●2020年(令和2年)
◎男はつらいよ・お帰り 寅さん
2020.01.01 109シネマズグランベリーパーク:シアター3 [1200円/116分]
【01】2019年松竹 監督:山田洋次 脚本:山田洋次、朝原雄三
CAST:渥美清、吉岡秀隆、後藤久美子、倍賞千恵子、前田吟、桜田ひより、桑田圭祐、浅丘ルリ子、夏木マリ、池脇千鶴
●80年代の前半、正月一発目は『男はつらいよ』が定番だった。それにしても泣けた泣けた。『ニュー・シネマ・パラダイス』ばりの歴代マドンナ矢継ぎ早カットには帰りに寄った牛丼屋で思い出し泣きし大いに困った。今まで寅さん観て落涙した記憶などないのだが・・・。また核となる満男と泉のエピも中年同士の淡い恋物語として悪くない。
◎THE INFORMAR/三秒間の死角
2020.01.02 フォーラム福島 THE INFORMAR [1300円/113分]
【02】2019年アメリカ=イギリス=カナダ 監督:アンドレア・ディ・ステファノ 脚本:M・クック 、ローワン・ジョフィ他
CAST:ジョエル・キナマ、ロザムンド・パイク、コモン、クライヴ・オーウェン、アナ・デ・アルマス、カーマ・メイヤー
●「特殊部隊に従軍経歴あり」は主人公が死線を潜り抜ける免罪符として都合がいいのか、ずっと便利に使われ続けている。それでもSWやアナ雪、MCUが映画界のメインストリートであるならば、その周辺にこの手の映画ががっつり存在していなければスクリーンはいつか死ぬ。そうニューヨークにはいつまでもヤバさを孕んでいて欲しいのだ。
◎パラサイト 半地下の家族
2020.01.11 109シネマズグランベリーパーク:シアター1 기생충 PARASITE [1300円/132分]
【03】2019年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン
CAST:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
●予測不可能な物語のラストはギウの妄想か?否、そうではあるまい、あれはおそらく現実、実現だろう。ともかくこれが噂のポン・ジュノか!ホント凄ゲーと思った。上へ下へ、半地下へと終始揺さぶられまくった。格差社会のコントラストをこれでもかとベタに笑わせ、衝撃に慄かされる。もはや世界最高峰のエンターティメントか。
※2020年キネマ旬報ベストテン第1位
◎㊙女郎責め地獄
2020.01.12-13 新文芸坐 [2300円/77分] ※再観賞
【04】1973年日活 監督:田中登 脚本:田中陽造
CAST:中川梨絵、山科ゆり、あべ聖、薊千露、絵沢萌子、堂下繁、織田俊彦、長弘、小泉郁之助、高橋明
●動の中川梨絵と静の山科ゆり。その対比も含む人形浄瑠璃とロマンポルノの融合に高校生は難解で前衛的だと思った。結局精一杯の背伸びと知ったかぶりが相塗れる観賞になったが、今も義太夫の知識はなく未だに田中登の演出意図は汲めきれていない。ただ長屋襖ぶち抜き横移動など日活撮影所の美術スタッフの素晴らしさは激しく讃えたい。
◎㊙色情めす市場
2020.01.12-13 新文芸坐 [ 〃 /83分] ※再観賞
【05】1974年日活 監督:田中登 脚本:いどあきお
CAST:芹明香、夢村四郎、宮下順子、花柳幻舟、萩原朔美、岡本彰、絵沢萌子、小泉郁之助、庄司三郎、榎木兵衛、坂本長利
●例えば実夫の通天閣からのニワトリ飛ばし、商店街のトメからの視点と実夫からのトメへの大胆な主観の交換。ダッチワイフで自爆する遠景からの定点ショット。4回目40年ぶりの再会はいちいち凄すぎた。格差社会の底辺で喘ぎながら「だから?」と受け入れる諦観の美しさ。当時でしか撮れない人間讃歌であるが故、永遠の名作になった。
◎江戸川乱歩猟奇館 屋根裏の散歩者
2020.01.12-13 新文芸坐 [ 〃 /76分] ※再観賞
【06】1976年日活 監督:田中登 脚本:いどあきお
CAST:石橋蓮司、宮下順子、夢村四郎、渡辺とく子、八代康二、織田俊彦、長弘、中島葵、田島はるか、秋津令子、水木京一
●一定の評価はされた。ただ大正デモクラシーの爛熟した世相から醸されるアバンギャルドなエロスを、どん底の喘ぎと諦観から一転してブルジョワジーたちの愉悦を乱歩調に落とし込んだ田中登には初見から違和感はあった。人の腐臭を排除し芳香を前面に描くが屋根裏の散歩者にも人間椅子にも様式以外のアプローチがあってもよかった。
※1976年キネマ旬報ベストテン第10位
◎人妻集団暴行致死事件
2020.01.12-13 新文芸坐 [ 〃 /96分] ※再観賞
【07】1978年日活 監督:田中登 脚本:佐治乾
CAST:室田日出男、黒沢のり子、古尾谷雅人、志方亜紀子、日夏たより、深見博、酒井昭、岡本麗、小松方正、岡麻美
●この年の主演賞の殆どを高倉健が持っていってしまったが、私は今も頑なに室田日出男こそ絶対だったと信じている。地方新聞に報じられる痴情事件を加害者と被害者を共有させ70年代の荒っぽい人間群像とした田中登は素晴らしいが、逮捕から復帰した室さんの演技にただ茫然とした40年前。今もその感慨が蘇って涙が出そうだった。
※1978年キネマ旬報ベストテン第9位
◎午前0時、キスしに来てよ
2020.01.13 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1100円/113分]
【08】2019年フジテレビ=松竹=講談社 監督:新城毅彦 脚本:大北はるか
CAST:橋本環奈、片寄涼太、眞栄田郷敦、八木アリサ、岡崎紗絵、鈴木勝大、酒井若菜、野田理人、内藤秀一郎、遠藤憲一
●昨年のベスト『殺さない彼と死なない彼女』ですっかりティーンムービー侮り難しとなったものの、始まりの3分で席を立ちたくなる。テレビならチャンネルを替えていたはずだ。それでもシンデレラストーリーのお約束でそれなりに最後は大団円感を満喫したと思う。ポン・ジュノ、田中登とヘビーな観賞が続き、箸休め的なリセットにはなった。
◎音 楽
2020.01.15 新宿武蔵野館 [1100円/71分]
【09】2019年ロックンロール・マウンテン 監督:岩井澤健治 脚本:岩井澤健治
CAST:(声)坂本慎太郎、駒井蓮、前野朋哉、芹澤興人、平岩紙、山本圭祐、姫乃たま、天久聖一、竹中直人、岡村靖幸
●熱狂?の噂を聞きつけて劇場へ。なるほど古武術の奏でるシュールなサウンドも古美術のフォークも気に入った。もう一度聴きたくなるし、研二のリコーダーも素晴らしい。ただ演奏する側はさぞ気持ち好いのだろうとバンドを組めなかったこちらとの温度差は薄っすら感じる。さてインディーズに留まることの自由さまで評価すべきかどうか。
◎フォードvsフェラーリ
2020.01.18 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン6 FORD V. FERRARI [1100円/153分]
【10】2019年アメリカ 監督:ジェームズ・マンゴールド 脚本:ジェズ・バターワース、ジェイソン・ケラー
CAST:マット・デイモン、クリスチャン・ベール、ノア・ジュープ、カトリーナ・バルフ、ジョン・バーンサル
●フォードが勝って万々歳で、レースの昂揚感とともにアメリカ人が留飲を下げる用の映画だと思っていたことをマンゴールドに詫びねばなるまい。様々な思惑が交錯する人間ドラマであり、シェルビーとマイルズの友情、技術者たちの心意気、そしてそれらすべてを呑み込もうとする資本論理。かくも “誇り高き戦い”は崇高であったことか。
※2020年キネマ旬報ベストテン第7位
◎リチャード・ジュエル
2020.01.19 TOHOシネマズ新宿 スクリーン5 RICHARD JEWELL [無料/131分]
【11】2019年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ビリー・レイ
CAST:ポール・ウォルター・ハウザー、サム・ロックウェル、キャシー・ベイツ、オリヴィア・ワイルド、ジョン・ハム
●例によって抜群の演出テンポで限りない満足度へと持っていかれるが、リチャードに容疑を仕掛けたFBIとメディアが「法執行官への憧れ」というロジック一点張りだったことと、公衆電話のアリバイで無罪を確信する程度の稚拙さが気になった。それでも熟練の手腕に抗いようがなく、あっけなく語り口の気持ちよさに乗せられてしまうのだが。
◎ジョジョ・ラビット
2020.01.23 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8 JOJO RABBIT [1100円/109分]
【12】2019年アメリカ 監督:タイカ・ワイティティ 脚本:タイカ・ワイティティ
CAST:ローマン・グリフィン・デイビス、レベル・ウィルソン、サム・ロックウェル、スカーレット・ヨハンソン
●ヒトラーの妄想を拠り所にするジョジョが、偽ネイサンを創造しユダヤ娘との距離を詰めながら自我に目覚め、やがて手榴弾自爆のドジはラストで少女の平手打ちを受け入れる度量を身につけていく。ただナチの戦争と子供の成長を絡めて描くならアメリカ視点ではなく、ドイツ映画で観たかった。といってしまうと身も蓋もないのだろうか。
◎CATS キャッツ
2020.01.24 109シネマズグランベリーパーク:シアター1 CATS [1300円/109分]
【13】2019年イギリス=アメリカ 監督:トム・フーパー 脚本:トム・フーパー、リー・ホール
CAST:フランチェスカ・ヘイワード、ジェームズ・コーデン、ジェニファー・ハドソン、テイラー・スウィフト、ジュディ・デンチ
●結構、楽しめた。劇団四季の舞台を思い出す限りジェニファー・ハドソンは肉感過ぎてグリザベラのイメージではなかったものの“memory”の熱唱で持っていくし、ジュディ・ディンチのオールドデュトロノミーはさすがの貫禄だ。確かにCGIなど使わずフルメイクでやるべきだったが、空前の悪評でも言われるほど気持ち悪くはなかった。
◎ダンス・ウィズ・ウルブス
2020.01.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 DANCES WITH WOLVES [1100円/181分]
【14】1990年アメリカ 監督:ケビン・コスナー 脚本:マイケル・ブレーク
CAST:ケビン・コスナー、メアリー・マクドネル、グラハム・グリーン、ロドニー・A・グラント、ロバート・パストレリ
●異なる文化が手探りで交流していく過程の話は好きだ。逆に事が起こり主人公がその異社会に板挟みになるドラマトゥルギーに向かうのを観るのは辛い。しかし当時のコスナーの時代の勢いなのか、どちら側の人間なのかのアイデンティに葛藤することなく早々に決着し、勧善懲悪に徹したのは映画的にも潔かった。まさに見応え十分な3時間。
※1991年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ロマンスドール
2020.01.26 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 [1300円/123分]
【15】2019年製作委員会 監督:ダナダユキ 脚本:タナダユキ
CAST:高橋一生、蒼井優、きたろう、ピエール瀧、浜野謙太、三浦透子、渡辺えり、大倉孝二
●男と女とラブドール。昔なら小沼勝が倒錯ポルノで腕をふるう題材だが、人形は芸術として暗いアトリエで生み出されるのではなく、夫婦愛の結実として職人が工場で生産する。女性監督の目利きなのか高橋一生という薄めのキャラを配することでまたも熱演に走り勝ちな蒼井優を巧みに中和する。本音は心地良さより情念ギタギタが好きだが。
◎ラストレター
2020.01.31 109シネマズグランベリーパーク:シアター4 [1300円/121分]
【16】2020ロックウェルアイズ=東宝 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:松たか子、福山雅治、広瀬すず、森七菜、神木隆之介、豊川悦司、中山美穂、庵野秀明、木内みどり、小室等
●ひとりひとりの最後で絶版本「未咲」にサインが記されるたび、死者の人生が鮮やかに浮かび上がっていく。空撮とハンディカメラの揺らぎが未咲の視点であると気づいた時には岩井ワールドに取り込まれ、スマホ破壊から始まる往復書簡で『Love Letter』の再現と思いきや、豊悦=中山は無頼からの矜持を主人公に突き刺す。さすが岩井俊二。
◎AI崩壊
2020.02.01 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 [1200円/131分]
【17】2020日テレ=ワーナー 監督:入江悠 脚本:入江悠
CAST:大沢たかお、賀来賢人、広瀬アリス、岩田剛典、髙嶋政宏、芦名星、玉城ティナ、余貴美子、松嶋菜々子、三浦友和
●ダメだなと思う部分は少なくない。「緩急」でいえば緩すぎるし急ぎ過ぎている。しかし我々が日本の近未来SF映画のチャチさやチープさに何度も目をつむってきたそれではなく、忖度なく堂々と批評の土俵に上がる一本が生まれたことに刮目すべきだ。膨大なニュース映像を駆使した入江スタイルはついに確立されたと見ていい。
◎家族を想うとき
2020.02.01 ヒューマントラストシネマ有楽町 SORRY WE MISSED YOU [1200円/100分]
【18】2019年イギリス=フランス=ベルギー 監督:ケン・ローチ 脚本:ポール・ラヴァティ
CAST:クリス・ヒッチェンズ、デビー・ハニーウッド、リス・ストーン、ケイティ・プロクター、ロス・ブリュースター
●家族のため頑張るほど疲弊し借金を膨らませ家族と遠ざかっていく。観ていてつらい映画だが、それでもこんなに面白いのはケン・ローチが社会問題を声高に訴えるのではなく、小さな家族の出来事として夫婦や親子の機微の中で巧みにそれを描いているからだ。しかし彼らに過酷な労働を強いる利便性を欲求しているのは我々であるのだけど。
※2019年キネマ旬報ベストテン第6位
◎9人の翻訳家/囚われたベストセラー
2020.02.02 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン8 LES TRADUCTEURS [1100円/105分]
【19】2019年フランス=ベルギー 監督:レジス・ロワンサル 脚本:レジス・ロワンサル
CAST:ランベール・ウィルソン、オルガ・キュリレンコ、エデュアルド・ノリエガ
●“あなたはこの結末を「誤訳」する” なんて気の利いたコピーだ。世界同時出版のため各国の翻訳家を密室に隔離するのが実話というのも凄いが、ミスリードを重ねて観客を騙す鮮やかな構成がオリジナル脚本であることに驚かされる。完全に翻弄された。入替制でなければ二度観たろう。ただ9人の翻訳メンバーに日本人がいないのは寂しかった。
◎ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密
2020.02.02 109シネマズグランベリーパーク:シアター7 KNIVES OUT [1300円/131分]
【20】2019年アメリカ 監督:ライアン・ジョンソン 脚本:ライアン・ジョンソン
CAST:ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンス、アナ・デ・アルマス、ジェイミー・リー・カーティス、クリストファー・プラマー
●ミステリーを立て続けに観る。富豪の遺産相続をめぐる“事件”ではあるのだが、事件の骨格が曖昧なまま進行する構成がユニーク。饒舌なD・クレイグのお茶目な名探偵も楽しいし、登場する家族たちも俗物揃いで笑ってしまう。そもそも嘘をつくとゲロを吐くヒロインって何?それでいてきちんと本格推理ものになっているから大したものだ。
◎パリの恋人たち
2020.02.06 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 L'HOMME FIDÈL [1100円/75分]
【21】2018年フランス 監督:ルイ・ガレル 脚本:ジャン=クロード・カリエール、ルイ・ガレル
CAST:ルイ・ガレル、レティシア・カスタ、リリー=ローズ・デップ、ジョゼフ・エンゲル
●ベタだが突き放した邦題。冒頭のエッフェル塔を入れ込んだ空撮からのパリはモンマルトルもモンパルナスでもないありふれた下町。西成の安宿から見る通天閣の街並みと大差ないではないか。これは視点を引きながら観察する映画なのだと思ったが、映画が感情移入の産物だとすれば4人の主要登場人物の誰一人も好きになれず、大いに困った。
◎殺人の追憶
2020.02.09 シネマート新宿 살인의 추억 [1300円/130分]
【22】2003年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、シム・ソンボ
CAST:ソン・ガンホ、キム・サンギョン、キム・レハ、ソン・ジェホ、ピョン・ヒボ、パク・ノシク、パク・ヘイル、チョン・ミソン
●暴力的で足癖の悪いチョ刑事がその足を切断する羽目となる皮肉。それに象徴される捜査の迷走がブラックな笑いを孕みながら、次第に漆黒の闇に覆われる過程で観る者を没入させていく。公開から年月を経て追憶の二重構造となった作品だが、すでにポン・ジュノの語りの巧さは抜群で、『パラサイト』と比べてもまったく遜色がない。
※2009年キネマ旬報ベストテン第2位
◎母なる証明
2020.02.12 シネマート新宿 마더 [1000円/129分]
【23】2009年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:パク・ウンギョ、ポン・ジュノ
CAST:キム・ヘジャ、ウォンビン、チン・グ、ユン・ジェムン、チョン・ミソン、チョン・ウヒ、ソン・セビョク、パク・ミョンシン
●私は日本語字幕のフィルターを通してこの映画と対峙するわけだが、もし韓国語を解したとして、彼らの怒号や絶叫を受け止める体力があるかどうか。母性の暴走と言えばそれまでだが「今、何を見せられているのか」「この先どこに連れていかれるのか」との不安がいつしか圧倒感となっていく。まさかオスカーは快挙ではなく必然だったか。
※2004年キネマ旬報ベストテン第2位
◎続・荒野の用心棒 <デジタル・リマスター版>
2020.02.14 シネマート新宿2 DJANGO [1300円/93分] ※再観賞
【24】1966年イタリア 監督:セルジオ・コルブッチ 脚本:セルジオ・コルブッチ、フランコ・ロゼッティ、ホセ・G・マエッソ
CAST:フランコ・ネロ、ロレダーナ・ヌシアク、エドゥアルド・ファヤルド、ホセ・ボダロ、アンジェル・アルバセス
●もうそれこそ12歳の頃から殺戮・残酷・爽快・陶酔の男騒ぎの傑作だと決めつけていたが、最後に1ショット1キルを果たしたジャンゴが一人孤独に吊り橋を渡ったのではなく、酒場に残したマリアを迎えに戻ったのではないかと、墓標にぶら下がった血塗れの拳銃に思いを馳せたとき、心の底からこの映画に「愛」を抱いている自分に気がついた。
◎1917 命をかけた伝令
2020.02.15 109シネマズグランベリーパーク:シアター1 1917 [無料/119分]
【25】2019年アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:サム・メンデス、クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
CAST:ジョージ・マッケイ、ディーン=チャールズ・チャップマン、コリン・ファース、ベネディクト・カンバーバッチ
●映画のスピード感はカットを刻むことで得られる。そんな固定概念がひっくり返った。更に「彼」になりきるのではなく、むしろ引きながら「彼」を追う神視点になることで戦場の狂気が浮かび上がる。最前線に近づくにつれ悲惨な様相となる塹壕の臨場感の凄まじさ。この見事な実験は戦闘ゲームモードの一歩手前で「心」まで獲得している。
※2020年キネマ旬報ベストテン第9位
◎阪神タイガース THE MOVIE ~猛虎神話集~
2020.02.19 TOHOシネマズ新宿:スクリーン8 [1900円/97分]
【26】2020年製作委員会=KADOKAWA 監督:石橋英夫 脚本:(ドキュメンタリー)
CAST:掛布雅之、岡田彰布、矢野燿大、江夏豊、田淵幸一、藤川球児、近本光司、佐藤隆太、松村邦洋、千秋、石坂浩二
●球団創設85周年記念ドキュメンタリーと銘打っているが、とても映画館で見せる代物ではない。村山も小山も完全スルーでテレビの特集にも劣る安易さ。映像ソースに乏しく神宮の胴上げすらない。唯一、江夏の俺様エピソードは面白いが、道化を引き受けた掛布が気の毒すぎた。それでも見るという全国の虎党よ、ムダ金使う覚悟はしておけ。
◎スキャンダル
2020.02.21 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 BOMBSHELL [1300円/109分]
【27】2019年アメリカ 監督:ジェイ・ローチ 脚本:チャールズ・ランドルフ
CAST:ニコール・キッドマン、シャーリーズ・セロン、マーゴット・ロビー、ジョン・リスゴー、マルコム・マクダウェル
●セクハラ訴訟の行方は極端なフェミ女が出てこないのが救いだったが、それより巨大メディアの堂々たる共和党偏向と上層部のキャスターへの軋轢の凄まじさをFOX、ロジャー、ルパード、グレッチェン、メーガンと実名で展開させるハリウッドの懐に驚く。仮名で逃げる日本はジャーナリズム、エンターティメントの双方で到底敵わない。
◎不良番長・一網打尽
2020.02.22 新文芸坐 [1150円/88分]
【28】1972年東映 監督:野田幸男 脚本:松本功、山本英明
CAST:梅宮辰夫、藤竜也、山城新伍、ひし美ゆり子、真理アンヌ、安岡力也、鈴木ヤスシ、室田日出男、内田朝雄、八名信夫
●新文芸坐「さらば銀幕の番長」梅宮辰夫・追悼上映。辰アニィがツルむまでの一匹狼ふりがあまりにカッコよくて馴れ合いの徒党じゃなくてシリーズ異色作で最後まで通しても良かったのではないか。と今更思ってしまう。パトカーの天井に飛び乗って逃げるくだりには驚いたが、最後の「終」の顔出し看板での山城新伍との掛け合いは爆笑。
◎不良番長・突撃一番
2020.02.22 新文芸坐 [ 〃 /88分]
【29】1971年東映 監督:野田幸男 脚本:松本功、山本英明
CAST:梅宮辰夫、渡瀬恒彦、山城新伍、地井武男、安岡力也、鈴木ヤスシ、夏純子、藤原釜足、安部徹、小林千枝、佐山俊二
●量産の東映とはいえ、よくもまぁ4年間で16本、ここまで低偏差値のハチャメチャな映画を量産したものだと思う。本番と空日の宴会との境がないような仲間同士のじゃれ合いは観客より演者たちの方が楽しく遊んでいる風でもあり、きっとストーリーや演技より、彼らの宴会の様子を傍から呆れながら観て楽しむ映画なのだ。さらば辰アニイ。
◎37セカンズ
2020.02.22 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン10 [無料/115分]
【30】2019年ノックオンウッド 監督:HIKARI 脚本:HIKARI
CAST:佳山明、神野三鈴、大東駿介、渡辺真起子、熊篠慶彦、萩原みのり、芋生悠、渋川清彦、板谷由夏、尾美としのり
●せっかく「障碍者と性」を革新的に描くのなら、ユマちゃんには処女喪失まで完結して欲しかったと思いながら、彼女の心の機微や揺らぎを逃すまいと、車椅子のモーター音を追いかけていた。そしてその追いかけた時間のなんと豊潤だったことか。誰の人生にも37秒の淀みはあるのだと主演の佳山明に教えられる。間違いなく今年のベスト級。
※2020年キネマ旬報ベストテン第6位
◎影 裏
2020.02.23 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1300円/135分]
【31】2020年製作委員会 監督:大友啓史 脚本:澤井香織
CAST:綾野剛、松田龍平、筒井真理子、中村倫也、平埜生成、國村隼、永島暎子、安田顕
●原作は既読。映画は悪くはないがそれほど良くもない。乱暴な持論だが芥川賞受賞作を直木賞受賞作のように撮るのが理想的な映画のエンタメ性だと思っているので、綾野剛と松田龍平の並びですでにエンタメは担保されていたと思う。ニジ鱒の暗喩も巧い。しかし綾野が松田に接吻を仕掛ける場面、そんな画を欲しがりがちな映像の蛇足だ。
◎ダ ニ
2020.02.25 新文芸坐 [無料/82分]
【32】1965年東映 監督:関川秀雄 脚本:下飯坂菊馬
CAST:梅宮辰夫、北あけみ、杉浦直樹、大原麗子、香月美奈子、金子克美、宮園純子、大村文武、石橋蓮司、室田日出男
●銀座の女たちとそれを食い物にする男の業を描くいくつかの名作とは比べられないものの、予想したより遥かに面白かった。名手・中沢半次郎がモノクロで捉えた当時の銀座に辰兄いの硬質感のアンサンブルが効いている。私が辰兄いを知ったときは既にスケコマシキャラから卒業していたが、なるほどこれが梅宮辰夫か!と大いに納得した。
◎か も
2020.02.25 新文芸坐 [ 〃 /81分]
【33】1965年東映 監督:関川秀雄 脚本:成澤昌茂
CAST:梅宮辰夫、緑魔子、大原麗子、原知佐子、北原しげみ、小針恵美子、程田光春、蜷川幸雄、浦辺粂子、石橋蓮司
●やってることは通俗的ドラマだが、例によって女達を次々とカモっていく辰兄いのイケイケぶりと、アングライメージ以前の緑魔子のキュートさが映画を面白くしている。いや、意外にも東映女優陣が全員可憐。カネの亡者が蠢くドロドロした世界も、悲壮感ベッタリでないのは関川秀雄の乾いた演出と彼女たちの可憐さに寄る処が大きい。
◎初 恋
2020.03.01 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 [1200円/115分]
【34】2020年製作委員会=東映 監督:三池崇史 脚本:中村雅
CAST:窪田正孝、小西桜子、大森南朋、染谷将太、ベッキー、村上淳、三浦貴大、滝藤賢一、ベンガル、塩見三省、内野聖陽
●誰が得しているのかさっぱりわからないタイトル。ヤクザと中華マフィアの抗争劇だが、途中まで、よもやの大傑作?と、思っていたら、みるみる三池クォリティに収斂する。つまりは滅法面白れー映画だったということ。脇役たちが振り切った演技を嬉々としてやってる風でもあり、それがストレートに映画のテンションに直結し楽しめた。
◎Fukushima50
2020.03.06 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 [1300円/122分]
【35】2020年松竹=KADOKAWA 監督:若松節朗 脚本:前川洋一
CAST:渡辺謙、佐藤浩市、吉岡秀隆、安田成美、緒形直人、火野正平、平田満、佐野史郎、段田安則、篠井英介、吉岡里帆
●真実より描写を盛り上げるための小芝居・大芝居。そして怒号、絶叫に浪花節。驚きの勧善懲悪。実際の福島第一のリアルは知る由もないが、本当にこんな現場だったのか。ただ海外メディアが呼んだ“Fukushima50”をまとも紹介していない日本のメディアはどうかしている。彼らの献身的な英雄譚を伝えたことにこの映画の価値はあるのか。
◎星屑の町
2020.03.07 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン9 [1100円/102分]
【36】2020フィルムパートナーズ 監督:杉山泰一 脚本:水谷龍二
CAST:のん、太平サブロー、ラサール石井、小宮孝泰、渡辺哲、でんでん、有薗芳記、菅原大吉、戸田恵子、小日向星一
●舞台の軽喜劇のノリで、おやじギャグが続き昔の添え物モノ映画を思い出したが、広島出張から岩手に戻ってきた東北弁のんを眺めているのが嬉しくて、大抵のことは呑み込めた。彼女の特異な艱難辛苦を経た勝気な根性がこの映画で見事に生きた。実はムード歌謡の字幕付きの歌詞も日本映画の歌謡曲映画の系譜を思い出して懐かしかった。
◎パラサイト 半地下の家族
2020.03.13 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 기생충 PARASITE [1100円/132分] ※再観賞
【37】2019年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ハン・ジヌォン
CAST:ソン・ガンホ、イ・ソンギュン、チョ・ヨジョン、チェ・ウシク、パク・ソダム、イ・ジョンウン、チャン・ヘジン
●ストーリーを知ったうえ、高台も半地下も地下も『追憶の殺人』『母なる証明』も含め『パラサイト』を俯瞰で観る。やはり唸らせる。他のオスカー候補作も順次観たが断トツだ。初見で確信が持てなかった家族再会の幻想も、最後は実現してしまう奴らであることも信じられた。しかし決定的に匂いのキツい映画だ。おそらく3回目はない。
※2020年キネマ旬報ベストテン第1位
◎ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん
2020.03.14 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 TOUT EN HAUT DU MONDE [無料/81分]
【38】2015年フランス=デンマーク 監督:レミ・シャイエ 脚本:クレール・パオレッティ、パトリシア・バレイクス
CAST:(声)上原あかり、弦徳、吉田小南美、中西伶郎、前内孝文、石原夏織、伊藤香菜子、徳森圭輔、成澤卓、浅水健太朗
●恥ずかしながら全編、涙が止まらなかった。それは北極海に消えた祖父を懸命に探す健気なヒロインの勇気に誘われた涙というより、懐かしい東映動画や虫プロ風の作画から突き上げてくるフランス人アニメーターたちに迸る熱い心意気に胸を打たれたことが大きい。アニメならではの表現の躍動感にジャンルの原点を見せてもらった気がする。
◎男と女 人生最良の日々
2020.03.14 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LES PLUS BELLES ANNÈES D'UNE VIEE [1100円/90分]
【39】2019年フランス 監督:クロード・ルルーシュ 脚本:クロード・ルールーシュ
CAST:アヌーク・エーメ、ジャン=ルイ・トランティニャン、スアド・アミドゥ、アントワーヌ・シレ、モニカ・ベルッチ
●最初はトランティニアンとエーメが50数年前を振り返る同窓会ドキュメントのような安心感に包まれていたが、レイの名曲が流れフィクションの力学が覆いはじめると、時の流れとは、老いとはの命題が詰め寄ってくる。すべてを諦めた先に人生の安寧は得られるが、それでもルルーシュは恋の残滓を探るのがフランス人の特権だと言いたけだ。
◎ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 BIRDS OF PREY
2020.03.20 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン2 BIRDS OF PREY [1100円/109分]
【40】2020年アメリカ 監督:キャシー・ヤン 脚本:クリスティーナ・ホドソン
CAST:マーゴット・ロビー、メアリー・エリザベス・ウィンステッド、ロージー・ペレス、ユアン・マクレガー
●ポップで凶暴でハチャメチャなヒロインが最後はチームでサイコ野郎に立ち向かう。まとめた感に物足りなさは残るが、製作も兼ねたM・ロビーの近々の勢いで一気に見せる。もともとMARVELならDCの方に親しみがあり、ジョーカーの残影などゴッサムシティが出てくると安心するのは、そこにバイオレンスがきちんと存在しているからか。
◎ほえる犬は噛まない
2020.03.21 ユーロスペース 플란다스의 개 [1100円/110分]
【41】2000年韓国 監督:ポン・ジュノ 脚本:ポン・ジュノ、ソン・テウン、ソン・ジホ
CAST:ペ・ドゥナ、イ・ソンジェ、キム・レハ、ファン・チェリン、イム・サンス、キム・ジング、コ・スヒ、クォン・ヒョクプン
●冒頭の溜息でガラスの一点が曇るショットから人物の配置、キャスティング、全ジャンル網羅の演出、確信犯的なカメラワーク、物語の起伏のつけ方とすべて文句なし。『パラサイト』から逆算してすでに長編デビュー作で天才の片鱗を見せているなどというレベルではない。登場人物がそれぞれ悪意を持ちつつも悪人は一人もいないのがいい。
◎三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実
2020.03.22 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン3 [1100円/108分]
【42】2020年GAGA=TBS 監督:豊島圭介 脚本:(ドキュメンタリー)
CAST:三島由紀夫、芥正彦、木村修、橋爪大三郎、篠原裕、宮澤章友、原昭弘、椎根和、小川邦雄、瀬戸内寂聴、(N)東出昌大
●このドキュメンタリーの50年目に新たな「真実」を見出すことはなかったが、今見るとあの時代は「政治の時代」だったかも知れないが、「言論の時代」だった。東大教養学部が900番教室で民青の襲撃に備えていたことを初めて知る。それにしても三島の日焼け黒シャツ二の腕のマッチョイズムの余裕と知性は圧巻の大人だ。あれは惚れる。
◎ジュディ 虹の彼方に
2020.03.27 イオンシネマ海老名:スクリーン3 JUDY [1100円/118分]
【43】2019年イギリス=アメリカ 監督:ルパード・グールド 脚本:トム・エッジ
CAST:レネー・ゼルウィガー、ルーファス・シーウェル、フィン・ウィットロック、マイケル・ガンボン、ジェシー・バックリー
●ハリウッド光と影の象徴、J・ガーランドの晩年など可哀想で見てられないと二の足を踏み、ルイス・B・メイヤーがここまで卑劣にジュディを弄んでいたことにも驚いて、もう『オズの魔法使』は楽しめなくなった。とかく負荷を味わう観賞となってしまって、溜めに溜めてからのOver The Rainbowのフィナーレの出来過ぎ感にも冷めてしまった。
◎人間の時間
2020.04.02 シネマート新宿2 인간,공간,시간 그리고 인간 HUMAN, SPACE, TIME AND HUMAN [1100円/122分]
【44】2018年韓国 監督:キム・キドク 脚本:キム・キドク
CAST:藤井美菜、チャン・グンソク、アン・ソンギ、リュ・スンボム、イ・ソンジュ、ソン・ギユン、オダギリジョー
●名前は聞こえていたキム・ギドクの初観賞。見方によっては人間の尊厳とはなにかを創世記に見立てたファンタジーかもしれないが、あまりにも人間を一方向に走らせすぎるのに面食らう。始まって10分ほどで思ったのは「みんなバカですか?」ということ。仰天の軍艦空中浮遊には驚いたが、そこからのサバイバル戦のグロさに呆れ返った。
◎コマンドー <4Kニューマスター吹替版>
2020.05.30 イオンシネマ座間:スクリーン7 COMMANDO 4K [1100円/92分]
【45】1985年アメリカ 監督:マーク・L・レスター 脚本:スティーヴン・E・デ・スーザ
CAST:アーノルド・シュワルツェネッガー、レイ・ドーン・チョン、アリッサ・ミラノ、ダン・ヘダヤ、ヴァーノン・ウェルズ
●再評価に乗せられて今更の初見だが、もう笑っちゃうくらいのスター映画。すべてシュワちゃんの肉体の説得力だけで成り立っていて、これがクソ面白い。シュワちゃんがスタローンと共にレンタルビデオを支えた存在であったことは知っているが、こりゃ人気が出るのは当然と改めて納得。長い間、馬鹿にしていたこと本気で申し訳なく思う。
◎レ・ミゼラブル
2020.05.30 イオンシネマ座間:スクリーン7 LES MISÉRABLES [1100円/104分]
【46】2019年フランス 監督:ラジ・リ 脚本:ラジ・リ
CAST:ダミアン・ボナール、レクシス・マネンティ、ジェブリル・ゾンガ、ジャンヌ・バリバール
●冒頭のサッカーW杯の歓喜がもしエンディングで使われたら映画の印象は変わるかもしれないが、おそらく現実は変わらない。黒人警官が母親の目の前で泣き、赤い夕陽が街を染めた瞬間に涙が出た。しかし映画が人種と格差の憎悪から抜け出せないのは悲しい。せめて今は火炎瓶と拳銃が最悪の結末にならなかったことに安堵すべきなのか。
◎柔らかい肌
2020.06.10 新文芸坐 LA PEAU DOUCE [950円/115分]
【47】1964年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:ジャン・ルイ・リシャール、フランソワ・トリュフォー
CAST:ジャン・ドザイ、フランソワーズ・ドルレアク、ネリー・ベネデッティ、ダニエル・チェカルディ、サビーヌ・オードパン
●多くの同輩がヌーベルバーグとかけ離れたベタで通俗的な不倫ドラマに驚き、織り込まれるサスペンス描写にヒッチコックとの“映画術”を探してしまうのだろう。それでもトリュフォーはずっと「愛」を追求する映画作家だと思っているので、手と手が絡み指環をなめていく冒頭の素晴らしさは必見。結末とのギャップは凄さまじい限りだが。
※1965年キネマ旬報ベストテン第4位
◎日曜日が待ち遠しい!
2020.06.11 新文芸坐 VIVEMENT DIMANCHE ! [950円/111分]
【48】1983年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:F・トリュフォー、J・シフマン、ジャン・オーレル
CAST:ファニー・アルダン、ジャン・ルイ・トランティニャン、フィリップ・ローデンバック、カロリーヌ・シホール
●観賞後、トリュフォーの遺作であることを知る。さらにモノクロ・ノワールのクラシック然とした本作が80年代に作られていたことに面食らう。ヒロインのF・アルダン独壇場という趣だが、彼女は好みではなく、展開の軽さと連続殺人とのギャップは拭えなかった。トリュフォーが人生の集大成で本作を撮り上げたつもりはなかったと想像できる。
◎夜霧の恋人たち
2020.06.12 新文芸坐 BAISERS VOLES [950円/90分]
【49】1968年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:F・トリュフォー、C・ド・ジヴレー、ベルナール・ルボン
CAST:ジャン・ピエール・レオ、デルフィーヌ・セイリグ、ミシェル・ロンダール、クロード・ジャド、ハリー・マックス
●『大人は判ってくれない』初観賞から40年、ドワネル少年も憚ることなく娼婦を買う男になったか。といっても52年前の映画。今思うとあのラストのストップモーションのなれの果てがこんな青年かよと笑ってしまうが、ほぼ即興で行き当たりばったりのドワネルの超ノンポリぶりにトリュフォーは政治の時代を皮肉っていたのかも知れない。
◎彼らは生きていた
2020.06.14 あつぎのえいがかんKiKi THEY SHALL NOT GROW OLD [1200円/99分]
【50】2018年イギリス=ニュージーランド 監督:ピーター・ジャクソン 編集:ジャベツ・オルセン
CAST:(ドキュメンタリー)
●塹壕の数十メートル先にある有刺鉄線付近には身体がバラバラとなり、蛆にたかられた惨死体が累々と重なっている。しかし映されていたのは死よりも生。まさに100年前の記録映像に生命を吹き込んだP・ジャクソンの渾身の仕事だ。封切り時に『1917』とセットで観ようと思っていたが、あらゆる意味でもこのタイムラグは正解だった。
◎ワールドエンド
2020.06.14 イオンシネマ座間:スクリーン3 THE BLACKOUT [無料/154分]
【51】2019年ロシア 監督:イゴール・バラノフ 脚本:イリア・クリコフ
CAST:ピョートル・フョードロフ、アレクセイ・チャドフ、スヴェトラーナ・イワノーワ、コンスタンティン・ラヴロネンコ
●ポイント観賞で時間のタイミングも良かったので、何処の国のどんなジャンルかも知らずに観た。ロシアのSF大作だと知ってたまげたが、この映画との出会い方としてはベストだったのではないか。一体何が起きているのか登場人物たちと共有した時間が楽しい。広げた大風呂敷の畳み方はツッコミどころ満載だったが、思わぬ拾い物だったか。
◎私のように美しい娘
2020.06.15 新文芸坐 UNE BELLE FILLE COMME MOI [950円/98分]
【52】1971年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:ジャン・ルー・ダバディ、フランソワ・トリュフォー
CAST:ベルナデット・ラフォン、シャルル・デネール、フィリップ・レオタール、アンドレ・デュソリエ、ギイ・マルシャン
●トリュフォーらしい捻りを効かせた“女性賛美”ものだが、50年前を考慮しても男を手玉にとってサバイブする「可愛い悪女」にしては打算、狡猾、残忍すぎて笑えないし、ヒロインのB・ラフォンに男たちを虜にしてしまうほどの魅力も感じなかった。トリュフォーならすべて良しとはならないが、ジャクリーン・ビゼットなら許せたか知れない。
◎終電車
2020.06.16 新文芸坐 LE DERNIER METRO ※再観賞 [950円/131分]
【53】1980年フランス 監督:フランソワ・トリュフォー 脚本:ジャン・ルー・ダバディ、フランソワ・トリュフォー
CAST:カトリーヌ・ドヌーブ、ジェラール・ドパルデュー、ジャン・ポワレ、ハインツ・ベネント、アンドレア・フェレオル
●二十歳そこそこで観たときの何十倍も素晴らしかった。トリュフォーを観ながら掴みどころのなさに途惑うこともあったが、『終電車』は問答無用だろう。ナチ占領下のパリで秘めたる恋心を胸に灯した瞬間のドヌーブの美しさ。作家性より大女優かく在りきだとドヌーブに寄り添う演出の懐の深さと潔さ。トリュフォーたらしめる所以だ。
◎レイニーデイ・イン・ニューヨーク
2020.07.05 109シネマズグランベリーパーク:シアター3 A RAINY DAY IN NEW YORK [無料/92分]
【54】2019年アメリカ 監督:ウディ・アレン 脚本:ウディ・アレン
CAST:ティモシー・シャラメ、エル・ファニング、セレーナ・ゴメス、ジュード・ロウ、ディエゴ・ルナ、リーヴ・シュレイバー
●サイテーのエロ爺だろうが、映画はサイコー。名匠ストラーロのカメラが切り取るニューヨーク愛。もうこの語り口は好きにならずにいられない。かかり気味の主人公たちがやがて行き着くウディのいつもの諦観と皮肉。でもこんなキュートな物語になってしまうこともある。本当に“現実は夢を諦めた人のもの”なのかどうか雨に聞いてみたい。
◎ランボー/ラスト・ブラッド
2020.07.09 イオンシネマ港北ニュータウン:スクリーン3 RAMBO: LAST BLOOD [1100円/101分]
【55】2019年アメリカ 監督:エイドリアン・グランバーグ 脚本:マシュー・シラルニック、シルベスター・スタローン
CAST:シルベスター・スタローン、パス・ベガ、セルヒオ・ペリス・メンチェータ、アドリアナ・バラーサ、オスカル・ハエナダ
●少女救出ではなく、復讐のための戦闘だった。それ故かアクションより殺戮のゴア描写が目立ち、ランボーも完全にR-15のヒーローになってしまった。クライマックスで一方的に狩られていく悪漢たちが恐怖に怯える表情もなく肉塊と化す様に1ミリのカタルシスも得ることが出来ず残念。本当に観客はこんなランボーを待っていたのか?
◎グッド・ボーイズ
2020.07.09 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 GOOD BOYS [1200円/90分]
【56】2019年アメリカ 監督:ジーン・スタプニツキー 脚本:リー・アイゼンバーグ、ジーン・スタプニツキー
CAST:ジェイコブ・トレンブレイ、キース・L・ウィリアムズ、ブレイディ・ヌーン、モリー・ゴードン、リル・レル・ハウリー
●小学6年のズッコケ三人組によるR-15ムービー。なんと主演の子供たちは作品を観られない!思春期前の性への興味に知識が追いつかないギャップで笑わせるのだが、可愛さより浅はかさと狡猾を併せ持つガキどもに近親憎悪を覚えてマックスもルーカスもソーもみんな好きになれず、騒動に至る選択のおバカぶりには苛々し通しだった。
◎カセットテープ・ダイアリーズ
2020.07.17 TOHOシネマズ池袋:スクリーン9 BLINDED BY THE LIGHT [1200円/117分]
【57】2019年イギリス 監督:グリンダ・チャーダ 脚本:サルフラズ・マンズール、ポール・マエダ・バージェス他
CAST:ヴィヴェイク・カルラ、クルヴィンダー・ギール、ミーラ・ガナトラ、ネル・ウィリアムズ、アーロン・ファグラ
●パキスタンの家長制度の閉塞感、移民であることの生き辛さ。そこからの脱却を描きつつ涙のスピーチからの父子和解に至るヒューマニズム展開には戸惑いを覚えた。断ち切らずして旅立ちは描き切れたのか。さらに背骨となるジャレッド青年が心酔するスプリングスティーンを“Born in the U.S.A.”しか知らないのも私の障壁だった気がする。
◎はちどり
2020.07.17 TOHOシネマズ池袋:スクリーン1 벌새 HOUSE OF HUMMINGBIRD [1200円/138分]
【58】2018年韓国 監督:キム・ボラ 脚本:キム・ボラ
CAST:パク・ジフ、キム・セビョク、イ・スンヨン、チョン・インギ、パク・スヨン、キル・ヘヨン
●傑作。韓国の少女ウニと家族や周辺の人々との日常描写を淡々と重ねながら、確かなリズムの心地よさと根底に張り詰めた緊張感。この感覚は一体何なのだろうかと思いながら最後まで画面に釘付けにされた。90年代韓国の時代の空気を知らずとも女性新人監督の語り口に圧倒されていたのだと思う。映画がしっかり呼吸をしていた証左だろう。
※2020年キネマ旬報ベストテン第2位
◎ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
2020.07.19 イオンシネマ座間:スクリーン7 LITTLE WOMEN [1100円/135分]
【60】2019年アメリカ 監督:グレタ・ガーウィグ 脚本:グレタ・ガーウィグ
CAST:シアーシャ・ローナン、フローレンス・ピュー、ティモシー・シャラメ、ローラ・ダーン、メリル・ストリープ
●なぜ4姉妹がキャーキャーはしゃぐ様子を見るだけで多幸感に包まれるのか。もはやローレンス伯父さんの境地だったのだろう。時折チクリとフェミニズムをちらつかせながら時間軸を巧みに操り、家族に流れる普遍的な時間を描くG・ガーウィグの豪腕ぶり。「若草物語」は読んでいないが、相当ブラッシュアップされているに違いない。お見事。
※2020年キネマ旬報ベストテン第4位
◎透明人間
2020.07.22 イオンシネマ座間:スクリーン9 THE INVISIBLE MAN [1100円/126分]
【61】2020年アメリカ 監督:リー・ワネル 脚本:リー・ワネル
CAST:エリザベス・モス、ドリス・ホッジ、ストーム・レイド、ハリエット・ダイア-、オリヴァー・ジャクソン=コーエン
●観終わってしまえば「ふ~ん」だったが、観ている間、ドキドキソワソワしていた。ふーんに変わった瞬間は明確で、「透明人間」が透明でなくなり、話が起承転結に落とし込まれ「展開」が加速するにつれ、観賞者の情緒は「失速」する。得も知れぬ不安定さこそが映画そのものの面白さだったが、「展開」を示すのも娯楽映画の宿命なのか。
◎ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウエスト <オリジナル版>
2020.07.23 あつぎのえいがかんkiki ONCE UPON A TIME IN THE WEST [1200円/165分] ※再観賞
【62】1968年イタリア=アメリカ 監督:セルジオ・レオーネ 脚本:セルジオ・レオーネ、セルジオ・ドナーティ
CAST:クラウディア・カルディナーレ、ヘンリー・フォンダ、ジェイスン・ロバーツ、チャールズ・ブロンソン
●神が譜面に書いたスコアをもうひとりの神が現場で跳ねる。神々の饗宴だ。45年ぶりの邂逅。声変わり前の男子中学生たちがハミングで何度も挑戦した曲。しかしあの時、女が主役のマカロニなんてあるか!と14のクソガキには退屈だった。そりゃそうだ。映画の文法があまりに巨大すぎる。・・・・今、また人生ベストの一本が生まれてしまった。
◎新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争
2020.07.25-26 新文芸坐 [2300円 /100分]
【63】1995年大映 監督:三池崇史 脚本:藤田一朗
CAST:椎名桔平、田口トモロヲ、シーザー武志、サブ、益子和浩、井筒森介、柳愛里、大杉漣、平泉成、須藤正裕
●3ヶ月延びた三池ナイト。警察の浄化作戦以前の新宿ロケの生々しさ、血飛沫、ゲイ、グロ、臓器売買とこれでもかとアンダーグランドを見せつける。一体何発アナルにキメたことか。四半世紀前に東映的ヤクザ映画から覇権を奪ったバイオレンスの潮流を改めて知る中で、いきなり婆さんの目玉を抉り取ったトモロヲのキレっぷりはやばい。
◎極道戦国志/不 動
2020.07.25-26 新文芸坐 [ 〃 /99分]
【64】1996年ギャガ・コミュニケーションズ 監督:三池崇史 脚本:森岡利行
CAST:谷原章介、竹内力、高野拳磁、峰岸徹、野本美穂、釼持たまき、ミッキー・カーチス、シーザー武志、港雄一
●子供騙しだが成人指定。コミック原作の極道ものは大抵つまらない。キャラクターを寄せるため総じてリアリティに欠け、大袈裟なわりには軽い。それ自体は三池も覆すことはなかったが、小学生の殺人集団が銃をぶっ放し、女子高生の膣に仕込まれた吹き矢が脳天を貫通する。その見せ方がいちいちケレンに振り切られては苦笑するしかない。
◎日本黒社会 LEY LINES
2020.07.25-26 新文芸坐 [ 〃 /115分]
【65】1999年大映 監督:三池崇史 脚本:龍一朗
CAST:北村一輝、アニタ、柏谷享助、田口トモロヲ、竹中直人、哀川翔、菅田俊、大杉漣、渡辺哲、伊藤洋三郎、水上竜士
●日活ニューアクションの懐かしさも漂わせつつ、どちらの国のアイデンティからも疎外された中国残留孤児たちの暴力への発露は、貧困、反権力、一攫千金を理由付けとした60~70年代の青春バイオレンスとは明らかに違う。粗い荒涼とした静寂さが全体を覆うのが印象的。もう少し脚本に時間をかけられたら青春映画の大傑作になったと思う。
◎DEAD OR ALIVE 犯罪者
2020.07.25-26 新文芸坐 [ 〃 /105分]
【66】1999年大映=東映ビデオ 監督:三池崇史 脚本:龍一朗
CAST:哀川翔、竹内力、石橋蓮司、寺島進、ダンカン、小沢仁志、本田博太郎、北村一輝、鶴見辰吾、甲賀瑞穂、大杉漣
●最初はビデオで観た。序盤のカットバックの連続。大筋のオーソドックスなノワール進行。そして今や語り草の超奇天烈なフィナーレ。展開のすべてがVシネ2大スター初競演のウリに収斂させている。それが見事に結実。この監督に美学があるのかわからないが、間違いなく三池ワールドはある。ワールドを持つ監督は問答無用の存在ではある。
◎劇 場
2020.08.01 横浜シネマ・ジャック&ベティ [1100円/136分]
【67】2020年製作委員会(吉本興業=ザフール) 監督:行定勲 脚本:蓬莱竜太
CAST:山崎賢人、松岡茉優、伊藤沙莉、上川周作、大友律、井口理(King Gnu)、三浦誠己、浅香航大、吹越満
●行定には『今度は愛妻家』でも泣かされた。最後の数分間は嗚咽が止まらず座席ひとつ間隔を取っていたのに助けられた。とにかく永クンは本当にダメな奴で沙希の健気さが不憫でならないが、永クンがそれを自覚しているのが悲しく、独白の挿み込みが抜群だった。そして誰もが認める松岡茉優のとんでもなさ。もうこれ以上、器用になるな。
◎海辺の映画館 キネマの玉手箱
2020.08.01 kino cinema横浜みなとみらい [1200円/179分]
【68】2020年製作委員会=アスミックエース 監督:大林宣彦 脚本:大林宣彦、内藤忠司、小中和哉
CAST:厚木拓郎、細山田隆人、細田善彦、吉田玲、常盤貴子、成海璃子、常盤貴子、高橋幸宏、尾美としのり、小林稔侍
●どんどん足し算を重ね、驚愕の情報量にマヌケ先生からピアニスト、J・フォードまで3時間やりたい放題。最期まで大林ワールドのやんちゃぶりが魅了する。お疲れ様、ありがとう。しかし数年前まで戦争はノスタルジーな題材だったはずが、そう思えなくなっている怖さ。永遠の鬼才が託すメッセージに真摯に向き合わなければならない。
※2020年キネマ旬報ベストテン第2位
◎アルプススタンドのはしの方
2020.08.04 イオンシネマ座間:スクリーン6 [1100円/75分]
【69】2020年製作委員会=SPOTTED 監督:城定秀夫 脚本:奥村徹也
CAST:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、目次立樹、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、降旗幹
●オリジナルの高校演劇の台本は関西弁なのだろうか。あからさまに説明ゼリフだったり小芝居だったり人物の掘り下げが甘かったりと、色んな局面で大目に見た自覚がありつつ、あれだけ不愉快だった厚木先生の「声を出せ!」の連発があすはやひかる、藤野たちと次第に同化して最後は前のめりになって姿なきヤノを応援していた自分(笑)。
※2020年キネマ旬報ベストテン第10位
◎君が世界のはじまり
2020.08.07 テアトル新宿 [1100円/115分]
【70】2020年バンダイナムコ=アミューズ 監督:ふくだももこ 脚本:向井康介
CAST:松本穂香、中田青渚、片山友希、金子大地、甲斐翔真、小室ぺい、板橋駿谷、森下能幸、江口のりこ、古舘寛治
●力ある映画だとは思う。女子高生たちの「クソ」「カス」の大阪弁の身も蓋もなさから焙られる閉塞感もわからんでもない。ただこれが本当に令和の等身大の高校生が直面している世界なのか。私には“ダメでやさしい大人の中で空転する青春”としか思えない。そもそも彼らの憤りの発散が30年前のブルーハーツの歌というのもどうなんだろう。
◎8日で死んだ怪獣の12日の物語
2020.08.07 テアトル新宿 [1100円/88分]
【71】2020年日本映画専門チャンネル=ロックウェルアイズ 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:斎藤工、のん、武井壮、穂志もえか、樋口真嗣
●緊急事態宣言下の閑散とした都会の空間を漂うモノクロ映像が美しい。挟まれるダンスパフォーマンスも見事だ。しかしリモート画面で延々と語られる空虚な作り話を見せられるのはあまりにつらい。今まで劇場やビデオで観てきた岩井俊二の中では最大級に退屈だった。「カプセル怪獣の存在は時間稼ぎ」とはあまりに語るに落ちていないか。
◎ブラック アンド ブルー
2020.08.08 イオンシネマ座間:スクリーン7 BLACK AND BLUE [1100円/108分]
【72】2019年アメリカ 監督:デオン・テイラー 脚本:ピーター・A・ダウリング
CAST:ナオミ・ハリス、タイリース・ギブソン、フランク・グリロ、マイク・コルター、リード・スコット、ボー・ナップ
●アフガン従軍経験という都合のよい設定に、もしかして警官の主人公が女性で黒人であることすら展開上の都合ではないかと思える。おかげで社会的な人種アイデンティティの偏狭に陥ることなくドンパチは楽める。ただ冒頭のジョギング姿と逃亡中のドタバタ走りとのギャップや、妙に気になる緩慢な無駄ショット。ダメ要素が少なくない。
◎アルプススタンドのはしの方
2020.08.09 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 [1100円/75分] ※再観賞
【73】2020年製作委員会=SPOTTED 監督:城定秀夫 脚本:奥村徹也
CAST:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里、目次立樹、黒木ひかり、平井珠生、山川琉華、降旗幹、田尻政義
●無知を恥じるが監督は100本も撮った手練れだった。その手練れがやったことは高校演劇を映画的にブラッシュアップしながら、しっかり高校演劇の匂いを残すこと。そこに設定もセリフもすべてを収斂させている。物語を生み出した若き熱量の結晶としてこの四人がいる。それに気づいたとき、どうしても見直さずにはいられないと思った。
※2020年キネマ旬報ベストテン第10位
◎今宵、212号室で
2020.08.18 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 CHAMBRE 212/ ON A MAGICAL NIGHT [1100円/87分]
【74】2019年フランス=ベルギー=ルクセンブルグ 監督:クリストフ・オノレ 脚本:クリストフ・オノレ
CAST:キアラ・マストロヤンニ、バンジャマン・ビオレ、ヴァンサン・ラコスト、カミーユ・コッタン、キャロル・ブーケ
●フランスにそんな内容の民法212条があるなんて知らなかった。新旧リシャールがピアノを連弾するアパルトマンの場面に、これは博愛の寓話かなと思ったが、すべてはマリアの尻軽が巻き起こした騒動。なんでアンタが傷ついてるんだ?と説教もしたくなる。ほろ苦さもすべて「恋はいっぱい、愛はひとつ」で纏められるフランス映画の特権か。
◎糸
2020.08.22 イオンシネマ座間:スクリーン3 [無料/130分]
【75】2020年製作委員会=東宝 監督:瀬々敬久 脚本:林民夫
CAST:菅田将暉、小松菜奈、榮倉奈々、山本美月、成田凌、倍賞美津子、斎藤工、松重豊、田中美佐子、二階堂ふみ
●この監督でこの主演二人となればもっと過酷な物語を期待したいところだが、中島みゆきの「糸」をモチーフとした純愛の成就を大真面目に撮り切ったのが功を奏して、想像以上に楽しめた。平成丸ごと網羅したスケール感も画面に表現されて悪くないし、かつてのプログラムピクチャー的な恋愛映画の後味も好きだ。榮倉奈々にぜひ助演賞を。
◎思い、思われ、ふり、ふられ
2020.08.22 イオンシネマ座間:スクリーン6 [1100円/125分]
【76】2020年集英社=博報堂他=東宝 監督:三木孝浩 脚本:米内山陽子、三木孝浩
CAST:浜辺美波、福本莉子、北村匠海、赤楚衛二、上村海成、三船海斗、古川雄輝、野間口徹、戸田菜穂
●スローモーションで撮りたいから鬼ごっこだったか。『ホットロード』同様、この監督の文法はオヤジにはキツい。彼らが等身大の高校生ではなくファンタジーの住人なのはコミックの原作があるので仕方ないにしても、良い娘ちゃんと良い奴らたちのモノローグのひとつひとつに底の浅さが見え、失礼ながらずっと苛々しっぱなしだった。
◎ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー
2020.08.26 新宿武蔵野館 BOOKSMART [1100円/102分]
【77】2019年アメリカ 監督:オリヴィア・ワイルド 脚本:エミリー・ハルパーン、サラ・ハスキンズ、スサンナ・フォーゲル
CAST:ケイトリン・デヴァー、ビーニー・フェルドスタイン、ジェシカ・ウィリアムズ、リサ・クドロー、ウィル・フォーテ
●定番である旅立ちのスピーチもさることながら、二段落ちのエンディングの後味の良さ。ティーンに限らず女同士の友情話は好きだ。のっけからハイスクールで浮くモリーとエイミーの間で完結するダンスの可笑しさ。エイミーが自虐するモリーをビンタして「私の親友になんてこと言うの!」にはやられる。ある意味、真っ当に男前だった。
◎ソワレ
2020.08.28 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 [1100円/110分]
【78】2020年フィルムパートナーズ(新世界=東京テアトル) 監督:外山文治 脚本:外山文治
CAST:村上虹郎、芋生悠、岡部たかし、康すおん、塚原大助、花王おさむ、田川可奈美、江口のりこ、石橋けい、山本浩司
●この映画には余白がある。でもその余白は決して欠点ではない。むしろ「逃避行もの」という確たるジャンルがあり、それで様々な映画の記憶が噴出した。芋生悠が時間を追うごとに綺麗になっていく。とくに全力疾走のフォームの美しさ。映画でここまで見事に走るヒロインも珍しい。妙に腑に落ちるラストの是否はまだ答えが出せていない。
◎幸せへのまわり道
2020.08.30 イオンシネマ座間:スクリーン5 A BEAUTIFUL DAY IN THE NEIGHBORHOOD [1100円/109分]
【79】2019年アメリカ 監督:マリエル・ヘラー 脚本:ミカ・フィッツァーマン=ブルー、ノア・ハープスター
CAST:トム・ハンクス、マシュー・リス、クリス・クーパー、スーザン・ケレチ・ワトソン、エンリコ・コラントーニ
●映画はT・ハンクスのキャリアの“支配力”で見せてしまうが、ミニチュアの街に閉じ込められ、ウサギちゃんにされるロイド。そんなロイドのもがき苦しむ様を微笑みながら見つめるフレッド。ハートフルヒューマン感動作ということだが、結構、緊張しながら観ていた。それも「一分間の沈黙」で瓦解した。単に相性が悪かっただけだったか。
◎コリーニ事件
2020.09.01 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 DER FALL COLLINI [1100円/123分]
【80】2019年ドイツ 監督:マルコ・クロイツパイントナー 脚本:C・チューベルト、R・ゴールド、イェンス・F・オットー
CAST:エリアス・ムバレク、フランコ・ネロ、アレクサンドラ・マリア・ララ、ハイナー・ラウターバッハ
●正直、フランコ・ネロの健在を確認したいがための観賞だった。ナチスの戦争犯罪とそれを庇護してきた司法への糾弾という重いテーマと裏腹の、描かれ方の妙な軽さと浅さが気になる。ドレーヤー法が必ずしもドイツ国民に周知された悪法ではなく、それを掘り起こすのを異人種に託すあたり、ドイツにはドイツの戦後の苦悩があるのだろう。
◎人数の町
2020.09.06 イオンシネマ海老名:スクリーン4 [1100円/111分]
【81】2020年キノフィルムズ 監督:荒木伸二 脚本:荒木伸二
CAST:中村倫也、石橋静河、立花恵理、山中聡、橋野純平、植村宏司、菅野莉央、松浦祐也、草野イニ、川村紗也、柳英里紗
●所謂「ディストピアもの」のジャンルだが、書店の「映画化コーナー」に原作本がないのが何より嬉しい。コミック、小説、ラノベと脚本不在で脚色ばかりが蔓延する中、天晴だ。着想も面白い。しかし展開の乏しさ、人物造形の温さを横に置いて着想のみを褒めるのには限界がある。短編ラジオドラマで聴きたいと思った時点でかなり残念だ。
◎行き止まりの世界に生まれて
2020.09.09 新宿シネマカリテ MINDING THE GAP [1100円/93分]
【82】2018年アメリカ 監督・撮影:ビン・リュー 音楽:ネイサン・ハルパーン、クリス・ルッジェーロ
CAST:キアー・ジョンソン、ザック・マリガン、ビン・リュー(ドキュメンタリー)
●寂れた街に三人の若者。それぞれ白人、黒人、アジア人。ともにスケボー好き、親から虐待経験あり。まず状況に驚くが、なによりカメラを回し続けていたことが凄い。“MINDING THE GAP”に対してこの邦題はどうかと思うが、その行き止まりの切羽詰まった感じに共感はするが共有は難しいと思った。なにより君らには若さがあるのだから。
◎宇宙でいちばんあかるい屋根
2020.09.11 イオンシネマ座間:スクリーン9 [1100円/115分]
【83】2020年KADOKAWA 監督:藤井道人 脚本:藤井道人
CAST:清原果耶、桃井かおり、伊藤健太郎、吉岡秀隆、坂井真紀、水野美紀、山中崇、醍醐虎汰朗、富山えり子
●虚実皮膜は好きだが、ファンタジーは苦手。映画は狭間を巧みに縫っていたと思う。ただ私は桃井かおりへの思いが少々過剰なため、清原果耶が18歳だったと知って、全裸でのた打っていたかつての剥き出しの桃井かおりとほぼ変わらないではないかと気づいて、もっとリアルな設定で彼女が若手女優と対峙する映画が見たかったと思った。
◎一度も撃ってません
2020.09.16 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 [1100円/100分]
【84】2020年キノフィルムズ 監督:阪本順治 脚本:丸山昇一
CAST:石橋蓮司、桃井かおり、岸部一徳、大楠道代、妻夫木聡、豊川悦司、江口洋介、柄本祐、渋川清彦、寛一郎、佐藤浩市
●ハードボイルド?コメディ?否、俺達のファンムービーだ!こちらの世代からするとちょい不良な兄貴、姉貴たちの宴会。それを遠巻きから眩し気に眺めていた感覚。とにかく大人の出来損ないがはしゃぎまくる100分。ああ桃井かおり、なんで星ばあより先に観ておかなかったのか。石橋蓮司よ「夜は酒が連れてくる」ともう一度、云ってくれ。
◎TENET テネット
2020.09.18 イオンシネマ座間:スクリーン10 TENET [1100円/150分]
【85】2020年アメリカ=イギリス 監督:クリストファー・ノーラン 脚本:クリストファー・ノーラン
CAST:ジョン・デビィッド・ワシントン、ロバート・パティンソン、エリザベス・デビッキ、ケネス・ブラナー、マイケル・ケイン
●映画で途轍もない世界観を創ってやるとの熱量は十分に伝わってくる。ただ私がノーランと相性が良い筈はなく、脳内で創造されたロジックに支配されてたまるかと抵抗してしまう。オペラハウス襲撃からスパイ活劇のセオリーで進む前半は面白かったが、後は逆回転再生映像をボケ~と眺めていた。劇場で観る価値ありと認めたうえでも。
※2020年キネマ旬報ベストテン第10位
◎チィファの手紙
2020.09.19 109シネマズグランベリーパーク:シアター10 你好、之華 [1200円/113分]
【86】2018年中国 監督:岩井俊二 脚本:岩井俊二
CAST:ジョウ・シュン、チン・ハオ、ドゥー・ジアン、チャン・ツィフォン、ダン・アンシー、タン・ジュオ、フー・ゴー
●中国映画として馴染みのない俳優で接したこちらの方が純粋に作品世界に入り込めた。主人公たちが風景に包まれる瞬間を見せるのが岩井ワールドだが、私が惹かれるのは物語に込められたダイアローグの巧さにあり、むしろ日本語字幕で心地よく感受出来た気がする。『ラストレター』は好きな作品だが、スターを揃えすぎたのが欠点だった。
◎お名前はアドルフ?
2020.09.21 あつぎのえいがかんkiki2 DER VORNAME [1200円/91分]
【87】2018年ドイツ 監督:ゼーンケ・ヴォルトマン 脚本:クラウディウス・プレーギング、アレクサンダー・ディディナ
CAST:フロリアン・ダーヴィト・フィッツ、クリストフ=マリア・ヘルプスト、カロリーネ・ペータース、ヤニーナ・ウーゼ
●妊娠中の赤ん坊にアドルフと命名したことから始まる5人の会話劇。シニカルな議論が思わぬ方向に飛んで罵倒の応酬となると、マスク越しに声を出して笑ってしまった。2転3転した展開を最後に母親への報告としてまとめてくれる親切さ。舞台劇としてよく出来ている。女の子とわかっていれば母親の恋も発覚しなかったと思うとまた笑える。
◎パブリック 図書館の奇跡
2020.09.21 あつぎのえいがかんkiki THE PUBLEC [1100円/119分]
【88】2018年アメリカ 監督:エミリオ・エステベス 脚本:エミリオ・エステべス
CAST:エミリオ・エステべス、アレック・ボールドウィン、ジェナ・マローン、テイラー・シリング、クリスチャン・スレイター
●直截的なテーマは「声をあげろ」なのだろう。権力に対抗する手段として「全裸になっちゃえば」という選択肢で、弱者にとことん寄り添う作品となっている。ただ声をあげた先の弱者からの脱却までには至らないもどかしさも感じてしまう。絶滅が危惧される北極熊の剥製に、民主主義の最後の防波堤としての図書館が象徴されていたのか。
◎mid90s ミッドナインティーンズ
2020.09.21 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン7 mid90s [1100円/85分]
【89】2020年アメリカ 監督:ジョナ・ヒル 脚本:ジョナ・ヒル
CAST:サニー・スリッチ、キャサリン・ウォーターストン、ルーカス・ヘッジズ、ナケル・スミス、オーラン・ブレナット
●流れるヒップホップの選曲に反応出来たならなと思う。ただそれと相反するようなエンディングの静かな旋律に、この映画もグラフィティものなのだと感じたとき、90年代の空気感をまるで知らないことに愕然とした。そうか私には過去であったはずのこの30年は未知の領域だったのだ。スケボー以外にどんな時代のアイコンがあったのか。
◎刺 青
2020.09.27 角川シネマ有楽町 [1300円/100分]
【90】1966年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:若尾文子、長谷川明男、山本学、佐藤慶、須賀不二男、内田朝雄、藤原礼子、毛利菊枝、南部彰三、木村玄、橘公子
●暫く増村保造を追いかける予定。ただ薄々予想はしていたが若尾文子の独壇場に遭遇した。それだけにいつもの増村演出の疾走感が新藤兼人の脚本と宮川一夫のカメラに抑制された感があり、結局、どうぞ若尾文子の魅力を堪能し、大いに愛でてくださいという映画になってしまった。この題材で増村保造が前線に出て来ないのはかなり残念。
◎マーティン・エデン
2020.09.27 シネスイッチ銀座 MARTIN EDEN [1300円/129分]
【91】2019年イタリア=フランス=ドイツ 監督:ピエトロ・マルチェッロ 脚本:マルリツィオ・ブラウッチ他
CAST:ルカ・マリネッリ、ジェシカ・クレッシー、デニーズ・サルディスコ、ヴィンチェンツォ・ネモラー、カルロ・チェッキ
●マーティン・エデンは一体なにに苦悶し、なにを喪失してしまったのだろう。自由主義と社会主義か、それとも放浪と安定か。少なくともあらかじめ持たざる者はたとえ富と名声を得たとしても時代の荒波で難破してしまう宿命にあるのか。あとに残るものが虚無と絶望ならば、水平線に沈む夕陽の先に心の安寧を見つけてもらいたいと思うが。
◎赤い天使
2020.09.27 角川シネマ有楽町 [1300円/86分]
【92】1966年大映 監督:増村保造 脚本:笠原良三
CAST:若尾文子、芦田伸介、川津祐介、赤木蘭子、池上綾子、千波丈太郎、喜多大八、谷謙一、河島尚真、小山内淳、仲村隆
●切断した手足が無尽蔵に捨てられる野戦病院では生と死の境界が酷くあやふやとなる。しかし「どうせ生きて還れないなら」の境地で、刹那的な生を求めたとき戦場の狂気は一気に加速する。そこに兵士、軍医、従軍看護婦の区別などないのだと増村保造のトーンが伴走する。最前線での性をここまで大胆に描く映画を初めて観た。傑作だろう。
◎窮鼠はチーズの夢を見る
2020.10.01 TOHOシネマズ池袋 スクリーン6 [1200円/130分]
【93】2020年製作委員会=セカンドサイド 監督:行定勲 脚本:堀泉杏
CAST:大倉忠義、成田凌、吉田志織、さとうほなみ、咲妃みゆ、小原徳子、小柳友、中村久美、国広富之
●いつも相手の出方を待つ大伴の無自覚な残酷さ。「みんなが見た目が綺麗で人間が出来てて自分にいい思いをさせてくれる完璧な人を探していると思っているんですか?」強い愛を受け止めてくれないことを知って大伴にのめりこみ傷つく今ヶ瀬。痛いな、この愛は。でもこの映画には自分の中の大伴的な情緒を開放してくれる優しさがある。
◎清作の妻
2020.10.02 角川シネマ有楽町 [1100円/93分]
【94】1965年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:若尾文子、田村高廣、小沢昭一、紺野ユカ、成田三樹夫、殿山泰司、穂高のり子、星川黎子、早川雄三、仲村隆
●「出征させないため夫の目を五寸釘で突いた女」。愛の執念か独占欲に駆られたエゴイズムか。話があまりに有名なため、どうしても古典的な戯曲や歌舞伎の演目に見えてしまうのが悔しいが、それゆえ作劇に血を通わせる演出・演者の力量が問われるわけで、増村=若尾の名コンビは凄まじく問答無用に乗り越えていく。代表作たるゆえんか。
◎最高殊勲夫人
2020.10.03 角川シネマ有楽町 [1300円/95分]
【95】1959年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:若尾文子、川口浩、阿弥谷津子、船越英二、宮口精二、近藤美恵子、滝花久子、東山千栄子、丹北原義郎、柳沢真一
●ギタギタの情念の劇から一転、増村=若尾の黄金コンビによるスクリューボール・コメディ。カラーが綺麗で自分が生まれる前の映画とは思えない。50年代末期の丸の内のオフィスラブものとしてテンポの早さと、高度成長期の上昇気分が楽しく、なによりも若尾文子の弾けぶりが可愛い。出演者全員の生命力の逞しさに増村保造らしさを見る。
◎女は二度生まれる
2020.10.04 角川シネマ有楽町 [1300円/99分]
【96】1961年大映 監督:川島雄三 脚本:井手俊郎、川島雄三
CAST:若尾文子、山村聡、フランキー堺、藤巻潤、山茶花究、山岡久乃、高野通子、高見国一、江波杏子、上田吉二郎
●増村保造中心に観ているが、若尾文子をもっと“体感”すべく川島雄三作品も観に行った。『刺青』で若尾を愛でるためだけの映画と評したが、それをもっと徹底させたのがこの川島作品だ。私の生まれ年の製作だが、まだ巷に赤線の名残があったのだろう。男も女も俗物揃いだが、山茶花究の粋な俗物ぶりは今の役者では出せない味わいか。
◎しとやかな獣
2020.10.04 角川シネマ有楽町 [1300円/96分]
【97】1962年大映 監督:川島雄三 脚本:新藤兼人
CAST:若尾文子、伊藤雄之助、山岡久乃、川畑愛光、浜田ゆう子、高松英郎、小沢昭一、船越英二、山茶花究、ミヤコ蝶々
●妙に開放された密室劇という印象。階段の使い方といい、家族ぐるみでワルなのが『パラサイト』と似ている。若尾文子が美しくも超然としすぎていてどこかオブザーバーのようで勿体なく、ひたすら伊藤雄之助の怪演を見ていた。クセの強い川島演出は楽しいが、やはり若尾文子は増村こそ手が合うのではないか。終始傍観してしまった。
※1963年キネマ旬報ベストテン第6位
◎海の上のピアニスト <イタリア完全版>
2020.10.04 あつぎのえいがかんkiki LA LEGGENDA DEL PIANISTA SULL'OCEANO [1200円/170分]
【98】1998年イタリア=アメリカ 監督:ジュゼッペ・トルナトーレ 脚本:ジュゼッペ・トルナトーレ
CAST:ティム・ロス、プルイット・テイラー・ヴィンス、メラニー・ティエリー、クラレンス・ウィリアムズ三世、ビル・ナン
●音楽は先にモリコーネのコンサートで聴いていたが映画は初見。公開バージョンより50分長いらしいがめくるめく映像美と名シーンの連続に170分の長さは気にならなかった。揺れる船内でのビアノソロと激しいセッションが楽しい。ただ伝説の1900は回想の中だけで生きて欲しかった。爆破なんて極端な最期は悲しみよりも呆気にとられる。
◎くちづけ
2020.10.06 新文芸坐 [無料/74分]
【99】1957年大映 監督:増村保造 脚本:舟橋和郎
CAST:川口浩、野添ひとみ、三益愛子、小沢栄太郎、見明凡太朗、村瀬幸子、若松健、吉井莞象、南方伸夫、山口健
●増村保造デビュー作。若い男女が出会ってから口づけを交わすまでの二日間を日本映画にありがちな湿っぽさを一掃して描き切る。すでに増村映画そのものだ。国道134号線を二人乗りでノーヘル疾走する場面にイタリア帰りのモダンさも窺えるが、増村といえば女性を活き活きと見せる手腕は唯一無二で、野添ひとみが実にキュートだ。
◎巨人と玩具
2020.10.06 新文芸坐 [ 〃 /95分]
【100】1958年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:川口浩、野添ひとみ、小野道子、高松英郎、信欣三、伊藤雄之助、藤山浩一、山茶花究、伊藤直保、飛田喜佐夫
●狂乱する資本、生産性の理論と人間性の喪失。文明やメディアの虚妄性。素早い場面転換とマシンガントークを駆使する増村保造と盟友・白坂依志夫が異常なテンションで叩きつけた日本の社会批判は、その行く末にはもう決着がついた感もあるが、昔の映画につきまとう“変な感じ”すら武器にしてしまうバイタリティにはもはや感服するしかない。
※1958年キネマ旬報ベストテン第10位
◎暖 流
2020.10.07 新文芸坐 [1150円/94分]
【101】1957年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:根上淳、左幸子、野添ひとみ、船越英二、品川隆二、小川虎之助、村田知栄子、山茶花究、大山健二、春本富士夫
●ドロドロの昼メロ展開をカラッと乾いたタッチで描きながら、登場人物すべてが異常にハイボルテージなのは増村保造を源泉とする大映テレビドラマの萌芽を見る思い。とにかく常に後ろから殴りかかってくるように現れ、観るものを困惑させる左幸子のウザ可愛さが凄い。最後まで何を以て「暖流」なのかわからないが、退屈とは無縁の映画。
◎黒の報告書
2020.10.07 新文芸坐 [ 〃 /92分]
【102】1963年大映 監督:増村保造 脚本:石松愛好
CAST:宇津井健、叶順子、小沢栄太郎、神山繁、殿山泰司、高松英郎、近藤美恵子、見明凡太朗、弓恵子、中条静夫
●正義感で突っ走る若き検事が海千山千のクセ者弁護士に翻弄される法廷劇。いやはや面白かった。正義に燃えるといいながら東京転勤をちらつかされて浮かれている本音も見え隠れさせるあたりが増村のエグ味で、ヒーロー然とした宇津井健を凡庸に見せる塩梅が絶妙。法の精神や正義を嘲笑ながら結果的に自白主義を批判しているではないか。
◎大悪党
2020.10.08 新文芸坐 [1150円 /92分]
【103】1963年大映 監督:増村保造 脚本:増村保造、石松愛好
CAST:田宮二郎、佐藤慶、緑魔子、倉石功、内田朝雄、早川雄三、北村和夫、三夏伸、小山内淳、中条静夫
●ピカレスクのカッコ良さを求めたのだろうか、その方向で悪徳弁護士に田宮二郎、堕ちてゆく女に緑魔子、脅迫するやくざに佐藤慶ではいかにも過ぎて新味がない。ただでさえ不良性感度の高い緑魔子を東映から招いた意図がわからない。駄洒落をいえばアクはアクでもスタイリッシュにまとめにかかった分だけ灰汁のない増村演出になったか。
◎盲 獣
2020.10.08 新文芸坐 [ 〃 /84分]
【104】1969年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:船越英二、緑魔子、千石規子
●江戸川乱歩のエログロ世界を増村=白坂のコンビが挑めば、最後は四肢切断までいってしまうのか。冷静に見ればとんだ茶番なのだが、変なものを見せられる予感の上をいかれた。登場人物3人のアングラ空間をサイケに逃げることなく見せ切った女体オブジェの不気味さ。これを造形した大映美術陣に感服。船越英二の怪演も特筆すべきだろう。
◎82年生まれ、キム・ジオン
2020.10.10 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 82년생 김지영 [1200円/118分]
【105】2019年韓国 監督:キム・ヨドン 脚本:ユ・ヨンア
CAST:チョン・ユミ、コン・ユ、キム・ミギョン、コン・ミンジョン、パク・ソンヨン、キム・ソンチョル、キム・ヨンピョ
●何気ない(思惑のない)会話から浮かび上がる危うさ、揺らぎ、齟齬、機微がいちいち突き刺さってくる。原作から改変されているらしいが、夫の優しさ、気遣いがジヨンに煩わしさの棘となって闇の綱渡りを強要していたのではないか。役者の演技ではなく字幕文字としてひとつのひとつの台詞が痛かった。『はちどり』と並ぶベスト級か。
◎映画クレヨンしんちゃん/激突!ラクガキングダムとほぼ四人の勇者
2020.10.10 109シネマズグランベリーパーク:シアター2 [1200円/124分]
【106】2020年シンエイ動画=テレビ朝日=双葉社 監督:京極尚彦 脚本:高田亮、京極尚彦
CAST:(声)小林由美子、ならはしみき、森川智之、こおろぎさとみ、神谷浩史、山田裕貴、きゃりーぱみゅぱみゅ
●名作とされる『オトナ帝国』『戦国』(ビデオ観賞)を彷彿とさせる、しんちゃんの一途な可愛さが爆発するクライマックスにオヤジの安~い涙腺が決壊(汗)。にせアヤコ、二日目のブリーフたちの自己犠牲自爆場面も泣かせてくれる。もっとも「何だこいつ!」と思っていたぶりぶりざえもんが最後の最後に活躍する頃には疲れ切っていた。
◎小説の神様 君としか描けない物語
2020.10.10 109シネマズグランベリーパーク:シアター10 [1200円/124分]
【107】2020年製作委員会=HIGH BROW CINEMA 監督:久保茂昭 脚本:鎌田哲生
CAST:佐藤大樹、橋本環奈、佐藤流司、杏花、莉子、坂口涼太郎、山本未來、片岡愛之助、和久井映見
●とんだ駄作。そもそも観た動機は相沢沙呼が原作だったからで、『medius 霊媒探偵 城塚翡翠』を一読し、その構成力に感服した経緯から『小説の神様」は未読ながら構成は間違いなしと踏んだのだ。主人公たちの心情を映像で語るのではなく、既成のポップスを氾濫させて代行させるのでは、この作り手たちに映画の神様は一生降りてこない。
◎青空娘
2020.10.11 角川シネマ有楽町 [1300円/89分]
【109】1957年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:若尾文子、川崎敬三、信欣三、菅原謙二、沢村貞子、三宅邦子、東山千栄子、穂高のり子、品川隆二、ミヤコ蝶々
●「青空さんこんにちは」・・・なるほど若尾文子の声は独特で、超然としている。木造の東中野の駅舎が古色満点で興味深いが、レンガ造りの東京駅が今と同じあることが素晴らしい。そう今だって東京は青空の下にあるのだ。と、柄にもなく声の持ち主に呼応してみる。こうして増村×若尾は瑞々しいシンデレラストーリーで始まったわけだ。
◎妻は告白する
2020.10.11 角川シネマ有楽町 [1300円/92分]
【110】1961年大映 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:若尾文子、川口浩、小沢栄太郎、根上淳、馬渕晴子、高松英郎、大山健二、小山内淳、村田扶実子、夏木章、此木透
●殺意があったのか、そこに愛があったのか、ただ独善と打算だけで生きている女ではなかったか。そんな思いを抱かせた中でのずぶ濡れの若尾文子。シネスコのスクリーンに映された瞬間の映画的興奮たるやもう溜まらん気持ちにさせる。愛に執着し、愛に殉じた女の情念を1ショットの表情で語り語らせる。増村保造の真骨頂がここにある。
◎痴人の愛
2020.10.12 新文芸坐 [1150円 /92分]
【111】1967年大映 監督:増村保造 脚本:池田一朗
CAST:安田道代、小沢昭一、田村正和、倉石功、村瀬幸子、清川玉枝、紺野ユカ、内田朝雄、渡辺鉄弥、穂高のり子
●「人間性を取り戻そうと必死でもがく姿を徹底的にどぎつく描きたい」とは増村の弁。谷崎文学の定番、ナオミと譲治の物語。小沢昭一の役者魂には恐れ入るが、ほぼ同じテンションの攻防が繰り返される中で安田(大楠)道代が単に馬鹿っぽく思えて仕方がない。翻弄され痛ぶられ続けてもこの女なら仕方がないと思わせないと駄目だ。
◎セックス・チェック 第二の性
2020.10.12 新文芸坐 [ 〃 /89分]
【112】1968年大映 監督:増村保造 脚本:池田一朗
CAST:安田道代、緒形拳、小川真由美、滝田祐介、早川雄三、内田朝雄、笠原玲子、仁木多鶴子、谷謙一、村田扶実子
●スポ根と寵愛。テーマを説明するとこんなアホな話はない。それを増村のボルテージで一気に畳み込まれると観客は呆然と苦笑いするしかない。イケイケの緒形拳の鬼コーチと必死にしがみつく安田道代の狂気。お茶の間に出せない大映テレビのノリか。しかも最後はちょっとした恋の成就まで思わせる。まぁ絶対に別れるだろうなこの二人は。
◎大地の子守歌
2020.10.13 新文芸坐 [1150円 /111分] ※再観賞
【113】1976年行動社=木村プロ=松竹 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫
CAST:原田美枝子、岡田英次、賀原夏子、佐藤佑介、田中絹代、梶芽衣子、木村元、山本廉、加藤茂雄、由起艶子
●高校の夏休み、早稲田松竹での衝撃は今でも忘れられない。ここまで16歳の新人女優を痛めつける鬼の増村と、果敢に挑む原田美枝子の闘いで一本の映画を作ってしまったと思った。改めて観ると、やや一本調子過ぎるし、お遍路の道行はひどく冗長なのだが、ヤワな青春映画に甘んじる令和の作り手たちにはとやかく言わず観とけと言いたい。
※1976年キネマ旬報ベストテン第3位
◎曽根崎心中
2020.10.13 新文芸坐 [ 〃 /112分] ※再観賞
【114】1978年行動社=木村プロ=ATG 監督:増村保造 脚本:白坂依志夫、増村保造
CAST:梶芽衣子、宇崎竜童、橋本功、左幸子、井川比佐志、木村元、灰地順、目黒幸子、青木和代、大西加代子、加藤茂雄
●初見のとき、しばらく席を立てなかった。もはや問答無用の大傑作。十二分に語りつくされた梶芽衣子のお初を立たせたのは宇崎竜童の徳兵衛の絶妙の佇まいに他ならない。増村保造、渾身の演出もさることながら盟友・白坂依志夫の台詞回しが絶品。ここまで完璧に男女の恋と意地を成就させた映画はない。この映画に関わる全ての人達に感謝。
※1978年キネマ旬報ベストテン第2位
◎浅田家!
2020.10.17 イオンシネマ座間:スクリーン5 [1100円/127分]
【115】2020年製作委員会=東宝 監督:中野量太 脚本:中野量太、菅野友恵
CAST:二宮和也、妻夫木聡、風吹ジュン、平田満、黒木華、菅田将暉、渡辺真起子、北村有起哉、野波麻帆、駿河太郎
●写真を効果的に使う映画には秀作が多い。中野量太は稀代のストーリーテラーであるが、ラストのオチは脚本執筆のどの段階で思いついたのか興味深い。そうかこの設定だから平田満だったかと想像すると楽しい。そして今年、家族を失った自分が親の晩年と収まった写真が一枚もないことに気づき、ふと家族に流れていた時間を思った。
◎卍(まんじ)
2020.10.18 角川シネマ有楽町 [1300円/91分]
【116】1964年大映 監督:増村保造 脚本:新藤兼人
CAST:若尾文子、岸田今日子、船越英二、川津祐介、山茶花究、村田扶実子、南雲鏡子、響令子、三津田健
●集中的に増村保造を観てきたがこれがフィナーレ。若尾と岸田の色香には抗えないものを感じつつ、さすがに増村テンションに疲れてきたところに描かれるのは色欲、猜疑、欺瞞、自己愛で形成される卍模様。本当にこれ谷崎の文芸ものなのか?3人で毒を飲んでも ”私だけを死なせるつもり” “ふたりだけで逝くつもり”とまさに迷宮極まった。
◎スパイの妻
2020.10.18 シネスイッチ銀座 [1300円/127分]
【117】2020年NHK=ビターズ・エンド 監督:黒沢清 脚本:濱口竜介、野原位、黒沢清
CAST:蒼井優、高橋一生、東出昌大、坂東龍汰、恒松祐里、みのすけ、玄理、笹野高史
●良かった。まず思ったのは映画トータルデザインが成功していること。もちろん作品にもよるが全体のトーンの統一、落ち着きで展開と芝居に集中できる。夫婦愛を描く舞台劇のようでもあるが省くところは省きながら、きちんと太平洋戦争を俯瞰している。蒼井優と高橋一生がまるで原節子と森雅之のようだといったら言い過ぎだろうか。
※2020年キネマ旬報ベストテン第1位
◎劇場版 鬼滅の刃 無限列車編
2020.10.20 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン3 [1100円/117分]
【118】2020年東宝=アニプレックス=集英社 監督:外崎春雄 脚本:ufotable
CAST:(声)花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔、小山力也
●原作もアニメも知らない無知なオヤジが大ヒットに乗せられレイトに迷い込んでみた。ああこのクォリティなら人気出るわと素直に感じた。無限列車の大迫力の疾走感と夢うつつな心象風景の静謐のコントラストも素晴らしいが。伝奇テイストの中に少年ジャンプの三要素「友情・努力・勝利」がストレートに謳われて非常にわかりやすい。
◎鵞鳥湖の夜
2020.10.21 新宿武蔵野館 南方車站的聚会/THE WILD GOOSE LAKE [1100円/118分]
【119】2019年中国=フランス 監督:ディアオ・イーナン 脚本:ディアオ・イーナン
CAST:フー・ゴー、グイ・ルンメイ、リャオ・ファン、レジーナ・ワン、クイ・ダオ
●ノワールでもなんでもいいが、スタイリッシュって今さら褒め言葉か。確かに映像は綺麗。でも35mmならともかくデジタル時代にCF、MTVと比べ革新的とは言えず、ウォン・カーワァイから四半世紀も経ってその評価かよと思ってしまう。ノワールなどと類型に押し込めず、鵞鳥湖周辺の事件ものくらいの認識が寂寥感をそそり味が出るのでは。
◎本気のしるし 劇場版
2020.10.23 シネ・リーブル池袋 [1800円/232分]
【120】2020年メ~テレ=ラビットハウス 監督:深田晃司 脚本:三谷伸太朗、深田晃司
CAST:森崎ウィン、土村芳、石橋けい、福永朱梨、宇野祥平、北村有起哉、忍成修吾、阿部純子、鶴田真由、山内健司
●辻一路の優柔不断ぶりとお節介、葉山浮世のだらしなさと虚言、細川先輩の切羽詰まった感、ミナちゃんの自己チューぶりと不快指数満点の人物たち。それらが休憩を挟んで愛すべき人物に逆転する鮮やかさ。寝不足の仕事帰りに4時間の上映が耐えられるのかと案じたが、まったくの杞憂だった。深田晃司の見事すぎる肯定の物語に感服した。
※2020年キネマ旬報ベストテン第5位
◎81/2
2020.10.24 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 8 1/2(OTTO E MEZZO) [1300円/140分]
【121】1963年イタリア 監督:フェデリコ・フェリーニ 脚本:F・フェリーニ、T・ピネリ、E・フライアーノ
CAST:マルチェロ・マストロヤンニ、クラウディア・カルディナーレ、アヌーク・エーメ、サンドラ・ミーロ
●やっと私の映画観賞履歴に「8 1/2」を入れることが出来た。ただ予想はしていたものの空中浮遊の度肝抜かれる冒頭から、有名な「人生は祭りだ」との境地に達するあまりに喧騒に満ちた巨人フェリーニの奔放な私小説映画に、観賞したというよりも体感してクタクタになったのが正直なところ。次に観られる機会があれば体調を整えておこう。
※1965年キネマ旬報ベストテン第1位
◎フェリーニのアマルコルド
2020.10.24 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 FEDERICO FELLINI AMARCORD [1300円/140分]
【122】1974年イタリア 監督:フェデリコ・フェリーニ 脚本:フェデリコ・フェリーニ、トニーノ・グエッラ
CAST:プペラ・マッジョ、マガリ・ノエル、アルマンド・ブランチャ、チッチョ・イングラッシア、ナンデーノ・オルフェイ
●綿が舞い、雪が舞い、孔雀が羽根を広げる港町リニミ。フェリーニの自伝というより記憶にある断片を繋いで一年間の物語に仕立てたなのだろう。なにが特別な一年だったかといえばやはり母を失った年だということか。中学の時からニーノ・ロータのメロディはずっと耳に馴染んでいて、映像とシンクロさせた場面には身を乗り出してしまった。
※1974年キネマ旬報ベストテン第1位
◎許されざる者
2020.10.29 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU UNFORGIVEN [1200円/132分]
【123】1992年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:デイヴィッド・ピープルズ
CAST:クリント・イーストウッド、ジーン・ハックマン、モーガン・フリーマン、リチャード・ハリス、ジェームス・ウールヴェット
●夜の日本橋を渡るまで脳内で右手に拳銃を握っていた。とんだ中二病だ。溜めに溜めて「これを劇場で見ずに死ねるか」に至った映画だが、素晴らしいの一言。豚を持て余し、泥に塗れ、馬から落ち、なかなか弾が命中しない。西部劇ヒーローの作り方として相当に挑戦的な映画。しかしそこにイーストウッドが存在する必然に満ち溢れていた。
※1993年キネマ旬報ベストテン第1位
◎朝が来る
2020.10.31 109シネマズグランベリーパーク:シアター10 [1300円/139分]
【124】2020年キノフィルムズ 監督:河瀨直美 脚本:河瀨直美、高橋泉
CAST:永作博美、井浦新、蒔田彩珠、浅田美代子、佐藤令旺、田中偉登、中島ひろ子、青木崇高、利重剛、平原テツ
●養子をめぐる通俗サスペンスと踏んでいた不徳を恥じたい。題名通り「朝」を迎える救済のドラマだった。人は東京湾と瀬戸内海に昇る朝日のように前に進まなければならない。そのナビゲーターとしてあらゆる映画言語を駆使しながら河瀬直美は人物に寄り添い、あるいは鳥の目線で引き、人物たちの背中を押してゆく。誠に恐れ入りました。
※2020年キネマ旬報ベストテン第3位
◎丹下左膳餘話 百萬両の壺 <4Kデジタル復元・最長版>
2020.11.01 EXシアター六本木 [1400円/92分] ※再観賞
【125】1935年日活 監督:山中貞雄 脚本:三村伸太郎、山中貞雄
CAST:大河内傳次郎、喜代三、沢村國太郎、山本礼三郎、鬼頭善一郎、阪東勝太郎、磯川勝、清川荘司、高勢実乗
●あの頃、山中貞雄の名前を知っていただろうか。とにかく学生時代、文芸坐での初見の衝撃たるや・・・。4回目の劇場観賞は東京国際映画祭にて4Kデジタル上映。さらに鮮明となった話芸の極み。85年の歳月など微塵も感じさせない夭折の天才ゆえの編集の妙はもはや語り草だが、怪物・大河内左膳の卓抜した可笑しさも懐の内だったのだろう。
◎罪の声
2020.11.01 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10 [1200円/142分]
【126】2020年TBS=東宝 監督:土井裕泰 脚本:野木亜紀子
CAST:小栗旬、星野源、古舘寛治、宇野祥平、松重豊、橋本じゅん、高田聖子、塩見三省、市川実日子、宇崎竜童、梶芽衣子
●結局テレビ屋は余白が撮れない。詰め込んで最大公倍数的になるので豪華な顔ぶれを揃え、海外にもロケして撮れ高は稼げても薄っぺらな印象しか残らず、たまに余白を意識すると蛇足となる。だからグリコ森永事件という格好の舞台装置も万人受けを狙って総花的となる。きっとテレビで放映されればそれなりには見られるのだろうが。
※2020年キネマ旬報ベストテン第7位
◎インビクタス/負けざる者たち
2020.11.03 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU INVICTUS [1200円/134分]
【127】2009年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:アンソニー・ペッカム
CAST:モーガン・フリーマン、マット・デイモン、ザック・フュナティ、グラント・L・ロバーツ、トニー・キゴロギ
●いやはや泣けた。見逃していたことを悔やむ限りだが、去年ラグビーW杯日本大会が大ブームとなり南アが見事に優勝。一方でBML運動が全米を席巻しているこのタイミングで観ることでLIVE感は十二分過ぎるくらい。それにしてもこの直球な感動作はどうしたものか。稀代の映画作家イーストウッドがエンタメのど真ん中にいた証しだろう。
※2009年キネマ旬報ベストテン第2位
◎真夜中のサバナ
2020.11.03 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホールOZU MIDNIGHT IN THE GARDEN OF GOOD AND EVIL [1200円/155分]
【128】1997年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:デイヴィッド・ピープルズ
CAST:ジョン・キューザック、ケヴィン・スペイシー、ジャック・トンプソン、ジュード・ロウ
●映画はサバナという街の異様さの道具立てにゲイを使っている。まだ90年代後半は社会がゲイに偏見を持っていた、、、いや映画がゲイを辛辣に否定するのが許されていたというべきか。それも含めイーストウッドの割にはリズムが不整脈を起こしているのかと思えるほどぎくしゃくしてテンポが悪い。故意だとするとその意図が判らなかった。
◎薬の神じゃない!
2020.11.04 新宿武蔵野館 我不是薬神/DYING TO SURVIVE [1100円/117分]
【129】2018年中国 監督:ウェン・ムーイエ 脚本:ウェン・ムーイエ、ハン・ジャニョ、ジョン・ワイ
CAST:シュー・ジェ、ワン・チュエンジュン、ジョウ・イーウェイ、タン・ジュオ、チャン・ユー、ヤン・シンミン
●すでに中国を、中国映画を上から見下ろす時代は終わったのだろう。我々が一方的に中国社会は制約だらけと思い込まされていることの大半は日本でも同じこと。むしろ彼らはよっぼと自由に映画を撮っているのではないか。どエンタメを貫きながら視線はきちんと社会へ向けられ、巧いこと泣きのヒューマンドラマに着地させたのはお見事だ。
◎ジオラマボーイ・パノラマガール
2020.11.07 イオンシネマ座間:スクリーンン5 [1100円/105分]
【130】2020年オフィス・シロウズ=イオン=boid 監督:瀬田なつき 脚本:瀬田なつき
CAST:山田杏奈、鈴木仁、滝澤エリカ、若杉凩、森田望智、平田空、持田唯颯、きいた、成海璃子、大塚寧々、遊屋慎太郎
●先日、映画の帰りに国立新美術館で東京の巨大ジオラマを見て、凄いパノラマだと思った。私はジオラマとパノラマの区別がついていないが男の子と女の子を俯瞰で見よというタイトルか。未読の岡崎京子の原作の力か、情緒がわからんGボーイより級友とのシスターフッドぶりが愉快なPガールのディティールがツボにはまり楽しかった。
◎生きちゃった
2020.11.07 イオンシネマ座間:スクリーンン5 [1100円/91分]
【131】2020年RIKIプロジェクト=ビッグアーチ 監督:石井裕也 脚本:石井裕也
CAST:仲野太賀、大島優子、若葉竜也、パク・ジョンボム、毎熊克哉、太田結乃、伊佐山ひろ子、嶋田久作、北村有起哉
●どこにも救いのないダークなストーリー。だけど石井裕也の語り口で一気に見せてしまう。閉塞一辺倒ではなく映画のどこかに換気扇が回っていたのではないか。主人公が口にする「日本人だから・・・」は私も頭をよぎることがあるが、そこからの脱却が自身の救済となるのか明確な答えがないまま終わらせたことの賛否はあるのだろうが。
◎メイキング・オブ・モータウン
2020.11.08 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 HITSVILLE: THE MAKING OF MOTOWN [無料/112分]
【132】2019年アメリカ=イギリス 監督・脚本:ベンジャミン・ターナー、ゲイブ・ターナー
CAST:ベリー・ゴーディ、スモーキー・ロビンソン、スプリームス、マーヴィン・ゲイ、スティービー・ワンダー、ジャクソンズ
●90歳のベリー・ゴーディと80歳のスモーキー・ロビンソン。ジジイ二人が元気一杯に昔話。それだけで多幸感に口元がほころんでしまう。テンプテーションズ「My Girl」の誕生秘話には心底驚くが、早熟の天才ぶりに驚嘆させられるスティービー・ワンダーとマイケル・ジャクソン。彼らはシジイ二人が嬉々として合唱する社歌を歌えるのだろうか。
◎ようこそ映画音響の世界へ
2020.11.08 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 MAKING WAVES: THE ART OF CINEMATIC SOUND [1100円/94分]
【133】2019年アメリカ 監督:ミッジ・コスティン 脚本:ボベット・バスター
CAST:ウォルター・マーチ、ベン・バート、ゲイリー・ライドストローム、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグ
●音響なくして映画が成り立たないのは知っているし、彼らスタッフを称えたいルーカスたちの思いも伝わる。ただ音響素材の種明かしが過ぎるのはどうなんだろう。『トップガン』の戦闘機の爆音が猛獣たちの雄叫びを加工したサウンドだったなど観客が知ってどうする。彼らは裏方かも知れないが、至福の仕事に就いた羨ましい存在なのだ。
◎おらおらでひとりいぐも
2020.11.15 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 [1000円/137分]
【134】2020年アスミックエース 監督:沖田修一 脚本:沖田修一
CAST:田中裕子、蒼井優、東出昌大、濱田岳、青木崇高、宮藤官九郎、田畑智子、山中崇、岡山天音、六角精児、鷲尾真知子
●孤独は寂しい。でも自由も愛おしく捨て難い。人生のアイロニーという奴か。泣いて笑って歌って踊って無慈悲にゴキブリを叩きのめしながらも終始静かな印象の田中裕子。つくづく彼女は“画持ち”がいい。しかし昨夏亡くした母が偲ばれるのかと思っていたら、老いていく自分自身が投影されていた。う~ん、なんともアイロニーだ。
◎シラノ・ド・ベルジュラックに会いたい!
2020.11.15 イオンシネマ海老名:スクリーン4 EDMOND [無料/112分]
【135】2018年フランス=ベルギー 監督:アレクシス・ミシャリク 脚本:アレクシス・ミシャリク
CAST:トマ・ソリヴェレス、オリヴィエ・グルメ、マティルド・セニエ、トム・レーブ、リュシー・ブジュナー
●不朽の舞台の爆笑メイキングの体裁をとりながら、知的なスクリューコメディになっており、大団円のカタルシスは今年1、2を争うもの。かつての東急名画座あたりで熱気ムンムンの中で観たかった。残念ながら観客は私ひとり(泣)。逆に言えば誰はばからず大笑いできた。舞台を知らなくてもしっかり内容を見せてくれるので予習は不要。
◎羅小黒戦記 (ロシャオヘイセンキ) ぼくが選ぶ未来
2020.11.18 TOHOシネマズ池袋 スクリーン7 羅小黒戦記 [1000円/105分]
【136】2019年中国 監督:MTJJ 脚本:MTJJ、ポン・クーシン、ホンシーシェンレイ
CAST:(声)花澤香菜、宮野真守、櫻井孝宏、斉藤壮馬、松岡禎丞、杉田智和、豊崎愛生、水瀬いのり、チョー、宇垣美里
●「人間も妖精もひとつの中国」などと不穏なフレーズが頭を過ぎったが、アニメの場数を踏んでいない私でもこの中国製アニメのクォリティには唸らされた。とくに地下鉄から都会のビル群を破壊せんばかりのアクションの切れ味。砕ける瓦礫が降り注ぐ場面は大友克洋「童夢」を彷彿とさせる。間違いなくジャパニメーションを脅かす一作。
◎ホテルローヤル
2020.11.19 TOHOシネマズ池袋:スクリーン8 [1000円/104分]
【137】2020年製作委員会=ファントム・フィルム 監督:武正晴 脚本:清水友佳子
CAST:波瑠、松山ケンイチ、余貴美子、原扶貴子、伊藤沙莉、岡山天音、内田慈、冨手麻妙、斎藤歩、夏川結衣、安田顕
●ラブホという安定した非日常の2時間休憩3800円で交錯する人生模様。往年の森崎東か前田陽一、はたまた西村昭五郎を懐かしむようなベタな展開、演出に劇音楽。今どき信じられないほどだが、下手だとはまったく思わなかった。少なくとも本編前のどの予告編より絶対面白いと確信した。店じまいとミカンが紡ぐ映画に失敗作はないのだ。
◎ばるぼら
2020.11.23 イオンシネマ座間:スクリーン8 [1100円/100分]
【138】2020年製作委員会=イギリス=ドイツ 監督:手塚眞 脚本:黒沢久子
CAST:稲垣吾郎、二階堂ふみ、渋川清彦、石橋静河、大谷亮介、渡辺えり、美波、片山萌美、ISSAY、藤木孝、佐藤頁三
●この映画に懐かしさを嗅いだ最大の要因は、直接的に「性愛」を描いていたことだ。性愛の行き着く先に「昇華」と「退廃」の二択があり、「再生」と「破壊」があるのだとすれば、そのすべてに帰結させようと試みる映画に久々に出会えたとの実感があった。性愛のもう一つの方向に「開放」があるのだとすれば、主演二人のことだろう。
◎Mank/マンク
2020.11.23 イオンシネマ座間:スクリーン9 MANK [1100円/145分]
【139】2020年アメリカ 監督:デヴィッド・フィンチャー 脚本:ジャック・フィンチャー
CAST:ゲイリー・オールドマン、アマンダ・セイフライド、チャールズ・ダンス、リリー・コリンズ、トム・ペルフリー
●面白く観られたが、最初は『市民ケーン』を執筆しながら、巨大スタジオを回想する二重構造に途惑った。もちろん物語が進むにつれ、これがマンク自身の回想ではなく、彼のL・B・メイヤーやA・タルバーグとの確執を通して描く戦中ハリウッド裏面史であったことがわかってくるのだが、MGMとその人脈を予習しておくべきだったかも知れない。
◎博士と狂人
2020.10.28 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 THE PROFESSOR AND THE MADMAN [1100円/124分]
【140】2018年イギリス=アイルランド=フランス=アイスランド 監督:P・B・シェムラン 脚本:P・B・シェムラン
CAST:メル・ギブソン、ショーン・ペン、ナタリー・ドーマー、エディ・マーサン、スティーヴ・クーガン
●辞典編纂の映画も時代なのか、私のiponeでは「狂人」が変換されない。4か国相乗りにも関わらず博士はスコットランド人で狂人はアメリカ人。実話伝記ものとして知のエンターティメントとなっているが、男二人の友情物語として楽しめる。例によって作品を1ランク底上げるS・ペンとメルギブの受け。髭ジイ同士のツーショットがいい。
◎異端の鳥
2020.11.28 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 NABARVENÉ PTÁČE [1100円/169分]
【141】2018年チェコ=スロバキア=ウクライナ 監督:ヴァーツラフ・マルホウル 脚本:ヴァーツラフ・マルホウル
CAST:ペトル・コトラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、ウド・キアー
●子供が虐待される映画、子供が怖い映画、そして気の遠くなるような異国の畏怖感。すべてが苦手だ。主人公の子がありとあらゆる暴力に遭遇しながらサバイブする3時間弱のうち、とうとう銃を手に仕返したとき、ちょっとだけ留飲を下げてしまう。これが映画の持つ業なのか。その留飲が戦場の狂気を生む本質なのかと思うとぞっとするが。
※2020年キネマ旬報ベストテン第6位
◎佐々木、イン、マイマイン
2020.12.01 新宿武蔵野館 [1000円/119分]
【142】2020年Shake,Tokyo 監督:内山拓也 脚本:内山拓也、細川岳
CAST:藤原季節、細川岳、萩原みのり、遊屋慎太郎、森優作、小西桜子、河合優実、井口理、鈴木卓爾、村上虹郎
●作品の良し悪しは関係なく、こういう映画を待っていたのだろうか。人生を踏み出すことの必然として行うべき決別の儀式を悉くやり過ごしてきた「そのうち大魔王」を自負する身として、悠二ほど時間を余らせているわけでもなく、さりとて佐々木ほど刹那的な人生を歩んできたわけではないが、彼らのしょーもない青春には大いに共感する。
◎燃ゆる女の肖像
2020.12.05 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン4 PORTRAIT DE LA JEUNE FILLE EN FEU [無料/122分]
【143】2019年フランス 監督:セリーヌ・シアマ 脚本:セリーヌ・シアマ
CAST:アデル・エネル、ノエミ・メルラン、ルアナ・バイラミ、ヴァレリア・ゴリノ
●終始印象に残ったのがエイローズの視線の強さ。意志と猜疑と探究に満ちた目ぢからをかいくぐり、エイローズを観察しなければならないマリアンヌ。ふたりの視線が交錯する海辺でのアップショットは語り草にしたい見事なカットだ。おかげで “28ページ” “ヴィバルディ”の恋物語の道具立てまとめた落としどころがやや霞んでしまったか。
※2020年キネマ旬報ベストテン第3位
◎怪談昇り竜
2020.12.07 新文芸坐 [1150円 /85分]
【144】1970年日活=ダイニチ映配 監督:石井輝男 脚本:石井輝男、曽根義忠(中生)
CAST:梶芽衣子、佐藤允、ホキ徳田、内田良平、大辻伺郎、砂塚秀夫、高樹蓉子、加藤嘉、晴海勇三、土方巽、安倍徹
●何十年か前に石井輝男のムーブメントがあり、サブカル連中によってすっかりカルト映画に祭られてしまったが、主題歌をバックに殴り込むというフォーマットは仁侠映画そのもの。ただ石井輝男の悪趣味が先走り「なんちゃって仁侠」になっている。「怪談」の妙味よりもグロさ最優先の中で、初めて「可愛い」という目線で梶芽衣子を見た。
◎やさぐれ姐御伝 総括リンチ
2020.12.07 新文芸坐 [ 〃 /86分]
【145】1973年東映 監督:石井輝男 脚本:掛札昌裕、関本郁夫、石井輝男
CAST:池玲子、内田良平、春日朱実、星野みどり、芹明香、碧川ジュン、栗はるみ、遠藤辰雄、凡天太郎、嵐寛寿郎
●久々に見る真赤な東映ギザ文字の企画・天尾完治、脚本・掛札昌裕、関本郁夫の並び。エログロナンセンスなど死語だろうが、このワード以外にどう評するべきか。年増感満載の20歳の池玲子が健気に座長芝居をこなしているのには感心したが、いかんせんしょーもなさ青天井。いい時代だったか。ただ悪ノリなら鈴木則文の方が見てられる。
◎アンダードッグ 前編
2020.12.12 イオンシネマみなとみらい:スクリーン6 [1100円/131分]
【146】2020年AbemaTV=東映ビデオ 監督:武正晴 脚本:足立紳
CAST:森山未來、北村拓海、勝地涼、瀧内公美、熊谷真実、水川あさみ、冨手麻妙、萩原みのり、風間杜夫、柄本明
●これ以上のものは要らない程度にまで突きつめたボクシング映画だとも思う。少なくとも前編は森山未來から醸されるニヒリズムとナルシズムが、物語にうまく融合して、「こいつは一体何を考えているのか」の興味で131分を見せている。ただ、どうしてもこの狭い世界観の息苦しさを否めないまま、後編を待つことになってしまった。
※2020年キネマ旬報ベストテン第4位
◎アンダードッグ 後編
2020.12.12 イオンシネマみなとみらい:スクリーン6 [1100円/145分]
【147】2020年AbemaTV=東映ビデオ 監督:武正晴 脚本:足立紳
CAST:森山未來、北村拓海、二ノ宮隆太郎、瀧内公美、熊谷真実、上杉柊平、芦川誠、新津ちせ、風間杜夫、柄本明
●作り手たちはボクシングに精通している筈なのに、所詮は競技ではなく映画。フィクションだしエンタメだしと、やはりこんな見せ方でしかボクシングの迫力は出せないのか。そもそも手持ちカメラで両者の打ち合いを多用していたが、一体誰の目線なのだろう。工夫と追及を重ねボクシング本来の魅力を見せられる映画だと思ったが残念だ。
※2020年キネマ旬報ベストテン第4位
◎ワンダーウーマン1984
2020.12.18 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン8 WONDER WOMAN 1984 [1100円/151分]
【148】2020年アメリカ 監督:パティ・ジェンキンス 脚本:デイヴ・キャラハム、ジェフ・ジョンズ、P・ジェンキンス
CAST:ガル・ガドット、ペドロ・パスカル、クリステン・・ウィグ、クリス・パイン、コニー・ニールセ、ロビン・ライト
●MARVELよりDCに馴染みがあるといっても所詮、アメコミ門外漢。L・カーターのカメオ出演に昔のもっさりしたTVシリーズを思い浮かべるのみだが、世界崩壊の大風呂敷を父と子の抱擁で決着させるのは大雑把。そもそもダイアナとスティーブの一夜のお楽しみの間にどれだけ事態を悪化させたことか。久々のエンタメ公開に野暮ではあるが。
◎ウルフウォーカー
2020.12.19 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 WOLFWALKERS [無料/103分]
【149】2020年アイルランド=ルクセンブルク 監督:トム・ムーア、ロス・スチュアート 脚本:ウィル・コリンズ
CAST:(声)オナー・ニーフシー、エヴァ・ウィッテカー、ショーン・ビーン、マリア・ドイル・ケネディ、トミー・ティアマン
●作り手たちの思いが詰まったロビンとメーヴが森の中で転げ回る場面の多幸感。もう最高。涙が出る。教条主義的セリフなど何ひとつないのに物語のうねりに添ってハラハラ、ドキドキさせながらアイルランドの歴史、自然と人間、親子の絆、友情の尊さに現代の社会問題すらインプットされていく。もう脳が喜ぶのを止めようがない大傑作!
◎ミセス・ノイズィ
2020.12.20 TOHOシネマズららぽーと横浜:スクリーン2 [無料/106分]
【150】2020製作委員会=アークエンタテイメント 監督:天野千尋 脚本:天野千尋、松枝佳紀、加藤正人
CAST:篠原ゆき子、大高洋子、長尾卓磨、新津ちせ、宮崎太一、米本来輝、和田雅成、田中要次、洞口依子、風祭ゆき
●物語そのものに仕掛けがあり、観終わった後は「これは面白い」と思ったものの、時間が経つにつれもっと面白く出来たのではないかと思い至った。マスメディアやSNS投稿にわかりやすい悪を求め “いい話”にまとめようとしたことで作品を浅くしてしまった。せっかくの真っ直ぐな胡瓜と曲がった胡瓜など、もっと比喩を活かして欲しかった。
◎ハッピー・オールド・イヤー
2020.12.23 新宿シネマカリテ ฮาวทูทิ ้ง.ทิ ้งอย่างไรไม่ใหเ้หลอืเธอ [1100円/120分]
【151】2019年タイ 監督:ナワポン・タムロンラタナリット 脚本:ナワポン・タムロンラタナリット
CAST:チュティモン・ジョンジャルーンスックジン、サニー・スワンメーターノン、サリカー・サートシンスパー
●“断捨離”。私はこの言葉が大嫌いだ。物を断ち切り捨てて離つことを必要なほど切羽詰まった生き方はしていないし、そこで得られる充足感など知れていると思っているし、なにより単純に片付けと掃除が苦手だ(笑)ジーンは断捨離を敢行することで人を傷つけ、自ら傷を負う。それ見たことかと思いながら、それを映画で語る才能に驚いた。
◎ネクスト・ドリーム ふたりで叶える夢
2020.12.25 イオンシネマ新百合ヶ丘:スクリーン4 THE HIGH NOTE [1100円/114分]
【152】2020年アメリカ 監督:ニーシャ・ガナトラ 脚本:フローラ・グリーソン
CAST:ダコタ・ジョンソン、トレイシー・エリス・ロス、ケルビン・ハリソン・ジュニア、アイス・キューブ、ビル・プルマン
●あっという間に忘れられそうな邦題も残念だが、テクニカルな思いつきだけでショービジネスのノウハウもわからぬ小娘マギーの成功物語というのもどうしたものか。歌姫グレースとマギーが目をかけた若者が実は・・・というドンデン返しからのサプライズ・デュエットのあまりの通俗展開の方にむしろ音楽へのリスペクトを感じさせるのだが。
◎レイト・アフタヌーン
2020.12.26 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LATE AFTERNOON [ 〃 /9分]
【153】2017年アイルランド 監督:ルイーズ・バグナル 脚本:ルイーズ・バグナル
CAST:(声)フィオヌラ・フラナガン、ルーシー・オコンネル、ルイーズ・バグナル
●極端に省略されたふわっとしたタッチで始まるお婆ちゃんの9分間の時間旅行。介護ヘルパーのように事務的に振る舞う女性が実の娘だとわかった時の奇跡。おそらく母に顔と名前を忘れられて少なからぬ時間が経過していたのだろう。砂浜に“kate”の文字が書かれた瞬間の感動。物語よりも絵のタッチだけで人生を見せてもらった。
◎ブレッドウィナー
2020.12.26 川崎市アートセンター アルテリオ映像館 LATE AFTERNOON [1100円 /94分]
【154】2017年アイルランド=カナダ=ルクセンブルク 監督:ノラ・トゥーミー 脚本:アニータ・ドロン
CAST:(声)サーラ・チャウディリー、ソーマ・チハヤー、ラーラ・シディーク、シャイスタ・ラティーフ、アリ・バドシャー
●多様性以前に女であることで忌み嫌われる世界。百年も前の出来事かと思いきや、現実に空には戦闘機、砂漠には戦車が横たわる。少年になることで得られる束の間の自由。とても冒険とまではいかないパヴァーナの武器は物語を夢想すること。カートゥン・サルーンが象の魔王に献上した種は『ウルフウォーカー』として芽吹いたのだろうか。
◎私をくいとめて
2020.12.27 109シネマズグランベリーパーク:シアター10 [無料/133分]
【155】2020年製作委員会=日活 監督:大九明子 脚本:大九明子
CAST:のん、林遣都、橋本愛、臼田あさ美、若林拓也、前野朋哉、山田真歩、片桐はいり、吉住、岡野陽一、(声)中村倫也
●あきちゃんでもすずさんでもなく、みつ子として映画を支配したのん。堂々たる君臨ぶりで、完全に彼女の一挙手一投足と猫背を楽しむための映画だ。出来れば歯医者さんからのドタバタ逃走劇も描いて欲しかったが、イタリアでの橋本愛とのバディ感がたまらなく素敵。のんと大九明子監督の顔合せはもはやエキセントリックな必然だったか。
◎クローゼット
2020.12.28 シネマート新宿2 클로젯 THE CLOSET [1200円/98分]
【156】2020年韓国 監督:キム・グァンビン 脚本:キム・グァンビン
CAST:ハ・ジョンウ、キム・ナムギル、ホ・ユル、キム・シア、シン・ヒョンビン、キム・スジン、パク・チア、パク・ソンウン
●ポスターには“ミステリーサスペンス”とあり、仕事納めの気楽さで寄ってみたらコテコテのホラーではないか。しかもデカい音でビクっとさせるショッカー系、苦手このうえない。恐る恐るクローゼットを開けてみたら真後ろに血塗れの少女が!やめてくれ~と思ったが、後半から撮影現場が容易に想像されて一気に冷めた。ま、こんなもんだ。
◎ザ・プロム
2020.12.29 ヒューマントラストシネマ有楽町 THE PROM [1100円/130分]
【157】2020年アメリカ 監督:ライアン・マーフィー 脚本:ボブ・マーティン、チャド・ベグリン
CAST:メリル・ストリープ、ニコール・キッドマン、ジェームズ・コーデン、キーガン=マイケル・キー、ケリー・ワシントン
●もうすでにNetflixで配信が始まっているが、もちろんスクリーンで観ても遜色のないように出来ているばかりか、むしろスクリーンでは観られなくなった豪華なミュージカル映画。大スターたちが歌って踊って楽しいが、プロムといえば『キャリー』という程度しか馴染みはなく、性マイノリティ以前に異人種カップルは問題とならないのか。
◎また、あなたとブッククラブで
2020.12.29 ヒューマントラストシネマ有楽町 BOOK CLUB [1100円/104分]
【158】2018年アメリカ 監督:ビル・ホールダーマン 脚本:ボブ・マーティン、エリン・シムズ
CAST:ダイアン・キートン、ジェーン・フォンダ、キャンディス・バーゲン、メアリー・スティーンバージェン
●ハリウッド版「やすらぎの郷」みたいな映画と思いきや、失礼ながらババアとなった大女優たちが寄り添って発情体験を自慢する映画だった。C・バーゲンのエピソードなど殆どティーンムービーのノリだ。でも頑張ってんな。笑えるがロマンチックな映画で楽しめる。J・フォンダはもう80歳超えではないか!彼女たちのお達者ぶりが嬉しい。
◎滑走路
2020.12.29 角川シネマ有楽町 [1100円/120分]
【159】2020年製作委員会=KADOKAWA 監督:大庭功睦 脚本:桑村さや香
CAST:水川あさみ、浅香航大、寄川歌太、木下渓、池田優斗、吉村界人、染谷将太、水橋研二、池内万作、坂井真紀
●映画は過去と現在が交錯する。しばらくの間、現在のタカノが少年時代を回想しているのだと思っていた。翠と天野はわかるとして、タカノはシュンスケのつもりで観ていた。過去場面は誰の回想でもなかったのだ。誰もタイムマシーンなど持ってはいない。この映画は、作品評価の以前に、語られていることの是非を自分に問う映画なのか。
◎ホモ・サピエンスの涙
2020.12.29 ヒューマントラストシネマ有楽町 OM DET OÄNDLIGA [1100円/76分]
【160】2019年スウェーデン=ドイツ=ノルウェー 監督:ロイ・アンダーソン 脚本:ロイ・アンダーソン
CAST:マッティン・サーネル、タティアーナ・デローナイ、アンデシュ・ヘルストルム、ヤン=エイエ・フェルリンク
●初めてのロイ・アンダーソン作品。退屈はしなかったが33カットワンシーンの連続するひとつひとつの映像に脈絡もテーマも見い出すことは出来なかったし、その集合体である76分に人間の哀しさ、可笑しさ、儚さのモチーフも見つけられらかった。正直、ほぼ白人だけで完結させてホモ・サピエンス全体を語られても心は揺さぶられないのだ。
◎パリのどこかで、あなたと
2020.12.30 新宿シネマカリテ DEUX MOI [1100円/110分]
【161】2019年フランス 監督:セドリック・クラピッシュ 脚本:セドリック・クラピッシュ
CAST:アナ・ジラルド、フランソワ・シヴィル、シモン・アブカリアン、アイ・アイダラ、レベッカ・マルデール
●出会いそうで出会えないふたり。雑貨屋の店主のこと、浴室で鳴らした音楽のこと、居なくなった猫のこと、ふたりが付き合う内に答え合わせをしていくのだろうと想像すると楽しい。描かれていない場面まで想像して楽しんだのだから、私にとって悪い映画ではなかった。もともとboy meets girlものは神の視線になれるので楽しいのだが。
◎コンボイ
2020.12.30 新文芸坐 CONVOY [1200円/104分] ※再観賞
【162】1978年アメリカ 監督:サム・ペキンパー 脚本:B・W・L・ノートン
CAST:クリス・クリストファーソン、マリ・マックグロー、アーネスト・ボーグナイン、バート・ヤング、マッジ・シンクレア
●高校生のとき鳴り物入りで公開され、渋谷パンテオンまでワクワクしながら観に行って、なんだよペキンパー!と大いにがっかりした記憶がある。改めて観ると確かに男臭さは満載で、メキシコを目指すあたりペキンパー印そのものではあるのだけど、バイオレンスがあまりに希薄なため、大型トレーラーとCB無線の羅列だけで終わっている。
◎戦争のはらわた
2020.12.30 新文芸坐 CROSS OF IRON [ 〃/133分]
【163】1977年西ドイツ=イギリス 監督:サム・ペキンパー 脚本:ジュリアス・J・エプスタイン、ウォルター・ケリー他
CAST:ジェームズ・コバーン、マクシミリアン・シェル、ジェームズ・メイソン、センタ・バーガー、デイヴィッド・ワーナー
●公開時よりずっと観たかった。年内で上映権が終了と聞いて駆けつけたわけだ。いやはやカルト的名作といわれるだけのことはある。CGなどない時代にここまで白兵戦の地獄を描き切った映画もない。バイオレンスが縦横無尽に横溢する戦場というフィールドを得てサム・ペキンパーが躍動している。そしてコバーンのなんとカッコいいこと。
◎his
2020.12.31 アップリンク渋谷 [1000円/127分]
【164】2020メ~テレ=ファントムフィルム 監督:今泉力哉 脚本:アサダアツシ
CAST:宮沢氷魚、藤原季節、松本若菜、松本穂香、外村紗玖良、中村久美、鈴木慶一、根岸季衣、堀部圭亮、戸田恵子
●ずっと射程に入れながらコロナで胡散霧消して見逃していた今泉力哉作品を土壇場で捕まえた。文句なし。絶対に今年観ておくべき映画。恋愛を描きながらゲイカップルの存在がもたらす社会とのコミュニケーションのあり方や親権の問題も大いに考えさせられる。ダイバーシティという耳障りの良い言葉の裏にある苦悩をしっかり描いた力作。
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