●2015年(平成27年)

 三行の映画評


百円の恋
2015.01.06 テアトル新宿
【01】2014年東映ビデオ 監督:武正晴 脚本:足立紳
CAST:安藤サクラ、新井浩文、稲川実代子、早織、宇野祥平、沖田裕樹、吉村界人、伊藤洋三郎、重松収、根岸季衣
●自堕落な三十路女が一念発起してボクシングの試合に挑む。どんなに情報を遮断してもこの程度の話しは入ってくるし、大体こんな映画だと想像もしてしまうだろう。しかし、その自堕落さとボクシングの左右の振り幅の激しさ、天晴れさで想像を遥かに超えてしまう。日本映画は今後、この主演女優をどう使いこなしていくのだろう。
※2014年キネマ旬報ベストテン第8位


バンクーバーの朝日
2015.01.14 TOHOシネマズ日劇:スクリーン2
【02】2014年フジテレビ=東宝 監督:石井裕也 脚本:奥寺佐渡子
CAST:妻夫木聡、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、高畑充希、池松壮亮、石田えり、徳井優、鶴見辰吾、佐藤浩市
●バンクーバーの日系移民たちが生きた背景を、いかにも絵コンテ通りきっちりといい絵に仕上げた感じだが、石井裕也が描きたかったものが、時代なのか、日本人なのか、はたまた野球だったのか、どこか消化不良気味で最後までよく解らなかった。余韻として激動の時代にASAHIというチームが異国に存在したことへの郷愁は伝わったのだが。


ゴースト/ニューヨークの幻
2015.01.18 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 GHOST
【03】1990年アメリカ 監督:ジェリー・ザッカー 脚本:ブルース・ジョエル・ルービン
CAST:パトリック・スウェイジ、デミ・ムーア、ウーピー・ゴールドバーグ、トニー・ゴールドウィン、リック・アビレス
●天に召すサムはモリ―に永遠の愛を言い残すのではなく、彼女の残りの人生を解放して自由を与えるべきではなかったのか。それもあってビデオで観た時は変な恋愛映画だなという印象だったが、今日は良く出来たサスペンス映画として大いに楽しめた。そしてデミ・ムーアってなんてキュートだったんだろうと思った。今更ではあるが。


6才のボクが、大人になるまで。
2015.01.27 TOHOシネマズ シャンテ1 BOYHOOD
【04】2014年アメリカ 監督:リチャード・リンクレイター 脚本:リチャード・リンクレイター
CAST:エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、ローレライ・リンクレーター、イーサン・ホーク、イライジャ・スミス
●「一瞬とは今訪れていること」なる境地は、12年間カメラを回し続けてきたリンクレイターと、6歳から18歳まで撮られ続けた男の子が得た感慨だったのだろうか。3時間近くかけて綴る体験的な家族の成長物語としては、ある意味で凡庸な日常ではあるのだが、その凡庸さゆえに等身大の人生讃歌となる。これも映画の可能性なのか。
※2014年キネマ旬報ベストテン第2位


ベイマックス
2015.01.28 TOHOシネマズ海老名:スクリーン2 BIG HERO 6
【05】2014年アメリカ 監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ 脚本:ロバート・L・ベアード、ダニエル・ガーソン
CAST:(声)ライアン・ポッター、スコット・アツィット、T・J・ミラー、ジェイミー・チャン、デイモン・ウェイアンズJr.
●予告編からハートフルな色合いを想像していたが、主人公の少年が最初から好戦的な性格なのに驚いていたら、マーベル社のアメコミヒーロー活劇だった。実に普通のアクションアニメなのだが、さすがディズニーだけに映像のクオリティーは半端ではない。お涙頂戴よりもアクションにカタルシスを求めた作風は嫌いではなかった。


ジョーカー・ゲーム
2015.02.07 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1
【06】2015年日本テレビ=東宝 監督:入江悠 脚本:渡辺雄介
CAST:亀梨和也、深田恭子、小澤征悦、小出恵介、山本浩司、渋川清彦、田口浩正、光石研、嶋田久作、伊勢谷友介
●家で寝そべりながらTVにツッコミ入れながらも結構楽しんでいる感覚か。いやクソくだらねぇ映画なんだけど、かつて我々(!)が愛した石井輝男や鈴木則文のナンセンスアクションと比べれば数段上のセンスであることは認めねばならないだろう。物語も出演者も恐ろしいほどリアリティがないことが、むしろ持ち味になっている。


飢餓海峡
2015.02.11 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1
【07】1965年東映 監督:内田吐夢 脚本:鈴木尚之
CAST:三國連太郎、左幸子、伴淳三郎、高倉健、加藤嘉、三井弘次、沢村貞子、藤田進、風見章子、亀石征一郎
●長いこと白黒3時間のボリュームに慄いて未見のままだった。あゝなんて馬鹿だったのだろう。この飢餓感は十代の終わりにこそ味わっておくべきだった。巨匠たちが腕を競った時代の金字塔であり、主役3人のそれぞれ最高のメモリアルだ。このギラギラ、ザラザラした感触は尋常ではなく、3時間なんてあっという間に過ぎた。
※1964年キネマ旬報ベストテン第5位


中島みゆき「縁会2012~3」 劇場版
2015.02.13 丸の内ピカデリー3
【08】2015年ヤマハ=ローソンHMVエンタテイメント 監督:翁長裕
CAST:中島みゆき(LIVE)
●還暦を過ぎてますます凄くなっている中島さんの3年前のLIVE映画。もちろん生の臨場感には遠く及ぶものではないが、実際のコンサートでは得られない中島さんの表情をアップで堪能出来るのは大いなる利点だ。実際、改めてスクリーンで観ると『縁会』はいいLIVEだったと実感した。ただ『世情』はMCから入って欲しかったと思ったが。


東京丸の内
2015.02.16 新文芸坐
【09】1962年東映 監督:小西通雄 脚本:大川久男、池田雄一
CAST:高倉健、佐久間良子、小林哲子、安井昌二、柳永二郎、小林裕子、谷幹一、亀石征一郎、加藤嘉、千秋実、三宅邦子
●源氏鶏太原作で、社員食堂の場所取りや昼休みの屋上ボール遊びなどの風景を織り込んで、恋愛に余念がない男女子社員を描く典型的なサラリーマンもの。東宝なら宝田明が主役をやっていそうな役どころでも中心にいるのは我らが高倉健。任侠映画以前の健サン主演映画は初めて観るか。饒舌で明るい健サンだが、三白眼とのギャップが…。


万年太郎と姐御社員
2015.02.16 新文芸坐
【10】1961年ニュー東映 監督:小林恒夫 脚本:舟橋和郎
CAST:高倉健、星輝美、月形龍之介、小林裕子、伊藤雄之助、十朱久雄、大村文武、花澤徳衛、山東昭子、上田吉二郎
●北海道を目の前にして「ボーイズビーアンビシャス!」と絶叫する健サン。『網走番外地』や『日本侠客伝』以前に、いや自分の生まれ年に「太郎もの」なる熱血サラリーマンシリーズがあったことを初めて知った。爽やかさとユーモア溢れる健サンがふと垣間見せる硬質感に、番外地の橘を見てしまうのは舞台が北海道だからか。


悪魔の手毬唄
2015.02.17 新文芸坐
【11】1961年ニュー東映 監督:渡辺邦男 脚本:渡辺邦男、結束信二
CAST:高倉健、小野透、志村妙子、神田隆、北原しげみ、山本麟一、八代万智子、中村是好、花澤徳衛、大村文武
●以前からこの映画の存在は知っていたが、登場人物たちが健サンに「金田一さん」と呼びかける違和感はデューク東郷の比ではない。スポーツカーで颯爽と乗り込む金田一となれば横溝正史とは別もので、内容も殆んどオリジナル。市川崑&石坂浩二版をリメイクといったら失礼だ。ただ関係者が死んだ後に推理を披露する金田一像は一緒。


恋と太陽とギャング
2015.02.17 新文芸坐
【12】1962年ニュー東映 監督:石井輝男 脚本:石井輝男、佐治乾
CAST:高倉健、丹波哲郎、三原葉子、清川虹子、千葉真一、小宮光江、江原真二郎、曽根晴美、由利徹、山下敬二郎
●石井輝男お得意の荒唐無稽な青春ギャングもので、旺盛な娯楽志向は認めるが、あまりに場当り的でせっかく面白いメンバーが揃っているのに残念。もう少し欲望に駆り立てられるギラギラ感とか、能天気に装われたロマンティシズムがあってもいい。そこに上手く乗れないがために石井輝男フリークのサブカル連中とは一線を画したいのだ。


ならず者
2015.02.18 新文芸坐
【13】1964年東映 監督:石井輝男 脚本:石井輝男
CAST:高倉健、丹波哲郎、杉浦直樹、三原葉子、南田洋子、加賀まりこ、江原真二郎、安部徹、鹿内タカシ、今井健二
●モダニズムとスタイリッシュ。こういう映画を観ると石井輝男は、どれだけ守備範囲が広いのだと、そのカルト人気に頷いてしまう。残念ながら痛みの激しいプリントで退色も厳しく、演出のテンポなのか単なる画飛びなのか判然としない状態だったが、マカオの船着き場でひとり待つ南田洋子の俯瞰ショットまで一気に見せてくれる。


いれずみ突撃隊
2015.02.18 新文芸坐
【14】1964年東映 監督:石井輝男 脚本:石井輝男
CAST:高倉健、杉浦直樹、津川雅彦、朝丘雪路、砂塚秀夫、三原葉子、春風亭柳朝、殿岡ハツエ、安倍徹、潮健児
●『網走番外地』以前の石井=高倉の映画は、とにかく最後は健サンが華々しく玉砕して終わる。これは初めて刺青晒して斬り込みを披露した記念碑的映画。石井輝男は極端に面白い映画と極端につまらない映画しか観ることがない気がするが、続けて観ると石井輝男の墓標に健サンが名を刻んだ理由が何となくわかるような気がした。


狼と豚と人間
2015.02.19 新文芸坐 ※再観賞
【15】1964年東映 監督:深作欣二 脚本:佐藤純彌、深作欣二
CAST:高倉健、三國連太郎、北大路欣也、中原早苗、江原真二郎、石橋蓮司、岡崎二朗、沢彰謙、室田日出男
●4回目の観賞。そうか深作の追悼上映会からもう12年が過ぎたか。あの時ゲストに来ていた中原早苗も逝去してしまった。そんな時の流れの儚さは自分をしてますます唾を吐き捨てた三國の豚野郎への共感に傾く一方なのだが、ネズミの死骸を投げつけられるほどしぶとく生きているわけではない。それにつけても愛おしい映画ってあるものだ。


ジャコ萬と鉄
2015.02.19 新文芸坐 ※再観賞
【16】1964年東映 監督:深作欣二 脚本:黒澤明、谷口千吉
CAST:高倉健、丹波哲郎、山形勲、江原真二郎、高千穂ひづる、南田洋子、大坂志郎、入江若葉
●12年前に観たときほど“男騒ぎ”はしなかったが、今回は丹波哲郎のジャコ萬の格好良さに“男惚れ”したい気分に。よくよく観るとこの映画は決して深作の世界観ではないのだが、オーソドックスな演出の中に深作ダイナミズムは再確認することが出来る。寡黙でもストイックでもない熱血な健サンを楽しめるスター映画という位置づけか。 


侠骨一代
2015.02.23 新文芸坐
【17】1967年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:村尾昭、松本功、山本英明
CAST:高倉健、藤純子、大木実、志村喬、宮園純子、山本麟一、関山耕司、石山健二郎、今井健二、天津敏、名和宏
●実に久々の任侠映画で、長年見逃していた一編。最高の男と女が心意気で織りなす禁欲で濃密な世界。健サンと純子さんだからこそ到達しうる高みだろう。牛乳瓶の口を拭き取る純子さんの所作にマキノ演出の妙が集約している。更に主人公がやくざではなくイナセな職工であり、職工仲間から乞食に至るまで懐かしいマキノ節を堪能した。


博徒一家
2015.02.25 新文芸坐
【18】1970年東映 監督:小沢茂弘 脚本:村尾昭
CAST:高倉健、鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、大木実、志村喬、渡辺文雄、玉川良一、志賀勝、桜町弘子、遠藤辰雄
●昔読んだ記事で「通のファンはあまりこの人の映画には期待しない」と名指しされた小沢茂弘。確かにこの監督の名演出や名場面はなかなか浮かばない。それでも豪華スターをそつなくまとめる手腕には一目置くべきだ。要は加藤泰や山下耕作のような芸術性より健サン、鶴さんがカッコ良ければそれでいい。・・・健サン、カッコ良かった。


人生劇場 飛車角
2015.02.25 新文芸坐
【19】1963年東映 監督:沢島忠 脚本:直居欽哉
CAST:鶴田浩二、高倉健、佐久間良子、月形龍之介、梅宮辰夫、加藤嘉、村田英雄、曽根晴美、田中春夫、水島道太郎
●任侠路線の黎明期を飾る記念碑的作品。学生時代に尾崎士郎の原作は貪るように読んだが、あの小説を拡大解釈しているに違いない任侠映画には食指が動かなかった。意外にも『愛欲篇』『残侠篇』の世界観を巧みに拾い上げていたことに驚いた。もちろん随所に荒削りで任侠映画のカタルシスの完成まで至っていたないところがむしろ新鮮。


地上より永遠に
2015.02.28 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 From Here to Eternity ※再観賞
【20】1953年アメリカ 監督:フレッド・ジンネマン 脚本:ダニエル・タラダッシュ
CAST:バート・ランカスター、モンゴメリー・クリフト、フランク・シナトラ、デボラ・カー、アーネスト・ボーグナイン
●目黒で観てから32年も経つのか・・・。有名な波打際のラブシーン(たったの数十秒)以外は真珠湾攻撃くらいしか憶えていなかった。正直、当時はこんな戦場での不倫劇は強引だと思ったに違いないが、誰に感情移入させるでもない軍隊ものを最後まで見せ切ってしまうテンポに、改めて巨匠フレッド・ジンネマンの作劇の巧さが確認できる。


四畳半襖の裏張り
2015.03.10 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【21】1973年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:宮下順子、江角英明、絵沢萠子、芹明香、丘奈保美、山谷初男、東まみ、粟津號、吉野あい
●傑作の評判に誘われて19の夏に観た時はどこが面白いのやらさっぱりわからなかった。あれから35年経って、すれからっしのド中年になっても神代辰巳の豊饒な世界観に途惑うことしばしだ。しかし米騒動、シベリア出兵、大正デモクラシーの狂乱の中にあっても男と女はまぐわい続けるのだという可笑しみに「人間万歳」の粋は見てとれた。
※1973年キネマ旬報ベストテン第6位


悶絶!!どんでん返し
2015.03.13 シネマヴェーラ渋谷
【22】1977年日活 監督:神代辰巳 脚本:熊谷禄朗
CAST:鶴岡修、遠藤征慈、谷ナオミ、宮井えりな、粟津號、牧れいか、あきじゅん、結城マミ、長弘、八代康二、庄司三郎
●劇場が一気に70年代名画座の場末感に包まれる。しょーもない下ネタ満載の映画だが、ずっと笑っていた。鶴岡修の怪演に彼がここまで存在を主張出来ることを今更ながら知る。神代辰巳を芸術で語って何になる?という明確な答えがここにあるのだが、全編に氾濫するBGMに浸りながら、神代を観ている最中なんだと幸せな気分を満喫した。


女渡世人・おたの申します
2015.03.15 新文芸坐 ※再観賞
【23】1971年東映 監督:山下耕作 脚本:笠原和夫
CAST:藤純子、菅原文太、待田京介、島田省吾、三益愛子、金子信雄、遠藤辰雄、南利明、三原葉子、藤浩、林彰太郎
●純子さん主演の女任侠の魅力は、健サン、鶴さん、文太の流れ者たちが彼女の中に母性を見る瞬間のときめきだった。それが純子さん自身が三益愛子との母ものの当事者になる骨子に笠原和夫も野暮な話にしたものだと思っていた。しかしラストで「おっ母さん!」と叫ぶ純子さんに涙腺決壊。初見からそういう歳月を経たということだろう。


緋牡丹博徒・お竜参上
2015.03.15 新文芸坐 ※再観賞
【24】 1971年東映 監督:加藤泰 脚本:鈴木則文、加藤泰
CAST:藤純子、菅原文太、若山富三郎、嵐寛寿郎、山岸映子、沢淑子、長谷川明男、安倍徹、天津敏、近藤洋介、汐路章
●高校生の時、郵便局のバイトの面接に遅刻して渋々帰宅してテレビをつけたらこの映画が放送されていた。そこで自分の人生が一変したのだったか。その後、名画座でこの映画を立て続けに追っかけて、「これはいかん」となって観賞を封印した。それから35年。運命の一本がまったく色褪せていなかった。まさに人生の僥倖だと思いたい。


悪女の仮面~扉の陰に誰かが
2015.03.15 シネマヴェーラ渋谷
【25】 1980年にっかつ=テレビ朝日 監督:神代辰巳 脚本:田中陽三、伊藤秀裕
CAST:いしだあゆみ、酒井和歌子、浅野温子、山本圭、中尾彬、石橋蓮司、河原崎長一郎、宮井えりな、絵沢萌子
●土曜ワイド劇場からのフューチャーかと思われる。この頃はフィルムで撮られていた。スタッフがすべてにっかつのメンバーで構成されているがテレビドラマだけにまったく神代辰巳の息づかいは皆無。でもこういうサイコサスペンスものも普通に撮るあたりは撮影所叩き上げの面目躍如か。基礎が出来ているということだろう。


赤線玉の井・ぬけられます
2015.03.15 シネマヴェーラ渋谷
【26】 1974年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:宮下順子、蟹江敬三、芹明香、丘奈保美、清水国雄、絵沢萌子、前野霜一郎、中島葵、殿山泰司、粟津號、吉野あい
●玉の井は昨日行った東向島の界隈で、昔ここに赤線があった。ずっと未見のままで気になっていた作品をようやく観る。滝田ゆうの漫画が挿入され、全編、神代節で貫かれているが、当時の皇太子ご夫妻の写真までインサートし、君が代を口ずさむあたりは当時の映倫が大らかだったというより、神代がよっぽど自由だったのだろう。


関東テキヤ一家
2015.03.16 新文芸坐
【27】 1969年東映 監督:鈴木則文 脚本:村尾昭
CAST:菅原文太、待田京介、南利明、大木実、桜町弘子、土田早苗、寺島達夫、嵐寛寿郎、渡辺文雄、川津清三郎
●鶴さん、健サンが醸し出すコクとは雲泥の差があるのは高校生で確認済み。文太としては山下耕作や小沢茂弘ではなく鈴木則文とのタッグを意識していたというが、任侠ものの宿命で最後は殴り込みという公式は動かしようがなく、彼らの資質とテーマとの顕著なズレ具合がどんどんキツい方向に進んでいく。それが今は微笑ましかった。


関東テキヤ一家・天王寺の決斗
2015.03.15 新文芸坐
【28】 1970年東映 監督:鈴木則文 脚本:高田宏治
CAST:菅原文太、伊吹吾郎、清川虹子、葉山良二、武原英子、曾我廼家明蝶、小池朝雄、山城新伍、南利明
●“東映第三の男”の地位を確たるものとした文太の存在感の高みと、鈴木則文のあえて路線から外していく才能が開花、おそらくシリーズでも最高の出来となったのではないか。ちょうど万博で湧く当時の大阪の雰囲気も楽しく、「セクスポ ’70」には笑わせてもらった。「泣かす場面」が「泣ける場面」にならないのは相変わらずだが。


まむしの兄弟・恐喝三億円
2015.03.17 新文芸坐
【29】1973年東映 監督:鈴木則文 脚本:高田宏治
CAST:菅原文太、川地民夫、松方弘樹、堀越光恵、三島ゆり子、今井健二、菅井きん、河津清三郎、渡辺文雄
●思えば大学生の時、旧文芸坐で『まむしの兄弟』をオールナイトで観たのだったか。田んぼの畦道で文太を真ん中にオバはんたちズラリ横一線での立ち小便。鈴木則文がどんだけ東映の観客の偏差値を低く見積ってたやらで苦笑させられるが、すっかり看板俳優となった文太なら何をやっても面白く見せられるという自信もあったのだろう。


黒薔薇昇天
2015.03.17 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【30】1975年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:岸田森、谷ナオミ、芹明香、谷本一、高橋明、庄司三郎、山谷初男、牧嗣人、東てる美
●初見の時は「FUCKは芸術!」と絶叫する岸田森の怪演をただボーと観ていた。昔のキネ旬の批評欄で岸田が演じたブルーフィルムの巨匠に神代が自らを投影しているとの記事を読んだが、改めて観るとそれはないなと思う。芸術とは別方向に突進するかのような岸田とナオミ姐のカラミを追う名手・姫田真佐久の長回しのカメラが絶妙。


青春の蹉跌
2015.03.17 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【31】1974年東宝 監督:神代辰巳 脚本:長谷川和彦
CAST:萩原健一、桃井かおり、河原崎健三、森本レオ、壇ふみ、赤座美代子、荒木道子、高橋昌也、上月佐知子、芹明香
●80年代から今まで面白い青春映画はあったとしても、この作品みたいに観る者に爪痕を残すような青春像がどれだけ創出されのだろうか。ショーケンがなんてカッコいいのだろう。ふと『太陽がいっぱい』のアラン・ドロンが過る。そして等身大の桃井かおり。二人がエンヤートットと雪山の道往きに井上尭之のテーマ曲。もうたまらんな。
※1974年キネマ旬報ベストテン第4位


現代やくざ・人斬り与太
2015.03.18 新文芸坐 ※再観賞
【32】1972年東映 監督:深作欣二 脚本:石松愛弘、深作欣二
CAST:菅原文太、安藤昇、渚まゆみ、待田京介、室田日出男、八名信夫、小池朝雄、内田朝雄、地井武男、諸角啓二郎
●思えばアンチ任侠映画の主張が強すぎて、逆に「任侠映画の比較対象」なる枷にずっとハメられていたのかもしれない。少なくない歳月を経てようやく枷も風化し、ついにバイオレンスとアナーキシズムに彩られた孤高の傑作という地位を獲得したのではないか。ついでに「仁義なき戦い」の前哨戦という評価もこの傑作に対して失礼だ。


人斬り与太・狂犬三兄弟
2015.03.18 新文芸坐 ※再観賞
【33】1972年東映 監督:深作欣二 脚本:神波史男、松田寛夫
CAST:菅原文太、田中邦衛、三谷昇、渚まゆみ、内田朝雄、渡辺文雄、室田日出男、小林稔侍、今井健二、須賀不二男
●とにかく『人斬り与太』の2本は私には愛しすぎる。意外と緻密な前作に対し、こちらはより荒々しいが、日陰者コンビの作品として文太が文太であり、深作が深作だった瞬間の存在証明として、あの有名な大ヒット作よりもこの2本こそが代表作といいたい。そして滅多矢鱈な暴力映画にいたいげな花を添えた渚まゆみに永遠のオマージュを。


一条さゆり・濡れた欲情
2015.03.24 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【34】1972年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:伊佐山ひろ子、一条さゆり、白川和子、粟津號、高橋明、小見山玉樹、中平哲仠、小沢昭一、中田カウス・ボタン
●「♪なかなかなんけーなかなんけー」と猥歌が全編に流れる中、実に瑞々しい映画だったことに改めて感銘。市電の走るカラっと明るい大阪の街をミニスカートに小さな日傘でちょこまか動く伊佐山ひろ子。そのいかにも市井のバイタリティに、70年代のうちにこの映画を観ていて本当に良かったと思う。ロマンポルノの揺るぎない傑作。
※1972年キネマ旬報ベストテン第8位


棒の哀しみ
2015.03.24 シネマヴェーラ渋谷
【35】1994年ティーエムシー=エクセレントフィルム 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳、伊藤秀裕
CAST:奥田瑛二、永島暎子、高島礼子、哀川翔、白竜、春木みさよ、平泉成、天宮良、北方謙三、竹中直人、桃井かおり
●ビデオ屋で『真極道』なるタイトルでレンタルリリースされた時から、絶対に劇場で観てやると観賞を封印していた神代辰巳の遺作。いやはや面白かった。神代がやくざ映画を撮るとこうなるのかというよりも、改めて神代がずっと描き続けてきたのはアウトローたちの悲哀だったことに気付かされる。それにしても奥田瑛二の存在感よ。
※1994年キネマ旬報ベストテン第4位


女地獄・森は濡れた
2015.03.25 シネマヴェーラ渋谷
【36】1973年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:伊佐山ひろ子、中川梨絵、山谷初男、山科ゆり、叶今日子、堀弘一、高橋明、絵沢萠子
●反権力的色合いによって公開まもなく打ち切られたらしいが、神代辰巳の目指していたものと、神代好きが求めていたものが大きく離反して正直つまらなかった。正確にいえばずっと睡魔と戦っていた。原作はマルキ・ド・サド。やはり神代のガラじゃない。山谷初男と中川梨絵のキレた芝居が面白かった分、伊佐山ひろ子がワリを食ったか。


恋人たちは濡れた
2015.03.25 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【37】1973年日活 監督:神代辰巳 脚本:神代辰巳
CAST:中川梨絵、大江徹、堀弘一、絵沢萠子、薊千露、清水国雄、高橋明
●浪人生活が始まった1979年の4月にこの映画と出会い、自分なりの行き場のなさみたいな心情を三人の若者に投影していたものだ。理屈やストーリーではなく思いつきや衝動だけでも映画になるのだと知らされるのだが、同時に砂浜で延々と馬跳びを繰り返す彼らのロングショットに神代映画の真髄も見たのだと思う。あれも青春だったか。


炎のごとく
2015.03.26 新文芸坐
【38】1981年大和新社=東宝 監督:加藤泰 脚本:加藤泰
CAST:菅原文太、倍賞美津子、若山富三郎、きたやまあきこ、佐藤允、藤山寛美、誠直也、中村玉緒、汐路章、藤田まこと
●原作の飯干晃一『会津の小鉄』の単行本が未読のまま本棚の肥やしになっているように、この映画は見逃し続けてきた。なんてこった、菅原文太が一世一代の名演技を見せているではないか。軽さ一歩手前で踏みとどまるテンポの中で乱舞する加藤美学。加藤泰の遺作にして執念の力作。もっと早くに観て、観賞を積み重ねておきべきだった。


赫い髪の女
2015.03.31 シネマヴェーラ渋谷 ※再観賞
【39】1979年日活 監督:神代辰巳 脚本:荒井晴彦
CAST:宮下順子、石橋蓮司、亜湖、阿藤海、三谷昇、山口美也子、絵沢萠子、山谷初男、石堂洋子、庄司三郎、高橋明
●憂歌団・木村充揮のけだるいブルースをバックにダンプが女を追い越す。振り向いた女の赤髪がふわりとたなびいてストップモーション。そしてタイトル。このオープニングの見事さには何度観ても溜め息が漏れる。宮下順子と石橋蓮司、そして神代辰巳。あの頃のリアルタイムの三人だからこそ達成し得た性愛映画の極北にして畢生の名作だ。
※1979年キネマ旬報ベストテン第4位


アメリカン・スナイパー
2015.04.17 109シネマズ港北:シアター5 AMERICAN SNIPER
【40】2014年アメリカ 監督:クリント・イーストウッド 脚本:ジェイソン・ホール
CAST:ブラッドリー・クーパー、シエナ・ミラー、ルーク・グライムス、ジェイク・マクドーマン、キーア・オドネ
●遅ればせながら封切り最終日のレイトに駆け込んだ。巻き込まれる戦争ではなく、何度か休暇を挟んで派遣される戦争。毎度のことながら痺れさせるのは、ここでもイーストウッドは永遠のテーマである伝説の英雄を追いながら、何が伝説で何が英雄なのかを立ち止まって問いかけ、その立ち止まる間で絶妙な映画の流れを作っていくことだ。
※2015年キネマ旬報ベストテン第2位


リトル・ダンサー
2015.04.19 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1 Billy Elliot ※再観賞
【41】2000年イギリス 監督:スティーブン・ダルドリー 脚本:リー・ホール
CAST:ジェイミー・ベル、ジュリー・ウォルターズ、ゲアリー・ルイス、ジェイミー・ドラヴェン、ジーン・ヘイウッド
●封切の時にも「良い映画」とは思ったが、ここまで素晴らしいとは!アダム・クーパーが宙を舞う幻想的なラストから逆算して観るのだが、ひとつひとつのシークエンスが胸に沁み込んで来て、いやいや泣けた泣けた。成功へと突き進んでいくエリオットの陰で黙って地下炭坑に降りて行く父と兄。実に清々しい男のドラマではないか。
※2001年キネマ旬報ベストテン第3位


暗黒街大通り<メインストリート>
2015.04.20 新文芸坐
【42】1964年東映 監督:井上梅次 脚本:井上梅次
CAST:高倉健、梅宮辰夫、待田京介、三田佳子、中原早苗、緑マコ、大木実、金子信雄、安倍徹、菅貫太郎、三原葉子
●タイトルからしてノー天気なドンパチ映画だと思っていたら、なかなか骨太のドラマだったことに面喰う。三兄弟の胸のすく復讐劇というのが東映のルーティンだが、そこは各社を渡り歩いた職人・井上梅次。暴力団の権謀術数の中に兄弟の相克を描いて見せる。健サンの硬質感が光るが、何より敵役の金子と安倍がまんまと生き残るのが凄い。


花と嵐とギャング
2015.04.17 新文芸坐
【43】1961年東映 監督:石井輝男 脚本:佐治乾
CAST:高倉健、鶴田浩二、小宮光江、江原真二郎、清川虹子、曽根晴美、山本麟一、佐々木孝丸
●石井輝男18番!ノー天気なギャングもので、さすが楽しい映画に仕上がっている。高倉健の役名が「スマイリー健」で鶴田浩二が「香港ジョー」(笑)しかし東映映画の常として殺しまくりの場面は旺盛だ。ただっ子で饒舌で単細胞な健サンの芝居はこの頃の映画でしかお目にかかれないが、実はこれも健サンの資質であるのだと確信する。


侠客列伝
2015.04.24 新文芸坐
【44】1968年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:棚田吾郎
CAST:高倉健、鶴田浩二、若山富三郎、藤純子、大木実、菅原謙二、長門裕之、藤山寛美、里見浩太朗、河津清三郎
●作品の構造が忠臣蔵になっているあたりに、そろそろ任侠映画の手詰まり感が出てきた感じか。あくまでも市井の中で侠客を描くマキノの世界観はそれとしても、「~列伝」のようなオールスター企画となると鶴田浩二主演の方が納まりが良いように思える。健サンのカッコ良さに疑問を挟む余地はないにしても、やや窮屈さは否めなかった。


日本やくざ伝・総長への道
2015.04.24 新文芸坐
【45】1971年東映 監督:マキノ雅弘 脚本:高田宏治
CAST:高倉健、鶴田浩二、若山富三郎、嵐寛寿郎、松方弘樹、近衛十四郎、野川由美子、小暮実千代、林彰太郎
●71年といえば任侠映画も下火になっていたが、同時に任侠・高倉健の造形美のすべてが完成した時期ではなかったか。もちろん刺青晒して殴り込むクライマックスはどの健サン映画を観ても昂揚感があるのだが、年齢的にも貫録を身につけた健サンの着流しやくざ姿が最も美しいのがこの頃だと思う。改めて不出世の大スターに哀悼と感謝を。


小さな恋のメロディ
2015.04.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 Melody ※再観賞
【46】1971年イギリス 監督:ワリス・フセイン 脚本:アラン・パーカー
CAST:マーク・レスター、トレイシー・ハイド、ジャック・ワイルド、シェイラ・スティーフェル、ケイト・ウィリアムス
●放課後、ジャック・ワイルドの制止を振り切って学校を飛び出したマーク・レスターとトレイシー・ハイド。手をつなぐ仕草もぎこちなかった二人が墓石に刻まれた言葉を読み上げる。「50年後も二人は愛し合っているのだろうか」。バックに流れるビージーズ『若葉の頃』が11歳の真剣を淡く彩る。他愛のない映画かもしれないが何度観てもいい。


ひまわり
2015.05.16 TOHOシネマズ海老名 スクリーン7 I GIRASOLI
【47】1970年イタリア 監督:ヴィットリオ・デ・シーカ 脚本:チェザーレ・ザヴァッティーニ、アントニオ・グエラ他
CAST:ソフィア・ローレン、マルチェロ・マストロヤンニ、リュドミラ・サベーリエワ、アンナ・カレーナ、ジェルマーノ・ロンゴ
●TVで観たのは中学のときだったか。その時からヘンリー・マンシーニのメロディはそのままにストーリーを編集して記憶していたことが判明。内容以上にスケール感があったのは「戦争が引き裂いた愛」という常套ではなく、巨匠と名優ふたりが織りなす不確かな男と女の人生を描いた大人のラブストーリーとして熟成されていたからだろう。


名探偵コナン/業火の向日葵
2015.05.23  TOHOシネマズ新宿 スクリーン11
【48】2015年東宝=小学館=日本テレビ放送網他 監督:静野孔文 脚本:櫻井武晴
CAST:声)高山みなみ、山口勝平、山崎和佳奈、小山力也、松井菜桜子、林原めぐみ、富田耕生、磯部弘、榮倉奈々
●怪盗キッドが出てくると作風は一気にファンタジーに片寄る傾向にあるのだが、今回はゴッホの「ひまわり」をめぐる絵画ミステリーとして私にもなかなか難解な筋立てだった。その分だけ派手なアクションが随所に盛り込まれ、お子様たちはそちらを楽しんでくれという趣向なのだろうが、正直、今回はひどくバランスを欠いた印象。


シェルブールの雨傘
2015.05.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 Les parapluies de Cherbourg ※再観賞
【49】1964年フランス 監督:ジャック・ドゥミー 脚本:ジャック・ドゥミー
CAST:カトリーヌ・ドヌーヴ、ニーノ・カステルヌオーボ、マルク・ミシェル、アンヌ・ヴェルノン、エレン・ファルナー
●オープニングが素晴らしい映画のベスト3だとずっと思っていたが、実はその後の展開はすっぱり忘れていた。2年を待てなかったジュヌビエーブに感情移入するのは難しいが、かつての恋人同士が再会し、さりげない会話を交わして別れるラストシーンが今回はヤケに沁みてしまった。これは間違いなくオジサンになった証拠だろう。


新宿スワン
2015.05.30 TOHOシネマズ海老名:スクリーン1
【50】2015年SONY=ハピネット他 監督:園子温 脚本:水島力也、鈴木おさむ
CAST:綾野剛、山田孝之、伊勢谷友介、沢尻エリカ、金子ノブアキ、深水元基、村上淳、山田優、豊原功補、吉田鋼太郎
●熱量の高さは感じられるのだけど、びっくりするほど園子温の体温が感じられない。綾野剛と山田孝之に常連の深水元基のキレっぷリが面白くても、所詮は漫画のキャラクターだと思えてしまう。好きな映画でなくてもどこか引っ掛かるのが園子温の筈だったのだが、、、ソツなく原作の持ち味をなぞっていくだけの園子温ならもう要らない。


荒野の1ドル銀貨
2015.06.18 シネマヴェーラ渋谷  Un Dollaro Bucato
【51】1965年イタリア 監督:ジョルジオ・フェローニ 脚本:カルヴィン・J・パジェット、ジョージ・フィンリー
CAST:ジュリアーノ・ジェンマ、イヴリン・スチュアート、ピーター・クロス、ジョン・マクダグラス、フランク・ファレル
●劇場のスピーカーから口笛の主題曲が流れた瞬間、つーんと甘酸っぱさが身体を駆け抜ける。そしてリンカーンと星条旗が掲げられた北軍の収容所を解放された南軍兵士たちがイタリア語でまくしたてるのに笑ってしまう。ジェンマのガンファイトもさることながら、今まさにマカロニウエスタンを映画館で観ているのだという感慨たるや・・・。


情無用のジャンゴ
2015.06.19 シネマヴェーラ渋谷 Se sei vivo spara
【52】1967年イタリア 監督:ジュリオ・クエスティ 脚本:ジュリオ・クエスティ、フランコ・アルカッリ他
CAST:トーマス・ミリアン、ロベルト・カマルディエル、ミロ・ケサダ、ピエロ・ルリ、レイモンド・ラブロック
●未曾有の残酷描写で悪名高いマカロニだが、実はシュールな異色作としてカルト人気を得ていたことを今回知る。残酷といっても後年のスプラッターホラーほどではないが、縛り首で吊るされた男たちをカメラが執拗に捉える場面は不気味だった。シュールというよりも先がまったく読めないストーリーが最後まで楽しませてくれる。


続・荒野の用心棒
2015.06.19 シネマヴェーラ渋谷 DJANGO
【53】1966年イタリア 監督:セルジオ・コルブッチ 脚本:フランコ・ロゼッティ、ホセ・G・マエッソ他
CAST:フランコ・ネロ、ロレダーナ・ヌシアク、エドゥアルド・ファヤルド、ホセ・ボダロ、アンジェル・アルバセス
●「遂に劇場のスクリーンで観た」との感動に浸る映画は数あれど、この映画はその中でも超ド級だ。あゝ“ジャンゴ”にスクリーンで出逢えた。早撃ち皆殺し、棺桶から機関銃で40人惨殺、最後の大逆転6連発。もう男の観客を楽しませる以外、眼中にないのではないかと思うほどに面白い。それにしてもフランコ・ネロ。なんてカッコいいのだ。


ライアンの娘
2015.06.27  TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 RYAN`S DAUGHTER
【54】1970年イギリス 監督:ディヴッド・リーン 脚本:ロバート・ボルト
CAST:ロバート・ミッチャム、サラ・マイルズ、トレヴァー・ハワード、クリストファー・ジョーンズ、ジョン・ミルズ
●「壮大な風景が最大の見所」。映画において褒め言葉でも何でもないこともD・リーンの大きな絵作りを見ているとそれでいいのだと思える。確かにロレンスやジバゴのような波乱万丈のストーリーではないが、ときには穏やかに、ときには怒号が渦巻くアイルランドの海と写し鏡のような人々の感情。その機微に納得させられてしまうのだ。
※1971年キネマ旬報ベストテン第2位


ラブ&ピース
2015.06.29  TOHOシネマズ渋谷:スクリーン5
【55】2015年「ラブ&ピース」製作委員会 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:長谷川博己、麻生久美子、渋川清彦、マキタスポーツ、深水元基、西田敏行、(声)中川翔子、大谷育江、星野源
●ひと月前の三池もどきと比べ園子温の作家性の復活はあったし、詩と音楽への拘りに往時への回帰も見てとれた。しかし独特の露悪趣味が優良のファンタジーと化した分だけ爆発力に欠けた気がする。巨大怪獣が暴れたり、RCサクセション『スローバラード』だったりと同世代的にはわかるのだが、もっとエキセントリックであって欲しかった。


マッドマックス/怒りのデス・ロード
2015.07.06 TOHOシネマズ海老名:スクリーン4 MAD MAX:Fury Road
【56】2015年オーストラリア=アメリカ 監督:ジョージ・ミラー 脚本:G・ミラー、B・マッカーシー、N・ラサウリス
CAST:トム・ハーディ、シャーリーズ・セロン、ニコラス・ホルト、ヒュー・キース・バーン、ロージー・H=ホワイトリー
●そうだった、この狂気だ。痛快だと思っていたカーチェイスを心の底から恐ろしいものと思わせた『マッドマックス』。もちろん豪州のインディペンデントだった時の無慈悲な気持ち悪さは今さら望むべくもないが、27年ぶりの復活で爺々となってもマッド演出健在のジョージ・ミラーには乾杯したい気分。内なる破壊衝動が久々に疼いた。
※2015年キネマ旬報ベストテン第1位


アフリカの女王
2015.07.11  TOHOシネマズ海老名:スクリーン7 The African Queen
【57】1951年イギリス=アメリカ 監督:ジョン・ヒューストン 脚本:ジェームズ・エイジー、ジョン・ヒューストン
CAST:ハンフリー・ボガート、キャサリン・ヘプバーン、ロバート・モーリー、ピーター・ブル、セオドア・ビケル
●タイトルだけは知っていたが、「African Queen」がポンコツの蒸気船だったのには驚いた。戦火のアフリカを小船で下って行くアドベンチャー。ボギーとキャサリンという二大スターの競演を最初から最後まで堪能させるために物語が設定され、そのサービス精神は感動モノだといってもいい。彼らのやり取りだけで十分に面白い。


バケモノの子
2015.07.13 TOHOシネマズ新宿:スクリーン4
【58】2015年スタジオ地図=日テレ 監督:細田守 脚本:細田守
CAST:(声)役所広司、宮﨑あおい、染谷将太、広瀬すず、山路和弘、宮野真守、麻生久美子、黒木華、津川雅彦
●宮崎駿引退後の日本のアニメ界は間違いなく細田守中心に回っていくだろう。確かに後になってから「あそこはこうすべきだった」と思う部分はある。しかし映画を観ながらこちらの予測をことごとく超えていく細田守のストーリーテラーぶりに翻弄され、感嘆し、圧倒された。こういう映画体験は最高だ、素晴らしい。


リアル鬼ごっこ
2015.07.15 109シネマズ二子玉川;シアター4
【59】2015年松竹=アスミックエース 監督:園子温 脚本:園子温
CAST:トリンドル玲奈、篠田麻里子、真野恵里菜、桜井ユキ、高橋メアリージュン、磯山さやか、斉藤工
●原作は読まず勝手にストーリーを書き下ろしたという園子温。前半はパンチラ好きの俺様展開と得意のグロ描写満載のシュール鬼ごっこに笑わせてもらったが、いかんせんオチとなる種明かしが酷い。何なんだ、そのDNAを採取して再現したとは・・・。今年だけで映画を6本撮るらしいが、濫作がそういう粗さに繋がるのであれば止めた方がよい。


八月の鯨
2015.07.25 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 The Whales of August
【60】1987年アメリカ 監督:リンゼイ・アンダーソン 脚本:デイヴィッド・バリー
CAST:ベティ・デイヴィス、リリアン・ギッシュ、ヴィンセント・プライス、アン・サザーン、ハリー・ケイリー・ジュニア
●20代の頃、機内上映で爆睡してしまった。多分、20代で観てもこの映画の味は理解出来なかっただろう。もちろん今も93歳と79歳の姉妹が織りなす老境の機微を完全にわかったとは思えないが、姉の髪をすきながら死の影を見つめる妹の表情にドキリとさせられる。「八月の鯨」とはふたりの伝説的な大女優のことなのかも知れない。
※1988年キネマ旬報ベストテン第4位


恋におちたシェイクスピア
2015.08.01 TOHOシネマズ海老名:スクリーン8 Shakespeare in Love
【61】1998年アメリカ 監督:ジョン・マッデン 脚本:トム・ストッパード、マーク・ノーマン
CAST:グウィネス・パルトロー、ジョセフ・ファインズ、ジェフリー・ラッシュ、コリン・ファース、ベン・アフレック、ジュディ・ディンチ
●何故だかストリーよりも劇中劇の「ロミオとジュリエット」に泣けてしまったのは、ある意味で恋する二人に感情移入してしまったからだろうか。驚くほどのラブコメ展開なのだが、時代の虚実皮膜を交錯させ、絢爛豪華な歴史絵巻としての風格も維持してしている。とにかく脚本の巧さに舌を巻く一編。豪華な顔ぶれを観ているのも楽しい。
※1999年キネマ旬報ベストテン第1位


王様と私
2015.08.15 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン1 The King and I ※再観賞
【62】1956年アメリカ 監督:ウォルター・ヤング 脚本:アーネスト・リーマン
CAST:ユル・ブリンナー、デボラ・カー、リタ・モレノ、マーティン・ベンソン、レックス・トンプソン、カルロス・リヴァス
●再見した映画がいかに記憶を書き変えていたか苦笑することしばしだが、ブリンナーの王様が死んでしまったことに驚く。ずっと♪Shall we dance?の旋律が全編に流れるハッピーなミュージカルという印象だった。こういう映画を「ウエスト・ミーツ・イーストもの」というらしいが、残念ながら西洋の上から目線が気になって仕方がなかった。


ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション
2015.08.17 TOHOシネマズ新宿:スクリーン9 MISSION:IMPOSSIBLE ROGUE NATION
【63】1956年アメリカ 監督:クリストファー・マッカリー 脚本:クリストファー・マッカリー
CAST:トム・クルーズ、レベッカ・ファーガソ、ジェレミー・レナー、サイモン・ペッグ、アレック・ボールドウィン
●結局ラロ・シフリンのご機嫌なスコアが鳴り出すとすべて許してしまうのが魅力でありズルイところか。一作ごとに面白さが更新されていく感があるもののトム・クルーズはいつからジャッキー・チェンになったのだろう。ハリウッドのサービス精神炸裂という趣だが、最後の最後で「スパイ大作戦」的な仕掛けに思わずニヤとしてしまった。


映画 みんな!エスパーだよ!
2015.09.14  TOHOシネマズ新宿:スクリーン11
【64】2015年GAGA 監督:園子温 脚本:田中眞一、園子温
CAST:染谷将太、池田エライザ、真野恵里菜、マキタスポーツ、深水元基、柄本時生、高橋メアリージュン、冨手麻妙
●中坊レベルの下ネタが満載で呆れるほどしょーもないが、今や稀少物件となった純白パンツは園映画には生き残っている?パンチラ、洗脳、勃起は『愛のむきだし』と同じだが、そこから熱情と暴力をとっ払って、低予算の深夜ドラマのテイストで思いっきりチープに仕上げたのだろう。おっさん的には明るいエロには萎えるばかりだが。


赤ひげ
2015.10.03  TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 ※再観賞
【65】1965年東宝=黒澤プロ 監督:黒澤明 脚本:井手雅人、小国英雄、菊島隆三、黒澤明
CAST:三船敏郎、加山雄三、山崎努、二木てるみ、桑野みゆき、香川京子、志村喬、笠智衆、田中絹代、土屋嘉男
●飯田橋の名画座で観てから30年。殆んどの場面は忘れていたが、全編に漂う黒澤映画の粋だけはずっと記憶していた。実は黒澤映画のヒューマニズムにはずっと難癖をつけてきたのだが、そこにダイナミズムが加味されたこの作品は別格だろう。改めて黒澤と三船のコンビがいかに凄かったのかを骨まで納得させられたような気がした。
※1965年キネマ旬報ベストテン第1位


さらば友よ
2015.10.24 TOHOシネマズ海老名:スクリーン6 Adieu L'ami
【66】1968年フランス=イタリア 監督:ジャン・エルマン  脚本:ジャン・エルマン、セバスチアン・ジャプリゾ
CAST:アラン・ドロン、チャールズ・ブロンソン、オルガ・ジョルジュ・ピコ、ブリジット・フォッセー、ベルナール・フレッソン
●我々世代ではダーバンとマンダムの競演ということなのだか、それぞれが単独で出て来る場面ではきちんとドロン映画、ブロンソン映画になっていて驚いた。一緒の場面になると殴り合いをさせ、狭い空間に閉じ込め、上半身裸にさせるというサービスぶり。もう殆んど場面は忘れていたが、有名なラストは今もって色褪せていなかった。


図書館戦争 THE LAST MISSION
2015.10.24 TOHOシネマズ海老名:スクリーン10
【67】1924年東宝=TBS 監督:佐藤信介 脚本:野木亜紀子
CAST:岡田准一、榮倉奈々、栗山千明、松坂桃李、福士蒼汰、田中圭、橋本じゅん、相島一之、西田尚美、石坂浩二
●全編のかなりの場面が戦闘。しかし被弾と流血を執拗に描くほど矛盾が生じ、原作の世界観との乖離が進む。製作側が描いたものは自由を守る戦いでも、無関心との戦いでもなく、戦争映画にするための戦闘になっている。しかしそこを隠さずに投げ出した正直さは決して嫌いではない。相変わらず榮倉奈々の鈍臭さは背信的に酷いのだが。。。


新幹線大爆破
2015.11.03 TOHOシネマズ上大岡:スクリーン3 ※再観賞
【68】1975年東映 監督:佐藤純彌 脚本:佐藤純彌、小野竜之介
CAST:高倉健、宇津井健、千葉真一、山本圭、織田あきら、小林稔侍、志村喬、岩城滉一、田中邦衛、竜雷太、丹波哲郎
●あゝ改めて見直すと傑作かもしれない。犯人、国鉄、乗客、警察の四すくみが2転、3転しながら終点の博多へ向かって疾走していく新幹線。「停車することが安全管理上の最優先」という鉄則を逆手にとったアイデアのなんて秀逸なことだろう。撮影日数わずか45日、完成は封切りの2日前。製作陣の火事場の馬鹿力に敬意を表したい。
※1975年キネマ旬報ベストテン第7位


-STATION
2015.11.27 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン3 ※再観賞
【69】1981年東宝 監督:降旗康男 脚本:倉本聰
CAST:高倉健、倍賞千恵子、いしだあゆみ、烏丸せつ子、池部良、室田日出男、大滝秀治、田中邦衛、宇崎竜童、根津甚八
●封切時に感じた茫洋とした印象が、歳月とともに鮮明となる輪郭。でもこの映画はやっぱり好きになれない。その後の健サンを狭いカテゴリーに閉じ込めてしまったから。それでもなお、愛おしい倍賞千恵子の桐子と北林谷栄の母親。歳月が諦観を生み、歳月が先鋭にさせていくものがあるのだと教えられる。あの頃は自分も若かった。
※1981年キネマ旬報ベストテン第4位


ラストエンペラー
2015.12.06 TOHOシネマズ府中:PREMIER THE LAST EMPEROR ※再観賞
【70】1987年イタリア=中国=イギリス 監督:ベルナルド・ベルトルッチ 脚本:ベルナルド・ベルトルッチ、マーク・ペプロー
CAST:ジョン・ローン、ジョアン・チェン、ピーター・オトゥール、ヴィクター・ウォン、ヴィヴィアン・ウ―、坂本龍一
●久々に観て、こんなにあっさりした映画だったかな?と思った。もっとストーリーも人物構築も複雑で濃密だという印象があった。それは多分『覇王別姫』のせいなのだと思う。確かに溥儀の生涯は数奇に満ちているが、この時代の中国近代史の更なる激動をきちんと描き切れていただろうか。今さらオスカーウィナーに違和感を持った。
※1988年キネマ旬報ベストテン第1位


宋家の三姉妹
2015.12.15 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン6 宋家皇朝(The Soong Sisters)
【71】1997年香港=日本 監督:メイベル・チャン 脚本:アレックス・ロー
CAST:マギー・チャン、ミシェル・ヨー、ヴィヴィアン・ウー、ウィンストン・チャオ、ウー・シングォ、チアン・ウェン
●なんて優雅で激しいのだろう。清が滅んで中華民国となり、国共内戦から日中戦争に至る激動の時代。孫文や蒋介石の妻となる姉妹が時代に翻弄される話だと思っていたが、彼女たちは翻弄されるどころか、激動の中心で国の運命と対峙していた。これは三姉妹の目から描く革命史ではなく、革命史の必然に存在した彼女たちの映画だった。


スター・ウォーズ/フォースの覚醒
2015.12.24 TOHOシネマズ日本橋:スクリーン7 STAR WARS:THE FORCE AWAKENS
【72】2015年アメリカ 監督:J・J・エイブラムス 脚本:ローレンス・カスダン、J・J・エイブラムス、マイケル・アーント
CAST:デイジー・リドリー、ジョン・ボイエガ、アダム・ドライバー、ハリソン・フォード、キャリー・フィッシャー
●今まで封切には行っとくか、、程度のスタンスでSWを観て来たが、FOXファンファーレからは始まらない新作の後半からラストへのたたみ込みは十分に楽しかったし、それなりの感慨もあった。SWは父性なくして語れないと思うが、この作品に母性を感じてしまったのは、レイア姫の顔に深く刻まれた皺のせいかもしれない。


007/スペクター
2015.12.27 TOHOシネマズ海老名:スクリーン5 SPECTRE
【73】2015年イギリス=アメリカ 監督:サム・メンデス 脚本:ジョン・ローガン、ニール・パーヴィス、ロバート・ウェイド他
CAST:ダニエル・クレイグ、レイフ・ファインズ、レア・セドゥ、クリストフ・ヴァルツ、ベン・ウィショー、モニカ・ベルッチ
●『ミッション:インポッシブル』同様、冷戦終結後のスパイ組織の解体は時代の要求かもしれない。そしてボンドのアイデンティを深化させればさせるほど、ド派手なアクションが重い空気の中でカタルシスになってこない。ブロスナンの頃のおバカ活劇に戻れとは言わないが、いい加減ボンドの「自分探し」は卒業させていいのではないか。


恋人たち
2015.12.30 テアトル新宿
【74】2015年松竹ブロードキャスティング=アーク・フィルムズ 監督:橋口亮輔 脚本:橋口亮輔
CAST:篠原篤、成嶋瞳子、池田良、黒田大輔、山中崇、山中聡、安藤玉恵、リリー・フランキー、木野花、光石研
●浴槽に玩具を浮かべる以外にアツシと共通することがないのに、何故ここまで共有できるのだろう。いつ破裂するかしれない緊張。だが役所の受付で地団駄を踏み、女の子のヒソヒソ話には部屋に帰ってキレる。破裂しない絶望の中でかすかに見えた光。しかし橋口亮輔は安易に救いの手を差し伸べようとはしない。自分で探すしかないのだ。
※2015年キネマ旬報ベストテン第1位


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