◎そのケータイはXXで

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◎そのケータイはXXで
上甲宣之
宝島社文庫


 読書生活も軌道に乗って若干「暇つぶし」以外の何かを求めるようになったのか、若い作家を読んでやろうという気になった。
といっても本を読むということ自体をずっとさばっていたので出版界のムーブメントをキャッチするアンテナもなく、帯の“第1回『このミス』大賞、最大の話題作!”が購入の動機づけになったにすぎないのだが。上甲宣之は1974年生まれの33歳。懸賞小説に応募してこれから物書きで食っていくかという状況だろう。

 【旅行で訪れた秘境・阿鹿里村。女子大生しよりと愛子を次々に襲う恐怖の事件。今すぐ脱出しなければ片目、片腕、片脚を奪われ、“生き神”として座敷牢に一生監禁されてしまう。頼りの武器はケータイのみ!二人は脱出することが出来るのか…!】

 私の読書姿勢はひどく保守的だ。元来、集中力もないので読書中も些細なことに気が散って小説世界に入りこめなくなることも多い。読書という時間消費型レジャーに私が求めるものは安易な安心感かもしれない。だから決まった作家のものを読み続けることが多くなる。
 未知の作家に対しては、直木賞をとった、「このミス!」でベストテンに入った、ベストセラーで話題になっている、人から薦められた、ということでもない限り手を出す気にはなれない。まして新人ともなるとなおさらだ。そもそも読みかけのまま放置している本が何冊も実家に埋まっている。最初の30ページがどうやら私にとって最初の一里塚のようだ。上下巻もので上巻だけが本棚の肥やしになっているものも少なくはない。それらは殆ど初読の作家による作品だといってもいい。
 その意味で上甲宣之『そのケータイはXXで』の最初の30ページは必ずしも快調とまではいかなかった。未知の新人作家の文体に慣れるにはどうやらあと20ページ消化する必要を感じる。本から遠ざかっていた時期にたまたま手に取ったとしたらそのまま棚の肥やしだったかも知れない。
 しかし舞台となる阿鹿里村という特殊な土地の雰囲気を読者の脳裏に浸透させなければ成立しない物語であるため、我々も水野しよりに感情移入して作品世界に入っていこうとすると、彼女が募らせていく村への不快感を享受する必要があり、最初のしんどさは彼女の心証を取り込んでしまっているというなのかもしれない。事実、しよりが阿鹿里旅館を脱出したあたりから昇りきったジェットコースターがいよいよ急降下を始めるように物語は一気に加速していく。
 物語は水野しよりと火請愛子の二人の視点から阿鹿里村からの脱出劇が描かれる。タイトルにあるように携帯電話での連携を駆使して必死の逃走を試みるしよりと、突然の招からざる客レイカとの壮絶なデットヒートを演じる愛子。
 冷静に振り返るまでもなく内容は非常にクンダラナイものなのだが、良識派の眉をひそめさせる作品でもないような気がするのは、女子大生の二人の地に足がついていないようなフワフワ感がリアルなこと、ディティールがそれなりに緻密であることなどが挙げられる気もした。
 それにしてもアクションの描写の迫力は特筆してもいい。とくに愛子とレイカが公衆トイレと疾走する救急車で死闘を演じる場面は抱腹絶倒の中にもエンタティメントとして秀逸で、一気に読ませる力がある。
 一番呆れ返りつつも妙に納得されられたのは、クライマックスの危機的状況の中で、しよりの想像していたイメージと違っていたという理由で物部君を裏切ってしまう場面の馬鹿馬鹿しさだったりもするのだが……。


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