◎夜のピクニック
◎夜のピクニック
恩田 陸
新潮文庫
二年前に常連サイトの企画で恋愛小説を書くという創作のお鉢が回ってきたとき、「朝から始まって翌朝に終わる話」というベースをこの作品から頂戴した。元は第二回本屋大賞受賞という帯に惹かれて購入した本だった。
同賞の第一回受賞が小川洋子の『博士が愛した数式』。
書評家が選出した賞ではなく、書店員が「ぜひ売りたい、ぜひ読ませたい」と思う作品に贈られる賞という主旨に親近感を覚えたのは十年近くレンタルビデオ屋をやっていた感慨でもある。事実『博士が愛した数式』は心の底から愛しくなれる作品だった。
『夜のピクニック』は書店に文庫が平積みされていて「早いな」と思っていたら映画化されるとのことで納得。新刊単行本は実家の留守部屋に埋まっているので、改めて文庫版を手にとった。
【夜を徹して八十キロを歩き通すという、高校生活最後の一大イベント「歩行祭」。生徒たちは、親しい友人とよもやま話をしたり、想い人への気持ちを打ち明け合ったりして一夜を過ごす。そんななか、貴子は一つの賭けを胸に秘めていた……。】
高校生たちが学校行事で一夜を徹して歩くというシンプルな話なので、序盤に語られる主人公の貴子と融の心象風景を伏線としていかにストーリーをうねらせながら読み手の関心を先へ先へと高めていくかが勝負となる。
初読の際にはその語り口の巧さに感心した。今回は結末へと進行するプログラムの内容に興味をとらわれない再読であるがゆえ、「歩行祭」と対峙する少年少女たちの感性描写をより瑞々しく堪能出来たような気がする。その意味で物語のシンプルさの中にある起承転結を楽しませることに恩田陸は腐心しつつも、それがすべての生命線ではないことを十分に自覚していたことも窺えた。
特別な夜だからこそ芽生える特別な感情。彼と彼女たちの一歩一歩に蓄積される疲労感と刻一刻と消化していく時間がリアルであればあるほど読む側のノスタルジーが加速されていくという実感が魅力的だ。
ただシンプルなストーリーを豊かなモノローグで埋めていくのはいいとしても、そのモノローグをぶち破って次の場面に転調させる際に、ある種の飛び道具である純弥と光一郎を重ねて使ったのは残念。ストーリーテラーであるゆえの勇み足とも思えた。
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