◎4TEEN

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◎4TEEN【フォーティーン】
石田衣良
新潮文庫


 まず最初にいわせて貰えば、石田衣良の『4TEEN』は完璧に私の琴線に触れた。触れまくって電車や食堂で視界がぼやけることもしばしばで、4人の中学二年生のひとりひとりと握手をしたい思いだった。
 そして、読書レヴューにありがちな、星(☆)の評価をしないでいて本当に良かったと思う。気持ちの中では間違いなく満点なのだが、では、いざ星をつけることを義務付けていたとしたら実際に満点にしていたのかどうか解らない。こんな個人の辺境ページであっても批評めいたことをやろうと思うと感覚と評価ではズレてしまいがちなのだ。とくに八編のエピソードからなる構成になると、話によっては多少の優劣も出てしまうし、冷静に考えれば全編に欠点も散見される作品に対しては、読後感に点数が反映されないような気がしているのだ。下手に星3つには半個欠けて2.5なんてことをやってしまうと、一体自分は『4TEEN』をどうしたいのか解らなくなってしまう。だから読後にこの小説が直木賞を受賞していることを思い出して少なからぬ驚きもあった。

 【東京湾に浮かぶ月島。ぼくらは今日も自転車で、風よりも早くこの街を駆け抜ける。ナオト、ダイ、ジュン、テツロー、中学2年の同級生4人組。それぞれ悩みはあるけれど、一緒ならどこまでも行ける、もしかしたら空だって飛べるかもしれない――。】

 ありがちな質問に「時間が戻せるなら、いつ頃に戻りたいか」というものがある。私はよく冗談で「受精卵からやり直したい」などというのだが、本当のことをいえば中学時代を選びたいと思っている。小学生ではしんどいし、高校生になってからでは、きっと人生をリセット出来ないまま、結局今と同じような齢の取り方をするに決まっているだろう。とにかく中学生時代は面白かった。
 面白かったというのは何事に対しても無知であり、無知であることをまったく恥とも思わず、そこに激しいまでの好奇心を燃やすことが許されたから面白かったのだ。そして何よりも純粋にスケベでいられた。作品中に「そのころうちのクラスの男子の話題は、オナニー一色だった。回数、時間、おかず、新たな技法にフレッシュなアイディアの数々。」という記述があるが、私は“だんしちゅうがくせい”という言葉だけでギャグしとて笑えてしまう。中学生時代とはそういうことなのだ。そしてその思いを改めて石田衣良によって教えられた気分である。

 この小説は自分と学年が同じ石田衣良がノスタルジックに綴った物語には違いなく、涙線が刺激されるのはノスタルジーを喚起されることであるのは間違いない。しかし作者の自伝かといえば、そうではなく、あくまでも四十代半ばの作家が自身の感性で創作した14歳の少年たちを描くフィクションである。「ぼくは急に自分がコンクリートの階段やコンビニの袋にでもなった気がした」という語りがあるが、リアルな中学生が自分の気持ちをそんな比喩で表現することはありえない。もちろん性に対する心情や描写はおそらく実体験や記憶が反映されているとは思う。初めてストリップ小屋の窓口で切符を買うときのドキドキ感など、私の体験に照らし合わせて「ニヤリ」としてしまうのだが、ここで取りあげられている「援交」「出会い系サイト」「性同一障害」「AVショップ」など、我々の中学時代には言葉すら存在していなかった。
 それでもノスタルジーを喚起させられたのは、いわゆる「中一時代」「中一コース」などの月刊誌に掲載されていたかつてのジュブナイル小説のテイストを思わせるからだろう。
 ナオト、ダイ、ジュン、テツローの中学生4人組。語り部がノンケで平均的な「ぼく」であることのお約束はもちろん、頭脳明晰で大人顔負けのリーダー格。粗野で大雑把だが心優しい太っちょ。裕福だが、致命的な難病を抱える少年という、それぞれに割り振られたキャラクターも友達(ダチ)物語の定番であり、あまりに定番であるがゆえに懐かしい温もりを感じさせているのかもしれない。
 定番である以上、彼らを待ち受けているものは冒険である。ひと昔前の児童図書館に置いてあるような本であれば、冒険の舞台は深い森の中であったり、大海に浮かぶ孤島だったりもしたのだろうが、『4TEEN』の彼らの冒険先は援交相手を求めたセンター街であったり、出会い系サイトで知り合った人妻のマンションであったり、歌舞伎町のストリップ劇場であったりもする。しかし冒険を彩るのはいつだって疾走感だ。
 最終話の『十五歳への旅』で、彼らは自転車に跨って朝早くに月島を出発し、銀座を通過して三宅坂から半蔵門の坂道を必死で漕いで冒険の目的地である新宿まで駆け抜ける。
 “胸にひきつけるようにハンドルをにぎりしめ、腹筋をつかってしっかりとペダルを踏み抜いた(中略)勉強のこと、高校のこと、社会にでてからの仕事や恋愛なんかのこと、普段は口にしない不安のすべてを、思い切り笑い飛ばしたくなったのだ”

 中学生の物語を青春小説と呼ぶべきものかどうか解らないが、仲間たちと何かに夢中になっているときに思わず笑いたくなる感覚を思い出し、それが胸をついて涙を貯めながら笑ってしまうという幸福な読書だった。


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