学生時代、銀座にLIVEを聴きに行ったほど彼女はアイドル歌謡超えて歌が上手すぎる。最後の集団ダンスにらしさは出た。
◎悶絶!!どんでん返し
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/77分] ※再観賞
【245】1977年日活 監督:神代辰巳 脚本:熊谷禄朗
CAST:鶴岡修、遠藤征慈、谷ナオミ、宮井えりな、粟津號、牧れいか、あきじゅん、結城マミ、長弘、八代康二、庄司三郎
●階段を使ったアクションや叩きつけるような人物描写の躍動感に70年代東映実録路線の素養が感じられる。そう思うと『棒の哀しみ』以前に神代辰巳のやくざ映画も観たかった気がする。やはり見た目とは裏腹に彼も肉体活劇の監督だったのだろう。それにしても“女王”ナオミ姐さんをここまで粗末に扱うんかい!と何度観ても可笑しい。
◎狂った果実
2021.12.11 シネマヴェーラ渋谷 [800円/85分] ※再観賞
【246】1981年にっかつ 監督:根岸吉太郎 脚本:神波史男
CAST:本間優二、蜷川有紀、益富信孝、永島暎子、岡田英次、小畠絹子、無双大、鈴木秋夫、高瀬将嗣、アパッチけん
●『遠雷』もあって1981年は根岸吉太郎の年で、この『狂った果実』も相当に面白かったが、部屋を旋回する模型飛行機と「翔んでるんじゃなくて漂っているの」との蜷川有紀のセリフだけ憶えていた。深作組から離れた神波史男の脚本が若者たちの階層格差を骨太に描き、改めてここまで厳しく絶望的な青春残酷物語だったのかと驚いた次第。
◎メイン・テーマ
2021.12.12 テアトル新宿 [1200円/101分] ※再観賞
【247】1984年角川 監督:森田芳光 脚本:森田芳光
CAST:薬師丸ひろ子、野村宏伸、桃井かおり、財津和夫、渡辺真知子、太田裕美、戸川純、小倉一郎、ひさうちみちお
●劇場公開とビデオ発売が同時で『メイン・テーマ』の思い出はつきない。社内の評価は芳しくなかったが、40年近く過ぎて、白髪や禿頭ばかりの「角川映画祭」の客席で、もう抱きしめたいほど愛おしい映画になっていた。実際、主演ふたりの可愛さもあるが、森田が好き放題に撮っていて、面白いし、微笑ましいし、本当に大好きだ。
◎マトリックス レザレクションズ
2021.12.18 イオンシネマ座間:スクリーン1 THE MATRIX RESURRECTIONS [1100円/148分]
【248】2021年アメリカ 監督・脚本:ラナ・ウォシャウスキー 脚本:デイヴィッド・ミッチェル、アレクサンダル・ヘモン
CAST:キアヌ・リーブス、キャリー=アン・モス、ジェイダ・ピンケット・スミス、ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世
●ブロックバスター大作で、前3作からの流れもあるが、もともと『マトリックス』とは相性が悪く、睡魔とのバトルに終始してしまう。現実と電脳・仮想が入り乱れるサイバーパンクものには門外漢だし、さらに押井守のような絵面と機械昆虫の登場に辟易してしまうのだが、キャリー=アン・モスが可愛いオバサンになっていたのが唯一の救いか。
◎ラストナイト・イン・ソーホー
2021.12.18 イオンシネマ座間:スクリーン5 LAST NIGHT IN SOHO [1100円/115分]
【249】2021年イギリス 監督:エドガー・ライト 脚本:エドガー・ライト、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
CAST:トーマシン・マッケンジー、アニャ・テイラー=ジョイ、マット・スミス、テレンス・スタンプ、ダイアナ・リグ
●ホラーは苦手で亡霊が群がるたたみ掛けはきつかったが、現代と60年代ロンドンの二つの時間をシームレスに同期させながらふたりのヒロインを描き切った手腕が素晴らしい。男社会に身も心も毟られながら狂気に堕ちたサンディにエロイーズの成長を重ね、最後に爽やかなバディ感で締めるなど、エドガー・ライトの演出力は噂通りお見事だ。
※2021年キネマ旬報ベストテン第6位
◎偶然と想像
2021.12.19 あつぎのえいがかんkiki [1000円/101分]
【250】2021年NEOPA fictive= Incline LLP 監督:濱口竜介 脚本:濱口竜介
CAST:古川琴音、中島歩、玄理、渋川清彦、森郁月、甲斐翔真、占部房子、河井青葉、安倍萌生、横田僚平、太哉
●演者に役柄と状況を理解させて現場で台詞を練り込んでゆく。それが濱口映画だと思い込んでいたのは誤解だった。逆なのだ。まず脚本と台詞があり、それを時間をかけて徹底的に演技に落とし込んでゆくのが濱口スタイル。そのことを3つの短編で明確に突きつけられた。不明を恥じるとともにその尋常ではない凄さに唖然となった101分。
※2021年キネマ旬報ベストテン第3位
◎モスラ <4Kデジタルリマスター版>
2021.12.27 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 [1200円/101分]
【251】1961年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:関沢新一
CAST:フランキー堺、ジェリー伊藤、ザ・ピーナッツ(伊藤エミ、伊藤ユミ)、小泉博、香川京子、上原謙、志村喬
●みんな大好き『モスラ』を今さら批判するのも野暮だろうが、正直つまらなかった。ストーリーも特撮も『ラドン』に遠く及ばない。もうこの映画はザ・ピーナッツの存在に尽きるし、ミュージカル的な華やかさは古関裕而の功績も大きい。インファント島の原住民の描写など今ならアウトだろうが、モスラがここまで愛想がなかったのに驚く。
◎エッシャー通りの赤いポスト
2021.12.28 ユーロスペース [1200円/146分]
【252】2021年製作委員会=ガイエ 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:藤丸千、黒河内りく、モーガン茉愛羅、山岡竜弘、上地由真、藤田朋子、田口主将、諏訪太朗、渡辺哲、吹越満
●欠点のない映画などと逆立ちしてもいわない。でも気に入った。なにより映画界に磁場を発生させていた頃の園子温が帰ってきた。無名の素人たちが「人生のエキストラでいいんか!?」とカメラの前で大立ち回り、その熱量に胸がざわざわする。死線から蘇り原点回帰した“鬼才”のインディーズ魂溢れるこの映画を応援しない奴は間違いなくイモだ。
◎ナイトメアー・ビフォア・クリスマス
2021.12.30 TOHOシネマズ新宿:スクリーン12 THE NIGHTMARE BEFORE CHRISTMAS [1200円/76分]
【254】1993年アメリカ 監督:ヘンリー・セレック 脚本:キャロライン・トンプソン
CAST:(声)クリス・サランドン、ダニー・エルフマン、キャサリン・オハラ、ウィリアム・ヒッキー、ポール・ルーベンス
●クリスマスにハロウィンの怪物たちが乱入するディズニーによるストップモーション・アニメであり、ファンタジーでありミュージカルでもあるのだが、要するにホーンテッドマンションなのだろう。1993年段階の手作り感が味になっているのだろうが、正直スクリーンでアトラクションを見せられた気分。残念ながら私の趣味ではなかった。
◎ただ悪より救いたまえ
2021.12.30 TOHOシネマート新宿 다만 악에서 구하소서 [1200円/108分]
【255】2020年韓国 監督:ホン・ウォンチャン 脚本:ホン・ウォンチャン
CAST:ファン・ジョンミン、イ・ジョンジェ、パク・ジョンミン、パク・ソイ、チェ・ヒソ、オ・デファン、豊原功補、白竜
●「殺し合う理由。そんなものは忘れた」暗殺者vs殺し屋。乾きと湿りの混濁とエグ味と破壊の混然。韓国映画が極限のクォリティを見せつけながら東京、仁川、バンコクと疾走させ死体の山を積み上ていく。ノワール美学もヒューマンな癒しもすべて縦横無尽なアクションで凌駕する潔さ。そう映画ってこういうものだよなと納得させられる。
◎彼女が好きなものは
2021.12.30 TOHOシネマズ新宿:スクリーン12 [1200円/121分]
【256】2021年バンダイナムコ=アニモプロデュース 監督:草野翔吾 脚本:草野翔吾
CAST:神尾楓珠、山田杏奈、前田旺志郎、三浦りょう太、池田朱那、渡辺大知、三浦透子、磯村勇斗、山口紗弥加、今井翼
●評判を聞き最終回に滑り込む。満席。ゲイにBLを絡めた学園ラブコメと思いきや、切実で誠実な青春映画だ。劇中、クラスでLGBTについてディスカッションする場面があり他者と当事者との乖離を際立たせて秀逸。「摩擦」がないと進めないとの境地も新鮮だ。このテーマは妙にトレンド化しているが、立ち止まって考える必要がありそうだ。
◎サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~
2021.12.31 あつぎのえいがかんkiki THE NIGHTMARE BEFORE CHRISTMAS [無料/130分]
【257】2019年アメリカ 監督:ダリウス・マーダー 脚本:ダリウス・マーダー、エイブラハム・マーダー
CAST:リズ・アーメッド、オリヴィア・クック、ポール・レイシー、マチュー・アマルリック、ローレン・リドロフ
●ヘビメタバンドのドラマーが聴力を失う。こういう物語は主人公がそれを受け入れるまでの苦悩と葛藤に帰結せざる得ないのが辛いところだが、アカデミー音響賞を獲ったサウンド効果が聾者の体感を巧みに表現して最後まで見せ切ってしまう。もちろん聴こえないことの絶望感、機械によるインプラントの不協和音の不気味さも承知のうえで。
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