◎「信濃の国」殺人事件

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◎「信濃の国」殺人事件
内田康夫
光文社文庫


 【新聞記者の絞殺死体が水内ダムで発見され、その部下が疑われた。だが恵那山トンネル、長楽寺、寝覚の床でも次々と死体遺棄事件が起こる。捜査に乗り出した警部・竹村は遺棄現場が県歌「信濃の国」に歌われる名勝であることを知るのだが…。】

 長野県警・竹村岩男刑事の物語が続く。それにしても夏に信州の虎友と神宮球場で9−2からサヨナラ負けを喰らうというバカ試合の後に一杯やって以来、9月に上高地、志賀高原、軽井沢と貧乏旅行をしたり、こうして竹村警部の活躍する小説を読み耽るとは我ながら信州づいたものだ。
 実際、長野県には生まれてこの方、訪れた回数はほんの僅かなものでも、学生時代、仕事先など長野県人とは意外と接点があったので心情的な親しみは持っている。

 『長野県は「日本の屋根」と呼ばれ、県境に標高2000m〜3000m級の高山が連なり、内部にも山岳が重なりあう急峻で複雑な地形である。数多の水源を擁し、天竜川、木曽川南下して太平洋へ、千曲川、犀川合流して信濃川となり北上して日本海へ、姫川も日本海に流れている』(Wikipedia)

 広大な面積と8つの県境。長野県を縦断ドライブすると中央道を西に下り、関越道で南下して首都圏に戻るというスケール感はなかなのものだし、なによりも南北、中央の日本アルプスをはじめそびえ立つ山々が車の車窓に展開されて圧巻だ。
などと前置きが長くなってしまった。『「信濃の国」殺人事件』について。

 前述した虎友から以前、この小説の主題ともなっている長野県歌 「信濃の歌」の逸話を聞いたことがあり、その逸話がいきなりプロローグで紹介されていたので驚いた。逸話とは、南北地域対立が高じて長野県議会で分県が可決されそうになった際に、議場の傍聴席から突如としてこの歌の大合唱がわき起こり、分県を阻止することに至ったという内容。
 内田康夫がこの逸話を生かしつつ、県歌「信濃の国」でミステリーのいちジャンルであるマザーグースものに挑戦したのがこの『「信濃の国」殺人事件』だ。
 マザーグースものといえばアガサ・クリスティ『そして誰もいなくなった』やヴァン・ダイン『僧正殺人事件』という古典しか浮かばないのだから私の読書歴も知れたものだが、日本でも横溝正史が『獄門島』『悪魔の手毬唄』でもやった手法でもあり、これまた一種の「見立て殺人」として小説世界のファンタジーではある。
 もっとも内田康夫に「無残やな兜の下のきりぎりす」を忠実に再現する趣味があるとも思えず、推理ものとしての興味は登場人物たちが県歌「信濃の国」が事件にかかわっていることに辿り着くまでの過程にある。
 とくに竹村警部と伴走するように独自の捜査をする新婚カップルのとくに洋子という大阪女の健気なキャラクターが物語を引っ張る原動力になっていて、彼女に牽引されるようにページをめくる手が加速されるようだった。。

 殺人の動機が南北を分断された信州独特の地域性にあったなど「事件」としての必然性には首を傾げてしまうものの、長野県人ならば誰もが口ずさむという「信濃の歌」という県歌としての特殊性と、それにまつわる史実に目をつけたのは内田康夫のヒットかも知れない。


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