◎新宿鮫

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◎新宿鮫
大沢在昌
光文社文庫


 時の流れは早いもので、弛緩した80年代の空気を斬り裂くがごとく登場した“鮫”も十六年前の産物となってしまった。最新刊の『狼花』で健在ぶりを味わった勢いもあり、もう一度最初から読み返すことにする。

 【歌舞伎町を中心に警官が連続して射殺された。犯人逮捕に躍起になる署員たちをよそに、“新宿鮫”の異名を持つ新宿署の鮫島刑事は銃密造の天才を執拗に追う。待ち受ける巧妙な罠!絶体絶命の鮫島。さらに銃口は容赦なく鮫島の恋人に向けられる。】

 鮫島が晶に上司の桃井のことをぼそっと語るラストの小粋なセリフまで一気に読み終えて思ったこと。かつての“衝撃的警察小説”も早くも王道の色合いに染まっていたというか、妙な気分だがクラシックに触れたような読後感だった。もちろんよく出来た物語は十分に再読に堪えるものだ。
 国家公務員試験一種に合格した鮫島が、警察内部の暗闘をきっかけに新宿署の一捜査官として孤立しているというのがシリーズの肝であるのだが、改めてこの第一作を再読してみると、鮫島の過去の逸話を挿入しつつ、恋人であるロックシンガーの晶、マンジュウ(死人)と陰口を叩かれる桃井課長、新宿署鑑識課の藪、公安刑事の香田といった周辺の人物を紹介しながら、改造拳銃による連続警官殺しという物語を着々と進行させる大沢在昌の的確な作劇に感心した。
 エリート警察官だったはずの鮫島がなぜ“新宿鮫”と恐れられるまでに至ったのかという主人公の存在証明は必須であるため、説明的な描写も少なくはないが、その説明部分が読んでいて少しも苦にならず、むしろ警察組織に対する外野からの興味が引き出されることで『新宿鮫』を傑作たらしめていたことがよくわかる。
 確かに銃密造事件から最後のクライマックスまでのストーリーに新味があるわけでもなく、孤高のはみ出し刑事という設定も目新しいものではない。その点を指摘して物足りないとする向きもあり、新宿という国際犯罪都市の暗黒面を描いた小説には、本書の6年後に登場する馳星周の連作『不夜城』『鎮魂歌』や大沢自身による『砂の狩人』など、すでに本書を凌駕していそうな傑作ノワールも生まれるのだが、それらの後続部隊すらも新宿鮫“類”として取り込むだけの力がこの第一作目にあるように思う。
 シリーズ9作の蓄積の中で改めて本書を位置づけると大沢在昌の堅実な仕事が浮き彫りとなっていることを感じる。本書を王道と称したい所以だ。


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