◎後鳥羽伝説殺人事件

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◎後鳥羽伝説殺人事件
内田康夫
角川文庫

 
 そもそも自分が読んだ本の感想などを人様に読ませようなどという夜郎自大をやってのけるにはそれらしい理由があって当然なのだが、未だにこういうものを公開する是非が私の中にある。しかも新刊として店頭に並んだ本のレビューをいち早くアップさせるのなら「購買の参考」程度の意義もあるのだろうが、内田康夫が創造した名探偵・浅見光彦の四半世紀前のデビュー作品となる『後鳥羽伝説殺人事件』など、仮にここが浅見光彦のファンサイトであったとしても今さら取りあげる必然性があるのかどうか意味不明だったりもする。
 しかし、一年前の引越しで単行本の処理にしんどい思いをさせられたことと、電車内でつり革にぶら下がっての読書となれば、ここに登場する作品の大半は安価でお気楽な文庫本になるはずで、当然にして十年、二十年も前に刊行された作品が並ぶことになる。
 もっとも読書レビューに名を借りた雑記帳を目指す思いもないわけではないので、気を取り直して浅見光彦が世に出た記念碑的作品『後鳥羽伝説殺人事件』について書いてゆく。
 本書を選んだ理由は「信濃のコロンボ」竹村警部ものを読み進めていくにあたり、近々に購読予定の『軽井沢殺人事件』が竹村と浅見の共演であると知ったので、ならば浅見のデビューもこのあたりで読んでおこうかということだ。

 【後鳥羽法皇にまつわる伝説のルートを旅していた女性が広島県三次駅で殺害され、遺留品から一冊の本が消えていた。難航する捜査に八年前の事故と女子大生の非業の死が浮かび上がったとき、ルポライターの浅見光彦が捜査協力を申し出る。】

 舞台は広島。多くの愛読者を輩出し、テレビのサスペンスドラマではすっかりお茶の間の顔となった浅見光彦はこの作品から生まれる。
しかし本書は地方刑事の単独捜査の行方を描いているということで、驚くほど『死者の木霊』に類似していることは、浅見のデビューというトピックスの中で案外見逃されているような気がする。刑事が容疑者を追及するあまり死亡者まで出す設定までそっくりで、この野上刑事がたまたま竹村刑事ほどの才気に恵まれていなかったので浅見の出番となったに過ぎないようだ。
 足どり捜査で得られた証言が何故か捜査に反映されていなかったり、本格推理ものというには要領の得ない部分があったり、伝説ものとしても『戸隠殺人事件』と比べると匂いが薄く、全国の浅見光彦ファンが推すほどには読後の充実感に乏しい印象が残ってしまった。


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