◎解錠師

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◎解錠師
スティーヴ・ハミルトン(THE LOCK ARTIST)
越前敏弥・訳
ハヤカワ・ポケット・ミステリ


 金庫を解錠する際のサスペンスフルな緊張感は十分に伝わってくる。しかし機械音痴な私には今ひとつそのメカニックが理解できないでいた。それだけでももどかしいのに、この主人公もまた相当もどかしい青春を生きていて、何だかもどかしさの2乗みたいな読書になってしまった。

 【8歳の時にある出来事から言葉を失ってしまったマイクル。だが彼には才能があった。絵を描くこと、そしてどんな錠も開くことが出来る才能だ。孤独な彼は錠前を友に成長する。やがて高校生となったある日、ひょんなことからプロの金庫破りの弟子となり、芸術的腕前を持つ解錠師に…。】

 あまり自慢できる話ではないが、翻訳ミステリーはある種のお墨付きがないとまず手に取ることはない。だから既読したごく僅かな翻訳ミステリーの殆どが何かしらの賞を獲ったものに限られる。
 このようなページを重ねていながら未だに「本の虫」とは言い難い状況で、ハヤカワ・ポケット・ミステリや創元推理文庫を片っ端に読み漁って自分のお気に入りの作家を見つけるなどという眼力も根気もなく、それでいてたまには面白そうな翻訳本も読書ライブラリーに入れたいとなると、どうしても保険に頼ってしまうのが現状ではある。
 [読書道]を始めて以来、私が読んできた翻訳ミステリーの殆どはこの脈絡に収まり、このスティーヴ・ハミルトン『解錠師』はアメリカ探偵作家クラブ賞最優秀長編賞、英国推理作家協会賞スティール・ダガー賞、「このミステリーがすごい! 2013海外編」と「週刊文春海外ミステリーベストテン海外部門」に輝く。
 これ以上の保険とお墨付きはそうは望めるものではないだろう。

 実際、面白味と退屈さが相半ばする印象だった。
 夢中でページをめくらせる時もあるが、一度本を閉じてしまうと数日間はそのまま放置してしまう。だからそこそこ読書時間はかかった。
 実は図書館で借りたのだが、期限を過ぎても完読することが出来ずに返却してしまい、本の大半をハヤカワ・ポケット・ミステリで読んで、残りはハヤカワ・ミステリ文庫での読書となってしまった。もちろん本当につまらない本ならばそのままうっちゃってしまっても構わないのだが、結局新たに文庫版を購入して完読することに迷いはなく、自分でも一体この本とどういうスタンスで向き合ったのかわかっていない感じだった。
 もっとも先程から“ミステリ”という単語が飛び交っている割には内容的にミステリの要素はあまりなく、『解錠師』はその題名の通り金庫破りの話になっている。
 
 刑務所に服役している20代後半の主人公マイクルの述懐で物語に入っていく。8歳の衝撃的な事件に遭遇して以来、マイクルは口を利くことが出来ない。
 言葉を失った主人公が綴る手記が小説を形成しているのだが、この気の毒な青年(少年)金庫破りの末路は刑務所であるということが、過去の悲劇のトラウマ以上に重石としてどこか憂鬱な気分にさせていたようにも思う。
 もっとも全体の印象としては、重石がもたらした暗さよりも、北米大陸のカラっとした陽気を背景にした少年の成長物語という側面が強調されていて、それがこの小説を完走した大きな理由になった。アメリカ文学独特のある種の湿り気のなさが大いなる救いとなったのだ。
 だから少年を取り巻く仲間たちとの不協和音も、彼を利用しようとする大人たちの理不尽も、さらに終盤に明らかとなる8歳の衝撃的事件もそれほど気に障ることもなく、むしろ恋人アメリアとのちょっとほろ苦いが真っ直ぐな恋模様に惹かれるものを感じていた。
 とくに物言わぬマイクルとアメリアの逢瀬はふたりにとって天賦の才能である絵を介在として描写されているため、この『解錠師』という素材は映像化に適した作品だといえるのではないだろうか。
 映画化といえば去年、同じ状況で読んだデイヴィッド・ゴードン『二流小説家』が日本映画として上川隆也主演で製作されることになり、駅のコンコースに張られたポスターを見てびっくりしてしまったのだが。


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