◎図書館戦争

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◎図書館戦争
  --- 図書館戦争シリーズ①
有川 浩
角川文庫


 四年前の[本屋大賞]にランキングされていたのを見て、『図書館戦争』というタイトルを知り、その時に有川浩という作家の名前も知った。もちろん当時は有川ひろしという男性作家だと思っていたのだが、図書館の戦争ってどんな比喩なのだろうと、タイトルの字面の面白さもあって、文庫化を待って購入してみようかなどと思っていた。まだ『阪急電車』に出会う以前の話だ。

 【2019年(正化31年)。公序良俗を乱す表現を取り締まる『メディア良化法』が成立して30年。高校時代に出会った、図書隊員を名乗る“王子様”の姿を追い求め、行き過ぎた検閲から本を守るための組織・図書隊に入隊した一人の女の子がいた。名は笠原郁。不器用ながらも、愚直に頑張るその情熱が認められ、エリート部隊・図書特殊部隊に配属されることになったが…。】

 もし四年前に『図書館戦争』を読む機会があったとしたら、本当に図書館の軍隊が戦争する話に面食らっていたに違いない。もちろん今はそういうストーリーであることをそのまま受け入れることが出来る。図書館が軍隊を持つ。ふむ、有川浩ならばそれくらいはやってしまうのだろうと。
 なるほどライトノベルなのかもしれない。
 私は小説にヘビーもライトもないと思っていたのだが、どうやら『図書館戦争』はこれがラノベであることから目を逸らすと成立しない小説なのかもしれない。
 有川浩は、旦那さんが図書館で見た「図書館の自由に関する制限」と記されたプレートにインスパイアされて、この小説を着想したのだという。

  一、図書館は資料収集の自由を有する。
  二、図書館は資料提供の自由を有する。
  三、図書館は利用者の秘密を守る。
  四、図書館はすべての不当な検閲に反対する。
  ● 図書館の自由が侵される時、我々は団結して、あくまで自由を守る。

 『阪急電車』はもとより、文壇デビューの自衛隊三部作でさえ、あくまでも現実の日常生活の中で成立した話であったのが、『図書館戦争』は完全に有川浩が創作した世界観の中で生きている。
 ルールもすべて彼女が決めたもので、2019年は決して平成ではなく、あくまでも正化31年の出来事。武蔵野も立川も日野もたまたま実在する場所ではあるが、仮想現実の東京という見方もできる。
 何よりも驚きは「図書隊・良化特務機関の両者ともに超法規的解釈により、戦闘行為を行っても第三者の生存権および財産権を侵さない限り、たとえ双方に死傷者が出たとしても司法が介入することはない。」というルール。
 こうなると『図書館戦争』は有川浩のレギュレーションの下で行われるサバイバルゲームというか、戦争シミュレーションというか、『機動警察パトレイバー』というか、まあそういう世界であり、冗談みたいな設定の中で、冗談みたいなヒロインが恋愛沙汰を織り交ぜながらも戦闘が描写される話ということで、すべてはお約束事として楽しみましょうということなのだろう。
 むしろそれが出来ない読者は最後まで読み終えることが難しいのではないか。

 『図書館戦争』はキャラクター小説という側面も持つ。
 図書隊から男を凌ぐ戦闘能力を買われて図書特殊部隊に抜擢されるも単細胞、直情型の笠原郁。堂上篤は熱血で正義感は強いのだが、常に郁に雷を落とす上官。小牧幹久は堂上の良きサポート役として冷静沈着に正論を口にしながらも笑い上戸。郁の同僚で頭もキレて美人、図書館内部のあらゆる情報に精通する柴崎麻子。郁と同じく図書特殊部隊に選出された成績抜群の手塚光。そして豪放磊落な隊長の弦田竜助に、図書隊を創設した基地司令の稲嶺和市。
 この小説を楽しみたければ、まず彼らに親しむことが必定となる。逆に親しんでしまえば間違いなく面白く読むことが出来るだろう。堂上と小牧のコンビの下敷きは『海の底』 『クジラの彼』の夏木と冬原だと思っていい。

 正直いうとヒロインの郁の暴走したり落ち込んだりたまに乙女チックになるキャラにはかなり戸惑う。ひとつの台詞や相手のちょっとした仕草に喜怒哀楽がいちいち説明されるのもやや煩い。上官である堂上の背中にいきなりドロップキックを浴びせる場面で笑える読者はOKなのだが、私は郁の喧しさに慣れるのには少々時間がかかってしまった。そりゃ『図書館戦争』の読者層に50のオッサンは想定していないのだろうから戸惑って当然なのだろう。
 しかし決して50のオッサンが無理して若い読者層が集う世界にすり寄ったということでもない。
 この巻のクライマックスである「情報歴史資料館」の移設を巡る良化特務機関との攻防など、かなりのテンションで楽しむことが出来たし、その戦闘の描写を週刊誌の紙面で語っていくあたりの進行も上手いと思った。正直、この作風にマジな戦闘で死傷者が出る設定では無理がある。
 
 手塚光が郁に交際を申し込み、郁が悩むラブコメ展開などはまったく不要だと思ったが、図書特殊部隊が戦闘以外は図書館業務に従事し、利用者対応に追われる場面など面白く読むことが出来る。私はこの場面で堂上を初めてカッコいいなと思った次第だ。
 もちろん『図書館戦争』は読書の自由を縛る検閲制度への批判という最重要のテーマを内包しているのだが、そのことはシリーズを読み重ねていくうちにおいおい触れていこうかと思う。
 

 


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