◎北国街道殺人事件

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◎北国街道殺人事件
内田康夫
集英社文庫



 【野尻湖の発掘現場から人骨が発見された同じ日に、良寛ゆかりの五合庵で研究家が殺された。一茶と良寛について研究旅行中の学生カップルと出会い、二つの事件の奇妙なつながりに気付いた竹村警部は真相の核心に迫って行くのだが…。】

 北国街道は江戸から信濃追分で中山道と分岐し、善光寺を経て直江津に至り北陸道と合流しながら佐渡に達する街道だということ。だからというわけではないが小説の舞台は長野野尻湖から新潟出雲崎、東京へと転々とし、山深い長野県全域を縫うような捜査活動に追われる竹村警部ものにしては、日本海の潮風が開放的な気分をもたらせてくれる一編だった。

 その出雲崎には天保年間に歌人として名高い僧侶、良寛の生家がある。そこで変死体が発見され、プロローグに描写された野尻湖での人骨との関連性がこのミステリーの肝となる。その意味で旅と歴史をモチーフとする内田康夫の典型といえるかと思う。
その「典型」であることは十分に歓迎要素だ。知らない土地の描写とそこにまつわる歴史の紹介は時として物語以上に読み応えがある。などといってしまうと熱心な内田ファンに叱られるだろうが、内田作品の出来の良し悪しはそのモチーフにどう物語を絡めていくのかに集約されている気がしている。
 この『北国街道殺人事件』でも良寛と一茶の共通点に導かれるようにサブキャラクターである大学カップルを、死体遺棄現場である野尻湖に誘致していく手法がとられており、なかなか悪くない。
野尻湖にはかつてナウマン象の化石が発見されたという経緯があって、それ以来三年ごとの渇水期の3月に発掘調査が行われ、そのことに目をつけて野尻湖を死体遺棄の舞台とした着眼はなかなかのもので、調査によって発見されることを前提とした死体遺棄という状況を巧く設定したものだと感心する。
 発見される前提の死体遺棄というのは、時間経過によるアリバイ作りと、死体発見による保険金支払いの成立を目的としたものであることはミステリーの常道みたいなものなのだろうが、願わくはせっかく良寛、一茶と出してきたのだから、『死者の木霊』で紹介された竹村岩男の俳句好きという趣味は生かすべきだったのではないかと惜しまれる。

 また、シリーズものの宿命なのかもしれないが、第一作が竹村の執念と人間性で読ませた作品だっただけに、信濃のコロンボが何やら捜査マシーンと化しているのも残念だ。 
 まぁシリーズの蓄積からくる主人公の成長といってしまえばそれまでだが。


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