◎フリーター、家を買う。

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◎フリーター、家を買う。
有川 浩
幻冬舎文庫


 毎年、夏にその時点で文庫化されている有川浩を読む。
 そんな決め事を思いついたのは、一昨年夏の『図書館戦争』シリーズ他の一気読みからだと思っていたが、去年の『三匹のおっさん』の感想で「~ということで二年続けて有川浩の夏となったので、これ[読書道]の夏の恒例にしていこうかしら」と書いているので、恒例化を決めたのは去年だったのだろう。
 どちらでもいいが、要するにそれほど関東図書隊の面々と伴走した一昨年の夏の高揚感たるや並大抵のことではなかった。

 【就職先を3ヶ月で辞めて以来、自堕落気侭に親の臑を齧って暮らす “甘ったれ”25歳が、母親の病を機に一念発起。バイトに精を出し、職探しに、大切な人を救うために、奔走する。本当にやりたい仕事って?】

 『フリーター、家を買う。』というタイトルでドラマ化されたのは知っていた。
 民放のドラマはまず観ない自分としては、このタイトルから、アルバイト生活者でも家を買えるのだというアイデアを有川浩が仕入れてきて、それを面白おかしく小説に仕立てたものだと踏んでいた。
 しかし予測した内容とはずいぶん違う小説だった。そう、裕福な家庭でない限り、無定職者などに家が買えるわけはないのだ。
 では家を買うにはどうするか?それはもう働いて貯金するしかない。だからこの小説の主人公・武誠治25歳は就活を目指す。就職が決まったらがむしゃらに働く。だからフリーターでも家を買えるノウハウを綴った物語ではなく、フリーターが家を買う決意をする話なのだから、タイトルに偽りありだろう。
 では、なぜ誠治は(自分の父親と同じ名前なので感情移入が難しい)、家を買うと決めたのか。その辺りの物語の発端はどうなのだろう。

 前段部分はなかなか痛々しくて読むのがきつかった。痛々しいのは鬱に倒れた母親のことではなく、この25歳の誠治君がひたすら痛かったのだ。
 そこそこの会社に就職するも、新人研修で嫌気がさして退社。コンビニのアルバイトでも店長のもっともな小言が我慢できずに辞める。半ば引き籠るようになってゲームに没頭し、食事も部屋まで母親に運ばせる。
 どうもこの絵にかいたようなダメ男子っぷりがまず違和感を感じさせる。いかにもダメ男のありがちなフォルムに主人公のダメっぷりを当てはめているだけで、有川浩の筆致が少しも真に迫ってこない。自分がダメ男なのでそこら辺のところは感覚的なものだろうが。
 そうこうしているうちに母親の寿美子が倒れ、金切り声をあげて激怒する姉の亜矢子に罵倒され、幼い頃から近所からいじめを受けていたことを知る。その原因のすべては父親の誠一の態度にあると知らされ、誠一を激しく詰る亜矢子の場面で、誠治は傍らで仲裁するでもなく、ひたすら圧倒されるのみとなる。
 この近所からのいじめの件も何かとってつけたような気がする。主人公に引っ越しを決意させるひとつの動機づけとして必要ではあるのだろうが、いじめを亜矢子の語りだけで済ませるのではなく、プロローグにでもそんな触りがあってもよかったのではないだろうか。
 そういうこともあって読み始めは「中途半端に暗い」という印象だった。

 もちろん結果的として誠治君はめでたく社会的に健全な有川キャラに成長する。
 「僻んで甘ったれて頃の自分をぶん殴りたくなる。一体それで今よりも何かいいものが手に入るとでも思っていたのか、それとも「もっといいもの」が手に入らないことにふて腐れていたのか」と健全な反省も忘れない。
 あとはエピローグまで物語は一気に加速して最後は「セーフ!ゲームセット!!」で試合終了となるのだが、前半の停滞を思えば、後半のラブコメ展開も織り交ぜての驀進が嘘のようでもあり、「暗」から「明」へと移行してくるのは成長物語のルーティンだとしても、どこか別の小説を二編読んでしまった感は否めない。
 なるほど、テレビドラマとしては作りやすい素材を提供したと思ったが、「悪くはなかった」との感想止まりだったのは少し残念だったと思う。
 もっとも有川浩の展開を前へ前へと押し込んでいく才能は十分にわかっているので、よっぽど彼女が心機一転して新機軸に挑戦でもしない限り「セーフ!ゲームセット!!」は常に約束されているといってもいいのかもしれないが。

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