◎神戸殺人事件

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◎神戸殺人事件
内田康夫
徳間文庫


 【「赤い寺白い犬」神戸・三宮で浅見光彦がヤクザから救った女は、謎の紙片を残して姿を消した。現場に居合わせた元船長が死体となって発見され、何者かの陰謀により、浅見光彦に殺人容疑がかかるのだが…。】

 「読書道」なるこの書評を始めるにあたり留意したことがある。とにかく個々の作品に点数をつけるのは止めようということだ。
 思えば今までずっと物事に点数をつけて生きてきた。単純に映画評に星5つの評価を記入すること以外にも他人の言動や自分自身にさえも無意識の内に☆マークをつけ続けていたように思う。物事に点をつけるくらい夜郎自大で味気ないものはない。ものの優劣を判断する尺度や基準に縛られて、それと比較して上か下かというだけの作業に何の意味があるのだろう。
 愛する彼女がいて、その人の顔は好きでも体は今ひとつなので星4つなんて馬鹿げているし、そんなものは真面目に女を愛しているといえない。小説だって同じことで、プロローグの期待度は満点だが中盤に中だるみがあって後半で持ち直したので星3つ。その星3つという根拠希薄な点数が基準になって本を読み続けることの硬直感こそまったく不毛ではないか。
 そうはいっても読了した本が積み重なっていく中で自然に私の基準が出来上がってしまうのは宿命なのか、この「読書道」にしてもそこから逃れられるものではない。ただ点数によって評価を固定させてしまうことは絶対に避けようと思っている。
 その意味でこうして連続して内田康夫を読むというということにおいて『神戸殺人事件』も既読の内田作品の中での相対評価の枠から外れることは出来ないようだ。結論からいえばこの小説にはかなり失望させられた。
 内田康夫がプロットを組み立てないで物語を書き進めていくと聞いたときにかなり驚かされたものだ。恋愛小説ならばそういうこともあるのだと思うが、ことミステリーともなれば他のジャンルとは比べものにならないほどプロットが生命線だと思っていたからである。
 確かに『沃野の伝説』のような不思議なライブ感を生む効能もあるのかも知れないが、そういう行き当たりばったりの欠点が『神戸殺人事件』には所々散見され、全体的にしまりのない作品にしてしまったのではないか。
 プロローグの新神戸駅の裏手にある布引の滝の紹介や、源平一の谷の合戦における鵯越えの薀蓄話などは非常に面白く、それが芦屋の資産家に尾形光琳の屏風絵を売りに来た画廊の失踪事件とどう結びつくのか期待を持って読んでいただけに、犬死のような死体が上がるたびに興味が分断されていくようなもどかしさがある。
 芦屋令嬢を中心とした資産家に麻薬ややくざが絡んでのお家騒動では、せっかく神戸という魅惑的な舞台も台無しで、神戸だからやくざが出てくるというのではあまりに短絡。もし☆をつけていたとしたらあまり数はつけられない作品だった。


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