◎美女と竹林

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◎美女と竹林
森見登美彦
光文社文庫


 本書は「人気文士の随筆集随筆」と紹介されている。そもそもエッセイと随筆の違いって何だろう。まだ若手なのに文体が古臭く、それが絶妙な味となって文壇に名を轟かす森見登美彦ゆえに、「随筆」と紹介されているのか(そもそも人気文士との表現が十分に古臭い・・・・)。

【「これからは竹林の時代であるな!」閃いた登美彦氏は、京都の西、桂へと向かった。実家で竹林を所有する職場の先輩、鍵屋さんを訪ねるのだ。荒れはてた竹林の手入れを取っ掛かりに、目指すは竹林成金!MBC(モリミ・バンブー・カンパニー)のカリスマ経営者となり、自家用セグウェイで琵琶湖を一周…。はてしなく拡がる妄想を、虚実いりまぜて、タケノコと一緒に煮込んだ、人気文士の随筆集。】

 もう5年は放置していただろうか。森見登美彦の文庫本をまとめて買っていたのは、その頃、森見独特の世界観にハマっていたから。とにもかくにも購入から何年も放置していた文庫本のホコリを振り払い、当然、森見独特の小説世界に浸ろうと最初のページを開いた私は、いきなり「森見登美彦氏とは、いったい何者か。」の書き出しに大いに面食らうことなる。私はページを開くまで本書を小説だと思っていたのだ。
 正直楽しい読書だったのかといえばどうだろう。つまらなくはなかったが、それほどノって読んだということはなかった。随筆であるならそれとして森見登美彦の日常から沸き上がる創作への「思惑」が垣間見えるのかという期待もあったが、最後まで煙に巻かれたような印象に終わる。作家が随筆で本音を語るより、虚実皮膜織り交ぜ『夜は短し歩けよ乙女』の愛読者たちに森見を読んでいる実感を与えてあげようというサービス精神が勝ったのか、或いは自分を前面に曝け出すことへの照れがあったのか。確かに私も森見を読んでいる実感だけは得ることが出来た。しかしここで達成できたのは「竹林が好き」という自らの趣向を紹介したに過ぎなかったのではないか。
 この随筆が「小説宝石」で連載を開始した2007年、森見登美彦まだ28歳。他の著作を読んでいないので何とも言えないが、読者を圧倒させるような人生観は語れないと居直っているのかも知れない。
 森見登美彦のブログを眺めていたら次のような文章があった。「森見登美彦氏は「エッセイ」をあまり書かない。そもそもエッセイに何を書けばいいのか分からないのである。自分の主張を書くべきだろうか。しかし、わざわざ書くべき主張がない。ならば体験を書けばいいのか。しかし、わざわざ書くべき体験がない。ならば妄想を書けばいいのか。しかし、それでは小説になってしまう。」
 これが40歳になろうかという森見登美彦の現在の実感であるならば、その時間は『美女と竹林』の執筆中に構築されたのは間違いない。エッセイの連載が決まったが、さて、何を書こうか、ならば好きな竹林を書こうと思いついたものの、なにせ人生経験も主張もまだ軽いし、竹林は好きだが、竹林に一家言持つほどに没頭しているわけでもない。まずは竹を切ることから始めてみるか。体験を書くのではなく、体験をドキュメンタリーで実況する。その隙間は得意の妄想で埋めればいい。随筆『美女と竹林』の連載はそんな流れなのだろうと推定する。
 存在するかどうか定かではないが「森見登美彦ファンクラブ」の会員である乙女たちには、この随筆を書かんと七転八倒する森見のありさまを笑いながら読めるのかもしれない。母のように寛容な愛読者たちは「また妄想を書いてページを埋めてる」と大らかな微笑を浮かべるのだろう。私も森見をそこそこは好きなので、「何を書けばいいのだろう」と自虐交じりの青息吐息を楽しまないでもなかったものの、やはり「太陽の塔がなんとなく好き」という思いで書いた『太陽の塔』と比べ、物足りなさは否めない。とくにMBC(モリミ・バンブー・カンパニー)の妄想が退屈だったのは、その妄想が随筆の範疇で書かれているからではないのか。
 もちろん森見独特の文体が投入された箇所には光るものがある。森見の世界観から切っても切り離せない学生時代の四畳半世界への懐述など、その卓抜した語彙力でなかなか読ませると思った。
 その四畳半世界とは「時間と才能の空費は輝かしき勲章」「人間としての大きさが、無駄なことに注いだ時間と情熱の多寡ではかられる」「いかに手のこんだ方法で時間を棒にふってみせるかで人の値打ちが決まる」「世間一般と真逆な価値観が支配する」曰く、「どう考えても根本的に間違っているとしか思われない世界」だ。こうやって書き写しただけで私も面白くなってくる。その結果「四畳半王国に暮らした後遺症に今なお苦しんでいる」とオチがつくのだが、そんな自虐的な人生観が森見小説の魅力というか威力なのだと改めて思わせた。
 だから私にとって『美女と竹林』は「つまらなくはなかったが~」「楽しまないでもなかったものの~」など歯切れ悪くもかろうじて崖っ淵で踏み止まる読書となった。
 ただ私も結構、竹林は好きだ。



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