◎キケン

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◎キケン
有川 浩
新潮文庫


 ふざけんな!参った。。。不覚にもエンディングに泣かされた。しかも餃子屋でジャンボ餃子を頬張りながら。
 まったくこの歳になって年々涙腺に締りがなくなってきたのはマジで深刻な事態ではないか。
 もともと泣かせるような小説ではない。
 むしろ男子どものむくつけき話をこんな可愛らしいテイストで書いた有川浩を、自分は有川浩読書史上で初めて上から目線で読んでいたことを白状せねばなるまい。

 【ごく一般的な工科大学である成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」、略称“キケン”。部長・上野、副部長・大神の二人に率いられたこの集団は、日々繰り広げられる、人間の所業とは思えない事件、犯罪スレスレの実験や破壊的行為から、キケン=危険として周囲から忌み畏れられていた。】

 「人間の所業とは思えない事件」 「犯罪スレスレの破壊行為」 「周囲から忌み畏れられていた」と、裏表紙におどろおどろしく紹介され、“成南のユナ・ボナー”の異名を持つ部長の上野と、“大魔神”と畏れられる副部長の大神が君臨する成南電気工科大学のサークル「機械制御研究部」。
 爆弾や暴走オフロード、改造空気銃と登場するアイテムはかなり物々しいが、マッチョでもなければ不良性感度もかなり低い。
 男子学生の愛すべき馬鹿馬鹿しさを描く青春ものは、今までマンガ等で浴びるように読んできた。そこに喧嘩が絡むと中場利一の『岸和田少年愚連隊』みたいな小説が浮かび、もっと柔らかくファンタジーになれば森見登美彦や万城目学になるのか。
 ざっくり言ってしまえば、この手の作品の評価は男同士の連帯と友情、上級生の理不尽に翻弄される下級生、その辺りの描写の密度で決まるのだとさえ思う。
 その同じ土俵に有川浩が立っていたのかどうかといえば、中年男子読者は上から目線で首をかしげざる得ない。

 しかし有川浩なら男子学生をどのように描いてもOKなのだと自分の中ではコンセンサスが取れていた。男が描く男子の世界ではなく、女が外側から男子を見て、それを面白がりながら描いた小説。有川浩がどう面白がることができたのかが一番の見どころなのだと思う。
 一方、恋愛要素が希薄で、やんちゃな世界を描いたことで、有川浩の新機軸などとの見方もあるようだが、関東図書隊の野営キャンプでのエピソードや、潜水艦「きりしお」での若き海上自衛官たちの前夜祭のハチャメチャぶりを思い出せば、『キケン』の新機軸はすでに有川浩の引き出しに仕舞われていたものだとわかる。
 こういう「本気すぎて一線を飛び超える遊び」を描くのが好きでたまらないのだろう。

 そして忘れてはならないのは、『キケン』の登場人物たちは皆、理系の学生であるということ。
 理系であれば爆弾製造も改造空気銃も犯罪というよりも自由課題のイメージとなる(ほんとか?)。マニアだろうがオタクだろうが、少なくとも理系のハンドメイドな頭脳と集中力と器用さが彼らのやんちゃを随分とスポイルしていることは間違いない。
 そもそも文系人間など何か世の中の役に立っているのだろうか。まして法学、経済、経営出身ならともかく文学部出など日本国のごくつぶし程度の存在でしかないと自虐してしまう。
 もし無人島にカノジョとふたりで流されたとして、圧倒的に文学部より工学部の方が「使える」はずだ。キケンの連中が学園祭で組み立てたような小屋などいとも簡単に作ってしまうかもしれない。サバイバルへの特性は10倍違うだろう。
 悔しいことに機械に強い文系はひと握りだろうが、論文が上手な理系はゴマンといる。さらに理系の学生の方がいい奴が多い気がするし、何よりも日々が楽しそうだ。
 例えば作品中で、ワインの栓をドリルで開けてワインがコルクの屑だらけになり、茶漉しでワインを濾しながら飲んだエピソードなど、理系の学生だから笑えるのであって、同じことを文系がやったら単なる馬鹿でしかない。

 だから理系特性も男意気もまったく反映されることなく終わる「副部長・大神宏明の悲劇」のエピソードがひどく蛇足に感じる。その後のエピソードで大魔神の面目は保たれるのだが、大神を主役にしてあの話はひどすぎると思うのだがどうだろう。
 その他は自爆装置付きロボコンも笑わせてもらったが、ケッサクはやはり学園祭の模擬店のラーメンだろう。
 総売り上げで137万を突破し、純利益だけで元手の三倍を荒稼ぎした顛末を描きながら、スープの探求からはじまって、鶏ガラの下処理、出前や御用聞きの実行など理系頭の理路整然とした段取りの巧さをかなりのスピードで一気にたたみこみながら、ユナ・ボナーのアクションまで挟み込む。あまりの面白さにこの学園祭のエピソードは二度読みしてしまった。
 そして泣きのラストシーン。あの仕掛けには狂乱の学園祭から繋がって、涙腺にビスを叩き込まれたような(あまり良い例えではないが)、かなり感動した。

 『県庁おもてなし課』を読んで、今度生まれ変わったら公務員だと思ったものだが、『キケン』を読んで、改めて生まれ変わったら理系人間だと意を強くした次第。
 そんなこんなで来夏も有川浩をやりましょうかね。

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