◎シアター!2

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◎シアター!2
有川 浩
メディアワークス文庫


 “鉄血宰相”春川司、“泣き虫主宰”春川巧の兄弟とシアターフラッグ面々のエピソード第二弾だ。
 まずのっけからいってしまえば『シアター!2』は、当然のことながら『シアター!』よりも面白い。
 わざわざ「当然のことながら」と断りを入れてしまうのがミソで、前作で初めて楽屋を訪ね、そこで極端に解りやすくキャラを割り振られた彼らたちと初対面を果たした我々は、いよいよシアターフラッグの面々と一緒に価値観を共有しながら走り出していくのがこの続編だ。
 ひとつひとつの点が一本の線となった。もう面白くなかろうはずがない。

 【借金返済のため団結しかけていたメンバーにまさかの亀裂が!それぞれの悩みを発端として数々の問題が勃発。旧メンバーとの確執も加わり、新たな危機に直面する。そんな中、主宰・春川巧にも問題が…。どうなる『シアターフラッグ』!?】

 で、何が一番面白いのかといえば、個人的には女と女の対決にある。
 もちろん第一義的にはラブコメであり、いつも描かれる様々な恋愛の決着を楽しく読まさせてもらっているのだが、どうやら『阪急電車』で小学校低学年の少女たちに向かって「こんな年でも少女たちはもう女だった。卑しく、優柔不断で、また誇り高い。あんな幼い、小さなコミュニティの中に、既に様々な女がいた」という驚愕のフレーズに遭遇して以来、どうも私のツボはそこにあるようだ。
 “看板女優”の早瀬牧子の“ディープインパクト”羽田千歳に対する葛藤から幕が開く。シアターフラッグ内『ガラスの仮面』か『Wの悲劇』ともいうべき、女優同士が火花を散らしていくのだが、牧子にとっては巧への想いが交錯し、この対決は意地でも落とすわけにはいかない。
 「あたしを追いかけてきたのなら追い抜かせるものか。あんたの先を軽々と歩いて、追いすがってくるあんたを常に一歩先から愛そう。」
 これが和気藹々としたシアターフラッグの中で飛び出す言葉かいな?と違和感を覚えるくらい、何とも破壊力満点で大向こうを唸らせる名台詞だ。対決の最中に一転して芽生える疑似恋愛感情。こんな台詞は男の作家にはまず書けない。これではとてもではないが今後の牧子と千歳から目を話すことができない。
 そして退団した元劇団員が仕掛けてくる嫌がらせを一蹴するのは“なにわリアリスト”大野ゆかりだ。関西弁でまくし立てて、相手を真っ向からぶった斬る、なんて痛快なのだろう。関西弁は有川浩の隠しキラーアイテムかもしれない。
 さらに“うっかりスズベェ”清水スズは千歳と派手な喧嘩をおっぱじめる。スズの言い分としは、千歳とは同い年で劇団ではわたしの方が先輩なのに、上から目線でドジを庇おうとするというからムカツク!という子供じみたものなのだが、実はこのエピソードで何人かのキャラがより深くなっているのに気づかされるのだ。
 前作ではそのドジっぷりで舞台を混乱させる飛び道具として使ったスズの本質に斬り込みながら、彼女を熱く見守る“ニックネーム・マスター”茅原尚比古もめでたくそつのない便利屋から味のあるキャラに昇格。今までピントがはっきりしていなかった千歳も「子供時代の経験値不足のままに大人社会に揉まれた」たことが司の分析で明確になっていく。このあたりの切り返しはさすがだった。

 ただ、そうはいっても千歳の入団に異を唱える旧メンバーたちはみんなシアターフラッグを飛び出してしまったという設定になっているので、有川浩は労せずしてユートピアを作ってしまったのではないかと思えないこともなかった。
 シアターフラッグには劇団を、春川巧を理解するいい奴しか残っていない。多少、“熱血担当”黒川勝人や“丸いペシミスト”秦泉寺大志らの古参が悪役を買って出て物語を転がすことはあるが、いい奴らだという前提を崩すものではない。
 だからネットの掲示板で嫌がらせの書き込みをしてきた元メンバーを単なる悪として容赦なく攻撃することが出来る。こんなストーリーでも勧善懲悪が成立してしまうと、多少の波風にもそれほど深刻なことにはならないだろうという緩さが出てしまうのは否めないだろう。そこに安住できない読者は少々物足りないと思うのだろうか。
 まあそうはいってもクライマックスでの舞台「走れ、ボート部」で熱演する彼らの声が高らかに響いてくるようで、爽快感もカタルシス満点ではあったのだが。

 さて有川浩があとがきで予告している『シアター!3』。これでシリーズは完結するということだが、果たしてシアターフラッグの300万の借金返済はどうなるのか?“二枚目担当”小宮山了太は“なにわリアリスト”ととの恋を成就できるのか?司と千歳は?巧と牧子は?・・・
 というより、その完結編が読めるのはいつ頃になるのかが気になっている。どうせなら『図書館戦争』のように文庫が全巻出揃ってから一気読みすべきだったのではなかったろうか。
 

 


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