◎スティームタイガーの死走

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◎スティームタイガーの死走
霞 流一
角川文庫


 「疾走していた蒸気機関車が忽然と消える」その不可解さゆえにいつか読んでやろうと思っていた。ところが出版社が忽然と消えてしまい(倒産)、この小説は瞬く間に市場から姿を消してしまう。
 その意味では作者の思惑とは別のところで喪失の三重構造になっており、むしろ機関車が消える話が消えてしまったことの可笑しさの方が小説そのものよりも笑えるのは困ったものだが。

 【大手玩具メーカーが幻の機関車・C63型蒸気機関車を再現し、中央本線を走らせるイベントを計画。しかしその記念すべき日、東甲府駅で死体が発見される。そして、走行中の蒸気機関車も降り積もる雪の中で忽然と消えてしまうことに。】

 本作は2001年度「このミス!」で4位にランキングされた。しかし少々過大評価されすぎたのではないか。
 「設定は荒唐無稽でも背景はリアルに」というが私の嗜好だ。こうなると好みの問題という他はないが、霞流一『スティームタイガーの死走』の文体の軽さには最後までついていけないもどかしさが残った。
 しかし本作が一定の評価を得たのはユーモアミステリーとして優れているのではなく、「文体はおちゃらけているが、きちんと本格としての脈絡は踏まえている」という山口雅也『生ける屍の死』と同じ脈絡で本格ものとしての評価であったことは想像できる。
 私にいわせれば『生ける屍の死』はあの荒唐無稽な設定の中に「死」という普遍的価値観を正面から捉えたことが何よりも素晴らしく、本格であることに評価を集約するべきではないと信じているのだが、どうにも本格にこだわるあまり業界全体が動脈硬化を起こしているのではないかとミステリー音痴は思ったりしてしまうのだ。もちろん、山口雅也にしろ霞流一にしても自身が本格ものにこだわっている以上は私の所感などは的外れも甚だしいのだろうが。
 確かに本作には二重三重ものトリックが張り巡らされている。そしていつものことではあるけど、そのトリックを解説していいものなのかどうか迷ってしまう。ただ肝心の「疾走していた蒸気機関車が忽然と消える」について、かなりがっかりしたことだけは記しておきたい。


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