●2019年(平成31年・令和元年)
◎アリー/スター誕生
2019.01.01 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 A STAR IS BORN [1100円/136分]
【01】2018年アメリカ 監督:ブラッドリー・クーパー 脚本:エリック・ロス、ウィル・ヘッターズ、ブラッドリー・クーパー
CAST:レディ・ガガ、ブラッドリー・クーパー、アンドリュー・ダイス・クレイ、サム・エリオット、デイヴ・シャベル
●もとよりクラシックな悲劇ストーリーなので、ロックのビートで上がっていくカタルシスは望むべくもないが、それを承知でもレディ・ガガの熱演は圧巻だったし、B・クーパーの才能は予想をはるかに超えた。恋愛映画としても音楽映画としても優れていたのはもちろん、息を呑むライブデュエットで二人の濃密な時間を見せたのが素晴らしい。
◎パリの恋人
2019.01.02 TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 FUNNY FACE [1100円/103分]
【02】1957年アメリカ 監督:スタンリー・ドーネン 脚本:レナード・ガーシュ
CAST:オードリー・ヘプバーン、フレッド・アステア、ケイ・トムスン、ミシェル・オークレール、ロバート・フレミング
●当たり前のことだが、私が生まれる4年も前から流行やファッションは世界中を駆け巡っていて、オードリーとジバンシーのコンビはその最先端にいたのだろう。そんなオードリーがパリを舞台にアステアと恋に落ち、歌にダンスに脳天気だが夢一杯だ。アステア相手に踊るオードリーに遜色がないのは、幼い頃からバレエに励んできた賜物か。
◎チャンス
2019.01.05 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 BEING THERE [1100円/130分] ※再観賞
【03】1979年アメリカ 監督:ハル・アシュビー 脚本:ジャージ・コジンスキー
CAST:ピーター・セラーズ、シャーリー・マクレーン、メルヴィン・ダグラス、ジャック・ウォーデン、ルース・アタウェイ
●封切時から違和感はあったのだが、齢が進み偏屈になってくると、チャンスの無垢で無知だが遠慮のなさに露骨に不快感が湧いてくる。多分、そんな人物に潜在的な嫌悪感を抱いているのだろう。こういう前提ではこの映画は楽しめない。残念。そういえば、そこまでやるか!?というシャリー・マクレーンの熱演に憐れさも感じていたっけ。
※1981年キネマ旬報ベストテン第7位
◎フランケンシュタイン対地底怪獣<バラゴン>
2019.01.05-06 新文芸坐 FRANKENSTEIN VS.BARAGON [2100円/94分]
【04】1965年東宝=アメリカ 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:馬淵薫
CAST:ニック・アダムス、水野久美、高島忠夫、土屋嘉男、古畑弘二、田崎潤、藤田進、志村喬、中村伸郎、佐原健二
●小学生のときにテレビで見て以来にもかかわらず、殆どの場面を記憶していた。もちろん怪獣映画のフォーマットで進行するものの、大人が見ていられるプロットがしっかりしていたし、戦後の情緒を引き摺りながらも高度成長に入っていく時代も的確に捉えている。子供心にそんな作品の背骨を理解し、映画好きの血となり肉となったのだ。
◎フランケンシュタインの怪獣 サンダ対ガイラ
2019.01.05-06 新文芸坐 THE WAR OF THE GARGANTUAS [ 〃 /88分] ※再観賞
【05】1966年東宝=アメリカ 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:馬淵薫、本多猪四郎
CAST:ラス・タンブリン、水野久美、佐原健二、田崎潤、中村伸郎、伊藤久哉、田島義文、桐野洋雄、関田裕、中島春雄
●羽田に上陸したガイラが女性を食いちぎり日差しに慄いて海に飛び込む場面。親戚を前に物真似を披露して笑わせたものだ。同時に5歳の私にガイラの兇暴さは強いトラウマを残し、夜の海を見るのが怖かった。浪人時代にここ文芸坐で再会して以来だが、今は伊福部昭の音楽とともに生涯絶対に忘れてはならない大事な一本となっている。
◎怪獣総進撃
2019.01.05-06 新文芸坐 [ 〃 /89分]
【06】1968年東宝 監督:本多猪四郎 脚本:馬淵薫、本多猪四郎
CAST:久保明、小林夕岐子、愛京子、佐原健二、伊藤久哉、田崎潤、黒部進、土屋嘉男、アンドリュー・ヒューズ
●私は7歳の時、既にゴジラシリーズの堕落と終焉を見切っていた。在庫一斉処分的な怪獣アイランドのくだらなさを以て長年に渡り「ゴジラは第一作を除いてすべて駄作だ」と主張するに至るのだが、その象徴がこの『怪獣総進撃』。11大怪獣勢揃いの趣向は友達からも評判が悪かったし、案の定50年経っても子供だましに睡魔と闘っていた。
◎ゴジラ・モスラ・キングギドラ 大怪獣総攻撃
2019.01.05-06 新文芸坐 [ 〃/105分]
【07】2001年東宝 監督:金子修介 脚本:長谷川圭一、横谷昌宏、金子修介
CAST:新山千春、宇崎竜童、小林正寛、天本英世、佐野史郎、南果歩、大和田伸也、村井国夫、中村嘉葎雄、津川雅彦
●個人的に『シン・ゴジラ』より面白かった。ガメラと比べヒロイックなイメージに程遠いゴジラを絶対悪として描き、キングギドラ、モスラ、バラゴンにガメラの役割を与えた金子修介。その人選?はともかく日本の古い伝承に防衛軍の誇りを加味して、国難に立ち向かう父娘に焦点を当てていく。これを18年間放置していた無知を恥じる。
◎喜望峰の風に乗せて
2019.01.12 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE MERCY [1300円/101分]
【08】2018年イギリス 監督:ジェームズ・マーシュ 脚本:スコット・Z・バーンズ
CAST:コリン・ファース、レイチェル・ワイズ、デヴィッド・シューリス、ケン・ストット、ジョナサン・ベイリー
●コリン・ファースへの信頼だけで一切の予備知識なしで観た。ポスターのイメージと「実話」と断りを受けての序盤から海洋冒険ものかと思いきや、次第に救いのない方向へ漂流していく。栄光から失望、そして絶望の波間に翻弄される家族が哀しい。C・ファースは申し分なかったが、先に内容を知っていたら辛くて観に行っていたかどうか。
◎クリード 炎の宿敵
2019.01.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 CREED Ⅱ [1100円/130分]
【09】2018年アメリカ 監督:スティーブン・ケイプルJr. 脚本:シルベスター・スタローン、ジュエル・テイラー
CAST:マイケル・B・ジョーダン、シルベスター・スタローン、テッサ・トンプソン、フィリシア・ラシャド、ドルフ・ラングレン
●スピンオフとの紹介がもはや違和感でしかなくなった『クリード』の強いブランド力を再認識。それでも前作は青春映画の良作とは思ったものの、世代的にロッキー・バルモアへの郷愁が拭えるものではなかった。今回は素直にアドニス・グリードの妻と母に支えられてこその物語に感銘。ラストのアポロの墓前に孫を見せに行く場面には落涙した。
◎蜘蛛の巣を払う女
2019.01.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 THE GIRL IN THE SPIDER'S WEB [1100円/115分]
【10】2018年イギリス=ドイツ=スウェーデン=カナダ=アメリカ 監督:フェデ・アルバレス 脚本:ジェイ・バス、F・アルバレス、S・ナイト
CAST:クレア・フォイ、シルヴィア・フークス、スベリル・グドナソン、ラキース・スタンフィールド、シルビア・フークス
●D・フィンチャーが『ミレミアム』3部作を順次製作するものだと思いきや、いきなり未読の4作目に飛んでしまった。シリーズを重ねるたび主人公が無敵化していくのはよくあることだが、原作を飛ばして一気にリスベットは超人になってしまった。そんなスーパーヒロインと主演女優の華奢な肉体のギャップが残念な結果をもたらしたようだ。
◎マスカレード・ホテル
2019.01.21 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 [1100円/133分]
【11】2019年フジテレビ=集英社=ジェイストーム=東宝 監督:鈴木雅之 脚本:岡田道尚
CAST:木村拓哉、長澤まさみ、小日向文世、梶原善、渡部篤郎、前田敦子、石橋凌、菜々緒、生瀬勝久、濱田岳、松たか子
●賑やかな顔ぶれにそれなりのスケール感と、豪華な装飾を施しているだが、どんどん月9サイズになっていくのは止められないのか。キムタクと長澤まさみのコンビに文句はないが、結局はテレビ屋のフィールドワークの内であって映画の呼吸ではない。唯一、松たか子が映画女優をやっていたのが救いか。もっと腰を据えて事件を描くべきだ。
◎ひかりの歌
2019.01.22 ユーロスペース [1200円/153分]
【12】2017年 Genuine Light Pictures 監督:杉田協士 脚本:杉田協士
CAST:北村美岬、伊東茄那、笠島智、並木愛枝、廣末哲万、日髙啓介、金子岳憲、松本勝、西田夏奈子、渡辺拓真、深井順子
●抑制から放たれる映画表現の自由―。憑き物が落ちるある瞬間まで、とてつもない傑作なのではないかと前のめりに観ていたが、ふとこの映画が抑制と自由そのものに縛られているのではないかと疑念が生じたとき、153分の長さが気になった。貴重な映像体験だったが、つくづく映画とは作為の産物であることを逆に思い知らされた。
◎日の名残り
2019.01.26 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 THE REMAINS OF THE DAY [1100円/134分]
【13】1993年アメリカ 監督:ジェームズ・アイヴォリー 脚本:ルース・プラヴァー・ジャブヴァーラ
CAST:アンソニー・ホプキンス、エマ・トンプソン、ジェームズ・フォックス、クリストファー・リーヴ、ヒュー・グラント
●原作を読んでいないのでカズオイシグロの世界観は言及できないし、大英帝国に親ドイツの勢力があったことも知らなかった。しかし映画はお構いなくある執事の厳格なストイズムを描く。ここまで抑制することで誰かが得をするはずもないが、恋心を最後まで封印しながらも零れていく感情。映画だけが描きえる大人の機微ではなかったか。
※1994年キネマ旬報ベストテン第7位
◎十二人の死にたい子どもたち
2019.02.01 新宿バルト9:シアター4 [1100円/118分]
【14】2019年製作委員会=日本テレビ 監督:堤幸彦 脚本:倉持裕
CAST:杉咲花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、吉川愛、萩原利久、渕野右登、坂東龍汰、古川琴音
●黒装束の行進など、いつもの堤幸彦の薄っぺらな演出に失笑を禁じえないものの、若い俳優たちの熱がそれなりに伝わって飽きることはなかった。冲方丁はこんな話も書くのかと驚くが、それなりに原作は面白いのだろう。ただ十二人揃えなければならないお約束があるとも思えず、推理ものとして後出しジャンケンが多すぎたのは残念だ。
◎ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ <ディレクターズ・カット>
2019.02.03 TOHOシネマズ海老名 ONCE UPON A TIME IN AMERICA [1100円/251分] ※再観賞
【15】1984年アメリカ=イタリア 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:S・レオーネ、L・ベンヴェヌーティ、P・D・ベルナルディ、E・メディオーリ
CAST:ロバート・デ・ニーロ、ジェームズ・ウッズ、エリザベス・マクガヴァン、ジョー・ペシ、ジェニファー・コネリー
●ギャングたちの自滅劇ではあるのだが、流れた血の多寡で国の歴史が作られるなら、ヌードルスの刹那的な欲望と殺戮のフラッシュバックも一片の叙事詩となる。そして邂逅の果て、若き日の己れは笑っていたのだ。レオーネとモリコーネ。私の人生の大半を神として君臨し続けた二人が壮大に奏でる4時間11分。「至福」の言葉こそ相応しい。
※1984年キネマ旬報ベストテン第1位
◎赤い雪 Red Snow
2019.02.05 テアトル新宿 [1000円/106分]
【16】2019年製作委員会=アークエンタテインメント 監督:甲斐さやか 脚本:甲斐さやか
CAST:永瀬正敏、菜葉菜、井浦新、佐藤浩市、夏川結衣、吉澤健、坂本長利、眞島秀和、紺野千春、イモトアヤコ
●雪と朱のコントラストに蠢く人間たち。どこまでも暗く陰惨な物語は全然アリだが、ロジックは案外真っ当で、取り戻される記憶でさらに主人公が絶望の淵に追い込まれていく様に妙に腑に落ちるものがあった。ただ匿名性の中の陰鬱さに浸りたかったので、有名俳優が出るとそこに安心感が生じ、興が削がれてしまうのは仕方なかったのか。
◎ファースト・マン
2019.02.15 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン9 FIRST MAN [1100円/141分]
【17】2018年アメリカ 監督:デイミアン・チャゼル 脚本:ジョシュ・シンガー
CAST:ライアン・ゴズリング、クレア・フォイ、ジェイソン・クラーク、カイル・チャンドラー、コリー・ストール
●人類初の月面着陸、偉業を達成したNASAの技術人、英雄を支えた家族と、いくらでも彼らの功績を謳い上げることは出来ただろう。しかし映画のトーンは暗く、主人公はどこか冷めた風でもある。これが80年代生まれの監督・主演コンビの、当時の熱狂と興奮を知る世代への回答だとしたら相当のギャップではある。正直、面白くはなかった。
◎パルプ・フィクション
2019.02.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 PULP FICTION [1100円/154分]
【18】1994年アメリカ 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ
CAST:ジョン・トラボルタ、サミュエル・L・ジャクソン、ユマ・サーマン、ハーベイ・カイテル、ブルース・ウィリス
●ビデオで観て即サントラ盤を買った。驚くのはもう四半世紀が過ぎていたということか。当時、世界中を驚かせたタランティーノの斬新な作劇はその影響力ですっかり手垢がついた感があるが、25年前に立ち返らせて、その時代の空気でスタイリッシュな瑞々しさを堪能することが出来た。今まで私の観賞録になかったことが問題だったのだ。
※1994年キネマ旬報ベストテン第4位
◎七つの会議
2019.02.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [無料/119分]
【19】2019年東宝=TBS 監督:福澤克雄 脚本:丑尾健太郎、李正美
CAST:野村萬斎、香川照之、及川光博、片岡愛之助、藤森慎吾、朝倉あき、立川談春、鹿賀丈史、橋爪功、北大路欣也
●役者たちの大芝居だけが見どころで内容がメタメタ。もうテレビ屋に映画を撮らすな!とTBS日曜劇場の既視感に堪えられず何度も途中退席が頭を過った。ところが館内は満杯、隣に座っていたカップルは「面白かったね」などと話している。私の方に問題があるのか?とてもスクリーンで観るレベルとは思えない。・・・タダで観ておいてなんだが。
◎女王陛下のお気に入り
2019.02.18 TOHOシネマズ新宿:スクリーン8 THE FAVOURITE [1100円/120分]
【20】2018年アイルランド=イギリス=アメリカ 監督:ヨルゴス・ランティモス 脚本:デボラ・デイビス、T・マクナマラ
CAST:オリビア・コールマン、エマ・ストーン、レイチェル・ワイズ、ニコラス・ホルト、ジェームズ・スミス
●侍女が豪華絢爛な王宮美術の中を「FUCK!FUCK!」と毒づきながら罷り歩く映画。アン女王、サラ、アビゲイルとエキセントリックな人物しか見つからないのだが、喜劇になる一歩手前で凄まじくも虚飾に彩られた“女の学校”だと思った。権力にとり憑かれながら目先の意地が火花を散らす様に、男は慄きながら楽しく観るしかないのだろう。
◎半世界
2019.02.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 [無料/119分]
【21】2019年キノフィルムズ 監督:阪本順治 脚本:阪本順治
CAST:稲垣吾郎、長谷川博己、渋川清彦、池脇千鶴、竹内都子、杉田雷麟、信太昌之、堀部圭亮、小野武彦、石橋蓮司
●厳しいが爽やかでもあり、シビアだが優しくもある。阪本順治は世界と世間との狭間を二等辺三角形で相対化してみせたのか。その三角形の写真にピース缶、一見しょーもないダチ同士のタイムカプセルが、彼らほどの友情に恵まれぬ身にはなんとも羨ましかった。それにしても阪本よ、最後の留守電は卑怯すぎる(涙)。早くも今年ベスト級。
※2019年キネマ旬報ベストテン第2位
◎ビール・ストリートの恋人たち
2019.02.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 IF BEALE STREET COULD TALK [1300円/119分]
【22】2018年アメリカ 監督:バリー・ジェンキンス 脚本:バリー・ジェンキンス
CAST:キキ・レイン、テファン・ジェームス、レジ―ナ・キング、コールマン・ドミンゴ、マイケル・ビーチ、ディエゴ・ルナ
●黒人たちの恋愛映画となるとこうなってしまうのかと溜息が出る。試練を乗り越える愛を描いたのか、試練に呑みこまれる愛を描いたのかわからないまま幕を閉じてしまうのは、きっと大団円には納まれない現実があるのだろう。ティッシュがあまりに健気だったのでファニーに自由が訪れるのを心待ちしていた分だけ、後味はホロ苦かったか。
◎アリータ:バトル・エンジェル
2019.02.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 ALITA: BATTLE ANGEL [1100円/122分]
【23】2018年アメリカ 監督:ロバート・ロドリゲス 脚本:ジェームズ・キャメロン、L・カログリディス、R・ロドリゲス
CAST:ローサ・サラザール、クリストフ・ワルツイド、キーアン・ジョンソン、ジェニファー・コネリー、マハーシャラ・アリ
●どうせロドリゲスの映画を観るなら頭カラっぽで楽しむかと高を括っていたら、少女から戦士に豹変するアリータのカッコ良さにハマってしまった。やはりキャメロンブランドだったということか。確かに後半から内容を詰め込みすぎて拙速気味ではあるし、矢継ぎ早のCGバトルに食傷しないこともなかったが、122分、十分な見応えだった。
◎翔んで埼玉
2019.03.03 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 [無料/106分]
【24】2019年フジテレビ=東映=テレビ埼玉 監督:武内英樹 脚本:徳永友一
CAST:二階堂ふみ、GACKT、伊勢谷友介、ブラザートム、麻生久美子、中尾彬、間宮祥太朗、加藤諒、麿赤兒、京本政樹
●二階堂ふみの小芝居でも見てやるかと思っていたら、豈図らんや気持ち良く映画館を出た。埼玉のことは良く知っているので「ディスり」「あるある」のネタがいちいち面白いのだが、案外、茶番に仮託された壮大な地域紛争、階級闘争を描きながら、地元愛に収斂していく物語なのかもしれない。なんて書いてしまったらそれこそギャグか。
◎THE GUILTY ギルティ
2019.03.06 新宿武蔵野館 DEN SKYLDIGE [1000円/88分]
【25】2018年デンマーク 監督:グスタフ・モーラー 脚本:エミール・ナイガード・アルベルトセン、グスタフ・モーラー
CAST:ヤコブ・セーダーグレン、イェシカ・ディナウエ、ヨハン・オルセン、オマール・シャガウィー
●“聴覚”というキーワードで語られる映画だが、音だけで事件を創造する点では音響技術が優秀なラジオドラマのレベルに過ぎない。むしろイヤホンマイクから事件と対峙するアズガーの焦燥に彼自身の切羽詰まった背景を読み取る“視覚”を凝らすと、俄然、通報司令室の閉鎖性がヒリヒリと痛み出す。そう映画は視覚の産物なのだから。
◎サッドヒルを掘り返せ
2019.03.08 新宿シネマカリテ SAD HILL UNEARTHED [1500円/87分]
【26】2018年スペイン 監督:ギレルモ・デ・オリベイラ (ドキュメンタリー)
CAST:エンニオ・モリコーネ、クリント・イーストウッド、クリストファー・フレイリング、ジェームズ・ヘッドフィールド
●私にとってだけ永遠の名作だと思っていた映画を世界中でこんなに愛していた奴らがいた。聖地巡礼などではなく、掘り起こすのでもない。そう彼らは文字通り“掘り返して”見せたのだ。熱い、熱すぎる。私などまだまだで、それを思い知らされて茫然とした。モリコーネやイーストウッドがあの映画を掘り返してくれた瞬間、涙が出た。
◎大統領の陰謀
2019.03.09 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 ALL THE PRESIDENT'S MEN [1100円/138分] ※再観賞
【27】1976年アメリカ 監督:アラン・J・パクラ 脚本:ウィリアム・ゴールドマン
CAST:ダスティン・ホフマン、ロバート・レッドフォード、ジャック・ウォーデン、マーティン・バルサム、ジェイソン・ロバーズ
●言うに及ばず脚本がいい、パクラの演出もいい。しかし個人情報や喫煙環境の緩さに感嘆しつつも二人の取材内容が把握出来なかったのは高校生のときと同じという情けなさ。それでもタイプを打つ音の小気味よさの中、ホフマンとレッドフォードがひとつの画に収まっている図は惚れ惚れとさせるものがあり、まったく飽きることはなかった。
※1976年キネマ旬報ベストテン第10位
◎運び屋
2019.03.09 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン9 THE MULE [1100円/116分]
【28】2018年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ニック・シェンク
CAST:クリント・イーストウッド、ブラッドリー・クーパー、ローレンス・フィッシュバーン、ダイアン・ウィースト
●『グラン・トリノ』でヒーローを総括してみせ、ほぼ神のレベルまで昇ってしまったイーストウッドが、生身の人生の贖罪と安らぎを追い求めてハイウェイを疾走する。またしても彼にしか撮れない・演じられない唯一無二の領域に挑んだのか。痩せさらばえ、赤裸々にダメ人間ぶりを自虐しながら、依然イーストウッドであることの恰好良さ。
※2019年キネマ旬報ベストテン第4位
◎狼たちの午後
2019.03.17 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 DOG DAY AFTERNOON [1100円/125分] ※再観賞
【29】1975年アメリカ 監督:シドニー・ルメット 脚本:フランク・R・ピアソン
CAST:アル・パチーノ、ジョン・カザール、チャールズ・ダーニング、ペニー・アレン、クリス・サランドン
●中学卒業したての春に観てからずっと、最後はパチーノも射殺されたのだと思い込んでいた。私の中の記憶を変えてまで主人公は死ななければならなかったのか。それがニューシネマを引き摺るアメリカ映画の落とし所だった。今のハリウッドなら警官の包囲網から脱出するエンタメにしてしまうのか。あゝ70年代ニューヨークの空気の愛しさ。
※1976年キネマ旬報ベストテン第5位
◎グリーンブック
2019.03.17 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 GREEN BOOK [1100円/116分]
【30】2018年アメリカ 監督:ピーター・ファレリー 脚本:ニック・バレロンガ 、ブライアン・カリー、ピーター・ファレリー
CAST:ヴィゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ、ディミテル・D・マリノフ
●平たくいえば凸凹バディの“自分探し”ロードムービーとして、善良な観客が期待する展開に真っ当に応えながらアメリカ南部を横断していく映画。少々照れる場面もあったが、この真っ当さはきちんとエンタティメントになっている。白眉は黒人酒場でシャリーが奏でるショパンからのジャムセッション。ミュージシャンはこれがあるから強い。
※2019年キネマ旬報ベストテン第5位
◎岬の兄妹
2019.03.17 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 [無料//89分]
【31】2018年プレシディオ 監督:片山慎三 脚本:片山慎三
CAST:松浦祐也、和田光沙、北山雅康、岩谷健司、中村祐太郎、風祭ゆき、時任亜弓、ナガセケイ、松澤匠、芹澤興人
●妊娠した妹の腹めがけ石の塊を叩きつけんとする兄。この男にそんな勇気はないと思いつつ、この映画の文脈ならやりかねないとの不安。夢も希望もなく、前衛も抽象もなく、作為すらも感じさせず、ただ底辺を這いまわる兄と妹。しかしはっきりマグマのような鼓動を感じるのは、映画が悉く禁忌を蹴散らして見せる躊躇のなさにあるのか。
◎未知との遭遇 ―ファイナル・カット版
2019.04.07 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 CLOSE ENCOUNTERS OF THE THIRD KIND [1100円/138分] ※再観賞
【32】1977年アメリカ 監督:スティーブン・スピルバーグ 脚本:スティーブン・スピルバーグ
CAST:リチャード・ドレイファス、フランソワ・トリュフォー、テリー・ガー、メリンダ・ディロン、ボブ・バラバン
●クライマックスの驚愕と陶酔感。もちろんテアトル東京の巨大シネラマには及ぶべくもないが、まだCGなどなかった時代に高校生で味わった感覚を41年後に享受することの歓び。さらに今回はクライマックスまで積み上げたプロットも秀逸で、ミステリーとサスペンスでハラハラさせていることも確認。トリュフォーの存在感を含めて感服した。
※1978年キネマ旬報ベストテン第4位
◎ブラック・クランズマン
2019.04.07 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 BLACKKKLANSMAN [1100円/135分]
【33】2018年アメリカ 監督・脚本:スパイク・リー 脚本:チャーリー・ワクテル、D・ラビノウィッツ、K・ウィルモット他
CAST:ジョン・デビッド・ワシントン、アダム・ドライバー、ローラ・ハリアー、トファー・グレイス、ヤスペル・ペーコネン
●一端の映画通を気取りつつ、劇場初のスパイク・リーは聞きしに勝るインパクトだった。潜入捜査ものでドキドキさせ、観客にコンゲーム的なカタルシスを与えつつ、大島渚の黒い日の丸ばりの黒い星条旗を掲げて見せる。そしてエンターティメントをバッサリ否定する着地。それらすべてを含めても映画的面白さに満ち溢れている。さすが。
◎名探偵コナン/紺青の拳 (こんじょうのフィスト)
2019.04.12 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2 [1100円/130分]
【34】2018年東宝=小学館=日テレ 監督:永岡智佳 脚本:大倉崇裕
CAST:(声)高山みなみ、山口勝平、檜山修之、松井菜桜子、山崎育三郎、河北麻友子、山崎和佳奈、小山力也、林原めぐみ
●うーん、、、、今回のコナンは面白くなかった。京極真という格闘キャラが場違いだったのか、コナンのスケボーの疾走感がなかったからか、怪盗キッドの極端な俗化のせいなのか、シンガポール・ロケ(?)がハマらなかったのか、まぁそのどれかに違いない。ただクライマックスのタンカー激突の盛り上がりの弱さは大いに指摘しておく。
◎多十郎殉愛記
2019.04.14 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン5 [1100円/93分]
【35】2019年製作実行委員会=よしもと=東映 監督:中島貞夫 脚本:中島貞夫、谷慶子
CAST:高良健吾、多部未華子、木村了、三島ゆり子、栗塚旭、山本千尋、福本清三、野口貴史、永瀬正敏、寺島進
●「こんな男になんで・・・」「こんな女だからよ」。期待にたがわぬ展開に復活・中島貞夫にどれだけの賛辞を捧げようか思い巡らせていたものの、カタルシス皆無の殺陣で明らかに失速した。京撮は支配しても中島貞夫はそもそもチャンバラの人だったか。高良と多部の佇まいは文句無しだが、京撮が主役となってしまったのは残念すぎた。
◎愛がなんだ
2019.04.19 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2 [1100円/123分]
【36】2019年製作実行委員会=エレファントハウス 監督:今泉力哉 脚本:澤井香織、今泉力哉
CAST:岸井ゆきの、成田凌、深川麻衣、若葉竜也、穂志もえか、中島歩、片岡礼子、筒井真理子、江口のりこ
●面白かった。不思議ちゃん、不気味ちゃんたちに共感はしずらかったが、愛とは何かと問うのではなく投げ出しながら所詮は堂々めぐり。仕事を放ってまでマモちゃんへと驀進するテルコのジタバタぶりを苦々しく思いながら、長回しで浮かび上がる岸井ゆきのと成田凌のリアルが絶妙な緊張感が心地よかった。この監督、相当にデキると見た。
※2019年キネマ旬報ベストテン第8位
◎妖星ゴラス
2019.04.20-21 新文芸座 [2100円/88分]
【37】1962年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:木村武
CAST:池部良、久保明、白川由美、水野久美、志村喬、佐原健二、平田昭彦、田崎潤、小沢栄太郎、西村晃、上原謙
●子供の頃に白黒テレビで見たのだと思うけど、何故だか燃え滾るゴラスの赤色が脳裏に焼きついていた。衝突を避けるため地球を移動させるという正に「奇想、天を動かす」アイデアは現実的とは思えないが、本気でSFスペクタクルを仕上げるのだという意欲は伝わる。今度は北極のジェット噴射で地球の軌道を戻す悪戦苦闘が見たいものだ。
◎海底軍艦
2019.04.20-21 新文芸座 [ 〃 /94分]
【38】1963年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:関沢新一
CAST:高島忠夫、藤山陽子、小泉博、上原謙、藤木悠、佐原健二、田崎潤、小林哲子、天本英世、平田昭彦、藤田進
●田崎潤史上のベストアクトと思える号令に、伊福部昭史上でも稀代の名曲に乗って出撃する海底軍艦「轟天」。40年前に旧文芸坐で観たときはムウ帝国のキッチュさととってつけたマンダの登場でやや鼻白んでいたが、轟天がムウ帝国を圧倒的な破壊力で粉砕してしまうイケイケ感が気持ち良く、滅びゆく一族の悲哀が漂う余韻も印象深かった。
◎宇宙大戦争
2019.04.20-21 新文芸座 [ 〃 /93分]
【39】1959年東宝 監督:本多猪四郎 特技監督:円谷英二 脚本:関沢新一
CAST:池部良、安西郷子、千田是也、土屋嘉男、伊藤久哉、高田稔、ジョージ・ワイマン、レオナルド・スタンフォード
●もしや日本映画が初めて挑戦した本格的な宇宙バトルか。そこまで円谷英二のファンではない私には、アポロ11号に先駆けての月面着陸に挑戦したのはいいが、60年前の技術の稚拙さ、造形の安易さ、調査不足はやはり気になった。ただ東宝特撮の定番たる伊福部昭のスタンダードテーマがすでに使われていたのは驚く。本物のクラシックだ。
◎世界大戦争
2019.04.20-21 新文芸座 [ 〃 /110分]
【40】1961年東宝 監督:松林宗恵 特技監督:円谷英二 脚本:八住利雄、馬淵薫
CAST:フランキー堺、宝田明、乙羽信子、星由里子、山村聰、笠智衆、東野英治郎、ジェリー藤尾、上原謙、中村伸郎
●単純に私の生まれ年の都心の風景が面白かったこと。高度成長に向かう当時の日本人の戦争に対する気分と反比例する世界情勢。冷戦状態が決壊して戦争に突入する際の日本政府の無力感など、普段は悪口として用いる「資料的価値」という言葉が重い意味を持つ。国家と個人のコントラスト、終末の無常感。かなりの問題作ではなかったか。
◎ガンマー第3号 宇宙大作戦
2019.04.26 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU [520円/77分]
【41】1968年東映=アメリカ 監督:深作欣二 脚本:トム・ロー、金子武郎
CAST:ロバート・ホートン、リチャード・ジャッケル、ルチアナ・パルッツィ、バッド・ウイドム、テッド・ガンサー
●深作狂として劇場をとりこぼしていたのは気になっていたものの、内容は期待していなかった。というよりどんな珍品を拝まされるのかと身構えていたところ、意外と面白く観られた。いや珍品には違いないが、深作演出のテンポの良さと、『エイリアン』に先駆けた「おっ」という展開に、私の脳が特撮技術の稚拙さを勝手に修整してくれた。
◎アベンジャーズ/エンドゲーム
2019.04.29 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1 AVENGERS: ENDGAME [1100円/182分]
【42】2019年アメリカ 監督:アンソニー・ルッソ、ジョー・ルッソ 脚本:クリストファー・マルクス、S・マクフィーリー
CAST:ロバート・ダウニーJr.、クリス・エヴァンス、マーク・ラファロ、クリス・ヘムズワース、スカーレット・ヨハンソン
●“MCU”なる用語を今年に入って知り、なんだかストーリーもアングルも知らないままWWEのプロレス会場に来てしまったような感覚で、スーパーマンやバットマンは他団体の所属であるのもわからないまま、3時間超えの長丁場に退屈して何度か腕時計を見てしまった。ド素人は引っ込んでろということか。でも映画ってそういうものなのか。
◎ハンターキラー 潜航せよ
2019.04.29 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン8 HUNTER KILLER [1100円/122分]
【43】2019年アメリカ 監督:ドノヴァン・マーシュ 脚本:アーン・シュミット、ジェイミー・モス
CAST:ジェラルド・バトラー、ゲイリー・オールドマン、リンダ・カーデリーニ、コモン、ミカエル・ニクヴィスト
●潜水艦ものにハズレなしといわれる。閉鎖空間、緊迫、クルーの人間模様などの要素を押さえておけばそこそこの映画にはなる。ただ本作はそれら定番を踏まえながらも「お約束」を感じさせず最後まで突っ走る。特殊部隊による地上戦の迫力もあるが、マキノ風な任侠映画の泣かせ所の余韻がいい。あまりの面白さにあっという間の122分。
◎JAWS ジョーズ
2019.05.04 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 JAWS [1100円/124分] ※再観賞
【44】1975年アメリカ 監督:スティーブン・スピルバーグ 脚本:ピーター・ベンチリー、カール・ゴッドリーブ
CAST:ロイ・シャイダー、ロバート・ショウ、リチャード・ドレイファス、ロレイン・ゲイリー、カール・ゴットリーブ
●令和になって一発目がJAWSとは・・・。客は居てもシーンとした午前十時のシネコンにいて、かつて悲鳴と笑いと最後は拍手で終わった熱気ムンムンの横浜ピカデリーで、ウハウハしながら画面に食い入った中学生の記憶を蘇らせていた。いや44年経っても面白さは変わらずで124分を一気に見せ切る。間違いなく昭和を代表する一本。
※1975年キネマ旬報ベストテン第10位
◎バースデー・ワンダーランド
2019.05.11 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 [1100円/115分]
【45】2019年フジテレビ=電通=ワーナー 監督:原恵一 脚本:丸尾みほ
CAST:(声)松岡茉優、杏、麻生久美子、東山奈央、藤原啓治、矢島晶子、市村正親
●ラジオでの松岡茉優のハイテンションなプレゼンと原恵一作品ということで必要以上にハードルを上げてしまったか。確かに作画の美しさは目を引くものの、少女の異次元エリアスリップものとしても成長物語としてもあまりに味が薄かった。もしかすると原恵一は一定の制約の中で作家性が噴出するタイプのアニメ作家なのかも知れない。
◎アメリカン・アニマルズ
2019.05.17 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン5 AMERICAN ANIMALS [1100円/116分]
【46】2018年アメリカ=イギリス 監督:バート・レイトン 脚本:バート・レイトン
CAST:エヴァン・ピーターズ、バリー・コーガン、ブレイク・ジェナー、ジャレッド・アブラハムソン、ウォーレン・リプカ
●最高だと断言する。実際の強盗事件を実際の犯人自身が後述するケイパーものというスタイルも凄いが、見せ方のあまりのイメージの洪水に脳がクラクラした。とにかく「斬新」の一言だが、青春の一時期にある「とんでもない人生を拓きたい」幻想の馬鹿さ加減は実は普遍的であり、アメリカンニューシネマの懐かしさが匂うのも嬉しい。
◎アガサ・クリスティー ねじれた家
2019.05.24 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 CROOKED HOUSE [1000円/115分]
【47】2017年イギリス=アメリカ 監督:ジル・パケ=ブレネール 脚本:ジュリアン・フェロウズ、T・R・プライス他
CAST:グレン・クローズ、マックス・アイアンズ、ステファニー・マティーニ、ジュリアン・サンズ、テレンス・スタンプ
●灰色の脳細胞も詮索好きお婆さんも出てこないが、探偵が凡庸である前提での作劇の面白さはさすがクリスティーだ。遺産相続をめぐる話にミスリードしておいて、殺人事件の夜にチャイコフスキーを舞う少女の姿など、後から悲しさが効いてくる趣向も悪くない。ただ英国調の格調と絢爛さがもっと醸されれば良かったのにとは思う。
◎空母いぶき
2019.05.26 イオンシネマみなとみらい:スクリーン7 [無料/134分]
【48】2019年キノフィルムズ 監督:若松節朗 脚本:伊藤和典、長谷川康夫
CAST:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、高嶋政宏、玉木宏、小倉久寛、山内圭哉、斉藤由貴、中井貴一、藤竜也、佐藤浩市
●中井貴一を“東亜連邦”の工作員だと睨んでいたらまんまコンビニの店長だったのにはズッコケた。はっきりいってこの尺はもったいない。戦争にしないための戦闘を描く軍事シミュレーション映画として面白くはあったし、それなりにハラハラ、ドキドキもさせたし、役者陣も頑張ってはいたが、戦闘終結からの余韻があまりに長すぎてダレた。
◎さよならくちびる
2019.06.01 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン10 [1200円/116分]
【49】2019年GAGA 監督:塩田明彦 脚本:塩田明彦
CAST:門脇麦、小松菜奈、成田凌、篠山輝信、松本まりか、新谷ゆづみ、日高麻鈴、青柳尊哉、松浦祐也、マキタスポーツ
●女ふたりに男ひとり。煙草はロードムービーの必須アイテムか。そんなことより日本全国を旅する3人がもどかしくも懸命に居場所を探す姿に、自分でも笑っちゃうくらい泣けた。決して泣かす映画じゃなけど、切羽詰まりながら青春しているハルレオとシマの健気な不器用さを応援したくなる。自分探しは嫌いだが、居場所探しはとても切ない。
※2019年キネマ旬報ベストテン第6位
◎GODZILLA ゴジラ キング・オブ・モンスターズ
2019.06.02 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 GODZILLA KING OF THE MONSTERS [1200円/132分]
【50】2019年アメリカ 監督:マイケル・ドハティ 脚本:マイケル・ドハティ、ザック・シールズ
CAST:カイル・チャンドラー、ヴェラ・ファーミガ、渡辺謙、ミリー・ボビー・ブラウン、サリー・ホーキンス、チャン・ツィイー
●ダメだ、どうしても首太ゴジラの爬虫類感が好きになれない。ギドラもモスラもラドンも美しくなく、場面の作り方も拙速で殆ど漫画。というより現場で何が起こっているのか全然わからず、後追いでの説明セリフが延々と繰り返される。怪獣映画は物量だけでは単なる見世物に堕ちるのだ。伊福部昭のスコアも日本人観客への忖度でしかない。
◎長いお別れ
2019.06.03 TOHOシネマズ新宿:スクリーン8 [1100円/127分]
【51】2019年アスミックエース 監督:中野量太 脚本:中野量太、大野敏哉
CAST:蒼井優、竹内結子、松原智恵子、山﨑努、北村有起哉、中村倫也、杉田雷麟、蒲田優惟人、清水くるみ、不破万作
●中野量太は女性の造型が本当に巧い。前作で気丈な母を描いて感涙させ、今度は認知症を患った父の話かと思いきや、それに対峙せざる得なくなった娘ふたりと妻のそれぞれの視点から彼らの人生を浮かび上がらせていく。最後にそれらの誰でもない孫息子に幕を引かせて仄かな友情をも捻出してしまうとは、演出力、脚本力ともに文句なしだ。
◎町田くんの世界
2019.06.07 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 [1300円/120分]
【52】2019年日テレ=ワーナー 監督:石井裕也 脚本:石井裕也、片岡翔
CAST:細田佳央太、関水渚、岩田剛典、高畑充希、前田敦子、太賀、池松壮亮、戸田恵梨香、佐藤浩市、松嶋菜々子
●優しさ・恋・友情・青春・・・こんなものをストレートにぶつけられてオジサンは途惑う一方だが「えっ齢なんて関係ないじゃないですか!」と町田くんに肩を揺すられる気分だった。もちろん石井裕也で観に行ったわけで、この映画にどう向き合うべきかとの答えは私の中で燻る感情を呼び覚ますしかない。それがやや疲れたが、楽しくはあった。
◎コミック雑誌なんかいらない!
2019.06.09 新文芸坐 [無料/124分] ※再観賞
【53】1986年NCP 監督:滝田洋二郎 脚本:内田裕也、高木功
CAST:内田裕也、渡辺えり子、麻生祐未、原田芳雄、おニャン子クラブ、三浦和義、桃井かおり、ビートたけし、殿山泰司
●33年前のヨコハマ映画祭特別上映の熱気が文芸坐に蘇った。今観ると何かと騒々しかった昭和末期の世相を総花的に横断したフェイクドキュメンタリーだが、内田裕也と滝田洋二郎は文字通り“I can't speak fuckin Japanese”と事件の渦中に飛び込んでみせたのだ。無人の川崎球場で股間から出したマイクを投げるフォームの綺麗なことよ。
※1986年キネマ旬報ベストテン第2位
◎十階のモスキート
2019.06.09 新文芸坐 [ 〃 /108分]
【54】1983年NCP 監督:崔洋一 脚本:崔洋一、内田裕也
CAST:内田裕也、吉行和子、中村れい子、小泉今日子、佐藤慶、趙方豪、アンルイス、宮下順子、風祭ゆき、ビートたけし
●教条主義的価値を抜きにしても主人公に同情の余地はないのだが、ある意味内田裕也のガマン劇の構造となっており、堪忍袋の緒が切れて郵便局襲撃に至るとなると、なにやら寡黙な内田が高倉健に見えてくる。もちろん自堕落男の自滅ぶりをロックだとは思わないが、浮ついていた80年代にくっきりと傷痕を残した内田裕也の功績は永遠だ。
※1983年キネマ旬報ベストテン第9位
◎エロチックな関係
2019.06.14 新文芸坐 [無料/93分]
【56】1978年日活 監督:長谷部安春 脚本:中島紘一、長谷部安春
CAST:内田裕也、加山麗子、牧ひとみ、田中浩、井上博一、花上晃、南条マキ、岡尚美、江角英明、安岡力也、日野繭子
●ロマンポルノの枠内で面白い話を!との長谷部安春の意気込みは伝わる。ただ今観ると、ジャンルの宿命なのか、どうしても濡れ場ルーティンに割かれる尺がストーリーを転がすテンポを阻害し、冗長に思えてしまう。ややC調の裕也探偵が終始翻弄される様には笑えるが、それを受け止めるふたりのヒロインの演技力不足は誤算だった。
◎エロティックな関係
2019.06.14 新文芸坐 [ 〃 /95分]
【57】1992年松竹 監督:若松孝二 脚本:内田裕也、長谷部安春
CAST:内田裕也、宮沢りえ、ビートたけし、ジェニファー・ガラン、荒戸源次郎、佐藤慶、宇崎竜童、斉藤洋介、ジョー山中
●同じ物語をロマンポルノから宮沢りえを前面に押すアイドル映画に転換させ、全編パリロケによる奥山松竹らしいゴージャスでバブリーな絵作りで評判以上に楽しめた。若松孝二にこんな芸当が出来るのかと驚くが、裕也とたけしがりえの“受け”に徹したことで、映画全体の均衡が保たれたのが大きい。眉太の若き宮沢りえはチャームの一言だ。
◎日本のいちばん長い日
2019.06.16 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1100円/157分]
【58】1967年東宝 監督:岡本喜八 脚本:橋本忍
CAST:三船敏郎、笠智衆、山村聰、黒沢年男、小林桂樹、高橋悦史、島田省吾、中丸忠雄、天本英世、伊藤雄之助、志村喬
●この一大局面で政府が簡単に結論を出せなかったこともわかるし、梯子を外された青年将校たちの激噴もよくわかる。これは橋本忍の驚異的な構成力の賜物だ。一方で岡本喜八が『肉弾』を撮るに至る反省素材のように語られる本作だが、その演出力は問答無用に素晴らしい。さらに俳優陣の熱情も本作を“渾身の一作”に押し上げたのではないか。
※1967年キネマ旬報ベストテン第3位
◎旅のおわり世界のはじまり
2019.06.19 シネ・リーブル池袋1 [1100円/120分]
【59】1967年東京テアトル 監督:黒沢清 脚本:黒沢清
CAST:前田敦子、加瀬亮、染谷将太、アディス・ラジャボフ、柄本時生
●前田敦子という、個人的にほぼ「性」を感じさせず決定的に存在が希薄であるがゆえ、映画全体に実に丁度良く調和し、ストレスなく心地良くエンドロールを迎えられた。即興演出の勝利といってしまえばそれまでだが、ヤギのエピソードも「愛の讃歌」も腑に落ちないまま前田敦子の鼓動と黒沢清の呼吸に同調してしまったということか。
※2019年キネマ旬報ベストテン第10位
◎離婚しない女
2019.06.23 新文芸坐 [1100円 /107分]
【60】1986年松竹富士 監督:神代辰巳 脚本:高田純、神代辰巳
CAST:萩原健一、倍賞千恵子、倍賞美津子、夏八木勲、神保美喜、伊武雅刀、和田求由、池波志乃、芹明香、室井滋
●敢えて通俗的な不倫メロドラマを狙った神代辰巳作品。もう私の嗜好にぴったりで、根室・釧路のロケーションも好きだ。実姉妹がゆえに火花を散らすふたりの女優の間で翻弄し、翻弄される萩原健一。こんな役を演じられるのは実生活とシームレスで繋がるショーケンしかおるまい。殻を破って神代演出に寄り添う倍賞千恵子の熱演も素敵だ。
◎恋 文
2019.06.23 新文芸坐 [〃 /108分] ※再観賞
【61】1985年松竹富士 監督:神代辰巳 脚本:高田純、神代辰巳
CAST:萩原健一、倍賞美津子、高橋恵子、小林薫、和田求由、仲谷昇、左時枝、橋爪功、秋元恵子、有馬昌彦、三谷昇
●内容はほぼ忘れていたが、面白かったとの記憶はあった。病院の屋上で突如、江津子に接吻する将一に愕然とする郷子。この瞬間、ああ大人の恋愛映画の傑作だったなと再認識。殆ど顔芸かと思えるショーケンのダメっぷりは絶品だが、受ける倍賞美津子がとことん愛しく魅力的。今日は神代=ショーケンの名コンビと倍賞姉妹に魅了された。
※1985年キネマ旬報ベストテン第6位
◎海獣の子供
2019.07.02 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8 [1100円/110分]
【62】2019年STUDIO4℃ 監督:渡辺歩 作画監督:小西賢一 脚本:木ノ花咲
CAST:(声)芦田愛菜安、石橋陽彩、浦上晟周、森崎ウィン、稲垣吾郎、蒼井優、渡辺徹、田中泯、大谷満理奈、富司純子
●私はアニメだろがSFだろうがストーリー至上主義的なところがあるが、もうその圧巻過ぎる画力に呆然としてしまった。もちろん少女のひと夏の成長物語といういかにもなモチーフが海と宇宙、生命誕生の真理へと無限拡大する過程で私の理解が追いつかないもどかしさがあるものの、今は凄いものを見せてもらった充足感に支配されている。
◎八甲田山
2019.07.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1100円/169分] ※再観賞
【63】1978年橋本プロ=シナノ企画=東宝 監督:森谷司郎 脚本:橋本忍
CAST:高倉健、北大路欣也、三國連太郎、加山雄三、緒形拳、前田吟、大滝秀治、栗原小巻、加賀まり子、秋吉久美子
●撮影のあまりの過酷さで語られ、その逸話をサブテキストにすればさらに面白くなる特異な映画。秋吉久美子の案内人を弘前隊が敬礼で見送る場面は何度見ても泣かせるが、所々「勿体ない」と思わせる場面も少なくない。ただ悲惨な史実も猛吹雪と行軍と芥川也寸志のテーマ曲とのアンサンブルでテンポよく上映時間が過ぎていくのは確か。
※1977年キネマ旬報ベストテン第4位
◎愛と青春の旅だち
2019.07.14 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 AN OFFICER AND A GENTLEMAN [1100円/124分] ※再観賞
【64】1982年アメリカ 監督:テイラー・ハックフォード 脚本:ダグラス・デイ・スチュアート
CAST:リチャード・ギア、デブラ・ウィンガー、ルイス・ゴセットJr.、デヴィッド・キース、ロバート・ロッジア、リサ・ブロント
●公開時はベタな邦題に敬遠し、5年後に三軒茶屋の名画座で捕まえたのだったか。内容も相当にベタで少女コミックにありがちな題材だが、有名な主題歌が劇伴で流れるのを聴くうちにこの映画なりの「芯」があることがわかり、軍隊ものとして最後まで気持ちよく観賞できた。リアルタイムよりノスタルジーの中で観るべき映画なのだろう。
◎凪待ち
2019.07.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER [1100円/124分]
【65】2019年キノフィルムズ 監督:白石和彌 脚本:加藤正人
CAST:香取慎吾、恒松祐里、西田尚美、吉澤健、音尾琢真、リリー・フランキー、三浦誠己、宮崎吐夢、黒田大輔、麿赤兒
●喪失感と抗えぬ射幸心からギャンブルに堕ちる郁男をどこまで責めるべきか。一方で受け皿としてそんな彼らを呑み込む社会不条理もある。何かを喪失したまま生きていくのはしんどいが、海に流した婚姻届が震災瓦礫と同化しても、生きる以上は足掻かなければならず、その先に見えるのが凪なのか更なる時化なのか。郁男の彷徨は続く。
◎ゴールデン・リバー
2019.07.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE SISTERS BROTHERS [1100円/122分]
【66】2018年アメリカ=フランス=スペイン=ルーマニア 監督:ジャック・オーディアール 脚本:トーマス・ビデガン他
CAST:ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッド、ルドガー・ハウアー
●置きにいったような邦題はつまらないが、シスターでブラザーな妙なバランスの無法兄弟の追跡劇。ウエスタンの定番的展開をズラしながら、敢えてガンファイトのカタルシスさえ狙っていない風な4カ国入り乱れのハイブリット西部劇か。当然予測される兄弟の末路が故郷の母の胸だという驚きの結末に「この映画好きかも」と思ってしまった。
◎アラジン
2019.07.15 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン6 ALADDIN [1100円/128分]
【67】2018年アメリカ 監督:ガイ・リッチー 脚本:ジョン・オーガスト、ガイ・リッチー
CAST:ウィル・スミス、メナ・マスード、ナオミ・スコット、マーワン・ケンザリ、ナビド・ネガー、ビリー・マグヌッセン
●「魔法のランプと精」「洞窟」「空飛ぶ絨毯」に「アリハバと盗賊」など有名なアイコンが盛り沢山なうえ、矢継ぎ早のカット数と目まぐるしいファンタジー映像で息つく間もなく時間が過ぎていく。ただ“Whole New World”のシーンはもっと優雅に描いて欲しかった。齢のせいか冒頭の行商の家族がラストに回帰した場面に不覚にも涙が。
◎きみと、波にのれたら
2019.07.17 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 [1100円/98分]
【68】2019年製作委員会=東宝 監督:湯浅政明 脚本:吉田玲子
CAST:(声)片寄涼太、川栄李奈、松本穂香、伊藤健太郎、木野日菜
●「良いか悪いか」より、「好きか嫌いか」「合うか合わないか」もっといえば「許すか許せないか」がはっきり分かれる映画か。私は好きだし、合うし、許せるのだが、ヒロイン・ひな子の恋と喪失と成長という定番物語の結果として“やっちまった感”満載のクライマックスに、湯浅政明よ『夜は短し歩けよ乙女』に続いて有難うといいたい。
◎天気の子
2019.07.17 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン1 [1100円/114分]
【69】2019年製作委員会=東宝 監督:新海誠 脚本:新海誠
CAST:(声)醍醐虎汰朗、森七菜、小栗旬、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、木村良平、神木隆之介
●積乱雲の膨大な水分に生態系が存在している筈との仮説が面白い。ただ私は最後までこの映画のリアリティラインがわからず、宙を舞う帆高と陽菜に違和感を覚えた。普段、見慣れた新宿が精巧に再現されるなど「絵」の力はあるが、すでに『海獣の子供』を観てしまっていると「別になぁ」と思う。RADWIMPSの繰り返しにも食傷した。
◎ブルース・ブラザーズ
2019.07.28 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 THE BLUES BROTHERS [1100円/133分] ※再観賞
【70】1980年アメリカ 監督:ジョン・ランディス 脚本:ダン・エイクロイド、ジョン・ランディス
CAST:ジョン・べルーシ、ダン・エイクロイド、ジェームズ・ブラウン、キャブ・キャロウェイ、アレサ・フランクリン
●これでもかの物量による破壊の連続には呆れ返るしかないが、最初に観た学生時代には知らなかったJBやレイやキャブ、アレサのカリスマシンガーたちの歌声がなんとも胸に響く。それだけでこの映画の価値は十分な気がした。「ミニ・ザ・ムーチャー」が素晴らしい。2年後に早逝したベルーシにとって最良の仇花になったのではないか。
※1981年キネマ旬報ベストテン第9位
◎第十七捕虜収容所
2019.08.01 シネマヴェーラ渋谷 STALAG 17 [800円/121分] ※再観賞
【71】1953年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット
CAST:ウィリアム・ホールデン、オットー・プレミンジャー、ドン・テイラー、ハーヴェイ・レムベック、ピーター・グレイブス
●クッキーがセフトンを祝福するように口笛で奏でる「ジョニーが凱旋するとき」に乗ってカタルシス満点にエンディングへと雪崩込む。群像から次第に個を浮かばせるのではなく、個と群像を同時に浮かび上がらせる語り口に、これぞ名人芸!と30年ぶりにわくわくが止まらない。ワイルダーの掌に乗ることは映画を観ることの至福だ。
◎熱砂の秘密
2019.08.01 シネマヴェーラ渋谷 FIVE GRAVES TO CAIRO [800円/97分]
【72】1943年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット
CAST:フランチョット・トーン、アン・バクスター、エリッヒ・V・シュトロハイム、ピーター・ヴァン・アイク
●「なりすまし」シュチュエーションをもうひと捻り活かして欲しかったが、シュトロハイムがロンメル将軍を威圧感たっぷりに演じる傍らでカンツォーネ好きのイタリア将校で笑わせる話術の巧さ。初期作品といわれる本作にもワイルダーのワイルダーたる真髄がある。期待に反した結末のシニカルさは戦時下であるゆえの致し方なさだったか。
◎新聞記者
2019.08.04 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン5 [1100円/113分]
【73】2019年フィルム・パートナーズ 監督:藤井道人 脚本:詩森ろば、高石明彦、藤井道人
CAST:シム・ウンギョン、松坂桃李、本田翼、岡山天音、郭智博、西田尚美、高橋和也、北村有起哉、田中哲司、望月衣塑子
●全国紙の社会部にしてあのスケール感はないし、内閣調査室の無機質な空間も何のカルカチュアライズだろうと思った。不気味なものを描こうとして不気味そうな演出を盛る。下手な映画の見本だ。しかし面白い。国家権力を相手に真実を追求しようとする日本映画を久々に観たし、そしてそれがエンターティメントになっているのが嬉しい。
◎失われた週末
2019.08.08 シネマヴェーラ渋谷 THE LOST WEEKEND [800円/99分]
【74】1945年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、チャールズ・ブラケット
CAST:レイ・ミランド、ジェーン・ワイマン、フィリップ・テリー、ハワード・ダ・シルヴァ、ドリス・ダウリング
●アルコール依存の地獄めぐりとしてとことん怖いワイルダーが現出し、一級の名作サスペンスになったのは間違いないが、実は、長い間に私の脳内で別のラストシーンが構築されて、幕が閉じた後、しばし呆気にとられていた。ワイルダーを愛するあまりどうやら想像が映画を越えてしまったらしい。その意味で不思議な映画体験だった。
※1947年キネマ旬報ベストテン第8位
◎アルキメデスの大戦
2019.08.11 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER [無料/130分]
【75】 2019ROBOT=東宝 監督:山崎貴 脚本:山崎貴
CAST:菅田将暉、柄本佑、舘ひろし、田中泯、浜辺美波、笑福亭鶴瓶、橋爪功、小林克也、小日向文世、國村隼、奥野瑛太
●海軍上層部たちの奇妙な軽さは気になったが、大和撃沈という史実をアバンタイトルでこれでもかと見せておいて、その帰結に向かい逆算しながら建造阻止に邁進する櫂と田中で惹きつけ、最後に平山中将の「日本人は・・・」の衝撃理論で一気に観客の思考を軌道修正させる。正直、山崎貴にここまでの演出、脚本術があるとは思わなかった。
◎地獄の英雄
2019.08.12 シネマヴェーラ渋谷 ACE IN THE HOLE [800円/111分]
【76】1951年アメリカ 監督:ビリー・ワイルダー 脚本:ビリー・ワイルダー、レッサー・サミュエルズ、W・ニューマン
CAST:カーク・ダグラス、リチャード・ベネディクト、ジャン・スターリング、ボブ・アーサー、ポーター・ホール
●罪と罰の物語としても、事件をセンセーショナルに喧伝するジャーナリズムとそれに群がる大衆の気持ち悪さ。マスメディアが誕生して以来の普遍といってしまえばそれまでだが、なんてシニカルな映画を撮ったものだと思う。記録的な不入りで当時のワイルダーが散々な目に遭ったのもわかるし、近年これが再評価されている現状もよくわる。
◎よこがお
2019.08.13 テアトル新宿 [1000円/111分]
【77】 2019製作委員会=KADOKAWA/監督:深田晃司 脚本:深田晃司
CAST:筒井真理子、市川実日子、池松壮亮、吹越徹、須藤蓮、小川未祐、大方斐紗子、川隅奈保子
●“無実の加害者”となった彼女に降りかかる非情な現実を描いたわけでもなく、単なる復讐の物語でもない。ひとえに筒井真理子という素材が不条理の中をどう泳ぎ得るのかを観察する映画ではなかったか。そんな作り手たちの欲求がインターホンやクラクションの破裂音と化して容赦なく我々をも衝く。これはかなりの問題作ではなかろうか。
※2019年キネマ旬報ベストテン第4位
◎存在のない子供たち
2019.08.14 新宿武蔵野館 CAPHARNAÜM کفرناحوم [1000円/125分]
【78】2018年レバノン=フランス 監督:ナディーン・ラバキー 脚本:ナディーン・ラバキー、ジハード・ホジェイリー他
CAST:ゼイン・アル・ラフィーア、ヨルダノス・シフェラウ、ボルワティフ・トレジャー・バンコレ、カウサル・アル=ハッダード
●こういう映画と対峙するには相応の覚悟がいる。しかしレバノンの現実は知らないし、中東の貧困も耳知識しかない。無知ゆえに衝撃に打ちのめされても、舞台が設定され、演出があり、台本に従って俳優たちが物語を進捗させる劇映画である以上、映画観賞者の矜持として、その現実の見せ方に先ずは賛辞の言葉を贈るべきではないだろうか。
◎アリーテ姫
2019.08.17-18 新文芸坐 [2600円/105分]
【79】 2001年STUDIO 4℃/監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)桑島法子、小山剛志、こおろぎさとみ、高山みなみ、沼田祐介、竹本英史、森訓久、陶山章央、長澄高士
●ポスタリゼーションのような背景使いは画面に不思議な厚みをもたらし、無知ゆえにタイトルから軽めの美少女アニメを想像していたのでまず重量と密度に驚いた。いや片渕須直は長編第一作にしてすでに熟練していた、いや老成していたとまでいってしまおうか。ただどの海外童話の映像化より“深い異国”を思い、畏怖感が拭えなかった。
◎マイマイ新子と千年の魔法
2019.08.17-18 新文芸坐 [ 〃 /93分]
【80】2009年マッドハウス=松竹 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)福田麻由子、水沢奈子、森迫永依、本上まなみ、松元環季、野田圭一、竹本英史、世弥きくよ、江上晶真
●今さら比べても意味はないが、本作は「魔女の宅急便」以降のすべてのジブリ映画より素晴らしいし面白い。というより今さら初見かよという話だが、ここまで地に足ついたアニメも珍しく新子、貴伊子、シゲル、ヒトシ、タツヨシみんな最高。さらに個人的不幸は直後に“このセカ”が上映されたこと。どこかの機会でもう一度観なければ。
◎この世界の片隅に
2019.08.17-18 新文芸坐 [〃 /126分] ※再観賞
【81】2016年製作委員会=東京テアトル 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、尾身美詞、細谷佳正、稲葉菜月、牛山茂、新谷真弓、小野大輔、岩井七世、潘めぐみ、小山剛志
●年末に長尺版で上書きされる前の最後の機会(?)のつもりでANに参加した。のんのナレーションが始まった瞬間から至福に包まれる。面白い、素晴らしい、すずさん凄すぎる。愛し、愛されることで途方もない高みに昇り続ける映画。もう確固たる評価が確立した後でも歯の浮くような賛辞を惜しむつもりはない。そういう映画だろう。
※2016年キネマ旬報ベストテン第1位
◎火口のふたり
2019.08.28 新宿武蔵野館 [1000円/115分]
【82】2016年製作委員会=ファントム・フィルム 監督:荒井晴彦 脚本:荒井晴彦
CAST:柄本佑、瀧内公美
●世代的に私の邦画観の形成に荒井晴彦の存在は小さくない。『赫い髪の女』の狂おしい絶頂感から40年、荒井は令和の時代に何ともチャームな性愛映画を見せてくれた。全編二人芝居、セックスしっぱなしの主演ふたり、とくに祐くんがチャーム。もう富士山噴火の突飛な設定すらもチャームだ。こんな映画、好きにならずにいられない。
※2019年キネマ旬報ベストテン第1位
◎アフリカの光
2019.08.30 神保町シアター [1300円/95分]
【83】1975年渡辺プロ=東宝 監督:神代辰巳 脚本:中島丈博
CAST:萩原健一、田中邦衛、桃井かおり、高橋洋子、藤竜也、峰岸徹、小池朝雄、絵沢萌子、藤原釜足、丘奈保美、藤原釜足
●グズグズな青春だと高校時代の同級生から知らされてから幾星相。ようやく念願かなっての観賞となったが、グズグズぶりは予想の斜め上を行っていた。まさに神代×ショーケンだから成立させられる世界観。北の港町のどうしようもない閉塞感を名手・姫田のカメラが雄弁に映し出す。“男マリリン”がアフリカで焼け死んでいなければよいが。
◎ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド
2019.09.15 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 ONCE UPON A TIME IN HOLLYWOOD [1100円/161分]
【84】2019年アメリカ 監督:クエンティン・タランティーノ 脚本:クエンティン・タランティーノ
CAST:レオナルド・ディカプリオ、ブラット・ピッド、マーゴット・ロビー、アル・パチーノ、マイケル・マドセン
●セルジオがレオーネではなくコルブッチだったのはニヤリ。サンプリングの達人が創造する60年代末期のハリウッドはたまらなく楽しい。そんな空気感のなかで「シャロン・テートを墓から救い出す」の宣言どおり、クエンティンは“猟奇事件の被害者”としてのみ語り継がれるシャロン・テートをハリウッド女優として再生させた。お見事。
※2019年キネマ旬報ベストテン第2位
◎ベニスに死す
2019.09.29 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン11 MORTE A VENEZIA/DEATH IN VENICE [1100円/131分]
【85】1971年イタリア=フランス 監督:ルキノ・ヴィスコンティ 脚本:ルキノ・ヴィスコンティ、ニコラ・バダルッコ
CAST:ダーク・ボガード、ビヨルン・アンデルセン、シルヴァーナ・マンガーノ、ロモロ・ヴァッリ、マーク・バーンズ
●美と芸術を追い求めながらもその崇高な思いと裏腹に俗物の一途を辿る男の哀しさ。その後のフィルモグラフィで高貴さに突き抜けていく手前で自己矛盾を晒した一番好きなヴィスコンティ作品だ。それにしても初老のはずだったアッシャンバッハが全然若いことに驚く。美と芸術は残酷な結果をもたらすが、それ以上に残酷なのは時の流れか。
※1971年キネマ旬報ベストテン第1位
◎時計じかけのオレンジ
2019.10.22 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 A CLOCKWORK ORENGE [1100円/136分] ※再観賞
【86】1971年イギリス=アメリカ 監督:スタンリー・キューブリック 脚本:スタンリー・キューブリック
CAST:マルコム・マクダウェル、パトリック・マギー、マイケル・ベイツ、マッジ・ライアン、フィリップ・ストーン
●イケイケの狂気に喝采した若い頃と比べ、明確にアレックスに「狩られる」齢となった今、迸るバイオレンスに逡巡しながら暴力を抑圧することが人権蹂躙とまでいえるのかとも思った。ただ映画で暴力を描く自由は永遠に担保されるべき。もちろんここまでのセンスと趣味の圧倒感は唯一無二。今さらながらキューブリックの凄まじさよ。
※1972年キネマ旬報ベストテン第4位
◎ジョーカー
2019.10.25 TOHOシネマズ新宿:スクリーン9 JOKER [無料/122分]
【87】2019年アメリカ 監督:トッド・フィリップス 脚本:トッド・フィリップス、スコット・シルバー
CAST:ホアキン・フェニックス、フランセス・コンロイ、ザジー・ビーツ、シャロン・ワシントン、ロバート・デ・ニーロ
●まだ少年と呼ばれていた頃、映画で目にしてきた荒廃した都会。あゝ旧ワーナーマークではないか。これはあの時代を生きたアーサーの哀しい叙事詩。翻弄され続ける悲しみに満ちている。正気と狂気、善と悪の単純二元論に逃げない絶妙の曖昧感。ブルース・ウェインなどお呼びでないリアルな世界観から浮かび上がる強烈なファンタジーだ。
※2019年キネマ旬報ベストテン第1位
◎蜜蜂と遠雷
2019.10.26 TOHOシネマズららぽーと横浜:PREMIER [無料/118分]
【88】2019年製作委員会=東宝 監督:石川慶 脚本:石川慶
CAST:松岡茉優、松坂桃李、森崎ウィン、鈴鹿央士、斉藤由貴、平田満、臼田あさ美、光石研、ブルゾンちえみ、鹿賀丈史
●正直、高を括っていた。最初こそピアノコンクールの説明ゼリフに苦笑いだったが、しかし「春と修羅」-カデンツァへと流れて月光の連弾に至ってすっかり物語に没入した。ここまで音楽と真摯に向き合った作り手とそれに応えた4人の演者たちの頑張り。いや映画そのものが高いハードルを次々と越えていく様を十分に楽しませてもらった。
※2019年キネマ旬報ベストテン第5位
◎イエスタデイ
2019.11.02 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 YESTERDAY [無料/117分]
【89】2019年イギリス 監督:ダニー・ボイル 脚本:リチャード・カーティス
CAST:ヒメーシュ・パテル、リリー・ジェームズ、ケイト・マッキノン、ジョエル・フライ、ジェームズ・コーデン
他人のレヴューはまったく見ていないが、おそらく大勢の人たちが「改めてビートルズは凄い」と思ったのではないか。殆どの曲が知られていて、殆どの曲が名曲で、全部の曲が古びていない。偽りの名声ではあるが本物の熱狂、ゆえに主人公が陥る罪悪感と喪失。結末を案じたが、海辺でのジョンとの出会いから爽やかな幕切れが嬉しかった。
◎テルマ&ルイーズ
2019.11.04 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン3 THELMA&LOUISE [1100円/130分]
【90】1991年アメリカ 監督:リドリー・スコット 脚本:カーリー・クーリ
CAST:スーザン・サランドン、ジーナ・デイヴィス、ハーヴェイ・カイテル、マイケル・マドセン、ブラッド・ピット
●荒野を疾走するロードムービーに女ふたりの逃避行。もう私の好き要素が満載過ぎてここまでビデオを見ずに溜めていたのだが、あまりに好み通りの展開にむしろ途惑ってしまった。悪くいえばヨーロッパ人が習作したアメリカンニューシネマで、若き日のリドリーはきっとこんな映画を撮りたかったのだろう。そんな思いが透けて見えた一本。
※1991年キネマ旬報ベストテン第4位
◎真 実
2019.11.04 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン3 LA VERITE [無料/108分]
【91】2019年フランス=日本 監督:是枝和弘 脚本:是枝和弘
CAST:カトリーヌ・ドヌーヴ、ジュリエット・ビノシュ、イーサン・ホーク、リュディヴィーヌ・サニエ
●ドヌーヴに目を奪われてしまうのは仕方ないが、そこにビノシュとイーサンもくっきり存在を刻んでくる。それでいて普通の是枝映画だった。しかし『海街diary』に遠く及ばないのは、いつもの是枝印をフランスで大スターを使って撮ることが目的化してしまい、パルムドールの次に進むべく歩みを止めてしまったこと。そこが物足りなかった。
◎マチネの終わりに
2019.11.06 TOHOシネマズ新宿:スクリーン5 [無料/123分]
【92】2019年フジテレビ=アミューズ=東宝 監督:西谷弘 脚本:井上由美子
CAST:福山雅治、石田ゆり子、桜井ユキ、伊勢谷友介、木南晴夏、風吹ジュン、板谷由夏、古谷一行
●東京、パリ、バルセロナ、ニューヨーク。時の移ろい、それぞれの家族と切ない悪意。多様な距離に阻まれながら惹かれ合うふたり。俗にいえば大人のラブストーリーであり、すれ違いメロドラマだが、少しの陳腐さがなく真っ直ぐに“俗”を貫いた。無料パスありきの観賞だったかもしれないが、石田ゆり子がここまで魅力的だったことに驚く。
◎ひとよ
2019.11.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン5 [無料/123分]
【93】2019年ROBOT=日活 監督:白石和彌 脚本:髙橋泉
CAST:佐藤健、田中裕子、鈴木亮平、松岡茉優、音尾琢真、筒井真理子、韓英恵、MEGUMI、浅利陽介、大悟、佐々木蔵之介
●個人的に今年のベスト級だと思った。母の背中に声をかける子供たちを一瞬躊躇させる悠然たる佇まい。夫の暴力から子供を守った一夜の出来事は、子供たちに父親殺しの汚名を着させないとの母の意志ではなかったかと想像している。ギリギリの家族再生を進行させながら、すべて田中裕子の掌で人気若手俳優たちが踊っていた映画でもある。
※2019年キネマ旬報ベストテン第7位
◎人情紙風船
2019.11.11 新文芸坐 [1150円/86分]
【94】1937年P.C.L=東宝 監督:山中貞雄 脚本:三村伸太郎
CAST:河原崎長十郎、中村翫右衛門、山岸しづ江、霧立のぼる、助高屋助蔵、市川笑太郎、加東大介、毛利三左衛門
●長屋という小宇宙で日々の喜怒哀楽を紡ぐ人々。82年前の映画から匂い立つ豊潤な人間群像と無常感。私自身としてはようやくスクリーンで山中貞雄・28歳の遺作に辿り着けた感慨でいっぱいなのだが、正直、一回の観賞で消化出来ていないもどかしさも感じている。今宵は水路を流れる紙風船に若くして逝った天才監督の成熟を偲ぶのみか。
※1937年キネマ旬報ベストテン第7位
◎戦国群盗伝
2019.11.11 新文芸坐 [ 〃 /115分]
【95】1959年東宝 監督:杉江敏男 脚本:山中貞雄、黒澤明
CAST:鶴田浩二、三船敏郎、志村喬、平田昭彦、河津清三郎、千秋実、司葉子、上原美佐、田島義文、小杉義男、堺左千夫
●山中貞雄のオリジナル脚色がどの程度なのか知る由もないが、黒澤明の潤色は明らかに三船に重きを置いたのではないか。本来、傍観者たる三船のとってつけたような見せ場が悪目立ちし、主役たる鶴田を殺してしまっている。メイクも気持ち悪ければ、演出もバランスを欠き、凡庸。そもそもロケ主体のウエスタン調時代劇は好きではない。
◎ターミネーター:ニュー・フェイト
2019.11.17 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン1 TERMINATOR: DARK FATE [無料/129分]
【96】2019年アメリカ 監督:ティム・ミラー 脚本:デヴィッド・ゴイヤー、ジャスティン・ローズ、ビリー・レイ
CAST:リンダ・ハミルトン、マッケンジー・デイヴィス、ナタリー・レヴェス、アーノルド・シュワルツェネッガー
●6本あるシリーズの1と2の正式な続編だそうだが、結局、未来からの刺客相手に戦うひな形は変えようがないのだから、あれとこれが繋がってどうのこうのと、そういうファンムービー的な理屈が私には邪魔くさい。ただクライマックスのアクションに飽きながらも60代のサラ・コナーとT800の和解が少し嬉しかったことは白状しておこう。
◎グレタ GRETA
2019.11.20 TOHOシネマズ新宿:スクリーン12 GRETA [無料/98分]
【97】2018年アイルランド=アメリカ 監督:ニール・ジョーダン 脚本:ニール・ジョーダン
CAST:イザベル・ユペール、クロエ・グレース・モレッツ、マイカ・モンロー、スティーヴン・レイ、コルム・フィオール
●96分の比較的タイトな上映時間でも戦慄の中に没入した96分間はしんどかった。そのしんどさが心地良いカタルシスとなったのも確かで、様々な批評はあるだろうが面白かった。サイコパスなストーカーは見てくれの怪物やマッドな科学者より、母性を持て余した孤独なおばさんこそが怖いのだ。黙って立っていられるだけでぞわぞわっと来る。
◎レオン <完全版>
2019.11.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 LEON [1100円/133分] ※再観賞
【98】1994年フランス=アメリカ 監督:リュック・ベッソン 脚本:リュック・ベッソン
CAST:ジャン・レノ、ナタリー・ポートマン、ゲイリー・オールドマン、ダニー・アイエロ、マイケル・バダルコ
●5年のスパンで再見し、ストーリーのハリウッド的な倫理観を抜きにしても実によく出来たアクションエンターティメントに仕上がっていることと、改めてキャスティングがこの映画を有名にしているのだと得心した。当時の観客に「この12歳の女の子と残忍な麻薬捜査官はともに将来オスカー俳優になる」と予言して、誰が疑うというのか。
◎アナと雪の女王2
2019.11.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 FROZEN 2 [無料/103分]
【99】2019年アメリカ 監督:クリス・バック、ジェニファー・リー 脚本:ジェニファー・リー
CAST:(声吹替)松たか子、神田沙也加、新津ちせ、黒川聖菜、原慎一郎、武内駿輔、松田賢二、吉田羊、余貴美子
●ディズニーの魔力なのか、巻末のトレードマークを見て初めてTDLに出掛けたときの多幸感が蘇る。決してアトラクションではなくショービジネスの絢爛さを体感した気分か。優秀なスタッフがディスカッションを重ねて作り上げた物語に欠点などあろう筈はないが、アレンデール王国の市井の人々の生活をもう少し描くべきだったとは思った。
◎明治侠客伝・三代目襲名
2019.11.25 新文芸坐 [1150円/90分] ※再観賞
【100】1965年東映 監督:加藤泰 脚本:村尾昭、鈴木則文
CAST:鶴田浩二、藤純子、津川雅彦、藤山寛美、嵐寛寿郎、大木実、安部徹、山城新伍、品川隆二、毛利菊枝、丹波哲郎
●川崎銀星座から41年。傑作任侠映画に対し随分とご無沙汰してしまった。意外と加藤泰はオーソドックスに物語を進行させていく。さすがに細かいディティールは忘れていたが、安部徹にとどめを刺そうとする鶴田を必死で止める純子さん、この瞬間、あゝ名作だなぁ、と思った。侠客・浅次郎と女郎・初栄の哀しい情愛はこの映画の白眉だ。
◎ゾンビランド:ダブルタップ
2019.11.26 TOHOシネマズ日比谷:スクリーン8 ZOMBIELAND: DOUBLE TAP [無料/99分]
【101】2019年アメリカ 監督:ルーベン・フライシャー 脚本:レット・リース、ポール・ワーニック、デイブ・キャラハム
CAST:ウディ・ハレルソン、ジェシー・アイゼンバーグ、エマ・ストーン、アビゲイル・ブレスリン、ビル・マーレイ
●B級テイストのゾンビものにしてはキャスティングが豪華だと思っていたら前作があったのか。そう私のゾンビへの知識などこんなものだ。血糊飛び散る殺戮場面のマジな禍々しさの一方で、保守オヤジのバークレーへの感情などアメリカ人には大ウケだろうなと想像しつつ、首がもげるコロムビア女神像の巻頭から笑わせてもらった。
◎さらば愛しきアウトロー
2019.11.28 早稲田松竹 THE OLD MAN & THE GUN [800円/93分]
【102】2018年アメリカ 監督:デビッド・ロウリー 脚本:デビッド・ロウリー
CAST:ロバート・レッドフォード、ケイシー・アフレック、シシー・スペイセク、ダニー・グローバー、トム・ウェイツ
●この邦題をつけた担当者も含め、70年代からずっと映画に寄り添ってきてこの映画をクサせる人などいるのだろうか。遠目のショットでは全盛期のシルエットのままの馬上のサンダンス・キッド。不細工なキャリーも愛らしい老女となり、自然と温かい眼差しで観てしまう映画。贅沢をいえば拳銃を撃つポーズは左手で決めてほしかったか。
◎緋牡丹博徒・花札勝負
2019.11.29 新文芸坐 [1150円/98分] ※再観賞
【103】1969年東映 監督:加藤泰 脚本:鈴木則文、鳥居元宏
CAST:藤純子、高倉健、若山富三郎、嵐寛寿郎、待田京介、山本麟一、小池朝雄、天津敏、沢淑子、汐路章、清川虹子
●もはや問答無用の加藤美学だが、長年にわたって『花札勝負』の素晴らしさに気付いていなかった我を恥じたい。思うに堀川端で純子さんが健サンに傘を手渡す場面の汽車の蒸気が舞う美しさにのみイメージを封じ込めていたのだろう。物語が展開するキレ味とスピード感にとことん唸らされた。シリーズ最高傑作の評価もアリかもしれない。
◎緋牡丹博徒・お竜参上
2019.11.29 新文芸坐 [ 〃 /99分] ※再観賞
【103】1970年東映 監督:加藤泰 脚本:鈴木則文、加藤泰
CAST:藤純子、菅原文太、若山富三郎、嵐寛寿郎、安部徹、長谷川明男、山岸映子、沢淑子、山城新伍、汐路章、近藤洋介
●昨日が文太の命日だった。もう5年も経つのか。こうして歳月は容赦なく過ぎていくが、あの日と変わらぬ矢野竜子がいて、青山常次郎がいる。雪の今戸橋も霞む凌雲閣も今何処だが、もしかしたら私の頭の中でずっと蜜柑は雪の上を転がり続けているのではないか。加藤泰の緻密な画面構成は語り草で、時間を超えたワタシの“絶対映画”の一本だ。
◎殺さない彼と死なない彼女
2019.12.01 109シネマズグランベリーパーク:シアター4 [1200/99分]
【105】2019年製作委員会=KADOKAWA 監督:小林啓一 脚本:小林啓一
CAST:間宮祥太朗、桜井日奈子、恒松祐里、堀田真由、箭内夢菜、ゆうたろう、金子大地、中尾暢樹、佐藤玲、森口瑤子
●とくに自己嫌悪に陥ることなく還暦カウントダウンのオヤジがティーン恋愛ムービーに笑わされ、泣かされた。全編に響く「殺すぞ」「死ね」「スキ」がなんて心地良いのだろう。それぞれの不器用なカップルたちが長回しで対峙する波乗的ヒリヒリ、ほんわかの結果、皆が愛おしくなった末に時系が整ってのエンドマーク。お見事でした。
◎アイリッシュマン
2019.12.07 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン7 THE IRISHMAN [1100円//209分]
【106】2019年アメリカ 監督:マーティン・スコセッシ 脚本:スティーブン・ザイリアン
CAST:ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシ、ハーヴェイ・カイテル、レイ・ロマノ、アンナ・パキン
●スコセッシがこの顔ぶれを揃えてのネット配信ドラマ。時代とはいえやっぱ劇場で観なきゃダメだろと3時間半を暗闇に身を沈めた。デ・ニーロとパチーノが何度も抱き合う場面の特別感に溜息が出たが。個人的にコッポラの「血族」、レオーネの「友情」を描く一大叙事詩に及ぶものではなく、「服従」というアプローチは正直きつかった。
※2019年キネマ旬報ベストテン第3位
◎”隠れビッチ” やってました。
2019.12.01 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 [1200円/112分]
【107】2019年キノフィルムズ 監督:三木康一郎 脚本:三木康一郎
CAST:佐久間由衣、森山未來、村上虹郎、大後寿々花、小関裕太、前野朋哉、片桐仁、前川泰之、渡辺真起子、光石研
●『殺さない彼と死なない彼女』のきゃぴ子を主役にしたようなヒロインも、同じ“恋愛アイデンティティ?”を描きながら、出だしの嫌な感じが最後は愛しくなるという着地点に到達しないのは、ひろみに感情移入させるだけの物語が希薄だからか。何度も重複するようなエピの末のエンドロール後の思わせぶりカットは頭にくるほど蛇足だった。
◎カツベン!
2019.12.17 109シネマズグランベリーパーク:シアター5 [1300円/126分]
【108】2019年アルタミラピクチャーズ=東映 監督:周防正行 脚本:片島章三
CAST:成田凌、黒島結菜、永瀬正敏、高良健吾、井上真央、音尾琢真、竹野内豊、竹中直人、小日向文世、池松壮亮
●古き活動大写真の物語を新装したばかりのシネコンで観る。つまらなくはなかったが周防正行ならもっと面白い映画に出来た筈。物語のテーマや仕掛けで傑作になる要素を随所に散りばめながら作品への目配せが信じ難いほど雑で、主人公たちに感情移入出来ず(成田凌は好演!)何かドタバタした印象。あゝまったくもって無念でござった。
◎屍人荘の殺人
2019.12.23 TOHOシネマズ新宿:スクリーン6 [1100円/119分]
【109】2019年製作委員会=東宝 監督:木村ひさし 脚本:蒔田光治
CAST:神木隆之介、浜辺美波、中村倫也、山田杏奈、池田鉄洋、佐久間由衣、塚地武雅、ふせえり、古川雄輝、柄本時生
●今村昌弘の原作を読んでなかったら観ない映画だった。ミステリ好きでありながら著しく本格読みのリテラシーに欠ける私ゆえ、ロジックを補完するつもりで映画舘に行ったのだが、結局こんなものかと思った。全編に散らされた小ネタが五月蠅く、本来なら映像の独壇場であるはずのソンビの襲来も拍子抜け。所詮はテレビドラマの水準か。
◎この世界の(さらにいくつもの)片隅に
2019.12.25 テアトル新宿 [1200円/168分]
【110】2019年製作委員会=東京テアトル 監督:片渕須直 脚本:片渕須直
CAST:(声)のん、岩井七世、花澤香菜、細谷佳正、尾身美詞、稲葉菜月、小野大輔、潘めぐみ、牛山茂 、新谷真弓
●間違いなく傑作だろう。すでに多くの人たちが語るように、単なる長尺版ではなく違う映画に生まれ変わっている。健気なすずさんが生身の感情を見せたことでより彼女を好きになれるだろうし、リンさんやテルさんとの触れ合いから否応なく浮かび上がる戦時の女たちが胸を衝く。悲しいだけの映画ではない。しかし愛おしくも悲しい。
◎宮本から君へ
2019.12.26 角川シネマ有楽町 [1100円/129分]
【111】2019年フィルムパートナーズ=KADOKAWA 監督:真利子哲也 脚本:真利子哲也、港岳彦
CAST:池松壮亮、蒼井優、井浦新、一ノ瀬ワタル、柄本時生、ピエール瀧、星田英利、古舘寛治、佐藤二朗、螢雪次朗
●上映館数も多くなく、大ヒットしたとの話も聞かない。しかし絶好調の日本映画を象徴する一本だ。前作以上に細かい映画的作法などぶっ飛ばす真利子演出の熱量。身体を張りゃいいってもんでもないが、池松壮亮と蒼井優の血と涎と鼻水塗れの怒号、罵声、絶叫に彩られた熱演に理屈は要らない。仇花で終わらすにはあまりに無念すぎよう。
※2019年キネマ旬報ベストテン第3位
◎邪魔者は殺せ
2019.12.27 シネマヴェーラ渋谷 ODD MAN OUT [800円/117分]
【112】1947年イギリス 監督:キャロル・リード 脚本:F・L・グリーン、R・C・シェリフ
CAST:ジェームズ・メイスン、キャスリーン・ライアン、ロバート・ニュートン、ロバート・ビーティ、F・J・マッコーミック
●瀕死の逃亡者ジョニーと彼を探すキャスリーン。巻き込まれる人々の人間模様。通俗的なノワールストーリーを包み込む芸術性。なんという豊潤。まったく娯楽作品の理想郷ではないか。ある時代の悲劇を描きつつ、エンドマークで胸に沸き立ってくるカタルシス。あゝC・リード、どこまで素晴らしいのか。年の瀬に117分の至福を噛みしめた。
※1951年キネマ旬報ベストテン第5位
◎スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け
2019.12.28 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン1 STAR WARS:THE RISE OF SKYWALKER [1100円/142分]
【113】2019年アメリカ 監督:J・J・エイブラムス 脚本:J・J・エイブラムス、クリス・テリオ
CAST:デイジー・リドリー、アダム・ドライバー、ジョン・ボイエガ、オスカー・アイザック、マーク・ハミル
●パルパティーンって誰だっけ?レイ、レンにレイアの区別もままならないボンクラで、少年ジャンプを拾読みしている程度の感想しかないが、シリーズすべてを封切りで観てきた42年間の感慨がないわけでもない。クライマックスでジョン・ウィリアムスのテーマが鳴った瞬間、相変わらず溢れてくるテキトーな涙線には我ながら呆れ返った。
◎ショーシャンクの空に
2019.12.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 THE SHAWSHANK REDEMPTION [1100円/143分] ※再観賞
【114】1994年アメリカ 監督:フランク・ダラボン 脚本:フランク・ダラボン
CAST:ティム・ロビンス、モーガン・フリーマン、ボブ・ガントン、ジェームズ・ホイットモア、クランシー・ブラウン
●「午前十時の映画祭」で初めてのリピート。もう10年が経つ。大筋はわかっていたが、場面として記憶に残っていたのは数カットにすぎなかった。ことほど左様に記憶力劣化は悲惨の一途を辿っているが、間違いなく秀作であるものの「上手すぎる映画」という印象はそのままで、この作品から“伏線回収信仰”が生まれたのではないかと思う。
※1995年キネマ旬報ベストテン第1位
◎燃えよスーリヤ!!
2019.12.30 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン9 THE MAN WHO FEELS NO PAIN [1100円/138分]
【115】2019年インド 監督:ヴァーサン・バーラー 脚本:ヴァーサン・バーラー
CAST:アビマニュ・ダサーニー、ラーディカ―・マダングル、シャン・デーヴァイヤー、マヘーシュ・マーンジュレーカル
●『バーフバリ』ばりのハイテンション活劇が堪能できるかと期待したが、超高速撮影の垂れ流しと珍妙なカット割りにズッコケ、あまりに緩いストーリーに138分の大半を睡魔と闘うハメとなった。世界中でブルース・リーのリスペクトが棲息している事実には感心したものの、インド映画とはいえこの内容で138分はなんぼなんでも長すぎる。
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