●2012年(平成24年)

 三行の映画評


ニューイヤーズ・イブ
2012.01.10 TOHOシネマズららぽーと横浜 New Year's Eve
【01】2011年アメリカ 監督:ゲイリー・マーシャル 脚本:キャサリン・ファゲイト
CAST:ハル・ベリー、ヒラリー・スワンク、サラ・ジェシカ・パーカー、ミシェル・ファイファー、ロバート・デ・ニーロ
●劇場パスポート券があったので、チケットカウンターでたまたま時間が合った映画を選んだ。何の予備知識もなく座席について、次々と出てくるスターたちに呆気にとられてしまう。新年を迎えるニューヨークでの8つエピソード。一人一人の描き込みは薄いが、四の五のいわずニューイヤーの豪華なプレゼントとして有難く受け取ろうか。


ロボジー
2012.01.16 TOHOシネマズ渋谷
【02】2012年東宝=フジテレビ他 監督:矢口史靖 脚本:矢口史靖
CAST:五十嵐信次郎、吉高由里子、浜田岳、チャン川合、川島潤哉、小野武彦、和久井映見
●矢口史靖の新作は毎度楽しみにしている。「ひと皮剥けば人間がロボットだという映画は多いが、ひと皮剥いたらロボットが人間だったというのはどうか」という発想の工学系コメディ。浜田岳以下3人のエンジニアの描き方がいいので、五十嵐と吉高のキャラが立ちまくった。しかし矢口にはそろそろ違う切り口の映画を期待したい気も。


ヒミズ
2012.01.22 TOHOシネマズ海老名
【03】2012年GAGA 監督:園子温 脚本: 園子温
CAST:染谷将太、二階堂ふみ、渡辺哲、光石研、吹越満、神楽坂恵、渡辺真紀子、でんでん、窪塚洋介、村上淳
●何やら日本映画に園子温という磁場が発生しつつあるのは知っていたが、それを嫌というほど思い知らされた。観終わって席を立つのが一瞬億劫になる経験は久々かもしれない。3.11以降、連呼され続けた「がんばれ」のある種の空虚さ。園子温は15歳の少年少女をどん底に突き落とすことで「がんばれ」の向こう側を見ようとした。凄いな。


J.エドガー
2012.01.29 TOHOシネマズ海老名 J. Edgar
【04】2011年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本: ダスティン・ランス・ブラック
CAST:レオナルド・ディカプリオ、ナオミ・ワッツ、デュディ・ディンチ、アーミー・ハーマー
●決してFBI長官のジョン・E・フーバーの伝記に縛られるのではなく、あくまでもJ・エドガーとして映画は自在に謎多き人物像を突き詰めているのだが、そこで合衆国の近代史を彼の人生を借りて浮かび上がらせようとしたのであれば、それは意図したほどは巧くはいっていなかったと思う。C・イーストウッド監督、久々の誤算か?
※2012年キネマ旬報ベストテン第9位


麒麟の翼 ~劇場版・新参者~
2012.01.30 TOHOシネマズ渋谷
【05】2012年東宝=TBS他 監督:土井裕泰 脚本:櫻井武晴
CAST:阿部寛、新垣結衣、三浦貴大、松坂桃李、溝口淳平、黒木メイサ、劇団ひとり、田中麗奈
●テレビ版と同じスタッフ&キャストによる映画化だが、スクリーンを見ながら放映時にはここでコマーシャルが入るというタイミングまで見えてしまうのは如何なものだろうか。それでも無難にエンディングまで着地したのは、しっかりした原作を得て、物語が澱みなく流れていたことと、阿部寛に大画面に耐えうる力量があったということか。


大鹿村騒動記
2012.02.05 関内ホール
【06】2011年東映=セディックインターナショナル他 監督:阪本順治 脚本:荒井晴彦、阪本順治
CAST:原田芳雄、石橋蓮司、大楠道代、岸部一徳、松たか子、瑛太、三国連太郎、佐藤浩市
●原田芳雄に石橋蓮司に大楠道代。阪本順治に荒井晴彦と、見事に70年代の香り漂う布陣が揃ったが、ならば70年代に作られるべき映画だった。好評を得ているようだが私には何とも物足りなかった。土着の祭りを描くのに性をまったく描かかないのはどうしたものか。今村昌平が生きていればなと思う。芳雄兄ぃには心から合掌。
※2011年キネマ旬報ベストテン第2位


婚前特急
2012.02.05 関内ホール
【07】2011年ビターズエンド他 監督:前田弘二 脚本:高田亮、前田弘二
CAST:吉高由里子、浜野謙太、加瀬亮、榎木孝明、杏、青木崇高、石橋杏奈、吉村卓也、白川和子
●五股をかける吉高由里子のハイテンションな演技が見ていて少し疲れた。たたみかける台詞回しも耳障りだ。生意気なヒロインが本当の恋に目覚めるという王道はともかく、ヨコハマ映画祭の主演女優賞は疑問。浜野と加瀬の百人一首の掛け合いには笑わせてもらったが。


冷たい熱帯魚
2012.02.05 関内ホール
【08】2011年日活 監督:園子温 脚本:高橋ヨシキ、園子温
CAST:吹越満、神楽坂恵、でんでん、黒沢あすか、渡辺哲、梶原ひかり、裴ジョンミョン、諏訪太郎、三浦誠己、阿部亮平
●いやはやグロいわエロいわで、平成の世にここまでやる映画があったとは。惨劇を描いた映画は多いがこれは映画の惨劇ともいうべきで、血糊と臓物まみれの殺し合いの中で全員が狂っている。しかしマーラーの旋律に乗せて人間の原罪がここに抉り出されたような爽快感も感じてしまう。これはもう映画の原罪なのかも知れない。
※2011年キネマ旬報ベストテン第3位


ドラゴン・タトゥーの女
2012.02.25 109シネマズグランベリーモール The Girl with the Dragon Tattoo
【09】2011年アメリカ 監督:デビッド・フィンチャー 脚本:デビッド・フィンチャー、スティーブン・ザイリアン
CAST:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラー、クリストファー・プラマー、スティーブン・バーコフ
●デビッド・フィンチャーの資質が長編の原作ものにきちんとアジャスト出来るものかどうかを危惧していた。実際、158分の尺でまとめるのは難しい。ストーリーだけを追いかけたダイジェスト版みたいな映画になる恐れはMTV出身のフィンチャーの資質として十分にあった。結果としては手堅いアプローチにかえって拍子抜けしてしまったが。


ザッツ・エンタテインメント
2012.04.24 TOHOシネマズ みゆき座 That's Entertainment
【10】1974年アメリカ 監督:ジャック・ヘイリー・ジュニア 音楽監督:ヘンリー・マンシー二
CAST:フレッド・アステア、ジーン・ケリー、ライザ・ミネリ、デビー・レイノルズ、フランク・シナトラ、ビンク・クロスビー
●この映画が封切られた中学生当時、『雨に唄えば』と『水着の女王』が最大の見せ場と決めつけていたことが、初めてモノクロ映像のアステアとエレノア・パウエルのダンスを観て恥ずかしくなった。MGM全盛を懐かしむ以上にこの記録映画が懐かしいものになってしまったが、躍動するスターたちの姿は今もまったく色褪せていない。
※1975年キネマ旬報ベストテン第6位


夜の大捜査線
2012.05.25 TOHOシネマズ みゆき座 In the Heat Of The Night
【11】1967年アメリカ 監督:ノーマン・ジェイソン 脚本:スターリング・シリファント
CAST:シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ、リー・グラント、ジェームズ・パターソン
●時代に関係なく輝き続ける映画もあれば、時代とともにその役目を終える映画もある。オスカーウィナーのこの作品は後者の典型ではないか。狂気もバイオレンスもどこか牧歌的で、当革新的といわれた映像テクニックも普遍化され、黒人スターも珍しくなくなった。実際そういう映画があったからこそ今があることも忘れてはならない。
※1968年キネマ旬報ベストテン第8位


ナバロンの要塞
2012.06.16 TOHOシネマズ みゆき座 The Guns of Navarone
【12】1961年アメリカ 監督: J・リー・トンプソン 脚本:カール・フォアマン
CAST:グレゴリー・ペック、デビッド・ニーブン、アンソニー・クイン、イレーネ・パパス、アンソニー・クェイル
●よく観るとテイストはB級戦争アクションなのだが、一級のスタッフ&キャストがよく出来た脚本を得るとここまで手に汗握るエンタティメントに仕上がるという、これはそのお手本のような映画。戦争映画の傑作とは人間をしっかり描くか、逆にまったく描かないかのどちかでしかない。何事も中途半端が一番いけないのだ。


ゴッドファーザーPARTⅡ
2012.07.07 TOHOシネマズ上大岡 The Godfather Part II ※再観賞
【13】1974年アメリカ 監督:フランシス・フォード・コッポラ 脚本: フランシス・フォード・コッポラ、マリオ・プーゾ
CAST:アル・パチーノ、ロバート・デ・ニーロ、リー・ストラスバーグ、ダイアン・キートン、ジョン・カザール、タリア・シャイア
●当時、映画ファンの間で「『ゴッドファーザー』はPART2の方が好きだ」というのが、「映画を解っている」という風潮があった。私は初見のとき「本当にそうなのか」と首を傾げたものだったが、今回の映画祭で「そんなことはない」と確信した。もちろんPART2の凄さも解ったうえで、改めて自分の嗜好に苦笑しただけの話なのだが。
※1975年キネマ旬報ベストテン第8位


ロンゲスト・ヤード
2012.07.12 TOHOシネマズ みゆき座 The Mean Machine
【14】1974年アメリカ 監督:ロバート・アルドリッチ 脚本:トレイシー・キーナン・ウィン
CAST:バート・レイノルズ、エディ・アルバート、エド・ローター、マイケル・コンラッド
●私がアルドリッチ好きをなかなか公言できなかったのは、この映画を劇場で観ていなかったからだ。ようやく念願叶ったということだったが、B・レイノルズの今のハリウッドスターでは絶対にあり得ない、むさい男臭さ全開の冒頭から呆然としてしまった。分割画面やタイムアウト寸前のスローモーションなど映画もなかなか男臭いのだが。


ディア・ハンター
2012.07.17 TOHOシネマズ上大岡 The Deer Hunter ※再観賞
【15】1978年アメリカ 監督:マイケル・チミノ 脚本:デリク・ウォッシュバーン
CAST: ロバート・デ・ニーロ、クリストファー・ウォーケン、ジョン・カザール、メリル・ストリープ
●公開当時、テアトル東京の大画面で大学仲間たちと観てこの映画の衝撃性を語り合ったものだった。凡百の「反戦映画」とは違う戦争の捉え方というか、確かにこれを機に映画の戦争の描き方が一変したのだったと思う。この度はロシアンルーレットの恐怖より名曲「カヴァティーナ」の旋律が懐かしさをつれて胸を打つ。
※1979年キネマ旬報ベストテン第3位


ハスラー
2012.07.29 TOHOシネマズ上大岡 The Hustler
【16】1961年アメリカ 監督:ロバート・ロッセン 脚本:ロバート・ロッセン、シドニー・キャロル
CAST:ポール・ニューマン、ジャッキー・グリーソン、ジョージ・C・スコット、パイパー・ローリー
●学生時代、地元の町のビリヤード場のおばさんが「これはスポーツだからね」としきりにいっていたことを思い出す。玉突き=博打はおそらく『ハスラー』が世界中に流布したイメージなのかも。それにしてもアウトロー臭の漂うイリーガルな世界もハリウッドが描くとショウビジネスのサクセスストーリーのようになるから面白い。
※1962年キネマ旬報ベストテン第9位


がんばれ!ベアーズ
2012.08.05 TOHOシネマズ上大岡 The Bad News Bears'  ※再観賞
【17】1976年アメリカ 監督:マイケル・リッチー 脚本:ビル・ランカスター
CAST:ウォルター・マッソー、テイタム・オニール、ジャッキー・アール・ヘイリー、ビッグ・モロー
●閑散とした場末のポルノ常打ち館に入り浸っていた高校一年の時。超満員の観客が沸き返る中で、ああ映画って本来はこれが王道なのだと思い起こされた。酒飲み運転のバターメイカー、喫煙する子供たちとみんなワイルドだったが、エンディングの“Bears 1976”と記されたプレートの記念写真が今はセピアの色合いとなったのが、今は切ない。


ヤング・ゼネレーション
2012.08.15 TOHOシネマズ上大岡 Breaking Away ※再観賞
【18】1979年アメリカ 監督:ピーター・イェーツ 脚本:スティーブ・テシック
CAST:デニス・クリストファー、デニス・クエイド、ジャッキー・アール・ヘイリー、ダニエル・スターン
●かつて名画座めぐりの喜びは、突如思いがけない快作に出会うことだった。私の中でこの映画などはその象徴だった。イタリアかぶれの少年と自転車競走というキーワード的なことしか憶えていなかったが、こうして数々の名作が集う映画祭でこの作品を掘り起こした選考員もそんな思いで『ヤング・ゼネレーション』を捉えていたのだろう。


E、T. <20周年アニバーサリー特別版>
2012.08.19 TOHOシネマズ上大岡  E.T. The Extra Terrestrial ※再観賞
【19】1982年アメリカ 監督:スティーブン・スピルバーグ 脚本:メリッサ・マシソン
CAST:デイリー・ウォーレス、トーマス・ハウエル、ドリュー・バリモア、ロバート・マクノートン
●20周年特別版からもすでに十年が経つ。30年前の封切り当日にミラノ座までカノジョと早起きして超満員の熱気の中で観たことが昨日のことのようだ。ただ自転車が飛ぶ場面を二回使ったことは失敗だった。なんでスピルバーグは我慢できなかったのだろうと、当時そんな熱弁を振るったものだったが、改めて今回もそれを思った。
※1982年キネマ旬報ベストテン第1位


シザーハンズ
2012.08.25 TOHOシネマズ上大岡  Edward Scissorhands
【20】1990年アメリカ 監督:ティム・バートン 脚本:キャロライン・トンプソン
CAST:ジョニー・デップ、ウィノナ・ライダー、ダイアン・ウィースト、アンソニー・マイケルホール
●人気作なのはビデオ屋時代に万引き頻度の多さで知っていたが、私は初見となる。ティム・バートンの新作はしょっちゅう予告編で見せられているような気がするが、すでに22年前の段階で彼のファンタジー趣味が完璧な映像クオリティで確立していたことに驚いた。これをバートン×デップの最新作だといわれてもまったく驚かないだろう。


あなたへ
2012.08.25 TOHOシネマズ上大岡
【21】2012年東宝 監督:降旗康男 脚本:青島武
CAST:高倉健、田中裕子、佐藤浩市、草なぎ剛、綾瀬はるか、余貴美子、大滝秀治、三浦貴大
●旅があって、過去の出来事がフラッシュバックで現れる。主人公に絡んでくる登場人物たちが、何らかの事情や過去を抱えていて、それらを総花的に見せることで「あれも人生、これも人生」の人間模様が形成され、その中心に眉間に皺を寄せた健サンが存在する。過去作品のリピートではなく80歳の今に挑戦してほしかったのだが。


バック・トゥ・ザ・フューチャー
2012.09.01 TOHOシネマズ上大岡  Back to the Future ※再観賞
【22】1985年アメリカ 監督:ロバート・ゼメキス 脚本:ボブ・ゲイル、ロバート・ゼメキス
CAST:マイケル・J・フォックス、クリストファー・ロイド、リー・トンプソン、クリスピン・グローバー
●映画公開の1985年から30年前にタイムスリップする話だが、改めてよく出来た映画。ラストで主人公たちは30年後の未来に旅立つ。彼らが目にするものはインターネットが張りめぐらされた世界か。こちらは逆に1985年の秋にタイムスリップ出来たらいいなと、カープの今井にプロ初完封を献上する試合を観ながらつくづく思ったりもした。


アメリカン・グラフィティ
2012.09.09 TOHOシネマズ上大岡 American Graffiti ※再観賞
【23】1973年アメリカ 監督: ジョージ・ルーカス 脚本:グロリア・カッツ、ジョージ・ルーカス
CAST:リチャード・ドレイファス、ロン・ハワード、ポール・ル・マット、ウルフマン・ジャック
●高校生のときに観たときはもっと弾けていた印象があったし、ウルフマン・ジャックのマシンガントークはもっと喧しかった。その弾け方にアメリカへの羨望を膨らましてもいたのだが、再見してみるとなんて優しい映画だったのだろうと思う。むしろ静けささえ漂うのを感じた。もうノスタルジーに熱気を持てなくなったということなのか。


四畳半襖の裏張り・しのび肌
2012.09.10 ユーロスペース
【24】1974年日活 監督:神代辰巳 脚本:中島丈博
CAST:宮下順子、江角英明、丘奈保美、絵沢萌子、芹明香、中沢洋、吉野あい、高橋明
●中島丈博の脚本は全体的に艶笑喜劇という体裁をとっているが、神代辰巳は戦火が広がる不穏な時節に男と女の情欲の高まりを通して時代を炙り出していく。戦場で泥まみれで闘う兵隊の映像を背景に、スケベを描く大胆な領域まで突き進んでいくが、結局、スケベで人間は成り立っているのだという神代テーゼの何と清々しいことよ。


濡れた唇
2012.09.21 ユーロスペース
【25】1972年日活 監督:神代辰巳 脚本:こうやまきよみ
CAST:絵沢萌子、谷本一、相川圭子、粟津號、嵯峨正子、足立義夫、榎木兵衛
●神代辰巳を狂信する先輩方には申し訳ないが、中途半端に神代ロマンポルノに被った世代には、神代が助走している過程の映画という資料的価値しか見出すことは出来なかった。それでも絵沢萌子が全編で口ずさむ春歌の情感など、その助走ぶりは悪くない。感銘もなく面白くもなかったが、誰が見ても神代辰巳のリズムであった。


サンセット大通り
2012.09.22 TOHOシネマズ上大岡 Sunset Boulevard ※再観賞
【26】1951年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:チャールズ・ブラケット、ビリー・ワイルダー
CAST:ウィリアム・ホールデン、グロリア・スワンソン、エリッヒ・フォン・ストロハイム、セシル・B・デミル
●初見のときはとにかくグロリア・スワンソンが恐ろしかった。ワイルダーもそう観客に印象づかせようととことん描き込んでみせた。ところが今観るとこのサイレント時代の大女優の生き様が悲しさを伴って胸を打ってくる。時代に「取り残された」ではなく「置き去りにされた」彼女の罪とは一体なんなのだろうか、と。
※1951年キネマ旬報ベストテン第2位


レベッカ
2012.09.30 TOHOシネマズ上大岡 Rebecca ※再観賞
【27】1940年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本:ロバート・E・シャーウッド、ジョーン・シンプソン
CAST:ジョーン・フォンティーン、ローレンス・オリビエ、ジュディス・アンダーソン、ジョージ・サンダース
●学生時代に自由ヶ丘の名画座で観たときには面白かったが、今回は少々退屈だった。独特のユーモアが影を潜め、ひたすらゴシック調の画面作りに邁進してしまったことで、ヒッチコックの作品群の中でもどこか野暮ったさを残してしまったのではないか。「オスカーは私ではなくセルズニックの功績だよ」という彼のコメントも納得か。


エイリアン
2012.10.04 TOHOシネマズ みゆき座 Alien ※再観賞
【28】1979年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:ダン・オバノン
CAST:トム・スケリット、シガニー・ウィーバー、ベロニカ・カートライト、ハーリー・ディーン・スタントン、ジョン・ハート
●70年代にすでにエイリアンが誕生していたことに改めて感慨を覚える。宇宙空間を行く宇宙貨物船という究極の密室の中で展開される阿鼻叫喚に、何て恐ろしい映画なのだと思ったものだが、アナログであることを感じさせない豊潤な画面作りは今もまったく色褪せていない。リドリー・スコットは凄かった。ギーガーばかりの功績ではない。



2012.10.06 TOHOシネマズ上大岡 The Birds  ※再観賞
【29】1964年アメリカ 監督:アルフレッド・ヒッチコック 脚本: エヴァン・ハンター
CAST: ティッピー・ヘドレン、ロッド・テイラー、ジェシカ・タンディ、スザンヌ・プレシェット、ベロニカ・カートライト
●不思議なことに初見時の評価が『レベッカ』と逆転した。いやはや面白い。“鳥”が物語のウェートを占めてくるまで、主人公ふたりの恋のさや当てが普通に展開していく面白さと、突如、強引に“鳥”が乱入して来る意外さ。爆笑もののヒッチコック自演によるオープニングプレビューのおまけも有難く、朝から魔術師の語り口に酔わせてもらった。
※1963年キネマ旬報ベストテン第4位


キャリー
2012.10.12 TOHOシネマズ みゆき座 Carrie  ※再観賞
【30】1976年アメリカ 監督:ブライアン・デ・バルマ 脚本:ローレンス・デ・コーエン
CAST: シシー・スペイセク、パイパー・ローリー、エイミー・アービング、ナンシー・アレン、ジョン・トラボルタ
●あのラストのカットに横浜ピカデリーが凍りついたものだった。その後にどれだけパクられたことだろう。当時は革新的といわれたデ・パルマの映像も今観ると野暮ったさ満載なのだが、ホラーというよりも学園ドラマの趣もあって、どこか微笑ましくもある。それにしても劇中音楽を完璧に憶えていたのが自分でも意外だった。


天地明察
2012.10.13 TOHOシネマズららぽーと横浜
【31】2012年角川=松竹 監督:滝田洋二郎 脚本:加藤正人、滝田洋二郎
CAST:岡田准一、宮﨑あおい、松本幸四郎、中井貴一、岸部一徳、笹野高史、市川亀治郎、市川染五郎
●久石譲の旋律に乗せて滝田としては手堅く大作に仕立てたという感じ。惜しむらくは「時間」をテーマにしながら、映画の中の「時間」がストーリー上の「時間」とが噛み合っていなかったこと。北斗七星が北極星の周りを一巡する時間や、日や月が翳る「蝕」の間隔がかなり拙速だった。豪華キャストだが岸部一徳、笹野高史の脇が光る。


アウトレイジ ビヨンド
2012.10.13 TOHOシネマズららぽーと横浜
【32】2012年オフィス北野=バンダイ 監督:北野武 脚本:北野武
CAST:ビートたけし、三浦友和、加瀬亮、西田敏行、中野英雄、小日向文世、塩見三省、高橋克典、名高達郎、桐谷健太
●やくざ映画の常道を踏むが決して王道ではない。矢継ぎ早に繰り出される怒声の中でカラカラに乾いた殺戮が展開される。しかし北野映画の心酔者の中で王道は作られていて、常にそれを求められるとなると北野もつらいだろう。非常に面白かったが、何といっても加瀬亮のキレっぷりにトドメを刺す。
※2011年キネマ旬報ベストテン第3位


中島みゆき「歌姫」劇場版
2012.10.19 TOHOシネマズ渋谷
【33】2012年ヤマハ=WMC
CAST:中島みゆき
●昔のPVを何本か重ね、DVD化されてYouTubeで見放題のロスでのスタジオコンサートを併せた構成で入場料2000円では、みゆき姐のファンであっても一言いいたくなる。せめてオリジナル映像のひとつでもつけて欲しかった。PVもアナログ撮影のためか大きなスクリーンではかなり画質が厳しい。音だけは良かったのが救いだったか。


シェーン
2012.11.02 TOHOシネマズ みゆき座 Shane  ※再観賞
【34】1953年アメリカ 監督:ジョージ・スティーブンス 脚本:A・B・ガスリー.Jr
CAST:アラン・ラッド、ヴァン・ヘイレン、ジーン・アーサー、ブランドン・デ・ワイルド、ジャック・パランス
●「映画を観て泣いた」という体験を初めてしたのがこの映画だった。しかし今回は泣けなかった。何故かといえば敵役の用心棒ジャック・パランスの黒ずくめのガンマンスタイルにすっかり惚れてしまったからかもしれない。ひとつひとつのカットがあまりにも「名画」然としていて、少々とっつきにくかったというのもあるのかもしれないが・・・。
※1953年キネマ旬報ベストテン第7位


終の信託
2012.11.06 TOHOシネマズ錦糸町
【35】2012年東宝=フジテレビ 監督:周防正行 脚本:周防正行
CAST:草刈民代、役所広司、大沢たかお、浅野忠信、中村久美、細田よしひこ
●ポスターのメインコピーは“医療か? 殺人か?“だったが、しかし周防正行はそんな社会派の映画を撮ったのか。私にはどうもそれは違うような気がしてならなかった。そういう事件性よりも、もっと根源的な不条理というか「草刈民代の生理の中で世の無常観を描いた映画」何となくそんな感じを抱きながらエンドロールを眺めていた。
※2012年キネマ旬報ベストテン第4位


のぼうの城
2012.11.09 TOHOシネマズ スカラ座
【36】2011年東宝=アスミックエース 監督:犬童一心、樋口真嗣 脚本:和田竜
CAST:野村萬斎、佐藤浩市、山口智光、成宮寛貴、榮倉奈々、上池雄輔、山田孝之、市村正親、平岳大、夏八木勲
●映画は原作の良いところも悪いところもそのまま反映された。しかし自ら敵の的となって周囲を鼓舞する田楽踊りは、もう狂言師・野村萬斎の本領が発揮され説得力も十分。何よりも口跡が素晴らしい。この映画は何者にも代えられない存在を得たことのアドバンテージで最後まで引っ張れたのではないか。


黄金を抱いて翔べ
2012.11.10 TOHOシネマズ海老名 
【37】2012年松竹 監督:井筒和幸 脚本:吉田康弘、井筒和幸
CAST:妻夫木聡、浅野忠信、桐谷健太、溝口淳平、チャンミン、西田敏行、青木崇高、田口トモロウ
●面白かった。そもそも金塊強奪の話となれば、コンピューターの管理システムをハッキングするのが今の犯罪映画の見せ方になっているのだが、ダイナマイトで防犯扉を爆破し、金庫をバールでこじ開けるあたり、驚くべきアナクロ二ズムで徹底されている。緻密な計画より力業優先の潔さがこの男臭い映画を支えて爽快だった。


悪の教典
2012.11.11 TOHOシネマズ海老名
【38】2012年東宝 監督:三池崇史 脚本: 三池崇史
CAST:伊藤英明、二階堂ふみ、染谷将太、吹越満、山田孝之、平岳大、林遣都、浅香航大、水野絵梨奈
●三池は『十三人の刺客』でのクライマックスの激闘をあそこまで頑張ったのに、この映画のラスト40分の殺戮はひどく退屈だった。要はここに持っていくまでの描き込みが足りないので、ハスミンの大暴走もマネキン人形を相手にしているような空疎な映像の羅列になってしまうのだ。バイオレンス好きとしても、原作ファンとしても残念だ。


風と共に去りぬ
2012.11.16 TOHOシネマズ みゆき座  Gone with the Wind ※再観賞
【39】1939年アメリカ 監督:ビクター・フレミング 脚本:シドニー・ハワード
CAST:ヴィヴィアン・リー、クラーク・ゲーブル、オリヴィア・デ・ハヴィランド、レスリー・ハワード、ハティ・マクダニエル
●そういえばアトランタも行ったなぁと想い出をちらつかせながら、南北戦争で揺れる歴史のダイナミズムには圧倒されていた。好みとしては絶対にスカーレットよりメラニーなのだけど。今や500円でDVDが売られていようとも、やはりこれは映画の金字塔であることは間違いない。


麗しのサブリナ
2012.11.21 立川シネマシティ  Sabrina  ※再観賞
【40】1954年アメリカ 監督: ビリー・ワイルダー 脚本:サム・テイラー、アーネスト・リーマン、ビリー・ワイルダー
CAST:オードリー・ヘプバーン、ハンフリー・ボガート、ウィリアム・ホールデン、ウォルター・ハムデン
●長い間、自分の中ではワイルダーの失敗作だと思っていたのだが、なかなかどうして面白いではないか。可憐なヘプバーン、大人の渋み満載のボギー、やんちゃなホールデンの三人が織りなすメルヘン。いつもながら最後までハラハラさせてラストの数カットで夢のような大団円に持っていく名人芸は素晴らしい。


人生の特等席
2012.11.23 TOHOシネマズ海老名  Trouble with the Curve
【41】2012年アメリカ 監督:ロバート・ロレンツ 脚本:ランディ・ブラウン
CAST:クリント・イーストウッド、エイミー・アダムス、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョン・グッドマン
●イーストウッドの監督作品のような人物の深みも、映像の奥行きもやや薄いのかもしれないし、締めくくり方もかなりご都合主義的なところもあった。しかしアメリカ人にとって打球音が轟く野球のグランドには郷愁があり、父子の絆を確かめる聖域なのだろう。野球へのオーマージュが随所に込められていたのが嬉しかった。


北のカナリアたち
2012.11.25 TOHOシネマズ海老名 
【42】2012年東映 監督:阪本順治 脚本:那須真知子
CAST:吉永小百合、柴田恭兵、森山未来、仲村トオル、満島ひかり、宮崎あおい、勝地涼、小池栄子、里見浩太郎
●形式としてはデュヴィヴィエの名作 『舞踏会の手帳』 を彷彿とさせる。意外といっては坂本順治にも吉永小百合にも失礼だが、結構面白かった。もちろんまったく破綻が無かったわけではないが、吉永小百合という旗艦があって、その破綻を見せない大女優が狂言回に徹したことが良かったのだと思う。


サウンド・オブ・ミュージック
2012.11.25 立川シネマ2 The Sound of Music  ※再観賞
【43】1965年アメリカ 監督:ロバート・ワイズ 脚本:アーネスト・リーマン
CAST:ジュリー・アンドリュース、クリストファー・プラマー、エレノア・パーカー、リチャード・ヘレドン
●劇中のナンバーをすべて知っているミュージカルはこの作品くらいで、歌のシーンは全部が名場面。ドラマとしても波乱万丈でダレ場が一切ない。これだけ完璧なのに自由に弾けていて楽しく、ハラハラドキドキもさせる。これだけ何度も観ても面白い映画も珍しいのではないか。
※1965年キネマ旬報ベストテン第9位


007/スカイフォール
2012.12.02 TOHOシネマズ海老名 SKYFALL
【44】2012年イギリス=アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド
CAST:ダニエル・クレイグ、ジュディ・ディンチ、ハビエル・バルデム、べレニス・マーロウ、ナオミ・ハリス
●忠誠を誓った国家にも疎外されようとするボンドは、アイデンティの揺らぎに苦しみながら、生まれ故郷のスコットランドの生家で敵を迎え撃つことになる。まさかシリーズでボンドの「自分探しの旅」を仮想体験させられるとは思わなかったが、このことの是非を問われれば、時代へのアプローチとして私は「是」だと答えたい。


禁じられた遊び
2012.12.08 TOHOシネマズ みゆき座 Jeux Interdits'
【45】1952年フランス 監督:ルネ・クレマン 脚本:ジャン・オーラッシュ、ピエール・ポスト
CAST:ブリジッド・フォッセー、ジャン・プージョリー、リュシアン・リベール、スザンヌ・クールタル
●最初にテレビで観たとき、空襲で両親が殺される場面と、ハエを捨ててミルクを差し出す場面を強烈に憶えていた。しかしポレットが最後までミシェルの名前を叫んでいたことは今日初めて知った。あれは最後に「ママ」と呼び続けているものと思っていた。吹替のせいだったのだろうか。
※1953年キネマ旬報ベストテン第1位


月の輝く夜に
2012.12.08 立川シネマシティ  Moonstruck  ※再観賞
【46】1988年アメリカ 監督:ノーマン・ジェイソン 脚本:ジョン・パトリック・シャンレー
CAST:シェール、ニコラス・ケイジ、ヴィンセント・ガーデニア、オリンピア・デュカキス、ダニー・アイエロ
●私の1988年ベストワン映画として記録されているのだが、シェールとニコラス・ケイジの顔以外はそれこそワンシーンも憶えてなくて、今日も殆ど初めて見たような感覚だった。ああ、でもやっぱり面白くて安心した。忘れていたのは、それこそ満月の魔力に魅入られていたのだと思う。
※1988年キネマ旬報ベストテン第10位


汚れなき悪戯
2012.12.15 TOHOシネマズ上大岡  Marcelino Pan y Vino
【47】1955年スペイン 監督:ラディスラオ・ヴァホダ 脚本: ホセ・マリア・サンチェス・シルバ、ラディスラオ・ヴァホダ
CAST:パブリート・カルボ、ラファエル・リベリレス、アントニオ・ビゴ、ファン・カルボ、フェルナンド・レイ
●予告編ではあの有名な歌が流れなかったので、予告編には間に合わなかったか、映画と歌は別なのかと思っていたら、僧侶たちがメドレーで♪おはようマルセリーノ~と歌い始めたので妙に安心してしまった。残された僧侶たちは気の毒だが、文字通り神に召されたマルセリーノ坊やの神々しかったこと。
※1957年キネマ旬報ベストテン第8位


バンド・ワゴン
2012.12.23 立川シネマシティ The Band Wagon  ※再観賞
【48】1953年アメリカ 監督:ヴィンセント・ミネリ 脚本:ベティ・カムデン、アドルフ・グリーン
CAST:フレッド・アステア、シド・チャリシー、ジャック・ブキャナン、オスカー・レヴァント、ナネット・ファブレイ
●MGMの名作ミュージカルなのだろうが、初見のときはアステアのダンスが『イースター・パレード』のときみたいなキレを感じることができず、正直今一つの印象だった。やはり今度もドラマ同様にショウビジネスの趨勢から外れたスターの悲哀がアステアに漂っているのを感じてしまう。どうもこの映画とは相性が悪いようだ。


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