◎毒猿 新宿鮫Ⅱ

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◎毒猿 新宿鮫Ⅱ
大沢在昌
光文社文庫


 快作だ。前回の第一作を再読した時は王道の色合いを感じたが、『毒猿』は初読の時の読後感を大きく上回った。なんといっても跆拳道の殺人技ネチョリギを駆使し、自らの肉体の限界を悟りながらも職業兇手プライドに賭けて敵を追う劉鎮生、通称 “毒猿(ドゥユアン)”はシリーズでも屈指のキャラクターだ。

 【新宿署刑事・鮫島は、完璧な「職業兇手」(殺し屋)が台湾から潜入していることを知る。「毒猿」と呼ばれる男が動きはじめた刹那、新宿の黒社会を戦慄が襲う!鮫島は、恐るべき人間凶器の暴走を止められるのか?】

 最初に読んだときにも面白いとは思ったものの、大殺戮に及ぶクライマックスの新宿御苑の大立ち回りがどうにも荒唐無稽に思え、当時私が一方的に『鮫』に求めていた世界観とのギャップがあまりにも激しく、これをシリーズ最高傑作と推す声には首を傾げていたが、再読にあたりこの作品の本質は決してドンパチの派手さではないことを痛感した。
 もちろんエンターティメントアクションとして『毒猿』を位置づけるのは正解ではある。そういう意味では大沢在昌作品として本書は新宿鮫のシリーズというよりもハードアクションに特化した『天使の牙』と同じカテゴリーといってもいいのかもしれない。大沢アクションの魅力は見せ場のアクションになだれ込むまで次第にボルテージを加速していく呼吸のテンポにあり、背景にそれを効果的に演出する人物造形の巧さがある。見た目だけの派手さでは決して読者を活字に釘付けにすることできないということだ。
 本書でも台湾の政府警察局刑事である郭栄民に共感した鮫島が、殺し屋の劉鎮生を追跡し始めた辺りから次第にテンションが高まり、劉に思いを寄せて行動をともにする中国残留孤児二世の奈美。台湾マフィアの首領、葉威とそれを匿う暴力団の石和組。三者三すくみの追跡劇が怒涛のクライマックスへと突入していく。
 中でもやはり劉に思いを寄せる奈美の純愛が濃密だ。絶対的な強さに吸引される牝の激しさと、劉が余命幾ばくもないと悟ったことで生ずる母性本能の発露が悲しい。それゆえに鮫島がそれぞれの安否を伝えることで最後に純愛を完結させる余韻もいい。
 
 『毒猿』の発刊当時から目についた「鮫島が脇に甘んじたことが成功した」という書評は当たっていないと思っている。鮫島の警察官としての特殊性は第一作で語り尽くされたが、郭刑事のストイックな信念に共感し、立場を超えて劉と奈美にシンパシーを抱くという鮫島の心情が極限まで顕れたのが本書だと思うからだ。


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